清澄に入学してから1年が経った。
俺や咲は進級して2年生、染谷先輩は3年生。
そして部長は卒業し、大学へ進学した。

新しく入部してくる新入生も多く、去年よりも大分活気づいた麻雀部。
新入生の中には俺よりも強いヤツもいて――まぁ、俺もそこまで強いわけではないのだが。
とにかく、新しくスタートを決めた清澄高校麻雀部は何もかもが順調である――


「須賀くん、お茶入れたわよ」


――この人の、俺に対する扱いを除けば。


「あの、そういうことは俺がやりますから……」

「駄目よ、現役生はちゃんと部活動に集中しなきゃ。ただでさえ須賀くんは去年あまり練習ができなかったんだから」

「でも」

「あ、そういえばカップケーキも作ってきたのよ。最近お菓子作りにハマっちゃって」

「はぁ……」


竹井久元部長。
卒業してからはしばらく姿を見なかったが、大学生活に慣れて落ち着いてからはしばしばOBとして部室に顔を出すようになった。
俺たち2年生だけでは手が足りないこともあるので指導を手伝ってくれるのはありがたいが……


「ちゃんと須賀くんの好みの味付けだから、結構自信あるんだけど」


なぜか、やたらと俺に構うようになっていた。


――何故か、朝の登校中に遭遇することが増えたり。


「あら、奇遇ね。せっかくだから一緒に行きましょうか……え? 近くないかって? だって寒いんだもの」


――俺が部室に来る前に、既に準備を始めていたり。


「あ、須賀くん。席暖めておいたから」


――部活動が終わった後に、部室のPCで作業をする俺を隣でじっと見詰めてきたり。


「退屈じゃないかって? こうしているだけでも楽しいけど」


――今日は来ないのか、って思ったら校門でじっと俺のことを待っていたり。


「やっと来たわね。それじゃ、行きましょうか。駅前に美味しいパン屋が出来たのよ」


――気晴らしに出かけた先に何故かいたり。


「そういえばそこの遊園地で今カップル割引とかやってるみたい。行きましょうか」


日月火水木金土。
活動中でも、私生活でも、やたらとエンカウント率が上昇していた。

須賀京太郎と竹井久は付き合っている、なんて噂が広がるのはあっという間だった。
おかげで咲たちとは一時期気まずい関係になった。


「京ちゃんは、あの人の方が大事なんだ。今の部活動の友達よりも、もう卒業しちゃったあの人の方が」


何とか誤解を解いて人間関係をこじらせずに済んだ。
久さんも悪気があってやっているわけではない。
俺たちが2年目もインターハイに出場できたのは間違いなくあの人のおかげだ。

そんなこんなで、月日はあっという間に過ぎて卒業となり。
俺の華の高校生活は全くの色恋沙汰なしに終わってしまった。

大学生活では、今度こそバラ色の青春を過ごして見せると意気込んだのだが――


「今日は肉じゃがを作ってみたんだけど。どう?」

「……美味しい、です。ハイ……」

「その割には、反応が微妙ね」

「少し、食欲がなくって……」

「駄目よ、ちゃんと食べなきゃ」


下宿先のアパート。
何故か、その隣の部屋に、久さんが、住んでいた。


「今日もお風呂、借りていくわね」

「ええ、どうぞ」


1月前から備え付けのシャワーが壊れてしまったそうで、俺の部屋を訪れてくる久さん。
今では、洗面所には歯ブラシが2つ並んでいるし、食器棚にはお揃いのマグカップが並んでいる。
本棚には女性がよく読む雑誌と少年漫画が並んでいる。
なんかもう、自分の部屋よりも俺の部屋にいる時間の方が長いんじゃないか、この人。


「あ、須賀くんも一緒に入る?」

「入りません!」

「むぅ、残念」


……竹井久からは逃げられない。そんなフレーズが頭を過ぎった。
このままだと、大学生活どころか、人生の墓場まで一緒にいそうな気がする。


「あ、着替え忘れちゃった」

「もっとちゃんとバスタオル巻いて下さいよ!?」


そんな考えを振り切るように、声を張り上げた。


カンッ