8・

京太郎「さあ、今日も牌ちゃんと戯れに、牌の世界に行こう」

 部室に一番乗りした京太郎は、卓の上に整理された牌に触れる。

 触れた瞬間に感じる、頭から血が抜けるような感覚にも随分と慣れた。

京太郎「到着っと……」

 辺りを見まわす。

京太郎「あ、いた。おーい、牌……」

 声をかけようとしたところで、あることに気づく。

京太郎「え……牌のそばにいるやつ、誰だ?」

 牌のそばにいたのは、遠目にもわかるイケメン高身長な男だった。

京太郎「は……? ちょ……どういうことだよ」

 頭が働かない。どうしてこんなことになっているのか。

 牌は、楽しそうな表情でその男と会話していた。

京太郎「……いや、別に……あいつが誰と話してようが俺には関係ないし」

 そうだ。牌と京太郎の関係はただのライバル関係なのだ。

 牌が誰と仲良かろうが、それはどうでもよいことなのだ。

 ――だけど。

京太郎「……帰ろう」

 話しかけることは出来なかった。

京太郎「咲……俺の白でお前の萬子の混一色に放銃してもいいか?」

京太郎「う゛ん゛、い゛い゛よ゛(裏声)」

友人「……何やってんのお前」

 誰もいない教室。

 そこでの一人小芝居を見られていた。

京太郎「ゆーと! 見て分かんないのか? 咲を麻雀に誘う練習だ!」

友人「へー、別のことを誘ってるようにしか見えなかったわ」

京太郎「真剣にやってたのに」

友人「はぁ……まったくお前は。もっと普通に誘えばいいだろ」

京太郎「うっ……そうなんだけど、恥ずかしくってさ」

友人「普通に話すみたいに誘えばいいだけだっつーの」

京太郎「あ、そうだ、ゆーと。麻雀部に入ってくれ」

友人「いいぜ」

京太郎「優しい」

友人「今の感じで咲ちゃんを誘えよ」

京太郎「難易度高い」

友人「ヘタレめ」

京太郎「言い訳できねえ」

友人「じゃ、ちょっと練習してみるか。俺を咲ちゃんだと思え」

京太郎「咲はもっとかわいい」

友人「うるせえ、さっさとやれ」

京太郎「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! 入部しろ!」

友人「自由意志を尊重しろ」

京太郎「安心しろ! ――俺、須賀京太郎は不可能の力と共にここにいるぜ!」

京太郎「俺が咲の入部を受け止めてやる! だからお前は入部届を持っていけ!」

友人「壮大過ぎる」

京太郎「一緒の部に入部して、友達に噂とかされると恥ずかしいし……」

友人「もはや誘ってねえ」

京太郎「な゛ん゛で゛入゛部゛し゛な゛い゛ん゛だ゛よ゛! ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

友人「文字数稼げて便利!」

 いよいよ咲を誘う時がやってきた。

 特別なセリフも気障な口説き文句もいらない。

 ただ普通に言えばいいだけだ。

 外で本を読んでいる咲を見つけた。

友人「さあ、行け!」

京太郎「あ、明日にしないか?」

友人「行け!」

 どんと押された。

京太郎(ええい、ままよ!)

京太郎「咲~!」

咲「京ちゃん」

京太郎「まーじゃ……」

咲「まーじゃ?」

京太郎「まあ、じゃあ、学食へ行こうぜ!」

咲「その間投詞いる?」


 食堂。

 咲にレディースランチを注文してもらってる間に友人に首を絞められた。

友人「何やってんだお前は」

京太郎「く……苦しい。だ、だってさ」

友人「だってじゃねえ」ギュウウウウ

京太郎「しまってるしまってる! ここで決める! ここで決めるから!」ゴキゴキゴキ

咲「はい、レディースランチ、持ってきたよ」

京太郎「おーう……サンキュー……」ギュウウウ

咲「仲いいね、二人!」

京太郎「これが、仲良くしてるように……見えるのか」ゴキゴキギュウ

咲「じゃれてるだけでしょ?」

 それはひどい。

 友人は一旦その場を離れ、遠くから俺達を見守ることにしたようだ。

 正直友人にはこの場にいてアシストをして欲しかったのだか、この件は俺一人で片付けるべき問題らしい。

京太郎「咲……あのさ」

咲「おいしい?」

京太郎「あ、美味いぜ」

咲「それはよかった」

京太郎「…………ういっす」

 タイミングが見つからない。

 あれ、勧誘ってこんなに難しいことだっただろうか?

 ……いや、これは俺のせいだ。

 俺が咲に特別な感情を抱いているから、こんなふうになってしまったのだ。

 今は咲への感情は切り離そう。

 大切な友人を部活に誘う。それだけのことだ。

京太郎「咲、麻雀部に入らないか」

 溜めもせず、情緒もなく、京太郎はそう言った。

咲「……ごめん京ちゃん、麻雀キライだから」

京太郎「キライってことは、麻雀、出来るんだ?」

咲「まあ、そうなるけど」

京太郎「なら、大丈夫だ」

咲「大丈夫って……」

京太郎「どんな理由で麻雀が嫌いになったのかは知らねーけど、うちの麻雀部なら大丈夫」

京太郎「あそこなら、あのメンバーなら、たとえ嫌いでも――楽しく麻雀を打てる」

咲「……よくわかんないよ」

京太郎「えっと、つまりだな……あの、その」

咲「でも、京ちゃんがそう言うなら、そうなのかもね」

京太郎「咲……」

咲「いいよ、わかった。行ってみる」

 部室。

 新メンバー友人と見学の咲を連れてやって来た。

京太郎「みなさんいますかー!!」

本藤「しっ、須賀! 静かにしろ」

京太郎「ど、どうしたんです?」

本藤「部長が眠っていらっしゃる」

京太郎「はあ」

本藤「怖いから起こしてはならない」

 本藤先輩、トラウマ克服できてねえ。

本藤「っと、客か?」

 でかい図体、威嚇するような面で本藤先輩は言った。

 咲のやつ、怖がらねえよな……?

咲「宮永咲です。よろしくお願いします」

 なんの緊張もない様子で、咲はお辞儀をした。

 そういえば咲は他人に物怖じしないタイプなんだっけか。

友人「こここここんにちは! うううううう梅原友人です」

 ……よっぽどこっちのほうが怖がってた。

和「お茶入れますね」

咲「あっ……さっきの――」

京太郎「お前和のこと知ってんの?」

和「先ほど橋のところで――」

八坂「悪いね、ちょっとこいつに用事があるから先に打っといて!」

京太郎「やっさん?」

 和の言葉を全部聞く前に、やっさんに腕を引っ張られ、部室の外に出た。

京太郎「どしたよ」

八坂「……あいつはなんだ」

京太郎「どっちのことだ」

八坂「宮永さん」

京太郎「咲か……友だちだけど」

 フラれた相手だとは言えない。

京太郎「……どうしたやっさん、顔色、悪いぞ」

八坂「分かんないのか、お前には」

京太郎「え?」

八坂「……化け物だぜ、あいつ」

京太郎「なっ……」

八坂「いや、魔王か……?」

 麻雀の強い人間が発する何か。

 それは悪魔だとか魔物だとか、にも例えられる。

京太郎「いやいやいや、ちょっと待てよ。俺もそういうのを感知する力があるんだぜ? でも咲からは特に何も」

八坂「隠してるんだ」

京太郎「…………」

八坂「いや、隠れているのかもしれないな。意図的にか偶発的にかはわからないけど、強さが隠れている」

京太郎「なんでお前はそんなことがわかるんだ」

八坂「同種の物を見たことがあるからだ」

京太郎「同種の……もの?」

八坂「あの日――俺が麻雀をやめた日――見たんだ。あれに似た、なにかを」

 部室に戻り咲の打ち方を確認する。

京太郎「(……まじかよ)」

八坂「(わざと手を安くしたな。何のためだと思う)」

京太郎「(一位にならないため……とかか)」

 咲が麻雀を嫌った理由はわからない。だが人が麻雀を嫌いになる理由は限られている。

 その定番といえば、自分が勝つと他の人の機嫌が悪くなる、とかか。

八坂「(一位にならないため、か。それもあるが……それだけじゃない気がする)」

京太郎「(えっ!?)」

八坂「(もう一局見よう)」

 ――そこから始まる物語は、咲と和の物語。

 その日、咲は3連続プラマイゼロを達成したのだった。

 その日の放課後。

一太「部員、九人揃ったのかい」

京太郎「えっと、副会長さん。お久しぶりです」

一太「君ならやると思っていたよ。麻雀部再建」

京太郎「……あと一人、男子が足りてませんよ」

一太「僕を、入れてくれないか?」

京太郎「え?」

一太「君がいれば、会長はもう悲しまなくて済む」

京太郎「よくわからないですけど……入部なら大歓迎ですよ」

 ――こうして、男子も女子も団体戦に出られることになった。

 一週間後。

 通学路の途中、京太郎は草むらに隠れて観察していた。

友人「……何してんの、お前」

京太郎「指」

友人「……は?」

京太郎「いま、和が小指にキスしたんだ」

友人「おう」

京太郎「昨日、咲と和は指切りをしてたんだ。隠れて見てた」

友人「本格的に気持ち悪いなお前は」

京太郎「あれは百合名場面名鑑収録『あなたの触れた場所がじんじんするの……』だ!」

友人「もしかしてこれから先、原作にそって百合百合してる様子を観察するだけの話になるのか!?」

京太郎「いいな、それ!」

友人「よくねーよ。あと2週間しかないんだぞ。盛大に何も始まらないにもほどがあるわ」

 学校。

咲「じゃあお昼一緒に食べようねー」

和「はい、ではまた」

京太郎「咲……おまえ……和と仲良くなったのか」

 百合ップル誕生への歓喜で、京太郎はそう言った。

咲「うんっ」

京太郎「お……俺もお昼ご一緒してよろしいですか」

 もちろん、百合の観察のためである。

 合宿をしよう。

 そういうことになった。

 そして合宿の前日。

 京太郎はある場所にやって来ていた。 

 百合オンリーイベントである。

 合宿の日程と重ならないか心配であったが、ギリギリ一日ずれていたのだ。

京太郎「買うぞー! 超買うぞー!」

 pixivで追ってる好きな絵描きさんの新刊を素早く買う。

 しかし、京太郎にとっての本番はこれからだ。

 それは新人の発掘である。

 この業界は常に新しい人が入ってくる。

 そこにある金の卵を探す。やりがいのあることだった。

京太郎「とりあえず、まずは好きなカップリングの同人誌から見ていくか」

 絵柄も好みな「はるちは本」を発見。

京太郎「あの、読んでみてもいいですか」

女性「どうぞ!」

 ……うん、やっぱり好みの絵柄だ。

??「すみません、俺も読んでみていいですか」

女性「はい!」

 他に客が来たようだ。

京太郎「あ、俺、邪魔ですか? すみません」

本藤「いえいえ、そんなことは」

 紙袋を両腕にいっぱい抱えた、いかつい顔の男が、そこにいた。

 まさしく本藤先輩であった。

京太郎「…………」

本藤「…………」

京太郎「き、奇遇ですね」

本藤「お、おう、そうだな須賀」

??「ちょっとあんたら、そんなとこで立ち話してるんじゃねえよ」

京太郎・本藤「あ、すみませ」

八坂「…………」

 つんつん頭の、小柄でツリ目な少年が、そこにはいた。

 疑う余地なく、やっさんだった。

京太郎・本藤「……」

八坂「や、やあ!」

京太郎・本藤「……あ、この本、一部ください」

女性「ありがとうございます! やった、完売だよイッチー!」

一太「本当ですか!? やりましたねササヒナ先生」

京太郎・本藤・八坂「おっす」

一太「    」

京太郎「……」

本藤「……」

八坂「……」

一太「……」

 あのあと、四人は互いに連携し合い、目当ての同人誌を買い漁った。

 ほとんど無言でである。

 会場の出口で、その空気に耐え切れなくなった本藤先輩がようやく口を開いた。

本藤「……お前ら明日の合宿の買い物は終わったか」

八坂「あ、まだっす」

京太郎「じゃ、今からみんなで買いに行きますか!」

一太「いいですね、梅原くんも誘いましょう!」

 三十分後。

友人「みんなで集まって買い物って……。女子じゃねーんだから」

 ぶつくさ言いながらも集合場所にやって来た友人。

友人「お、いたいた。もうみんな集まってんのか」

 四人は、何か会話をしているようだった。

 タッタッタッと小走り気味に四人に近づき、耳を傾ける。

八坂「女にも性欲はあるんだよ勝手な童貞の妄想を押し付けんな !!」

京太郎「プラトニックラブをバカにしてんのかボケ! 距離感を楽しむものだろうが!」

一太「ひたすらにイチャイチャラブラブしてりゃいいんですよ!」

一太「現実感やら修羅場やらシリアス展開やら、そういうのは作者の自己満足ですよ!」

本藤「笑わせるな! 葛藤や修羅場を乗り越えてこそ真実の愛に辿り着けるのだ!」

本藤「そこに至っていない百合なぞ見せかけ! お前の意見こそ本当の自己満足なのだ!」

八坂「そう、肉体関係まで描かなくても良いみたいな風潮が広まったせいだ!」

八坂「それでアリバイ百合とかいうただの金儲け作品が量産されたんだ!」

友人「よし、帰ろう!」

 こんなやつらと同じ場所にいられるか!

 俺は一人で買い物するぞ!

京太郎「来たか、ゆーと!」

 見つかった。

友人「帰ります!」

本藤「今からカラオケ店で朝まで『百合ソング大会&百合談義』をするのだ。貴様には審査員になってもらうぞ」

友人「いやだああああああああああああ」

一太「僕が一番正しいことを証明してみせましょう」

八坂「はっ、笑わせるぜ先輩。今から宗旨変えの準備をしといたほうがいいですよ」

京太郎「つーか――……」

 ――梅原友人はこの日、未来永劫絶対に百合作品を読まないことを心に誓ったのだった。

 ――ただし、ゆるゆりは除く。

 次の日。合宿の日。

 合宿棟に向かう前に、京太郎は牌の世界に来ていた。

京太郎「……よう」

牌「京太郎!」

 牌の笑顔。

 それを見た瞬間、心がチクリとした。

 牌が見知らぬ男と会話をしていた場面を思い出したのだ。

京太郎「……すまん! 今から合宿なんだ。今日はもう帰る!」

牌「ちょっと待ってよ!」

 牌に腕を掴まれた。

京太郎「……どうした」

牌「最近、なんか変だよ」

京太郎「……気のせいじゃないか?」

牌「ち、違うもん」

 牌が握っている場所がじんじんする。

京太郎「ごめんっ!」

 手を振りほどき、元の世界に戻る。

京太郎「はあ、はあ、はあ……」

 部室で卓に掴まりながら、呼吸を整える。

咲「大丈夫、京ちゃん?」

京太郎「咲!? 合宿棟に行ったんじゃ……今の、見てたのか」

咲「道に迷っちゃって……いま来たばかりだよ。大きな音が聞こえたからびっくりして」

京太郎「そ、そうか」

咲「京ちゃん……辛そうな顔してるよ?」

京太郎「……んなことねーよ」

 誤魔化すしかなかった。本当のことを言うわけにもいかないし。

咲「……信じてあげて、京ちゃん」

京太郎「咲……?」

 事情がわからないはずなのに、咲はそう言った。

 もしかしたら何となくバレているのかもしれない。

 まさか俺が牌の世界に行ってるとまでは思わないだろうが。

 ……そうだ。ちゃんと聞こう。誰と話していたのか。その人とどんな関係なのか。

 勝手に勘違いするのはやめよう。


 次の日。合宿中。

 早朝に合宿棟を抜けだした京太郎は部室に向かった。

 牌に会いに行くためだ。

 旧校舎にはまだ誰もおらず、静かな空気が薄気味悪かった。

 卓の上に並べられた牌に触れようとして、手が止まった。

京太郎「まだ怖がってるのか、俺は」

 真実を知るのが怖い。

 出来るのならば真実を知らないままで生きていたかった。

京太郎「なんたるヘタレ具合だよ、俺は……!」

 目を瞑って、勢い良く牌を握りしめる。


 牌の世界。

 最近はどんどんと明るくなっていった牌の世界も、最近また少し暗くなった気がする。

京太郎「牌……」

牌「……来てくれたんだ」

 視線が合う。

 どうしようもなく逸らしたくなったけど、我慢した。

 目を逸らしてはいけない。

 逸らした瞬間にまた勇気を失ってしまいそうだった。

京太郎「牌、聞きたいことがある」

牌「……なに?」

京太郎「10日ほど前、お前が会話してた男、あいつ誰だ?」

 聞いてしまった。

 怖い。

 どうしてなのかわからないけど怖い。

 牌は、ゆっくりと口を動かした。

牌「お兄ちゃんだけど?」

京太郎「………………」

牌「?」

京太郎「……お兄ちゃん?」

牌「うん」

京太郎「あ……は……はははは!」

牌「え!? 笑うとこ!?」

 なんだ、なんだ、そういうオチか!

 うじうじ悩んでいたのがアホらしい。

 さっさと聞いてしまえば楽だったのに。

京太郎「……よかった」

牌「京太郎……」

京太郎「牌……」

 自然と、二人は体を近づけあった。

 そして――お互いの身体が触れ――。

卓「妹を貴様には渡さーーーーーーーーーーーーん!!」

 触れる前に突き飛ばされた。

卓「この獣め! 我が妹に気安く触れるとは!」

牌「あ、卓兄! おはよ」

卓「うへへへへ、おはよ我が妹よ」

京太郎「何だお前は!」

卓「我か? 我は《麻雀 卓》! 配牌を操る神なり!」

京太郎「配牌を操る、神?」

卓「敬い給えよ!」

京太郎「なーるほど……なぁ……」

卓「なんだ!?」

京太郎「お前かあああああ! 俺の配牌を8シャンテンとかいう糞配牌にしたのは!!」

卓「そのとおりだが?」

京太郎「だが? じゃねえ! さっさと治せ! ろくに麻雀できねーよ!」

卓「我から妹を奪おうとする蛮族にはピッタリの誅罰だ」

京太郎「悪魔あああああああああ!」

卓「野蛮人がああああああああ!」

牌「二人とも元気だねー」

 牌はニコニコしていた。

牌「卓兄、京太郎の配牌を良くして、とまでは言わないけど、普通に戻してあげてよ」

卓「な、なぜだ我が妹よ! どうしてこんなやつの味方をする!?」

京太郎「へっ」ドヤッ

卓「ええい、うっとおしい!」

牌「お願いだよ」

卓「く……」

牌「お・に・い・ちゃ・ん?」

卓「任せ給え!!」

 あれが兄という種族か……。なんと業の深い……。

卓「我が妹の頼みだから仕方なく貴様の配牌を普通にしてやったが……よく覚えとけ! これは貴様を認めたわけではない!」

京太郎「わかってるよ」

卓「貴様に妹はやらん!!」

京太郎「わかりましたってば、お義兄」

卓「おいいまてめえなんつった」

京太郎「つーかマジモンの兄妹なのか」

牌「んーとね、神様になってから兄妹になったんだよ。牌と卓は兄妹関係になる決まりなのだ」

卓「我は本物の妹と思っておるぞ!」

京太郎「オーケーオーケー」

卓「ええい、聞けいっ!」

 ……さてと。

 ここらで一つ、片をつけよう。

 今あるピースで思い出せることは全て思い出した。

京太郎「さて……そろそろ覚悟を決めるか」

牌「覚悟?」

京太郎「逃げていたことに立ち向かう」

 合宿の起床時間は7時半。

 現在は6時半。あと1時間ある。

 京太郎は自分の家に向かった。

京太郎「母さん」

母「どうしたの、京太郎。合宿中でしょ」

京太郎「俺が小学校1年生だった頃のことを、教えてよ」

母「……そっか。もう、いいのね」

京太郎「もう子どもでいられる年齢でもないしな」

母「ちょっと待ってて」

 京太郎の母は薄いアルバムを持ってきた。

母「これが、その時の写真よ」

 アルバムを受け取る。

 薄くて小さいアルバムなのに、ずしりと重く感じた。

 ゆっくりアルバムを開く。

京太郎「……ああ、そうか……やっぱり、そうなのか」

 そこに写っていたのは四人の子ども。咲、照、京太郎、そして――牌ちゃん。

京太郎「いや――牌ちゃんじゃない――みなも――宮永みなも」

 あの日、8年前。飛行機事故で命を落とした少女。

 咲の従姉妹である少女。

 俺が――。

 初めて好きになった少女。

8・終