――教室――

京太郎「ハーレムだぁ?」

モブ男1「だってそうだろ?女子5人に男子一人とか、これをハーレムと呼ばず何と呼ぶんだ?」

モブ男2「しかもあの巨乳美人原村さんに、陰で評判の学生議会会長。ほかの部員もかわいいじゃんか」

モブ男1「うらやましすぎだろお前」

京太郎「ハァ……」

モブ男2「なんだよ」

京太郎「いや、お前たちは何も分かってないんだなぁと思っただけだよ……」

モブ男1「何がだよ。どっから見ても勝ち組だろお前」

京太郎「……そろそろ部活の時間だから行くわ。じゃあな」



モブ男2「尻に敷かれたりしてんのかな、アイツ」

モブ男1「あぁ、そう言えば部の中じゃ一番麻雀弱いらしいな。雑用係でもやらされてるんかな」

モブ男2「それにしたって恵まれてるだろ」

モブ男1「全くだ」



京太郎(あいつらは全く何も分かっちゃいない)

京太郎(確かに俺が麻雀部にいるのは女の子が目的ではある)

京太郎(しかし、しかしだ、麻雀部は俺にとってのハーレムなどでは断じてない)

京太郎(そもそも俺があの中の誰かとくっつくということすら万死に値するタブー)

京太郎(俺は唯の観察者でなくてはならない)

京太郎(そう、百合の花を愛でる1人の百合男子として!)



京太郎「すいません、遅れました」ガチャ

優希「遅い! 犬としての自覚が足りてないじぇ!」

京太郎「自覚も何も、俺は犬じゃないからな」

優希「何を寝ぼけたことを。お前は私専属のタコス犬だじぇ!」

京太郎「タコス犬って、お前……」

和(バター犬の仲間のように聞こえます……)

まこ「まだ部長も来とらんけぇ、大丈夫じゃ」

咲「今から麻雀やるつもりだったんだけど、京ちゃんもやる?」

京太郎「いや、俺はネット麻雀してるからいいよ。それに全国に出るやつが優先的に打った方が良いだろ」

優希「調教の効果が出てきたみたいだな。自分の立場を良くわきまえてるじぇ」

和「ゆーき、須賀君の気遣いにそんな事を言ってはいけません」

咲「じゃあお言葉に甘えて、さっそく4人で始めようか」

京太郎(そう、俺が麻雀部に入った理由……それは女子たちが育む百合の花を愛でるため)

京太郎(始めは和に目をひかれていた。あんな可憐な少女こそ女の子とくっつけば良いのにと。が、和と絡む優希を見て確信した)

京太郎(俺の青春の全てはあそこにある、と)

京太郎(人数が少ないために出来上がるカプの種類は多く無い)

京太郎(しかしそれでも不純物(男)無しで美少女達が集まっている空間が何ものにも代えがたい楽園であることに変わりは無い)

京太郎(それに何より、麻雀部に入ってからは数々の嬉しい誤算があった)

京太郎(その一つが……)


和「しかし、やるべきことはきちんとやっているはずなのに、全国が近付いてくるにつれてやっぱり不安になってきますね……」

咲「大丈夫だよ!原村さんが頑張ってるのは確かだし、それに原村さんの強さは私たちが一番よく知ってる」

咲「だから自信を持って!一緒に優勝目指そうよ!」

和「宮永さん……」ポッ


京太郎(こ れ だ !)

京太郎(始めはカプの組み合わせが増えれば重畳、くらいに思って咲を無理やり誘ったわけだが)

京太郎(それによって和が覚醒することになろうとは!)

京太郎(まさかの原村和ガチ百合ルート!)

京太郎(俺はこのときほど咲と幼馴染で良かったと思ったことは無い!!)

京太郎(ありがとう咲!俺の人生の中で、お前は今が一番輝いて見える!)

京太郎(ちなみに、のど咲よりも咲のどの方が萌え度は高い)

京太郎(確かに百合における積極性もといガチ百合度は一見すると和の方が高いように見える)

京太郎(しかし和はお嬢様育ち。そして恐らく恋愛自体今まで経験がなかったに違いない)

京太郎(そんな彼女はある少女と衝撃的な出会いをした)

京太郎(始めは強い拒否感を示しながらも、徐々に打ち解け、今では同じ部で共に全国大会優勝を目指す仲間に)

京太郎(しかし彼女の中には友情だけでは説明できない感情が生まれてはじめていた)

京太郎(しかし恋愛経験のない和にはそれが何を意味するのかが分からない)

京太郎(そもそも箱入りに近い環境で育った彼女には同性間に恋愛感情が発生するということが分からない)

京太郎(悶々としながら日々を過ごす和。しかし咲は気づいていた。和が自分に惹かれていることに!

京太郎(自分の気持ちに名前を付けることが出来ないでいる和を煽るように、彼女に対してさりげなく)

京太郎(しかし確かなアプローチを続ける咲)

京太郎(やがて和は原因不明の感情を抑えることが出来ず、先に対して溢れる涙と共に感情を爆発させる)

京太郎(自分で何を言っているのか分からない和を咲はそっと抱き締め、愛の言葉を囁く)

京太郎(その時初めて、自らの感情が本来同性間に存在してはいけないものだと知る和。狼狽する和を咲はやさしくなだめる)

京太郎(自らに強い執着心を抱きながら、それを制御できずにいる和への愛しさが溢れ、咲は和をゆっくりと押し倒した……)

京太郎(和に対して友情以上の感情を持ち合わせていなさそうな咲が)

京太郎(実のところ心の中では舌なめずりをしている状況だというのがこのカプの醍醐味)

京太郎(相手の好意を知りながらその気持ちを持てあそぶ)

京太郎(すばらしい!)

京太郎(普段の行動から素直に和咲というのも確かに良いが、やはりこちらの方が刺激的だ)

京太郎(咲の温厚な性格からは考えられない黒い一面――小悪魔要素というスパイスを加えることで味わいが増す)

京太郎(ここまで実りあるカプはめったにお目にかかれなかった)

京太郎(そう、長野の地区予選までは……)


久「ごめんね、遅れちゃった」

まこ「おう、お疲れ様」

久「さて、みんなに話があるんだけど、ちょっと良いかしら?」

咲「なんですか?」

久「実は今度、県予選決勝に出た四校で合同合宿を開こうと思ってるの」

まこ「ほぉ……」

和「それはまた、大きな催しですね」


久「龍門淵と風越は文句なしの全国クラスだし、それと渡り合った鶴賀もかなりの実力がある」

久「私たちにとって練習になるというのもあるけど、個人戦で全国に出場する風越」

久「それと来年も大会に出る他の1、2年生にとっても悪い話ではないはずよ」

久「今はまだ参加の意思を確認している段階だけど、もしみんなが参加してくれるようなら、全国前のこれ以上ない訓練になるわ」

久「ということで、それに備えていろいろと準備があるから、しばらく私は部活にちょっと顔を出すだけになると思うの」

久「みんなの方でも練習メニューなんかに関して何か思いついたことがあったら、何でもいいから言ってちょうだい」


優希「龍門淵も参加するということは、あのタコス泥棒も参加するってこと……」

優希「ふっふっふ……早くも復讐の機会が訪れたようだじぇ!」

咲「あはは、復讐っていうのはともかく、またあの人たちと打てるって言うのは嬉しいな」

和「ええ、私も楽しみです。皆さん手強い相手になりそうですから」


京太郎(き…………)

京太郎(きたああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)

京太郎(4校揃って合同合宿!!)

京太郎(県予選決勝戦で熱い戦いが繰り広げられたことは記憶に新しい)

京太郎(しかし、俺にとっては麻雀以外の面でも非常に熱い大会だった)

京太郎(まずは風越!)

京太郎(キャプテンの福路さんが部長に向けていた眼差し……)

京太郎(あれは間違いなく恋する乙女のそれだった!)

京太郎(しかしそのキャプテン自身が、名門風越の中でのアイドル的存在だった!)

京太郎(少し垣間見ただけでもわかる、あの包み込むような慈愛のオーラ)

京太郎(レギュラーメンバーに対する気遣いから普段の彼女の行動は容易に想像できる)

京太郎(そしてその優しさによって、部員たちは皆キャプテンに対して圧倒的な信頼と好意を抱くことになる)

京太郎(しかしそのキャプテンが想いを寄せていたのは、よりにも寄ってライバル校である清澄を率いる竹井久だった)

京太郎(熱い!熱すぎるぜ!)

京太郎(許されざる禁断の恋、まさにロミオとジュリエット!)

京太郎(風越は百合の園としても名門だったな)

京太郎(そして清澄と同様に無名の状態で決勝に進出した鶴賀)

京太郎(ここも見逃すことのできない勢力だった)

京太郎(百合を求めて彷徨っていたら、偶然見かけたあの光景)

京太郎(決勝戦敗退後の鶴賀の大将と副将の会話)

京太郎(「消えてもいい」と言われた時の大将のあの表情……)

京太郎(そこですかさず「先輩を探し回ってみせる」と言ってのける!)

京太郎(まさに落として上げる、のコンボ!)

京太郎(しかし、このあとがさらに問題だった)

京太郎(まさか「なんとしてもその口を閉じさせる」と来るとは!)

京太郎(これは! つまり!!)

京太郎(自らの口で塞ぐということにほかならないっ!!!!!)

京太郎(あれはやばかった……)

京太郎(間違いなくあの二人はガチ)

京太郎(今まで生きてきた中で間違いなくトップクラスの名シーンだった)

京太郎(ウロウロしていたせいで、咲と和の決勝後再会シーンからハブられる結果となってしまったが)

京太郎(それはともかく、あの関係に至るまでのプロセスに強大な萌え要素が含まれているはずだが)

京太郎(いかんせんその情報を仕入れる手段がない)

京太郎(そこに来て今回の合宿!)

京太郎(親交を深め情報網を新設するまたとない機会だ!)

京太郎(龍門渕も見過ごすことのできない勢力だし、是非とも情報を手に入れたい)

京太郎(中堅のタトゥーシールの娘)

京太郎(あの手錠は一体何のためにしているんだ?)

京太郎(もしかしたらあれは、SMプレイの一貫なのかもしれない!)

京太郎(となると、あの中の誰がかご主人様になるわけだが)

京太郎(小学生にしか見えない大将との絡みで、ロリ百合展開も捨てがたいが、やはり和と戦った副将のお嬢様が妥当だろう)

京太郎(名前も龍門淵っていってたし、理事長の家系の人間であることは間違いない)

京太郎(身分違いの恋は、所有という歪んだ形での関係を二人に強いる……)

京太郎(うむ、すばらだ)

京太郎(こういった妄想の燃料に事欠かない環境)

京太郎(これこそ麻雀部に入って良かったと思える最大の理由だ!)

京太郎(なぜか麻雀部の人間は、どこの高校もレベルが非常に高い!)

京太郎(間違いなく俺は今人生の絶頂期にいる!)


久「じゃあ私はまだ準備があるから、あなたたちはとりあえず練習しててちょうだい」

久「段取りが決まったら、また連絡するからね」

まこ「おう、手伝えることがあったらいつでも言ってくれて構わんからな」

優希「いょし!早速妥当ノッポを掲げて特訓するじぇ!」

優希「京太郎!すぐにタコスの補充をして来い!」

京太郎「自分で行けよ、俺は今対戦中だ」

和「ゆーき、わがまま言ってはいけませんよ」

和「もうすぐこっちが終わりますし、そのあとで一旦買い行きましょう」

優希「のどちゃん、ついてきてくれるのか!さすがだじぇ、どっかの駄犬とは違うな!」

京太郎「結構結構、タコスのパシリよか駄犬の方がましだからな」

優希「自分の立場を理解していると思ったらこれだじょ」

優希「まったく、調教が足りなかったのか?」

和「ゆーき、早く終わらせて買いに行くのでしょう?」

優希「そうだったな、じゃあ行ってくるじぇ!」


京太郎(……すっかり忘れていた)

京太郎(最近の咲和に押されて目立たないが、この二人のカプもアリだよな)

京太郎(むしろ咲が来るまでは主力だったし、いまでも垣間見えるその輝きは失われていない)

京太郎(しかも聞くところによると、和が清澄に入ったのは優希と離れたくなかったからだそうだ)

京太郎(これはまごうことなきとびっきりの百合!)

京太郎(百合場面名鑑収録『あなたがいないなんて考えられない』だ!!)

京太郎(そして無事に同じ学校に入学する二人だったが、優希と共にいるために入ってきたはずの和は新しい出会いを果たしす)

京太郎(そしてそちらの方に夢中になってしまう。一方、和が自分のことを追って清澄に入ってきたことに気づいていた優希だが)

京太郎(今までの友情が変化してしまうことを恐れ、それにあえて気づかないふりをしていた)

京太郎(しかし和の目が一旦咲に向き始めると、優希の心には原因のわからない重苦しい気持ちが募ってくる)

京太郎(日に日に仲が良くなっていく和と咲。和の気持ちに答えるつもりはなかったはずなのに)

京太郎(彼女の気持ちが自分から離れたとたん彼女のことを意識してしまう自分に嫌気がさす優希)

京太郎(そしてある日、彼女は目撃してしまう。和が咲にキスをしようとしている瞬間を!)

京太郎(……ふぅ、ここから先は純愛失恋ルートか逆転優和ルート、はたまたタコスヤンデレ化ルートと選り取りみどりだ)


京太郎「ほんと麻雀部は天国だぜ」

まこ「ん?天国?」

京太郎「あっいや、ほんとに麻雀って楽しいなーって思いまして……」

まこ「なんじゃ、京太郎の今の状況を考えると、こっちが申し訳なくなるの……」

咲「京ちゃん……ごめんね雑用ばっかりやらせちゃって……」

京太郎「いや、そんな、悪いよ。それに皆は全国があるだろ?その手伝いが出来るだけで俺は満足だよ」

咲「京ちゃん……」

京太郎「だからさ、先はその分頑張ってくれよ」

京太郎(主に和との絡みをな)

咲「うん!私頑張るよ! 京ちゃんのためにも頑張って優勝するから!」

京太郎「よし、その意気だ! 絶対優勝杯をもって帰れよ!」

久「じゃあ、優勝杯を持って帰るために、卓の空きを須賀くんに埋めてもらおうかしら」

まこ「もうネトマも終わっとるみたいだしのう」

久「もっとも須賀くんが搾取されるだけで終わるだろうから、あまり効果的な練習にはならないでしょうけど」

京太郎「ひどっ! それはあんまりじゃないですか部長!」

咲「部長の言うとおりかも……」

京太郎「咲……お前は俺を見捨てるのか……」

京太郎「わかったよ、俺はもう何も期待しないさ……」

咲「わわっ、じょ、冗談だよ京ちゃん!」


*****************


京太郎「流石にもうトバされ慣れてきましたよ」

京太郎「メンタルだけは鍛えられましたね!」

まこ「単に向上心が無くなっただけと違うんか……」

久「負け犬根性が染み付いてきたみたいね」

咲「京ちゃん! 諦めちゃダメだよ!」

京太郎「俺から点をがっぽりとっていったのはどこの誰だっけなぁ?」

咲「そ、それは……手加減ずるのは失礼だと思ったからで……」

京太郎「わかってるよ、俺が雑魚すぎるだけだってな」

久「須賀くん、あんまり自虐ネタに走るとみっともないわよ」

久「ところで明日は土曜日だけど、須賀くんはいつもどおり欠席?」

京太郎「あ、はい。 龍門渕に行くので」

まこ「雑用のレベルを超えて、最近は本当の執事に近づきつつあるのう」

久「足繁く通っているわよね。本当に執事になるつもりなの?」

久「それとも龍門渕に気になる子でもいるのかしら」

京太郎「ちょっ、部長!」

京太郎(気になる子……間違ってはいないな)

京太郎(あのお嬢様とタトゥー意外にも、可能性はまだまだ秘めているしな)

咲「え……京ちゃん龍門渕に好きな子がいるの!?」

咲「いったい誰が……や、やっぱり胸の大きさを考えると、あのメガネの……」

咲「はぅ! まさか衣ちゃんとか!?」

咲「それともツンデレ系狙いで龍門渕さんだったり……」

京太郎「おい、俺が割り込んでどうする!」

咲・久・まこ「?」

京太郎「い、いや、そうじゃなくてだな」

京太郎「合宿の時は人数も揃うだろうし、ハギヨシさんに徹底的に立ち回りを仕込んでもらおうと思ってさ」

久「え? 須賀くんはお留守番よ?」

京太郎「…………は?」

京太郎「いやいやまさかそんなおれだけのけものなんてそんなことをやさしいぶちょうがするなんてじょうだんですよねそうですよね」

久「まさか参加できると思ってたの? 身内だけならまだしも、ほかの生徒が居るところに一人だけ狼を放つ訳にはいかないでしょう」

京太郎「」

まこ「完全に魂が抜けおったぞ」

咲「京ちゃん、そんなに他の娘たちに会えないのがショックなの……?」

久「無駄よ咲、完全に意識を失っているわ」

まこ「もう部活も終わりなんじゃが、どうするコレ」

久「とりあえずこの部屋の外に出して置くだけで良いんじゃない? この部屋に鍵さえかかれば問題ないでしょ」

咲「京ちゃん……」


優希「ただいま帰ったじぇ!」

和「すみません、私が途中でタコスを落としてしまって」

優希「まったくだじぇ! そのデカパイでタコスを叩き落とすなんて」

和「で、ですから何度も謝ったじゃないですか!」

優希「そのおっぱいを半分分けてくれるなら、もう何も言わないじぇ」

和「無理です!」

優希「って、おっぱいの話をしたのに京太郎の反応がないじぇ?」

和「そういえばさっきから微動だにしてませんね」

まこ「気にせんほうがええ、夢やぶれた男の残骸じゃ」

久「みんな、コレを外に出すの手伝って頂戴。まったく、余計な手間をかけるさせるなんて雑用失格ね」

まこ「いや、京太郎はそもそも雑用じゃないじゃろ……」

咲「部長、持ち帰っても良いですか?」

和「!?」

久「良いけど、私は手伝わないわよ? 自分だけで持って帰りなさい」

咲「うーん、それじゃあ無理か……また今度の機会に」ブツブツ

和(京咲なんてSOA)

和(宮永さんに野蛮な男なんて論外です!)

久「じゃあとりあえず、コレを外に出して帰りましょうか」

久「下校時刻も過ぎてることだしね。 あとは用務員さんが何とかしてくれるでしょ」


*****************


用務員「君、大丈夫かい! ほら、起きなさい!」

京太郎「はっ!」

用務員「やっと起きたか。一体どうしたんだい、こんなところで」


京太郎(俺は一体ここで何を……)

京太郎(咲と和がカナダで結婚式を挙げて……)

京太郎(そして咲と和、二人にそっくりな双子の女の子が生まれたんだったよな……)

京太郎(世界初のiPS細胞による同性間の出産だからって、世間から色眼鏡で見られて)

京太郎(それでも二人の絆が解けることはなく)

京太郎(やがて女性同士の婚姻が世界的に一般的になっていった……)

京太郎(…………)


京太郎「って、ちがああああう!!」

用務員「」ビクッ

京太郎(俺が合宿に行けないだと!? そんな馬鹿なことがあってたまるか!!)

京太郎(なにか、なにか現状を打開する方法はないのか!?)

京太郎(どんな方法でもいい! 手段は選んでいられないんだ!!)

京太郎「………………はっ!」

京太郎(そうだ、この手があった!!)ダッ

用務員「あっ、おい君!」



――龍門渕家――

京太郎「ハギヨシさん!」

ハギヨシ「来ましたか。いきなりの連絡、驚きましたよ」

ハギヨシ「しかし、そんなに慌てている貴方を見るのは初めてですね。一体なにがあったのですか?」

京太郎「ハギヨシさん……いえ、萩原さん、どうしても聞いていただきたいお願いがあります」

ハギヨシ「お願い…ですか」

京太郎「萩原さんのその技術……誰からも気配を悟られずにいるその術を、俺に伝授してください!!」

ハギヨシ「……!」

京太郎「今日まで何の見返りも差し出せずに、ただただ様々な技術を教えて頂いてきた上で」

京太郎「このようなお願いをするのが失礼にあたることは重々承知しています」

京太郎「だけど、それでも……どうしても成さなければいけないことがあるんです!」

ハギヨシ「京太郎君……」

京太郎「…………」

ハギヨシ「……わかりました。その目、その気迫、よほどの事情があっての事なのでしょう」

ハギヨシ「京太郎君、私は貴方の才能に惚れ込んで、私の持てる全てを授けようと考えていました」

京太郎「……え?」

ハギヨシ「それが少し早まっただけのこと」

ハギヨシ「分かりました、我が萩原家に伝わる奥義の一、『孤塁立』を伝授いたしましょう」

京太郎「あ、ありがとうございます!!」

ハギヨシ「修行は今までのものが児戯に思えるほど厳しいものになります」

ハギヨシ「覚悟はよろしいですか?」

京太郎「たとえこの身が灰になろうと、必ず成し遂げてみせます!」

ハギヨシ「分かりました。では今日から泊まり込みで修行をしていただきます」

ハギヨシ「ご両親の許可は取っておいて下さい」

京太郎「はい! よろしくお願いします!」



~1週間後~

――合宿所――

華菜「4000・8000! 裏はめくらないでおいてやる!」

久「あなたのとこのキャプテンはいいわねえ」

カツ丼「あと一人」

京太郎(…………)

京太郎(完璧だ……!)

京太郎(ここまで気づかれる気配が微塵もないとは)

京太郎(ハギヨシさん……いや、師匠! ありがとうございます!)



~京太郎が龍門渕を訪れた翌日~

――善光寺――

京太郎(あれから一晩龍門渕で過ごし、学校をサボって今ここにいる)

京太郎(一体何が始まるんだ?)

ハギヨシ「では京太郎君、これから修行を始めます」

京太郎「はい……でもこんなとこで一体何をするんです?」

ハギヨシ「ふふ、山奥の秘境のようなところで修行をすると思っていましたか?」

ハギヨシ「確かに、萩原流の中にはそういった場所での修行の方が適している技も多くあります」

ハギヨシ「しかし、今回あなたに伝授するのは、大雑把に言えば「人の目に留まらないための技」です」

ハギヨシ「よって、人がいなければ修行にならないのですよ」

京太郎「……そうですね! 失念していました!」

ハギヨシ「では改めて」

ハギヨシ「京太郎君、今からあなたには、この善光寺前の通りを往復してもらいます」

京太郎「…………は?」

ハギヨシ「それも、ただ歩いて往復するわけではありません」

ハギヨシ「この時間帯、観光客の数がピークに達しているため、非常に混雑しています」

ハギヨシ「この人ごみの中を、全力疾走で往復してください」

京太郎「は、はぁ……」

ハギヨシ「では行きます」

ハギヨシ「3,2,1、スタート!」

京太郎「え、あ、はい!」ダダッ

京太郎(一体なんなんだこれ……って、やば!)

ドンッ!

京太郎「す、すみません!」

おばさん「ちょ、気をつけてよ!」

京太郎(ヤバイヤバイ……って)


ドンッ

おじさん「おい、君!」

京太郎「ひっ、も、申し訳ありません……」

京太郎(こ、これは……)

京太郎(全力疾走とか無理だろ!!)

ハギヨシ「お疲れ様です。どうでしたか?」

京太郎「見ての通りです……怒りの視線を両手では足りないくらい浴びせられました」ハァハァ

ハギヨシ「でしょうね。かなりの難易度だったと思います」

ハギヨシ「ですが、このくらいできなくてはあなたの望む力は到底手に入りませんよ」

京太郎「ハギヨシさん、いったいこれは……」

ハギヨシ「では今度は私がやってみせます」

ハギヨシ「よく見ていてください」ダッ

京太郎(いったいこれは何を……)

京太郎(!!??)

京太郎(す、すごい)

京太郎(オリンピックの短距離走レベルの速さで走っているのに)

京太郎(周囲の人が誰も目を向けていない!)

京太郎(いや、そもそも存在に気づかれていないのか!?)

京太郎(しかも、もう戻ってきた)

ハギヨシ「ふぅ、良いですか京太郎君、これが我が萩原流奥義の一つ」

ハギヨシ「『孤塁立』です」

京太郎「弧塁……立」



~冷やしトーカ無双~

――合宿所――

一「透華……」

純「すげぇ……」

京太郎(くぅ、あのタトゥーの娘の心配そうな表情がたまらん!)

京太郎(自らのそばにいた最愛の人が、急に離れていってしまった不安)

京太郎(それはより一層の独占欲という、ひどく歪んだものへと変わりかねないものだ)

京太郎(果たして彼女は、変わってしまった愛しい人に対してどのようなアクションをとるのか)

京太郎(このカプは要注目だな)

京太郎(しかし、こんなおいしい思いができるとは)

京太郎(これも全て師匠のおかげだ!)




~善光寺前での全力疾走後~

――そば処「参タテ」――

ハギヨシ「人の知覚の中にありながら意識下より外れ孤立しているところ」

ハギヨシ「それを弧塁と呼びます」ズズッ

京太郎「弧塁、ですか」ズルズル

ハギヨシ「先ほどの善光寺前では、その意識の空白地帯を見抜き、駆け抜けることで、誰の目にも留まることなく往復ができたのです」

ハギヨシ「日頃、衣様の周囲に控えている時も、みなさんの孤塁に立つことで自らの存在を悟られずにいるのです」ズズッ

京太郎「そんな神業、俺に習得することができるんでしょうか……」ズルズル

ハギヨシ「私の見立てでは、あなたは萩原流を習得するに十分な才能を持ち合わせています」

ハギヨシ「あとはあなたの覚悟次第です」

ハギヨシ「どうしても成さなくてはならないことがあるのでしょう?」

京太郎「……そうでした、俺には譲れないものがあるんです」

ハギヨシ「それともう一つ、相手の孤塁を見抜く力以外にも、身につけてもらいたいものがあります」

ハギヨシ「広く捉えれば、これも気配を遮断するための方法であると言えます」ズズッ

京太郎「なんですか?」

ハギヨシ「孤塁立は、いうなれば相手に合わせて自らを消す方法」

ハギヨシ「それとは別に、自らが発している気配……気とでも言いましょうか」

ハギヨシ「それを包み隠す術を身につけてもらいます」ズッ

京太郎「気?」ズルズルッ

ハギヨシ「人の体をめぐるエネルギーのようなものと言いましょうか」

ハギヨシ「科学的には名状し難いのですが……まあいずれ分かるようになるでしょう」

京太郎「その気ってやつを抑える術を身につけろってことですか」

ハギヨシ「包み隠す、というのには語弊がありましたね」

ハギヨシ「気を制御して、己の存在を空間に溶け込ませる」

ハギヨシ「天地と一つになる、と萩原の奥義書には記されていますが、まさしくその通りです」

京太郎「天地と……」

ハギヨシ「これらの奥義は、極めることによってあらゆる場面で驚異的な効果をうみます」

ハギヨシ「そして、萩原流の中でも会得できた者が最も少ない術でもあります」コチラソバユニナリマス ゴトッ

京太郎「」ゴクリ

ハギヨシ「大丈夫ですよ、あなたならできます」トポトポ

ハギヨシ「己を信じ、力を尽くせば必ずモノにすることができますよ」ズッ



~そして現在へ~

――合宿所――

京太郎(そして俺は手に入れた……)

京太郎(この身を死角に置き、天地と……空間と一つになる力を!)

京太郎(今の俺はかつての『須賀京太郎』ではない)

京太郎(百合のために生き、百合のために死ぬ、森羅万象と一体になった百合男子の戦士)

京太郎(ここからは『アトモスフィア京』の独壇場だぜ!!)


透華「こんなの…こんなの私じゃありませんわッ!! きゃっかですわ!」

一「透華…」

透華「これでは原村和とスタイルが違いすぎますわ」

一「う…」


京太郎(ふむ、冷やしトーカさんは元に戻ってきたみたいだな)

京太郎(しかし、和に対してみせる執着は、タトゥーっ娘の嫉妬を掻き立てているようだ)

京太郎(百合場面名鑑収録『誰にもあなたを渡さない』!!)

京太郎(ずっとそばに仕えていたはずなのに、想い人の心は会ったこともない女に釘付けのまま)

京太郎(彼女の心を手に入れようと努力を重ねる日々が続くが、どんなに手を尽くしてもその心が和から離れることはなかった)

京太郎(そしてついに恐れていたことが起こってしまう)

京太郎(和の所属する清澄が県予選の決勝で、透華が和と当たってしまうことになったのだ)

京太郎(そして実際に和と戦った透華は、和に対する執着をますます強めていってしまう)

京太郎(坂道を転がり落ちるように止められなくなった最悪の状況)

京太郎(そして一の思いは、いつしか純粋な恋慕から憎しみを伴うものになっていった)

京太郎(自分に手枷を課して心を縛っておきながら、そのことを気に止める素振りもなく他の女にうつつを抜かすなんて……)

京太郎(そして彼女の抑圧された欲望は、ある日ついに臨界点を超えてしまう……)

京太郎(もう少し嫉妬が高まれば、もしかすると下克上レ○プルートが実現するかもしれん……)

京太郎(帰ったら和をたきつけてみるのもアリだな)


京太郎(っと、もうこんな時間か)

京太郎(もう少しこのカプに注目したいところだが)

京太郎(そろそろ敦賀や風越の方にも行かないとな)スタスタ

京太郎(やはり風越のキャプテンと部長の関係、敦賀の果樹園カプも気になるしな)スタスタ

京太郎(それに、昨日の様子を見ていると他にも魅力的な組み合わせが存在するようだしな)

京太郎(最も気になったのが、次鋒戦メンバーの絡みだ)

京太郎(名門風越でレギュラーを勝ち取った吉留未春)

京太郎(昨年1年生のみのメンバーでレギュラーを奪い、全国へ進出した龍門渕の沢村智紀)

京太郎(そして幼い頃から雀荘で麻雀に親しみ、麻雀が生活の一部になっていた染谷まこ)

京太郎(立場は違えど、己の技量に揺るぎない自信とプライドを持っているメンバーだ)

京太郎(しかし彼女たちのプライドはある日突然打ち砕かれてしまう。全国へ進むための関門、県予選の決勝で)

京太郎(そしてあろうことか彼女たちの道を阻んだのは、役も満足に覚えていないド素人の妹尾佳織だった)

京太郎(大舞台で辛酸を舐めさせられた彼女たちであったが、その後4校合同合宿にて再び妹尾と合い見える機会に恵まれる)

京太郎(麻雀は確かに運の要素が少なくない。だから初心者でも上級者を打ち負かすことが十分に起こり得る)

京太郎(しかしそれはあくまで「ありえないことはない」という程度の可能性のものであって、やはり実力の差というものは大きい)

京太郎(今回こそはと、自らの中で名誉を挽回するためにリベンジマッチを挑む次鋒戦メンバーであった)

京太郎(しかし、ここでも妹尾が1位になるという、悪夢のような結果が待ち受けていた。完全に意気消沈する彼女たち)

京太郎(そしてその心の傷は、次第に妹尾への執着へと姿を変えてゆく)

京太郎(そして合宿最終日、彼女たちは最後の戦いを挑もうと妹尾を探していた)

京太郎(しかしそこで見つけた妹尾は、他に誰もいない個室でその肢体を無防備にさらけ出しながら眠っていた)

京太郎(それを見た3人の心の中に、ある濁った欲望が沸き起こる。3人は部屋に入ると、そっと鍵を占めた……)

京太郎(ちょっと飛ばしすぎだが、こんな感じの輪○ルートもアリだよな)

京太郎(問題はこれだけのメンバーが一堂に会することがこれから先にあるのかどうかということだ)

京太郎(しかし、次鋒戦メンバーは全員2年生なわけだから、来年もあるんだよな)

京太郎(「卒業するまで結局一度も勝てなかった」っていうくらいの火薬があれば)

京太郎(大爆発するという流れもより自然になりそうだし、これから先の展開にも期待が持てる)

京太郎(なんにせよ、ここにはまだまだたくさんのお宝が眠っているぜ!)


?「やはり、こういうことでしたか……」

京太郎「!?」

ハギヨシ「京太郎君……」

京太郎「し……師匠!? なぜここに!?」

ハギヨシ「あなたがうまくやれているかどうか気になったのですが、まさかこんなことに力を使っているとは」

京太郎「こ、これは、その」

ハギヨシ「京太郎君……今すぐに帰りましょう」

京太郎「……師匠、俺は、俺には譲れないものがあります」

京太郎「それが今の、この生き方です!」

京太郎「どうしても連れ帰るというなら、俺は……」

京太郎「あなたを倒してでも、己の道を貫きます!」ズアァァ!

ハギヨシ「……これ以上、今のあなたを見過ごすことはできません」

ハギヨシ「龍門渕家のCB(コンバットバトラー)としても」

ハギヨシ「同じ志を持つ……百合男子としても」

京太郎「!?」

京太郎「し、師匠が……百合男子?」

京太郎(馬鹿な……そんなはずはない)

京太郎(百合男子は多かれ少なかれ、その瞳のうちに冥い“欲望”の光を灯している)

京太郎(今まで出会った奴らはみんなそうだった)

京太郎(そして……鏡越しに覗きみた、俺の瞳の中にも……)


ハギヨシ「私もかつてはあなたと同じでした」

ハギヨシ「仲睦まじい女性達を眺めては、己の世界の中で百合の絵画を描く」

ハギヨシ「今のあなたと同じ行動に出たことも、1度や2度ではありません」

ハギヨシ「しかし、執事として龍門渕にお使えするようになってから、私は苦しむことになりました」

ハギヨシ「主君に忠誠を誓っているように見せかけ、裏ではとても好ましいとは言えない妄想を繰り広げている」

ハギヨシ「そして苦しみぬいた末、私はひとつの決断をしました」

ハギヨシ「それは、見方によっては“逃げ”と捉えられるかもしれません」

ハギヨシ「……いえ、実際は逃げたのです」

ハギヨシ「百合“男子”として生きることの、重圧から」


京太郎「!?」

京太郎「師匠……まさか、あなたは……」

ハギヨシ「百合男子の欲望の根源は、通常の男性の欲望と変わりません」

ハギヨシ「だから私は……自らその根源を絶つことを選択したのです」

ハギヨシ「執事として、生きるために」


京太郎(……去…………勢……したのか!?)


京太郎「師匠……あなたは……」

ハギヨシ「私は、自らが下した決断に対して微塵も後悔をしておりません」

ハギヨシ「ただ……何かを残すということができなくなってしまったことだけは、残念でした」

ハギヨシ「そんな私の前に、京太郎君、あなたが現れたのです」

京太郎「俺が……」

ハギヨシ「これは私の勝手な理想の押し付けです」

ハギヨシ「しかし、あなたには一流の執事としての道を、そして一流の百合男子としての道を歩んで欲しいのです」

京太郎「ま、待ってください! 執事はともかくとして、ここで退くことが百合男子としての行動だとは到底思えません!」

京太郎「手の届く範囲の百合の花を観察し尽くすことこそが、百合男子のあるべき姿じゃないんですか!?」

ハギヨシ「……百合男子とは、そもそもが歪な存在です」

ハギヨシ「男の身でありながら、女性同士の恋愛に惹かれてしまう」

ハギヨシ「その性質上、対象となる女性感の関係に影響を及ぼすような行動は避けるべきだと、私は考えます」

ハギヨシ「百合男子の手が加わってしまっては、それは真の百合の花と呼べなくなってしまうと思うゆえに」

京太郎「それは、分かりますが、しかし観察するということはっ」

ハギヨシ「周囲の流れに抗ってまで観察を行うということは」

ハギヨシ「たとえそれがどんなに完璧な隠匿のもとに行われていたとしても、影響を及ぼしてしまう危険性があります」

ハギヨシ「真の百合男子とは、周囲の流れに逆らわず、ただ身を任せてそこに在る者を指すのではないでしょうか」

ハギヨシ「その流れの中にある限りは、百合男子は周囲を構成する空間の一部になっていることができます」

ハギヨシ「そしてそれは自然な百合の花の背景となり得る」

ハギヨシ「しかし、今あなたがしていることは、その流れに逆らって、百合の花に力ずくでにじり寄ろうとする在り方のように見えます」

京太郎「!!」

ハギヨシ「京太郎君、あなたが求める“百合”とは一体なんなのですか?」

京太郎「俺は……俺には……」ガクッ

ハギヨシ「ここから先はあなたが決めることですが……」

京太郎「師匠の言うことは、これ以上ないほどの正論です」

京太郎「それはいま、心の底から理解することができました」

京太郎「今日まで定まらなかった、自らの立つべき場所も分かりました」

京太郎「けれどっ……!」グッ

京太郎「この体がっ! 求めてしまうんですっ!」

京太郎「俺には男を捨てる勇気がない……」

京太郎「だから、師匠と同じ道を歩むことが……できない……」

ハギヨシ「京太郎君、今のはあくまで私の道です。私の生き方です」

ハギヨシ「私の言った言葉が理解できたのなら、あとは自分で、自らの生き方を選べる」

ハギヨシ「いや、“創り”だせるはずです」

京太郎「師匠……」

ハギヨシ「百合男子としてあなたに伝えなくてはならないことは、全て伝えたつもりです」

ハギヨシ「あとはあなたの選択に任せます」

ハギヨシ「こんなこと、本当はあってはならないのですが」

ハギヨシ「あなたに伝えたいことを伝えて、私も何か肩の荷が下りてしまったようです」

ハギヨシ「……なんだか、力が抜けてしまった気分です」

ハギヨシ「……今日だけは、執事としての役割を忘れることにします」

ハギヨシ「また会いましょう、須賀京太郎」スゥー…


**********


京太郎(俺は、どうしたら……)フラフラ

京太郎(咲……和……)フラフラ

?「龍門渕の執事さんは帰ったみたいっすね」

京太郎「!?」ガバッ

?「おお、さすがっすね。今の状態の私を認識できるなんて」

京太郎「あ、あんたは!」

桃子「鶴賀の副将、東横桃子っす」

京太郎(ど、どういうことだ!? いくら気が散っていたとは言え、まだ俺はアトモスフィア状態のはず……)

桃子「最近身につけたばかりの技が、完全にモノになっているとでも思ってたんすか?」

桃子「気配に関する分野では、私の方が経験も技術も圧倒的に上っすよ?」

桃子「それはもちろん、察することに関しても」

桃子「にわかは相手になんないっす」

京太郎「だけど……和は大会の時あんたのことが……」

京太郎「俺はその和にも察知されなかったはず……」

桃子「あれは本気で消しにかかっていなかったからっすよ」

桃子「先輩が見ているところで本気を出して、万が一先輩が耐性をつけてしまったら」

桃子「先輩に色々とできなくなってしまうじゃないっすか」ニコッ

京太郎(……っ、コイツ!)

京太郎(『百合っ娘(ホンモノ)』だ!)

京太郎(しかし、目的がわからない以上、素直に喜ぶことができない)ゴクリ

京太郎(今の今までアクションを起こさずにいて、ここで俺に接触する意味はどこにある?)

桃子「最初から、あなたがいることには気づいてたんすよ?」

桃子「どうせならお風呂を覗いているところをみんなの前に引きずり出して」

桃子「薄汚い野郎が二度と麻雀部に立ち入れないようにしてやろうと思ってたっす」

桃子「でも、あなたはお風呂を覗くような真似はしなかった」

桃子「それどころか、普通の野郎なら垂涎もののシチュに反応すらしなかった」

桃子「だけど、誰か二人以上が一緒にいる状態の時は、鷹の目のような鋭い視線を向けてくる」

桃子「そこで私は気づいたんっす」

桃子「コイツは『百合男子』だって、ね」


京太郎(完全に……バレているっ!)

京太郎(どうする……)

京太郎(今のこの状況、完全に向こうの掌の上だ)

京太郎(ヘタをしたら……消される)

桃子「そんなに警戒しないでくださいよ」

桃子「こっちは取引を持ちかけに来ただけっすから」

京太郎「……何?」

桃子「御宅の部長、竹井久とかいったっすね?」

桃子「あの女がうちの加治木先輩に近づかないようにして欲しいっす」

京太郎「……?」

桃子「訳がわからないって顔っすね」

桃子「詳しい説明は省くっすけど、あの女はうちの先輩にちょっかいを出しているっす」

桃子「だから、本格的に手を出される前に、何とかして欲しいんすよ」

京太郎「俺は……」

京太郎(師匠……俺は)

京太郎「そういったことに、加担することは……」

京太郎(やっぱり、師匠の教え……俺は守りたいです!)

桃子「これ、なんだと思いますか?」

京太郎(カメラ……はっ、まさか!!)

桃子「あんたが皆のことを観察してる、決定的証拠っすよ」ニヤッ

京太郎「」グッ

桃子「おっと、変な真似はしないほうが身のためっすよ」

桃子「すぐそこは清澄の部屋っす」

桃子「私が大声を出せばすぐに見つかりますし、たとえコレを奪って逃げたとしても、証拠は他にもあるっすから」

京太郎「くっ!」

桃子「それに、これはあんたにとっても悪くない話だと思うんすけどね」

京太郎「どういうことだ?」

桃子「私は先輩が無事なら他には何もいらないっす」

桃子「例えば、あの女を風越のキャプテンとくっつけようとするなら全力でサポートするっす」

桃子「そうすればあんたは目の前で百合ップルが誕生するところを見られるし、そこから先の観察も自由自在」

桃子「どうっすか?」

桃子「もっとも」

桃子「断れば……待っているのは迫害と追放っすけどね」ニコッ

京太郎「お……れは……」


ゴソゴソ

京太郎「ちょっと…!東横さんなにしてるんですか…!」

モモ「暴れないでくださいっす 変に暴れたらバラすっすよ」トントントン

京太郎「そ、そんな…う、羽毛…」

京太郎「うっ…」ガクン


モモ「落ちたっすね…(確信)」

モモ「………京太郎さん…あなたの事が好きだったんすよ…」