京太郎『……つうわけだから』

京太郎『和は恩返しとか考えなくてよかったんだよ』

京太郎『ずっと俺が恩返しする側なんだ』

和『納得できません』

和『私が忘れてしまったことの恩返しなんて要りません』

和『私が恩返しをするべきなんです』

和『京太郎くんがいたから、私は今こうしてここにいるんですよ』

京太郎『そんなの俺だってそうだ、和がいなかったら今の俺は無いんだよ』

京太郎『和が答えてくれたから、俺はまた和に会えたんだ』

京太郎『和がいてくれたから、俺は和を救えた』

京太郎『俺は、何もやってないんだよ』

和『……納得できません』

京太郎『それにさ、恩返しするっつっても俺は和には十分恩返ししてもらってるよ』

京太郎『俺のこと応援してくれて、麻雀も勉強も教えてくれただろ』

和『そんなことは京太郎くんも同じですよ』

和『京太郎くんも私を応援して、放課後は家まで送ってくれて』

和『休日でも、今日みたいに遊びに誘ってくれるじゃないですか』

京太郎『いや、それは、俺が……』

和『俺が?』

京太郎『俺、が……』

京太郎『…………』

京太郎『今は……言えない』

和『そう……ですか』

京太郎『……あ、もう着いちまったな』

和『……もう、ですか』

和『今日はありがとうございました』

京太郎『おう、また明日、学校でな』

和『……京太郎くんといる時間は、楽しくて、好きです』

和『京太郎くんが楽しい時間をくれるので、しっかり恩返しはされてますよ』

和『私にまだ恩返しがしたいと言うのでしたら、また今度、楽しませてください』

和『納得は、していませんけれど』

京太郎『……なら、また誘うわ』

和『楽しみにしてます』




 インターハイが終わり、俺が和を誘ってプールへ遊びに行った日の帰り道で、俺は和に昔のことを打ち明けた

 高校生の俺の最後の夏が終わって一区切りがついたから、和に話す決心がついたんだ

 やはり和は俺との出会いを憶えていなかったようで、故に俺はこんな感じで和と揉めてしまった

 ……遊びへ誘うのが恩返しなんて思ってはなかった

――――今は……言えない

 いつかは言ってやる、そう決めた

 そう決めてから、もう半年が経った



 ダメじゃん




 長野の雪の脅威はようやく撤退を始めたようだ

 高校生活最後の日に相応しく空は蒼い顔をのぞかせている

 春とはとても言えないような寒さが道を行く高校生たちの背中を丸めさせる

 茶色やら紺色やらのコートとひらめく青いスカートの下には黒に包まれた脚が目立つ

 黒ストに締められた脚って至高だよね

 まあ、去年のプールに和が着けて来たビキニと溢れんばかりのおっぱいの方が究極だったけど

 ……なんで二人だけで行ったのに何も言えてないんだよ、俺

 竹井部長がいなくなってから、染谷先輩がいなくなるまでの時間は早く経った

 和が部長になってから、今までの時間はもっと早く経った

 ちなみに俺は元副部長、この三年間で男子部員の入部は0

 笑えてくる、実績無いから仕方ないけど0って言う数字は笑えてくる

 女子はあれから六人入ったって言うのにさ……はぁ

 俺の大会の戦績はあまりぱっとしない、精々去年のインターハイで4位だったことぐらいしか目立ったことが無い

 4位なので決勝卓で目立った1位、2位の人とは違って俺にはインタビューとか全然来なくて俺は空気同然だった、泣いた

 だけどおかげで和のおっぱいで疑似ぱふぱふができたから結果オーライだった

 ありがとう、なんか顎の尖った人

 二年弱をかけて、俺と和の関係は名字呼びから名前呼び

 前はごくまれに部活の帰りに家まで送ってたけど今は勉強のためにお互いの家を訪れるように……

 そんな感じの進展を果たした……だけ

 お、これいけるんじゃね?と思うような雰囲気になったことは結構あったけど怖気づいて何もできないばかりだった

 咲にヘタレヘタレ言われるようになったのが癪に障る今日この頃である

 俺だって何もしなかったわけじゃないんだけどなぁ

 ……こぼれるあくびを塞いだ拍子に細めた目がなじみのピンク色を捉えた


和「ほろほろははひへふへはへんは?」

京太郎「和のほっぺが柔らかかったから仕方ない」

和「変な責任転嫁しないでください」

京太郎「ホント柔らかいんだよ和のほっぺ、魔性のほっぺだなこりゃ」

和「何ですかそれ」

京太郎「吸い付いたら離れられない、もっちもちのほっぺ」

和「そこまでですか?」

京太郎「なんなら俺と比べてみろよ」

和「……はぁ」フニッ

京太郎「……和の指もやわらかいな」プニッ

和「勝手に感じないでください」フニーッ

和「こんなとこ、知り合いに見られたらどうするんですか」

京太郎「ダイジョーブダイジョーブ、先っちょだけだから」

裕子「ちょっ、二人とも!邪魔するなって!」

京太郎「ん?」プニッ

和「今の声は……」フニッ

マホ「おはよーございます!」

裕子「すいません、こいつら黙らせます」

ミカ「柔らかい……吸い付く……感じる……勝手に……先っちょ……」カァァ

京太郎「何か発想がおかしい子がいる!?」

裕子「私たちは先に講堂行くので、さよなら」

マホ「また放課後に会いましょー!」

ミカ「失礼します」

京太郎「……仲良いな、あいつら」

和「私たちの学年も似たようなものですよ」

京太郎「あー、そうかもな」

優希「よっ、京太郎!」バシィッ

京太郎「なんで鞄の角で叩きやがったこんにゃろー!」クワァッ

咲「優希ちゃん!京ちゃんも……」

和「まあ放っておきましょう」

和「あの二人は本当に変わらないですよね」

咲「あはは――だね」

咲「――和ちゃんは、変わりたいと思う?」

和「どういう意味ですか?」

咲「そのまんまかな」

和「変わる……ですか」

京太郎「ぎゃーっ!モモカン入ったぁーっ!」ゴロゴロ

優希「ざまあみろだじぇ!」

和「……はい、今日こそは」

咲「そっか、頑張ってね、応援してるよ」

和「はい……絶対」


 高校三年生になって、京太郎くんと私は同じクラスになりました

 一度目の席替え以来、私と京太郎くんは隣の席になり続けていました

 部活の書類関係などの雑務は部長の私と副部長の京太郎くんとでこなすことが多くなり、

 同じクラスなので昼食は大抵一緒に食べていました

 誕生日を祝ってもらって、祝ってあげて

 遊びに連れて行ってもらって、お宅にお邪魔して勉強を教えてあげて

 私と京太郎くんの距離は一年生の時よりもずっと近づいたと思います

 ―でも、もっと近づきたい

 いつからか、ゆーきと仲良く騒ぐ京太郎くんを見ていると胸がふつふつとざわついて

 京太郎くんに頭を撫でられる咲さんが羨ましくなって

 クラスのあちこちで会話を繰り広げる京太郎くんを目で追うようになって

 京太郎くんに家まで送ってもらった日の夜は胸が押し潰されるような、でもどうすることもできない変な感触を覚えていました

 これが、京太郎くんへの恋心であることを実感したのは、いつでしたっけ


 卒業式はあっという間に終わり、裕子たちが開いてくれた送別会もとても楽しいものでした

 このあとのことは任せてください!と胸を張る裕子、鼻水を垂らして涙を流すマホと、

 マホを慰めているはずがもらい泣きをしてしまったミカ

 他の子たちも、私たちのことを惜しんでくれました


「原村部長、御達者で!」

「優希先輩!私、優希先輩みたいに強くなります!」

「宮永先輩はずっと憧れてました!大学リーグでも頑張ってください!」



「……俺は!?」


 泣いて、笑って、みんなと別れたときにはもう家屋から漏れる明かりと街灯ばかりが目立っていました

 一日経っても、何も変われなかったなぁ……

 大きく白い息を吐いていると、後ろから声がかけられました

 聞き慣れた、優しくて、時々格好よさを見せる声

 声の主は京太郎くん、私のため息の原因でした

 ここ暗いから送ってくよ、と手を握った京太郎くんに頷きました


 まばらな街灯が照らす道

 何度も二人で歩き慣れた道

 私と京太郎くんとの二人っきり

 思い出話に花を咲かせながら、二人で歩く

 二人で星空を見上げて、これは何座だとか適当な話をして過ごす帰り道

 いつもとあまり変わらない帰り道

 気が付くと話は途切れていて、二人して俯いていました

 いつもありがとうな、と徐に顔を上げた京太郎くんが笑いました

 こちらこそ、と返して私たちはまた黙りこみました


「和ちゃんは、変わりたいと思う?」


 ……そうだ、これは最後の機会

 これを逃せば、同じ大学とは言え、京太郎くんが他の子に奪い取られてしまうかもしれない

 たった一言、しっかりと口に出せばいい


「一回勇気を出すだけ、もう少しだけ精一杯」


 頭の中で決心がつきました

京太郎「あー、あのさ、俺、和に言いたいことがあるんだ」

和「え?」

京太郎「言いたい、ってか言わなきゃいけないこと」

和「……奇遇ですね」

和「私も、京太郎くんに言いたいことがあります」

京太郎「……そっか」

京太郎「じゃあ、同時に言ってみるか」

和「……ええ、そうしましょう」

京太郎「おっけ、んじゃ――――せーの!」



 言葉が、重なる


 二つの音が、重なる


 沈黙が、重なる


 笑い声が、重なった






                           ,.ー-‐.、
                           ヽ、   ヽ  __
                           /,..-ニ‐- '"_,..)            / ̄\
        _,.‐-、                 ' ´/  , _ 、´              /     ヽ
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        r   ヽ  i'´ ` !       , ',. -一' ./..'/     .}      /      <_       ,..-、
         !    l i    ヾ、_   / ,. '′  ,..,.  ,/    ./        `ー-イ       \    /   ヽ
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エピローグ 重なる心