京太郎「雨、やまねぇなぁ」

和「そうですね。まぁ、大型台風ですしね」


私たちが覗く窓の外では、大きな雨粒と強い風が荒れ狂っている。
本来、日本に来るはずのなかった大型台風は突如進路を変えて長野県内にやってきた。
そのせいで、外の光景は正しく地獄絵図。豪雨と雷、嵐の三重苦。
そんな中に身を晒すわけにもいかず、私たちは部屋の中でおとなしくしていた。

京太郎「まさか、和がうちに来てくれたのに、こんなことになるなんてなぁ」

和「しょうがないじゃないですか。こんな天気、誰も予想できませんよ」

京太郎「んー、そういってもらえると助かるけどさ。でも、もうすぐ夜本番だっていうのに
       男とふたりっきりっていうのはどうよ、和的には」

和「大丈夫でしょう。須賀君にそんなことする度胸があるとも思えませんし」

京太郎「ひでぇ」

和「何かあれば法廷で会いましょう」

京太郎「パパさん休ませてやれよ」


…万が一、万が一そういうことがあってもだ、大丈夫ですよね!?
ちゃんと今日は下着も可愛いのを用意しきましたし、ひ、避妊用具だって万全ですっ!
べ、別に私が淫乱というわけでもなくて、初めて彼氏(予定)のおうちにお邪魔してきたんですから、
最低限の用意は当然ですよ、うん。

京太郎「のどかー無視しないでーさみしいよー」

和「だ、大丈夫ですっ!生理はまだ先ですから」

京太郎「せ、整理?世履?」

和「…、…忘れてください」

京太郎「なにがあったの、さっきの短時間ののどっちモードの間になにがあったし」

和「…のどっちでしたか?」

京太郎「あー、顔真っ赤でエロかったなーっと」

和「・・・・・・」

京太郎「無言で部屋の隅に体育座りはやめてくれねぇかな。怖いから。いたたまれない気持ちになっちゃうからさ」

はずかしはずかし恥ずかしいですよこんなのっ!
変な子って思われました。絶対、京太郎君に変な子って思われましたっ!
うぅ、せっかくおめかししてきたのに、よもやこんなことになるなんてぇ・・・。

かくなるうえは…

和「忘れてください。なんでもしますから」

京太郎「ん、いま、なんでもするって」

和「常識的な範囲でお願いします」

京太郎「えー」

いや、別に京太郎くんとす、すること自体は私としてもやぶさかじゃないんですよ?
ただ私も、その、未体験ですから出来ることならはじめてはノーマルな方でお願いしたいですけど…
それはそれでありかもしれませんね。

京太郎「じゃあさ、和」

和「はい」

京太郎「名前でよんでくれよ」

和「…え?」

京太郎「だーかーら、京太郎って名前でよんでほしいなーって」

和「そんなことでいいんですか?」

京太郎「そんなことっていっても、和だけ俺のこといつまで経っても名前呼びしてくれねぇしさ」


ちょいと寂しいぜ、と身振りでアピールする京太郎くん。
その彼の言動を聞いて・・・あ、まずい。私だけ須賀君呼びです。

咲『京ちゃーん、一緒に帰ろっ?』

優希『きょうたろー、飯行くじぇめし。タコスが優希様と忠犬をまってるぞ!』

まこ『ほれ、京太郎。今日はうちでバイトん日じゃろ?色つけたるけぇしっかり働きんさい』

久『す、京太郎くんっ!これ、昔に私が使ってた麻雀の教本…。大事なとこは印付けてあるから、よかったら使って』


      • 完全に遅れとってます。そして元部長。キャラがおかしいです。
ほんの少し前まで私と同じ素直になれない組だったくせしてなんのつもりですか。
うらやま…羨ましいですよっ!本当に。
ですが、これはチャンスです。この機に乗じて更なるステップへ・・・

和「きょ、京太郎くん?」

京太郎「はい、和」

和「京太郎くん」

京太郎「のどかー」

…えんだあああああああああああああああああああああああああっ!!やりました!
名前呼びできました!勝訴です!エトペンも盗んだバイクで走り出す快挙ですよこれは。
うれしい。すごくうれしいです。もう心の中だけではありません。ちゃんと声に出して呼べるんです。
きょうたろうくん、って。えへへ。

でも、心臓がすごい勢いで鼓動を刻んでいます。ドキドキしています。
まるで高エネルギー加速機構でも内蔵されたかのようです。この衝動をどうすれば…。


すると、そこでリーンゴーンというチャイムの音が。こんな時間にというかこんな嵐の中にお客様?

和「誰でしょう?」

京太郎「気合入った訪問販売だろうか」

和「・・・それかなり嫌ですね。こんな日に転がり込んでくるなんて」

京太郎「同感だ。台風の日に転がるのは風力発電機とピザ屋のバイクのタイヤだけで十分だっての」

そんなことをいっても仕方がないので、二人でいっしょに玄関まで様子を見に行くことに。どきどき。

京太郎くんはそっと玄関から外の様子を覗くと、ぎょっと驚いたような顔をして、すぐさま扉を開けました。

久「や、やっほー」

京太郎「ひ、久さん!?」

和「ど、どうして!?」

久「いやー。進学先の学校を見に行った帰りだったんだけど台風で電車が止まっちゃってね?」

久「それでどうしたものかって考えてたら、京太郎くんの家が近くだなぁって思い出して」

「「思い出して?」」

「きちゃった♪」

京太郎「えー」

…いやいや京太郎くん、えーじゃないですよえーじゃ!
何この人突如現れて私たちのラブラブタイムを強制終了させた挙句、『来ちゃった♪』とかやってんですか!?
創作物の中なら可愛いけど現実にやると顰蹙(ひんしゅく)を買いかねない行動をこうもさらっと・・・。

はっ!?まさかこれは、普段突拍子もない行動ばっかして京太郎くんの許容範囲を広げておきつつ、
こういう時も『もう、しょうがないなぁ』で済ませる元部長の策略!?


久「・・・(にやり)」

和「くっ・・・、京太郎くん!」

久「なぁっ!?」

京太郎「あいよ?」

和「申し訳ありませんが、タオルを持ってきてもらえますか?」

京太郎「あぁ、そうだなちょっと行ってくる」

勇み足でたったかたーと去っていく京太郎くんを尻目に、私は元部長、久さんへと向き直る。
お互いに向き合うこの姿勢は、ある種の決闘のようだ。遊戯王ではない。

久「和。あなたもこのステージ(名前呼び)へ来たようね」

和「何を偉そうに。あなただってつい最近じゃないですか」

久「ふふふ…でも、それ以上はだめよ」



言外に彼は私のものだとでも言うような物言い。
まさか、ここまでくるなんて、この隠れヘタレめ!お下げをもぎ取ってモブキャラみたくしてくれようか。


和「私は、負けません」

久「相手にとって不足はないわね」


私の宣戦布告を、笑って受け流す、元部長。その裏に隠されているのは、余裕なのか。
彼への恋慕か。いえ、それは野暮ですね。私・・・私たちは知っています。
この感情の答えを。そのあり方を。


―――――バチバチと火花を散らす、彼女と私。誰が来ようと、関係ない。彼の隣を手に入れるため、ゴッ倒します!――――



カンッ!!