姉帯豊音は孤独だった

 県の中でも特に深い山奥にある豊音の村には子どもが少なく、

 家の外へ遊びへ行こうとも幼少期の豊音には既に面白みというものは無かった

 ある日、豊音は自分と同年代の少年と出会った

 都会から親の里帰りで連れてこられたというその少年と豊音が仲良くなるのにそう時間はかからなかった

 豊音は自分が知り尽くした山へ少年を連れて遊び回った

 少年と過ごした時間は、孤独感に苛まれていた豊音にとってとても貴重な宝物のように感じ、

 夏休みの終わりが近づくほど、少年との別れを期した豊音は悲しんだ

 少年と過ごす最後の日、豊音は涙で腫れた目を隠すために帽子を被った、彼に目を見られないように深く、深く

 それでは前を見れないだろう、と普段とは逆のように少年が豊音をエスコートすることになった、

 雨雲が去った晴れ空の下を、自分が見つけた景色を見せようと胸を張る少年の歩いた後を、豊音がついて歩く

 土の色が濃くなり、緑が増えていく。風の鳴る音が鳥のさえずりへと塗り替えられていく、これが最後になるのだと豊音は帽子を下げた


 目的地が近づき少年は走り出した、豊音も彼の後ろを追って走った

 少年の背を追って、夏の日差しに目を狭めた――瞬間

 少年の悲鳴が聞こえ、反射的に手を伸ばす。しかし、指先は届かず、足を滑らせた少年の背は山の底へと消えて行った。

 冷たい空気が背中から抜けていく、肌が粟立っていく、首の後ろが熱くなっていく

 豊音はまた、孤独になった

 少年は事故死した。貴女の責任ではないんだと少年の親は言って、村を去った


 「姉帯の娘が都会の子を突き落とした」


 少年の悲鳴を聞き付け、駆け付けた老婆が流した噂はねじ曲がって広まった


 「姉帯の娘が背後から絞いた」


 奇妙なまでに鬼気を帯びた赤眼のせいもあってか、豊音は故郷で「背向のトヨネ」と呼ばれるようになった

 村の中を歩けば陰口を耳にする、目を向ければ怯えられる

 豊音は外へ出ることを止めた

 一人娘の気持ちを受け取った両親は、豊音へ新しいテレビを買い与えた

 何も欲しがろうとしない豊音が麻雀に目を輝かせる様子を見て、両親は牌を買い与えた

 豊音は孤独だった

 昼間はテレビを見て、遠くから送られてくる宿題を片づけて、両親が帰ってくるとマットを広げ、牌の準備をして三麻を打つ

 ただそれだけをして過ごす外部から隔離された生活だったが――

 姉帯豊音は笑顔だった



和「……一応、書き終えました」

久「須賀君、これ届けてきてくれるかしら」

京太郎「和のサインなんて、そんなん和が届けた方がいいじゃないっすか?」

和「そうしたいのは山々なのですが、この後に取材が入っていまして……」

京太郎「なら仕方ねえ……か」

京太郎(つーわけで届けに行こうとしたけど……)

豊音「ふぇぇ……ここどこぉ……」ガクガク

京太郎「姉妹かっ!?」

豊音「えっ」ビクッ

豊音「…………」ガクガク

京太郎「…………」ジリッ

豊音「背が高い人!?ちょー怖いよー!」

京太郎「その言葉はそのままお返しします!」

豊音「金髪!?ちょー怖いよー!」

京太郎「宮守にも金髪の人がいましたよね!」

豊音「学ラン!ちょー怖いよー!」

京太郎「もうツッコまなくていいや……」

豊音「……ぐすっ」

京太郎(とりあえず泣き止ませたいけど……あ)

京太郎「あの、これ……」ススッ

豊音「姉帯豊音さんへ……!」

豊音「これ、原村さんのサイン!」

豊音「わぁ!わぁ!君のおかげでウルトラハッピーだよー!」パァァ

京太郎(気変わり早いなこの人)

豊音「けど、どうして君が原村さんのサインを?」

京太郎「あ、俺清澄高校の須賀京太郎って言います」

豊音「そっかー、ありがとねっ!」ニコッ

京太郎(姉帯さんかわいい)

京太郎「姉帯さんは迷子なんですか?」

豊音「……うん」

豊音「恥ずかしい話だけど、おトイレに行きたいんだけどどこに行けばいいかわからなくて……」

京太郎(咲と同レベルじゃねえか……)

京太郎「トイレならこっちですけど、付いていきましょうか?」

豊音「わわっ、そんなこと悪いよー」アワアワ

豊音「方向も教えてもらったし、私一人で大丈夫だよっ!」ギュッ

京太郎「それダメなパターンのやつですよ!」



豊音「それじゃあねー!」フリフリ タッタッ

京太郎(大丈夫かなぁ……)

豊音「うわぁ!」ドテッ

京太郎(大丈夫じゃないよなぁ……)

豊音「……ぐすっ」

京太郎(姉妹だなぁ……)

豊音「おトイレ待たせちゃってごめんねー」

京太郎「いえ、慣れてますから」

豊音「えっと、宮守の控室は……」

豊音「…………」

京太郎「姉帯さん?」

豊音「…………」ウルッ

京太郎(もう何も言うまい)

豊音「――――そこで暗炎龍がね!」キャッキャッ

京太郎「姉帯さん、着きましたよ」

豊音「本当だ!あっという間だったねー」

豊音「須賀くんには感謝してもしきれないくらいだよー!」

京太郎「そんな大したことしてないっすよ」

京太郎(泣き止ませて案内するとか咲にやってきたのとまるまる同じだもん)

京太郎「それじゃ、俺は帰りますね!」

豊音「ちょー感謝だよー!」フリフリ ピピピッ

京太郎(あとは宮守の人たちに任せよう)

京太郎(須賀ードワゴンはクールに去るぜ)ヴヴヴッ

京太郎「ん、メール?」ピッ

久『試合が終わって宮守と清澄のみんなでお茶してまーす!』

京太郎「…………」

京太郎「なんでやねん」

豊音「あれ?塞から電話?」ピッ

京太郎「ん?」

豊音「……うん……うん」

豊音「え、宮守と清澄のみんなでお茶してるの?私も行きたかったよー」

京太郎「なんでやねん」

久『P.S.そういうわけだから姉帯さんを見つけてたら連れてきて頂戴』

京太郎「なんでナチュラルに省かれてんだろ俺」

京太郎「……」チラッ

豊音(´;ω;`)ブワッ

豊音「ごめんね、私がここに来る前にメールに気づいていれば良かったのに……」

京太郎「いや、まさか会場の入り口で偶然会ってお茶することになってたなんて」

京太郎「姉帯さんのメールで事情が知れて良かったっすよ」

京太郎(精神的に死んじゃうところだったぜ)

京太郎「んで、喫茶店は……地図わかりにくいな」

豊音「東京はおっきいからね」

京太郎「経験者は語るってやつですね」

豊音「そうだねー……って違うよ!まだ迷ってないもん!」

京太郎(段々この人が咲っぽく見えてきた)

豊音「むぅー」プクー

豊音「須賀くん須賀くん」

京太郎「何ですか姉帯さん」

豊音「そこは『なんだい姉帯くん』でいいんだよー」

京太郎「何でしたっけそれ」

豊音「パペットマペットだよ、一回やってみたかったんだ!」

京太郎(懐かしいなオイ)

豊音「あとどのくらいかかりそうかな?」

京太郎「まだ歩きそうですね、あの人たちは疲れてないんだろうか」

豊音「そっかー……」グゥゥ

豊音「あっ」カァァ

京太郎「ちょっとコンビニに寄りましょうか」

豊音「うん!」

豊音「コンビニ!コンビニ!」

京太郎「あんまお腹埋めるとまずいんでパンひとつくらいですよ」

豊音「どれもおいしそうで迷っちゃうなー」

京太郎「コッペパンとか安定ですよ」

豊音「それもおいしそうだけどー……うーん……」

豊音「お好み焼きパンちょーおいしいよー!」

京太郎(選ぶのに10分もかかってた……)

京太郎「鰹節、口元についてますよ」

豊音「うわわっ、こっち?」フキフキ

京太郎「右です」

豊音「こっち?」フキフキ

京太郎「もうちょい下」

豊音「うーん……」フキフキ

京太郎「ここですよ」ヒョイ パクッ

豊音「……」カァァ

京太郎「どうかしました?」

豊音「す、少し恥ずかしかったかな……って」

京太郎「あっ……すんません」

豊音「こっちこそ、ごめんだよー……」カァァ

豊音(これ、これってよく考えたらテレビとかでよく見る間接キス、なのかな)

豊音(恥ずかしい……よー)カァァ

豊音(でもでも、口元なわけだからノーカンじゃないっかなー……)

豊音(やっぱり恥ずかしいかも!)カァァ

京太郎「……っと、ここかな?」

豊音「あっ!塞たちがいる!」

京太郎「咲……ぅゎ」

豊音「須賀くんも早く行こうよ!」

京太郎「いや、俺は……いいですよ」

豊音「なんで?」

京太郎「……どうせ、省かれてんですから」

53 名前:以下、転載禁止でVIPがお送りします[] 投稿日:2014/03/17(月) 03:29:44.86 ID:DckyGLxh0
豊音「えっ!?そんなことないよー」

京太郎「ほら見てくださいよ、あそこの席、姉帯さんが座ったらもう空きが無いんですよ」

豊音「あ……本当だ」

豊音「でもでも!部長さんが頼んで一個椅子が運ばれてきたよ?」

京太郎「……子供用じゃないっすか」

豊音「……酷い!」

豊音「須賀くんは良い人なのに酷いよこんなこと!」

京太郎「姉帯さん……」

豊音「須賀くんも一緒に来て!私が部長さんを説得するよー!」ズンズン

京太郎「姉帯さん……」

豊音「うわっ」コケッ

京太郎「姉帯さん……」



京太郎「すみません、俺のために姉帯さんの席まで移動してもらって」

豊音「ぼっちは寂しいのはちょーわかるからね」

豊音「それに、須賀くんが目の前にいるから私は楽しいよ」ニコッ

京太郎「そうっすね、俺も同じっす」

豊音「えへへー」

豊音「おいしそうなケーキがいっぱいだよー」

京太郎「どれにするか迷いますね……」

豊音「こっちの苺のケーキとこっちのチーズケーキの耐え難い誘惑がー!」

京太郎「んじゃ、分け合いっこしません?」

豊音「分け合いっこ?」

京太郎「俺と姉帯さんでこれ頼んで半分こにするんすよ」

京太郎「それならどっちも楽しめますよ」

豊音「須賀くんちょー頭良いよー!」

豊音「なでなでしてあげるねー」ナデナデ

京太郎「そんな、犬じゃないんすから」

京太郎「どっちから食べましょうか?」

豊音「んー……こっち!」ズビシッ

京太郎「苺の方からでいいんですか?」

豊音「あぅ……やっぱりチーズの方!」ズビシッ

京太郎「本当に良いんですか?」

豊音「うぅ、どっちか迷うよー」ウルウル

豊音「はい、須賀くんあーん」

京太郎「あーん」パクッ

京太郎「これもおいしいっすね」ムシャムシャ

豊音「私の目に狂いは無かったんだよ、えっへん!」

豊音「須賀くんも、私にあーんして!」

京太郎「はい」

豊音「あーん」パクッ

豊音「やっぱりおいしいねー」

京太郎「ですねー」

豊音「こーゆーの憧れだったんだー」

京太郎「憧れ?」

豊音「うん、こうやってあーんして食べさせ合うのがね」

豊音「テレビで何回も見て、私もいつかはーって」

京太郎「その憧れの相手が俺で良かったんですか?」

豊音「勿論だよー」

豊音「って!須賀くんのことが好きってわけじゃないよ!」

豊音「あ、いや、好きだけど、それは違うって言うかな、え、えーっとぉ……」

豊音「そのぉ……ぐすっ」

京太郎「なんで泣きだすんすか……」



塞「トヨネーそろそろ帰るよー」

豊音「うんー!」

豊音「須賀くん、今日は本当にありがとうね」

京太郎「こちらこそ、ありがとうございました」

豊音「……なんだか、寂しいね」

京太郎「俺で良かったら、またいつでも付き合いますよ」

豊音「ええっ!そんなの須賀くんに悪いよー」

京太郎「俺もまた、姉帯さんとどこかに遊びに行きたいので、気にしないでください」

豊音「あっ、じゃあふるふるしようよ!」

京太郎「ふるふる?」

豊音「ラインの機能だよ!」

豊音「須賀くんもスマホ持ってるでしょ?」

豊音「ラインやってないの?」

京太郎「いや……俺ガラケーなんで」

豊音「ご、ごめんねー」

京太郎「謝る必要ナッシングっすから!むしろ傷つきますから!」


塞「それじゃあ今日はお疲れ様でしたー」

胡桃「ほらシロ立って歩く!」

白望「匍匐前進で十分……」

エイスリン「シロ、ゾウキン!」

白望「それ傷つくなぁ……」


久「私たちもさっさと帰りましょう」

まこ「今日は疲れたわい」

優希「早くタコスが食べたいじぇ!」

咲「楽しかったねー」

和「そうですね」

京太郎「俺も何だかんだで疲れましたよ」

久「……誰?」

京太郎「そんなんだから疲れるつってんですよ!」




豊音『須賀くん須賀くん!』

京太郎「なんだい姉帯くん」

豊音『おぉ!今回は正解だよー』

豊音『えへへ、嬉しいなぁ』

京太郎「それで、今日はどうしました?」

豊音『団体戦優勝おめでとうって言いたかったんだ!』

京太郎「ありがとうございます、って俺は何もしてませんけどね」

豊音『ううん、須賀くんのサポートあってこその結果だよ!』

豊音『須賀くんも自信持っていいんだよー?』

京太郎「……姉帯さん」

豊音『私たちは今日海水浴行って来たんだー』

京太郎「海水浴っスか」

豊音『永水の人たちとで、ちょー楽しかったなぁ』

豊音『そうそう、石戸さんのおっぱいなんて海に浮かんでて凄かったよ!』

京太郎(何その光景ちょー見たいよー)

豊音『――――それで、振り返……ったら狩宿さんが犬神家になってて……ね……』

京太郎「姉帯さん?」

豊音『んぅ……はっ!』

豊音『ご、ごめん!ちょっと寝てた!』

京太郎「疲れてそうですし、もう終わりにしましょうか?」

豊音『全然そんなことないよ!』

豊音『私、まだ須賀くんとお話ししていたい!』

豊音『須賀くんとお話しするの、なんだかすっごく楽しいから……』

京太郎「……明日から個人戦が始まるのに疲れ溜めたら駄目ですよ」

豊音『わかってるけど、でも……でも……っ』

京太郎「……はぁ」

京太郎「あと五分だけですよ」

豊音『あ、ぅ、うん!』

豊音『……うぅ、五分経っちゃたよぉ』

京太郎「それじゃ、明日頑張ってくださいね」

豊音『須賀くんも男子の個人戦頑張ってね!』

京太郎「えっ」

豊音『ちょー応援してるよー』

京太郎「…………」

豊音『須賀くん?』

京太郎「もっもちろん!優勝してきてやりますよ!わははは!」

豊音『二人で優勝できたらいいねー!』

京太郎「でっすねー!」

京太郎(現在進行形で心が抉られる!)

豊音『おやすみ、須賀くん』

京太郎「おやすみなさい」

豊音『…………』

京太郎「…………」

豊音『須賀くんが切っていいよー』

京太郎「いや、姉帯さんのタイミングでいいですよ」

豊音『ううん、須賀くんが切ってよ』

京太郎「いやいや、姉帯さんが切っていいっすよ」

豊音「ううん、須賀くんが」

京太郎「姉帯さんが」

豊音「須賀くんが!」

京太郎「姉帯さんが!」


  ・  ・  ・  ・  ・  ・


京太郎(そんなこんなでさらに五分が経った)

豊音『すふー…………』

京太郎(すぐに寝ちまって、ほんと、見た目と中身が釣り合ってない人だよな)

京太郎(……よし、俺も寝よう)

京太郎「ほい、タコス」

優希「御苦労だったな犬、私の隣の席に座る権利をくれてやろう」

京太郎「取っといてくれたんだな、ありがとよ」

まこ「和も咲も頑張ってほしいのぅ」

久「あ、須賀君の愛しの彼女が映ってるわよ」

京太郎「姉帯さんはそんなんじゃないですってば」

塞「ほれ見たことか」

エイスリン「サビレタカンケイ!」

胡桃「あの一日でそんな関係に!?」

京太郎「違うって言ってますよね!?」

トシ「あの子、毎晩電話やらメールやらしていたわね」

塞「君、本当に豊音に何したのさ」

京太郎「何もしてませんよ」

塞「本当に?」

京太郎「本当に真剣にガチでマジっすよ」

エイスリン「ワルイヤツ、タイテイソウイウ!」

京太郎(誰だよこんな言葉覚えさせた人)

胡桃「よく言ったエイちゃん!」

京太郎(アンタかよ)

京太郎「俺はただ、道に迷ってた姉帯さんを喫茶店まで連れて行っただけっすよ」

京太郎「特に変なことは何もしてません」

塞「まーあの子人懐っこいもんね」

久「そういえば、咲ともすぐに仲良くなってたわね」

胡桃「トヨネの村、若い子がいなかったらしいから友達がいっぱい欲しいんだろうね」

塞「いやーでもウチの高校が仲の良い女子校で良かったよ」

塞「もし共学にでも行って恋愛のゴタゴタで豊音から友達が離れて行ったらすっごく悲しむと思う」

胡桃「ようやく作った友達に裏切られたら辛いだろうね」

京太郎「」ピクッ

まこ「そうじゃのう」

エイスリン「トヨネ、ヒキコモリ?」

優希「有り得るじぇ」

京太郎「」ピクッ

京太郎(どどどどどうしよう!)

京太郎(適当に笑って冗談でしたーとか言おうと思ってたけどこれじゃ無理があるじゃあねぇか!)

豊音『ウソ……須賀くん、そんな人だったんだ』

豊音『……泣いてないよー』

豊音『私は大丈夫だよ……っ、須賀くんは原村さんの応援に行ってきて』

豊音『ぐすっ……』

京太郎(アカン)

京太郎「俺!雉打ち行って来ます!」ドヒューン

エイスリン「キジウチ?」

久「男子のトイレよ」

エイスリン「Oh!」

エイスリン「キジウチ!キジウチ!キジウチ!」

胡桃「恥ずかしいからやめて!」

京太郎(とりあえず逃げ出してきたけどどうすりゃいいんだよ!)

京太郎(……夏みかんゼリー飲んで落ち着くか)チャリン

豊音「須賀くんだぁー!」ギュゥッ

京太郎「むぎゅぅっ!」

京太郎(背中に柔らかい弾力があるぜェ!)

豊音「須賀くん、忙しいのに応援に来てくれたんだね!」

京太郎「え、いやぁ、そのぉ……まぁ」

豊音「須賀くんが来てくれたんだから私も頑張らないと!」

豊音「ちょー嬉しいよ!」

京太郎「アハハ……アリガトウゴザイマス」

京太郎(言い出せねー!)

豊音「須賀くんは何飲んでるの?」

京太郎「夏みかんゼリーです、これは確か姉帯さんたちと同い年だったと思いますよ」

豊音「へぇー、おいしそうだね!」

京太郎「おいしいっすよ、一口要ります?」スッ

豊音「じゃあ一口だけ……」

豊音(これ飲んだら流石に間接キス……だよね)

豊音(…………)ジーッ

京太郎「さあ、グイッと」

豊音「や……やっぱりやめておくよー」

京太郎「えっ、これ美味しいですよ?」

豊音「そういうことじゃないんだけどー……」カァァ

豊音(これも憧れてたはずなのに……)

豊音(意識すると、ドキドキしちゃうよー)

京太郎「?」


ピンポーン

豊音「じゃあ、頑張ってね須賀くん!」

京太郎「あ……はい」

タッタッ…

京太郎(結局言えなかった……)ズーン

京太郎「やばいよ言いづらいよどうしよう」

京太郎「……部長の所に戻ろう」

京太郎「ただいま戻りました」

まこ「随分と長かったのぅ」

京太郎「姉帯さんと会っちゃいまして……」

まこ「結局誤解されたまんまだったんか」

京太郎「誤解……ってなぜそのことを」

優希「さっきお団子の人が京太郎も頑張ってーってな」

京太郎「あぁ……」

豊音「……」タン

憩「ロン、3900ですーぅ」

豊音「……はい」

豊音(うぅ、集中できない……)

京太郎『一口要ります?』

豊音(間接キスが頭から離れないよー!)

憩(姉帯さん、大丈夫かなぁ?)

豊音(どうして私、あんなに意識しちゃったんだろう)

豊音(須賀くんとすることに……胸がドキドキしちゃって)

豊音(なんでなんだろう……)

憩「ツモ、16000オールですーぅ」

豊音「えっ」

豊音(須賀くんのこと考えすぎて、荒川さんにしてやられちゃった)

豊音(……決勝戦、行けそうにないなー)

豊音(須賀くんに約束したのに……)

豊音「……ぐすっ」

京太郎(まさか宮守の人たち全員に誤解されてるとは……)

京太郎(姉帯さんがトんだのも、俺が変なプレッシャー与えちゃったからかもしんないし)

京太郎(マジどうしよ)

京太郎「はぁ……」



京太郎「はぁ……っ!?」

豊音「ぐすっ……」

京太郎(偶然てすげーなオイ)

豊音「須賀くん……」

京太郎(なんか呼ばれてるし)

京太郎「呼びました……?」

豊音「えっ」ビクッ

京太郎(デジャブを感じる……って、泣いてるじゃねえか)

豊音「須賀くん、どうして――ぐすっ」

京太郎(名前呼んでたってことは、やっぱ俺が関係してるってことなんだよな)

京太郎(……今度こそ、ちゃんと言うんだ)

京太郎「俺、ただの雑用なんすよ」

京太郎「個人戦なんて県予選で初戦敗退でした」

京太郎「ここに来たのはみんなの付き添いで……でも俺には、何もできないから」

京太郎「何もすることが無いから、雑用をしてただけなんですよ」

京太郎「それで姉帯さんに出会って、変な誤解をさせてしまって……」

豊音「全くもってそんなことないよ!」

豊音「勝手に誤解しちゃったのは私の方で、約束したのも、気にしてたのも私だもん!」

京太郎「元はと言えば、俺が姉帯さんの誤解を正さなかったから……」

豊音「もう、それ以上言ったらちょー怒るよ?」

京太郎「うぐっ……それはご勘弁で」

豊音「私は大丈夫なので、須賀くんも気にしなくていいよー」

豊音「須賀くんって、少しネガティブだよね」

京太郎「ネガティブ……」

豊音「でもでも、話してると楽しくて、頼もしくて、ちょーかっこいい」

豊音「私、頑張って来るから須賀くんは応援してくれると嬉しいな」

京太郎「……わかりました」

豊音「うんっ!」


ピンポーン

京太郎「もう行かなくちゃ……遠くからですけど、応援してます」

豊音「……ね、須賀くん」

京太郎「はい?」

豊音「おまじない、手伝ってくれるかな?」

京太郎「え―――――」

京太郎「もう行かなくちゃ……遠くからですけど、応援してます」

豊音(また、胸がドキドキしてるよー)

豊音(……さっきとほとんど同じ)

豊音(……私、須賀くんと離れたくないんだね)

豊音「……ね、須賀くん」

京太郎「はい?」

豊音「おまじない、手伝ってくれるかな?」

豊音(頑張るための、おまじない)

京太郎「え―――――」

豊音(これが、きっと――――)



豊音(恋をするって気持ちなんだねー)


京太郎「―――――っ!?」


豊音「じゃっ、じゃぁ、そういうことだから!」アセアセ

京太郎「え…………」

京太郎(……つまり、そういうことなのか?)

京太郎(そういうこと、なんだよな)

京太郎(……ファーストキス、奪われた)

京太郎(それからの姉帯さんの活躍は凄まじかった)

京太郎(並みいる全国の強豪をちぎっては投げ、またちぎっては投げる)

京太郎(その様相は、人喰いこそはしないもののまさに巨人だった)

京太郎(振り向けば遠ざかっているその背中を喩えて「背向の豊音」と呼ばれるようになった)



差出人:須賀くん
宛先:姉帯豊音
――――――――――――――――――――――――――
試合が終わった後で
20XX年8月1X日
――――――――――――――――――――――――――
伝えたいことがあるので、読んだら返事ください



To:姉帯豊音
From:須賀京太郎
――――――――――――――――――――――――――
Sub:Re:試合が終わった後で
――――――――――――――――――――――――――
いいよー(^O^)
どこに行けばいいのかな?



京太郎(そんなわけで二人っきりになったけど)

豊音「……」モジモジ

京太郎「……」

豊音「……」モジモジ

豊音(昼間は誤魔化しちゃったけど、ちゃんと言わないと……)

京太郎「……」

京太郎(こういうのって男の役目だもんな……)

京豊「「あのっ!」」

京太郎「……」

豊音「……」


 ざわ……            ざわ……
        ざわ……            ざわ……


京太郎(くッ!)

京太郎(空気が、重い……ッ!)

豊音(須賀くんの表情……私、ダメだったのかな)

豊音(……そうだよね、私みたいなぽっと出のノッポ、略してのっぽ出な娘なんてイヤだよね)

京太郎(ここで怖気づいてどうする須賀京太郎!)

京太郎(姉帯さんの気持ちに応えるんだ!)

京太郎(いやぁ……でもいざ言うとなるとなぁ……)

京太郎(あっ、ソーダ)

京太郎「姉帯さん」

豊音「なっ、なにかな?」

京太郎「目、瞑ってくれませんか?」

豊音「うん……」

京太郎(何も、想いを伝える方法は言葉だけじゃないんだ)

京太郎(……多分、感づかれてるだろうけど)

京太郎(はぁ……つくづく、俺のチキン加減を思い知らされるぜ)

京太郎(麻雀も、恋愛も)

京太郎(焼き鳥だけに)

豊音(これって、よくテレビで見るチューの場面……だよね)

豊音(ということは、ダイジョーブなのかな)

豊音(……でも、何もしてこないよー?)

豊音(ということは、エスケープされたのかなー……)ジワッ

京太郎(なんでまたまた泣き出してんだよ……)

京太郎(まぁ……そういうところも、可愛くて)

京太郎(それで、俺はこの人を好きになったんだ)


チュッ

京太郎「えっと、では、改めまして」


京太郎「俺は、貴女のことが……好きです」


豊音「―――うんっ!」


豊音「私も、須賀くんのこと大好きだよー」




 某年3月16日

 今年のこの日も、俺と姉帯さんは一緒に居た

「須賀くん須賀くん」

「なんだい姉帯くん」

「今年の誕生日プレゼントは何かなー?」

「帰って来てからのお楽しみですよ」

「そっか、ちょー楽しみだよー」

「楽しみにしすぎてプロ初のオープン戦でやらかさないようにしてくださいよ」

「わ、わかってるよー」

「というか、私が大会でいなくて成績がガタ落ちしてた須賀くんには言われたくないかなー」

「それはしょうがないというか……姉帯さんのことが好きなんですもん」

「あー言えばこー言うね、須賀くんは」

「須賀くん、今日もおまじない!」

「よく飽きませんね、ホント」

「心の中が幸せでいっぱいいっぱいになって気持ちいいんだよー」

「いっぱいいっぱいになったらダメでしょうが」

「ありゃ、そうだったねー」


 つま先で身長差を埋めて、短く唇を繋げる

 大事な試合の前の恒例行事になっているこの行為を終えると、姉帯さんはきまって―――


                      _____
                    ...:::´::::::::::::::::::::::`::.、
                  /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
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                 ‘::::::::|:::::/::::l:/ , ,,,/::::::/ 〉   |:::::::|
                 ‘::::::l:::/:::::/    /:::/     |:::::::|
                |:::::|/:::::/、_,  // v ¬  八:::リ
                     /::::/:::::/::::::}\/   `ニ゚ /::::∨     「それじゃ、頑張って来るよー」
               /::/::/:::::::::|/_≧=┬ ...イ::::l|:::::|
.            /::/::/:::::::::::::/     /_〕 ̄]:::/l|:::::|
.            /::/::/:/:::::::::::::/---=ニ二\/::/ |:::::|
         /::/::/::::/:::::::::::::/ニ/ニニニニニニ∨\」:::リ
        /::::/:::/::::/::::::::::/ニ/二二二二二{ \/::/
        /:::::::/:::/::::/::::::::::/ニニ/二二二二二/\/::/
.     /::::::::::::l:::/:/::::::::::/ニニニ{二二二二二/ニニ∨
..  /::::::::::::::::::|::l::::::::::::::::/}二二二|二二ニニニニ/ニニニ、
 /:::::::::::::: : /|::|::::::::::: /ニi二二二|二二二二/二二二}


――――と、笑顔になる


 その幸せそうな笑顔を見るたびに、俺が生きる意味を実感させられる

 ああ、俺は姉帯さんの笑顔を見るために生きているのだ、と思ってしまう

 そして、これからも俺はそのために生きていくんだろうな、とも思ってしまう


 ――――でも、今日からは少し違う

 誕生日プレゼントの内容をまだ知らない姉帯さんを見送った後、

 豊音さんとの新しい生活と豊音さんの笑顔を夢見て、俺は今夜の予行演習を始めた




カン