「今日は買い物に付き合ってくれて、本当にありがとな!久しぶりだったからものすごく、嬉しかったぜ。
これからも俺たちはいい親友でいようぜ」
「しっ…しんゆ……?」
パニック状態のまま、咲の声はもはや言葉にもならないようだった。
「そうだ、俺達は親友だ!」

親友。

それは咲が、京太郎に求めた関係ではなかったはずだ。
だから当然咲は、そうじゃない、と言うはずだった。
それなのに、
「……親友……。私と京ちゃんが……」
それなのに。
咲は言えないのだ。
私は京ちゃんが好き、もう親友ではなくて本当の恋人になりたい、と。
咲はそれを言わないまま、静かに声をかすれさせたのだ。
一度はレディースランチを食べた後に告白しようとして失敗したけど、京ちゃんと一緒に部活をしているうちにもっともっと好きになったの。
世界の誰よりもあなたが好きなんです。恋人になりたいんです。
――その一番大事な言葉をきちんと伝えられないまま。
今日こそ言おうと決心したはずの咲は、自らその思いをおさめて視線を落としてしまう。
「うん………」
――そんなたったの二文字だけの言葉で、その場から一歩退却した。してしまった。
「じゃあな咲、また明日!事故にあわないように気をつけてな!」
京太郎の快活な、よく言えば態度を変えない気遣いに満ちた、悪く言えば空気を読まない声が明るく響く。
「うん………じゃあね京ちゃん…………また明日」
などと。咲は自分の気持ちを伝えられなかった己に情けなさを感じていた。
それが悔やまれる。もしこの時、少しだけ、ほんの少しだけでも勇気を持って咲自身の好意を京太郎に伝えていたら。
彼女を取り巻く運命は――――――最悪の方向へと向かわなかったのかもしれない。



「ああ~疲れた!家に帰ってさっさと寝るかっと!」
そんな咲の想いを露とも知らず京太郎は呑気に欠伸をしながら家へと向かう。
「いてっ!」
「きゃっ!」
少しばかり注意力が散漫になっていたのか、京太郎は曲がり角から現れた女性とぶつかってしまった。
「す、すいません!大丈夫ですか……?」
京太郎は慌てつつもぶつかった衝撃で尻餅をついてしまった女性へと手を差し伸べる。
「京ちゃん……?」
「へっ………?」
幼馴染みの咲が、自分を呼ぶ時にいつも使う愛称を耳にした京太郎は間の抜けた返事をする。
そして気が付く、京太郎はその女性が誰かという事に。
「照………さんですか?もしかして………」
照と呼ばれた女性は嬉しそうに笑い、京太郎の手を優しく握る。
「久しぶり………京ちゃん。あの頃よりも大きくなったね?」

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