優希「むむむ……来た、これこそデスティニー入り目だじぇ! リィィィーーーチ!!」

和「通りません、高目です。タンピン三色ドラ、8000は8900」

優希「あわわわわ」

久「あらら、やっちゃったわねー」

咲「すごい……東場の優希ちゃんをそんなあっさりと……」

京太郎「……」


  ガチャッ

まこ「おぃーっす」

久「遅かったじゃない。もう始めちゃってたわよ」

まこ「ああ、ちょっと担任に呼びとめられてな……あん?」

咲「あれ、どうかしましたか?」

まこ「……あー、どうもよくわからん状況が目の前で展開されてて、ちょっと面喰ったというか」

和「よく分からない、ですか? 別にいつも通り、麻雀を打っているだけだと思いますけど」

まこ「……いや、これは明らかにおかしいじゃろ」

まこ「優希、お前いつから京太郎の膝に座って麻雀打つような関係になったんじゃ?」

優希「へ?」

久「……自然すぎて流してたわ」

和「……道理で今日は、少し目線が高いなあと」

咲「えっ、みんな気付いてて流してたんじゃ……」

まこ「んで、なにがあったんじゃ?」

京太郎「呪いです」

優希「実は、この犬今日の貢物を忘れてきたらしくて~」

京太郎「呪いです」

優希「それで罰として座布団がわりに使ってやってたんだじぇ!!」

まこ「なんじゃそりゃ」

咲「えっと……優希ちゃん。その、あんまりそういうのはいい気がしないかなぁ……」

優希「いいのいいのー! これは躾だじぇ!」

まこ「いいんかい? 生徒代表の目の前でこんな悪行が行われてるっつーのに」

久「イジメに発展したら止めるわ。両者の合意の上で他人に迷惑をかけないようならいいんじゃない?」

京太郎(……やっぱり呪いのことは伝えられないのか……)

優希「へへん、仕方ない。このへんで許してやるか!」



――― 部活終了後

優希「京太郎ー! 一緒にタコス買いに行こうじぇー!」

京太郎(くっ……来たか……だが!!)

京太郎「なーんで一緒に行かなきゃなんないんだよ!!」

優希「買い忘れたお前が悪い! ほら、つべこべ言わずにしゅっぱーつ!!」

京太郎「それなら皆で一緒に帰った方が楽しいだろ! そうしようぜ、な!?」

優希「んー? そうかも……」

京太郎(アプローチ! 『一緒に帰る』程度ならさすがに成功するはず……)


咲「あ、京ちゃん、私今日はちょっと用事があって……」    MISS

和「私もちょっと外せない用事が」   MISS

久「そうだ、まこ。この後暇? 手伝ってほしい作業があるんだけど」  MISS

まこ「はぁ!? またかい……仕方ないのう……」  MISS


優希「おやおや、これはこれは」

優希「今日は二人っきりみたいね、ア・ナ・タ♪」

京太郎(モロ裏目ったぁぁぁーー!!!)



優希「にゃっはっはー♪ 特選タコスみっつー♪」

京太郎「……」

優希「……京太郎、暗い!!」

京太郎「……なんだよいきなり」

優希「今朝から思ってたけど今日の京太郎は暗すぎ!! スイッチ入ってるのかー!!」

京太郎「スイッチってなんだよ」

優希「むむむ、さてはお前、私によからぬ感情を……」

京太郎「ないない」

優希「なっ、即答だとー! 犬のくせに生意気な奴だな!!」

京太郎「誰が犬か!!」

優希「んーじゃあ京太郎、ほい!」

京太郎「今度はなんだ?」

優希「理由はわかんないけど元気がない時は食べて忘れるのがイチバンだじぇ!! ほら、タコス分けてやるからありがたくおもえ!」

京太郎「もともとは俺の金だろうが……って、た、食べかけかよ!?」

優希「……新しいのは二つとも私の! 犬には食べかけで十分だ! ほら、京太郎、口開けろー!」

京太郎(間接キスイベント……駄目だ、確実にあがってきてる……)

京太郎(無意識だからまだ大丈夫……なのか?)

優希「んー? もしかして、京太郎的には『あ~ん♪』の方がよかったか?」

京太郎「アホか。自分で食えるっつーの」

優希「はぁー、せっかく美少女が『あ~ん♪』してやるっていってるのに……京太郎はモエーってものが分かってないから困るじぇ」

京太郎「シチュエーション自体は非情にそそるものがあるが、相手がなあ」

優希「やれやれ、手のかかる犬だじぇー」

京太郎「犬で結構。ほら、くれ」

優希「ん!」


     カサッ  ぴとっ

京太郎(……今、手が触ったけど、わざとか?)

優希「……ん? どうした? 食べないのか? 竜田揚げ嫌いか?」

京太郎「……いや、冷めてるなぁって……」

優希「その代わり、美少女エキス満天!! 食べるとキュンキュン~♪」

京太郎(考えすぎ、だよな……さすがに……)

優希「さーて、お互い腹ごしらえもすんだし~」

京太郎(そろそろ離れないと色々とヤバい……主に俺の未来がヤバい……」

京太郎「特に優希へのアプローチは成功しても失敗しても好感度があがるから、なんとかして避けたいのに)

優希「買い物だな!」

京太郎「……は!?」

優希「実はこの前、面白い参考書を見つけてな。京太郎もアレを読めば一発で強くなれるじょ!」

優希「いつまでもカースト最下位じゃあさすがに可哀想だもんなー。私優しいー」

京太郎「……そうか。じゃあ買ってきて明日見せてくれ」

優希「明日といわず今から見に行けばいいじゃん! ほら、行くじぇー京太郎!!」

京太郎「ひとりで行け! 俺は変える!」

優希「えー!! 買い物ー!! かーいーもーのー!!」

京太郎「ワガママ言うな! 俺も用事があるんだよ!」

優希「嘘つけ! 京太郎に限って用事があるなんてない!!」

京太郎「どこからくるんだよその自信は!!」

優希「知らん!!」

京太郎「威張るな!!」



――― 本屋
優希「ふんふんふーん♪」

京太郎(こうなりゃ徹底的に無関心で行く……それでシラけさせて今日はお開きだ!)

優希「見ろ京太郎!」

京太郎「あったかー?」

優希「セクシーグラビア!!」

京太郎「ぶっ!!」

優希「あははははー!!」

京太郎「待ぁてこのタコスチビ!! いきなりなんてもんを持ってきてんだ!」

優希「……京太郎」

京太郎「ああ!?」

優希「私が何の考えもなくこのグラビア雑誌を持って来たと思うか?」

京太郎「……どういう意味だ」

優希「私の目に狂いがなければ……このひと、のどちゃんとだいたい同じくらいのプロポーションだじぇ!!」

京太郎「マジか!? ちょっと貸せ!! ……これが、和の……身体……」


     ピロリロリン♪              メールシタヨー

京太郎「……何した」

優希「……記念撮影?」

京太郎「……誰に送った」

優希「……のどちゃんとー、咲ちゃん?」

京太郎「……」

優希「……えへ♪」

京太郎「お前はあああああああああ!!!」

優希「わわわ、な、い、いきなり怒るなんてカルシウム不足か!?」

京太郎「これが怒らずにいられるか!! なんでお前はそう、面倒な方にばっかり!!」

優希「うっ……うるさーい!! 犬のくせに主人に逆らう気か!」

京太郎「誰が主人だ!! そうやってお前はいっつも勝手なことを!!」

優希「うるさいうるさいうるさーい!! 私がなにしようと私の勝手だー!」

優希「まったく、京太郎のくせに今日はいつにもまして生意気だじぇ!」

京太郎「……もういい、もう知らん!! 俺は帰る!!」

優希「へっ? えっ……」

京太郎「じゃあな!」

優希「……帰っちゃった」

優希「……まったく、レディを一人残して帰るなんて、男としてなってないやつだじぇ!!」

優希「普通はエスコートするもんだって明日キチンと教えなきゃなー」

優希「……」

優希「……いっそのこと、本当に送っちゃおっかな……コレ」

優希「……」

優希「やーめた!! 折角手に入れた弱みをばら撒くなんてしたら弱みの効果が薄れちゃうもんね」

優希「これはしっかり保存して、いつかギャフンと言わせてやろう!」


―――


京太郎(ヤバい、ヤバい、マジヤバい……)

京太郎(あれはかなりのミスだ……あれがプラスに変わるなんて、考えたくもない……)

京太郎(あれでどこまで行く……? どこまで高くなる……?)

京太郎「……とりあえずは、メールを送ったっていう誤解をとかないとな……」

京太郎「メールで謝るか、会って謝るか……」

京太郎「付き合ってるわけでもないのに会って謝るのは重い、か……?」

京太郎「今の距離感なら、アプローチとしては、メールで謝るのが正解……?」

京太郎「いや、メールだと後残る……明日さらっと謝った方が……」



――― 翌日

優希「おーっす京太郎ー!! 元気出たかー!!」

京太郎「……」

優希「ありゃ、死んだ犬の目……おーい、起きてるかー?」


―――


和「メール、ですか?」

咲「優希ちゃんから?」

京太郎「そう! あれさ、信じてもらえないかもしれないけど実は誤解で」

和「私、昨日は優希からメールを貰ってませんけど」

咲「私も。昨日は何にもなかったなー」

京太郎「……へ?」

和「……メールが、どうかしたんですか?」  MISS

京太郎「い、いや、受け取ってないんならいいんだ! うん!」

咲「……?」  MISS


―――


優希「……」

京太郎「……はぁー……」

優希「……もしかして、昨日のことまだ気にしてる?」

京太郎「あー、そうだなー」

京太郎(自爆は痛い……この呪いだと、いかに現状維持するかも重要になってくるんだ……)

京太郎(そういえば、昨日からなんだかんだで働きかけると失敗してきた……)

優希「その……うー……そ、そんなにヘコむなんて京太郎らしくないじぇ!!」

優希「ほら、いつもみたいに『お前のせいだろうが馬鹿優希ー!』って!」

京太郎「あー、そうだなー」

京太郎(いっそ交友関係を全部断ってみるか? でもそれじゃ今までの失敗分のフォローが出来ない……)

優希「……べ、別にいつものことなのにそこまで落ち込まなくてもいいじゃん……変だじょ、京太郎……」

京太郎「ほんとになー」

優希「……その、ごめん……な?」

京太郎「あーはいはいすごいなー」

京太郎(クソッ、呪いを解く方法さえ分かれば……)

優希「……」

優希「……京太郎」

京太郎「……ん?」

優希「話、聞いてるか?」

京太郎「……」

京太郎(……テキトーに相槌打ってて話聞いてなかった。まぁ、コイツの話なんてどうせタコスか麻雀の話だろ)

京太郎「アレだろ? 確かにすごかったよな」

優希「……」

京太郎「あ、あれ? あれ、だよな、えーっと……」

優希「……京太郎の、馬鹿」 MISS


    てててっ

京太郎「……あ、あれっ……違った……?」

京太郎「おかしい、いつもならあれで乗り切れたはずなのに……」

京太郎「……まさか、好感度上昇で会話の内容が変わってきてる……?」

京太郎「もうそんなにあがっちまったってのかよ!? クソッ、はやくなんとかしないと……」



――― 部活

京太郎「……」

優希「……」

和「……」

咲「あ、それカン」

京太郎(き、気まずい……朝のことがある分余計動き辛い……)

咲「来ました、ツモです。リンシャン白ドラ赤、4000オール、ラス親トップでアガリヤメです」

優希「……」

和「優希、体調でも悪いの?」

優希「……ちょっとタコスぢからが足りなかっただけだじぇ」

和「……そうですか」

京太郎(和からの視線が痛い……いつもなら『和がこっち見てる、ラッキー!』って思うべき場面なのに……)

咲「あ、京ちゃんハコ?」

京太郎「親に不可思議な手あがられたせいでもう一本も残ってねえよ」

優希「……」

京太郎(おかしい、今のは『まったく、成長しない犬だじぇ!』とか言う場面だろ!!)

京太郎(なんで黙ってる!? なんでちょっと俯いたままなんだよ!?)

和「……」 MISS

京太郎(そしてなんでそこで下がる!?)

咲「そっか、ハコかぁ……じゃあ京ちゃん、買い出しお願いできる?」

京太郎「はぁ!?」

咲「負けたから買い出し! ってことじゃ駄目?」

京太郎「なんだよそんなルール、聞いてないぞ!」

咲「あ、ごめん……そうだよね、これじゃちょっといきなりすぎるか。だったら」

京太郎(……あ、駄目だ。これは断ったら下がる展開だ……穏便に、穏便に……)

京太郎「……いや、でもそういうのも面白いかもな」

咲「もう一局打って……ホント!?」  GOOD

京太郎(初の好感触! これなら、すぐに失った分も取り戻せ……)


―――


京太郎「で、お前と買い出しか」

優希「……ん」

京太郎「……」

優希「……」

京太郎(結局、二人になっても気まずいのは変わらない、か……どうしたもんかな)

京太郎「タコスは買わなくていいのか?」

優希「……いい」

京太郎「……」

優希「……」

京太郎「あーもう!!」

優希「ッ!?」

京太郎「お前ここで待ってろ!! 俺ちょっと買い物行ってくる」

優希「い、いきなりなにを! っていうか、一人でどこに行くつもりだー!」

京太郎「買い忘れたもんがあるんだよ! すぐ戻るからそこで大人しくしてろ!」

京太郎(とりあえず、このまま優希を連れて帰ったら和の好感度が下がり続ける、それだけは何とか避けたい)

京太郎(ここは一旦こいつを元気にするのが最優先だ)

京太郎(そうと決まれば、やることは一つ!)


    ダダダダダッ


―――


京太郎「よう、待たせたな」

優希「……なに買い忘れたんだ?」

京太郎「コレだよ。ほら、食え」

優希「……あ、特選タコス……」

京太郎「元気がない時は食べて忘れるのが一番なんだろ?」

京太郎「これで昨日の件と、今朝の件はお互いに忘れる。それでもうこの話は終わりだ!」

京太郎(力技な気もするけど……優希相手ならこれくらいでも大丈夫なはず……)

優希「……」

京太郎「駄目か?」

優希「……んー、京太郎がそこまで言うなら……」

京太郎「じゃあこの話はここで終了! タコス食ってさっさと帰るぞ!!」

優希「うん!」

京太郎(よし成功! これで和や咲の評価も下がらなくなる!!)

優希「……ふっふっふ、それにしても、お前もようやく主人に奉仕する心が芽生えてきたみたいだな!」

京太郎「はあ?」

優希「いやぁー、まさか黙っててもタコスを持ってくるようになるとは」

優希「麻雀はへたっぴーなままなのに躾の成果はグングン出てるじぇー!」

京太郎「……お前はぁ! いっつも一言余計なんだよ!!」

優希「名犬京太郎の働きに免じて今朝のことはトクベツに忘れてやるじぇ!! ありがたく思え、犬!」

京太郎「……はぁー。はいはい、どうもありがとうございます」

優希「よぉーし!! のどちゃんたちもきっと待ちくたびれてるじぇ!! 帰るぞ京太郎!!」  PERFECT!!!

京太郎「……!? い、今なんか、好感度が爆上がりした気が……」

優希「どうした京太郎! おいてっちゃうぞー!!」

京太郎(優希の好感度が青天井で進んでってる……このままじゃホントに……)

優希「ったく、手のかかる犬だなー! ほら!!」


      ギュッ!           GOOD!

京太郎「へっ……なっ!? お、お前、手っ……! っつーか好感度!?」

優希「ほら、行くぞー! ったく、今度から首輪と紐も用意しとかなきゃ!」

京太郎「わわわ、引っ張るな、引っ張るな!! 自分で歩けるから!!」

優希「いーや! どうせ京太郎のことだからへーんなこと考えて途中で立ち止まっちゃうに決まってる!」

優希「こうやって飼い主が引っ張っていって面倒みてやらないとなー!!」    GREAT!!

京太郎(逃げ場がない強制イベントで、会話の度に好感度上がってくとか、んなもんありかよぉぉぉ!!!!)



――― 部室

優希「たっだいまー!! 買い出し、行ってきたじぇー!!」

まこ「おう、お帰りぃ。部長も来んで卓が割れとるから、物はその辺においてすぐ入ってくれー」

優希「はいはーい! ほら、行くぞ京太郎!!」

京太郎「ん? 俺が行ったら面子が余るだろ」

優希「お前は私の座布団! ほら、こい!!」

京太郎「ちょっ、だから引っ張るなって!」

咲「……よし!」  GOOD


―――


優希「行くじぇ、ダブルリーチ!!」

和「……元気、出たみたいですね」   GOOD

京太郎(お……)

優希「タコスのおかげで元気も百倍!! よし来たぁ!! ダブリータンピン一発オモウラ赤、4000・8000!!」

まこ「ふむふむ、不調だと聞いとったんじゃが……結構調子もよさそうじゃないか」  GOOD

京太郎(優希の機嫌が直ったことで、見直されてる……のか?)

京太郎(……しかし、今さら少しくらい好感度があがったところで……)

優希「へっへーん! どうだ、見てたか京太郎!」  GOOD

京太郎(こいつの独走状態を止めないことにはいくらあがっても結局焼け石に水だ……)

京太郎(なんとかして優希の好感度の変動なしに他のメンバーの……出来れば和の好感度をあげたい……!!)


―――


まこ「はっはっは、南入する前にハコ被るとは思わんかったわ。実戦でもそれが出れば負けなしなんじゃがなぁ」

優希「今日はたまたま、調子が良かっただけだじぇー」

まこ「んー、しっかし部長は遅いのう……この様子じゃ今日はもう来んかな?」

咲「会長職の方が忙しいんですかね?」

まこ「さぁなー。ま、今日ももう遅いし、勝手に切り上げても怒られんじゃろ」

優希「終わりかー。いやー、勝った勝ったー!!」

和「本当に、今日は……特に買い出しから戻ってきてからは、まるで手がつけられなかったです」

優希「タコスパワー爆発の一日だったじぇ。さ、じゃあ帰ろう、京太郎」

京太郎「ってちょっと待てぃ! なんでお前と一緒に帰ることになってんだ!!」

優希「へ? 帰んないのか?」

京太郎「今日はちょっと用事がある。だから部室で適当に時間潰すんだよ」

優希「またまたー、嘘ばっかりー!」

京太郎「残念、今日は本当だ。ほら、さっさと帰った帰った」

優希「ぶー……つまんないじぇ!」

咲「そっかぁ……でも、残念だなぁ。せっかく皆で一緒に帰ろうって話になってたのに」

京太郎「えっ」


―――


咲「じゃあ京ちゃん、戸締りお願いね」

まこ「あと頼んだぞー」

和「お疲れ様でした」

京太郎(……どうしてこうなった……)

京太郎(いや、待てよ……逆に考えれば、これはチャンスじゃないか?)

京太郎(優希が居ない状況に加えて、もしかしたらまだ部活を続けてると思ってる部長が来るかもしれない!
     
京太郎(好印象を与えるには……備品の整備でもしてればバッチリかな)

京太郎「そうと決まれば、よし、全力だ!!」



――― 一時間後

京太郎「……おかしい、一向に部長が来る気配がない」

京太郎「まさか、直帰した?」

京太郎「……あり得るな。染谷先輩あたりがメールで部活が終わったって連絡したとかで。
     ううむ、いい作戦だと思ったんだけどなー。時間の無駄だったか……」

京太郎「整備も一応一通り終わったし、これ以上待つのも面倒だな。今日は帰るか」


    キィッ……

優希「お、京太郎!」


    バタン

            ガチャッ!

京太郎「……やばい、呪いのせいでかなり疲れてるみたいだ……」
      
京太郎「だいたい一時間くらい前に帰ったはずの奴がいるなんて、そんなはずは……」


      どんどんどん!

   「こらー! 人の顔を見るなりドアを閉めるとはどーゆー了見だー!!」

   「わっ、鍵まで締めるなんて酷いじぇー!! おらー、あけろー、犬ー!!」


京太郎(なんなんだよぉ……なんでいるんだよぉ……)

京太郎(もうやだ、誰か助けて!)

京太郎「で、何しに来たんだ?」

優希「私、どうしてもアナタと帰りたくて……」

京太郎「理由重いわ!」

優希「なーんてな! ウソウソ! 実は忘れ物しちゃって、急いで取りに来たんだじぇ!」

優希「いやー、まさか部屋が空いてるとは思わなかったからさすがの私も思わずビビっちまったい!」

京太郎「忘れ物?」

優希「んーと……あったー! 携帯ー!!」

京太郎「……なんで携帯なんか忘れて帰るんだよ」

優希「まったくー! 制服はポケットが不便で困っちゃうよなー! 気が付いたら落ちちゃってて!」

優希「……あれ、そう言えば京太郎もそろそろ帰るのか?」

京太郎「ああ、そのつもりだけど……」

優希「だったら……折角だし、一人おいてかれて可哀想な京太郎のためにこの優希ちゃんが一緒に帰ってあげようではないか!」

京太郎(しまった、アプローチミスだ……! 今のは『もう少し居る』って言って先に帰すべきだったな……)

優希「よし、じゃあ帰ろー! ごーごー!!」

京太郎(……備品の整備をしてたから分かる。あんな場所に携帯は落ちてなかった……)

京太郎(まさかこいつ、わざわざ引き返して会いに来たのか……?)

京太郎(だとしたら……上がり過ぎてないか……コレ)

優希「二人きりなんていつ以来かしらねぇ? アナター♪」

京太郎「まだ一日もたってないだろ。だいたい三時間くらいか」

優希「むむ、空気の読めない奴め!」

京太郎「どう空気を読む流れだったんだよ、今の」

優希「それは京太郎が考えるべきことであって、私が考えることじゃあないな!」

優希……そういえば、今日の京太郎の用事ってなんなんだ?」

京太郎「呪いの説明書がコンビニに届く」

優希「……ううむ、聞かれて黙ってるところを見ると……まさか、浮気!?」

優希「これは大変な事になってきたじぇ……とりあえず、名探偵を探して!!」

京太郎「なんで浮気になるんだよ。コンビニで荷物を受け取って帰ることになってたんだっての」

優希「ふーん。荷物か……家に届けてもらうんじゃダメだったのか?」

京太郎「コンビニで代金引換で受け取るタイプの商品だからしょうがないんだよ」
     

京太郎「じゃあ俺はあっちのコンビニ行くから。気をつけて帰れよー」

優希「おーう! また明日なー!」

   ・ ・ ・

京太郎「……今までに比べれば、やけにすんなり引き下がったな……」

京太郎「呪いのことが知られないようにするための効果が働いてるのか?」



――― 翌朝

京太郎「ヤバい、マジヤバいぞコレは……どうしたもんか……」


    だだだだだっ

優希「おーっす京太郎ー!!」


        べしーん!

京太郎「痛っ!? なっ、優希!? なんでここに……」

優希「なーんか叩きたくなる背中があったからつい叩いちゃったけど、なんだ、京太郎だったのかー」
   
優希「いやー、まーったく気付かなかったじぇー」

京太郎「いや、お前知っててやっただろ!! しっかり名前呼んでただろうが!!」

優希「やれやれ、細かいことに縛られてちゃ大きくなれないじぇ?」

京太郎(いつもは会うはずなかった朝の通学路でまでエンカウント……確実にイベントが進んでる、ってことか?)

京太郎(ヤバいことになった……あの説明書の内容が本当なら……)


  【ヤバいこと要約】

  ・呪いの対象を邪険に扱った場合、心象が下がりつつ好感度はあがます
   つまり呪いの対象が『大好きだけど理解してくれない』『自分の愛が通じていない』状況になってしまいます
   あまり邪険にし続けると、心象に比べて好感度が高くなりすぎて愛が重くなり、最悪刺されます


京太郎(昨日の夜といい、今朝といい、だんだん愛が重くなってきてるってのは分かる……)

京太郎(つまり、優希から意図的に離れようとしてるのがばれてるってことか?)

京太郎(もしこのまま昨日までみたいに邪険にしてたらいつか……)


―――


京太郎『わっ、馬鹿、やめろ優希!』

優希『もう……もう、こうするしかないんだじぇ……』


     ザクゥゥッ!!

優希『……ふふふ、これでもう、ずーっと一緒だな。ずーっと、ずっと、私が面倒みてやるからな』


―――


京太郎「……」

京太郎(優希の好感度を上げればこのまま一生優希の犬……だけど優希の好感度をあげなきゃ刺される……)

京太郎(あれ……もしかしてこれ詰んでる? 逃げ場がなくね!?)

京太郎(いや、まだ、まだなにか残ってるはずだ……輝かしい未来への道が……)

優希「ん? どうした、顔が青いぞ。元気足りないのかー?」

京太郎「い、いや……まぁな」

優希「……うーん……だったら、元気注入が必要だな」

京太郎「ちょっ、なにする気だ!」

優希「ふっふっふ、痛いのは最初だけだ。ほら、優しくするから……」


    じりじり……

優希「見えた、ここだ!! 京太郎覚悟ー!」

京太郎(まさか、刺される!?)


       がばっ!

京太郎「……へ?」

優希「んーしょっと、動くなよー」


      もぞもぞ

京太郎「……えっと、なにしてんだ?」

優希「タコスに続く私の元気の源、セアミィアクセサリーだ!今日は特別にこれを貸してやる! ありがたく思えー!」

京太郎(思ったより……普通?)

優希「……うー、京太郎のお腹、太いから巻けないじょ……いつのまにこんなデブ犬になっちゃったんだ……」

京太郎「……男の腰と女の腰を比べるなよ。お前の腰が細すぎるんだろ」

優希「ふふん、そうかもな! なんてったって私、ナイスバディだからな!!」

京太郎「……」

優希「ナイスバディだからなっ♪」

京太郎「……そうか、よかったな」

優希「むっ、今、なーんかよからぬことを考えたな! いやーん、京太郎のえっち♪」

京太郎「お前の体のどこでよからぬことを考えろっていうんだよ。っていうか、お前、いつまで、その……」

優希「ぶー……腰は無理!! 京太郎、首!」

京太郎「首……って、それ首につけて過ごせってのか!?」

優希「他に付けられそうな場所がないだろ。首なら細いし、服の上だし、飼い犬の証明にもなるしな1」

京太郎「……腕とか肩とかでもいいだろ別に」

優希「京太郎の脇汗で汚されちゃったらたまったもんじゃないじぇ。ほらー、くーびー! くーびーかーせー!!」


      じたばたじたばた!!

京太郎「分かった、首でいい! 首でいいから暴れるな!! その位置で暴れるのはヤバい!!」

優希「へ? なにが?」

京太郎「いいから貸せ! 自分でつける! そして離れろ! いい加減暑苦しいわ!」

京太郎(……当たり前のように腰に抱き付いてきたかと思えば、この反応……)
     
京太郎(これはどっちなんだ……計算尽くか? それとも、本当に無意識で……)



――― 昼休み

咲「それで、京ちゃんがセアミィをつけてたんだ」

京太郎「ホント、困ったもんだって。外してるの見つけると怒鳴ってくるし」

咲「優希ちゃんも京ちゃんのこと心配してるんだよ、たぶん」

京太郎「だからってこれはないだろ。流石に」

咲「えー、似合ってると思うけどなぁ」  GOOD

京太郎「首動かしにくいし、暑いし、人には変な目で見られるし、その上汚すなって釘刺されて踏んだり蹴ったりな気分だよ」

咲「でも、元気は出たんでしょ?」

京太郎「……だったら咲もコレ付けて一日過ごしてみるか?」

咲「……それは、遠慮しておこっかな」

京太郎「成程、咲はこの蛇猫を付けて過ごすのが恥ずかしいって言いたいわけか。あとで優希の奴にチクっとくかなぁ~」

咲「へっ!? いや、そんな意味じゃなくて!!」

京太郎「なんてな。でも、咲ならこういう可愛いのも結構似合うんじゃないか? 俺と違ってさぁ」

咲「えっ……も、もう! からかわないでよ!」  GREAT!

京太郎(すごい、すごいぞこのアクセサリー……アプローチがどんどん成功する……)



<京ちゃんのこと心配してるんだよ

和「……」  MISS

<似合ってると思うけどなぁ

和「……」  BAD!

<からかわないでよぉ~!

和「……」  WORST!!



優希「んー? のどちゃんどしたー? 顔怖いじぇー」

和「いえ、さっきから視界の端に少し不愉快な物が」

優希「んー、どれどれー……おっ、咲ちゃんと京太郎だ!おーい! 咲ちゃーん!!」

和「あ、ゆーき……」


―――


咲「あっ、優希ちゃん!」

優希「二人も学食で食べてたのかー、いやー、気付かなかったじぇ!!」

京太郎「そういうお前は一人で学食か?」

優希「んーん、のどちゃんと一緒! おーい、のどちゃーん!!」

和「どうも咲さん。それに須賀君も」

京太郎(……あれ、和、なんか怒ってる……?)

優希「うむ、ちゃんと付けてるな! 感心感心♪」  GOOD

京太郎(あ、そういえば、キチンと付けてると好感度あがるんだよな……)
      
京太郎(外しててもアプローチ失敗で優希の好感度上がるし、一長一短か……どうするかな……)

優希「あれ? 京太郎、そんなに小食だったか?」

京太郎「首が圧迫されて喉を通らないんだよ。しかも汚すなって言われてるから余計気を遣うし」

咲「あー、だから今日はいつもみたいにランチ系じゃないんだ」

京太郎「そうそう、俺だって汚さないように結構考えてんだぞ。感謝しろ」

優希「借りた物を綺麗に使うのは人として当然のこと、出来て当然だ!」

京太郎「……お前は本当に、俺の気づかいを踏みにじるのが好きみたいだなぁ……」

和「……『いつもみたいに』?」  WORST!!

京太郎「ッ!?」

咲「……? どうかした、京ちゃん?」

京太郎(……今、見たこともないような好感度の下がり方が見えたような気が……)

京太郎(優希を邪険にすれば周りの女子の好感度が下がる。そして呪いが発動して、優希の好感度が上がる……)

京太郎(咲の好感度を上げてる場面を見られるとなぜか和の好感度が下がる。そして呪いが発動して、優希の好感度が上がる……)

京太郎(おそらく和の好感度を上げても、部長や染谷先輩の好感度を上げても……結局優希の好感度が上がる気がする……)

京太郎(助けてくれ……この無間地獄から……!)

優希「はい、アナタ、あーん♪」

京太郎「……なんだよいきなり」

優希「ごはん抜いたら後がきついだろーなーって思って」

優希「汚れるのが気になって食べられな言うから、仕方なく汚れないように食べさせてあげてるんだ」

京太郎「……だったら、コレ外させてくれよ」

優希「それは駄目~。外したら×2だじぇ!」

京太郎「……はぁ……」


   ・ ・ ・


咲「あの二人、仲いいねぇ。少し羨ましいなぁ」

和(……この雰囲気に咲さんの今の台詞……私も咲さんにあーんをするべき……?)



――― 部室

京太郎「……」

優希「~~~♪ ~~~~~~♪」

京太郎「……和と咲は?」

優希「買い出し。京太郎が来る前に出てっちゃったじぇ」

京太郎(よりにもよって、このタイミングでかよぉ……)

京太郎(優希の犬で終わるわけにはいかない……なんとか、ここはアプローチを起こさずに……)

優希「……そうだ、京太郎!!」

京太郎「ってそっちから来んのかよ!!」

優希「へ?」

京太郎「い、いや、なんでもない……それで、なんだ?」

優希「セアミィ、そろそろ返せ!」

京太郎「……人にいきなり押し付けてきて、んで今度はいきなり返せかよ。まぁ、こっちとしても首が楽になるからいいけど」


    しゅるしゅる

京太郎「ほら、ありがとな」

優希「うむ、確かに! ……ん?」

京太郎「どうした?」

優希「セアミィ……ちょっと湿ってる……京太郎汁が沁み込んじゃってる……」

京太郎「汁言うな! 汗だろ、汗!それに首に巻いたら汗が付くに決まってんだろ! 普通に考えて分かるだろ!」

優希「うぅ……汚されちゃったじぇ……ごめんね、セアミィ……ちゃんと京太郎に責任とってもらおうな……」

京太郎「さらっと恐ろしいことを口走るな」

優希「責任とってタコス買ってこーい!!」

京太郎「結局それかよ! ……ん? 待てよ……」

京太郎(タコスを買いに行く→部室から離れる→優希から離れてアプローチを行うチャンス!)

京太郎「ったく、まぁ、汚した俺も悪いしな。学食のでいいのか?」

優希「……今日はやけに聞きわけがいいな……もしや、何か企んでるのか!?」

京太郎「へーへー、お前からすれば俺の好意は全部悪巧みなんだな。で、何個買ってくりゃいいんだ? 特別に奢ってやるよ」

優希「ん? 別に買いに行かなくて大丈夫だじぇ? 断られると思って今日は自分で買ってきたからなー」

京太郎「……なんだと……」

優希「にゃははー♪ タコスウマー!」

京太郎(いや、いい方に考えよう……買いに行けばたぶん優希の好感度があがってた……)

京太郎(他の女子の好感度はあがってないが、優希の好感度もあがってない、±0なんだ……)

優希「京太郎もタコス食べるか?」

京太郎「……くれるのか?」

優希「あげない!」

京太郎「……じゃあ最初から聞くなよ」

優希「ふっふっふ、優越感に浸りながら食べるタコスもまた美味……今宵のタコスは一味違うじぇ……」

京太郎「あーはいはい、よかったなー」

京太郎(出来れば、このまま和と咲が帰って来てくれればいいんだが……どこまで買い出しに行ってるんだ? あの二人……)

優希「……」

優希「……なぁ、京太郎」

京太郎「ん?」

優希「……その……京太郎の膝、座ってもいいか?」

京太郎「 」

京太郎「 」

優希「聞いてるか? 京太郎」

京太郎「 」

優希「おーい、京太郎ー! 起きろー!!」

京太郎「……ああ、悪い。お前が誰かに対して許可を求めるなんてちょっと予想外すぎて」

優希「予想外とは失礼な奴だな! 私だって京太郎以外にはきちんと許可を求めてるじぇ!!」

京太郎「あーもう、分かった分かった!! ……それより、なんでいつもみたいに勝手に座らないんだ?」

京太郎(……ないきなりしおらしくなるなんて逆に怖い展開だな……予想外すぎて、どう動くべきか……)

優希「へ? 別に意味なんてないじぇ? 今日は聞いてから座りたい気分だったんだ!」

京太郎「って言われても……改めて聞かれるとなぁ……調子狂うっていうか」

優希「お前の調子なんか知ったものかー! うりうり、答えろー!座らせたいか?座ってほしいだろ? 座ってくださいって言えー!!」

京太郎「って駄目に決まってんだろ! お前はもう少しつつしみってもんを持て!!」

優希「……駄目?」

京太郎「ったく、いつもいつも座布団扱いしやがって。俺が好きでやられてるとでも思ってたのかよ」

優希「……そっか。ちぇー、京太郎はケチだじぇ」   MISS

優希「はぁー、座布団としても使えないなんて、こんな駄犬拾うんじゃなかったじぇー」

京太郎「普通は断るに決まってるだろ。つーか最近のお前は意味もなくベタベタくっつき過ぎだ」

優希「……くっつくの駄目か? 一緒の方が楽しいじぇ?」

京太郎「お前にとってはそうかもしれないけどな、それでももう少し距離を取れ。そうしないと、色々とヤバいから」

優希「そんなもんか?」

京太郎「そんなもんだ」

優希「そっかー。ところで京太郎」

優希「……京太郎の膝、座ってもいいか?」

京太郎「……」

京太郎「えっ」

優希「……駄目?」

京太郎(嘘だろ、パターン入った!?)


―――


優希「えへへ~♪ 京太郎椅子~♪」  PERFECT!!!

京太郎(卑怯だろ……それは卑怯だろ……)

優希「~~~♪ ~~~♪」

京太郎(強制イベントまで発生するようになっちまったのか……こりゃとうとう……)

優希「……」

京太郎(……もういっそ、このまま優希ルートに入るか……? そうすりゃもう何も考えなくて済むし……)
     
京太郎(いや、でも、これも可愛くないわけじゃないけど、半分以上呪いでこうなってるんだしなぁ……なにより質量が物足りない)

優希「……なぁ、京太郎」

京太郎「……どうした」

優希「こうやって、くっついてるとさ、色々とわかっちゃうな」

京太郎「……色々ってなんだよ」


      くるっ

優希「ふっふっふ、知りたいか?」

京太郎「お、おい、こっち向くな! この格好はホントにまずい!!」

優希「いーじゃんいーじゃん、別に減るもんじゃなし!」

優希「よいしょっ!」


        ぺたっ

京太郎「その向きで座るな!! ヤバいから!! 本当に! 他のメンバーの好感度的にヤバいから!!」

京太郎「……」

優希「それでだな、分かったことっていうのは他でもない……」

京太郎「……」

優希「……京太郎!!」

京太郎「……な、なんだ」

優希「人が話をしてる時は人の顔を見ろ! ったく、だから礼儀のなってない駄目犬って言われちゃうんだぞー。ほら、顔こーっち!!」


     ぐいっ   ぐいっ

京太郎「わっ!? 馬鹿、やめろ! 顔が、顔が近い!!」

優希「べつに今さら顔の距離なんて気にするほどのことじゃないじぇ!」
    
優希「それよりもな……こうやってぴたっとくっついて座ってると、普通じゃ分からないこともわかるってことに気付いたんだ」

京太郎「……た、例えば……なんだよ……」

優希「……例えばな……」

京太郎「……」

優希「……京太郎が湿ってるのは首元だけじゃなくて、全体的に湿ってるってこととか」

京太郎「……は?」

優希「お前、全体的にじっとりしてるじぇ! なんていうか、こう……」

京太郎「うるせぇ!! この暑い中ベタベタくっついてきてるお前が悪いんだろうが!」

優希「むっ、事実を指摘されて怒るなんて勝手な奴だ!」

京太郎「事実だとしても伝えていいことと悪いことがあるだろ!!」

優希「伝えなきゃいけないことならまだまだあるけどなー、他にはー」

京太郎「まだあんのか……っつってもどーせ、臭いとか、座り心地が悪いとかそんなんだろ?」

優希「それは聞いてのお楽しみって奴だ。京太郎、目ぇ瞑れ!」

京太郎「目? 目って……」

京太郎(……待て、これ、なんかフラグ臭くないか……? 言いだすのも唐突だし、普通に考えれば目を瞑る必要なんてない……)
     
京太郎(ここで目を瞑るのはなんかヤバい気がする、ここは好感度下がるのも覚悟の上で、逆を行くしかない!)

京太郎「バーカ、そんな手に騙されるかよ。どうせ目を瞑ったら最後、顔にラクガキでもしてくるんだろ?」

優希「そ、そんなことしないじょ! いいから目を!!」

京太郎「やだね! この前でさんざんこりたんだ。もうお前の好きにはさせるか!」

優希「……もういい!! 頭貸せ!!」

京太郎「あっ、痛っ、掴むな! お前、何を……」


         ガバッ!!  ぎゅぅぅ……

優希「……ほ、ほら……わかるか!?」

京太郎「な、なにが……?」

優希「……すっごいドキドキいってるだろ……私の胸……」

京太郎(ヤバい、この展開は、ルートが確定しようとしてる……逃げ切れるか!?)

京太郎(仕方ない……一時的に雰囲気をブチ壊すために、ここはあえて……)

京太郎「あ、ああ、そっちか! なんだ、俺はてっきり起伏がわかるかって聞かれたのかと……」

優希「最近な、なんかおかしいんだ……こう、もやもやするっていうか」

京太郎(聞いてねぇーーー!!!)

優希「それもこれも、全部お前のせいだじぇ!!」

京太郎「えっ、俺!?」

優希「……京太郎の、せいだからな……一緒に居ると苦しいのも、楽しいのも、全部」

京太郎「んなこと言われたって……」

優希「うっさい! お前のせいだったらお前のせいなんだ!! 責任取れ!」

京太郎(いきなり責任って、愛重すぎるだろ!! どうする、どうやって……)


       ガチャッ

咲「優希ちゃんお待たせー!」

咲「……」

優希「……」   ←  涙目で丁度胸の位置で京太郎の頭に抱き付いている

京太郎「……」   ←  抱きつかれてる

咲「そ、その……」

京太郎(なんでこのタイミングで帰ってくるんだよぉぉおおお!!)
     
京太郎(い、いや、逆にこのタイミングは神がかってる……これなら、さっきの告白もうやむやにできる!!)

咲「お、お邪魔s」

京太郎「やめろ優希、それ以上肋骨に押し付けるな! 硬いし痛いしむなしくなる!!」

優希「な、なんだと!? 肋骨言うな! 胸と言え、胸とー!!」

京太郎「お前の薄っぺらい肉が胸なら、世界は希望で溢れかえってるわ!! それよりさっさと!」

優希「犬のくせに生意気な奴め、たーっぷりお仕置きしてやるじぇ!! とうっ!」


     ガバァッ!

咲「……あれ、意外といつも通り……?」

和「咲さん? どうかしましたか?」

咲「う、ううん……なんでもない、かな」

咲(な、なんかすごく踏み込んじゃいけない空気だった気がするけど……気のせい?)



――― 帰り道

京太郎(なんとか一時的にルート確定は免れたけど……どうしたもんかな……)

京太郎(このまま優希の告白から逃げ続ければ間違いなく好感度上がり過ぎて包丁エンドだし……もういっそのこと優希と……?)

京太郎(いや、それはさすがに早計過ぎるか)

京太郎「はぁ~……せめて、呪いが解ければなぁ」

優希「なにか言ったか? 京太郎」

京太郎「呪いの解き方が分かんないかなって言ったんだよ」

優希「黙ってちゃ分かんないじぇ。もしかして、なにか悩みごとか?」

京太郎「……」

優希「ん? どしたー?」

京太郎「……いや、なんで当たり前のように隣に居るんだ?」

優希「なんでって言われても、京太郎が魂抜けたみたいな顔で歩いてるから事故らないか見守ってただけだじぇ」

京太郎(おかしい……今日はちゃんと見つかってないと居ないことを確認してから部室を出たのに……)

優希「あんまりぼーっとしてるようなら、また背中叩いちゃおっかなー、なんてな!」

京太郎(ストーカー性能が上がってる……もしかして、さっきの告白先延ばしが駄目だったのか……?)

優希「……それよりもな、京太郎。部室の話の続きなんだけど……」

京太郎「……」

京太郎(断れば明らかなアプローチミス、たぶんかつてないほどに好感度が下がる……いや、上がる、か?)
     
京太郎(下手に刺激して、刺される可能性を高めるくらいならもういっそのこと……)

京太郎(もういっそ、逃げるのはやめて、優希の好感度はあげっぱなしにする。そうすれば、呪いを解くことに専念できる……)

京太郎(アプローチを成功させ続ければ、刺される心配もないしな。よし、これで行こう)

京太郎「優希」

優希「な、なんだ!? どうした?」

京太郎「今日は手、繋がないのか?」

優希「……し、仕方ないな!! お前がどーしてもっていうんなら繋いでやらない事もないじぇ!!」  GOOD

京太郎「はいはい、お願いします」

優希「えへへ、ちゃんと自分からご主人様にお手ができるようになるなんて成長したな、京太郎!」

京太郎「犬扱いはやめろよ」

優希「ゼータク言うな! まったく、一回甘やかしたらすぐ調子に乗る!やっぱり私が、きちんとしつけてやらなきゃな~」

京太郎(……しおらしい方が可愛かったかも……)