咲「京ちゃん、あーん」

京太郎「あん」

 箸で運ばれた煮物を口に運ばれ、味わう。
 妻の謹製の煮物は絶品だ。

咲「美味しい?京ちゃん」

京太郎「おう」

 えへへと、浮かべた彼女の笑顔は労働の疲労を容易に消し飛ばした。
 サラリーマン京太郎。家庭を守り、妻を守るために、世の理不尽にぶち当たっている。出勤して体が疲労困憊にならなかった日はない。
 それでもこの笑顔が見れれば、あと百年戦える。そう、本気で思えるのだ。
 須賀京太郎が宮永京太郎となって二年ほど。
 高校時代では考えられなかった、幼馴染との結婚。
 ドジでポンコツで自分がいなければダメな幼馴染。そう思っていたのに……いつの間にか、彼女がいなければダメになってしまう男になってしまった。
 とんだ魔性の女だ。どんな魅了の魔法を使ったのか知らないが……巨乳が好みだと思っていたのに、どうしようもなく宮永咲が好きになったのだ。
 それを不幸と思うか。いいや──。

京太郎「俺は最高の俺は幸せ者だよ、咲」

咲「私も、幸せ」

 肩を寄せ合うくらいに密着した二人の頭上に、ハートマークを幻視させるほどの空間。甘ったるい空気が充満し、砂糖を吐く。アラフォーは血涙を流すだろう。
 誰も水を差さない二人だけの世界。
 ……それでも、どこかさびしいと思ってしまう。
 一体何が足りていない。愛しい人がいるこの生活に、何が不足している。
 ──いや、それはもうわかっている。
 夕食を終え、風呂から上がり、就寝。
 明日は旦那の仕事は休み。予定も特に入っていない。
 久々にデートでも行こうか、なんて話していた。

咲「ねぇ、京ちゃん」

京太郎「ん?」

咲「私ね。子供が欲しいんだ」

 そう切り出すことは、京太郎も予測できた。
 生活もなんとか安定してきた。学校を卒業してすぐ結婚し、忙しかった頃よりずっとマシになっている。

咲「あ、京ちゃんが嫌ならいいんだよ。まだ、生活も安定していな──」

京太郎「咲」

 言い切る前に。人差し指を口に当てて止める。

京太郎「俺も、咲との間の証が欲しい」

 ──俺たちの宝が欲しい。
 それが自分たちにとって、足りていない物だと知っているから。

京太郎「いいか?」

咲「うん」

 願いが叶った嬉しさでたまらない笑顔と、裸体を見せる恥ずかしさの赤面を同時に浮かべた彼女のいじらしい表情は、京太郎を大きく興奮させる材料になった。
 高校の時から彼女の体型はほとんど変わっていない。変化をあえていうのなら少し髪が伸び、顔つきがほんのすこし大人っぽくなった程度で、ほとんど変わらない童顔のままで貧しい胸部も成長はない。
 それでも京太郎は、彼女を抱く度に初めての時と変わらない高揚感に包まれる。
 彼女の寝間着をゆっくりと脱がしていく毎に、心臓の鼓動がうるさくなっていく。

京太郎「咲、愛してる」

咲「京ちゃん、大好き」


カン