5・

牌の世界

京太郎「今日、本藤先輩との再戦だ」

牌「……へえ」

京太郎「俺、強くなったかな」

牌「さあ、なってないんじゃないの」

牌「もうこれ以上強くなりようがないもん」

牌「考えうるパラメーターはもう限界まで伸びてるんだよ?」

京太郎「あとは配牌と、ツモ運」

牌「なに? 上げて欲しいの、ツモ運」

京太郎「その言い方だと……やっぱりダメか」

牌「やだね、やだやだ。めんどくさい」

京太郎「そこをなんとかさー、俺が頑張ってるとこ見ただろ?」

牌「……うん、見てたよ、全部」

京太郎「ちょっとは感化されたんじゃないか」

牌「ないない、全くもって。男には感化しないよー」

京太郎「そっか……なら、しょうがないな」

牌「……どうするつもり」

京太郎「このまま打つしかないだろ」

牌「認められんの?」

京太郎「しばらく麻雀にブランクがあったうえで、このまえ本藤先輩と打ったんだ」

京太郎「この一週間でだいぶ勘は取り戻した。それを成長ということにしてもらおうと思ってる」

牌「………………」

京太郎「じゃ、また明日」

牌「………………見とく」


 部室に意識が戻る。

八坂「よう」

京太郎「やっさん! どうしてここに」

八坂「本藤先輩と打つんだろ? それの観戦に来た」

まこ「入るか?」

八坂「ありがとうございます、遠慮なく」

京太郎「麻雀部に入ってくれるのか」

八坂「京ちゃんが本藤先輩に認められればな」

京太郎「そりゃまた難しい条件」

八坂「それぐらいできないと、あいつは倒せない」

京太郎「あいつって……?」

八坂「来たみたいだぜ」

 扉がゆっくりと開く。

 巨体が京太郎の前に立ちふさがった。

本藤「見せてもらうぞ、お前の変化を」

 対面に座る。

八坂「京ちゃん、本藤先輩の強さの秘密はもうわかったのか」

京太郎「前に気づいたよ。防ぎようねーけど」

 本藤先輩の使う技術は「神逆」という手法だ。

 理論はさほど難しくない。

 筋力で雀卓を変形させるだけだ。

 上手く変形させれば数枚ほどの牌なら任意の場所に持ってこれる。

 プロならば笹塚プロ、掛橋プロあたりが使い手として有名だ。

 大沼プロも若いときは使っていたらしいけど。

京太郎(操れるのは多くても4枚ほど……この前打ったときは赤ドラを2枚と両隣の牌を集めてた……)

京太郎(和了り形を見たら毎回入ってたしそれは一目瞭然。高火力なのもうなずけるってものだ)

 配牌を見る。

 8シャンテンの形。
119 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:36:28.82 ID:uOEv440Bo
本藤「会話はできたか」

京太郎「…………?」

本藤「わからないか、牌とのだよ」

京太郎「なっ……」

本藤「その様子だと出来たみたいだな」

京太郎「まさか本藤先輩……あなたも」

本藤「んなわけないだろ、俺にはできないよそんなこと」

京太郎「じゃあなんで」

本藤「お前はそれができるやつだと思ったからだ」

京太郎「………………」

本藤「出来るやつなんてほとんどいねーよ。というか、それが出来るやつはあと一人しか知らない」

八坂「本藤先輩、それってもしかして、上崎って人ですか」

本藤「なんだ、知ってるのか?」

八坂「俺が麻雀から離れた原因ですから」

 六巡目。

京太郎「……ツモ。七対子ドラ1。1600」

 河がまだ一列のときに和了れたのは何年ぶりだろうか。

本藤「ムダヅモなしか? 牌に愛されてるな」

京太郎「いや……さっき協力しないって言われたんですけど」

 協力してくれる気になったのか、牌。

 しかし東ニ局。

本藤「ツモ。3900オール」

京太郎「うわ、マジか……協力するのはさっきの一回だけってことかよ」

 捨て牌に並ぶ裏目った牌たち。

八坂「つーかツモ運悪くなってね?」

京太郎「さっき運よくした分、代価を払えって感じなのか? もっと純粋に協力してくれてもいいのに……」

 その後も捨てた牌を次にツモるということが続き、オーラス。

 跳満直撃で本藤先輩をまくれるところまできた。

本藤「次、チャンスをやる。それで俺に勝ってみろ」

 本藤先輩は「神逆」を、京太郎の配牌に発動させる。

 京太郎の配牌が4シャンテンになった。

京太郎「本藤先輩、これって……」

本藤「神が決めたことに逆らうから、『神逆』と言うんだ。一度くらいならこれぐらいは出来る」

本藤「さあ、打ってみろ。その配牌ならばお前の力を発揮できるだろ」

京太郎「……はいっ!」

 その日、京太郎は八年ぶりの三倍満を達成し、本藤先輩に勝利を収めたのだった。


 次の日。牌の世界。

京太郎「勝ったぜ」

牌「ふーん、興味はないけど、おめでとう」

京太郎「東一局目、ありがとな」

牌「なんのことやらさっぱり」

 知らんぷりをする牌。せっかくお礼を言っているのに。

 まあ、いいけど。

京太郎「今日は、聞きたいことがあってさ」

牌「……なに?」

京太郎「俺とお前、昔、会ったことがないか?」

牌「……さあ、よくわかんないけど、いつの話?」

京太郎「9年前」

 記憶のほとんどない9年前。

 蓋をした9年前。

 そこから漏れだした記憶の断面に、確かに牌はいた。

牌「どうだろう」

 上を見上げて退屈そうに、牌は言った。

牌「私、付喪神なんだけど」

京太郎「付喪神……」

 長く使った道具に宿る神、だったか。

牌「私が神になったのは8,9年前くらいなのだ。だけど、神になってから誰か人間に会ったことはないよ」

京太郎「って、ことは」

牌「勘違いじゃない?」

京太郎「勘違い……?」

 本当にそうなのか?

 だってこんなにも記憶の中の少女と牌はそっくりなのに。

 なのに別人? 他人の空似?

京太郎「わかった、変なこと聞いて悪かったな」

 疑問は残るがこれ以上追求しても埒があかない。

 それに、このことはこれ以上追求しないほうがいいような気もするし。

牌「ま、待って!」

京太郎「ん?」

牌「あ、あの」

京太郎「なんか思い出したか!?」

牌「そうじゃなくて、あの……あ……がとう」

京太郎「えと……」

牌「ぁ……ありがとう、これ」

 そう言って牌が指をさしたのは、PCとコミスタ(パッケージ版)。

京太郎「あ、ああ……素直にお礼を言うとは……大人になったな」

牌「大人も何も神だ!」

京太郎「はいはい、わかってるよ」

 頭を撫でる。

牌「く……気持ち悪い……屈辱……! でも、今はお礼のため、我慢……」

京太郎「別に俺、髪フェチじゃないから」

牌「じゃあ無駄に触るな!」

京太郎「はいはい……」

 せっかくセットした髪型が崩れるので、気安く他人の髪を触るのはやめましょう。

5・終