少し離れた所にある大きな駅のイルミネーションを一緒に見ようと、遠距離恋愛中の彼から連絡があった。

時計の針は約束の1時間前を指してる。
待ち合わせの場所までの移動時間を考慮するとあと20分くらい余裕がある。
姿見を見る。
栗毛で少し癖のついたロングの髪の毛にアクセントとして花柄のピンを1つ。
少し視線を下げるとピンクをベースとした淡い色合いで統一した上着とロングスカート。
これにいつものマフラーと手袋を付けて完成。
それを確認しよし、と頷くと玄ちゃんと憧ちゃんがこっちを覗いているのが鏡越しに見えた。

「宥姉~準備できた?」
「お姉ちゃんもう時間になっちゃうよー?」

それに気付き赤くなった私の顔を見てニヤケる2人。
なんかからかわれてる気がする。

「まだ少し時間あるから……」
「じゃあ最後のチェックしようか」
「まだやるの…?」

あったり前じゃないと楽しそうに言う憧ちゃん。
今回服装とか選ぶのを憧ちゃんにお願いしちゃったせいで凄く振り回されちゃってるなあ。

「い~い?宥姉。普通のデートじゃなくて、今日は“クリスマス”なんだから完璧にしなきゃダメなの」
「うん……わかってるよ」

久しぶりに会えるって理由もあっったし、気合い入れるために憧ちゃんに相談したのは間違いじゃなかった。
……と鏡に映る自分を見て思うけど、妙にやる気を出されちゃったせいで出かける前から疲れ気味。

憧ちゃんのチェックも終わり、時計を見るともう出る時間になっていた。
鞄を手に取り、中身を確認する。
お財布、使い捨てカイロ、定期、貼るホッカイロ、携帯電話、ハクキンカイロ、持ち運び用の化粧道具、電池式カイロ、念のため折り畳みの傘も入れておく。
うん。忘れ物なし。

「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃーい」
「おねーちゃん、最後にひとつだけいい?」

出かけようとした時に玄ちゃんが声をかけてくる。

「なぁに?玄ちゃん」
「今日寒いし人が多いとこ行くみたいだけど、寒いのは嫌だとか人混みは嫌とか言っちゃダメだよ?」
「???」
「クロ……宥姉わかってないよ」

玄ちゃんの言葉の真意を分からないでいると、憧ちゃんが解説してくれた。

「久しぶりに会うんでしょ?」
「うん」
「そんな状態なのに、自分の事ではないにしろ嫌とかいう言葉聞いたらどう思う?」
「あったかくない…」

なるほど、分かった。
嫌な思いをしてると思わせないようにするんだね。

「そういうこと」
「じゃあ気をつけてね」
「うん。こんどこそ行ってきます」

玄ちゃんと憧ちゃんの忠告を心に刻んで家を出る。

家を出た途端、寒さで身が縮こまる。
そう言えば朝のニュースで今年一番の冷え込みっていってたっけ。雪も降るかもって言ってた気がする。
それでも京太郎君と会える……それを考えたら胸の中があったかくなるのを感じた。

少し早めに待ち合わせ場所に付くと、わかり易い目印になってる金髪が見えた。

「早いね、京太郎君。またせちゃった?」
「俺もついさっき着いたとこですから。お久しぶりです、宥さん」
「うん、久しぶりだね」

そのまま勢いで抱きつきたくなる気持ちを抑えて、笑顔で挨拶する。
人通りがある中でいきなり抱きついたりしたら……ちょっと恥ずかしい。
でもそのかわりにと言ってはなんだけど、手を握る。暖まってるカイロを掌に持ち、京太郎君の手を握り温める。

「宥さん……」
「こうすれば京太郎君もあったかいでしょ」

京太郎君が繋いだ手を引っ張り、上着のポケットに2人の手を入れる。
冷気が遮られ、カイロの熱がしっかりと感じられた。
彼の顔を覗き見ると、頬から耳まで赤くなってる。これは寒さのせいなのか、それともこの行動のせいなのか……判別が付けづらい。
ポケットに手を入れながら歩き始める。くっ付いてるから自然と歩くスピードが遅くなる。
ちょっと気恥ずかしさもある。だけど京太郎君が気遣ってくれてるわけだし、添って歩く言い訳にできるからやめない。
繋いでる手だけじゃなくて、触れ合ってる腕だけじゃなくて、心の中まであったかい。

目的地に近付くと、だんだん人が多くなってきた。
すれ違う人にぶつかりそうになる事数回。その度に京太郎君がぶつからないようにそれとなく誘導してくれる。

「大丈夫ですか?宥さん」
「うん。ありがとう」

私を心配してくれる。
過保護といわれれば過保護かもしれない。人によっては重いっていうけど、私は大事にしてもらってる感じがして好き。

「人が多いとこは苦手だな……」
「えっ?」

浮かれてたせいか、ぽつりとこぼれてしまった独り言。反応が薄いのを見ると聞かれなかったかな?
僅かに体重を京太郎君に預け寄りかかる。頭をもたれかけると少し京太郎君の匂いがして、寒さで強張った身体がほんの少しだけ弛緩する。
不意に目の前を白い何かがひらりと舞い落ちる。気になって上を見上げたら瞳に冷たい欠片が落ちて来た。

「冷た…雪……?」
「降ってきましたね。長野だと多すぎて全くありがたく無いですけど、こっちで降ってくれると嬉しいです」

これくらいなら傘を差さないでも大丈夫かな?
でも……雪が降ってるって考えるだけでも寒さで身体が震える。
それを抑えるために、身近にあった掴まりやすい……京太郎君の腕にぎゅっとしがみつく。

「寒いのは……嫌い…」
「…ああ……そう…ですよね」

また言ってしまった。そして今度は聞き流されなかった。
玄ちゃんに言われて注意してたのに。心は浮かれてるのに身体が寒くて、どうしても漏れ出てしまった独り言。

「ち…違うの…京太郎君……」
「ごめんなさい。そう言ういい方をされてるのに……宥さんが嫌な気持ちを持ってるのに…」
「そうじゃないの。一緒に来てる事は……」

そういう意味じゃなくて……と慌てて取り繕う。一緒に居る事は嫌じゃなくて嬉しいって事を伝えなきゃ。
そう思って顔を見上げる。2つ年下のはずだけど、彼の方がだいぶ背が高いからしっかり見上げなきゃ顔が見れない。

「嬉しいんです」





「えっ?」




予想外の言葉が飛び込んできた。良く見ると、寒さのせいだけでは説明できないくらい顔も赤い。

「人が多い所が苦手でも、寒いのが嫌いでも“帰りたい”とは言われないので……ここに来る事は嫌じゃないのかなって思って」
「一緒に来れた事は私も凄くうれしいから……寒いのも我慢できるくらいには」

ありがとうございます。と言うとポケットの中でカイロを押さえる程度に繋いでいた手を一度解いて、それから指をからめて繋ぎなおした。
ふと横を見ると、窓ガラスに映っていた私の顔も真っ赤になっているのに気がついた。
































一部始終を誰かに見られてたらしい。
ずっとサイレントにしてあった携帯をあとで開いたら友達からのラインに私たちの写真が載せられてた。
激しく抗議をした後、写真は有難く保存させてもらった。


カンッ!