「イラつく」


彼を見ているとイラつく

はじめはそう、特に必要の無い人物だと思っていたはず

さして麻雀も強くないし

というか素人だし

実際、彼と打っても得る物はない

そんな風に思っていた、酷い昔の自分にイラつく


しかし

要らない筈の彼が

居ない時は酷く不便に思えて

そんな堕落してしまった自分にイラつく


「ただいまー」

要らない筈の彼が

居る時は周りの雰囲気まで明るくなるように思えて

そんな優しい彼にイラつく


「ほい、レモンティー」「ありがとー」

今年になって仲良くなった親友と

なにか長年連れ添った夫婦のように、息が合っていてイラつく


「へいおまちー」「こらー!激辛って言ったろー!」

中学時代からの親友ともよくじゃれあっている

はじめは微笑ましいじゃれあいに見えていたはずなのに

なにか自分の中で心境が変化してしまっていることに気が付きイラつく


「はい、お嬢様はアールグレイで御座います」なんて

言ってもいないのに、的確に

今欲しいものが把握されている事に気付きイラつく


二人の親友の心は彼に向いているように見える

胸がざわつくのは

親友が取られたように思えてしまっているからだろうか?

などと自問自答してみた後に

それでは自分は酷く狭量なのではないか、と自己嫌悪に陥りイラつく


二人の親友のどちらかが

想いを告げて、彼と付き合い始めたとして

それはきっと御目出度い事なのだろうけど

私は心から祝福できるのだろうか?

とても出来そうにない自分に

やはり狭量なのだろうと確信しイラつく


それでは仮に

仮に 仮に

そんなオカルトはありえないのだけれど

もし私と彼が付き合ったとして

二人の親友は祝福してくれるのだろうか?

少なくとも表面上は祝福してくれそうな気がする

しかし、今のままの関係ではいられなくなるであろうことも

容易に想像できて

なにか哀しくなってイラつく


そんなことを考えているうちに

思考が脱線して

もしそうなった場合、私は彼の事をなんと呼ぶのだろうか?

名前? あだ名? などと

ありえないことを想像してしまってイラつく


またそんな妄想でさえも

なぜか抜け駆けしてしまっているような気分になって

胸がチクリと痛くなってイラつく


それならいっそ

私の知らない誰かとならどうなのだろうか

誰にも優しい彼ならば

今にでも起こりうる事なのだろうけれど

ない!ない!ない!あるわけない! なんて

なぜか動揺してしまう自分にイラつく


「どうしたんだよぼーっとして」

不意にポンと

頭に乗せられたのはペンギンのぬいぐるみ

あわててそれを奪い取り、ギュッと強く抱きしめる

「俺もエトペンになりたい」なんて彼は言って

部屋が笑いに包まれて

なんだか、ダシにされたようでイラつく


そうやってふざけながらも、耳元で

「悩みがあるなら相談しろよ」なんて

心の中を見透かされているようでイラつく


そしてその実

こちらの気持ちになんて、まるで気付いていないであろう彼に


ひどく


イラつく






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