末原恭子が壊れた。
    全国の怪物を相手にしている内に凡人である彼女の精神はすり減り、そして最後には全てをなくしてしまったのだ。
    部員達も必死に介護を続けていたが、恭子は治る事なく、面倒を見ている部員の精神も磨り減っていき限界だった。
    そんなところに現れたのが転校してきた須賀京太郎だ。
    特級介護士の称号を持つ京太郎に介護が任されたのだ。


    須賀京太郎の末原恭子看病日誌

    今日も恭子さんは壊れている
    怪物に向かう凡人ということで少なからず共感を覚えていた彼女。
    その成れの果てがこの姿だと思うとなんだか悲しい。

    「あーあー」

    トイレも昔は垂れ流しだったらしい。
    けれども何とかしてトイレでするように教え込んだ。
    その場ですると自らも気持ちが悪いと悟ったのか、思った以上に簡単に覚えてくれた事は幸いだった。

    姫松の人達の介護がいいからだろうか、彼女の美貌は損なわれる事はなかった。
    正常である時の彼女は元気を内に秘め、その元気を見る人にも分け与えているような正の美しさ。
    今の彼女は彼女は見る人を共に負の面に誘い込む美しさだ。

    「末原さん。早くよくなってくださいよ」

    本当によくなるのだろうかという疑問が脳裏をよぎるが、すぐにかき消した。
    信じる事が大事なのだ。

    「うー! うー!」

    末原恭子は麻雀牌を見ると暴れだす。
    麻雀は彼女から全てを奪っていった。
    そんなものを見れば暴れるのも当然だ。
    たまたまつけていたテレビのCMで流れたのがいけなかった。

    「うー! うー!」

    彼女は言葉を話さない。
    呻き声のような言葉にならないものを垂れ流すだけだ。
    けれども慣れていくうちに彼女なりに感情を表しているのが分かる。
    この『うー』は嬉しいときのものとか、怒ってるときのものとか色々あるのだ。
    彼女は懸命に自分を出そうとしている。
    これは素晴らしい事だ。

    彼女はたまに虚空を見つめる。
    猫は人間に見えないものを見れる為に何もないところを見つめるということがあるように、彼女もそれなのだろうか。


    この後京ちゃんの献身的な介護でも末原さんは元に戻らず、
    その内に京ちゃんも疲れ果て二人は無理心中を図って終わるという現代社会における介護の難しさを感じさせるお話。