○月×日
清澄高校入学3日目、面白そうな奴らに出会った。今日からは日記のネタに困らなそうだ。
昼休み、学校近くのコンビニにパンを買いに行こうと急いでいた時のことだ。
一人の女の子が川べりに立つ木の陰で本を読んでいた。学年色のスカーフは赤、俺と同じ一年生だ。
入学式からまだ三日目だというのに、その女の子は早くもそこを自分の居場所にしたかのように読書に夢中になっていた。
特に気にとめることもなく木の前を走る道を通り過ぎてから、彼女が小さなくしゃみをした。
そういえばティッシュ持ってたな、なんて思いながら彼女の方に振り返ったら俺が来た方向から男が走ってきたんだ。
京「おーい 咲」
咲「京ちゃん」
京「ん?そっちはどちらさん?」
咲「え…?」
「さき」と呼ばれた女の子は俺の姿を認めるや否や、自然に、本当にごく自然に男の背中に身を隠した。
だから俺は誤解せざるを得なかった。この二人は恋人同士なんだって。

あの時、咲ちゃんが俺にビビったのも無理はなかった。
なにしろオールバックの髪型で、若干こわもての俺がティッシュ片手に近づこうとしていたんだからな。
京「どちらさんだよ?咲」
咲「わ…私知らないよっ…」
「あーいや…その子が今くしゃみしてたからさ…ティッシュ渡そうかと…」
咲「え…あ…そうだったんですか ごめんなさい」
咲ちゃんは警戒を解いて俺の前に出てきてくれた。本当に申し訳なさそうに。
京「心配ご無用 ほれ咲」
咲「あ ありがと京ちゃん」
見ると彼もティッシュを持っていた。咲ちゃんはためらいなくティッシュを受け取る。
京「こいつのことは昔からよく知ってんだ 花粉に弱いくせに外で読書しようとするんだよ」
咲「いいじゃん別にー」
鼻をかみながら咲ちゃんは文句を言っていた。なぜか少し嬉しそうな顔して。

咲「あれ?1-B?」
京「ホントだ!」
男は俺の襟首に付けられている所属を見て嬉しそうな声をあげた。
京「俺らも1-Bなんだよ!偶然!」
「なんだ 同じクラスだったのか」
クラスメイトを見つけた男は子供のようにはしゃいでいた。俺も悪い気はしなかった。
京「じゃあ自己紹介な 俺は須賀京太郎 んでこっちは」
咲「自分で言うってば 宮永咲です」
京太郎の方は握手を求めてきて、咲ちゃんの方はぺこりと頭を下げてきた。
息ぴったりだな、と思いながら俺も名を名乗った。
「俺は嫁田仲人(よめだなかひと) よろしくな」
俺は京太郎と握手を交わしながら咲ちゃんにも笑顔を向けた。
あの時ティッシュを持っていて本当に良かった。今朝ティッシュを持たせてくれたじいちゃんのおかげだ。
じいちゃんがよく行く雀荘「roof-top」のティッシュだ。

○月×日
「じゃあ二人は中学も一緒なのか」
三人で一緒に昼飯を摂りながら、俺は質問していた。
京「まぁそうだな」
咲「中学どころか小学校も幼稚園もね」
咲ちゃんは妙に嬉しそうだ。京太郎は食事の方に集中している。
京「付き合ってから結構長いな」
咲「だよねっ」
あの時京太郎の奴が紛らわしい言い方するから俺も早とちりしちまったんだよな。
「じゃあ二人はもうキスとかしちゃったわけ?」
咲「えっ!////」
京「ちっ違うって嫁田!付き合うってのはそういう意味じゃないって!」
「なんだよつまんねーな」
咲ちゃんは真っ赤になって俯き、京太郎は箸の進め方が極端に速くなった。わかりやすいなこいつら…
俺はなんて面白い二人に出会ってしまったんだ。これはもういじり倒すしかない。

「でもさ お前ら仲いいよな」
京・咲「………」
二人とも何も反応してこないが俺は構わず喋りつづける。
「だって昨日まで一緒に学食行ってたんだろ?この年頃の男女は普通そんなことしねーって
ましてお前ら恋人でもないのにさ そりゃ俺も誤解するって」
咲ちゃんはますます真っ赤になり、京太郎はますます箸を速める。
面白くてたまらないぜ。
「じゃあ咲ちゃんは好きな人とかいねーの?」
咲「え…何…いきなり…」
やっと話してくれた。
「好きな人 いねーの?」
咲「い…いないこともないけど…」ゴニョゴニョ
「なんだいねーのか」
咲「いっいるよ!//」
誰とは聞かなかったけど想像はつく。京太郎しかいない。
「京太郎は?好きな人いねーの?」
京「さぁ どうだかな」
「ずるいなお前 咲ちゃんははっきり答えたのに」
京「うるせーな」
本当は京太郎の方ももっと追及したかったが、昼休みの終わりが近づいていた。
三人で昼飯食うのは今日が最初で最後だ。これからも昼飯は二人で食わせてやろう。

○月×日
意識的に注意深く見ていれば、二人の相性がよくわかる。息が合ってるなんてレベルじゃない。
まるで二人で一つの心を共有しているようなんだ。
例えば最近こんなことがあった。俺と京太郎が教室で机を挟んで二人で話していた時のことだ。
そこに咲ちゃんが割り込んできたんだ。まさか俺に嫉妬してるわけじゃないだろうけど…
咲「何の話してるの?」
京「おお咲 実はさ…」
そう言いながら京太郎は席を立った。
あれ、どこ行くんだよ、と言いかけたら京太郎の席に咲ちゃんがそのまますとんと座ったんだ。で京太郎の奴は立ったまま話を続けてるんだ。
もう二人の動きが流れるようなんだよな。
自然に席を譲り、それに対して礼を言うでもない。何でこの二人は付き合ってないんだって改めて思ったぜ。
それだけじゃない。そのまま三人で話が盛り上がってた時のことだ。
咲「私、飲み物買って来るよ 嫁田君は何がいい?」
「俺はコーラかな」
咲「うん じゃあちょっと行って来るよ」
京太郎には聞かないのかよ、と思いながら話してるうちに咲ちゃんが戻ってきた。
ちゃんと缶ジュースを三本抱えている。
咲「はい嫁田君のコーラ 京ちゃんはレモンティーね」
京「サンキュ」
ああ、それもそうか。こんな二人なんだもんな。
お互いの好みなんて朝飯前ってわけか。チクショウうらやましいね。

○月×日
こんなこともあった。三人で話していた時のことだ。
俺は咲ちゃんの顔が時折曇ることに気付いた。それも俺が京太郎に話しかけるときだ。
よく観察すると俺が「京太郎」と呼びかけた時の一瞬だけ表情が陰ることが分かった。
おいおいまさか、と思いながら俺は京太郎に確認した。
「なぁ京太郎」
咲「………」
京「なによ?」
「いや…お前のこと下の名前で呼ぶ奴って誰がいる?」
京「?咲とお前くらいかな…」
咲「おばさんも『京ちゃん』って呼ぶじゃん」
京「それを言うなよ恥ずかしいから」
咲「ふふ」
やっぱりだ。咲ちゃん今まで自分以外に京太郎のことを下の名前で呼ぶ奴がいなかったから…。
それで名前で呼び始めた俺に嫉妬してたのか。
しかし男の俺にまで嫉妬するなんて咲ちゃん意外と独占欲強いというか純情というか…。
まぁ仕方ないか。
「俺さ、今からお前のこと須賀って呼ぶわ」
京「?別にいいけど…」
咲ちゃんの顔が安心したような表情になった。
面倒くさいカップルだわホント。

○月×日
長く付き合えば厄介事も持ちこまれてくる。今日はまさにその日だった。
珍しく須賀が昼飯に誘ってきたから、何かあったな、とは思った。
「咲ちゃんはどうした?」
京「いや…ちょっと喧嘩しちゃってさ 口きいてくれないんだよ」
「喧嘩ァ?」
今朝須賀は咲ちゃんに課題のノートを見せてもらった。そのノートには咲ちゃんのポエムが載ってて、そのことを冷やかすと激高したらしい。
京「課題のノートにポエムなんか書く方が悪いだろ?」
「どんなポエムだったわけよ?」
京「どんなのって…こんなの」
須賀はポケットから一枚、くしゃくしゃになった用紙を取り出して、机の上に広げて見せた。
「なんだよこれ?」
京「だから今言ったポエム 咲の奴怒ってページ破り取って俺に投げつけてきたんだ」
あの咲ちゃんが…?珍しいこともあるもんだ、と思いながら俺はポエムに目を通してみた。


窓辺に座る君はいつも何を想っているの その罪深い笑顔は誰に向けられているの
揺れる時を歩いてきたから私はもう声が出せないよ
手を伸ばしたら届きそうだけど ここでも君の声が抱けるから 今も私は抜け出せない
流れる星を数えながら 淡い炎が消えぬよう 何度祈ったことだろう
気恥ずかしさに邪魔をされるけど 夢なら夢のままでいい
あの日のように君がそばにいてくれたら
けれど君の見つめる空のように いつか一つに結ばれたいよ

これはもうポエムじゃない。恋文だ。
咲ちゃんはこれを見られたから怒ったんじゃない。京太郎が気づかないから怒ったんだ。
「須賀、これはお前が悪いぜ」
京「だから仕方ないだろ?見えちまったものは」
「そうじゃないって」
なるほど、咲ちゃんも大変そうだ。
とは言っても俺が直接伝えても何にもならんしな。
二人にも仲直りしてほしいしいっちょお膳立てしてやりますか。
「須賀、明日二人でどっか遊び行こうぜ」
京「明日?別にいいけどさ」
「じゃあ決まりな 13時に駅集合」
ここまでが半日くらい前の出来事でここからが数分前のこと。
「もしもし咲ちゃん?明日遊び行かない?須賀と三人で」
咲「嫁田君…あの聞いてるかもしれないけど…私いま京ちゃんと」
「知ってるって だったらなおさら仲直りしなきゃだろ?」
咲「それは…そうだけど…」
「じゃあ明日の13時に駅集合で それじゃ」
咲「あ!えと」
がちゃん!
有無を言わせず電話を切ってやった。これで咲ちゃんも来ざるを得ないだろう。
準備は整った。後は明日を待つばかりだ。

○月×日
そして今日現在13時、俺は駅に行かなかった。
初めて二人に出会った場所でこうやって日記を書いている。
今頃きっと二人とも驚いているだろう、いや、もう仲直りしてるかもしれない。
俺がいたらたぶん意地の張り合いになっちゃうだろうからな。
喧嘩したのが二人なら仲直りするのも二人の問題。俺はその場を少しセッティングしてやるだけだ。
心配はしていない。なんせ俺が今まで生きてきた中で最高の二人だからな。
お互いに支え合ってお互いに甘え合う。こんな二人にこれからも付き合っていけるのかと思うと正直嬉しくてしょうがない。
幸せになってくれよ、須賀、咲ちゃん。
と言いつつ俺にも早く春が来ないかね。

「へっくしょい!」
あれ、俺も花粉症になっちまったか。
???「あの、大丈夫ですか?」
「え…」
???「よければこれ使ってください」
そう言って差し出された手にはあの時と同じ雀荘「roof-top」のポケットティッシュがあった。
「あ…どうも」
???「それじゃあ」
二つ結びの長いピンク色の髪を揺らしながら、その女の子は去っていった。
もしかしてあの雀荘の店員さんだろうか…


今度じいちゃんに雀荘へ連れて行ってもらおう。



FIN

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