「和!俺、役をようやく全部覚えたぜ!」

 ダジャレ交じりに報告する満足気な須賀君と見上げた朝の空を、また望む

 雲ににごった空を眺め、東風に揺れる髪を押さえながら初夏を感じる

 部員五人で遊びに行ったりして親睦を深めたゴールデンウィークが過ぎて一週間ほどたった土曜日、半日授業を終えた昼頃

 例のごとく学食へタコスを買いに行くと言うゆーきと別れ、私は部室へと足を運んでいました

 部室のある旧校舎へ続く、緑に挟まれた緩やかなカーブを描く道を歩いていると、右の方に見慣れた金色が目に入りました

 彼の方へ顔を向けると、木陰に人影がいるのがわかって

 彼女も私と同じタイミングで気づいたのか、視線が合いました

 たまに通学路で背中を見たり、廊下を歩いているのを教室から見かける程度に

 彼女の容姿は見かけることが多かったので覚えていました

 いつも須賀くんの隣にいた彼女を、私は覚えていました

 やがて、羨望の混じった視線は別れ

 橋を渡って来た須賀くんと軽い挨拶をして

 後ろの二人の話し声を聞き流しながら

 私は部室へと足を運びました



                                            ,.ー-‐.、
                                            ヽ、   ヽ  __
                       / ̄\                 /,..-ニ‐- '"_,..)
           _,.‐-、        /     ヽ              ' ´/  , _ 、´
       _ _     ' 、 .ノ      /      _|          ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\
    i'´ ` !    r   ヽ     /      <_       ,..-、 , ',. -一' ./..'/     .}
    i    ヾ、_  !    l    `ー-イ       \    /   / ,. '′  ,..,.  ,/    ./
    し  , iヽ、i !     !    _,/      ,.イ ̄`'´ // /    {  \ヽ      i'
    /  ヾ |  l      !  / ̄          //    / ー'´  ゙、    `´\ ヽヽ   !
    ヽ  r'´. .└! .i! .!┘ 〈          \|     | |   |   ,.'⌒   `,. l   !
    ヽ  !   .  l !l .!    ヽ   r/           ヽ/    |   ! ゝ-‐'´ /l  .!
     i ゙、     l .l ! l     ヽ__//  _    r、__,    ,、  __,ノ   \  /  }  .}ー"ヽ  ヽ
     | ト、゙、    l .! l .!        /  / |   |   ≧、__|  ̄       `ヽヽ  j  ノ`ー-、   }   .
___ ノ」__ン__ __r' 」 l、゙、__ / ./ /|   |__________  __゙、`'   /__ ヽ/_____
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ "'´ ̄ ̄ ゙、.   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ }   ./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                          ヽ、ノ                    ヽノ


『第四話 押した背中』




咲「京ちゃん遅いよー」

京太郎「歩いて五分の図書館に遅れて来るお前にゃ言われたかねーよ」

咲「そんな二年前のことは時効ですー」

まこ「おんしら二人のことは知らんが、その荷物は何じゃ?」

和「異様に大きいですが……」

優希「犬のことだからエロ本かティッシュ箱に決まってるじぇ」

京太郎「おい何だその想像」

京太郎「ぐごー」

優希「ふひひ、のんきに寝おってー」パシャッ

和「須賀くんに何をしているんですか」

優希「寝顔を撮って永久保存して後々京太郎を辱めてやるんだじぇ」

咲「優希ちゃんも携帯持ってるんだ……すごいな」

和「PCだけでなく携帯まで持ってないんですか?」

咲「うん、私じゃそういうの使いこなせないと思うから」

久「ちなみに須賀くんの荷物はPCよ」

咲「ええっ!?またあれをやるんですか……」

久「咲の戦績グダグダだったじゃない、頑張りなさい」

咲「はぁ……」

優希「のどちゃんも撮るなら今の内だじょ?」

和「わ、私はそんな……」

和「…………」ウズウズ

和「ぅ…………」チラッ

和「…………っ」ギュッ

和「…………」チラッ

和「すぅー、はぁ……ょし」

和「!」ガバッ

京太郎「あれ、俺寝てた?」

和「」

優希「二十分くらいなー」

和「」

咲「京ちゃんいびき凄かったよ」

和「」


 ――――――――――


和「はぁ……」

優希「たこしゅ……たこしゅだじょ……」

咲「京ひゃん、しょんなとこさわっちゃらめらよ……」

まこ「ん…………」

久「Zzz」

和「……寝れません」


 窓からこぼれる月の光

 静かに寝息を立てて寝る先輩二人

 容易にその内容を想像できる寝言を放つ親友

 どんな夢を見ているのかがとても気になる新しい友人

 長風呂のしすぎでのぼせたからか、ゆーきの言ったことに胸を躍らせているのか、私はなかなか寝付くことができませんでした

「……この天井の上には…さっきの星空があるのかな」

 もう一度、あの星空を見てみたい

 そう思った私は、音をたてないようにしながら布団を発ちました


 『麻雀?』

 『東京の進学校を蹴ってまで続けることがそれか』

 『中学で一人友達ができたんです』

 『高校でも……』

 『だからここに残りたい……』

 『こんな田舎の友達がなんの役に立つ』

 『麻雀だってほぼ運で決まる不毛なゲームだろう』

 『練習して大会だなんてバカバカしい』

 『では……』

 『高校でも全国優勝できたら……』

 『ここに残ってもいいでしょうか……』

 『…………』

 『できたら考えよう』


京太郎「だーれだ?」

和「きゃっ!」

京太郎「だーれだ?」

和「……さあ?」

京太郎「乗る気無しだ!?」

和「驚かせないでくださいよ、もう」

京太郎「ごめんごめん、咲によくやっててつい」

京太郎「んで、こんな時間に何してんだ?」

和「寝付けないので、散歩に」

京太郎「奇遇だな、俺も行こうと思ってたんだ」

和「須賀くんも寝付けないんですか?」

京太郎「バスん中で寝ちゃったからかわからんけどな」

京太郎「合宿所の人に聞いたんだけどさ、この辺に滝があるらしいんだ」

和「滝?」

京太郎「そ、滝」

和「それは楽しみ……ですね」

京太郎「だよな!山とか滝とか、そういう自然好きなんだよ」

和「……ふふっ」

京太郎「俺、なんか変なこと言った?」

和「いえ、奈良にいたころの友達と同じ趣味だな、と」

京太郎「転勤族だっけか」

和「ええ……?どうしてそのことを?」

京太郎「あ……ほら、前に優希が言ってたじゃん」

和「宮永さんと来たときですか」

京太郎「そそ……あ、あとありがとな、咲のこと」

和「宮永さん?」

京太郎「あいつさ、俺と初めて会ったとき人と仲良くしようとしてなかったんだ」

京太郎「気になった俺があいつと無理矢理仲良くなんなかったら今頃どうなってたことか」

京太郎「いつも一人で本読んで、何もできなかったあいつが麻雀部に入るなんて正直意外だった」

京太郎「和と優希と仲良くなってくれて本当に良かった」

京太郎「だから、ありがとうな」

和「私はそんな、宮永さんとは喧嘩してしまいましたし……」

和「感謝で言えばまだ、あの日のことで十分お釣りが来るほどですよ」

京太郎「いや、そんなん…………そうか」

和「?」

京太郎「滝……滝だ!」

和「結構近かったですね」

京太郎「んだんだ」

京太郎「夜空とも相まって綺麗だなー」

和「そうですね、綺麗です」

京太郎「和の方が、綺麗だぜっ☆」

和「何を言い出すんですか!」カァァ

京太郎「じょーだんじょーだん、あ、流れ星」

和「どこですか!」

京太郎「ほらあの辺……まただ!」

和「あ……!」


 満天の星空を流れる一筋の光

 私と須賀くんで一緒になって、声が漏れ出る

 二人とも願いは秘密にしたまま、宿舎へ

 ……本当は、知りたかったのですが

「ありがとな、咲のこと」

 なぜでしょうか、私は須賀くんの答えを恐れて

 宿舎で別れるまで話を切り出せませんでした

 お礼の話もできずじまいで、近くに須賀くんがいて何もできないままでしたが


「そんじゃまた明日な」

「俺たち一緒に全国行こうぜ!」


 彼の台詞はとても心強いものでした



――――そして、長野県個人戦


「ロン、12000」


「ツモ、4000・8000!」


「ツモ、6000・12000!」


京太郎「ずがーん!」




 という感じで、須賀くんは敗退してしまい

 そんな須賀くんに部長は……


「じゃ、午後のおやつの買い出しお願いね」

「ずがーん!」


 ゆーきにもタコスの補充を頼まれた後、須賀くんはそのまま、走り去ってしまいました

 そんな須賀くんを心残りにして、一日目の個人戦は午後の部に突入しました


和「……ふぅ」

京太郎「お疲れさん」ピタッ

和「ひっ!」

和「……驚かせるの好きですね」

京太郎「まーな、ほらこれ、バナナと振る夏みかんゼリー」

和「なんですかそのチョイス」

京太郎「バナナは部長がな、あとここの自販機で売ってた夏みかんゼリー」

和「……はぁ、ありがとうございます」

京太郎「しっかしみっともねえよなー俺」

京太郎「一緒に全国に行こう、って言ったのに午前敗退とかよ……」

和「何回落ち込むんですか?」

和「頑張ったんですから、胸を張ってください」

和「そんな顔、須賀くんらしくないですよ」ムニッ

京太郎「へっ……そうだよなぁ……」

京太郎「ありがとう、和」

ピンポーン

京太郎「試合、頑張れよ」

和「はい、絶対勝ってきます」


 試合開始前の放送を聞いて、須賀くんと別れました

 私が見えなくなるまで須賀くんは手を振って大声を出していてくれました

「頑張れー!和ー!」

「和なら勝てる!絶対勝てる!」

「気合だぞ!和!」

「世界一愛してるぜ和ー!」


――――恥ずかしいのでやめてください!





  続く