幼い頃に母が死んだ。
父は母を失った悲しさを紛らわすかのように仕事に没頭した。

父がどんな仕事をしているのかは知らないが、お金だけはたくさんあって、生活に不自由することはなかった。
お手伝いさんもいたし、遊び相手としてペットのカピバラを与えられたので寂しくはなかった。
今では友達もたくさんいるし、幼なじみのちみっこいヤツもいる。

だからまぁ、今の環境に不満はないし、このまま地元の高校に進学するつもりだったのだが。


「父さんな――今度、再婚するんだ」

……ハイ?

なんでも仕事先で出会った女性と色々あって愛し合って、再婚を決めたそうな。
しかも相手はかなりのお金持ちで婿入りだそうで。名字も変わるらしい。

「それでな、引っ越すことにしたから」

「ハァ!?」

「色々話し合って、相手側の方に住むことにした。今度挨拶に行くぞ」

「唐突すぎるだろ……」


……で。

「な、なぁ……親父?」

「ん?」

「本当に、ここなのか?」

「ああそうだ。どうだ、スゴイだろ」

……いやスゴイだろってアンタ。
たしかに、こんなに立派な門構えの屋敷は見たことが無いし、これから住むことになるとは微塵も予想していなかったけど。

「ようこそいらっしゃいました」

スーツで頭下げてるあんちゃんとか。

「さ、姉さんがお待ちですぜ」

服の間から刺青がちらっと見えるスキンヘッドのおっさんとか。

「出迎えご苦労。行くぞ、京太郎」

どう見ても、ヤの付く職業の方たちなんですけど――!?
広い屋敷の中をビクビクしながら案内されて、辿り着いた畳の部屋。
親父は途中で呼び出されたので今は俺一人。

「どうぞくつろいで下さい、坊ちゃん」なんて言われてお茶と和菓子を出されたが正直まるでリラックスできない。


「帰りてぇ……カピーを抱きしめて眠りてぇよぉ……」

果たして奥の襖から出てくるのは恐ろしい面構えの鬼なのか、それとも内側に毒を秘めた蛇なのか。
そんな風にビビりながら茶を啜っていると、

「ん? あぁ……君が、話に聞いていた」

「え?」

全く予想していなかった背後から声をかけられた。

「いや失礼、挨拶の方が先だったな。私は智葉。辻垣内智葉」

凛とした雰囲気の、気の強そうな女の子で。

「君の、義姉となる女だよ」

男である俺が思わず惚れてしまいそうな、格好良さがあった。



「……って思ったんだけどなぁ、最初は」

「どうしたいきなり。のぼせたか?」

「なぁ姉さん、おかしくないか? この状況、今更だけどさ」

「姉が弟の背中を流し、共に風呂に浸かる。何もおかしいことはないだろう」

「いやいや俺たちもう高校生だぜ……」

「照れることはないさ。これからもっと親睦を深めていけば良いのだからな」

「ネリーやメガさんに知られたらどうなることやら……」

「ほう?」

「あ」

「私と二人っきりの時に、他の女の名前を口に出すとは。随分と色男になったようだな。なぁ、京太郎?」

「ああいやそのそれは」

「だが、いただけないなぁ。ここは一つ、教育といこうじゃないか」

「え」

「私がどれだけお前のことを想っているのか。そしてお前はどうあるべきなのか」

「ちょ」

「さぁ、刻みつけてやろう――!!」

「いやぁーっ!?」


カンッ