灼「すぅ、はぁ……よし」コンコン

灼「京太郎!調子はどう?お見舞いに来たわよ」

――今年の秋、私達阿知賀学園麻雀部は事故に合った

――生き残ったのは私と須賀君だけ

――その須賀君も、治るとはいえ重症で今は目が見えておらず、入院生活だ

京太郎「晴絵さん、今日も来てくれたんですか?いつもすいません」

灼「当り前でしょ?いつも言ってるけど、謝るよりもお礼が聞きたいかな、私は」

京太郎「そ、そうですよね、ありがとうございます」

――そして私は、ハルちゃんのフリをして須賀君に接している……

灼「それに恋人のお見舞いに来るなんて、当然の事でしょ」

――それは、二人が恋人同士だったから

京太郎「でも晴絵さんだって、お仕事が忙しいでしょうし……皆のこと、だって……」

灼「京太郎……」

――須賀君は皆が死んでしまったことにとてもショックを受け、引きずっている

――そのうえ愛していたハルちゃんまで死んだと知ってしまったら、きっと須賀君は壊れてしまう

灼「京太郎の気持ちはわかるし、私だって悲しいけど、いつまでも引きずって落ち込んでいては駄目よ」

灼「そんなの、誰も望んでないわ」

灼「大丈夫、私がそばにいるから……ね」

京太郎「晴絵、さん……」

――だから私はハルちゃんの仮面を被る、須賀君の為に

灼「さ、今日は清拭してあげるから」

灼「目ももう少しで治るってお医者さんも言ってたし、退院はもうすぐよ」

灼「窮屈な入院生活も、あとちょっとだからね!」

京太郎「はい、ありがとうございます」

灼「じゃあ、拭くからむこうを向いてね」

――ハルちゃんになりきる為に口調を始め、私は色々なことをしてきた

京太郎「晴絵さんは、やっぱりいい匂いがしますね」

灼「何言ってんのよ、バカ」

――匂いでばれないように、シャンプーも石鹸も、香水だってハルちゃんが使ってたものと同じにした

灼「痒いところは無い?」

京太郎「大丈夫です、厚手のタオルだから気持ちいいですよ」

――体格や手の大きさでばれないように、手袋を使ったり重ねたタオルを使ったりした

京太郎「あ……」

灼「もう、またなの?元気ね」

京太郎「ご、ごめんなさい」

灼「まぁ若いんだし、仕方ないかな?」

――勿論、あっちの方の世話までも……

――まさか、二人があんなことまでしてるとは思わなかったけど

灼「じゃあ京太郎は横になっててね、体に負担がかかるといけないから」

京太郎「うう……情けない彼氏でごめんなさい」

灼「いいわよ別に、これで入院が伸びたら目も当てられないわ」

――初めてを捧げてしまったことに後悔は無い

――これはハルちゃんへの裏切り行為なのかもしれない

――だけどこれは須賀君の為、ひいてはハルちゃんの為なんだ……

京太郎「晴絵さん、俺……!」

灼「いいよ、遠慮せずに出して……」

京太郎「ううっ!」

――だから大丈夫、私は、大丈夫……

――そう、思っていた

灼「明日には包帯が取れるって、それで晴れて退院よ」

灼「よかったわね、京太郎」

京太郎「はい、これも晴絵さんのおかげです」

京太郎「本当に、ありがとうございます」

灼「何言ってんの、当り前のことしただけでしょ」

――須賀君の退院が目前となり、私には迷いが生じていた

――須賀君に正体を明かすか否か、だ

――須賀君の心は完全とは言い難いが回復した

――しかし、ここでハルちゃんの死が告げられたらどうなるだろう?須賀君の状態はまた戻ってしまうかもしれない

――そんなこと、させられるわけがない

――でも、予想以上に私の心は軋みを上げていた

――これ以上、大好きな二人を裏切るのは耐えられない、と

――そう、私は、須賀君が『大好き』だったのだ

――だからこそ私は、今日をもって須賀君の前から永遠に去るべきなのかもしれない

――お別れを……言わなきゃ

灼「あ、あの、京た」

京太郎「それでもやっぱり、ちゃんとお礼と、お詫びを言わせてください」

京太郎「本当にありがとうございました…………灼さん」

灼「!!!」

京太郎「おっと、逃がしませんよ!」グイッ

灼「きゃっ!」

京太郎「捕まえた、俺の話が終わるまでは離しませんからね」ギュッ

灼「……いつから、気づいてたの?」

京太郎「実は最初から……って、言えたらカッコいいんですけどね」

京太郎「気づいたのはつい最近です……ごめんなさい」

京太郎「俺が……俺が情けないばっかりに、灼さんには辛い思いを……!」

灼「そんなこと……!私が勝手にやったことだし、あんなことがあったなら仕方な……」

京太郎「それは灼さんだって同じです!」

京太郎「俺と同じように大事な人達を失って辛いはずなのに、俺を慰めてくれて……俺はそれに甘えるばっかりで……」

京太郎「灼さんの、大事なものまで奪ってしまった……!」

京太郎「それなのに灼さんは俺なんかに尽くしてくれて……色んなものを犠牲にさせてしまって……」

京太郎「灼さん、俺、気づいたことがあるんです」

灼「……て」

京太郎「こんなこと、俺が言う資格は無いですけど、言わせてください」

灼「……めて」

京太郎「灼さん……俺と……」

灼「やめて!!」

京太郎「灼さん……」

灼「私が、須賀君にそんなこと言われる資格なんて……無い」

灼「私……本当は喜んでた、皆がいなくなって」

灼「ハルちゃんが……いなくなって」

灼「須賀君の世話をしているとき、私は喜んでた!須賀君が私のになったって!」

灼「阿知賀の皆でも、ハルちゃんでもない……私を頼ってくれてるんだって!」

灼「あのときも!あのときもあのときも全部!!」

京太郎「灼さん……」

灼「分かった?私は皆の死を喜び、それを利用した酷い女なの……だから……」

京太郎「灼さん!!」ギュッ

灼「……」

京太郎「やめてください……灼さん」

京太郎「泣きながら……そんなこと言わないでください」

灼「わ、私は……泣いてなんか……!」ポロポロ

灼「あ、あれ……なんで……」ポロポロ

京太郎「灼さん、悪いのは俺なんです、あなたの優しさに甘え、つけこんでしまった俺が」

京太郎「俺があなたの優しい心を追い詰めてしまった」

灼「そ、そんな事無い!悪いのはわた「灼さん」」

京太郎「……好きです、愛しています」

京太郎「自分も辛い状況なのに、他人に優しさを向けられるあなたが好きです」

京太郎「自分を傷つけてまで、犠牲にしてまで他人を守るあなたが大好きです」

京太郎「そして俺に、そこまでの愛情を向けてくれるあなたを……愛しています」

京太郎「下心があった?いいじゃないですか、別に」

京太郎「俺は……灼さんがいてくれたから、救われたんですから」

京太郎「灼さんが自分を許せないのなら、俺が許します」

京太郎「灼さんが自分を責めるなら、その倍俺が称えます」

京太郎「灼さん……好きです」

京太郎「阿知賀の皆の分まで生きてください……俺と一緒に」

京太郎「……お願い、します」

灼「……須賀君も、不幸だよね」

京太郎「灼さん……?」

灼「こんな酷い女と、一生を生きるなんて……ね」チュッ

京太郎「灼さん……!」

灼「キスは……あげてなかったからね」

灼「須賀君、誓って」

灼「私と一緒に生きるって、私を離さないって」

京太郎「はい……はい……!誓います!この命に賭けて!」

灼「須賀君……!」

京太郎「灼さん……!」
―――――
―――

灼「須賀君……明日、皆のお墓参りに行こっか」

京太郎「そうですね……皆に、言わないと」

京太郎「そうだ、灼さん」

灼「何?」

京太郎「俺のこと、名前で呼んでくれませんか?」

京太郎「晴絵さんの真似じゃない、『灼さんの』口から、ちゃんと聞きたいです」

灼「うん、分かった」

灼「愛してるよ……京太郎!」