穏乃にとって、山とは生活の一部である。
遊び場であり、庭であり、学ぶ場であり、超える場でもある。
そんな場所を四六時中駆け回り、付き合わされる履き物は須賀京太郎が見る限り、限界であった。

「お前靴やばくねーか?」

え?と反応を返す穏乃。小首を傾げてこちらを振り向く姿はジャージな癖に可愛いものである。いや、『穏乃』がジャージだからだろうか?

閑話休題。
京太郎が指差す先が自分の履いている相棒だと気付き、片足の靴を脱いで手に取ってみる。
見れば表面側面裏面、八方四方どこから見ても傷やら穴が空き始めてる。
致命傷にはなってないが、一つの穴が決壊したら連鎖的に靴が駄目になってしまうこと間違い無しである。
穏乃も「あちゃあ。」と頭に手を当てている。
いや、今気付いたのかお前。

「いやー。最近みょーに履き心地悪いなー、って思ってたけどまさかねー。」

「最近?」

「うん、夏休み頃からちょっと。」

「それは最近って言わねーよ!?」

最近の若いもんは・・・それも違う!と漫才繰り出したのはさて置き、どうしたものかと頭を捻る。

「新しい靴買ったらどうだ?」

「うーん、靴は履ければとりあえず大丈夫なんだけどねー」

「少しはオシャレしろ、このチンチクリン。」

「オシャレ、か。」

京太郎の言葉に何か感じ取ったのか、その場で立ち止まる穏乃。
それに気づいて、京太郎も思わず「やらかした。」と後悔する。
が、そこで立ち止まらないのがこの男にある美点かもしれない。

「じゃ、今から行くとしますか。」

「え、で、でもこの靴じゃ流石に山は・・・」

「だーれが山と言った、このちみっこが。」

穏乃の頭は京太郎には非常に小さく、一回りも二周りも小さい背丈だ。
上から頭を軽くわしゃわしゃと弄くるには最適であるとも言える。

「うにゃぁぁぁっ・・・」

「靴買いに行くんだよ、こっからなら靴屋は近いだろ?」

「・・・え?」

「ほれ、行くぞ。確か俺の知ってるメーカーなら動きやすいだろうし。」

そう言ってズルズルと穏乃を引っ張っていく京太郎。

あ、京太郎の手ってやっぱ大きいや
ゴツゴツしてるとこもあるし、やっぱり男の子なんだなぁ・・・

と。このように、手を握られていく彼女はその今までにない男女の違いを掌一つで感じ取り。


あー、今更だがこれやっぱデート扱いになるよなぁ・・・
こいつがそう思うかは別としても、こっちが意識しちまったらこいつもやりにくいだろうし・・・

とかいう考えを一瞬してしまった自分を振り払いつつ、冬にしては顔が熱く感じる彼は視線が妙に泳いでいる。

街で唯一である某靴屋まで10分弱。
胸のときめきは未だに止まらず。
どちらも視線はいったりきたり。
ついつい視線があったなら、おもわず外す赤い顔。
それでも見ている相手の姿、何故かどうしてかそっち向く。
10分弱は一時間?それとも百分?永遠か?
錯覚覚えるこの時間。
わからないけど、まだこうしていたいような、恥ずかしいような。そんな気分。
それでも終わりがやってきて。
着いた店先、三歩先。

「・・・ここだよね?」

口を開いた穏乃は疑問に思う。
聞いたのはなんでだろう。
ここしか無いはずなのに、それが望んでないような気がしてならない。

「・・・ここだな。」

言った京太郎は悩むばかり。
ここが目的地なはずなのに、どうにもスッキリしない答えになってる。
嗚呼、ならこうすりゃ良い。
どっちに転んでも、罰は当たらないだろう。

「んじゃ、選ぶとしましょうかね。お転婆姫様。」

手は離さずに、店内へ。
「あっ」、と穏乃の言葉はスルーして。
握り返してきた掌を、ゆっくり握って返事する。

「むー、なにさそれー。」

手を握る前の関係に戻ったようで、ちょっと進んだような、道を変えたような感触。

「お前みたいな奴に付き合う靴はしっかり選ばなきゃ大変だからなー。」

なんなんだろうね、これ。
なんなんだろうな、これ。
2人とも分からないけど、嫌なものではない。

「おかしい、馬鹿にされてる気がする・・・」

「ま、冗談はさておき。穏乃にゃしっかりした靴でも選んでやりますか。」

「だから靴は動きやすいので良いってばー。」

じゃれ合いながら、その手を離すことなく笑いあう。
今の二人はとりあえず、手を繋げる関係が一番良いようです。

カン・・・?