『今から白糸台の控室に来れない? 何とかする方法を思いついた。PS.必ず1人で来て』


照さんからのメールを受け取ったのは夕暮れ時、ちょうど準決勝が終わるぐらいの時間帯だった。
無事に決勝進出を決めて喜びで沸き立つ控室の中で、俺はそのメールの内容に驚いていた。


京太郎「(朝に話したばかりなのにもう思いつくとはなぁ)」


俺たちがあれだけ悩んだというのにあっさり思いつくとは。
やはり王者は格が違った、と言うやつか。
ただ、引っかかるのは『1人で来て』と言う一文である。


京太郎「(……大丈夫なのか?)」


若干の怖さもあるが、正直俺たちではどうしようもないので縋るしかない。
せっかく決勝戦まで駒を進めたのだ。
何も憂いがない状態で試合に集中してもらいたい。行くしかないだろう。
なんとなく言いづらいのもあり、メンバーにはトイレに行くと言って俺は白糸台の部室を目指した。
朝方の行動も結構疑われこともある。
話を聞いたらさっさと戻らなきゃいかんな。


京太郎「ここ、だよな」


扉に張られた紙には『白糸台高校控室』と書かれている。
別に後ろめたいことをしているわけでもないのだが、ちょっと緊張する。
周りを見回しあたりに人気がないことを確認したのち、扉をノックした。


京太郎「清澄の須賀です」

照「どうぞ」


俺はその声に導かれるように控室の中に入った。
部屋の内装はあまり俺たちの部屋と変わらない。
ただ、うちと違いいろいろと物が多い
どこかの差し入れと思われる花の鉢植えや、大きな段ボールなどがけっこう置かれている。
あそこの花とか確か胡蝶蘭だよな。結構なお値段するはずなのに。
流石名門校は違うな、と妙なところで感心した。


照「来てくれてありがとう」

淡「やっほー」


部屋の中には照さんと珍種が一匹。
こいつが白糸台の制服を着て控室にいるのは当たり前の話なのだが、やはりちょっとした驚きを感じる。
そして服と言えば照さんの服が見慣れぬ制服になって居る。
どう見てもあれ冬服だよな?
何とも言えない気持ちを味わいながら2人の向かいの席に座った。


京太郎「それで、解決する方法が見つかったって……」

照「うん。ただ、その前に」


そこで照さんは佇まいを直し、俺の目をじっと見てきた。
思わぬ行動にちょっとたじろいでしまう。


照「解決のために、須賀君にはちょっと頑張ってもらわなくちゃいけない。恥ずかしい思いもすると思う。それでも、聞く?」


真剣なその口調に俺は思わず気圧された。
頑張ってもらう、それはまぁいい。
だけど恥ずかしい思いってなんだ?
いったい俺に何をさせようというんだろう、この人は。
記者会見でも開いて釈明させてくれるとでもいうのだろうか。
それとも俺になんかもう口では言えないぐらい酷いことでもさせて噂を上書きでもさせようっていうのか。


京太郎「えっ……と、俺はいったいどんなことをするんですか?」

照「ごめん。それは理由があって言えない」

京太郎「い、言えないって……」

照「わかってる。だから、こんな胡散臭い話には乗れないというのならそれは構わない」


俺の問いかけを一刀両断で切り捨てる照さん。
ますます脳内には疑問符が駆け巡る。
解決案は知りたいが、内容を知らされずお前ちょっと働けよと言われても正直困る。
まぁ、流石にからかってるとか清澄を貶めるようなことはしない人だと思うけど。
今日初めて会った人だけど個人的にはこの人を信用したい。友達のお姉さ


京太郎「……本当に、その案で解決できるんですか?」

照「うん、大丈夫。須賀君だから、きっと大丈夫」


どういうことだ?
俺だから大丈夫?
意味が分からん。
だが、その自信満々の素振りを見る限り確信があるのだろう。
照さんの顔を見ても動揺しているとかそういうことはなく、堂々としたものだ。
それでもやっぱり、胡散臭いものは胡散臭いし、怪しい。
それはどうあがいてもぬぐえない。


京太郎「(だけど、なぁ)」


きっとこの噂は決勝の時まで残っているだろう。
そうなるとまたいろいろとめんどくさいことになるだろう。
さっきも思ったが、せっかく決勝までこれたんだ。
苦労して必死に掴んだせっかくの決勝へのチケットなんだ。
変な噂でその勝負にケチをつけられるのはあんまりだ。

もし、照さんの言うとおり俺ならこの状況を覆せるというのなら


京太郎「わかりました。俺にできることならします。だからその方法を教えてください」


やるしかないだろう。
多少ワリを食うみたいだけれども、構うものか。


照「わかった」


そう言うと照さんは間を置き、チラチラと視線をさまよわせた後に口を開こうとした。
だが、それを遮るようにあいつがニヤッと笑いながらこちらに口を挟んできた。


淡「ねぇ、ほんとにいいのー?」

京太郎「なんだよ」

淡「だってさー。テルーからいろいろ話は聞いてるけど、噂って大半が嘘だけど一部事実も混ざってるんでしょ」

京太郎「そりゃまぁ、そうだけど」


少なくとも荷物持たせられて走らされたとか、炎天下の中買い出しに出かけたとかは事実だ。
だけど、俺自身はあまりそのことについて気にしてないし、自分から買って出た面だってある。


淡「なんだかなー。そっちは一生懸命部のために頑張ろうって言う気持ちがあるのはわかるんだけどさ」


そこまで言って底意地の悪そうな嫌な笑いを向けてくる。


淡「向こうはどう思ってるのかなー?」

京太郎「……何が言いたいんだよ」


妙に突っかかるような言い方をするのでさすがにカチンとくる。
思わず顔にも出てしまったがそんなことは気にも留めず続けた。


淡「だーかーらー。あんたの好意を向こうは利用してるんじゃないかって言ってるの」

京太郎「利用、って」

照「ちょっと……」

照さんが窘めるように口を挟んでくるが、気も止める素振りを見せない。
むしろより一層悪そうな顔を見せてくる。

淡「どう考えたって向こうは体よく利用してるだけだって。仲間だなんて思ってナイナイ」

淡「たぶん、最初は追い出すつもりでいろいろと押し付けてたけど思ったより使えるから置いといてるとかじゃない?」

淡「女の子ばっかりの中に男一人だからねー。そりゃいいように使われるかー」


何が楽しいのかケラケラと笑いだす。
それとは反対に俺の内心はひどく軋んでいた。
頭がカーッと熱くなってくる。


淡「絶対アイツら陰でバカにしてるよ。いい奴隷だ、とか、下心目的だ、とか」

淡「そんな連中のために体張ることないって。バカバカしいじゃん」

淡「だからさ、部も早いところ辞めるなりしたほうがいいんじゃない? 時間を無駄に使うのもったいないでしょ」

淡「このままだとずーっといいように使われるか、適当なところで放り出されるのがオチだよ?」

京太郎「……」


なんだこいつは。
皆のことをろくに知りもしなくせに。
俺たちがどんな思いでここまで来たのかそれをわからないくせに。


淡「それにしてもそういうことするかなー、普通」

淡「人の良さとか好意につけこむとか最低でしょ」

淡「そりゃ、麻雀の腕はすごいのかもしれないけど人間性はお察しかー」

淡「ついてないね、そんな奴らに出会っちゃったなんて」

淡「いやー本当に酷い連中」ケラケラ

京太郎「……」


ぶつりと、大切な何かが切れる音が聞こえた。


京太郎「……ざけんな」

淡「ん?」

京太郎「ふざけんじゃねーよ!」ガンッ


目の前の机に感情の赴くまま拳を叩きつけた。
2人はびくりと体をすくませていたがそれを気に留める余裕は俺にはなかった。
ここまで腹を立てたのはいつ振りだろうか。
もしかしたら初めてかもしれない。
それぐらい、こいつの言ったことは許せなかった。


京太郎「お前が何を知ってるっていうんだよ! 俺たちの何がわかるってんだよ!」

京太郎「何が利用してるだ! 何が奴隷だ! お前の勝手な思い込みで言いやがって!」

京太郎「そりゃ、男はたった一人だし、初心者だって俺だけだ。だけど、だけどな!」

京太郎「うちのメンバーは……うちの仲間は、そんな理由で人を見下すような、1人をいじめるようなそんな人間じゃねーよ!」


叩きつけた拳が痛む。
どうやらさっき机に叩き付けた際に痛めたらしいが、よっぽど興奮してたせいか今更気が付いた。
だが、それでも俺の苛立ちと怒りは収まらなかった。


京太郎「……大体、俺だって無償の好意で下働きしてるんじゃない。そんな聖人じゃねーよ」

京太郎「あのメンバーたちだから、俺だって頑張ろうって気になるんだ」

京太郎「たった4か月ぐらいだけど、あの部に入れて本当によかったって思える」

京太郎「一人しかいない、しかも男の初心者相手にあれこれ教えてくれて、気にかけてくれて」

京太郎「だから、俺だって部員として皆の、皆のためにしてるだけなんだ」

京太郎「皆に、勝ってほしいから。麻雀では協力できないからせめて他のところで……」

京太郎「頑張ろうって、思っただけなんだ」


入部してからここまでのことが蘇ってくる。
本当に、いろいろなことがあった。
そして、いろいろなことを得た。
言いようのない感情から体が震え、痛む拳をギュッと握る。


京太郎「部長は、俺のことをからかうし、言いように使ってくるけど、
       それでも男一人の俺が気を遣わなくてもいいようにいろいろ考えてくれてる」

京太郎「染谷先輩だってちょっと飄々としてるところもあるけど、すごく面倒見がよくて、
       練習がない日は雀荘に連れてってくれていろいろ教えてくれる」

京太郎「和だって、口じゃ厳しいことを言うことも多いけど、一番熱心に教えてくれる。俺が理解するまで何度でも付き合ってくれる」

京太郎「優希も、あいつは口じゃ憎たらしいことばっかり言ってくる。でも、いい奴だよ。ひた向きで、本当にいい友達だ」

京太郎「咲は一番長い付き合いだから、俺がちょっと悩んだり迷ったりしてるとすかさず声をかけてくる。普段はぼーっとしてるくせに」

京太郎「そんな、連中なんだ。お前の言ってるような人間じゃない!」

感情が高ぶりすぎたのか、ここまで言って涙が出そうだった。
別に悲しいことがあったわけではないのに。
とっさに顔を伏せる。

京太郎「皆で、ここまで6人で、一緒に悩んで、一緒に頑張って、一緒に喜んで……」

京太郎「本当に一歩ずつ、躓いたり、迷ったりもしたけど……皆で……皆で……」

京太郎「一生懸命、やってきたんだ。たった6人だけの小さな部活だけど、皆で協力し合って、必死に戦ってきたんだ」

京太郎「それで、ようやく、ようやくここまでやってこれたんだ」

京太郎「それを……」

京太郎「それをっ!」

京太郎「それを、馬鹿にするなっ!」

京太郎「皆を馬鹿にするなっ!」

京太郎「俺にとっての……」

京太郎「大切な、大切なっ」

京太郎「大切な仲間なんだ」


言いたいことを言いきった俺は顔を伏せたまま黙り込んだ。
感情のままに叫び続けたせいか若干呼吸が荒くなった。


照「……ごめん、淡が酷いことを言って」


照さんの謝罪の声が聞こえる。
正直照さんに謝られても腹の虫は収まらない。
だが、反論する気力も使い切ったので黙っていた。


照「須賀君の覚悟、よく分かったから……。これ、私たちが考えた解決方法。読んでみて」


そう言って照さんは机の上にふたつに折られたA4サイズの紙を差し出してきた。
思いがけないことがあったが、そもそも俺がここに来たのはこれが目的だった。
俺は少しの緊張を胸に、恐る恐る紙を手に取り、開いてみた。
そしてそこに書かれていた文字に目を通そうとしたが、それは一瞬で終わった。









『はずれ☆』












「へっ?」


女の子特有の丸っこい字で書かれたその一言の内容が理解できず俺は間抜けな声を漏らしてしまった。
先ほどまでの怒りはどこへやら、状況が理解できず顔を上げた。
するとそこには申し訳なさそうにする照さんと、満面の笑みで笑う大星。
その手にはいつの間に持っていたのだろう、段ボールで作ったであろう簡素なプラカードを持ち、そこにはこう書かれていた。


淡「ドッキリ大成功ーーーーーーーー!」

尭深「だ、だいせいこー!」バサッ

誠子「尭深、恥ずかしいのはわかるけど"う"をちゃんとつけて。いろいろとほら、まずい」バサッ

京太郎「うおぉっ!」ビクッ


大星の叫びと共に近くに置かれていた大きな段ボールのふたがいきなり開き、女の人が二人飛び出してきた。
1人はノートパソコン、もう1人はパソコンにつながっているWEBカメラを手に持っている。
素でビビった俺は情けない叫び声をあげつつ思わずのけ反った。
っていうか何、この状況?


菫「……案の定放心しているな」ガチャッ


そんな状況で扉を開けて入ってきた人がまた一人。
と言うかこの人たち、確か白糸台のレギュラー陣だよな?


京太郎「……あ、へ、その、ドッキリ?」

照「ごめん、須賀君を怒らせたのは、わざと」

淡「いえーい!」

菫「お前は煽りすぎだっ」ベシッ

京太郎「わざ、と?」

照「うん。須賀君の、演技でもなんでもない心からの気持ちを聞きたかった。
   須賀君がどれがけ部を大切に思っているのかっていうのを」


何故? Why?
わざとって何?
つーかどういう事よ?
何でそんなことをするのよ?
理解が追い付かない俺の脳みそはそろそろフリーズを起こしそうだった。


菫「まず、騙すようなことをしてしまったことを謝罪したい。人に訴えかける姿を撮るにはこういう手段を取らざる得なかった」

京太郎「な、なんでそんなことを?」

菫「当然の疑問だな。で、それについてもう一つ謝らなくちゃいけないんだが……」


そういうと髪の長いその人はちらりと段ボールから飛び出してきた人たちのほうを見て申し訳なさそうに告げた。
先ほども言ったがその手にはパソコンとWEBカメラ……待て待て待て! パソコンとWEBカメラ!?


菫「君が『俺にできることならします』って言った後からずっと、君の姿をUs○reamで生配信をさせて貰っていた」

淡「もちろん掲示板でもURL付で宣伝してるよ!」

京太郎「」



(そのころの清澄)

まこ「鶴賀の部長が慌てて電話かけてきてこれを見ろとURL送ってきたから見てみたら……」パソコンカチカチ

咲「……京ちゃん」

優希「……ばーか」

久「まったくもう、何かこそこそとしてるなぁとは思っていたけどこんな事たくらんでたのね」クスクス

和「でも、どう見ても台本とかじゃなくて素ですよ、コレ。……まぁ、だからこそちょっと気恥ずかしいですけどね」

まこ「誰が考えた筋書きか知らんが……まったく。流石にここまでのものを見せられちゃそう悪く言うやつはおらんじゃろ」

久「あーあ、もうほんと。やってくれるわね。誰だかわからないけど、文句言わなくちゃ」

優希「そうだじぇ! うちの部員を騙した罪は重いじぇ!」

和「ですね。そもそも、肖像権の侵害ですよこれは!」

咲「(……言葉の割にはみんな嬉しそう)」

咲「(私もだけど)」クスッ



(そのころの姫松)

恭子「これって、奴隷って噂されてた子、やな?」

洋榎「せや。……この子の言うとること、ホンマか?」

漫「嘘には、見えませんでした。……つまり」

恭子「全部デマやった言うことか。土下座し損やん……」

絹恵「あ、あははは……」

由子「」コーホー

洋榎「というかいつまでそれ着とるんや」

漫「気にいったん?」

由子「」ノーヨー



(そのころの宮守女子)

エイスリン「ヤッパリ、ウソ!」ニコニコ

胡桃「エイスリンさん、前はあんなに怯えてたのに随分変わったね?」

エイスリン「アノ人、優シカッタ!」

塞「そういえば試合後は普通に話しできてたね」

エイスリン「ウン」ニコニコ

胡桃「それにしても、嘘だったなら私は結構ひどい態度とっちゃったな……」

豊音「私、泣いて土下座しちゃった……恥ずかしい……」

白望「(そもそもなんでみんな最初っから信じてたんだろう)」

白望「ダルい」



(そのころの永水女子)

小蒔「あの……霞ちゃん?」

霞「」

巴「……ダメ、完全に魂が抜けてる」

初美「そりゃ、あれだけ啖呵切ったのにそれがそもそも勘違いだったとしたら」

春「恥ずかしさで立ち直れない……」ポリポリ

霞「」ガタガタ

小蒔「あぁ、霞ちゃんが! 霞ちゃんが!」

初美「これは立ち直るのにしばらく時間がかかりそうですよー」

霞「スミマセンスミマセンスミマセン」ガクガク



(そのころの阿知賀)

憧「」

隠乃「」

玄「」

灼「あー……」

宥「えっと、いい子だね、この子」

憧「でも、それってつまり、全部ガセネタだったってことだよね?」

晴絵「さすがにこの子の叫びが嘘とは考えにくいね」

灼「それに、冷静に考えれば信憑性に欠ける話ばっかりだった」

隠乃「ネットって怖い……」

玄「うぅ、信じちゃったことに反省」

憧「(あああああああああああああ、噂にかこつけていやらしいこと考えたああああああああああああああああああああああああ)」ブンブン

晴絵「決勝近いのに、大丈夫かねこれ……」


(そのころの新道寺)

煌「あー! あー!」ジタバタジタバタ

仁美「花田、どうしたんです?」

美子「さっきからソファーに寝そべってクッション被ってじたばたしてますけど」

姫子「あー、さっきの生放送? あれで清澄の噂が嘘ってわかったやろ? 
    それでいろいろ自己嫌悪とか恥ずかしさとかで死にたくなっちょるみたい」

哩「花田、しっかりしろ」

煌「うー」ギュッ

哩「ほら、クッションから手ば離せ。勘違いだったんはしゃあないちゃろう」

煌「はい……」オズオズ

哩「なぁ、花田。うちとしても敗退したことは悔しいが、今回の大会で収穫はあったと思っちる」

煌「えっ?」

哩「花田、チャンプから3倍満打ち取ったじゃろ? それに、後半はすさまじい追い上げみしぇたしな」

煌「あれは……なんというか、無我夢中で。あはは、たまたまです」

哩「ふむ?」

哩「(……少し叩いて鍛えれば、変わるかもしれんな)」


――翌年度、恐るべき粘り強さと土壇場の火力の高さで全国に花田煌という名前を轟かすことになる
――かどうかは誰にもわからない


淡「と言うわけで配信はここまでー。見てくれた人ありがとー」フリフリ

照「これを見てくれた人なら、あの噂が根も葉もないものだっていうのは、わかってもらえると思う」

菫「彼らとて、必死に戦ってここまでやってきたんだ。つまらない噂で彼らの努力に
    水を差すのはやめてあげてほしい。各自の良心に期待する」

淡「それじゃー、バイバイ!」

尭深「……はい、今配信を止めました。もう大丈夫です」カチカチ

誠子「ふぃー、肩こった。段ボールの中狭いから」

菫「やれやれ、こういうことはこれっきりにしたいな」

京太郎「あの……」


放心&置いてけぼりのダブルコンボの俺はしばらく口を閉ざしていたけど放送が止まったと聞いてようやく口を開いた。
この部屋へやってきて30分も経っていないのに怒涛の展開すぎるだろう。


照「改めて、ごめんね。騙すような真似をして」

京太郎「いえ、その、そんな」


正直怒るべきかどうなのか判断が付きかねていた。
恥ずかしい思いをするとは聞いていたが、まさか全世界に醜態を晒すことになるとは思いもしない。


菫「動揺するのはわかる。無茶苦茶な手段だしな。咎められても文句は言えないな」

尭深「ん……ただ、やっぱり結構な効果があったみたいですよ。掲示板見てるんですが結構な騒ぎになっています」

誠子「どれどれ。『感動した』『私は最初っから嘘だと信じていた』
    『つーかそもそもこの話言い出したの誰よ』 ……手のひら返し早いなぁ」

尭深「結果的にウチがこの放送をしたことがある程度の説得力を持たせたみたいですね。
     それでも悪く言ってる人はいますけど、少数派ですね」カチカチ

京太郎「そう、ですか。……それは、よかった」


いろいろ腑に落ちないものはあるがこの状況に一撃を加えてくれたことには感謝しなくちゃいけないだろう。
照さんの確認に「体張っても恥ずかしい思いをしてもいい」と返してしまった手前、強く出れないというのもある。

考えてみれば既に俺の名前、学校、顔写真までネットに出回っていたんだ。
それらは噂が沈静化したところで消えないわけでして。
今更ひとつ動画が増えても大して状況は変わるまい。
嫌な話だけど。


菫「しばらくは注目を浴びるかもしれないが、悪い感情は持たれないだろう」

照「本当に、上手くいってよかった」


それにしてもだ。


京太郎「その、もし俺が皆を悪く言われたときに何も言い返さなかったらどうしたんですか?」

照「そんなことは考えなかった」

京太郎「そんな無茶苦茶な……」


即答である。
おいおい、ちょっとそれはノープランすぎやしないか?
そう口に出そうと思ったが照さんは自信を帯びた口調で続けた。


照「須賀君が喫茶店で私に対してあの噂が嘘だって説明してくれた時の必死さと
   真剣さを見て、本当に仲のいい部だっていうことはわかったから」

照「絶対に反論してくるだろうって、確信していた」

淡「そーれーにー、あれだけ負けて顔真っ赤にしてる奴がそんなに
   気の長い奴なわけないじゃーん。絶対ガチギレすると思ったよ」ケラケラ


今までパソコンをいじりまわしていた大星がにやにや笑いながら口を挟んできた。
相変わらず憎たらしい奴め。
反論できないけど。

しかし、大星はともかく照さんとは今日会ったばかりだっていうのに俺と言う人間がいろいろ見透かされてるのにちょっと驚く。
やはり麻雀強い人と言うのはどっかそういう感覚が鍛えられているのだろうか?
まぁ、騙された感はあるし気恥ずかしさもあるけれど、結果が出たのならこれ以上どうこう言うこともあるまい。
ならば、言うことは一つだ。


京太郎「まぁ、その、すっごい無茶苦茶な手段ですし、これ訴えたら勝てるんじゃないかって気もしますけど」

尭深「(ぎくっ)」

京太郎「でも、効果はあったみたいですし……だからその、ありがとうございました。わざわざ俺たちのために」

菫「構わんさ。照の頼みだったし、何より決勝で戦う相手だ。盤外の事情で勝負に水を差すのは本意じゃない」


何この人男前。
これが王者の風格っていうやつですか。
全力を受け止めた上で叩き潰すとかいうそういう横綱相撲的な。


照「それに頑張ったのは須賀君だから。私たちは少し協力しただけ」


俺はただブチ切れて喚いていただけなのだが。
しかし、冷静に考えるとそんな姿をたくさんの人に見られたわけだ。
落ち着いてきて、今更ながらすごく恥ずかしくなってきた。


淡「ふふー、なかなかいいキレっぷりだったよ」

京太郎「こいつ……」


また何か突っかかってくるのかと思ったけどいきなり神妙な顔をしてこっちを見てくる。
思わずぎょっとして二の句が継げなくなってしまった。


淡「仲間をあんなふうに言われたら誰だって怒るよね。フリだったとはいえごめんね、酷いことを言って」


そう言って頭を下げてくる。
……この卑怯者め、そう素直に謝れると何も言えないではないか。
こういうタイプの人間が殊勝に謝ってくると効果は絶大だとひしひしと感じた。


京太郎「いいよ、別に。もう気にしてねーし」

淡「うん、よかったぁ!」


結局あっさり許してしまう自分のチョロさに若干自己嫌悪を覚える。
俺はちょちょぎれそうになる涙をこらえながら、これから控室に戻るのにどういう顔をして戻ればいいのか頭を悩ませていた。