サキットモンスター、縮めてサキモン。
この星の、不思議な不思議な生き物、海に森に町に、その種類は、100、200、300、いや、それ以上かもしれない。
そんな不思議なサキモンと暮らす少年の一日を清澄の大人気テレビ番組からご覧頂こう。
サキ「キョーチャー…キョーチャー…」Zzzz
おや、どうやらこのサキモンは寝坊助なようだ。
もう朝だと言うのにまだまだ夢の中。
京太郎「ほら、サキ。起きろよ」ユサユサ
そんなサキモンを容赦なく起こそうとするこの少年。
名前は須賀京太郎、何処にでもいる普通のトレーナーであり、このサキモンの飼い主だ。
京太郎「まぁ、飼い主って言うよりはずっと一緒なんでもう兄貴みたいなもんですけどね」
そう言う京太郎少年は生まれてからずっとこのサキモンと一緒にいるそうだ。
種族の垣根を超えて最早、一つの家族としての生活を続けている。
なんとも感動的な話だ。
サキ「…キョーチャー…?」
京太郎「おっと、起きたか?」
サキ「リンシャーン…」ギュ
京太郎「ったく、甘えん坊だな」ナデナデ
と言いつつ抱きついてきたサキモンを大事そうに撫でる少年。
それにしてもこのトレーナー、デレデレである。
………
……
…
着替えが終わったら朝食の時間だ。
けれど、台所に立っているのは少年ではない。
なんと、そこにいたのはさっき起きたばかりのサキモンだった。
サキ「リンシャンツーモ♪」カチャカチャ
なんだか上機嫌だが、アレって大丈夫なんだろうか?
京太郎「あぁ、うちのサキは料理上手ですから問題無いですよ」
では、何時も朝食はサキモンが?
京太郎「はい。と言ってもあいつ寝坊助で甘えん坊なんで俺が作る事もままありますけど」
なるほど、料理上手なサキモンが居るとこういう役得もあるのか。
毎日、美少女の料理を食べられると思うと何とも羨ましい限りである。
サキ「カーン!?」ガッシャーン
京太郎「…ま、まぁ、たまにああいうミスもありますけど…」
サキ「キョ、キョーチャー!?」フルフル
京太郎「大丈夫だから気にすんな。それより怪我ないか?」
サキ「…リンシャーン…」コクン
何よりも真っ先にサキモンの心配をする少年。
彼はすぐさま台所で落ちた皿の片付けを始めた。
サキモンを思いやるその行為がこうした二人の絆を作ってきたのかもしれない。
サキ「リンシャンリンシャーン♪」
京太郎「こらこら、あんまりはしゃぐなよ」
登校中の二人はお互いに手を繋いでいる。
しっかりと指を絡ませあって歩く姿は兄妹と言うよりも恋人同士のようだ。
京太郎「こいつ迷子になりやすんでこうして手を繋いでおかないと危ないんですよ」
なるほど、サキモンの特性には色々種類があるが、どうやらこのサキモンは迷子になりやすい特性を持っているようだ。
にしても、別にそのような繋ぎ方をする必要はないと思うのだが…。
京太郎「こうやって繋いでおかないとサキはすぐ拗ねるんで」
サキ「キョーチャー…!」
京太郎「ちょ、悪かったって!でも、仕方ないだろ!」
…なんて言ったんですか?
京太郎「あ、いや、最初にこういう繋ぎ方したのは俺の方だって…」
…したんですか。
京太郎「…ご機嫌取りに、ですけどね。まぁ、もう慣れましたけど」
サキ「リンシャーン♪」ギュー
少年の横で嬉しそうにするサキモンはそれだけ彼を慕っているからなのだろう。
そんなサキモンを見ながら、トレーナーの少年も嬉しそうに笑っていた。
そのまま二人はごく自然体のまま学校の中へと消えていった。
………
……
…
サキ「…」
京太郎「…」
サキモンも学ぶ授業中。
さっきまで嬉しそうにしていたサキモンも今は授業に集中している。
寝坊をしたり、迷子になりやすいという特性を持っているが、このサキモンは意外と真面目な性格のようだ。
「あー…ではこの問題を…宮永さん?」
サキ「ツモ!?」ビックゥ
っとここでまさかのトラブル発生。
サキモンに問題が当てられる事に。
このトラブルを一体、サキモンはどう回避するのか…!
サキ「リンシャーン…カンカンツモ…!」
「…悪い。須賀君、また頼んだ」
ここで助っ人登場。
流石の先生もサキモンの鳴き声で答えを知るのは無理らしい。
代わりに指名された少年が立ち上がる。
京太郎「えーっと…3xと言ってます」
「正解だ。宮永さん」
サキ「キョーチャー♪」
京太郎「はいはい」
…しかし、サキモンが本当はなんて言っていたのかは取材班にも分からない。
真相はトレーナーである少年のみが知る、である。
昼休み。
学生にとって一番の憩いの時間である。
サキモンと少年もまた多くの学生と同じように食事を楽しんでいた。
サキ「キョーチャー♪」アーン
京太郎「ん、あーん」
しかし、何故かトレーナーがサキモンに食べさせられている。
周囲もそれをスルー…これが日常という事なのだろうか。
京太郎「まぁ、大体、弁当ある日はそうですね」
なんと…しかし、恥ずかしくないのだろうか?
京太郎「まぁ、サキモンのやる事ですから…って分かった分かったほらあーん」
サキ「リンシャーン♪」モグモグ
なるほど、最早、トレーナーにとってはこういった事は日常茶飯事なのだろう。
スキンシップを求めるサキモンに応えられなければちゃんとした信頼関係は築けない。
それを知る少年はやはり立派なトレーナーなのだ。
京太郎「はは、立派って言われるほど何かしてる訳じゃないですけどね。ただ、付き合いが長いだけですし」
サキ「…リンシャーン!」
京太郎「ん?」
サキ「キョーチャー…カン!リンシャン…タノシモー…」ギュッ
京太郎「ばっ…!おま…!」カァ
…なんて言ってるんです?
京太郎「…すみません。翻訳は勘弁して下さい…」
どうやらよっぽど恥ずかしい事を言われたらしい。
では、少年は一体、何を言われたのか…!
正解はCMの後である。
………
……
…
部活の時間。
この時間がサキモンが最も活き活きする時間だと少年は言う。
そんなサキモンをほんの少しだけ見ようと扉を覗いてみると…。
サキ「カンカンカン!」
京太郎「ひぃ!」
…トレーナーが飛ばされていた。
これは一体、何が起こったのか。
京太郎「…いや、サキの奴は純粋に強いですからね…まぁ、俺が初心者って言うのもあると思うんですが」
なるほど、実力差があると。
京太郎「悔しいですけどそういう事ですね。俺も早く追い付きたいと思っているんですが中々…」
そういう少年の顔はトレーナーではなく男の顔であった。
誰よりも身近なサキモンに負けっぱなしと言うのは分かっていても悔しいものなのだろう。
一瞬暗い顔になるのはそんな自分を歯がゆいと思っているからか。
サキ「…キョーチャー?」オズオズ
京太郎「はいはい。大丈夫、落ち込んでなんか居ないって」ナデナデ
サキ「リンシャーン…♪」
そんなトレーナーの事を察してか、トコトコとサキモンが歩み寄る。
そのまま心配そうに尋ねるサキモンの頭を少年は優しく梳くように撫でた。
それだけで嬉しそうにする二人には蟠りのようなものは見えない
例えあったとしても、強い絆で結ばれた二人はきっと乗り越えていけるだろう。
夕方、二人はスーパーに立ち寄っていた。
新鮮な食材の並ぶそこを真剣そうな眼差しのサキモンが歩いて行く。
…アレは一体、どういう事なのか。
京太郎「夕飯は基本サキの仕事ですから」
サキ「カン…!」ゴッ
なるほど、つまりトレーナーに美味しい夕飯を作ってあげたいという事か。
何とも健気なサキモンである。
京太郎「えぇ。トレーナー冥利に尽きますよ」
サキ「キョーチャーキョーチャー」グイグイ
京太郎「って、こらこらあんまり急ぐなって。また転ぶぞ」
すみません、と一言断ってサキモンに連れられていくトレーナー。
見事に尻に敷かれている。
しかし、その顔は晴れ晴れとした嬉しそうなものであった。
サキ「リンシャーン…!」スベ
京太郎「っと…」ダキッ
…手馴れていますね。
京太郎「…まぁ、慣れていますから。だから走ると危ないって言っただろ?」
サキ「キョ、キョーチャー…」カァ
…なんだか顔が赤くなっていくサキモン。
長年一緒に居ても、やはりオスとメスの区別はついているのだろうか。
トレーナーの胸板に触れたその顔を恥ずかしそうに染めている。
京太郎「ま、怪我がなくて良かったけどさ」ナデナデ
サキ「…キョーチャー…♥」ギュゥゥ
それにしてもこのトレーナー、本当にデレデレである。
………
…
夕飯も終われば学生にとって待望の自由時間。
けれど、トレーナーにとってはここからが本番なのだと少年は語る。
京太郎「サキの奴を風呂に入れさせないとダメですしね」
でも、サキモンとは言え一人で風呂に入れるのでは…?
京太郎「本人が入りたがらないんですよ、どうしても俺と一緒じゃないと嫌だって」
サキ「…キョーチャー」ギュゥ
なるほど、子どもの頃から一緒に入っていた刷り込みという奴なのかもしれない
このサキモンにとってお風呂とはトレーナーと一緒に入るものなのだろう
京太郎「それでいて綺麗好きだからなーお前」クシャクシャ
サキ「キョーチャー…!」
京太郎「はは、悪い悪い。でも、もう風呂に入るから良いだろ」
髪の毛を乱されて威嚇のような声を出すサキモン。
けれど、それはスキンシップの一環である事はその表情を見れば一目瞭然だ。
髪の毛を乱されているにも関わらず、その頬は緩んでいる。
サキモンにとっても髪は大事なものだが、それを乱されても気にしないくらいこのサキモンはトレーナーを信じているのだ。
サキ「…キョーチャー…」
京太郎「はいはい。プリンはちゃんと用意してますよっと、そういう訳でここからは…」
確かにお風呂場にまでお邪魔させて貰う訳にはいかない。
ゆっくり楽しんできて欲しい。
サキ「ふわぁ…」
サキモンの夜は早い。
夜行性や一部の特殊なサキモンで無い限り、日付が変わる前には眠気が訪れる。
このサキモンも例外ではなく、11時になった時には眠そうに瞼を擦っていた。
どうやらトレーナーである少年の方針で大分健康的な生活をしているらしい。
京太郎「ん、そろそろ寝るか」
サキ「キョーチャー…」ギュゥ
それを感じ取ったトレーナーにサキモンは甘えるように抱きつく。
今までよりもさらに信頼と親愛の込めたそれは身を委ねていると言っても良いくらいだ。
京太郎「んじゃ抱っこするぞ」
サキ「…リン…シャーン…♪」
そんなサキモンをトレーナーの少年はヒョイと軽い物のように持ち上げる。
そのまま部屋へと連れ上がっていく少年に危なげなものは一切なかった。
それは彼がただ、毎日それを行って手慣れているというだけではないだろう。
京太郎「まぁ、サキモンと付き合う上で身体は鍛えて損はない訳ですしね」
確かに不思議なチカラを使うサキモンとの付き合い方は難しい。
遠く離れたマサラの地では電気を扱うサキモンに何度も痺れさせられてようやく仲良くなったトレーナーもいると聞く。
気難しく中々仲良くなれないサキモンもいるのだから、身体は鍛えるに越したことはないだろう。
…にしてもそうやって身体を鍛えていたと言う事はやっぱり最初は一筋縄ではいかなかったのだろうか。
京太郎「そりゃ勿論そうですよ。サキはどっちかって言うと人見知りな方でしたし」
怖くはなかったのか?
京太郎「俺が怖がる以上にコイツの方が怯えていましたから。なんとかしてやらなきゃって気持ちの方が強くて」
それで何とかなってしまった?
京太郎「何とかして貰えたって言うのが正しいですね。俺も最初は分からなくて失敗ばかりでしたし。でも…」
でも?
京太郎「そんな俺にコイツから歩み寄ってくれたから…今のこの関係があるんです」ナデナデ
サキ「…カァン…♪」
こうして二人のように強い絆で結ばれるには歩み寄るだけじゃなく歩み寄ってもらう事も必要という事か。
一言にサキモンとトレーナーの関係と言っても、色々と奥が深い。
京太郎「まぁ、必ずしもそうあるべきではないと思います。俺達がそうであったってだけでまた違った形もあるでしょうし」
京太郎「ただ、俺はコイツにずっと助けられてきていますから…
パートナーがサキで…コイツのお陰でトレーナーになれて本当に感謝してます」
サキ「キョー…チャー…?」チュッ
京太郎「ちょ…さ、サキ…!?」
おっと、どうやらサキモンの方が発情期に入ってしまったようだ。
コレ以上はお邪魔になってしまうので取材班も早々に立ち去るようにしよう。
サキットモンスター、縮めてサキモン。
この星の、不思議な不思議な生き物、海に森に町に、その種類は、100、200、300、いや、それ以上かもしれない。
そんな不思議な生き物はほら、アナタの側にも… ――
カンッ
最終更新:2014年02月23日 15:50