怜「京太郎…」

京太郎「なんですか怜さん」


細く小さな声。

静けさが支配する病室だからこそ辛うじて聞き取れることができた。

決して健康的とはいえない顔色の怜さんが顔をこちらに向けている。

同じ人間として心配になるほどの肉付き。

ちらつく不安を振り払うようにぎゅっと握っていた手の力を強めた。


怜「私なんかと付き合ってくれてありがとな…」

京太郎「何言ってるんですか。礼を言うのはこちらです」

京太郎「俺なんかが怜さんみたいな可愛くて素敵な人と付き合えるなんて男冥利に尽きるってもんです」

怜「ふふっ。京太郎らしいなぁ…。でもな、これだけは譲れへん。お礼言わせて?」

京太郎「…怜さんがそういうなら」

怜「うん。物分りええ子は好きやで」


少しだけ浮かべる笑み。

すこしやつれているせいかそんな笑みにすら疲れを感じさせる。


怜「ほんま、京太郎と付き合えて楽しい毎日やった。ただでさえ明るかった日常に花びらついたみたいや」

怜「それこそ、死んでまうんやないやろうかっちゅうくらいに幸せやった」

京太郎「そうですか。でも、これからもっと楽しくなります。俺がどこにでも連れて行きますよ?怜さんの望む場所ならどこでも」

怜「そらええなぁ……。せやけどこれ以上幸せを望むんはワガママやで」

京太郎「ワガママなんかじゃありません。絶対に」


半分諦めたような怜さんの言葉に少し言葉が荒がる。

妥協なんてさせない。

俺が諦めさせるものか。


怜「京太郎が言うとちょっと安心するわ。せやったら京太郎、もう少しだけ私のワガママ聞いてくれるか?」

京太郎「もちろん」

怜「抱きしめて。ぎゅっと強く。もう離させへんっちゅうくらいに」


哀願のようだった。

そう目で語っている。

何か言うべきかどうか。

グルグルと頭を回る言葉の内から掛ける言葉を探すが一つとして名案は思い浮かばず、結果ただ無言で手を動かすことにした。

まずは…起こさないとな。

背中に手をまわしてゆっくり、ゆっくり。

……軽い、軽すぎる。

この人、また痩せてる。

これ以上落とせるほどないはずなのに……。

そんな衝撃に動揺しつつも、なんとか怜さんを抱き起こした。

数秒目が合う。

相変わらずの吸い込まれそうな綺麗な瞳。

透き通るような白い肌。

気がつけば俺は怜さんの頬に手を当てていた。

そっと、陶磁器を扱うように。

この人を守らなくちゃいけない。

そんな意識に包まれながら。


京太郎「怜さん。退院したら旅行にでも行きましょうか。怜さんの卒業旅行、ついて行きますよ」

怜「出来たらええなぁ…」

京太郎「出来ます。いや、やります」

怜「……うん、そやな」


そんな誓いと共に頬から手を離し、その手をそのまま移動させ背を抱いた。

ぎゅっと力強く。

もう離さないというくらいに。


怜「京太郎、あったかいなぁ…」

京太郎「怜さんもあったかいですよ」

怜「ほんま、ずっとこうしときたい」

京太郎「ずっとこうしますよ」


また少し、声が小さくなった気がする。


怜「生きるんて辛いなぁ……。京太郎とお別れせなあかんなんて……」


胸に染みる水気と共に漏れる嗚咽。

俺は黙ってそれを聞く。


怜「なんで…なんでなん…?もっと京太郎とおったらあかんの……?」

怜「なぁ京太郎……私どうしたらええ……?」


どうもしなくていいですよ。

喉まで出たその言葉。

でも、無責任なことを口に出すなんて俺には出来なかった。

だから


京太郎「そうですね…俺には分かりません。でも怜さん、これだけは言わせてください」

京太郎「怜さんを一人になんて絶対にしない。ずっと居ますよ怜さん。あなたの隣に、いつまでも」



カンッ