小蒔「滝見の家は神代の物ですから、入り婿である京太郎くんのことを好きにしてもよいのです」

京太郎「小蒔さんはまた心にもないことを言って。離れてください、もうじき春も帰りますから」

小蒔「いいえ、離れるつもりはありませんよ。自分の夫に遠慮する必要がどこにありましょうか」

京太郎「気持ちはうれしいですけど、俺の連れ合いは春ひとりですよ。小蒔さんじゃありません」

小蒔「つれませんね。相変わらず」

京太郎「愛妻家ですから。小蒔さんが考えてるよりもずっと、春のことを大切に思ってるんです」

小蒔「私だってお二人の仲を軽んじているわけではありませんよ。いつも羨ましく思っています」

京太郎「だったら」

小蒔「だからこそ、その輪に私も入れていただきたいのです。愛人ではなくあなたの正妻として」

京太郎「まるでお話になりませんよ。夕飯の支度をしなければいけませんから、そろそろ本当に」

小蒔「当主の了承は得ています」

京太郎「…………」

小蒔「ご存知でしょうが、父はあなたを大層気に入っておりますから。それはもう我が子同然に」

京太郎「そうした結果滝見の家はどうなるんですか。曲がりなりにも、俺もこの家の当主ですよ」

小蒔「ええ、ですから春ちゃんにも跡取りを産んでいただきましょう。三人で幸せになるんです」

京太郎「もしもいやだと言ったら」

小蒔「間違ってもそんなことは言えないはずですよ。誰よりあの子を大切に思う京太郎くんには」

京太郎「…………」

小蒔「いやですね、そんな目で見ないでくださいよ。何も脅迫しているわけじゃないんですから」

京太郎「脅迫じゃなかったらなんだって言うんですか」

小蒔「単なる愛の告白ですよ。家の力や他人の力を借りたとしても、叶えたい想いがあるんです」

京太郎「小蒔さん」

小蒔「止してくださいあなた。自分の妻に向かって、そんなに他人行儀な呼び方もないでしょう」

京太郎「それも神代家からの命令ですか」

小蒔「今日このときからはあなたも神代家の一員ですが、そう捉えてくださっても構いませんよ」

京太郎「小蒔」

小蒔「なんですか? あなた」

京太郎「たった一つだけ今ここで約束してください。春や滝見の家には、絶対に手を出さないと」

小蒔「…………」



小蒔「うふふ」