http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361874491/




ヒソヒソヒソ……

京太郎「こんにちはー」ガラッ

桃子「こんにちはっすー!」

智美「おー京太郎、モモ」

睦月「思ったより気にしてなさそうだね」

京太郎「? モモなんかしたのか?」

桃子「特に覚えはないっすけど……」

佳織「あれ、もしかして噂になってるの知らない?」

京太郎「噂? 幽霊が出たって噂ですか?」

桃子「その喧嘩買うっすよ」

智美「それくらいじゃ今さら話題にもならないなー」

桃子「先輩だからって遠慮すると思ったら大間違いっすよ! 姿の見えない怖さを思い知るがいいっす!」

智美「実は最近、モモの居場所が匂いでなんとなくわかるようになってなー」ワハハ

桃子「なんと!?」

佳織「智美ちゃん、話が進まないよ」

智美「それもそうだなー」ワハハ

睦月「噂になってるのは京太郎くんたちの方だよ」

京太郎「俺ですか? というか"たち"?」

睦月「うん、京太郎くんと加治木先輩」

京太郎「そ、そうですか。どんな噂が?」ドキッ

睦月「ええと、二人乗りしてたカップルがいて、後ろの女の子が金髪の男の子をギュッと抱き締めてたとか」

京太郎「」

智美「鶴賀で金髪の男子と言ったら京太郎だよなー」

桃子「女子の方は男子の背中に顔をうずめてたと聞いたっす」

智美「まったく。私たちに隠れて大胆なことするじゃないか」

京太郎「」ビクッ

佳織「智美ちゃん、あんまりからかわないの」

睦月「うむ、昨日加治木先輩が抱きついてしまったときたまたま見られて、それが広まったんでしょう」

京太郎「ソ、ソウデスヨ」

桃子「まあそれはわかってるっすよ」

智美「噂話は伝言ゲームみたいなところがあるからなー」

桃子「幽霊がいたとかいう噂もあるっすよね。ちょっと私が見えづらいからって大げさっす」

智美「それは例としてどうかなー」ワハハ

桃子「まだ言うっすか!!」

佳織「もーダメだよ智美ちゃん」フフフ

京太郎「アハハ……」

ゆみ「」ガラッ

京太郎「!」ビクッ

ゆみ「すまない、遅くなった……なんだか騒がしいな」

桃子「あ、ゆみ先輩! 部長が酷いんすよー!」

ゆみ「なんだ蒲原? 後輩イジメは感心しないぞ」

智美「心温まる触れ合いのつもりだったんだけどなー」ワハハ

桃子「熱くはなったっすね。怒りで」

ゆみ「何をしているんだ……」ハァ

ゆみ「騒いでいたのはそれでか?」

桃子「いや、そもそもは京太郎と先輩のうわ――」

京太郎(まずい! このままじゃ昨日のことがバレちまう!)

京太郎「モモ、ちょっとこっち来い!!」

桃子「もう、なんなんすか?」

京太郎「いいから!」

桃子「あーれー」ズルズル

ゆみ「…………」ジー


京太郎「その噂はわざわざ加治木先輩に言わなくていいんじゃないか?」ヒソヒソ

桃子「え? いやでも京太郎みたいに知らないかもしれないっすし」

京太郎「加治木先輩だってあんまり触れられたいことじゃないだろ?」

桃子「むぅ……それは確かにそうっすね」

京太郎「だろ? だから話題に出すのは避けよう」

桃子「わかったっす」

京太郎(よし!)グッ


ヒソヒソヒソ……

ゆみ「……」ジー

睦月「どうかしましたか?」

ゆみ「えっ!? い、いや。なんでもない」

睦月「? ……ああ、さっきモモが言おうとした話ですね。それなら――」

京太郎「睦月先輩!! ちょ、ちょっとこちらへ」ガシッ

睦月「うわっ!? い、いきなりどうしたの?」

京太郎「とりあえず来て下さい。モモ、部長たちには頼んだぞ」

桃子「了解っす」

京太郎「それじゃあ睦月先輩。行きましょう」グイグイ

睦月「ちょ、ちょっと。あんまり押さないで……」

ゆみ「……」ジー


京太郎「」ペラペラ

睦月「」ウンウン

京太郎「」ペラペラ

睦月「」ンー

京太郎「」ペラペラペラ

睦月「」……コクッ

京太郎「」グッ


桃子「ジーっと見てどうしたっすか?」

ゆみ「っ!? い、いや。なんでもないぞ。そ、それよりさっきの話は……」アセアセ

桃子「あ、あれっすか? あれもなんでもないっす」アセアセ

ゆみ「そ、そうか」

桃子「そ、そうっすよ」

京太郎「ふう……」

ゆみ「あ、須賀くん」

京太郎「か、加治木先輩!?」ドキッ

京太郎(昨日と今日の朝は二人乗りの勢いで話進められたけど、改めて加治木先輩と話すと思うと緊張が!)

ゆみ「津山やモモと何の話をしていたんだ?」

京太郎「い、いえ。なんでもないですよ?」

ゆみ「だが……」

京太郎「モモ、速く麻雀打とうぜ!」ダッ

ゆみ「あっ」

桃子「えーと……待つっす京太郎ー!」タタタ


桃子「もーさっきからなんなんすか」

京太郎「り、理由はわかるだろ?」

桃子「わかるっすけど、やり方ってものがあるっす」

京太郎「うぅ……」

佳織「まあまあ、京太郎くんも焦ってたんだよ」

京太郎「佳織先輩……」ウルウル

佳織「もうちょっといいやりかたはいくらでもあったと思うけどしょうがないよ」

京太郎「ぐはっ!」

佳織「えっ、えっ!?」

睦月「悪気がない分キツそうだね」

京太郎「あ、睦月先輩。一緒に打ちません?」

睦月「立ち直り早いね……いいけど、今日も負けないよ」

京太郎「望むところです」


ゆみ「……」ジー

智美「どうしたゆみちん?」

ゆみ「いや、仲がいいなと思ってな」

智美「まあ2つ違いよりは同い年や1年違いのほうが話しやすいよなー」ワハハ

ゆみ「それはそうだが……」

智美「もしかして拗ねてるのかー」ワハハ

ゆみ「なに?」

智美「ゆみちんとの会話を途中で切り上げて他の女の子に走ったんだもんなー」

ゆみ「ん……」

智美「でもな、ゆみちん。あれには京太郎なりの理由があったんだ。だからあんまり責めちゃダメだぞ」

ゆみ「そうだな。それについてはそんなに気にしていない」

智美「ワハ?」

ゆみ「須賀くんは理由もなしにそういうことをする人間ではないからな」

ゆみ「私に言えない何かがあったことくらいわかるし、詮索する気もない」

ゆみ「だから今の私は、蒲原が言ったとおり拗ねているんだろう」

智美「まさかツッコミがないどころか、言ったとおりなんて言われるとは思わなかったぞ」

ゆみ「はは……私は須賀くんとあんな風には話せていないからな」

ゆみ「帰りが一緒だから話す機会には恵まれていると思うのだが、だからこそな」

智美「そんなことないと思うけどな」

智美(キャラの問題もあるしなー)

ゆみ「だが……」

智美「どうしても気になるならこっちから歩み寄るなきゃダメだと思うぞ」

ゆみ「歩み寄る?」

智美「こっちは年上だからなー。後輩から話しかけるのはやっぱり気後れするだろー?」

ゆみ「ふむ……」

智美「だからこっちからこういう感じで話しかけていいんだぞと伝えないと、向こうも話しづらいだろ?」

ゆみ「なるほど」

智美「だからゆみちんから行動しないとダメだぞ。アプローチしたいならなおさらなー」ワハハ

ゆみ「な、なにを!?」

智美(からかい甲斐があるなー)ワハハ


――部活終了――

ゆみ「須賀くん」

京太郎「な、なんですか?」ドキッ

ゆみ「いや、昨日の話について確認しようと思ったんだが……」

京太郎「き、昨日のというと」

ゆみ「ほら、私に出来ることならなんでもやると言っただろう」

京太郎(なんでも……)ホワンホワン

京太郎(な、何考えてんだ俺は!)ブンブン

ゆみ「?」

智美「ゆみちん、あんまりそういうことは言わない方がいいと思うぞー」ワハハ

ゆみ「なぜだ? 昨日今日と助けられたんだからこのくらいはしてもいいだろう」

智美「健康な男子高校生には毒だぞー」

ゆみ「毒?」

智美「あー……」チラッ

京太郎「な、なんですか!? お、俺はなにも」

智美(大丈夫そうだなー)

智美「とりあえず、せめて京太郎以外には言わないようになー」

ゆみ「それはまあ助けてくれたのは須賀くんだしな」

智美「……まあいいかー」


桃子「それで京太郎は何を頼むんすか?」

京太郎「うわっ!? 突然現れるなよ」

桃子「失礼っすねー。で、どうするんすか?」

京太郎「えーと……」

桃子「エッチなこと頼んじゃダメっすよ」ヒソ

京太郎「ばっ、た、頼むわけねえだろ!?」

ゆみ「うん?」

京太郎「な、なんでもないですよ!」

桃子「ふふふ……それじゃあ私はむっちゃん先輩とかおりん先輩と先に行ってるっすよー」

京太郎「言うだけ言ってそれかこの野郎!」

桃子「野郎じゃないっすー!」タッタッタッ

京太郎「モモめ……」

智美「まあまあ。まだ決まってないんなら提案があるけどいいかー?」

京太郎「なんです?」

智美「日曜日にみんなで遊びに行こう!」

ゆみ「待て待て。大会も近いのに……」

智美「そうやって根を詰めすぎなんだよゆみちんは」

智美「京太郎とモモと佳織が入って本格的に大会を目指してから2週間、大会まで後2週間。休むにはちょうどいいだろー?」

ゆみ「しかし……というかそもそも須賀くんに対する埋め合わせなんだが」

京太郎「い、いえ。俺もそれがいいです」

京太郎(このまま1人で考えてると色々とドツボにはまりそうだしな……)

ゆみ「むぅ……」

智美「あーもちろん足が治ってないなら無理はさせないけどな。実際どうなんだー?」

ゆみ「まだ少し痛むが、まあ日曜日までには治るだろう」

智美「なら決まり。みんなには私から伝えとくぞ」

ゆみ「……まあ息抜きは必要か。須賀くんは本当にそれでよかったのか?」

京太郎「え、ええ。もちろんです」メソラシ

ゆみ「っ……」

京太郎(加治木先輩と遊びに……い、いや。他の4人もいるんだ。いつもの部活と一緒だ! うん!)

智美(やっぱりやったほうがよさそうだなー)


――分かれ道――

智美「それじゃまたなー」

京太郎「はい、さようなら……そうだ、部長。日曜日のことは」

智美「ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと言っておくから任せとけー」ワハハ

睦月「何の話ですか?」

智美「帰り道で話すよ」

ゆみ「別に今話してもいいと思うんだが……」

智美「まあまあ。それじゃあなー」

佳織「さようなら」

桃子「さよならっすー」

睦月「それではまた」

ゆみ「ああ、またな」


京太郎「……」テクテク

ゆみ「……」カラカラカラ

京太郎(や、やっぱり緊張するな……)

京太郎(何か話したいけど何も思いつかねえ)

ゆみ「なあ、須賀くん」

京太郎「は、はい!!」

ゆみ「部活の前にモモや津山と何か話をしていたな」

京太郎「えーと、それは……」

ゆみ「ああいや、別に何を話していたのか知りたいというわけではないんだ」

京太郎「?」

ゆみ「その、なんだ。私に言えないことも言えるような仲なんだなと思ったというか」

京太郎「い、いえ。そういうわけじゃ」

ゆみ「私は何を言っているんだろうな……すまない。忘れてくれ」

京太郎「は、はい……」

---------------------------------------------

京太郎「…………」テクテク

ゆみ「…………」カラカラカラ

京太郎(ああもう、加治木先輩にあんな顔させて、何やってんだ俺)

京太郎(……ていうか今なら別に言ってもよかったんじゃないか? 元々モモたちにバレたくなかったわけだし)

京太郎(よし、それなら今からでも……)

ゆみ「須賀くん」

京太郎「!?」ビクッ

ゆみ「その、あ、歩いていたら足がまた痛んできたんだ」

京太郎「えっ? 大丈夫ですか!?」

ゆみ「ああ、まあ心配される程ではないんだが家まではちょっとつらいかもしれん」

京太郎「そんな……」

ゆみ「だから、その、もし良ければでいいん――」

京太郎「加治木先輩! 今日も俺に送らせて下さい!!」

ゆみ「」ビクッ

京太郎「悪化したら大変です! その、また恥ずかしい思いをさせることにはなりますが」

ゆみ「あ、ああ。須賀くんがよければこちらこそ頼みたい」

京太郎「俺のことなら気にしないで下さい。加治木先輩のほうが大切です」

ゆみ「う……」

京太郎「自転車借りますね。よ……っと。それじゃ後ろに乗って下さい」

ゆみ「あ、ああ」

京太郎「それじゃ出しますよ」

ゆみ「ああ、よろしく」

京太郎「」シャー

ゆみ(……ここまで本気で心配されると胸が痛むな)シャー

ゆみ(でもまあ、目の前で隠し事をされたんだ。これくらいは許されるだろう)ピトッ

京太郎「」ビクッ

ゆみ(おそらくこれが最後だろうし、たっぷりこうしていよう……)


――加治木宅前――

京太郎「つ、着きました」

ゆみ「ああ、ありがとう」

京太郎「明日の朝はどうします?」

ゆみ「それまでには治っていると思う。2日間ありがとう」

京太郎「気にしないでください。俺が好きでやってることですから」

ゆみ「そういうわけにもいかないさ。日曜日のとは別に何か言ってくれても構わないぞ」

京太郎「はは……じゃあ日曜日は麻雀のことは考えないで全力で遊んでください」

ゆみ「それは難しいな……」

京太郎「加治木先輩はそれくらいでちょうどいいですよ」

ゆみ「むぅ……そんなに麻雀ばかり考えているように見えただろうか」

京太郎「見えたっていうか事実じゃないですか?」

ゆみ「……それなら気をつけないといけないな」

京太郎「是非気をつけて下さい……それじゃ、そろそろ帰ります」

ゆみ「ああ、さよなら。……き、京太郎くん」カアァァ

京太郎「はい、さよ……い、今なんて!?」

ゆみ「き、聞き返すなバカ!!」

京太郎「す、すみません! そ、それでは失礼します。……ゆ、ゆみ先輩」カアァァ

ゆみ「あ、ああ。またな京太郎くん」

京太郎「はい、ゆみ先輩」

ゆみ「ああ、京太郎くん」

京太郎「はい、ゆみ先輩」

ゆみ「京太郎くん」

京太郎「ゆみ先輩」

ゆみ「……京太郎くん」

京太郎「……ゆみ先輩」

ゆみ「…………早く帰れ」カアァァ

京太郎「は、はい」カアァァ

---------------------------------------

智美「……というわけで、日曜日に遊びに行こうという話になったんだ」

睦月「元々部活のつもりでしたし大丈夫ですけど、結構急ですね」

智美「うんうん。それで、ちょっと相談があるんだ」

佳織「相談?」

智美「ああ、私たちはドタキャンして2人きりにしたらどうかなと思ってなー」

睦月「2人きりですか?」

智美「なんかゆみちんが京太郎とモモたちみたいに仲良く話せないとか思ってるみたいでなー」

桃子「そんなことないと思うっすけど」

智美「私もそう思う。ただまあこういうのは本人の気持ちの問題だからなー」

智美「それに実際京太郎が下の名前で呼んでないのゆみちんだけだから、あながち的外れとも言えないしなー」

智美「まあそれはゆみちん自身がそうさせたんだけど……」

智美「部活とか帰り道じゃなくて、休みの日に2人で1日過ごせればそんなことも思わなくなると思うんだ」

睦月「うーん、言ってることはわかりますけど……」チラッ

佳織「そうだね。それだとちょっと……」チラッ

桃子「?」

智美「うん、まあだから最初はみんなで行こうって話にしたんだ。モモはどう思う?」

桃子「私っすか?」

智美「ああ、もちろんモモの都合もあるだろうから、嫌ならそう言ってくれて構わないぞ」

智美「仲良くさせる機会なんて他にも作れるからなー」

桃子「嫌なわけないじゃないっすか。私は賛成っすよ?」

一同「……」ポカーン

桃子「ど、どうしたっすか?」

智美「い、いや。ちょっと意外でなー」

睦月「うむ。本当にいいのか?」

佳織「桃子さん、嫌ならそうはっきり言ってくれていいんだよ?」

桃子「はっきりも何も、ゆみ先輩と京太郎が仲良くなるならそっちのほうがいいことじゃないっすか」

桃子「それはまあみんなで遊びに行けないのは寂しいっすけど、それはまた次行けばいいことっすよ」

睦月「そういうことじゃなくて……」

佳織「ええと、なんていうか……」

桃子「?」

智美「つまりだな。単刀直入に言うと、モモは京太郎のこと好きなんじゃないのか?」

桃子「好き……それはいわゆる男女関係的な好きっすよね」

一同「」コクコク

桃子「うーん……」

一同「……」

桃子「うーん……分かんないっす」

睦月「分からない?」

桃子「一人ぼっちだった私を見つけてくれた京太郎のことは好きっすよ。でもそれが恋愛的なものかどうかは分かんないっす」

桃子「元々深く人と関わったことがなかったっすから。友達的な好きなのか、恋愛的な好きなのか。区別がいまいちつかないんすよ」

智美「それなら判断がつくまで保留というか、少なくともデートさせたりとかはしないほうがいいんじゃないかー?」

桃子「それはそうかもしれないっすけど、でも今回はそうしたらきっと後悔するっす」

智美「後悔?」

桃子「京太郎は私を見つけてくれて、ゆみ先輩は私の世界を広げてくれた」

桃子「……私は京太郎と同じくらいゆみ先輩のことも好きなんすよ」

桃子「高校に入るまで誰も私を見てくれなかったっすけど、今では5人も私を見てくれる人がいる」

桃子「それはゆみ先輩と京太郎のおかげっす」

桃子「私にとってはその2人が仲良くなってくれることが何よりも大事っす。少なくとも今は」

桃子「もしかしたら後で後悔するかもしれないっすけど、今させなくても絶対後悔するっす。だから2人で行かせたいっすよ」

佳織「桃子さん……」ウルウル

桃子「ちょ、そんな反応されると恥ずかしいっす!」

智美「うん、そういうことなら日曜日は2人にさせるぞー」

睦月「わかりました」

智美「ゆみちんと京太郎の集合場所はあそこの神社の前にするから、みんなはあそこからちょっと離れたところに集合なー」ワハハ

佳織「覗くつもりなんだ!?」

智美「こんな楽しそうなこと放っておく手はないぞー」ワハハ

睦月「色々と台無しですよ……」

桃子「私にあれだけ言わせてオチを付けるとは思わなかったっす」

智美「そこまで不評だとは……じゃあやめるか?」

睦月「い、いえそれは……」

佳織「み、見守りたいかなーなんて」

桃子「行くっすよ!!」

智美「……みんな好きだなー」ワハハ

…………

………

……



智美「みんな遅いなー」

智美「いや、来ていてもわからないのかもしれないな。私の変装は完璧だからなー」ワハハ

睦月「……もしかして部長ですか?」

智美「おお、よく見つけられ……どちらさま?」

睦月「津山です!」

智美「むっきーなのか!? 全然気づかなかったぞ……」

睦月「髪を二つ結びにしてメガネかけただけじゃないですか」

智美「ということはそっちにいるのはもしかして……」

佳織「私にも気づいてなかったの!? 智美ちゃん酷いよー」

智美「気づく気づかないというか、もはや誰って感じだなー……」

佳織「ストレートにしてコンタクトに変えただけなのに……」

睦月「そんなに印象変わりますか?」

智美「髪もあるけど服装がなー。2人ともそんな服持ってたのかー」

睦月「あ、これは昨日2人で交換しました」

智美「ワハ!?」

佳織「やっぱり普段の印象と変えなきゃダメかなって思って」

智美「ふ、2人ともやる気出しすぎじゃないか……?」

佳織「デートを覗くんだしこのくらいやらないと!」

智美「そ、そんなものか……?」

佳織「それより、智美ちゃんのそれはちょっと……」

智美「え?」

睦月「サングラスに帽子、ですか……」

智美「て、定番だろー?」

桃子「むしろ余計目立つっすよ」

智美「モモいたのか!?」

桃子「最初っからいたっすよ! いやでも正直その変装はないっす」

智美「なっ!?」キョロキョロ

佳織「」サッ

睦月「」サッ

智美「な、なんで目を合わせないんだ」

睦月「いえ、まあその……」

佳織「ええっと、ひと目で智美ちゃんだってわかったかなって」

智美「!?」

桃子「言い出しっぺがそれはどうかと思うっすよ」

智美「そ、そういうモモは何も変装してないじゃないかー!」

桃子「……本気を出した私が見つかると思うっすか?」スゥ

智美「うっ……」

睦月「ま、まあどちらにしろ極力視界に入らないようにするわけですし」

桃子「見つからないように頑張るっす!」

佳織「気をつけてね!」

智美(絶対私はおかしくないんだけど……)

智美「なのにこの敗北感はなんなんだろうな……」ワハハ…


桃子「それにしても京太郎もゆみ先輩も遅いっすね」

睦月「もう5分前なんだけどなあ」

佳織「あの2人が時間前に来ないなんて意外だね」

智美「ああ、集合時間は12時って伝えておいたからなー」ワハハ

桃子「えっ、私は11時って聞いたっすよ?」

智美「ここにいる3人には11時って連絡したんだ」

佳織「なんでそんなことを……」

智美「下手したらあの2人は30分前に集合しそうだからなー」

睦月「それはわかりますが……」

智美「まあまあ。それまでガールズトークでもしてようじゃないか」

桃子「ガールズトークって言うほど潤いのある会話は出来そうにないっすけどね……」

智美「女子がやってればそれがガールズトークだ。細かいことは気にするなー」ワハハ

佳織「智美ちゃん……」


――15分後――

睦月「へえ、部長、免許取ったんですか」

智美「大会が終わったらみんなでドライブに行きたいなー」

桃子「楽しみっす! ――あ、京太郎が来た……って早いっすね!?」

佳織「京太郎くんは集合時間を12時って思ってるはずだよね……?」

睦月「50分前……」

智美「さ、さすがに予想外だな」

桃子「11時集合にしててよかったっすね……」

智美「だ、だろー」


――10分後――

睦月「あ、加治木先輩が……」

桃子「早すぎるっすよ!!!」

智美「あの2人のことをなめてたなー」ワハハ

睦月「加治木先輩、いつもこんなに早く来てたんですね……」

佳織「ま、まあ早めに集まってよかったよ」

智美「それもそうだなー。さて、それじゃかおりん。メールをするんだ」

佳織「うん…………これでよし。ちゃんと送ったよ」

睦月「私とモモは昨日送りましたから、後は部長だけですね」

智美「ああ、ちょっとしたら送るぞー」

---------------------------------------

京太郎「あ、ゆ、ゆみ先輩。おはようございます」

ゆみ「まだ慣れていないんだな」フフッ

ゆみ「おはよう、京太郎くん。……というか早いな」

京太郎「ゆみ先輩だって40分前に来てるじゃないですか。どっちもどっちです」

ゆみ「まあそれはそうか」

京太郎「ん……あれ、佳織先輩からメールが」

ゆみ「私にも来たな」

京太郎「今日は行けません……佳織先輩もかよ!!」

ゆみ「これで私たちと蒲原以外が休みか……なんだか嫌な予感がしてきたな」

京太郎「同感です……」

ゆみ「まあ今から心配してもしょうがない。時間まで待とう」

京太郎「そうですね」

ゆみ「それまでは……そうだな。麻雀関連で何か聞きたいことはあるか?」

京太郎「今日は麻雀を忘れて遊ぶことにしたような……」

ゆみ「なに、集まるまでだよ。そんなに熱を入れるつもりはないさ」

京太郎「そういうことでしたら。そうですね……」

京太郎「質問という感じじゃないですけど、皆さん守備堅いですよね。俺はどうしても振り込んじゃうので」

ゆみ「京太郎くんは押しすぎだ。相手が低そうに見えるからといって、何でもかんでも突っ張るのはやめたほうがいい」

京太郎「うっ……で、でも稼げるときに稼がないと勝てないじゃないですか!」

ゆみ「満貫以上のような高い手なら時と場合によるが、安い手で押すのは愚策だ」

ゆみ「ダマテンは仕方ないが、リーチに突っ張るのはリターンよりリスクのほうが大きい」

ゆみ「まあ余程の根拠があるか、自分の感覚を信じてやるのならそれはそれでいいんだがな

ゆみ「ただなんとなくというのであれば押すべきじゃない」

京太郎「おっしゃるとおりです……」

京太郎「ちなみにその守備はどうやって身につけたんですか?」

ゆみ「ああ、最初はネットを中心にやっていたからな。上がり重視より振り込みを少なくするほうがトータルで見ると成績がいいんだ」

ゆみ「3人ともそれで自然と身についた。たださっき言ったこととは逆になるがそれも良し悪しあってな……」

京太郎「振り込まないのはいいことじゃないですか」

ゆみ「ああ、それはもちろんだ。だが大会だとちょっと勝手が違ってな」

京太郎「というと?」

ゆみ「ネトマなら4位にならなければレートは下がらないから、最下位にならないことを目指すんだ」

ゆみ「そうすれば自然にレートは上がっていくからな」

ゆみ「だけど大会では得点で順位が決まるだろう? 特に団体戦では1位にならなければ次に進めない」

ゆみ「守備的なのは悪いことではないんだが、早めにオリるということでもある。得点を稼ぎづらいから、大会向きではないんだ」

京太郎「なるほど……」

ゆみ「昔からいる私たち3人はその傾向が強い。そういう意味でモモや妹尾には期待しているな」

京太郎「モモはステルスモードに入れば守備を気にしなくていいですからね。佳織先輩も役満バンバン出しますし」

ゆみ「ああ、2人とも頼れる部員だ。……まあモモはともかく、初心者の妹尾に頼るというのも情けない話だがな」

京太郎「情けないなんてことないですよ。同じ鶴賀麻雀部の部員なんですから、頼れることは頼っちゃいましょう!」

ゆみ「…………」

京太郎「あ、あれ。変なこと言いました?」アセアセ

ゆみ「いや、君の言うとおりだと思ってな。情けないなんて思う必要はない、か」

ゆみ「きっとそういう意識が私には足りていないんだろうな」フッ

京太郎「ええと……?」

ゆみ「君に教えられたというだけだよ。あまり気にしなくていい。……ん、蒲原からメールか」

京太郎「今日は行けなくなった……ですか」

ゆみ「まったく、白々しい」ハァ

京太郎「どうします?」

ゆみ「ここまでお膳立てされたんだ。2人で遊ぶことにしよう」

京太郎「俺はいいですけど……」

ゆみ「私も構わない。これで決まりだな」

京太郎「おお……2人乗りをあれだけ渋ってた人とは思えないです」

ゆみ「2人乗りとこれでは全然違うだろう」

ゆみ「……それに、この間の私の態度が原因だろうしな」ボソッ

京太郎「すみません、今なんて?」

ゆみ「何でもない。それより京太郎くん、エスコートよろしく頼むぞ?」」

京太郎「ま、まだこの辺りは全然わからないんですが……」

ゆみ「ああ、アドリブがどれほど利くのか楽しみにしているよ」フフッ

京太郎「えっ!?」

ゆみ「ほら、待ち合わせ場所でいつまで立たせているつもりなんだ?」

京太郎「はっ!? そ、それじゃあお昼も近いですしどこかで食べたりとか……」

ゆみ「そうだな。京太郎くんのオススメの店に案内してくれ」

京太郎「お、オススメですか……」ダラダラ

ゆみ「……すまない、からかいすぎたな」クスッ

京太郎「心臓に悪いんでやめて下さい……」

ゆみ「……? 確かにからかいすぎたとは思うが、いくらなんでも緊張しすぎじゃないか?」

京太郎「そ、それはその……」

京太郎(相手がゆみ先輩だからです!! とは言えねえ……!)

ゆみ「……まあいい、近くにファミレスがあるからそこへ行こうか」

京太郎「はい!」

----------------------------------------

智美「お昼はファミレスかー」

睦月「定番ですね」

佳織「わあ、デートしたことあるんだ」

睦月「……友達で遊びに行くときの定番ですね」

佳織「ご、ごめんね……」

睦月「いや、気にしないで……」

智美「なんで傷を抉りあってるんだ」ワハハ

桃子「ドリンクバー持ってきたっすよー」

智美「おお、ありが……このよくわからない色はなんだー?」

桃子「いやードリンクバーでミックスするの一度やってみたかったんすよ」

智美「今まで麻雀部でやられたことなかったから無警戒だったなー」ワハハ…

智美「さて、佳織とむっきーにはどんなジュースが……」

桃子「かおりん先輩には頼まれてたオレンジジュースっす」

佳織「ありがとー」

智美「えっ」

桃子「むっちゃん先輩はアイスティーっすよね」

睦月「うむ、ありがとう」

智美「ワハ!?」

桃子「私は烏龍茶で……」

智美「ちょ、ちょっと待った!」

桃子「どうかしたっすか?」

智美「な、なんで2人は普通のなんだ!?」

桃子「それを頼まれたからっすよ?」

智美「確かに何でもいいって言ったな……」

桃子「小学生の頃から一度友達にやってみたいって思ってたから感謝してるっす!」キラキラ

智美「そ、そうかー」ワハハ

智美(純粋な目で見られている……!)

智美(こ、これは飲まないとダメな雰囲気か……?)チラッ

睦月・佳織「」コクッ

智美「ううぅ……」

桃子「」ワクワク

智美「えいっ」ゴクゴク

睦月・佳織「……」

智美「……うまいっ!!」

睦月・佳織「えっ」

智美「これうまいぞー! よければこれからも作ってくれー」ワハハ

桃子「適当に混ぜたからまた作るのは無理っす……」

佳織「智美ちゃん、その色で本当においしいの?」

智美「ああ、佳織も一口飲んでみるかー?」

佳織「じゃ、じゃあ」ゴクゴク

佳織「……おいしい!!」

睦月「じゃあ私も」ゴクゴク

睦月「……ほんとだ、おいしい!!」

桃子「むぅ、おいしいなんてつまらないっす……」

智美「まあまあ。モモも飲んでみろー」

桃子「んー」ゴクゴク

智美「どうだー?」

桃子「……マズイじゃないっすか!!」

智美「うまいわけないだろー!!」

桃子「かおりん先輩もむっちゃん先輩もノリよすぎないっすか!?」

佳織「騙されたと思うと悔しくて……」

睦月「こうなったらモモにも飲ませようと思って」

桃子「くっ!! 思えばあれがおいしくなるわけないっすよね!!」

智美「だからなにを混ぜたんだ!?」

桃子「騙されたのに教えると思うっすか!?」


---------------------------------------


<サキニヤッタノハソッチダロー!
<ソレハソレッス!


ゆみ「向こうが騒がしいな」モグモグ

京太郎「そうですねえ」ジー

ゆみ「ここのパスタはなかなかおいしいぞ」モグモグ

京太郎「そうですねえ」ジー

ゆみ「……君はバカか?」

京太郎「そうですねえ」ジー

ゆみ「……おい!」

京太郎「は、はい!?」ビクッ

ゆみ「まったく、先に食べ終わったからといって上の空なのは感心しないな」

京太郎「す、すみません」アセアセ

京太郎(見惚れてたとは言えないな……)

ゆみ「京太郎くんとお昼を一緒に食べるのはこれが初めてだったな」モグモグ

京太郎「学年も違いますし、部で食べることもないですしね」

ゆみ「去年は何度かやったんだが……今度部室かどこかで食べようか」モグモグ

京太郎「いいですね。楽しみです」

ゆみ「ああ……ふぅ、おいしかった」

京太郎「ドリンクバー何か取ってきましょうか?」

ゆみ「いや、大丈夫だ。それよりこれからどこに連れて行ってくれるのか聞かせて貰わないとな」

京太郎「えっ!? い、いやさっきのは冗談だったんじゃ……?」

ゆみ「他人が話しかけているのに気づかなかったんだ。もちろん何か考えてくれていたんだろう?」

京太郎(意外と気にしてた!?)

ゆみ「ほら、あんまり待たせるとこのまま帰ってしまうぞ?」

京太郎「え、ええとですね……」

京太郎(な、何かないか!)キョロキョロ

京太郎(ん? これは……)

京太郎「ゆみ先輩! ここ行きましょう!」

ゆみ「どれどれ……水族館か」

京太郎「はい。多分そんなに行くことないでしょうし、久しぶりに行けば楽しいと思うんですよ」

ゆみ「確かにここ数年行っていないな」

京太郎「なら行ってみません? ちょうどここに優待券も置いてありますし」

ゆみ「……一応聞いておくが、それが目についたからという理由ではないよな?」

京太郎「あ、あはは……」

ゆみ「……まあいいか。そこへ行くとしよう」

京太郎「い、いいんですか?」

ゆみ「久しぶりなのは本当だしな。聞いてて行きたくなったよ」

京太郎「それならよかったです。もう出ます?」

ゆみ「そうだな。早く行こうか」


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智美「2人を追って着いたのがここかー」

睦月「水族館ですか。デートコースの定番ですね」

桃子「まあ優待券ありきだとは思うっすけどねー」ピラピラ

佳織「イルカショーだって! 可愛いんだろうなー」

智美「2人がどこに行くかよく調べてくれたなー、モモ」

桃子「麻雀部に入って私の影の薄さは磨かれたっすからね! それなりに自由自在に出来るっすよ」

智美「おお、凄いなー」

睦月「さすがモモ」

佳織「桃子さん凄いよ!」

桃子「素直に褒められると照れるっすね」テレテレ

睦月「ふむ……体質を悪用するのはよくないと思うぞ」

智美「……あんまり他人の恋路に踏み入るのはどうかと思うぞ?」

桃子「先輩たちもノリノリだったじゃないっすか!」

睦月「いや、こういう反応を望んでいるのかと」

桃子「照れ隠しっすよ! わかって欲しいっす!」

佳織「わかってやってるんだよきっと」

桃子「きっとというのが不安っすね……」


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京太郎「この水族館長野で一番大きいらしいですよ」

ゆみ「ほう、そうなのか」

京太郎「人も結構多いですね」

ゆみ「長野には海がないから……というのはあんまり関係ないか」

京太郎「それじゃあ早速入りましょうか」

ゆみ「ああ」

…………

………

……



京太郎「最初は熱帯ゾーンですね」

ゆみ「色とりどりの魚が可愛らしいな」

京太郎「アロワナは大きいですねー」

ゆみ「世界最大級の淡水魚だったか。見た目のインパクトも凄いな」

京太郎「あの口は特徴的ですよね。……おお、水から飛び出して虫を食べてる」

ゆみ「見た目によらず動きが早いな」

京太郎「あっ、クマノミがいますよ!」

ゆみ「ファインディング・ニモだな。親子の愛情が感じられて好きだったよ」

京太郎「今度続編もやるらしいですよ」

ゆみ「そうなのか」

京太郎「その……公開されたら一緒に見に行きませんか?」

ゆみ「えっ……ああ、いいぞ。楽しみだな」

京太郎「ほんとですか! やった!!」

ゆみ「よ、喜びすぎだ」カアァァ

京太郎「次は餌やりが体験できるコーナーですね」

ゆみ「凄い数の鯉だな」

京太郎「幸福池っていうらしいですよ」

ゆみ「ふむ、特定の色の鯉に餌をあげると願いごとが叶う……か」

京太郎「……特定の色ってなんなんですかね?」

ゆみ「……それも含めて運試しというところなのか?」

京太郎「とりあえず餌あげてみましょうか」

ゆみ「そうだな。珍しそうな色の鯉にあげてれば当たるだろう」

京太郎「えい!」ポーイ

ゆみ「それっ!」ポーイ

京太郎「……当たったかなあ」

ゆみ「それは神のみぞ知るだな」

京太郎「ゆみ先輩の願いごとはなんです? やっぱり麻雀で全国行けますようにとかですか?」

ゆみ「いや、違う。……それに、他人に聞くときはまず自分から言うものだぞ?」

京太郎「俺ですか? 俺は先輩たちが全国に行けますようにってお願いしました。一緒だと思ったんですけどね」ハハハ

ゆみ「ふふ、それならある意味一緒のようなものだよ」

京太郎「え?」

ゆみ「私は京太郎くんが全国に行けますようにとお願いしたからな。お互いがお互いに同じことを祈ったんだから一緒だよ」

京太郎「ぜ、全国ってハードル高いですね……」

ゆみ「言っておくが私たちも大会に出るのは初めてだぞ? 無理を言っているのは君も同じだ」

京太郎「それはそうですが……」

ゆみ「なに、所詮はおまじないだ。あんまり気負わず喜んでくれると嬉しい」

京太郎「……そうですね。俺も頑張ります!」

ゆみ「うん、その意気だ」

京太郎「お待ちかねのイルカショーですよ!」

ゆみ「確かに楽しみにしていたが、お待ちかねというほどではないぞ」ソワソワ

京太郎(そんなにソワソワして言われてもなあ)

ゆみ「どうする? 前のほうに行くか?」グイグイ

京太郎「どうするというか引っ張ってるじゃないですか!?」

ゆみ「な、なんのことだ?」

京太郎「先輩……まあともかく、前のほうはやめときましょう」

ゆみ「何故だ!? ドルフィくんが近くで見られるんだぞ!?」

京太郎「そのうちわかりますよ。だから座るのは真ん中辺りにしておきましょう」

ゆみ「君がそこまでいうなら……」

ゆみ「おお!」

京太郎「すげー、尾ビレで水の上歩いてる」

ゆみ「人を乗せて運んでる!?」

京太郎「プールの端から端まで鼻の上に人を乗せて……初めて見た」

ゆみ「おー!」

京太郎「定番ですけどジャンプで輪を連続してくぐるのは見てて楽しいですね」

ゆみ「……なあ京太郎くん。やっぱり前で見ててもよかったんじゃないか?」

京太郎「さっきが小さいジャンプだったから……そろそろですよ」

ゆみ「?」

調教師「さあ次はドルフィくんの得意技、大ジャンプです! 見事このハードルを越えることが出来るでしょうか!」

ゆみ「」ドキドキ

調教師「ドルフィくん行くよー!」ピッ

ドルフィ「」ジャンプ

バッシャーーン!!

調教師「見事ハードルを越えましたドルフィくんに、盛大な拍手をお願いします!」パチパチパチ

<ウワッビショビショニヌレタッス!!
<ダカラヤメトコウッテイッタロー!?

京太郎「ほら、前のほうだとあんな風にジャンプしたときの飛沫がかかることがあるんですよ」

ゆみ「思ったより大量にかかるんだな……」

京太郎「いや、あれはさすがに運が悪かったんだと思います」

ゆみ「なんにせよ君のおかげで濡れずに済んだよ。ありがとう」

京太郎「どういたしまして……それより前で濡れてた人蒲原先輩に似てませんでした?」

ゆみ「ああ、確かに似ていたな。だが周りに3年の友人も、妹尾や津山の姿もなかったから別人だろう」

京太郎「なんとなくあの辺りの雰囲気が麻雀部っぽかったんですが……まあでも先輩たちがいなかったんですから違いますよね」

ゆみ「そうだな。それに隠れてついて来ているなら私たちの前に座ったりしないさ」

京太郎「それもそうですね」

京太郎「最後は海水魚コーナーですか」

ゆみ「最後だけだいぶ括りが広いな」

京太郎「きっと色々あるんですよ。あ、2万匹のイワシ玉とかあるみたいですよ」

ゆみ「2万匹とは凄いな」

京太郎「えーと、でも……」キョロキョロ

ゆみ「……見当たらないな」

京太郎「ですねえ。あ、これ……」

ゆみ「……用意していたイワシはサメやアジに食べられてしまいました」

京太郎「……魚の世界も厳しいんですね」

ゆみ「狭い水槽だから玉になったくらいでは誤魔化せなかったんだろうな」

京太郎「……スイミー」ボソッ

ゆみ「あれは海だし、大型の魚に化けていただろう!」

京太郎「……」

ゆみ「……」

京太郎「次、行きましょうか」

ゆみ「ああ……」

京太郎「あ、先輩! カジキマグロですよ!」

ゆみ「ほう」

京太郎「え、ええと……加治木先輩とカジキマグロで……」

ゆみ「ああ」

京太郎「その……」

ゆみ「どうした? 続けろ」

京太郎「すみませんでしたぁ!!」

ゆみ「わかればいい」

京太郎「でも水族館でカジキマグロって珍しくないですか?」

ゆみ「カジキマグロは外洋で泳いでいる魚だからな。水槽の中では壁やガラスにぶつかってすぐ傷つくから、飼育に向かないんだ」

京太郎「詳しいですね」

ゆみ「昔何度もからかわれたからな。意地になって調べてやった」

京太郎「……すみませんでした!」

ゆみ「謝るな!」


京太郎「おお、マンボウ!」

ゆみ「初めて見たが思っていた以上に大きいな」

京太郎「知ってます? マンボウってプランクトンの一種なんですよ」

ゆみ「ああ、知っている」

京太郎「えっ」

ゆみ「プランクトンは浮遊生物という意味です。マンボウも泳ぐ力が弱くて海流に逆らえないため、プランクトンの一種に含まれます」

ゆみ「そこに書いてあるのを読んだんだろう? 私もさっき読んだよ」

京太郎「あ、あはは。よく見てますね」

ゆみ「こういうものが目につく質だからな。それにここに書いていないマンボウの特徴も知っているぞ?」

京太郎「へー。どういうのがあるんですか?」

ゆみ「さっき言ったようにマンボウは泳ぐのが下手で岩にぶつかってよく死んでしまうんだ」

ゆみ「水族館ではそれを防ぐためにネットやフィルムで保護しているが、それに引っかかって死んでしまうこともあるらしい」

京太郎「へー」

ゆみ「更にマンボウは寄生虫を取るために水中からジャンプして水面に自分の体を叩きつけるんだが、それで死ぬこともある」

京太郎「え?」

ゆみ「それと魚は泳ぐことで呼吸をしているんだが、マンボウは泳ぐのが下手だからすぐ酸欠になってしまう」

ゆみ「場合によってはそのまま死ぬ」

京太郎「えっ?」

ゆみ「他にも……」

京太郎「他にも!? ちょ、ちょっと待って下さい! 何ですかそのひ弱な生き物! そんなのすぐ絶滅するでしょう!?」

ゆみ「マンボウは絶滅しないために、体を強くするのではなく子孫をたくさん残すことを選んだんだ」

ゆみ「一度に数億個の卵を産むことは知っているだろう」

京太郎「いや知ってますけど!」

ゆみ「まあそういう生物もいるという話だ」

京太郎「こんな呑気そうな顔してますけど、厳しい競争を勝ち抜いてきたエリートなんですね……」

ゆみ「ああ、私たちもこのマンボウのように大会を勝ち抜かないとな」

京太郎「う、うーん……」

京太郎「……そういえばゆみ先輩、マンボウにも詳しいんですね」

ゆみ「ああ、カジキマグロのことを調べるときに目についたからついでにな」

京太郎「すみませんでした!」

ゆみ「だから謝るな!」

京太郎「おみやげコーナーですね」

ゆみ「地元だとあまり買うこともないな」

京太郎「麻雀部には……」

ゆみ「来なかったのはあっちだ。いらん」

京太郎(意外と怒ってたのか……)

ゆみ「京太郎くんは何か買いたいものがあるのか?」

京太郎「んー……はい。ちょっと買いたいものが」

ゆみ「そうか。なら私はここで待っているよ」

京太郎「はい、すぐ戻ります」


京太郎(ゆみ先輩に何か買いたかったけど、思ったより時間かかっちゃったからなあ)

京太郎(ここであげられそうなのを見つけないと……)キョロキョロ

京太郎(あ、イルカのストラップ)

京太郎(これくらいなら気軽に受け取ってもらえそうだな。あんまり待たせても悪いし……)

京太郎「すいません、これください」

店員「はい、ありがとうございましたー!」

京太郎「すみません、お待たせし……ってあれ、いない?」

京太郎「も、もしかして先に帰ったのか!? やばい、何かしたか俺!?」

ゆみ「待て、いくらなんでも連れを置いて帰ったりはしない」

京太郎「あ、ゆみ先輩!」

ゆみ「すぐ戻るとは言っていたが本当に早いな」

京太郎「お待たせしたら悪いですから。それよりゆみ先輩はどこ行ってたんですか?」

ゆみ「あーその……あまり聞くな」

京太郎「……? はい」

ゆみ「それじゃあそろそろ帰ろうか」

京太郎「はい。結構長居しちゃいましたね」

ゆみ「そうだな。だが楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」

京太郎「こちらこそ。凄く楽しかったです。それとその……」

ゆみ「ん?」

京太郎「よ、よければ今日も家まで送ります」

ゆみ「なんだ。そんなことならかしこまらなくてもいい」フフッ

ゆみ「最後までエスコートを頼んだぞ。京太郎くん」


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――帰り道――

佳織「そういえば智美ちゃん、今回のデートで2人にはどのくらい仲良くなってもらうのが目標だったの?」

智美「ん? そうだなー。名前で呼ぶくらいになってくれたら満足かなー」

睦月「あの2人だと難しそうですねえ」

桃子「え? それなら喫茶店のときにもう『ゆみ先輩』『京太郎くん』って呼びあってたっすよ?」

智美「えっ」

睦月「えっ」

佳織「それじゃあこの間帰るときにそう呼ぶようになってたのかな?」

桃子「そうみたいっすねー」

智美「……無駄な気遣いだったかなー」ワハハ……

睦月「そ、そんなことないですよ! きっともっと凄く仲良くなってると思います!」

智美「……付き合うまでいったら悔しいなー」

睦月「うっ」

桃子「そのときは全力でからかってその悔しさを晴らせばいいっす!」

佳織「凄く自分たちが惨めになりそうな……」

桃子「振り返っちゃダメっすよ! 勢いが全てっす!」

智美「……そうだなー。そのときは全力でからかおう! 部長として許す!」

佳織「部長とかって問題なのかな……?」

睦月「まあまだ付き合ってるわけでもないしね」

桃子「こういうことは先に決めておくほうがいいんすよ」

智美「嫉妬する心の準備もできるしなー」ワハハ


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――加治木宅前――

ゆみ「着いたか……いつもありがとう」

京太郎「どういたしまして」

ゆみ「久しぶりに麻雀のことを忘れたよ。いい息抜きになった」

京太郎「大会まで後2週間ですね」

ゆみ「ああ、これからはまた厳しくやらせてもらうぞ」

京太郎「お、お手柔らかにお願いします」

ゆみ「それは君次第だな」フフッ

京太郎「あはは……」

京太郎「えっと、ゆみ先輩。ゆみ先輩に渡したいものが」

ゆみ「何だ?」

京太郎「水族館で買ったんですけど……イルカのストラップです」

ゆみ「わぁ……! 可愛いな。嬉しいよ。ありがとう」

京太郎(よかった、喜んでもらえた……!)ホッ

ゆみ「それでだな。その、私からも渡したいものがあるんだ」

京太郎「え?」

ゆみ「マンボウのストラップだ。キャラもののような可愛い系ではないから、男子が付けていてもおかしくはないと思うのだが……」

京太郎「お、俺にですか!? うわ、すっげえ嬉しいです!」

ゆみ「喜んでくれたか。よかった……」

京太郎「喜ぶに決まってるじゃないですか!」

ゆみ「マンボウが成長するように、君に大会を勝ち抜いて欲しいという思いも込めてみたんだ。よければ付けてくれ」

京太郎「そんな期待まで……! もちろん付けますよ! ありがとうございます!」

ゆみ「ありがとう。私もイルカのストラップ、付けさせてもらうよ」

京太郎「本当ですか! 水族館選んでよかった……!」

ゆみ「――――……正直なところ、私はどこでもよかったんだがな」ボソッ

京太郎「ちょっ、これでも必死に考えたんですよ!?」

ゆみ「君は耳がいいな」ハハ

ゆみ「別に悪い意味で言ったんじゃない。とても楽しかったのは本当だよ。久々で新鮮で、水族館でよかったと思ってる」

京太郎「まあ、ならよかったですけど。後何かその前に言おうと――」

ゆみ「それよりほら、あまり遅いとご両親が心配するぞ」

京太郎「いえ女子じゃないんですから……というか、まだそんな遅い時間でもないですよ」

ゆみ「なんだ、家に上がって行きたいのか?」

京太郎「どうしてそうなるんですか!?」

ゆみ「まだそんなに遅い時間ではないんだから家に上げろと言いたいんだろう? 一応言っておくが両親はいるからな」

京太郎「上がりづら……というか上がりませんよ! 帰ります!」

ゆみ「ああ、また部活でな」

京太郎「はい、さようなら。また学校で!」


ゆみ「……行ったか」

ゆみ(……危なかった。追求されていたら口を滑らせたかも……ああ、考えるだけで恥ずかしい!)

ゆみ(何より、君が私のために考えてくれたということが嬉しいんだ。だから正直なところ、私はどこでもよかったんだがな、なんて)

ゆみ(何を考えているんだ私は!! 考えさせたのは私だろう! それに口に出すなんて!)カアァァ

ゆみ「前半のほうを聞かれていなかったのは幸いか……」

ゆみ「……京太郎くんは、私のことをどう思っているんだろうな」

ゆみ「……いや、違うな。京太郎くんより、私がどう思っているのか……」


…………

………

……




京太郎「こんにちはー。ゆみ先輩1人ですか?」ガラガラガラ

ゆみ「ああ、みんなまだ来ていないようだ。……ぜひとも聞きたいことがあるんだがな」

京太郎「あはは……あ、ゆみ先輩。この間言われてた牌譜の分析です」

ゆみ「ああ、ありがとう……うん、よく出来てるよ」

京太郎「ありがとうございます!」

ゆみ「だが京太郎くんは自分の打牌には甘いところがあるな。ほら、ここ」

京太郎「えっ?」

ゆみ「生牌ならともかく、1枚切れの嵌張に受けるくらいなら役牌の対子を残したほうがいい。順目も早いしな」

京太郎「あーなるほど」

ゆみ「別にミスがあることで責めたりはしないさ。ただ直さないのはよくないな」

京太郎「うう、見落としてました……」

ゆみ「自分の打牌は、なまじ意図が完璧にわかっている分ミスに気付きづらい。特に注意してみるといい」

京太郎「はい!」

ゆみ「うん、頑張れよ」

ゆみ「さて、次は他校の生徒の分だ。ここの牌譜が分かりませんと書いているな」

京太郎「そこはほんとにわかりませんでした」

ゆみ「そうか。この捨て牌の意図はな…………」

桃子「入るっすよー」ガラガラガラ

智美「おー2人とももういるのかー」

睦月「早いですね」

ゆみ「ああ、4人で来たのか」

智美「途中で一緒になってなー」

ゆみ「そうか。私は京太郎くんと話しているから、先に始めていていいぞ」

京太郎「ゆみ先輩、もう大会も近いんですから俺の指導なんて後回しでいいですよ」

ゆみ「大会が近いのは君も同じだろう。それに牌譜はどうせ見るんだ。君に教えながら見たほうが効率がいいさ」

桃子「うーん、仲良くなったっすねー」

智美「気を回した甲斐があったなー」

ゆみ「元々悪くなんてない。いらない気遣いを」ハァ

智美「ちょっとゆみちんには金曜日の言動を思い出して欲しいなー」

ゆみ「き、記憶にないな」

智美「ゆみちん……」ハァ

智美「まったく、そんなに嫌だったのか?」ワハハ

ゆみ「そんなわけな……! そ、それとこれとは話が別だ!」

智美「素直なほうが人生得だぞー」ワハハ

桃子「ある意味すっごく素直っすけどね」

佳織「というか、用事があって休んだわけじゃないって気づいてたんですね」

睦月「ちょっと露骨すぎましたか」

京太郎「4人も休んで偶然だなんて思うわけないじゃないですか」ハァ

桃子「部員のことはちゃんと信じなきゃダメっすよー?」

京太郎「結局嘘だったじゃねえか!」

桃子「それは結果論っす! 信じるかどうかが大切なんすよ!」

京太郎「酷い屁理屈だな!」

京太郎「……あれ? ゆみ先輩。そういえば俺が先輩のこと下の名前で呼ぶようになったのって、金曜日でしたよね?」

ゆみ「ん? ああ、私が京太郎くんと呼ぶのもそれからだな。しかしそれがどうかし……そうか」

睦月「?」

桃子「?」

智美「うん? それがどうかしたのか?」

京太郎「いや、普通少しくらい反応があるんじゃないですか?」

佳織「なんのこと?」

ゆみ「私が須賀くんではなく京太郎くんと呼んでいて、京太郎くんが私のことを加治木先輩ではなくゆみ先輩と呼んでいることだ」

4人「「「「あっ」」」」

京太郎「まるで知っていたかのように自然に受け入れてましたよね」

智美「そ、それはほら。あんまりからかっていいことでもないかと思って」

ゆみ「わざわざ2人きりで遊びに行かせるほど私たちの仲を気にしていたんだ。別にからかいとしてでなくとも聞くほうが自然だろう」

桃子「あ、あれっすよ! 今日学校で2人が喋ってるのを聞いて」

京太郎「残念ながら今日ゆみ先輩とは放課後しか喋ってない」

睦月「2人の呼び方が自然だったので違和感なく……」

ゆみ「さすがに苦しいな」

佳織「ええと、それじゃあ……」

京太郎「今それじゃあって言いましたよね!?」

佳織「ふぇっ!? い、いや、違うの!」

ゆみ「そもそも最初の"あっ"という反応でわかっている」ハァ

京太郎「そういえばイルカショーのとき蒲原先輩らしき人がいましたね」

ゆみ「ああ、結局は君の言ったことが正しかったというわけか」

桃子「ほら、やっぱりあの変装じゃバレバレだったんすよ!」ヒソヒソ

智美「前の方に行きたいって言い出したのはモモだろー!?」ヒソヒソ

ゆみ「内輪もめはいい。それよりいつから見ていたんだ?」

智美「い、いやたまたま水族館に遊びに行ったら偶然ゆみちん達が……」

佳織「智美ちゃん、もうやめよう」ポンッ

睦月「待ち合わせのときからです」

京太郎「最初からですか!? 俺たち結構早く移動しましたよ!?」

ゆみ「遊ぶ場所は集まってから決めたし、待ち合わせ時間よりだいぶ早く動いたから安心していたんだが……」

桃子「先輩たちより1時間早く集まってたんすよ。部長に言われて」

智美「さりげなく私に責任を負わせるなー! 後をつけるのやめるかどうかちゃんと聞いたろー!?」

桃子「私たちは先輩が言わなかったら後をつけようなんて言わなかったすよ!」

智美「む……そもそもモモが言わなければ名前を呼んでるのにちゃんと驚けたんだぞー!」

桃子「話題に出したのはそっちじゃないっすか!」

ギャーギャー

ゆみ「……おい、2人とも」ギロッ

智美・桃子「」ビクッ

ゆみ「騒いでうやむやにしようという努力は買おう」

智美・桃子(バ、バレてたかー/っすか……)

ゆみ「だがまあ……誤魔化されると思うなよ?」ニコッ

智美・桃子「ヒッ」

ゆみ「津山、妹尾。お前たちもだからな」

津山・佳織(黙ってやりすごせなかった……)

京太郎「せ、先輩? 穏便にしてくださいね?」

ゆみ「ああ、うん……まあ、京太郎くんは気にするな」ニコッ

京太郎(こ、こえー……)ブルブル

ゆみ「さて、蒲原。次はこの局だ。まずどこが悪いと思うか言ってみろ」

蒲原「こ、ここかなー?」

ゆみ「ふむ、そこだけか?」

蒲原「こ、ここもかな?」

ゆみ「違う」

蒲原「ひっ」

ゆみ「そこのドラ切りは一見危なく見えるが、下家の手牌にドラがあることが濃厚だから通りやすい。少なくとも他の牌よりは安全だ」

蒲原「な、なるほどー」

ゆみ「大会も近いし、やはりもう少し厳しくしないとダメか……」ブツブツ

蒲原(ひ、ひええ)ガクガクブルブル


京太郎「よっしゃあああ!!!」

桃子「くぅ、悔しいっす」

睦月「京太郎くん、おめでとう」

佳織「凄いよ、おめでとう!」

京太郎「ありがとうございます!」

ゆみ「ん? どうしたんだ?」

京太郎「ゆみ先輩、俺ようやく1位になれました!!!」

ゆみ「本当か!? 凄いじゃないか!」

京太郎「なんとかモモから逃げ切れました。先輩のおかげです!」

ゆみ「君の実力だよ。モモに勝てたんだな」

桃子「後一歩だったっすよー。今回は手牌もそこまで悪くなかったし、大会までにもう一度負けるとは思わなかったっす」

京太郎「ふっふっふ。1位も取ったし、これで残った目標は先輩に勝つだけです」

ゆみ「そうか、私もそう簡単には負けないぞ?」

京太郎「望むところです。さあ打ちましょう!」

ゆみ「ああ、勝負だ」

智美「た、助かった……」

桃子「先輩は京太郎との勝負に集中してくれそうっすね。負けて悔しいっすけど、ある意味助かったっす」

睦月「京太郎くんも強くなったね」

佳織「そうだね。始めたの同じくらいなのにもう全然敵わないや」

智美「まだまだ2週間ちょっとだろー。佳織には役満があるんだし、これからこれから」

佳織「その役満が出るってのは偶然だと思うんだけど……」

睦月「いや、妹尾さんが役満で上がった数、私が今までに上がった役満の数より多いよ?」

佳織「えっ?」

桃子「もうちょっと自分の凄さを自覚して欲しいっすね」

智美「貴重な才能だぞー」ワハハ

佳織「そ、そんなこと言われても……」

京太郎「先輩ー。速く席着いてくださいよー」

智美「ああ、悪い悪い」

佳織「いま行くよー」パタパタ

桃子「んー京太郎も強くなったっすけど、佳織先輩ももっと自信持って欲しいっす」

睦月「うん、爆発力は凄いし、1位になったことだって何度も……」


佳織「あ、ロン。清一色……かな?」

ゆみ「……妹尾、それは九蓮宝燈と言ってな。役満の一つだ」

佳織「えっ」

智美「京太郎のトビで終了だなー」ワハハ

京太郎「」

佳織「ご、ごめんね? 京太郎くん」

京太郎「い、いえ。さすが佳織先輩……」ハハハ…


睦月「……」

桃子「……」

睦月「なんで自信持たないんだろう」

桃子「ほんとっすね」

京太郎「……立直です」

佳織「」ドキドキ

睦月「」ドキドキ

桃子「ううん」タン

ゆみ「……」タン

智美「んー」タン

京太郎「……ツ、ツモ! 2600・1300です!」

智美「おおー!」

ゆみ「1位だな。おめでとう」

桃子「むー、また負けたっすか」

睦月「おめでとう京太郎くん」

佳織「今日初めて1位になったのに、同じ日に2度もなるなんて凄いよ!」

京太郎「……」

ゆみ「京太郎くん?」

京太郎「…………よっしゃああああ!!!」

ゆみ「」ビクッ

京太郎「やっとゆみ先輩に勝てた! しかも1位! 2回目! うわ、すっげえ嬉しい!!」

京太郎「今日の俺凄いなー! ゆみ先輩、やりましたよ! ……ゆみ先輩?」

ゆみ「……京太郎くん、まずはおめでとう」

京太郎「ありがとうございます!」

ゆみ「だが、いきなり大声を出すのはやめろ」

京太郎「あ、すみません」

ゆみ「それと……目の前でここまで喜ばれるとな。さすがにリベンジしないわけにはいかないな」ゴッ

京太郎「えっ」

ゆみ「蒲原、モモ。順番だと私と京太郎くんだが、私たちの代わりに津山と妹尾と交代して貰っていいか?」

智美・桃子「」コクコク

京太郎「えっ?」

ゆみ「さあ、京太郎くん。続けよう」

京太郎「……えっ?」

…………

………

……



――帰り道――

京太郎「先輩……酷いですよ……」

ゆみ「す、すまない」アセアセ

京太郎「1位になってゆみ先輩に褒めてもらいたかったのに……」ボソッ

ゆみ「? 今なんて……」

京太郎「何でもないです!」

京太郎(ゆみ先輩、前言ったこと忘れてるのかなあ)ハァ

京太郎「それより、あの後3位とか4位ばっかりで心折れかけましたよ!?」

ゆみ「べ、別に負けたときから本気だったから実力が変わるわけでは……」

京太郎「ゆみ先輩は手牌読んだり出来るじゃないですか。俺の手牌集中して見てませんでした?」

ゆみ「うっ」ギクッ

京太郎「やっぱり!」

ゆみ「悔しかったんだ、わかれ!」

京太郎「逆ギレ!?」

ゆみ「……まあその、別に京太郎くんだけ見ていたわけじゃない。ただ調子がよさそうだから警戒を強くしたというか――」

京太郎「! ゆみ先輩!」

ゆみ「な、なんだ?」

京太郎「それって、俺のことを強い相手だって認めてくれたってことですか!?」

ゆみ「うん? まあそうだな」

京太郎「本当ですか!? やった!!」

ゆみ「何をそんなに喜……ああ、君は勘違いしていたのか」

京太郎「勘違い?」

ゆみ「京太郎くんが強いだなんて前から知っているよ」

ゆみ「警戒したのだって別に今回が初めてじゃない。というかそうでなければもっと早く1位になれていたさ」

京太郎「えっ」

ゆみ「前にも言ったが……そうだな。1位になったのだし改めて」

ゆみ「君の努力は私が誰より知っている。君は強くなった」

ゆみ「今回1位になったのも偶然じゃない。これから何度だってなれるさ。私が保証するよ」

ゆみ「京太郎くん、よく頑張った」ポン

京太郎「……!!」

京太郎「ゆみ先輩、覚えててくれたんですね……!」ウルウル

ゆみ「あ、当たり前だ。何も泣くことはないだろう」カアァァ

京太郎「いや、もうほんと嬉しいです。俺、これからも頑張ります!!」

ゆみ「……しかし正直に言って、京太郎くんが入ったときは2週間でここまで上手くなるとは思わなかった」

京太郎「そこまで言われるほど上手くなりました?」

ゆみ「もちろんだ。特にモモにはステルスもある」

ゆみ「私とモモがいる卓で1位を取るのは、早くても大会が終わってからだろうと思っていたよ」

京太郎「今日勝てたのは嬉しいですけど、ゆみ先輩とモモはもちろん、睦月先輩にも部長にもあんまり勝ててるわけじゃないですよ?」

ゆみ「そこまで上手くなられたら私たちの立つ瀬がないな」ハハハ

ゆみ「京太郎くん、大会でどこまで行ってみたいと考えてみたことはあるか?」

京太郎「どこまでというとやっぱり決勝リーグまで行ってみたいです。ただそもそもどんな感じなのかが……」

ゆみ「ふむ、そういえばそういう話をしたことがなかったな。それじゃあ分かる範囲で説明しよう」

ゆみ「……説明するといったが、正直言って男子の方は私もよくわからん」

ゆみ「だがまあ、君は麻雀を初めたばかりの初心者だ」

ゆみ「男子のほうがレベルが高いと聞くし、決勝リーグまで進むのはかなり難しいだろう」

京太郎「ですよねー」ガックリ

ゆみ「だが、ここ長野に限っては可能性がある」

京太郎「え? なんでですか?」

ゆみ「長野の男子には恐ろしく強い3人の選手がいるんだ。全国大会の1位から3位までその3人が独占していた」

ゆみ「点数も圧倒的でな。その3人とその他大勢というか、とにかく別次元の強さだった」

京太郎「そんな強かったんですか?」

ゆみ「その3人の誰かがいる卓では、1万点残ったら運がいいと思えと言われている」

京太郎「なんですかそれ!?」

ゆみ「信じがたいが本当だ。去年1人は卒業したんだが、まだ2人いる。予選では全選手と当たるからな。その2人とも当たることになる」

京太郎「ふんふむ」

ゆみ「その2人と当たったときにどれだけ点を取られないか。決勝リーグに出られるかどうかはそれにかかっている」

ゆみ「まあつまり、経験の少ない君でもその2人から上手くオリられれば、決勝リーグまで進める可能性があるということだ」

京太郎「そんな、予選が何試合あると思ってるんですか。そのうち2試合くらいで……」ハハハ

ゆみ「……」

京太郎「……マジなんですか?」

ゆみ「ああ、一切誇張はない」

京太郎「……ちなみにもしゆみ先輩が戦うとしたらどうします?」

ゆみ「配牌で一向聴でなければベタオリだ。それでも5巡目までに聴牌しなければオリる」

京太郎「はい?」

ゆみ「まあ実際にはベタオリすら狙われるからな」

ゆみ「自分の意志ではなく、ランダムな法則でいつオリるか決めたほうがいいんだろうが、基本的はそうなる」

京太郎「ちょ、ちょっと待って下さい。なんですかそれは」

ゆみ「なんですかもなにも私ならそうするという話だ。実際に打ったことはもちろんないが、それほど圧倒的な相手だ」

京太郎「お、恐ろしいですね……」

ゆみ「ああ、だからこそ決勝リーグも狙えると思う」

京太郎「正直その話聞いて自信なくしたんですが……」

ゆみ「何もその2人に勝てというわけじゃない。このペースで成長すればいい線まで行くと思うぞ?」

京太郎「……そうですね。どうせ初心者ですし、当たって砕けろですよね! 決勝リーグ目指します!」

ゆみ「うん、その意気だ。一緒に頑張ろう」

京太郎「一緒に……! はい、もちろんです!」



――食堂――

睦月「部のみんなでお昼を食べるのは久し振りですね」

ゆみ「ああ、妹尾と京太郎くんとモモが入ってきてからは初めてだな」

桃子「こういうの憧れだったんすよー!」

智美「たまには部活以外でも集まろうと思ってなー。大会も近いことだし。それと……」

佳織「それと?」

智美「京太郎が調子悪いだろー? それをゆみちんから相談されたんだけど、これで何か気分転換になればと思ってなー」ワハハ

桃子「あー、この間1位になったのに、それから3位とか4位ばっかりっすよね」

ゆみ「調子の波自体は誰にでもあるが、京太郎くんは初めて経験するだろうからな」

智美「大会直前のこの時期になるのは不安なはずだからなー。こういうのは部活以外で話したほうがいいと思うんだ」

睦月「そうですね。あんまりプレッシャーかかっちゃいけませんし」

佳織「ところでその京太郎くんは……?」キョロキョロ

ゆみ「そういえば遅いな」

桃子「いつもパンかお弁当だから手間取ってるんすかね? 私もそうだったっすし」

智美「モモはおばさんがモモのことを見つけられなかったからだろー」ワハハ

桃子「だから学食は困るんすよ!」

睦月「でもそのモモより遅いのはなんでなんだろう?」

ゆみ「ふむ……ああ、ちょうど来た、よう……だ……?」

佳織「うわあ……」

桃子「あ、あれは凄いっすね」

睦月「あれ食べきれるのかな……?」

智美「さすが男子高校生だなー」ワハハ

京太郎「す、すみません。遅くなりましたっ」ドスン

ゆみ「い、いや。それはいいんだが……」チラッ

桃子「それ食べきれるんすか?」

智美「山盛りの唐翌揚げに大量のエビフライ」

佳織「ハンバーグとメンチカツも2つずつ」

睦月「ご飯も2人分くらいあるね。それと申し訳程度にサラダが」

桃子「聞いてるだけで胃がもたれそうっすね」

京太郎「……死ぬ気で食べます」ゲッソリ

ゆみ「普段学食で食べているが初めて見るな。なんという料理なんだ?」

京太郎「メンズランチを注文したらこうなりました……」

睦月「ああ、男子が入って来てから出来たメニューだね。だから見たことないんだ」

佳織「今まで女子だけだったから、きっと食堂のおばさんが張り切ってこんなメニュー作ったんだね」

ゆみ「しかし学食で食べるのが初めてにしても、友人から聞いたりはしなかったのか?」

京太郎「今日は普段一緒に昼食べてるやつに、麻雀部のメンバーと食べるって言って来たんですよ」

京太郎「そしたらそいつ学食ではメンズランチがオススメだって言って……!」

桃子「あー……。まあご愁傷様っす」

京太郎「うう、あいつ覚えてろよ……!」


…………

………

……



京太郎「き、キツイ……」キュウ

ゆみ「だ、大丈夫か?」

京太郎「す、少し休憩すればまだ行けます」

睦月「うむ、まあ無理はしないように」

京太郎「はぁ……そうだ。最近俺スランプで、麻雀全然勝てないんですがどうすれば直りますかね?」

智美「おお、そっちから切り出したかー」

京太郎「はい?」

智美「いや、なかなか言い出しづらいだろうと思って、どう切り出そうか考えてたんだけど必要なかったなー」

京太郎「ああ、そういうことですか。まあ聞くは一時の恥って言いますし」ハハハ

桃子「ちなみに京太郎的には何が悪いと思ってるんすか?」

京太郎「んーネトマでは変わらずそれなりに勝ててるから、なんか癖とかあるのかなあって」

ゆみ「うん? ネトマのほうでは勝てているのか?」

京太郎「はい。部活でやるときだけどうも上手く行かなくて……」

ゆみ「ふむ……」

睦月「何か気になるんですか?」

ゆみ「いや、最近の京太郎くんの牌譜を見ると明らかに不自然な捨て牌があるから」

ゆみ「ネトマでやっていないなら何が原因なのかと思ってな」

智美「確かにこの間見た牌譜は変なとこがいくつもあったなー」

京太郎「どのへんが変でした?」

ゆみ「具体的にではないが、そうだな」

ゆみ「ところどころ比較的安全な牌を切らずに他の牌を切っているだろう? たまに向聴数を上げてまでしていることもある」

ゆみ「それにあからさまな危険牌を振り込むこともある」

ゆみ「正直今の君のレベルからしたら不自然だと思うんだが、何か理由はあるのか?」

京太郎「それは……なんというか上手く言えないんですけど、感覚でこれを切ったらヤバイとか」

京太郎「これなら行けるみたいなのを感じるというか……」

ゆみ「……」

ゆみ(確かに読み切れそうもない難しい待ちを回避していることもある……)フム

桃子「勘違いじゃないっすか?」

京太郎「そんな気もするけど、ステルスとかいうお前が言うな!」

佳織「私はそういうの全然感じたことないなあ。まだ始めたばっかりだし、その内感じられるようになるのかな?」

京太郎「むしろ感じたことがないことにちょっと驚いてます」

佳織「えっ!?」

ゆみ「ちなみにそれは何割くらいで成功しているんだ?」

京太郎「体感で大体5割くらい……だと思います」

智美「結構高いなー」ワハハ

京太郎「まあいつも感じられるってわけじゃないんですけどね」

ゆみ「そうか……」

睦月「先輩はどう思ってるんですか?」

ゆみ「そうだな。ネトマではいつも通りに打っているんだろう?」

京太郎「そういえばネトマではないですね」

ゆみ「ならそれは対局相手の癖や雰囲気を感じているんじゃないか?」

京太郎「癖や雰囲気ですか? でもそういうのを考えたことはあんまりないですよ?」

ゆみ「この短い期間に何度も同じ相手とだけ打っているんだ。無意識に刷り込まれていてもおかしくはない」

智美「でもそれだと私たちも感じてないとおかしくないかー?」ワハハ

ゆみ「それは個人差があるだろう。京太郎くんがそういう面に優れているのかもしれない」

京太郎「うーん……」

ゆみ「ピンと来ないか?」

京太郎「はい。他の人はともかく、ステルスしてるモモ相手にもたまに感じることがあるので……」

桃子「そういえばそんなこともあったっすね。後で牌譜見てちょっと驚いたっす」

ゆみ「ふむ……モモもステルスとはいえ本当に消えているわけじゃない。見えていないが見ているということはあるんじゃないか?」

京太郎「ああ、なるほど」

ゆみ「まあこれはあくまで私の解釈だから、これを君にを押し付けるつもりはないよ」

ゆみ「……それより話が脱線してしまったな」

ゆみ「京太郎くんのその感覚が観察によるものか、それとも他の何かかどうかなんてどっちでもいい」

京太郎「えっ」

睦月「バッサリ行きましたね」

智美「ゆみちん、もうちょっと言い方ってものが……」

ゆみ「む、結論から言ってしまおうと思ったんだが……」

京太郎「い、いえ。全然大丈夫です。続けてください」

ゆみ「そうか、よかった」ホッ

ゆみ「話を聞く限り、京太郎くんは感覚の通りに打った結果、それが裏目になって勝てていないんだろう?」

京太郎「はい」

ゆみ「なら簡単だ。感覚に頼ってスランプになっているんだから、それに頼るのをやめればいい」

京太郎「あっ」

桃子「何度か裏目った時点で気付いて欲しいっすねー」

京太郎「みんなこうやってると思ってたんだよ!」

京太郎「でも対策がわかったんだ! 今日は1位になるぞー!」

桃子「まあその前に目の前の食事を片付けるっすよ」

京太郎「うっ……」

睦月「あはは、少しぐらいなら食べてあげるよ」

佳織「私もちょっと手伝うよ」

京太郎「睦月先輩、佳織先輩……! ありがとうございます!」

ゆみ「……」

智美「ゆみちんどうかしたのかー?」

ゆみ「……いや、何でもない」

智美「そうか? まあゆみちん、悩んだときは当たって砕けろだー」

ゆみ「……まったく、わかっているなら聞くな」ハァ

ゆみ「でもそうだな。ありがとう」

智美「ワハハー」


――帰り道――

京太郎「ゆみ先輩、今日はアドバイスありがとうございました!」

ゆみ「アドバイスという程のものじゃないさ」

京太郎「そんなことないですよ! 1位にはなれませんでしたけど、久々に2位になれてめちゃくちゃ嬉しいです!」

ゆみ「……ちなみに、今日も切るべきかどうかという感覚はあったのか?」

京太郎「そうですね。半荘で3,4回くらいはありました。今日は言われたとおりそれ無視してやりましたけど」

ゆみ「それでいい結果になったんだな」

京太郎「はい! やっぱり基本に忠実にやったほうがいいですね」

ゆみ「話を聞いている限りでは振り回されているだけのようだったからな」

京太郎「アハハ……恥ずかしいですね」

ゆみ「……ただ、昼に言ったことと逆になるんだが、もったいないとも思っているんだ」

京太郎「え?」

ゆみ「京太郎くんのそれはきっと磨けば大きな武器になるはずだ。だから昼に言ったことが全部正しいわけじゃない」

京太郎「ええと、それなら昼はああ言ったのは……?」

ゆみ「さっき言ったとおり、君が振り回されているからだ」

京太郎「確かにあやふやな感覚に頼るくらいなら完全に無視したほうがよかったですね……」

ゆみ「京太郎くんは感覚に頼るのではなく、使いこなさなければダメだと思うんだが、大会までは時間がない」

ゆみ「付け焼刃の感覚を使おうとするよりは、無視したほうがいいと私は思う」

京太郎「使いこなすというと成功率を上げるってことですか?」

ゆみ「……それは出来るのか?」

京太郎「いやさっぱりわかりません」

ゆみ「だろうと思ったよ」ハァ

ゆみ「そうだな……例えば危険牌だとわかっていても押さなければならない場面や」

ゆみ「おそらく安牌だと感じていてもオリたほうがいい場面があるだろう?」

京太郎「はい」

ゆみ「君の場合はそれをより正確に感じることが出来るわけだから、当然押し引きの基準も変わってくるはずだ」

ゆみ「これは単純な例だが、もっと複雑な場面も多くあるだろう?」

ゆみ「その時々で最も有効な打ち方を判断できるようになったら使いこなせたといえるんじゃないかと思う」

京太郎「なるほど……」

ゆみ「私が教えてあげられればいいんだが、なにぶん君にしかわからない感覚だ」

ゆみ「君が実戦で磨くしかないし、それに基礎力ももちろん必要だ。そうすると大会までにはおそらく間に合わない」

京太郎「あっ、だから頼るのはやめろって……」

ゆみ「ああ、君は強くなった。普通に成長すれば決勝リーグに残ることもそう無理なことではないと思う」

ゆみ「私は大会が終わるまでは普通に練習をして、大会が終わってから」

ゆみ「その感覚を活かした打ち方を見つければいいんじゃないかと思う」

京太郎「……私はってことは、他の道もあるってことですか?」

ゆみ「そうだな。今からその感覚を活かした打ち方を見つけるという方法もある」

ゆみ「次の大会で全国に行こうと思うならこれが一番可能性があるだろう」

京太郎「ぜ、全国ですか!?」

ゆみ「まあ完璧とまで行かなくとも、ある程度完成させられればという前提だがな。ただおそらく無理だろう」

京太郎「き、厳しいですね」

ゆみ「当たり前だ。自分のスタイルなんてそう簡単に身につくものじゃない。前例にない特殊な打ち方をするならなおさらだ」

ゆみ「さらに言うなら、そこまで上手く行ったとしても可能性が出てくるという程度だ」

京太郎「どっちを選ぶべきか……」ウーン

ゆみ「……実はな、この話は言おうかどうか迷ったんだ」

京太郎「え? なんでですか?」

ゆみ「京太郎くんが迷うと思ったからだよ。誰だって全国は目指したいだろう?」

京太郎「そうですね」

ゆみ「だけどそのスタイルが完成するまでは、きっと昨日までのように負け続けることになる」

ゆみ「誰だって負けるのは嫌だろう? そんなことで京太郎くんが麻雀を嫌いになったら悲しいからな」

京太郎「そんなことは……」

ゆみ「……まあそれで嫌いになるというのも、私の勝手な想像だ。だから最終的には君自身に決めてもらうことにしたんだが」

京太郎「はい」

ゆみ「どっちを選んでもいいぞ。どちらでも出来る限りのサポートはしよう」

京太郎「……大会までは普通に練習することにします」

ゆみ「うん? そうか。わかった」

京太郎「あれ、ちょっと意外そうですね」

ゆみ「そうだな。正直京太郎くんは、今から感覚を活かした打ち方を見つけると言うと思っていた」

京太郎「3年ならそうしたかも知れないですけど、無理して次の大会で勝とうと思わなくても俺はまだ1年ですから」

ゆみ「ああ、確かに私もそう考えたから今は普通の練習をしたほうがいいと言ったんだが……」

京太郎「……あー、その。ですね」

ゆみ「うん?」

京太郎「ええと……」

ゆみ「?」

京太郎「……ゆ、ゆみ先輩が俺のためって考えてくれたのが嬉しかったんですっ!!」

ゆみ「なっ!?」カアァァ

京太郎(い、言っちまったああああ! ひ、引かれたりしないよな……?)

ゆみ「そ、そのだな」アタフタ

京太郎「……」ドキドキ

ゆみ「た、確かに京太郎くんは大切な後輩だし」

ゆみ「君のために考えたというのも正しいが、それでももう少しいい言い方があるだろう!?」カアァァ

京太郎「っ!」

ゆみ「そ、それともわざとそういう言い方にしたのか?」

京太郎「……そ、そうなんですよー。やだなバレちゃいましたか」

ゆみ「や、やっぱりそうだったか……」シュン

京太郎(先走ったかあ……まあ、誤魔化せただけいいかな)ズーン

ゆみ「まったく、京太郎くんも言うようになったな」ハァ

京太郎「あ、あはは」

ゆみ「でも嬉しいよ。モモとはいつもこんな感じで話しているだろう?」

京太郎「モモはああいう奴ですからね。ゆみ先輩には、もし同じ学年でもモモと同じようには話せませんよ」

ゆみ「今言っていたじゃないか」

京太郎「そ、そうでしたね……」アハハ

ゆみ「これからも言ってくれていいんだぞ? 私は気にしない、というか楽しい」

京太郎「そうですか? 意外ですね」

ゆみ「今まであまり言われたことがなかったから新鮮なのかもしれないな。……それかもしくは」

京太郎「もしくは?」

ゆみ「……京太郎くんとは特別話しやすいからかもしれないな」

京太郎「えっ――」ドキッ

ゆみ「……」ジー

京太郎「……」ドキドキ

ゆみ「……ふふ、冗談だ。あまり後輩に言われてばかりではな」

京太郎「もう、俺が悪かったですから、からかうのはやめてくださいよ……」

ゆみ「ちょっとした仕返しだよ」

京太郎「まったく、ちょっと前までが男と話すの苦手とか言ってたの誰ですか」

ゆみ「……今も他の男子とはほとんど話さないし、話すのは苦手だ」

京太郎「えっ?」

ゆみ「私がこういうことをできるのは京太郎くんだからだよ。きっと」

京太郎「なっ」カアァァ

ゆみ「……」ドキドキ

京太郎「こ、こんな続けてはさすがに引っかかりませんよ!」ドキドキ

ゆみ「……ああ、そうだな」

京太郎「ゆみ先輩は冗談も真顔で言うから分かりづらいです……」

ゆみ「見分けられるようになることを期待しているぞ」

京太郎「努力します……それじゃあゆみ先輩、また明日」

ゆみ「ああ、もうこんなところか。また明日」

ゆみ(まったく、あまり慣れないことはするものじゃないな)ハァ

ゆみ(見分けられるように……そもそも私はどういう返事を期待していたんだ?)

ゆみ(自分でも分かっていないのにあんなことを……いや、やめよう。考えるのは大会が終わってから――)

ゆみ「そうか、大会が終われば私は引退……」

ゆみ「もう少しだけでも長く続けられればな。蒲原と妹尾と睦月とモモと、それに京太郎くんがいる今のメンバーで」

ゆみ「大会がなくても放課後に集まって麻雀をして」

ゆみ「それも全国まで行けば、か……ただ楽しみが続けばと思うだけなのに、つらい道のりだな」ハァ

ゆみ(それでも、目指さなければ届かない……頑張ろう!)




京太郎「こんにちはー。部長だけですか?」ガラッ

智美「ああ、みんなまだ来てないなー」

京太郎「そうですか。それじゃあみんな来るまで牌譜の整理でも……」

智美「まあまあ、そんなのいいからちょっとこっち手伝ってくれー」

京太郎「なにやってるんですか?」

智美「決起集会に必要なものを考えてるんだ」

京太郎「決起集会?」

智美「ああ、大会直前だから、気合を入れるためにもやっとこうと思ってなー」

京太郎「へえ。初めての大会ですしいいかもしれませんね」

智美「それで京太郎に決めて貰いたいことがあるんだ」キリッ

京太郎「む、責任重大ですね。なんでしょう?」

智美「ああ、きのこの山とたけのこの里のどっちを買えばいいかと……」

京太郎「真剣な顔してなにかと思えばそんなことですか!?」

智美「そんなこととは失礼だなー。きのこたけのこ戦争を甘く見ると痛い目にあうぞー」ワハハ

京太郎「じゃあ大袋のでいいじゃないですか。両方入ってますし量もありますから」

智美「おお、名案だなー。そうしよう」カキカキ

京太郎「……ていうか決起集会で何をするつもりなんですか?」

智美「お菓子とジュースで楽しく過ごすつもりだ」ワハハ

京太郎「決起集会なんですかそれは!?」

智美「堅苦しいのは嫌だろー?」

京太郎「いやそれはそうですが……」

智美「まあ別になんとなくやってるわけじゃないんだ」

京太郎「ほんとですか?」

智美「ああ、最近大会が近いからかみんな緊張してるだろ?」

京太郎「確かに睦月先輩と佳織先輩は牌落としたりミスが多くなったりしてますね」

智美「うん、むっきーと佳織は分かりやすいなー。でもモモとゆみちんもだぞ?」

京太郎「そんなふうには見えないですけど……」

智美「例えばモモは消えるのが遅くなってるだろ?」

京太郎「え? あれって慣れたからじゃ……」

智美「慣れたくらいで見えるようになるならモモも苦労はしてないと思うぞ?」

智美「多分緊張からだと思うけど、牌を捨てるときに音が大きくなってたり」

智美「打ってるときにソワソワしたりしてていつもより目立ってるんだ」

京太郎「全然気づきませんでした……」

智美「京太郎はまだまだだなー」ワハハ

京太郎「それじゃあゆみ先輩はどんな感じなんですか?」

智美「なんか考えこんでることが増えたなー」

京太郎「……それ緊張からですか?」

智美「うーん」チラッ

京太郎「?」

智美「……緊張じゃないかもしれないけど、何かあったんだろうなー。多分京太郎のせいで」

京太郎「俺何もしてないですよ!?」

智美「気にするなー」ワハハ

京太郎「しますよ!?」

智美「それに他人事みたいに言ってるけど京太郎もだぞー」

京太郎「露骨に話そらしましたね! でも俺は負けて元々ですしそんなに緊張は……」

智美「この間廊下で京太郎を見かけたんだけど、歩きながら教本見るのは危ないからやめたほうがいいと思うぞ」

京太郎「うっ」ギクッ

智美「ところで負けて元々だからなんだっけー?」

京太郎「いやー、初めての大会は緊張しますねー!」

智美「そうだろー」ワハハ

京太郎「でもみんなのことよく見てますね。さすが部長」

智美「京太郎も殊勝なことを言うようになったなー」

京太郎「え?」

智美「初めて会ったとき、部長に見えないとか言われたの覚えてるぞ」ワハハ

京太郎「勘弁して下さい……」

智美「ワハハ。まあゆみちんのほうが部長らしいもんなー」

京太郎「そんなことないです!」

智美「ん?」

京太郎「最初自己紹介で下の名前で呼ぼうって言ってくれたじゃないですか」

京太郎「実際あれがなければこんなに仲良くなれなかったと思いますよ」

京太郎「モモなんかむっちゃん先輩とかかおりん先輩とか呼ぶくらいの仲になってますし」

智美「あれはちょっと驚いたなー。でもそれはモモ自身のことで」

京太郎「それだけじゃないですよ。ゆみ先輩たちのことも俺たち後輩のことも、色々と気を配ってくれてるじゃないですか」

京太郎「麻雀部に入って思いました。鶴賀麻雀部の部長は智美部長しかいません!」

智美「ワ、ワハハ」

京太郎「部長?」

智美「て、照れるじゃないかー」ワハハ

京太郎「でも本当に部長には感謝してるんですよ」

智美「そ、そういうのはもうちょっと遠回しに言ってくれると……」カアァァ

ゆみ「まだ2人だけ……何をやっているんだ?」ガラッ

京太郎「あ、ゆみ先輩。今はいかに部長に感謝しているかということを――」

智美「京太郎に弄ばれてたんだ」グスン

京太郎「部長!?」

ゆみ「京太郎くん、詳しく話してもらおうか」ゴゴゴ

京太郎「ゆみ先輩も信じないでくださいよ!?」

ゆみ「別に信じているわけじゃない」

京太郎「え?」

ゆみ「蒲原の様子を見るに何かしたのは事実だろう。隈なく教えるように」ゴッ

京太郎「お、俺は悪いことしてませんからね」ビクビク


――説明中――

ゆみ「ふむ」

京太郎「何もしてませんよね?」

ゆみ「君が悪いな」

京太郎「なんでですか!?」

ゆみ「悪気はないんだろうが、ストレートに言うのはもうちょっと控えたほうがいい。君と相手のためだ」

京太郎「そんなつもりはないんですが……ゆみ先輩がそういうなら」

ゆみ「……私以外にもそうだったんだな」

京太郎「えーと、まあ自覚してないので……」

ゆみ「そうか……」

京太郎「それがどうかしましたか?」

ゆみ「いや、何でもない」フイッ

智美「……要はヤキモ」ボソッ

ゆみ「何か言ったか?」

智美「何も言ってないぞー」ワハハ

京太郎「?」

桃子「こんにち……あれ、修羅場っすか。むっちゃん先輩、かおりん先輩。ちょっと外出てましょう」

佳織「あれ、桃子さんとじゃないんだね」

睦月「いつかやるとは思ってたけど部長ととは思わなかった」

ゆみ「京太郎くん、どういう意味だ?」ゴッ

京太郎「知りませんよ! 終わった話をややこしくするのは止めてください!」

桃子「あれは私を京太郎が見つけたとき……」

京太郎「特にお前に言ってるんだよモモ!!」


…………

………

……



ゆみ「決起集会か」

智美「顧問もいないようなものだし、注目されてる部でもないから内輪だけだけどなー」

睦月「いいんじゃないですか? やりましょう」

佳織「でもお菓子とジュースって全然決起って感じはしないね」

智美「堅苦しいのはウチの部に合わないだろー?」

桃子「そうっすね! リフレッシュして大会に出るのもよさそうっす」

ゆみ「ああ、私も賛成だ。……しかし大丈夫かな。まだやるべきことが……」

智美「ないない。もう十分だ」

ゆみ「だが対策が出来ていない高校がいくつも……」

智美「1校にしか通じない対策を練るより、私たちが普段通りの麻雀が出来るようになるほうが効率いいだろー?」

ゆみ「……!」

智美「まあゆみちんが最後で全部捲ってくれるって言うなら別だぞ?」ワハハ

ゆみ「……私には最後で捲るほどの力はないからな。ここは蒲原の言うとおりにしておこうか」フフッ

智美「決まりだなー」ワハハ

桃子「場所は部室っすよね?」

智美「ああ、ついに部費を使うときが来たなー」ワハハ

佳織「それはさすがにマズイんじゃ……」

智美「バレなきゃ大丈夫だろー」

京太郎「いや、バレたらシャレにならないことになる可能性が……」

ゆみ「そんなことで大会出場停止なんて笑い事にもならないぞ」

智美「しゅ、出場停止までは考えてなかったな。おとなしくお菓子とジュースは持ち寄るか……」

睦月「そうしましょう!」

ゆみ「……津山。みんなで食べるからってプロ麻雀せんべいばかり買ってくるんじゃないぞ」

睦月「そ、そんなことしませんよ!!」アセアセ

京太郎(持ってくるつもりだったんだな)

桃子(ブレないっすねー)

佳織(本当に好きなんだ)


――帰り道――

ゆみ「最近調子がまた上がってきたようだな」

京太郎「はい、今日は久々の1位ですよ!」

ゆみ「まあ私がいる卓ではなかったがな」

京太郎「ぐっ……結局ゆみ先輩に勝てたのはこの間の1回だけでしたね」

ゆみ「そもそもあれから対戦数が少ないというのも……」

京太郎「どうかしました?」

ゆみ「いや、君には我慢をさせていると思ってな」

京太郎「我慢ですか?」

ゆみ「ああ、ここ最近は以前に比べて対局時間がだいぶ減ってしまっている。君には貴重な時間だというのにすまない」

京太郎「大会に向けて作戦会議してるんだから当然じゃないですか。そんなこと気にしないでくださいよ」

ゆみ「しかし私たちが話しているのは女子のことばかりだしな」

京太郎「この短い期間で男子の対策も立ててくれなんて言いませんよ。それに俺だって牌譜を見るくらい出来るようになりました」

京太郎「ゆみ先輩たちが女子の対策話してるとき、俺だって男子の牌譜見てどう打つか考えてます! 無駄になんかしてませんよ!」

ゆみ「……ありがとう。そう言ってくれると教えた甲斐があって嬉しいよ」ニコッ

京太郎「!」ドキッ

ゆみ「ん? どうかしたか?」

京太郎「い、いえ。なんでも」

京太郎(ゆみ先輩、人にストレートに言うなって言ってるんだから自分も気をつけてくれないと……!)カアァァ

ゆみ「……本当に大丈夫か?」

京太郎「だ、大丈夫ですよ! そ、それより大会は勝てそうなんですか?」

ゆみ「大会か、そういえば細かいところは君に話していなかったな」

京太郎「はい、俺の方は当たって砕けろというか、いかにあの化け物達から逃げるかって感じですけど」

ゆみ「ああ、うん。まあ仮に砕けたとしても気にするな。あれは多分災害のようなものだ」

京太郎「気にするにも実力が必要ですよね」

京太郎「まあ、直撃で決勝リーグ行けないとかだとさすがに落ち込みそうですけど。それで女子はどうなんですか?」

ゆみ「そうだな……裾花はわかるか?」

京太郎「えーと、今長野の女子団体でランキング県3位の高校でしたっけ?」

ゆみ「ああ、そこだ。妹尾の調子が良くて、モモに相手が上手くはまってくれたという前提だが」

京太郎「だが?」

ゆみ「勝つことも夢ではない……というか五分五分以上で戦えそうだ。妹尾の調子が悪くても勝ち目がないわけじゃない」

京太郎「凄っ!?」

ゆみ「っ」ビクッ

京太郎「鶴賀って去年まで大会とか全然出てないんですよね!?」

京太郎「それで長野3位に互角以上って、そんな先輩たち強かったんですか!?」

ゆみ「京太郎くん、とりあえず少し声を抑えよう」ドキドキ

京太郎「す、すみません。ちょっと驚いて……」

ゆみ「うん、分かってくれたらいい」コホン

ゆみ「そうだな……まず何より、モモのステルスの強さは君もよく知っていると思う」

京太郎「理不尽ですよねーあれ。何度振り込んだことか……」

ゆみ「妹尾は何故か分からないがよく役満で上がっている」

京太郎「何度も飛ばされましたね……」フッ

ゆみ「……そういえば君はよく振り込んでいるな」

京太郎「何なんですかねあれ。……というか今そんなこといいじゃないですか!!」

ゆみ「ああ、すまない。脱線したな。津山と蒲原はどちらも大崩れはしないだろう?」

京太郎「2人とも守備堅いですもんね」

ゆみ「そして私自身もみんなが稼いでくれたリードを守るくらいの力はあると思っている」

京太郎(むしろ広げられると思います)

ゆみ「それに裾花レベルの高校であれば対策もしっかりしている。データのない向こうに比べればこちらがだいぶ有利だろう」

ゆみ「さっき話したのはそういう面も含めての勝率だな。まあ、麻雀である以上水物ではあるんだが」

京太郎「いやそれでも凄いですよ。本当に全国も夢じゃないですね!」

ゆみ「……」

京太郎「……あれ?」

ゆみ「裾花は3位といったが、その上の1位2位はまた別次元なんだ」ハァ

京太郎「そんなに強いんですか?」

ゆみ「そうだな。まず風越は主将の福路が読みと洞察力に優れている上、対応力もずば抜けている」

ゆみ「天江衣を除けば間違い無く長野一の雀士だ」

ゆみ「去年1年で大将をやっていた池田もおそらく出てくるだろう」

ゆみ「彼女は高火力が武器だ。安定性では福路に劣るが、爆発力では妹尾並かそれ以上だろうな」

京太郎「佳織先輩以上とか想像したくないですね……」

ゆみ「まったくだ」ハァ

ゆみ「風越のことだし、去年いなかったメンバーもそれぞれ高い実力を誇るはずだ。正直勝ち目は薄いだろう」

京太郎「さすが名門ですね……。もう一つの高校は龍門渕でしたっけ? そっちはどうなんですか?」

ゆみ「龍門渕は去年全員1年で県大1位だったんだが、その時点で先鋒から副将まで4人とも全国レベルだ。隙がない」

ゆみ「そしてその4人が霞むくらいの脅威が大将の天江衣」

ゆみ「昨年の決勝ではさっき話した風越の池田を圧倒しているし、全国大会でも平均打点はトップだ」

京太郎「凄まじく強そうですね……勝てそうですか?」

ゆみ「遠慮無く聞くんだな」

京太郎「す、すみません」アセアセ

ゆみ「気にするな。こういうときのそれは直さなくてもいい」

ゆみ「まあそうだな……。万に一つ勝てればよしといったところだろうな」

京太郎「そうですか……」ズーン

ゆみ「君が落ち込んでどうする」

京太郎「それはそうなんですが」

ゆみ「なに、そもそも大会に出られるかどうかもわからなかったんだ」

ゆみ「妹尾とモモと、そして京太郎くん。いいメンバーに恵まれて大会に参加出来るだけで満足だよ」

京太郎「でも……」

ゆみ「ああ、もちろん諦めているわけじゃないぞ?」

ゆみ「万に一つを掴めるようにどうすれば勝てるか必死で考えてきた。それでもそれは君が気に病むことじゃないさ」

ゆみ「……それにそんなに勝って全国に行くことに拘るなら京太郎くんが頑張るといい」

ゆみ「私たちが団体で全国に行くより君が全国に行くほうがおそらく可能性が高いぞ」フフッ

京太郎「お、俺は決勝リーグ目標にしてる男ですよ!?」

ゆみ「君が言っているのはそういうことだよ」

京太郎「あ」

ゆみ「砕けて元々は私たちもだ。まあもちろん砕ける気はないし、勝って欲しいと思ってくれるのは嬉しいが、もっと気楽にな」

京太郎「……ゆみ先輩にそれを言われるとは思ってませんでした」

ゆみ「君に言われた通りに変わったと思ってくれ」

京太郎「俺が言った通り変わるだなんてそんな……」

ゆみ「これは冗談じゃない。その……素直に、受け取って欲しい」ウワメヅカイ

京太郎「――です」

ゆみ「……? すまない、よく聞こえなかった」ズイッ

京太郎「はっ!? も、もうこんなところですね。それじゃさようなら!」

ゆみ「あ、おい! ……もう、なんなんだ」

ゆみ「……また明日くらいちゃんと言わせろ。バカ」


京太郎(何するんだあの人、今日2度目だぞ!? 危なかった! 好きですとか言うとこだった!!)カアァァ

京太郎(俺に言う前に自分を直してくれ!! 今度絶対やめさせ――)

京太郎「……あれ他の男にもやってるのか?いや、男と話すのはまだ苦手とか言ってたし3年に男子はいないしやってないはず……」

京太郎(……まだ注意しなくていいか。うん、大会前だし。無駄なことを意識させると悪いし)

京太郎(別にもっとやって欲しいとかそういうのじゃないけど!)