尭深「何を用意したの?」

京太郎「羊羹です」

尭深「…ふむ」

京太郎「冬に食べるのも乙かと思いまして」

尭深「いい判断ね」

京太郎「それじゃ、邪魔が入らないうちに頂きましょうか」

尭深「ええ」

京太郎「お味の方はどうですか?」

尭深「うん、おいしい」

京太郎「冬だと温くならないからいいですよね」

尭深「だね」

京太郎「それに渋谷先輩のお茶があるから、尚更おいしく食べられます」

尭深「もう…褒めたって何も出ないよ?」

京太郎「お茶だけで充分すぎます」

尭深「…誰も来ないね」

京太郎「そりゃまだ冬休みですし」

尭深「まあいいか。いつもならこうはならないだろうし」

京太郎「普段は騒がしすぎますからね」

尭深「あの二人のせい?」

京太郎「ええ、あの二人のせい」

尭深「…でも、それが当たり前になってるから寂しさも感じちゃうんだよね」

京太郎「確かに」

尭深「…ねえ」

京太郎「何でしょう」

尭深「羊羹の量、少し多すぎじゃないかしら」

京太郎「…」

尭深「…」

京太郎「…てっきり二人が嗅ぎつけて来るものかと」

尭深「来てないけどね」

京太郎「…」

尭深「…どうするの?これじゃあ食べきれないわ」

京太郎「まだ時間はありますし大丈夫ですよ」

尭深「まあ、そうなんだけど」

京太郎「ただ…特にやることないからって、部室に来たのは間違いだったかもしれません」

尭深「人を呼んでおいてよく言う」

京太郎「先輩なら、きっと応えてくれるだろうと思ったんです」

尭深「どうして?」

京太郎「先輩ってあまり気難しくはないですし、一軍の中じゃ一番温厚な方です」

京太郎「それに…こうして静かな所で過ごすのは嫌いじゃないでしょう?」

尭深「否定はしない。けど、いつでもそうだとは思わないで」

京太郎「わかってますって」

尭深「あなたがそういう返事をするのは、当てに出来ない」

京太郎「酷い言い草ですね」

尭深「雑用は無理しない程度にって言っても聞かないし」

京太郎「世話好きというか物好きでして」

尭深「大して強くもないのに、いつもホラを吹いてばかりで」

京太郎「そうでもしないと負け続けられないでしょ?」

尭深「そもそも才能だってないし」

京太郎「知ってます」

尭深「それでも私達と打とうとするのだけは、ある意味才能だと思うわ」

京太郎「…どうも」

尭深「須賀君、あなたはいつまでここにいるつもり?」

京太郎「渋谷先輩が帰るまでは、ううん…家まで送っていきますよ」

尭深「…言い方を変えましょう。いつまでこの麻雀部にいるつもり?」

京太郎「知りません」

尭深「そんな答えじゃ納得いかないわ」

京太郎「他に言い様ないですから。俺、きっと周りのみんなほど麻雀は好きじゃないでしょうし」

尭深「…そう」

京太郎「ですが打ってて楽しいのは確かです。ただ、この先もそうだとは限らないってだけ」

尭深「そんなの、誰だってそうでしょう?」

京太郎「俺は他と違って、麻雀の楽しい所しか知りません」

尭深「…」

京太郎「だからこの先麻雀の嫌なところを思い知って、それでもなお麻雀を楽しめるのか…結局はこれから次第なんですよ」

尭深「…それで須賀君、あなたはどうしたいの?」

京太郎「残れるのなら残りたい。少なくとも、今はその程度です」

京太郎「それはそれでどうしようもありません。それが俺の今なんです」

尭深「なら、この先をどうするかを考えなくちゃいけないわ」

京太郎「えっとですね…恥ずかしながら俺一人じゃどうにか出来る気がしなくて」

尭深「そんなの当たり前でしょう。須賀君って、どうしようもなく無力なんだから」

京太郎「ズバリと言いますね」

尭深「だってそれが事実なんでしょ?」

京太郎「ええ」

尭深「だけど、自分の弱さを知っているだけまだいいわ。自分一人で何とかしようとするよりは、ずっといい」

京太郎「…」

尭深「私は、そんなあなたを放ってはおけない。だから支える。支えてあげるの」

京太郎「…」

京太郎「…本当にいいんですか」

尭深「そのつもりで私の問いに答えたんでしょ?」

京太郎「はい」

尭深「それに私なら、あなたの願いを聞いてくれるだろうと」

京太郎「…はい」

尭深「…ふふ、ダメな子だね。須賀君って」

京太郎「う…」

尭深「そうさせたのは私だし、あなたはただそれに乗っただけなんだけど」

京太郎「…どうせなら、俺が卒業するまで甘えられたらよかったんですけどね」

尭深「それは無理。流石に私も、須賀君のために留年なんてしようとは思わない」

尭深「私には私の人生があるし、あなたにはあなたの人生がある」

尭深「生憎私はこの羊羹のように甘いだけではない…つまりはそういう事よ」

京太郎「…それはそれで助かります。先輩が甘いだけなら、俺はますますあなたに依存してたでしょう」

京太郎「そうなったら俺の意志はありません。先輩の存在こそが、麻雀を打つ理由になってしまう」

京太郎「俺も一応男ですから…カッコ悪いままで終わるのって、嫌ですよ」

尭深「なら、いつかはカッコ良くなってくれるの?」

京太郎「ええ」

尭深「ホラじゃないよね?」

京太郎「これは誓いです。俺と…そして、あなたのための」

尭深「…」

京太郎「必ず、強くなってみせますから」




尭深「ええ…私待ってるわ。あなたがそうなってくれるのを、ずっと…ずっと待ってる」








尭深「どんなお菓子があるの…ってうわぁ…」

京太郎「煎餅、羊羹、団子に変化球としてショートケーキっす!」

尭深「うん…えっと…」

京太郎「どうしました、尭深さん?」

尭深「えっと…その、ね?…多すぎないかな?」

京太郎「正直それは俺も思ってました」

尭深「何でこんなに用意したの…というかどこからこんなに…」

京太郎「いつもこれぐらい用意してましたし何というか癖で…あとどこからかってのは企業秘密です」

尭深「…どうしても?」

京太郎「どうしてもです」

尭深「むぅ…」

京太郎(可愛い)

尭深「…まぁ確かにいつも宮永先輩や淡ちゃんがお菓子を用意した先から食べ尽くしていたからわからなくもないけど…」

尭深「さすがに二人でこれは多すぎると思う…」

京太郎「そーですねー…どうしましょうかこれ?」

尭深「うーん…お煎餅はまだ良いとして他のは袋から出しちゃってるから…」

尭深「やっぱり食べるしかないんじゃないかなぁ…」

京太郎「ですよねー…」

尭深「…まぁ、とはいっても全部二人分ずつだから頑張れば食べれそうかな」

尭深(問題はその後の体重とかとかなんだけど…)

京太郎「そうですね。形はどうあれ、せっかくのお菓子なんですから…味わって食べましょう!」

尭深「うん、それじゃあ…」

「「いただきます」」


………
……


尭深「まずは…ショートケーキからにしようかな…」

京太郎「あ、それからいっちゃいます?」

尭深「え、うん…ダメだった?」

京太郎「いえいえ、ただ意外だなぁーって。尭深さんと言えば緑茶、緑茶と言えば和菓子みたいに思ってましたからね」

尭深「須賀君もそう思うんだ…変なのかなぁ…緑茶に洋菓子って」

京太郎「別に変じゃないですよ。俺がただそう思いこんでただけですし」

尭深「でも…みんなに言われちゃうと自分が変なのかなって…」

京太郎「気にすることないですって。悪い癖な訳じゃないんですから」

尭深「…うん、そうだね。私は私だもんね」

京太郎「それにーなんですか、そのままの尭深さんが好きだからーみたいな?」ポリポリ

尭深「はむっ…あ、これおいし…」

京太郎「まぁ聞いてませんよねー。知ってました」

尭深「え?何か言った?」はむはむ

京太郎「いえ、なんにも」

尭深「そう?」

京太郎「俺も食べよ…はむっ…む?」キュピーン

尭深「美味しいね、このケーキ。甘すぎないというか…そんなにしつこくないからお茶にぴったりで…」

京太郎「これは…砂糖の量か…?いやでも少なすぎると失敗するし…となると牛乳が…」ブツブツ

尭深「あ、始まっちゃった…」

尭深(料理が趣味なのは良いけど…何かを美味しいと思うとその味をコピーしようと真剣になっちゃうんだよね…たとえ会話中でも)

京太郎「とにかくここはもう一口食べてから気になった所を整理して…」ブツブツ

尭深「…」はむはむ

尭深(…ちょっと寂しい)シュン