優希「バスが出るじぇー」

咲「じゃあね、京ちゃん」

京太郎「忘れ物は無いか?」

咲「大丈夫だよ」

京太郎「こっちからでも応援してるぜ」

咲「うん、頑張って来る」

京太郎「あっちに行っても達者でな」

咲「ありがと、毎日電話するよ」

京太郎「や、咲にそれされんのはなんか嫌だわ」

咲「そんなー」

和「何を二人してふざけてるんですか」

優希「バスガ出るじぇー」

まこ「行くわけでもないじゃろうに、見送り御苦労じゃの」

京太郎「俺も麻雀部の一人っすからね、モチのロンですよ」

まこ「連れていけなくてすまんの」

京太郎「女子の中に男子で俺一人って気まずいんすよ」

久「本音は?」

京太郎「風越の部長さんとお近づきになりたかったですッ!」

久「ああ、福路さん、美人よね」

京太郎「あの人とッ!混浴ができるならッ!俺は命を投げ捨てる覚悟だッ!」

咲「京ちゃん……」



和「…………」




 定期試験は無事終わり、私たちは四校合同合宿に参加しました

 ……須賀くんを置いてけぼりにして

 仕方が無かったこととはいえ、部長の申し出に須賀くんは笑って応えました

 須賀くんに罪悪感を覚えた私は、他の皆さんに提案して、集合時間よりも前に集まり、書置きを残しました

 書置き、といっても付箋メモに一言を書いて部室のPCに貼り付けただけですが


「この埋め合わせはいつかしてあげなくちゃね」

「そうじゃのう、優希とおんしら二人は特にな」

「じぇー」

「あ、裏に書いちゃった……」



                                            ,.ー-‐.、
                                            ヽ、   ヽ  __
                       / ̄\                 /,..-ニ‐- '"_,..)
           _,.‐-、        /     ヽ              ' ´/  , _ 、´
       _ _     ' 、 .ノ      /      _|          ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\
    i'´ ` !    r   ヽ     /      <_       ,..-、 , ',. -一' ./..'/     .}
    i    ヾ、_  !    l    `ー-イ       \    /   / ,. '′  ,..,.  ,/    ./
    し  , iヽ、i !     !    _,/      ,.イ ̄`'´ // /    {  \ヽ      i'
    /  ヾ |  l      !  / ̄          //    / ー'´  ゙、    `´\ ヽヽ   !
    ヽ  r'´. .└! .i! .!┘ 〈          \|     | |   |   ,.'⌒   `,. l   !
    ヽ  !   .  l !l .!    ヽ   r/           ヽ/    |   ! ゝ-‐'´ /l  .!
     i ゙、     l .l ! l     ヽ__//  _    r、__,    ,、  __,ノ   \  /  }  .}ー"ヽ  ヽ
     | ト、゙、    l .! l .!        /  / |   |   ≧、__|  ̄       `ヽヽ  j  ノ`ー-、   }   .
___ ノ」__ン__ __r' 」 l、゙、__ / ./ /|   |__________  __゙、`'   /__ ヽ/_____
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ "'´ ̄ ̄ ゙、.   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ }   ./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                          ヽ、ノ                    ヽノ


『第五話 撫でた頭』


京太郎『上級卓、行ける気がしないんだけど』

和「須賀くんのレベルなら落ち着いて打てば目指せないわけではないと思いますよ」

京太郎『期待してくれるのね』

和「須賀くんはまだ伸び代がありますよ」

京太郎『伸び代かぁ……』

京太郎『明日も頑張るよ』

和「良い報告を待ってます」

京太郎『おう、おやすみ』

和「おやすみなさい」

和「…………」

京太郎『…………』

京太郎『切っていいんだぜ?』

和「ふふっ、そちらこそ」

京太郎『……じゃあ、俺が切るよ』

和「おやすみなさい」

京太郎『おやすみー』

ピッ

咲「原村さん、京ちゃんどうだって?」

和「ウサギは寂しいと死んじゃうんだぞ、と脅してきました」

優希「ウサギというより犬だじぇ」

まこ「寧ろおんしの方が犬に見えるがのう」

久「私の愚痴とかこぼしてなかった?」

和「いいえ、一言も」

久「ガンガンをお腹に挟まなくて済みそうね、良かったぁ」

和「どんな心配してるんですか」


 予選で負けて、秋まで何もすることのない須賀くんの声にはもう落ち込んでいる様子はありませんでした

 それどころか、麻雀にさらに意欲的になり、最近は毎晩私に電話をかけてくるようになりました

 ネット麻雀の牌譜を見たり、相手をしながらアドバイスをして、他愛もない会話をして終わり、というのがほとんどです

 どれだけラスになっても、箱割れをしても須賀くんが挫けることはなく


『勝てたら御の字だけど、勝てなくても麻雀は楽しいから』


 そう言って続ける須賀くんへの教授に私も一層熱を入れるようになりました

 それと同時に、私は充足感を得ていました

 須賀くんと二人きりで話すことに、楽しさを

 須賀くんを教えることに、喜びを

 須賀くんから頼られることに、嬉しさを

 いつからか、こんな充足感が私の胸を温かくするようになりました




――――合宿明け初の部活


咲「カン!カン!カン!カン!」

京太郎「うわぁアぁああああもうだめだぁぁあァァあアい!」

和「須賀くぅーん!?」




 ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・


優希「新幹線なんて初めてだじぇー!」

京太郎「ふんっ、お子様だなー」

優希「何をー!」ガシッ

京太郎「しがみつくなって!荷物重いんだから!」

優希「犬は私を引きずって歩けー!」ヤイノ

京太郎「誰がやるもんか、離れろー!」ヤイノ

まこ「おい二人とも、置いてくぞ」

優京「はーい」

咲「仲良いよね、京ちゃんと優希ちゃん」

和「そうです……ね」

咲「あれ?和ちゃんどうかした?」

和「いえ、別に問題ありません」

久「席順はどうしましょうか?」

優希「私は窓際がいいじぇ!」

久「はい決定」

咲「私はどこでもいいです」

和「私も同じです」

京太郎「右に同じー」

まこ「右に同じー」

久「じゃあくじ引きねー」

優希「仲間外れにされた気がっ!」

優希「結局窓際だったじぇ」

咲「隣だね、和ちゃん」

和「はい、よろしくお願いします」

京太郎「隣だな、和」

和「はっい!よろしこ願いします!」

京太郎「よろしこ?」

和「何でもありません!」

優希「東京に行くのも初めてだじぇ」

和「私は久しぶりです」

咲「和ちゃん、奈良の前に東京に住んでたんだよね」

和「東京と言っても西東京の方ですよ」

咲「お姉ちゃんたちと同じ辺り?」

和「白糸台までは少し時間がかかったと思いますが、その認識で合ってます」

咲「そうだ、京ちゃんも……」

京太郎「……」Zzz

咲「もう寝てる……」


 新幹線に乗っている間のことは途中で寝てしまったのであまり覚えていません

 須賀くんに寄りかかってしまっていたそうで、後からそのことを聞かされて恥ずかしかったです

 だらしない姿を見られたら……と思いましたが須賀くんが終始寝てくれていたのが幸いでした




 東京の日々はあっという間に過ぎていきました

 開会式を終え、一回戦を終え、花田先輩の試合を見て、二回戦を終え、穏乃たちの試合を見て

 穏乃たちと再会をして

 決意を新たに、私たちは準決勝に挑みました



京太郎「和、頑張って来いよ」

和「どこに行ってたんですか、皆さん心配してましたよ」

京太郎「悪い悪い、これ作ってたんだ」

和「……タコス?」

京太郎「そ、腹減ってるかなと思ってさ」

京太郎「俺からの差し入れって意味も込めて」

和「……ありがとうございます」

京太郎「もっとみんなの力になりたいけど、俺にはこれくらいしかできないんだよ、ごめんな」

和「いえ、気持ちだけで十分ありがたいです」

京太郎「そっか、あんがと」

和「いいえ、こちらこそ」

京太郎「頑張れ」


 ぽんと頭に置かれた手に優しく髪が撫でられる

 頭から須賀くんの温もりがあることが感じられると、笑顔の彼に目を向けるのが気恥ずかしくなり

 沸騰しそうな勢いの熱さが顔から広がっていきました

 須賀くんと別れた後もしばらく、その熱さは身体から放れませんでした


 須賀くんのタコスは絶品でした

 トルティーヤの中では食感を実感できるシャキシャキのレタスと、その冷たさに対を成す熱々の挽き肉が共存して

 柔らかい生地とそれより歯ごたえの増した瑞々しさ、反発する肉塊は居心地の良い食感を生み出す

 甘みを放つトマトが舌をリラックスさせ、口の中にどろりと広がるサルサソースが具のすべてを仲良くさせる

 居心地のいい食感と味わいがちょうどよく合わさり、噛めば噛むほど、感じれば感じるほどにその美味は幅を利かせていきます

 用意してくれていた紙のフキンで口周りのソースを拭き取り

 口の中に須賀くんの幸せが余韻を残したまま、私は対局室へ歩み入りました

 彼が応援してくれている限り、私は負けられない、負けない

 その決意を持って、卓に着きました


 ・  ・  ・  ・  ・

 ・  ・  ・

 ・

 父の声が脳裏に響く

 私は、最悪の結果を残してしまいました

 気付いた時には、順位は落とされ、最下位から点差を詰められ

 削られていく山に気を焦らせながら

 河が満たされていく度にため息を吐きながら

 私の背筋を、暗く熱い絶望が這っていく

 それは、半年前に味わったものよりも強力で

 私は無慈悲なブザーに居ても立ってもいられず、対局室を飛び出しました

 また、離れ離れになる

 私のミスのせいで、築き上げた関係が壊れる

 部長と

 染谷先輩と

 咲さんと

 ゆーきと

 須賀くんと

 みんなと離れてしまうなんて、辛い

 慣れていても、辛い

 ―こんなことになるなら、初めから誰とも親しくならなければよかった

 そう考えてしまう自分が、厭だ

 ―半年前と同じじゃないですか

 私は対局室を出ても、控室には戻りませんでした

 今は誰とも話したくなかったから



 ……だというのに、どうして



和「……どうして、貴方が」

京太郎「探したぞ、和」

和「……どうして」

京太郎「和はよく頑張ったよ」

京太郎「大丈夫、みんな何とも思ってないよ」

京太郎「また次があるし、咲が何とかしてくれる」

京太郎「ほら、戻って咲の応援しようぜ」

和「……次」

和「次、って何ですか」

和「貴方が、私の何を知ってると言うんですか」


 歯止めの利かない口が言葉の堰を切る

 視界が滲んで、首筋が熱くなって

 身体が震えて、言葉も震えて

 こんなこと言いたくないのに

 須賀くんに責任は無いのに

 また助けに来てくれたのに

 励ましてくれていたのに



――――何も知らないくせに!







 私は、最低だ