初めて俺――須賀京太郎が、あいつ――東横桃子に出会ったのは小学生の時だ。

それは本当に単純に偶然の出会いだった。

ある春の晴れた日。

近所の公園で新しく同じクラスとなった数人とサッカーボールを追い掛け回し、日も沈み始めた時。

新しくできた友達と別れの挨拶をすまし解散となり、さて家に帰るかと思った時。

ふとブランコに座っている同い年くらいの黒髪の少女が目に付いた。

俯き微動だにしない女の子。

誰かを待っているのだろうか。そんな事を思っていると少女が不意に顔を上げた。

続いて夕日を見上げ、僅かな時間の後、一度頭を振り立ち上がった。

家に帰るのだろう、彼女が緩慢にとぼとぼと歩き出す。

その後ろ姿が何故か寂しげで、儚げで、酷く胸が締め付けられた。

そして、次の日も、また次の日も、またまた次の日も、彼女はそうして佇んでいた。

今まで気付かなかったのが不思議なくらいだ。

彼女はいつも独りブランコに座っていた。

そして、ある日。

いつもそんな風に公園にいるその子がどうしようもなく気になって、なんだか放っておけなくて。

ブランコに座っている彼女の正面に立ち、声を掛けた。


京太郎「よう」

桃子「……」

俯いたまま答えない少女。

もう一度、今度はもう少し大きな声を投げ掛けてみる。

京太郎「よう、ってば」

桃子「えっ」

ようやく彼女が顔を上げた。

黒髪がさらりと頬を流れた。

桃子「――私っすか?」

京太郎「お前以外いないぞ」

回りを見渡しながら彼女の問いに答えた。

京太郎「いつも一人で何してんだ? 誰か待ってるのか?」

桃子「そういうわけじゃないっすけど……」

彼女は再び俯き言葉を続ける。

桃子「一人でいるのが好きなだけっす」

嘘だ、と直感した。

本当ならそんな寂しそうに言う訳がない。

知らない女の子相手に言う事ではないな、と考えながらも思い切って問い掛けた。

京太郎「友達、いないのか?」

桃子「――っ」

彼女がびくりと身を竦めた。

図星か……ちょっと言い方がきつかったかもしれないと反省。

桃子「……私、暗いし……影薄いっすから……しょうがないっす」

ややあって俯いたまま悄然と零された言葉。

ふむと考える。

どうしたものだろう――ああ、そうだ。簡単なじゃないか。

京太郎「須賀京太郎」

桃子「えっ?」

京太郎「俺の名前、お前は?」

桃子「……東横桃子っす」

京太郎「東横桃子……」

告げられた彼女の名前を口の中で転がしてみる。

京太郎「じゃあ……モモだな」

桃子「へっ!?」

面食らったのか素っ頓狂な声が上がった。

京太郎「お前の渾名。これからそう呼ぶぞ」

桃子「あ、渾名って……」

京太郎「俺の事は好きに呼んでいいからな」

桃子「え、えっと……」

モモは困惑しているようだ。

勢いに押されたのか詰まりがらも答えた。

桃子「じゃ、じゃあ、きょう、くん」

京太郎「おう」

鷹揚に頷いてみせる。

そして、にかっと笑顔を見せ、右手をモモに差し出しながら告げた。

京太郎「これで今日から――俺達は友達だ」

桃子「友達……」

差し出された手を信じられない物を発見したようにモモが見つめた。

おずおずと伸ばされるモモの右手。

その仕草がなんだか野良猫みたいだなと思う。

掌にモモの指がゆっくりと触れた。

そして、未だ不安げな表情のモモの手をしっかりと握り、立ち上がらせる。

恥ずかしそうな、しかし嬉しそうな表情のモモの手を引いて歩き出した。

偶然だった二人の邂逅。

でも、それはきっと、これから必然となる二人の物語の幕明け。


 ――モモさっさと行こうぜ、ほら、置いてくぞー。

 ――ちょ、ちょっと京ちゃん、いきなり走り出さないで欲しいっす! まってー!