別に待ち合わせたわけでもない

電車が来るまでほんの5,6分の

たまたま居合わせた部長と部員の何気ない雑談の顛末である

「……京太郎、お前かなり背が高い方なんじゃないか」

「そうですね。なんか、中学の時から急に伸び始めまして。でも部長だってかなり高い方じゃないですか?」

「そうだな。まあ別に女子で身長が高くても、威圧感が増すだけでいいことは特にないのだが」

「いやぁモデルみたいでかっこいいし、やっぱり頼りがいあるって皆いってますよ」

「そう……か」

誉めたつもりが、わずかに曇る表情

「?」

「だが私だって……たまには、誰かに寄りかかって甘えたくなる時だって……ある」

本当に不意打ちだった

「部……長」

あの弘世部長が胸元に顔を埋めて、体重を預けてくるのは

あの鬼のように厳しい先輩が 頼れる部長が

まるで今にも崩れ落ちそうなか弱い女の娘に見えて……

考えるより先に耳元に囁いていた

  『菫』

ピクっと肩が震える

鎖骨の辺りの布地を握っていた弘世先輩の手が解かれ、脇を通って背中に廻る

そのまま顔を上げない事を幸いに、己の左腕で若干強めに抱きしめる

残った右腕で艶やかな黒髪を撫ぜること、4分経過

「……ずいぶん馴れ馴れしく呼んでくれるな?」

面を上げた彼女の顔は、100人の部員を束ねる長としての凛とした風格を完璧に取り戻していた

「すみません部長。調子に乗りました」

腐っても西東京の強豪、白糸台高等学校麻雀部部長。その羽は、簡単に折れはしない

だけども

「その、なんだ、須賀。」

刹那に交わしたお互いの体温は確かに残っていて

「はい」

パァァーーーン

部長が何かを言いかけた時、短い警笛と共に下りの電車がホームに入ってきた

「……すまん何でもない。また、明日な」

「……はい」

そのまま背景とズレながら流れていく部長を見送った後

明日が休日である事に気付き、去り際の言葉を深読みし過ぎて煩悶と悩み続ける男子高校生の醜態は

同じく取り繕ったつもりの仮面の下で大いに狼狽していた上級生からの、所謂でえととも言える

買い出しへの誘いがめえるで送られてくる午前1時30分まで続いたのであった