347 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/10(日) 20:30:13.58 ID:yKXvNrCz0
そして、遂に。
俺達は三年生になった。

去年は県大会で負けてしまったため新入部員の数は減ってしまったが、
幸い既に団体戦に必要な人数は揃っているので問題はない。
あとは俺達がいかにして全力を出し切るか、だと思う。
今更新たな技術や戦法の習得なんか望めるはずもないし、ひたすら今の打ち方の精度を上げていくしか……。

「そーんなことで全国を勝ち進めるとでも思ってるのかしら? 須賀君っ」

た、竹井先輩!? お久しぶりです。今日はまた、どういった御用で?

「ふっふーん、今日はなんと……須賀君のために先生を連れてきました!」

……ほう。話を聞きましょう。
また俺の後輩でも虐めに来たのかと思ってましたよ。

「私を何だと思ってるのよ。美穂子、入っていいわよー」

美穂子? 美穂子って……まさか風越の福路さん!?

「そうですよー。うえ……いえ、竹井さんとは大学で同じ学科なんです」

パねえ! 相変わらず先輩の人脈ハンパねえ!
プロ雀士は顎で使うわ他校のキャプテンのクラスメイトになってるわ、この人脈がどこからくるのか分からない。

「企業秘密よ。出来れば和や優希の特訓相手も連れてきたかったけど、流石に都合がつかなくてね」

はー。むしろ和や優希の特訓相手にアテがある時点で尊敬しますよ、俺は。
でもまあありがたいっす。やっぱり最後の大会と思うと緊張するし、出来ることなら何でもやりたいと思ってたんで。

「聞いてるわよ須賀君、最近デジタルとオカルトのハイブリッド打ちになりかけてるんですって?」

もはやわけがわからねえ。なんですかその能力バトル漫画みたいな肩書は。
いや、言いたいことはわかるけど……「流れ読んで鳴く」とか確実にオカルトの領分ですし。
でも和の目が怖いんでその話はやめてください、お願いします。

「だから、怖い目なんてしてませんっ」

「ふふ、生徒さんを取っちゃってごめんなさいね?」

「!?」

おぉ、和が手玉に取られている。そうそう見れない光景だな。
……ああぁぁぁああ慌てる和が可愛いとか考えてる場合じゃねぇだろ俺ぇぇええ!

「……はっはーん。面白いことになってるわねぇ、ウチの後輩たちも」

「竹井さん、悪い顔してますねー……では、打ちましょうか」

348 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/10(日) 20:30:52.31 ID:yKXvNrCz0
というわけで、竹井先輩の粋な計らいにて相当の打ち手である福路さんに鍛えてもらえることになった。
彼女の売りは、確か観察……だったか? 相手の様子や癖を観察して、最善手を導き出す。
和に習ったデジタルとも、純さんに教わったオカルトとも少し違うような気がする。
つまり、俺にとっては未知の領域。

……ここまで考えて福路さんを連れてきたのかね、竹井先輩は。
だとしたら冴えてるってレベルじゃねえな……あ、それポンです。

「……!」

福路さんには感づかれたか? そういえばあの時、福路さんは純さんと同卓だったっけ。
こりゃ完全にバレたかね……でも、それチー。

「くっ、東場の私に先んずるとは小癪な……!」

……優希、それロン。

「じぇーっ!?」

「……おぉー」

分かり易いな福路さんっ! いや、感心してくれてるっぽいのは嬉しいけど。
なぁんか、嫌な予感がするんだよなぁ。


「……はい、ロンです。須賀君のトビで終了ね」

ぐえー。嫌な予感的中じゃねえか。
純さんの意趣返しとはいかなかったか、残念だ。

「須賀君の場合は、やろうとしていることが見え見えなのよね」

はぁ。癖とかそんな感じでしょうか。
そんな変わったことをしているつもりはないんですけど……。

「んー、癖、というほどのものでもないと思うけど。私、観察は得意だから」

「大胆に鳴くときほどより慎重に、ただ手を進めるためだけの鳴きを敢えて仰々しく……って感じかしら?」

うげえ、バレバレじゃねえか。
最後の大会まであと少ししかねえってのに、このタイミングで弱点発覚とか……うわあ。

「ああいや、弱点というほどのものではないと思うわ。手前味噌だけど、私くらいでなければ気付かないでしょうし」

「今日来たのは……この観察と、それに基づいた打ち方を、須賀君に教えるためなんです」

349 :できれば原作にいないキャラに名前はつけたくなかったけど ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/10(日) 20:31:47.51 ID:yKXvNrCz0
……えっ?
風越の元キャプテンが、俺に?
いやいやいや、いくら竹井先輩のお知り合いとはいえ、えええっ?

「あら、迷惑だったかしら?」

まさかそんなことは。俺としては得することしかないっすけど。
いやでも、いいんですか? 逆に、福路さんにはなんの得もないと思うんですけど。

「ま、そこは私の交渉術ってやつよ。感謝しなさい須賀君」

「ふふっ。竹井さんたってのお願いとあらば、ね」

やばいよこの人。聖人すぎるよ。絶対ヤバいアレに騙されるタイプだよ。
いや、有難いんだけど。本気で有難いんだけどね?

「……それに、今年の男子の部には、『神に愛された子』が出場するらしいわ」

……神に、愛された子?
咲とかを指して牌に愛された子ってんなら聞いたことがありますけど……。

「東京の無名校に所属する打ち手よ。白糸台の男子部と練習試合をやって、その子一人だけボロ勝ちしたとか」

「そんな圧倒的な才能を持つ魔物に、ウチの凡人代表須賀君が勝ったら……さぞ愉快だと思わない?」

そりゃ、確かに痛快だとは思いますけど。
聞いた限りだと、現実問題かなり厳しそうですね。
やっぱり相当のベテランだったりするんですか?

「いえ、その子が麻雀を始めたのは今年からだそうよ」

はぁ!? 今年からァ!? この俺でさえもう今年で三年目ですよ!?
牌に愛された子とか言われてる女子だって麻雀経験がなかったわけじゃないでしょうに。
そりゃまた一体全体どういうわけで……。

「だからこそ『神に』愛された子ってことよ。牌譜は一応ゲットしといたから目を通してみなさい」

もうその牌譜をゲットしたコネについては突っ込みませんよ。こっちの理解が追いつきません。
じゃ、問題の牌譜だけど……うへぇ、こりゃ本当にハンパねぇな。
高目安目のある手なら確実に高めで和了り、あと一役で満貫、跳満ってときには確実に裏を乗せる。
万能すぎて、とてもじゃないけどどんなオカルトでこれをやってるのか分かりやしねえ。

「それが違うのよ須賀君。彼は、オカルト打ちじゃない」

「デジタルもオカルトも、全てひっくるめて覆してしまうほどの豪運の持ち主……それが彼」

「だから、須賀君。神に愛された子……『天龍寺行仁』に、京ちゃんモードは一切通じない。そう考えたほうがいいわ」

375 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19:08:39.25 ID:R3+/vnFB0
……話は分かりました。福路さん、ご指導よろしくお願いします。

「ふーん、案外素直なのねー」

マジな話、これがラストチャンスですから。
俺だって竹井先輩ほどではないけど真剣に麻雀やってるわけですし、
最後の最後くらい、自分の力でトロフィーを持って帰りたいですから。

「その意気ね。さーて、じゃあ私も一肌脱ぎますか!」

「竹井さんは打ちたいだけでしょう? ふふっ……じゃあ、始めましょうか」


「……ふぅ。私から教えられることは、このくらいかしらね」

あ、あり、ありがとうございました……。
ヤバい脳みそ破裂しそう。頭おかしくなる。
けれど……不思議とやってることはしっかり頭に入ってきた気がする。

何はともあれぐでぐでの身体をしゃんとさせて福路さんと竹井先輩が帰るのを見届けてから、俺は部室のベッドに倒れこんだ。
それを見かねてか、練習中からこっちをちらちら見ていた和が話しかけてくる。

「大丈夫ですか、京太郎君」

大丈夫じゃない。けど大丈夫にしなきゃならねえところだな。
大会までにはこれもきっちりマスターしてやるさ。

それにしても、神に愛された子、なぁ。
俺みたいな凡人からしたら羨ましいを通り越してもうわけがわかんねえや。

「今の京太郎君なら、勝てない相手ではないと思います」

ん、そう言ってくれると嬉しい。
和のためにも、今年こそ活躍してみせるぜ。

「な、なんでそこで私のためになるんですか……」

……気にしないでくれ、失言だった。
俺のモチベーションの話をわざわざする必要はないな。

376 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19:09:12.76 ID:R3+/vnFB0
そして迎える、俺達の最後の夏。まずは団体戦の予選だ。
オーダーは去年から変わって俺は大将に回ることになった。
あいつらも一年かけて十分に成長したし、個人的に大将ってポジションには憧れがあったしね。
……出来れば副将をやりたいとか思ってたのは、内緒の話だけど。

さて、後輩ども。去年の雪辱戦だ。
思う存分相手を毟ってこいっ!

『おーっ!』


「リーチ。……お、一発ツモッ」

先鋒。双子の兄のほう。
面前派ゆえの高打点が売りだが安定感に欠ける。
しかし、あのお調子者が二年かけてひたすら地力の向上に努めてきたんだ。
今更地方予選の一回戦で遅れをとるはずがない。


「……ロン。7700」

次鋒。地味男君。
大崩れしない安定感が売りだが和了率が低い。
その分こいつには、一度の和了りにおける打点を上げることに専念してもらった。
ひたすらに地味で堅実な闘牌をする今のこいつを毟れる奴なんて、そうそういないだろう。


「ポン。 ポン。 ……あ、ツモだ」

中堅。双子の弟のほう。
鳴き派である分兄より更に安定感に欠ける。
しかし俺と一緒に純さんの特訓を受けたこいつが、今更鳴き時を間違えるはずがない。
地力の高い奴が置かれることが多い中堅戦を、得意の鳴きで引っ掻き回してこい。


「ツモッ! 満貫ですっ!」

副将。真面目君。
教科書通りのデジタル打ちだがメンタル的に弱いところがある。
その分地力では俺に次ぐほどの実力者なので、あいつが一番安心できるという「俺の直前」に置いた。
不安や緊張から解放されたあいつは……全国でも有数の打ち手なんじゃないだろうか。

377 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19:09:44.29 ID:R3+/vnFB0
……さて、俺の出番だな。
点差的には既に決まったようなもんだけど、まあ見とけよ。

「期待してます、須賀先輩」

初めての大将戦。順位はダントツ。
……わざわざこんなところで集中モード使って疲れる必要もねーな。
鳴き麻雀で早々に終わらせてもらうぜ。
反撃の流れなんぞ、作らせねえ。
……それ、ロンだッ!


よっし、一回戦突破ー。二回戦に備えてとりあえず休憩だ。
お前らも軽く飯食うなりなんなりしとけよー。

「了解っす。でも京太郎さん全然稼いでなかったっすよね」

「流しまくってましたよね」

うっせ。あそこで本気出す必要はなかったんだからいいだろ。
とにかくお前ら、よくやったよ。期待以上だ。
長野の男子戦はレベルこそ高いが、咲みたいな魔物枠はいねえ。
それだけで勝負を決してしまうほどのオカルト持ちもいねえ。

今の俺達なら、全国も十分射程圏内だ。
気張っていくぞ!

378 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19:10:37.13 ID:R3+/vnFB0
一回戦を完全勝利で乗り切った俺達は、そのままの勢いで団体戦優勝を決めた。
女子団体戦も、龍門渕の天江さんや風越の池田さんといった強豪が引退した今、
予選レベルでウチの女子部員たちの敵になるような人はいなかったようだ。

そして個人戦。集中モードに加えて更に鳴きと観察という強みを手に入れた俺に敵はおらず、
夢にまで見た一位通過で全国行きの切符を手に入れることが出来た。
正直、あまりにあっさり過ぎて現実感がない、のだけれど……。

「おめでとうございます、京太郎君」

表彰台から戻ってきた俺を迎えてくれた和の言葉だけは、
はっきりと俺の脳内に刻まれた。


……あー。そっか。全国行けるのか。
雑用じゃなくて。応援でもなくて。俺が、麻雀を打つために。

「なーにを当たり前のことを言ってるんだじぇ」

俺にとっちゃ特別なことなんだよ……。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。すっげぇテンション上がってきた。

「ふふっ。私も、初めてトップになったときはそうでしたよ」

あ、やっぱそういうもんなの? あぁ、嬉しいなぁ。和と一緒かぁ。
……でも、これはあくまでスタート地点。浮かれてばかりもいられない。

「牌に愛された子、天龍寺……だったっけ。京ちゃん、大丈夫なの?」

いや、全然。つーかまず、そいつと当たるまで勝ち続けなきゃいけねーからな。
不安しかないけど、それでも頑張るしかないさ。


……そう。俺の夢を、叶えるためには。勝ち続けるしか、ないんだ。

385 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18:46:20.04 ID:gMeIgI+X0

夢。
夢ってなんだ。
寝てる間に見るアレだろ?

少なくとも、高校に入学したころの俺ならこう言っていただろう。


夢。
夢、なあ。
叶ったら嬉しいけど、そうも言ってられねえよなあ。

恐らく、去年までの俺ならこう言っていただろう。


けれど。
友人に背中を押されて、想い人にも認められて。
それでも自分に嘘をつけるほど、俺は強くはなかった。

麻雀を続けていたい。プロリーグという、大きな舞台で。
もし叶うならば――和と、同じ場所で。

俺ごときには巨大すぎる夢だけど。
俺ごときには無謀すぎる夢だけど。

それでも。
今この場で勝ち続けることで、その夢に一歩近づけるなら――

386 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18:46:45.94 ID:gMeIgI+X0
……インターハイ個人戦予選。
個人戦では膨大な数の選手が集うため、全国でも予選と本選が行われる。
一回きりの予選で勝ち抜いた選手が、本選で雌雄を決することになるのだ。
出来れば予選から全力を出すのは避けたいところだが、そうもいくまい。

――集中。完全な一手のみを打ち続け、超能力を押さえつけ……トドメの一撃を放つ。

――鳴く。流れを読み、流れに乗り、流れに逆らい、流れを律し……流れを断ち切る。

――視る。相手の一挙手一投足から、息遣いから、牌の並べ方から。全てを見抜き、最善の一手を見つけ出す。

およそ俺の長所と呼べるものを総動員して、どうにかこうにかだったけど……これで決まりだな。
……ツモ! 4000オールだっ!

『決まったー! あの宮永咲や原村和と同じ高校から初出場した須賀選手、見事予選Bブロックをトップ通過ーっ!』

『一つ一つの精度はまた別にして……ああも多様な打ち方をされると、相手は苦しいでしょうね』


予選を勝ち抜いた雀士は全部で32人。
それを4人ずつに割り振り、その中の上位2名が勝ち抜きとなり準決勝。
そして、準決勝でトップになった4人が戦う――決勝。

今回の大会で一番の注目株である『神に愛された子』……天龍寺行仁は、
トーナメント表で俺と同じ側にいる。俺が勝ちさえすれば、準決勝でぶつかることになるだろう。

けど、まずは……この一回戦を勝ち上がることだ。

上家には非オカルトながら鋭い読みと強いツモ運を誇る、大阪の正統派雀士……小倉智彦。
対面にはバリバリのオカルト派、ある一種類の牌を手元に来ないようにする能力を持つ貝塚航平。
下家にはこれまたオカルト派、素数の巡目に和了ると確実に裏ドラが乗る能力を持つ、岩下仁。

相手にとって不足はない。
たった半荘一回で終わる勝負だ、出し惜しみなぞしていられない。
予選で既に俺の手札は見せ切っている。
開幕初っ端東一局から――トップギアで行くぞ……!

387 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18:47:20.27 ID:gMeIgI+X0
(まずは流れを掴みたい。オカルト二人は一手や二手でどうこうなるタイプじゃないし、最初はこいつだ)

「……ポンッ!」

京太郎はまず、場の流れを断ち切りにかかった。
ノーガードで打ち合えば、恐らくは火力の高い打ち手である小倉が一番強いだろう。
ならばまずはその流れを奪いつつ、鳴きによって早和了りを目指すのが恐らくは正着。
そう考えての行動だった……が。


「リーチ……!」


想定外の方向からかかる宣言。
それは京太郎から見て下家――素数巡の和了りに裏ドラを乗せる、岩下からだった。

(しまった……素数巡ってことは、単純に考えて序盤が危ないってことじゃねえか!)

「……ツモ! リーチツモに……裏が3で満貫だっ!」

そして5巡目――岩下が見事ツモ和了り。
本来なら2000点にしかならない安手が、捲られた裏ドラによって満貫まで押し上げられる。
京太郎にとっても他二人にとっても完全に出鼻を挫かれた格好になった。

(まずいっ、このままじゃ完全に流れを持ってかれるぞ……!)

続く東二局、親は大阪の小倉。
天龍寺には及ばないものの相当な強運で、正統派の高火力を誇る。
先程見事に自分の能力を発揮した岩下と合わせて、流れには乗せたくない相手だ。

(……流れが来てない今じゃ、あんまり効果的とは言えないが。あんまり我儘は言ってられないなっ)

一つ大きく深呼吸し、シャツの胸ポケットの、その中身を握り締める。
京太郎の原点である最高状態――集中モードが、発動した。

(とにかく今は落ち着くことだ。幸い親番でもないしまだ東場。多少和了られても構わない)

(……まずは、相手を見極める……!)

配牌。牌効率。河。京太郎の場合は、それに加えて相手の表情や癖。あらゆる情報から最善手を見つけ出す。
人間の集中力を逸脱したこの状態は、福路美穂子から教わった観察技術を活かす布石として最高だ。

(清澄の須賀……オカルト能力を封じ込める、か。どう出るだろう)

(なんや気に入らんなあ。俺は相手するまでもないっちゅうんかい)


「リーチやっ!」

「……んでもってドーン! 一発ロンの満貫やでー!」


直前に和了った岩下からの直撃。
全くもって正統派、としか言いようのない正面突破だった。

(ま、それは計算通りだけど……どこまで続くんだこれ)

「ツモォ! 3900オールの一本場ァ!」

「ロンや! 3900の二本場ッ!」

止まらぬ猛攻。流れに乗せてはいけないタイプ、という予想は大正解だ。
このままでは何をどうやっても縮まらないような差をつけられかねない。

388 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18:48:18.48 ID:gMeIgI+X0
(……はぁ、もうちっと待ちたかったけど)

会場にいる数多の観客が抱く今のこの卓のイメージは、恐らくこうだ。
雑草一本生えていない、視界を遮るものなど何もない王道覇道の一本道。
そこを小倉がひた走っているのだ。他の三人は、おそらくその遥か後方で息を切らしているだろう。
そのイメージは、決して間違ってはいない。


しかしそのイメージに映る京太郎の姿は、幻だ。


効果的な鳴きによって加速した京太郎の手牌は、既に小倉の満貫手に追いついている。
そのまま水面に映る月のように……しなやかに、静かに、密やかに。
小倉の前へと回り込み――その一本道を、場の流れを、そして彼の連荘を。
一太刀のもとに、断ち切った。

「……ロン。8000は8900」

「んなぁ!?」

場の流れというオカルトチックなものを読み切り従え利用する。
一年前に純から教わった亜空間殺法の才が、完全なる完成を迎えた瞬間だった。

(案外三年生ブーストってのも馬鹿に出来ないのかもな……とにかく、連荘だ)

「……ツモ、1000オールです」

京太郎には、よほどのバカヅキでもしなければ高い手など来ない。
だからといってそれは、他の三人に稼ぎ負けることを意味しない。

「ロンです。3900は4200」

面前ならただひたすらに最善手を辿り。
鳴くならただひたすらに良い流れを追い。
シンプルに打ち続けていくだけだ。

「……ツモです。1600オールは1800オール……!」

しかし。
こうして連荘することにより試行回数を重ねる危険性を。
そして、集中モード唯一の弱点を。
京太郎は、把握していなかった。

393 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20:00:08.70 ID:P5mL4RP20
京ちゃんモード。
京太郎の集中力が限界点を越えた際に発動する、彼のオカルト能力。
絶大な疲労を伴う代わりにミスを排除した完全なるデジタル打ちを実現させる。
それとと同時に、他者のオカルト能力を阻害する能力を併せ持つ。
ただし――それはあくまで、京ちゃんモードが発動していればの話である。

京太郎は基本的に、疲労を抑えるために配牌を見て、その局の見通しを立ててから集中モードを発動させる。
つまり例えば東場かつバカヅキをしているときの優希のように、配牌にまで干渉する能力に対しては全くの無力なのだ。
勿論ダブルリーチでもかけない限り、配牌だけが良くても大した意味は持たないのだが……今回ばかりは話が違った。

京太郎の対面に位置する男、貝塚航平。
その能力は特定の牌が手牌に来ることの拒絶。
牌の種類は本人にも制御できないアトランダムで、
萬子だったり、字牌だったり、さもなければ緑色の牌だったりする。

そんな彼の能力が何十、何百局に一回ほどの超低確率で発動させる、最強の形があった。
それは――数牌の、拒絶。


(……し、しまった――!?)

異変に最初に気付いたのは京太郎。
流れに乗って早和了りでの連荘を目指した矢先に、流れがごっそりと持って行かれたのを感じる。
その流れは形を変えて轟々と唸りを上げ、真向いの席へと流れていく。
集中モードによる阻害を試みるが……既に手遅れだった。

鳴きも交えて手を進め、最後は集中モードの阻害を受けながらも見事自分の運で和了りきってみせた、その手は。

「ツモ……字一色……! 8000・16000は8300・16300……!」

字一色。
手牌の全てを風牌もしくは三元牌、すなわち字牌で揃える見た目にも映える役満だ。
京太郎は親っ被りで三位に転落。流れを操る雀士としては最悪の状況に追い込まれた。

(まずい……まずいまずいまずい……! 落ち着け、落ち着くんだ……!)

しかし、一度手放してしまった流れはそうそう取り戻せるものではない。
貝塚が流れに乗って和了り、それに小倉が自慢の火力で追い縋る形になった。
それによってトビ寸前まで追い込まれた岩下もどうにか大きな手を上がることに成功するが、
京太郎だけが全くいいところのないまま、遂に最後の親番となった。

(あー……もう、最悪だ。どれだけテンパってんだよ情けない。和ならこんなこともあるまいに)

全国出場の経験がなく、麻雀に懸けてきた時間は実質二年未満。
実力こそ今となっては十二分にあるものの、京太郎は未だメンタル面で全国レベルに達していなかった。

394 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20:00:40.39 ID:P5mL4RP20
(ま、幸運なのは今それに気付けたってことだろう……)

いいだろう、認めよう。
今相手にしているこいつらは、実力や能力とは次元の違うレベルで、
いわば雀士としての格そのもので、自分より遥か高みにいる。

(だったらそれで構わねぇ……俺の麻雀はいつだって追う麻雀だった……!)

(竹井先輩は理不尽な待ちで和了るし。染谷先輩と打つと全然好きなように打てないし)

(優希と打つと東場でトバされかねないし。咲と打つとカンカンカンでこっちの番が回ってこないし)

(和と打つと――いつだって、俺の弱さを思い知らされた)

(だったらこれも、いつも通りじゃないか)

そう。それをいつだって、京太郎は乗り越えてきた。
自分一人だけではなく――友人と、師と、先輩と、後輩と共に。

(自分一人の力でどうにもならないなら……皆の力を借りればいい。そうだよな)

深呼吸の後、軽く伸びをする京太郎。
瞬間――同卓している三人は、戦慄した。

『――っ!?』

今までは感じなかったほどの圧力。
いや――感じていた圧力の、変質?

395 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20:01:19.53 ID:P5mL4RP20
京太郎が挑んでいたのは、自らの能力の制御。

集中モードは集中力を意識の外まで飛ばさないと発動できない。
流れを操るのは純の受け売りゆえ、それに専念しないとまともに扱えない。
観察眼など教わってすぐ急場で仕上げたおかげでそれを活かす方法がいまいち分かっていない。

そんな力を同時に扱うことなど出来やしない……そう考えていたのだが。

(……ま、ド初心者がこんな特殊能力使えるようになった時点で、無理も糞もねーだろってことで……)

(……行くぞッ!!)

「チー!」

「カンッ!」

「……ロン! 三色發で60符2翻、5800ッ!」

まず京太郎は貝塚と岩下の能力を集中モードで抑えつけつつ、小倉から鳴いた順子をつかった三色手を作り上げる。
運よく發が重なったことで一気に得点が跳ね上がった。しかしまだようやくラスを抜けたのみで、とても油断はできない。

(優希じゃねえが……この試合にオーラスは来ない。それくらいのつもりでやらせてもらう)

「ツモ――リーヅモピンフドラドラ、4000オールの一本場で4100オール」

「もう一発、ツモッ! ピンフツモ一盃口で1300オールは1500オールッ!」

「ロンだァ! 断ヤオ対々ドラ1で7700は8600ッ」

そしてそこからは大連荘。最後には美穂子の観察眼と純の鳴きを同時に使いこなして貝塚を原点近くまで押し戻した。
これで京太郎のトップ抜けはほぼ確定という状況になり観客のほとんどもそう思っていたのだが、
勿論のこと――対戦相手の三人は未だに勝利を諦めていなかった。

「チ……」

「カンじゃい!」

「んで、カン!」

「ポン! ……っしゃあ加槓じゃァ!」

三人のうち、動き出したのは大阪の小倉。二人と違ってオカルト封じによる妨害を受けていないことが幸いしたようだ。
配牌は七対子の一向聴だったが、小倉が選んだのは怒涛の鳴きからの対々和だった。

(この期に及んでチートイなんてめんどい手ェ狙っとれるかい! いやまあ、三槓子ついたのはラッキーやったけどな)

「……っしゃ、ツモォ! 混一対々三槓子の跳満、3400・6400や!」

396 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20:02:15.27 ID:P5mL4RP20
そして状況はオーラスへ。
順位の上では京太郎がトップだが、二位の小倉との差はわずか3400点。
小倉は一心不乱に勝利だけを追い求めていた。

(……流れを追え。そして観察するんだ。オカルト二人が沈んでる今、もう集中モードは要らない)

「ポンッ」

対照的に、強者ゆえのプライドとかそういったものがまるでない京太郎は。
如何にして自分が準決勝に進むか。それだけを考えていた。
そしてその違いが、二人の勝敗を分けた。

「……あ、カン」

(和了れば勝ちやのに加槓……? おかしなことするやっちゃなー)

「ん。ポンで」

次々と手牌を晒していく京太郎。
今彼は、ひたすらに相手三人を観察している。
正確に言えば……三人の、手の進み具合を。

(見たとこ、小倉さんは思ったより手が進んでないみたいだな。まあそうなるように鳴いてるんだから当然だ)

(対して岩下さん貝塚さん……まあ、それなりってところか。二位抜けってルールで本当に良かった)

(……これなら、俺の勝ちだ)


「……カンッ」

423 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18:50:53.46 ID:VW2Ii3OR0
次々と手牌を晒していく京太郎。
着々と手役を完成させる小倉。

そして、運命の13巡目。
この試合最後の和了宣言は――

「……ツモ……! リーヅモ三暗刻……裏を見ます」

現在トップの京太郎でもなく。
現在二位の小倉からでもなく。

――ダンラスの、岩下から発せられた。

「な――!?」

(まさか須賀ァ、これを狙って……!)

岩下が晒した手牌は、萬子の二、筒子の四、そして索子の八の暗刻。
リーチツモ三暗刻で4翻あるので、仮にこれら全てがドラならば、ぴったり数え役満となる。
そして京太郎が行った二度のカンにより……裏ドラは、三枚。

(まさか、まさか――!)

そして、岩下のオカルト……素数巡の和了りに、裏ドラを乗せる能力。
今彼が和了ったのは13巡目。条件は――満たされている。

424 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18:51:26.44 ID:VW2Ii3OR0


「裏ドラ……9! 数え役満、16000オールッ!」


425 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18:52:22.84 ID:VW2Ii3OR0
当然岩下は和了り止めを選択し、この試合は。
トップ抜けは岩下仁。
二位抜けは須賀京太郎という形で、幕を閉じた。


だっ……はぁぁぁああー。情けない声を出しながら、俺は椅子にもたれかかる。
疲れた。超疲れた。オカルト封じとオカルトの二段構えは流石にヤバかった。
普通に死ねる。

それでもどうにか立ち上がろうと苦戦していると、小倉さんが話しかけてきた。
見たところ、残りの二人は既に対局室を去ったようだ。

「完敗やー。他家を使うっちゅう発想はなかったわー」

ははは、俺には自分で勝負を決める程の実力も自信もありませんからねー。
もう一回やれと言われても出来ない自信なら、あるんですけど。

「はんっ、そこでその一回を掴む奴が強いねん。お見事やで」

「須賀も今年で引退かー。麻雀続けるんやろ? また今度打となー」

ええ、勿論。
俺の返事を聞くと満足そうに頷き、小倉さんは対局室から出て行った。
俺も、そろそろ出ないとな……あー、しんどい。


対局室を出てすぐに、岩下さんがいた。
わざわざ待っていたのだろうか。

「次は、負けない。俺を勝ち上がらせたこと、後悔させてやる」

……ま、それは実際に打ってみてからのお楽しみってことで。
多分俺なんか気にしてる暇はないと思いますけど。ほら。

別の一回戦の結果が、試合を中継しているスクリーンに映し出された。
結果は――他の三人を全員トバして、天龍寺の勝利。

ま、出来たら二人で協力してアレを抑えたいってのが本音なんですけど。
どうでしょう?

「……考えといてやるよ。けど勝つのは俺だからな」

俺だって、負けられないんで。
ま、お互い明日は頑張りましょう。

426 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18:53:11.35 ID:VW2Ii3OR0
そんなこんなで挨拶を交わし、岩下さんと別れて帰路につく。
全身ふらっふらでちょっとこれヤバいんじゃねーの、と思ったりもしたがどうにかホテルまで戻ることが出来た。
女子の個人戦のほうが先に終わっていたようで(男子のほうが人数が多いので、予選の分時間がかかるのだ)、
既に咲たちは皆戻ってきていた。今は男子のほうの部屋に全員で集まって話をしていたようだ。

おっす、ただいまー。

そう言って、努めて軽い調子で部屋のドアを開けたつもりだったのだが。
……あ、あれ。おかしいな。ドアが開かないぞ。あれ?
あ、れ……?


どさっ。
部屋の外で、そんな音がした。
それまでは咲さんや私、京太郎君の試合結果について盛り上がっていた皆が、一斉に静まり返る。

「京太郎、京太郎かっ!?」

ゆーきがいち早く駆け出し、それに男子部員たちが続く。
ドアを開けた、その先には――京太郎君が、倒れていた。

なんで。どうして?
あんなに格好よく、準決勝進出を決めていたじゃないですか。
帰ってきて、いつもみたいに少し調子に乗って、それでもやっぱり不安がって、
そんなあなたをゆーきと私が励まして、咲さんがそれを見ながら笑っていて、そうなるはずじゃないんですか?
……京太郎君ッ!!

439 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14:42:02.53 ID:w5pjdMZy0
「……はー。京太郎さん重い」

「いやまぁ完全に脱力した人間を持ち上げるのはそりゃ重くて当然だろ」

「京太郎さん顔のわりに体格いいしね」

ひとまず男子部員たちが京太郎君をベッドに運んだ。
見たところちゃんと息はしているし問題はなさそうだけれど……一応、救急車とか呼んだほうがいいんでしょうか。
突然の事態に皆があたふたして、とても正常な判断が出来そうにありません。
どうしよう、どうしよう……遂に若干名が目に涙を浮かべ始めたところで、京太郎君が目を覚ました。

「……ん? あれ、俺いつの間に寝てたんだ?」

「京太郎さん何倒れてんすか馬鹿じゃねえんすか!?」

「大丈夫ですか須賀先輩!」

「なんで倒れてたの京ちゃん!?」

「バカ犬、皆に心配かけるんじゃないじぇ!」

こんなとき、迷わず真っ先に声をかけにいけない自分が嫌になります。
しかし、そんなことより、京太郎君が無事なようで本当に安心しました。
……でもっ、京太郎君! あんまり心配させないでくださいっ!

「ご、ごめんごめん。どうしても負けたくなかったからさ。ちょっとだけ無茶した」

「集中モードと亜空間殺法の同時使用。思ったよりしんどかったわ」

は、はぁ。とにかく、あまり無茶はしないでくださいね。
京太郎君が勝ち進むのは嬉しいですが、流石にその度に倒れられては困りますから。

「のどちゃん素直じゃないじぇ。大好きな京太郎が倒れたら悲しいです~、くらい言えないのか?」

ゆっ、ゆーき! 茶化さないでください、真面目な話なんですっ。
とにかく! 京太郎君、もう倒れないでくださいね!?

440 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14:43:12.25 ID:w5pjdMZy0
「……どーだろ、約束は出来ないかも」

「せっ、先輩ィ!?」

京太郎君の言葉に皆が凍りつく。
当たり前だ、私達の知る京太郎君はそんな人ではない。
麻雀のために自分の身を削るようなことをする人ではないはず。

「京、ちゃん……?」

「ここまで来たら、勝ちたいじゃねえか。なあ」

「天龍寺行仁。神に愛された子と打つのに……加減なんて、出来やしねぇよ」

あっ、あのですね京太郎君!
今しがた倒れたばっかりの人を明日の試合にそのまま出すとでも思ってるんですか!?
棄権するのが普通だと思います!

「かっ、勘弁してくれよ! そうなることが分かり切ってたから必死で会場は平気な顔して出てきたんだぞ!?」

「馬鹿だ、こいつマジで馬鹿だじぇ」

「頼むよっ! お前らと違って俺は全国初めてなんだ! 棄権で終わりなんて嫌なんだよ!」

「いや先輩マジで馬鹿でしょ!?」

……はぁ。やめましょう、皆。多分言っても無駄です。

「和ぁ……!」

た・だ・し! 今からしっかり体調を診させてもらいますし、明日も無茶はしないでください。
具合が悪くなったらすぐに棄権すること。ゆーき、体温計持ってきてください。私の鞄の中にあるはずです。
今日の晩御飯も栄養を考えて決めましょうか。いつもみたいに好きなのばっかり頼まないでくださいね。
あと、それから……。

「お母さんかっ!」

真剣な話をしてるんです!
……心配、したんですから……。

「……ごめんな」

京太郎く……

「はい終了ー。お二人さん、今部員全員ここにいるの分かってやってます?」

「砂糖吐く。京太郎さん爆発しろ」

441 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14:45:28.16 ID:w5pjdMZy0
そんなわけで、翌日。
遂に迎えた準決勝戦。女子の試合を応援出来ないのは残念だが、まあ仕方あるまい。
咲や和なら負けることはないだろう。むしろ俺が応援してほしいくらいだ。

今日の相手は昨日も戦った岩下さんに加えて、
生粋のデジタル派、福留重幸さんに……「神に愛された子」こと天龍寺行仁さん。
やはりもっとも警戒するべきは天龍寺さんだろう。

牌譜も予選の映像も全て洗い出して和にも協力してもらって研究したが、まるで隙が見当たらない。
基本的にはごく普通の打ち手なんだ。むしろ、デジタル打ちとしてはやや拙いくらい。
牌効率の視点から見てベストでない手を打っていることもしばしばだし、
仕掛けの入っている相手に対して危険牌を打っていくことも少なくない。

だがしかし、その全てが何故か上手く行くのだ。

薄い待ちを一発で呼び寄せ、危険牌も平気で通す。
それがあの男の豪運。
俺は……奴に勝てるのだろうか。


『本日は男子個人戦準決勝を解説させていただきます、アナウンサーの針生えりです!』

『……大沼だ』

『やはり注目は天龍寺選手でしょうか』

『……どうだろうな。個人的には、須賀とやらが気になるが』

『須賀選手ですか? えーっと、所属校は……あの清澄ですか! 宮永選手や原村選手の所属校ですね』

『……デジタル打ちとオカルト打ちを両立させている。珍しい選手だ』

『はぁ。ともかく、これは結果が楽しみですね!』


そして――賽は投げられた。
東一局。親は岩下。
神に愛された子の蹂躙は、初っ端から繰り出された。

「……リーチ」

三巡目、天龍寺がリーチをかける。
流れを断ち切ろうにもポン材チー材すらロクに揃っていない序盤も序盤。
太刀打ちしようのない、絶対の一撃。

「ツモ。リーチ一発ツモ、タンピンで満貫。2000・4000」


(……まだ、慌てる程じゃない。東場の優希ならもっとエグい、そう思え)

「チーッ!」

東二局、親は京太郎。
流れを取り換えすために、兎にも角にも連荘しようと早々と鳴き仕掛けに入るが、それでも。

「カン――ツモ。嶺上開花のみ、1300」

「な……ッ!?」

安手での連荘すら拒む無情の和了。
大明槓による責任払いで、京太郎にとってはこの大会初めての振り込みとなった。

442 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14:46:09.38 ID:w5pjdMZy0
(どうすりゃ止まるんだ、この化物……!)

天龍寺はそのままの勢いで東三局も圧倒的なスピードで和了り、遂に天龍寺の親番となる。
そこからは、まさに地獄絵図だった。

「……ツモ。1000オール」

「ツモ。1300オールは1400オール」

「ツモ。1600オールは1800オール」

止まらない。止められない。止める手段すら分からない。
地獄のような連荘。

「ツモ。2000オールは2300オール」

「ツモ。2600オールは3000オール」

他の三人が何をしようが誤差でしかない。
ただひたすらに、和了の宣言を連ねていくのみ。

女子の試合のような一風変わった手を作ったり、場を支配してこちらの手を封じたりするわけではない。
ごく普通の役をごく普通に作って、ごく普通に和了っていくのみ。

それが一層、対戦者の心を折るのだった。

「ツモ。3200オールは3700オール」

出和了りでさえなく、淡々と。
天龍寺はひたすら自分の牌を晒して点棒を掻っ攫っていく。
止まらない。止められない。止める手段すら分からない。
そんな地獄のような連荘を止めたのは――

443 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14:49:24.77 ID:w5pjdMZy0
(あー、もう情けない……が、ここで飛ぶよりマシだ。加減しろよ、須賀!)

「……ん。ロ」

「ロンッ! 頭ハネだ、2000は3800!」

一回戦を共に戦った岩下の差し込みだった。
席順の関係で京太郎が優先されたものの、それでさえ当たり牌であったというのだから恐ろしい。

(な、なんとか止めたけど……)

残りは南場の四局のみ。点差は既に6万点以上。
勝ち目は……あるのだろうか。
折れかかる心。崩れそうになる気概。
それでも、諦めきれないのは。

――追いつけないわけがないんです。
――こうして真剣に努力を積んでいる須賀君が今後もずっと弱いままだなんて、
――そんなの絶対有り得ません。

――ふふっ、頑張りましたね須賀君。
――須賀君。あまり思い詰め過ぎないでくださいね?

――ふふ、そうですねー。じゃあ今まで頑張ってきた須賀君には、私がご褒美をあげましょう。
――今の京太郎君には凄く期待してますから。

――京太郎君が今までずっと頑張ってきたのを、私は知っています。私が一番知っています。
――だって私は、京太郎君の先生なんですからっ。

――そんな頑張っている京太郎君のことが、皆大好きなんです。

自分一人で進んできた道ならば、とっくのとうに折れていただろう。
それでも、諦めたくないのは。
彼女からかけられた言葉の数々を覚えているから。
彼女にいいところを見せたいから。
彼女に誇れる雀士でありたいから。

(諦めたくない。折れたくない。負けたくないっ)

444 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14:50:10.35 ID:w5pjdMZy0
しかし実際のところ、この差し込みにより岩下は既にトビ寸前。
ツモ和了りはほとんど封じられたようなものだ。
ならば天龍寺から直撃をとるしかないのだが……。

(……やっぱ、無茶するしかねーよな)

不幸中の幸いとして、京太郎は天龍寺の対面であったため連荘の間中彼を観察することが出来た。
ならば、観察結果からその手牌を読み切り、少しずつでも流れを手繰り寄せていくしかないだろう。

(まずは……集中、アンド観察! 天龍寺さんの手牌を読み切る……!)

瞬間、凄まじい眩暈。一瞬椅子にもたれかかりそうになるもののどうにか踏ん張り、観察を続ける。

(ったく、怪我の功名だ……あの連荘の間に理牌やら何やらの癖は完全に把握できた! あとは流れ次第だ……)

「ポン!」

(最悪、今この場では和了れなくてもいい……次の局に、一際大きな流れを呼ぶ……!)

「……っ、カンッ!!」

(まずはこの南一局……荒らしまくってやるっ!)

451 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 19:42:02.22 ID:0TioZDTZ0
(……麻雀なんて、つまらない。こんなのクソゲーだ)

天龍寺行仁は、そう思う。
それは驕りでもなんでもない、ただの素朴な感想だった。
友達に人数合わせで誘われたから軽い気持ちで入ってみたが、何も面白くない。
何がどうなっても、結局、最終的には自分が勝ってしまうのだから。

(大体の人が東場の内に折れちゃうし。結局はただの作業だ)

必要牌が勝手にこっちの手に入ってきて。
要らない牌を捨てて。和了って。
そして、心が折れていく相手の姿をぼーっと眺めるだけ。
彼にとって、それが麻雀だった。

(……なんで折れない? 清澄の……須賀)

天龍寺には知る由もないが、京太郎が全く折れる気配すらないのは、
実は単に彼が負け慣れて、トバされ慣れているだけなのかもしれないが。

とにかく京太郎は諦めてはいなかった。
ツモ和了りすらほぼ封じられていても。
役満ツモですら逆転できないような点差でも。

「……流局、聴牌だ……!」

京太郎は折れずめげず諦めず、天龍寺の当たり牌を握り潰して流局にまで持ち込むことに成功した。

464 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20:19:39.69 ID:0TioZDTZ0
脳の血管がぶちぶちと音を立てて切れているような錯覚すら覚えながら、
京太郎は先の局、完全集中を維持して流れを操り続けた。
全てはこの南二局、すなわち自らのラス親となるこの場に最大の運気を呼び込むために。
そしてそれは――成就した。

(狙える……萬子染めが本線だけど、大三元が見えてる……!)

白、發、中。三元牌の全てが対子になって手の内に収まっている。
ここで和了りきれなければ、実際の点差以上に京太郎は完全に勝ちの目を失うだろう。
だからこそ。

(……ここで、目いっぱい無茶するぜ……!)

集中! オカルト封じを目的としてではなく、今からする行動の精度をひたすらに上げるために。
試合前からひたすら観察し続けてきた同卓している三人の動作から手牌を全て読み切る。
完璧でなくて構わない。ただ、自分が仕掛けるタイミングさえ分かれば。

「……ッカンだぁ!!」

気に入らない流れが少しでも見受けられれば、速やかにそれを変える。
そのタイミングを、例え一手たりとも逃さぬために。

「ポンッ!!」

(ただ仕掛けるだけじゃ駄目だ……天龍寺さんから、直撃を取るためには……!)

「……。リーチ」

(来っ……たああぁぁぁッ!)

「ッカァアンッ!!」

そう。幾ら流れを変えて、天龍寺の手に自分の当たり牌を掴ませたところで。
自分の手を警戒されては出る牌だって出ない。
そう。例えば、白・發と鳴いた後の中なんて、初心者だって絶対に出さない。

京太郎の手牌は、發の暗槓と、ポンで晒した東と、先程カンで晒した白。
手の内には中と萬子の三が、其々二枚ずつ。すなわち、シャボ待ちである。
萬子の三がドラだが、そっちで和了ると役満には届かない。
あくまで、大三元を天龍寺にぶつけることが目的だ。

(これを……ぶち当てさえすれば!)

既に刃は研ぎ終わった。
あとはこれを、天龍寺の喉元に突き立てるだけなのだ。
そしてその天龍寺は、リーチをかけてしまったことにより身動きが出来なくなっている。
更に自分の鳴きにより、彼の流れは堰き止め得る限り堰き止めた。
それなのに!

465 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20:20:09.55 ID:0TioZDTZ0
(出ない……俺の当たり牌!)

既に中が一回と一萬が一回、福留と岩下から切られている。
つまりチャンスは残り一回ずつ。これを天龍寺が掴みさえすれば、手が届くのに。
無情にも、場は十七巡目、局の終わりへと辿り着いてしまった。

(終わり、か……)

脱力し、項垂れる京太郎。
限界を超えた能力の行使により既に意識は朦朧としていて、
もはや対局を続けられるかどうかも怪しい状態。
そこにこの不ヅキ。遂に京太郎すらも折れそうになる。

しかし。

仮に麻雀の神がいるとしたならば、それはまだ京太郎を見放してはいなかった。
繰り返した鳴きにより、海底牌を掴むのは――天龍寺。
最後の最後、彼が捨てた牌は……。


黒と赤で彩られた、萬子の三だった。

466 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20:20:47.17 ID:0TioZDTZ0
(……ここですぱっと大三元を和了れないあたりが、俺らしいんだろうな)

京太郎は牌を倒す。
万感の思いを込めて。

(けど……ああ。これで、よかったんだ……!)

会場を埋め尽くす観客が、
ただ静かに彼の声を待つ。

467 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20:21:21.12 ID:0TioZDTZ0


「ロン……!」

       「河底撈魚」 「東」 「白」 「發」

  「混一色」 「対々和」

     「小三元」 「ドラ3……!」


「……48000ですっ!」

468 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20:22:30.08 ID:0TioZDTZ0



彼の宣言が終わるとともに……会場が、湧いた。



490 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19:29:48.89 ID:u2r9DyZQ0
(……放銃なんて、いつぶりだろうか)

多分、初めてだ。
友達にルールを教わりながら対局した時には何度かあったかもしれないが。
勝負の場で麻雀を打って放銃をしたのは……たぶん、初めてだ。

(……初めて、負けそうになってるっていうのに)

(面白い。楽しい。心が躍る。麻雀ってこんなに面白いゲームだったのか)

48000点。
考え得る限り最大の失点をしたにも関わらず、彼の心は喜びに震え踊っていた。

楽しい。勝つか負けるか分からない戦いが。
嬉しい。自分に勝ち得る者の存在が。
さあ、始めよう。確か今和了った須賀が親。連荘だな。

止めてやるぞ、勝ってやるぞ。
だからさあ、お前も俺を止めてみせろ。俺に勝ってみせろ。
さあ! さあ! さあ!

「神に愛された子」天龍寺行仁は、競技としての麻雀を始めてから初めて、
期待に胸を膨らませながら配牌を開いた。


そして彼は、絶望した。

491 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19:31:02.89 ID:u2r9DyZQ0
(やった……やってやったぞ!)

対して、京太郎は。
役満を和了った喜びに、勝利に肉薄した喜びに打ち震えていた。

勿論まだ油断はできない。
極限まで自分を酷使した結果、既に体調はおかしいどころの話ではなくなっている。
頭が割れるように痛い。視界が霞む。油断したらこの場で吐いてしまいそうだ。

だがしかし、流れはこちらに来ているはず。
この流れに乗れば、詰め切れるはず……!

(超早和了りで勝負を決める! なんなら左右のどっちかを飛ばしてもいい)

しかし、配牌を開いたその瞬間。
彼は感じ取った。

流れも運気も何もかも、今この瞬間に自分のもとを離れていったことを。

492 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19:31:48.90 ID:u2r9DyZQ0



「……地和。8000・16000は8100・16100」


493 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19:33:04.18 ID:u2r9DyZQ0

流れなど関係なく。
牌効率も押し引きも関係なく。
極論、今までの闘牌にさえ、何の意味もなく。

天龍寺行仁は、過程に多少の誤差こそあれど、いつも通りに勝負を決めた。

494 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19:33:56.79 ID:u2r9DyZQ0
『げっ……劇的な結末だーっ! 誰がこんな展開を予想したでしょう!』

『しかし、結果は万人の予想通りか! 天龍寺選手、決勝進出!!』

この試合、結局和了ったのは天龍寺と京太郎のみ。
和了った回数では天龍寺が圧倒。
紆余曲折こそあれど、最終的には、予選や一回戦と同じように。

勝つべき者が、勝つべき時に、勝つべくして勝った試合であった。

「……駄目、だったかー」

京太郎は今度こそ椅子に全体重を預ける。
頭が痛い。死にそうだ。けど、下だけは向きたくなかった。
情けない。悔しい。だとしても、後悔だけはしなかった。

そして霞む視界のど真ん中に立ち去ろうとする天龍寺を見つけ、彼は必死の思いでそれを追いかける。
眩暈を抑えて立ち上がり、雀卓越しに思い切り身を乗り出し、手を差し出した。そして。


「いつかまた打とうっ。次は勝つ!」


それを聞いた天龍寺は一瞬とても驚いたような顔をして。
しばらくの間逡巡したあと、手を差し出した。

「……楽しかった。また、打とう」

「おうよっ」

こうして二人の握手と会場中の惜しみない拍手と共に、
インターハイ男子個人戦準決勝と、京太郎の夏は終わりを告げたのだった。

569 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22:09:02.13 ID:cpjzzPHT0
翌日。
個人戦の男子優勝者及び準優勝者、女子優勝者及び準優勝者が卓を囲むエキシビジョンマッチが行われる。
なんと、咲はこれに出場する。あの天龍寺を相手に咲がどこまで戦えるのか、楽しみだ。
だからさぁ。

俺も応援行きたい――ッ!! 行きたい行きたい行きたい、行かせろ――ッ!

「黙らっしゃいバカ先輩! 原村先輩たちがどれだけ心配してたか分かってるんですか!」

「昨日会場のド真ん中で倒れたバカが何を言ってんですか!」

なんでだよいいじゃねーか、一晩寝たからもう元気いっぱいだよ俺!
東京にいるのは今日が最後だろ! お前らも一緒に応援行こうぜ! な!?

「大人しく寝ててくださいバカ先輩!」

「あんたがごねるせいで俺らまで応援行けなくなったんすよ!」

ちくしょー! 咲、俺は応援してるからなー!


そんなわけで、俺は東京に滞在する最後の日をホテルのベッドの中で過ごす羽目になったのだった。
若気の至りというかなんというか、まあ、苦い思い出ってやつになりそうである。

570 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22:10:37.36 ID:cpjzzPHT0
そして、俺達は長野に帰った。
女子は相変わらずの大歓迎だが、今回は男子もそれなりに歓迎してもらえた。
別に褒められるために麻雀をやっていたわけではないけど、それでも、俺達の頑張りが認められるのは嬉しい。

ひとしきり祝勝会的なイベントを終えた後、俺達3年生は正式に引退となる。
……そう、引退。続けるにしろやめるにしろ、これでしばらくは麻雀とお別れになるんだ。
そう考えると、やっぱり……寂しい、かな。

「ま、どーせしょっちゅう部室には顔出すと思うじぇ~」

ははっ、違いねぇ。けどお前勉強のほうは大丈夫なのか?
俺は麻雀教えてもらうついでに和と勉強したりしてたけど。

「う゛っ。……ほ、ほら、天才の優希ちゃんはプロリーグの指名を受けるはずだじぇ」

個人戦では一回も全国出てないのにか?
ははっ、ようやく俺にも優希に勝ってる点が出来たわけだ。
個人戦県4位の優希さーん?

「黙れバカ犬! それは言っちゃいけないところだじょ!」


……で、咲はどうすんの?
お前ならプロから引く手数多だと思うけど。

「あはは……実際そうなんだけどね。でも私は、プロには行かないつもり」

ほう、照さんは既にプロで大活躍してるのにか?
そりゃまたどうして。シスコンの咲のことだから絶対後を追うものだと思ってたけど。

「シスコンじゃないよっ! でも、もっと本を読みたいし。麻雀をやめるわけではないけど、大学に行きたいんだ」

はーん。文学部にでも行くってことか?
お前らしいっちゃお前らしいな。そういえばお前文学少女だったっけ。

「そーゆーこと。大学出てからプロに行くってことは、有り得るかもしれないね」

ははっ、だったら咲は後輩になるわけだな。
俺は大学行く気はねーし。

「その前に京ちゃんは指名されるかどうかだよねー」

言ったな、このこのぉ!

「ごめっ、やっ、やめっ」

571 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22:12:03.58 ID:cpjzzPHT0
……じゃ、引き継ぎはこの程度で大丈夫かな?
頼むぞ真面目君、ムロちゃん。

「任されました。先輩たちのも誇れるような活躍をしてみせます」

「進路をどうするかは知りませんけど、先輩も頑張ってくださいっ」

ははっ、そうだな。こっちも頑張らねえとな。
女子は団体でも個人でも全国制覇をしちまってるから、厳しい戦いが続くと思う。頑張ってくれよ。
男子は俺の果たせなかった夢を叶えてくれると嬉しい。お前らが全国優勝したって報せを聞くのを楽しみにしてるぞ。

『はいっ!』


あ、お久しぶりです先輩がた。
見てくれましたか、俺達の活躍。

「おうとも。皆よう頑張った」

「あの役満は、なかなか燃えたわよ?」

へへっ、ありがとうございます。
結局男子は何も持ち帰れなかったのが悔しいですがね。

「十分じゃ。男子個人戦準決勝、あの闘牌は見とったもん全員の記憶に残っちょるよ」

「まさに記録より記憶に残る戦い……ね。あの後すぐに須賀君が倒れたことも含めて」

うぐっ。
いやぁ、あははは……面目ない。
皆にもさんざっぱら怒られました。
もう、和も咲も優希も怖くて怖くて。

本気で殺されるかと思いましたよ。

「当たり前じゃい。わしかてあの場におったら一発ぶん殴っとるところじゃ」

「全く須賀君は駄目ねー、好きな女の子に心配かけてるようじゃいい男とは言えないわよ?」

うぐぐぅっ!?


……ただいま、母さん。父さん。

「インターハイ、中継見たわよ」

「惜しかったな」

うん。勝てるかと思ったんだけどな。
やっぱ、悔しいよ。

「……で、どうすんの?」

「麻雀、続けるのか」

あ、やっぱバレてる?
まあそりゃそうか。一年の秋からずっと麻雀しかしてないもんな。

うん、俺は麻雀を続けたいと思ってる。
プロから指名されれば、それが一番だけど。
まあ最悪大学や実業団に行ってでも続けるつもりだから、勉強はちゃんとするよ。

「それを聞いて安心したわ。好きになさい」

ありがと。

572 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22:13:27.84 ID:cpjzzPHT0

……で、和はどうするんだ?
やっぱ前から言ってたようにプロ目指すの?

「はい。いくつかのチームから打診は来ていますので、指名されたチームにそのまま入るつもりです」

ははっ、確かに和は贔屓チームとかなさそうだしな。
チームを選ぶ気はないわけだ。

「そういうことです。京太郎君はどうなんですか?」

ん、俺も同じようなもんだよ。
準決勝敗退とはいえ、あの天龍寺さんを相手に役満ぶち込んだのが評価されてるみたいだ。
期待させといて結局どこも指名してくれない……なんてことさえなければ、俺もプロに行くよ。

「ふふっ、同じチームに指名されたら嬉しいですね」

ああ、そうだな。
……本当に、本当に、本当に。
万が一そんなことがあったら、何より嬉しいのに。

573 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22:14:02.52 ID:cpjzzPHT0
数日後。
秋に行われるドラフト会議は、もう少し先。
ああ、待ち遠しい。どんな結果が出るにせよ、早くやってほしいもんだ。

和や(本人は行く気がないようだけれど)咲みたいな指名当確の有名どころならともかく、
俺みたいな実績がほとんどないぽっと出は本当にやきもきさせられる期間である。
そんなわけで休み時間もぼーっと過ごしていたら、例の友人が話しかけてきた。

「よっ、須賀。どうよ気分は」

打ち足りない。
部活にはしょっちゅう顔出してるけど。
やっぱりインターハイの緊張感には程遠いよな。

「あっはっは、なんか知らない内にお前も麻雀キチになったなぁ」

あっはっは、キチ言うなし。
一から麻雀教えてくれるような物好きの先生がいなけりゃ、ここまで長続きはしなかったろうけどな。
ほんと、和さまさまだぜ。

「けっ、惚気やがって」

惚気言うなし。
……惚気だったらどんなに良かったことか……!

「うわっ、こいつガチだ」

「京太郎くーん、今日は部活どうしますー?」

あっ、和。行く行く今行く、ちょっと待ってて。
そいじゃ、俺行くから。

「おーおー行ってこい、男子エースさんよ」

元、だけどな。
まあ今日も、可愛い後輩たちを揉んでくるとするかね。

583 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:19:42.54 ID:zhnCU36v0
そして夏はあっという間に終わりを告げ、運命の秋が来る。
プロ麻雀ドラフト会議。正式名称新人選手選択会議。
全国の高校生雀士が固唾を飲みテレビに齧りついて結果を待つ日だ。

既にプロへ行かないことを明言している咲を除いて三人、清澄高校にはプロ志望の三年生がいる。
その三人も当然例外ではなく、仲良く並んでテレビに齧りついている。
既にウィークリー麻雀TODAYを始めとした週刊誌・新聞社の記者さん達は準備万端。
あとは結果を待つのみだ。

『佐久フェレッターズ、女子第一位指名……清澄高校、原村和』

おぉぉおおっ、すげえ! 一位指名じゃねえか、和! すげえよ、本当すげえよ!
フェレッッターズって言ったら地元だし! 藤田プロのいるところか。うわっ、マジですげえ!

「京太郎君、はしゃぎすぎです……記者の方も見てるんですよ」

うぐぐっ。
あ、でも凄いぞ和。他にも和を指名してるところがあるみたいだ。
競合ってやつかー。ほんと和は凄いなー。

「どこになるんでしょうか……」

和の親父さんは今度東京に引っ越すんだっけ?
だったらやっぱり、和としては東京のチームのほうがいいんじゃないのか?

「そこは別にいいんですけど……」

「全く、私がどこにも一位指名されないなんて信じらんないじぇ」

しゃーねえだろ。白糸台の大星さんとか、強い選手は他にもいるんだから。
ああ、そんなことより早く女子ドラフト終わって男子のほうやってくれないかなぁ。
もう緊張で心臓がおかしくなりそうなんですけどっ。

『佐久フェレッターズ、女子第二位指名……清澄高校、片岡優希』

「おおおっ、来たぁー! 我大勝利なりっ!」

おぉ、おめでとう優希。
……うぅぅううう、あとは俺だけじゃねぇか。

『それでは、男子の指名に移ります……』

来た……来ちゃったよ。うあぁ、心臓が痛い。
どうしようどうしよう、これで指名なかったら俺、晒し者じゃねえか。

「ビビり過ぎだじぇ。インターハイで準決勝まで進んどいて指名無しは有り得ないじょ」

そりゃ理屈のうえではそうなんだろうけどさぁ。
結局俺本選では一回もトップ取ってないし……。

「はぁ。京太郎君らしいといえばそうなんですけど、もうちょっとしゃんとしていてください」

ううう……。


『佐久フェレッターズ男子第一位指名……清澄高校、須賀京太郎』


……えっ。
聞き間違いじゃ、ない、よ、な? なぁ?
俺、和と優希と同じとこに、指名されたんだよ……な?

「ええ、確かに私にもそう聞こえましたよ」

「私も、だじぇ」

……ぃやっ……たああぁぁぁぁぁあああっ!!

585 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:22:25.91 ID:zhnCU36v0
……そして迎えた、卒業の日。
式を終え、俺は誰もいない部室へ向かった。
特に理由があったわけじゃないけど。
どうしても、最後にここに来ておきたかった。

自動卓のメンテナンス。備品の整理。
今となっては俺がやる必要なんてない作業だけど、それでも。
今日でお別れだと思うと、一秒でも長くここにいる理由が欲しかった。

そうして長々と部室に居座っていると、そこに和が現れた。

「京太郎、君……」

和、か。ははは、和も今日でお別れだと思ったらついつい来ちゃった感じか?

「……いえ。京太郎君は、きっとここに来てるだろうと思いまして」

えっ、俺?
もしかして麻雀部で集まって写真撮るとかそんなのあったの?
だったら急いで行かないとだけど……。

「いえ、そうではなく。京太郎君に、話があるんです」

586 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:24:27.65 ID:zhnCU36v0
……俺、に?

「……思い出話のようなものと思っていただければ、結構です」

「一年の頃。京太郎君がまだ雑用ばかりさせられていた頃。たぶん、私はあなたのことを軽んじていた」

……ま、そりゃなぁ。俺だって雑用だけしてるような奴がいたら、何しに来てんだこいつって思うだろうよ。
別に今更そんなときのこと謝ってくれなくてもいいんだぜ?

「けれど、違った。京太郎君が真剣に麻雀に取り組んでいるということを知れたこと。本当に、良かったと思っています」

あぁ、あの時か。うわっ、今思い返すと恥ずかしいなぁ。
あの時殴っちまった女子、今どうしてるかな……。

「あの時からずっと、なんだかんだで京太郎君と一緒にいた気がします」

……そう、だな。
学校に行けば部室で麻雀教えてもらって。
家に帰ったらネト麻で麻雀教えてもらって。
ずっと麻雀してたな、うん。

「部活の帰りにファストフードやゲームセンターに連れて行ってくれて……楽しかった、です」

お、そりゃどうも。
楽しんでくれてたかどうか凄く心配だったから、そう言ってくれると嬉しいよ。


「ずっとあなたといて、あなたのことを知ってきました」


「ずっとあなたといて、もっとあなたのことを知りたくなりました」

587 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:26:53.28 ID:zhnCU36v0



「京太郎君。あなたのことが――好き、です」



591 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:29:37.88 ID:zhnCU36v0
……えっ?

「もうっ。京太郎君らしいといえばそうなのかもしれませんけど、こんなこと女の子に最後まで言わせな――」

がばっ。
……気付いたら、和を抱きしめていた。
仕方ない。いきなりこんなこと言う和が悪い。

……本気にするぞ? 今更嘘だとか言われても認めないぞ?
いいんだな、和。

「……全く。相変わらず自己評価が低いようですが……そんなこと言いませんよ、京太郎君」

「二年間、ずっとあなたのいいところを見てきた私が言うんです、間違いなんてありません」

……ああぁぁああ、もうっ。
お前にこんなとこまで言わせちまったのは男として物凄い恥ずかしいけど。
それでも、今更だけど、俺からも言わせてくれ。

和、好きだ。大好きだ。初めて会った時から、いや始めてお前の姿を見た時から。
ずっと、お前のことばかり見てた。見損なわれるかもしれないけど、本当にずっと。

「……どうりで、春から夏にかけてはやたらと視線を感じたような……?」

うぐぅぅううっ!?
……いや、違うんだ。違わないけど違うんだ。
確かに和に近づくために麻雀始めたのは事実だけど、その……。

「……分かりますよ。浮ついた気持ちだけで麻雀をやってて、あんなに上達するわけがありませんから」

「京太郎君の麻雀への思いの真摯さは、私が保証します」

ありがと、和。お前がそう言ってくれるだけで、救われるよ。
……あー、なんか、もう。最後までカッコつかないけど。

和。俺は、お前のことが好きだ。俺と……付き合って、くれるか?

「喜んで。よろしくお願いします、京太郎君」

ようやく。足かけ三年、ようやく実った俺の初恋。
初めて会った時から好きで、でもそれ以上に今目の前にいる彼女が愛おしくて。
気付けば互いに眼を閉じていて。

二つの影が、一つに――

595 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:31:27.78 ID:zhnCU36v0


  がたっ。


597 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:37:33.16 ID:zhnCU36v0
……おい。

「あっ、やべっ」

いや、いいんだ。
この際なんで全員いるんだよとか、そういうことはいいんだ。
寛大な精神で許してやろう。

お前ら、どこから見てた……?

「いやですね、ほら。せっかくの卒業式だから部員全員で記念写真でも撮ろうって話になって」

「京太郎さんと原村先輩だけいなかったから……」

「そんで三年生の知り合いに聞いたら旧校舎に行くのを見たって……」

そう言うことを聞いてるんじゃない。
もう一度聞くぞ、お前らどこから見てた……?

「えーっと……『和も今日でお別れだと思ったらついつい来ちゃった感じか?』から……」

最初じゃねーか。
……最初っからじゃねーかァァァァァ!!!!

「アカン」

「逃げるじぇ皆!」

待てやコラァァァァ!!
穏やかな小春日和の空に、俺の叫びが響き渡った。

598 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:41:47.46 ID:zhnCU36v0

――こうして、紆余曲折の末、俺こと須賀京太郎はプロ雀士としての道を歩くことになった。

思えば至極下らない、というか俗っぽい、言ってしまえば酷い理由で麻雀を始めた俺だけど。

決して順風満帆とは言えなかったし、嫌なことも辛いことも当然あったけれど。

それでも、いつだって俺の回りには仲間がいた。

俺の味方をしてくれる人がいた。

だからこそ、俺はここまで成長できたんだ。

俺がここまでくるのに、失敗なんて一つや二つじゃ済まない程あったけれど。

その全てが、今日この日の成功に繋がったんだと、そう思う。

隣に最愛の人が立ってくれている、そんな今日に繋がったんだと思う。

だから、凄く気の早い話だけれど、著名なプロの方々のように俺が本を出す日が来たら。


そのタイトルは、もう決まっている。


599 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20:42:53.88 ID:zhnCU36v0


京太郎「俺のサクセスストーリー」         完。あるいは、始まり。