アイツが彼を連れてきたのは中学のときだった。
確か理由はクラス委員での用件だとか。
しかし、印象に残っているのは一つ。


彼の隣にいたアイツが羨ましかった。



実は私は彼を知っていた。
彼は何度か学校で見かけたのだ。
明るく、活き活きとして、社交的。まあ、少しやんちゃだったが美点であろう。
麻雀しかとりえの無い私にとって彼のような存在はまぶしく思えたのかも知れない。
可笑しな話かもしれないが年も二歳も離れているのに彼に目で追ってしまっていた。
いつかは喋れたら。でも、今が壊れてほしくないからいつまでもこのままがいい。そう思っていた矢先だった。

アイツは彼を連れてきた。
それは突然だった。私がいつものように家に帰ると談笑が居間から漏れていた。
その声は二つ。
家でよく聞く声。いつもより心なしか明るい声。
家では聞かない声。いつかは真っ直ぐ対面して聞きたかった声。
恐る恐る気付かれないように居間を見たらやはりいる。

そこには私が焦がれていた彼と妹の姿。

悔しかった。涙が出た。でも、声を出したくなかった。
だから、静かに隠れて自分の部屋に戻った。
部屋で布団を被り声を押し殺した。
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで…………、と何回呪詛のように呟いただろう。
それでも見た結果は変わらなかった。彼は妹といたのだ。
なんで妹と、なぜ妹と、いつ妹と、どうやって妹と、何回も考えた。
何回も、心を殺して考えて。
何回も、カタカタと震える唇を抑え考えて。
何回も、目の前が歪むのに関わらず考えて。


気付けば辺りが暗く夜になっていた。
身体は正直なものだ。お腹の音も聞こえる。
そんな時、部屋にノックの音が響いた。

妹であった。
妹は優しかった。電気もつけないで布団を被っている私を気遣い心配してくれた。
風邪を引いたの。怪我でもしたの。学校で何かあったの。
そんなオロオロとする妹に『何でもない』と応えるのが精一杯だった。
そんな私を見て気分転換にでもなればいいと思ったのか、今日の自分の出来事を話した。
学校に行くときにこけたこと。小テストでは普通な結果だったこと。体育ではドジをしたこと。
そして、彼にあったこと。なんともタイムリーな話題であった。
彼とはクラス委員で知り合った。
普段は男子と女子はそんなに協力的ではないけど引っ込み思案の妹が困っていたら同じ委員のよしみで手伝ってくれたこと。
それが学校では終わらなくて家に持ち込んだとこ。彼の家も意外と近かったので私の責任でもあるからとここでやっていたこと。
やめてほしかった。耳に入れたくなかった。
でも、妹が私を気遣ってくれたことだから無碍にはできない。
だから、静かに気持ちを押し込めて聞いていた。
そして、締めに気を利かせたつもりで言ったのだろう。

『須賀くんみたいな男の子が私に協力してくれるなんて思わなかったよ。あ、そういえば、須賀くんに名字じゃなくて名前で呼んでほしいって言われたんだけど
こういうのってどうすればいいのかな?』
『そういう呼び方は好きじゃないからって。でも、男の子の名前で呼ぶなんて初めてだし』

その一言が辛かった。例え、妹が純粋な疑問で聞いていたとしても。
もう耳にしたくなかった。でも、妹に頼られたのだから期待に応えなければと思っている自分もいた。
搾り出せたのは一言だけ。
名前で抵抗があるならあだなで呼べばいい。
そういうと、妹は花のように咲き誇る笑顔で言った。

『そっかぁ!! よし、須賀京太郎だから……京ちゃん。うん、いいかも』

その笑みには曇りなく純真な光を含めていた。
悔しかった。嫉妬をした。涙が目から溢れてきた。
妹は、私のできないことを平気でする。
私はこんなにも臆病なのに。私は手を伸ばせなかったのに。


その日から『京ちゃん』と妹が一緒にいることが多くなった。
学校でも『京ちゃん』の隣には割と妹がいる。給食の配膳当番の時も一緒に協力している。
清掃のときも友達とじゃれあっている『京ちゃん』に注意をしている。下校時も『京ちゃん』と談笑しながら妹は帰る。
時々、『京ちゃん』は家に来て妹と談話をしていた。そのときに、偶然を装って少し会話に入ったが『京ちゃん』はただただ縮こまるばかり。
その姿を見て更に悔しい気持ちになる。

そして、積もりに積もり――

ついに爆発をした。

それは私がしたいのに。私が居たかった場所なのに。私が手を伸ばしかったのに。
そんな思いを沸々と募らせている私の前では、妹がにこやかに笑っている。
私の場所にしたかったのに。私の場所になって欲しかったのに。私を場所にして欲しかったのに。
徐々に怨嗟もこもる。自然と手に力が入る。
奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。
奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。
奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。
奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。奪いたい。

咲から『京ちゃん』を奪いたい。

こんな激情の気持ちは初めてだった。
その気持ちを知ったら、あれほど悩んでいたのに答えの道順が分かる。
まるで自分の気持ちの全てを見透かしたみたいだった。
おかげでクリーンなビジョンになった。

まずは自分の長所をアピールしなくちゃ。
私は麻雀しか取り得が無い。あとは咲と変わらない文学少女である。
そうだなあ、中学の大会はもう出場できないから高校から3連覇なんてしたら額がつくかなあ。
うふふ、きっと京ちゃんも見直してくれるはず。
待っててほしいな。




「――うぅん」

懐かしい夢を見た。
それはほろ苦い昔の記憶。
どうやら、読書の最中に眠ってしまったらしい。

「――ふふっ」

自然と笑いがほころぶ。
菫は無表情やら何やら言うが私だって笑いはするのだ。
それにしても、

「いい夢を見た」

それは過去誓いの日。そして、念願の成就の日まで近い。
彼がここに来ていたのは知っている。
清澄高校も来ているのだから。アイツも来ているのだから。
腕が唸る。それはこんな気持ちだったのか。
晴れやかというわけではないがそれでも心地よい気持ち。
間違いなく最高のコンディションだ。

「さあ、行こうか」

他の者が怪訝な表情で見るが気にしない。
これから行くのは戦いの舞台。
といっても、終わりの一歩前の一歩前である準決勝だが。

見ててね、京ちゃん。

私は一歩ずつ一歩ずつ歩き戦場へ向う。
夢の果てへと手を伸ばすために。




てるてるのイメージはヤンデレ不憫だと思う

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