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『俺は、大星淡が嫌いだ』









『私は、須賀京太郎が嫌いだ』


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京太郎「……はぁ」

京太郎(お腹すいたじぇ、タコス買ってこい! って言われたはいいけど)

京太郎(すぐにタコス屋なんて見つかる訳ねーだろ。しかも、見知らぬ土地で!)

京太郎(それでも、わかったって言っちまうんだから。俺はお人好しすぎるのかもしれねぇな)

京太郎(まだ大会も始まってもいないのに元気なことだ、うちのタコス娘は)

京太郎(元気一杯、天真爛漫と男には可愛いと大評判! なんだけど)

京太郎(俺からすると、タダのわがままロリっ娘にしか思えねぇんだよなぁ)

京太郎(……ったく、どうでもいいわな。さっさとタコスを買って大人しくさせねーと。
    咲達が巻きこまれちまう。日差しが燦々だけど、須賀京太郎君ががんばりますよって)

京太郎(どーこにあるかなタコス屋さんっと……ん?)

淡「…………」

京太郎「………………へぇ」

京太郎(綺麗だ……透き通るような金髪が、なんつーか輝いて……)

淡「…………?」

京太郎「…………ぁ」

淡「ちょっとー! 何見てるのよ-!」

京太郎「あ、すんません」

淡「もう! 人が真面目なシリアスシーンだってのにさー!」プンスカ

京太郎「そうだったのか?」

淡「そうだよ! 全くもって! 今の私はアンニュイ淡ちゃんなんだから!」

京太郎「そのアンニュイ淡ちゃんの邪魔をしたのは謝るよ。悪い」ペッコリン

淡「うむ! わかればよろしい! それで、どうして私を見ていたのさ-」

京太郎「その……言わなきゃ駄目か?」

淡「あったりまえのまえのすけだよ!」

京太郎「何だよ、そのいい文句は……」

京太郎(いつの間にか、敬語も抜けちまってるけどいいよな。何か、こいつバカそうだし)

淡「むー! 今失礼なこと考えたでしょ」

京太郎「いいえ、お姫様に対してそのようなことは決して」

淡「ば、ばっかじゃないの! お姫様だなんて!」

京太郎「そうか? 女の子は誰だってお姫様になれるんだぜ?」

淡「~~~~~~!!!」

京太郎「あっはっは、顔真っ赤じゃねーか」

淡「変なこと言うからだよ!」

京太郎「悪い悪い」ポンポン

淡「子供扱いしないでよ!こう見えても私は高校百年生なんだよ!」ドヤッ

京太郎「あ、はい」

淡「いきなり真顔にならないでよ、私が馬鹿なこと言ってるみたいじゃない」

京太郎「いや、馬鹿だろう」

淡「ひっどーい!」ポカポカ

京太郎「本当のこと言ったまでだろうが!」ポカポカ

淡「むー!」

京太郎「ったく、最初見た時はどこかの綺麗なお嬢様だと思ったのによ……」

淡「失礼な! 私はお淑やかなお嬢様だよ」

京太郎「なわけ……いや、これ以上話してても平行線だ。
    つーことで、じゃーな。邪魔して悪かった」

淡「あ、ちょっと待ってよ! 女の子を一人にしていく気?」

京太郎「一人って……まだ昼だろ?」

淡「昼でも何でも! こういう時は気を使ってエスコートするのが王子様なんじゃないの?」

京太郎「あのなぁ……俺にも用事があるんだよ」

淡「用事って何さ?」

京太郎「タコス屋探し」

淡「ふっふっふー、それなら私いいとこ知ってるんだけどなー」

京太郎「……本当か?」

淡「本当だよ! これでも、東京は地元なんだから!」

京太郎「それは嬉しいね。ぜひ、案内を願いたい所だけど」

淡「???」

京太郎「見返りは何だ?」

淡「私の暇つぶしの相手!」

京太郎「はいはい、わかりましたよ。お姫様」

淡「よろしい! なら、行こうよ……えっと」

京太郎「そうだな、まだ名前……言ってなかったっけ」

淡「そーそー。私は大星淡。高校百年生!」

京太郎「……そのネタは流行ってんのか? ま、いいよ。
    俺は須賀京太郎。高1だ」

淡「へー、私と同じかー」

京太郎「さっき、高校百年生とか言ってなかったか?」

淡「細かいことはいいの! それよりも行こう、須賀!」

京太郎「そうだな、大星」



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京太郎「それで、大星はどうして一人で佇んでいたんだよ」

淡「ふぇ?」

京太郎「さっきアンニュイな気分って言ってたじゃん」

淡『別に、何でもないよ』

京太郎「ふーん。ならいいけどさ」

淡「そういう須賀の方こそアンニュイな気分にならないの?」

京太郎「俺か?」

淡「うん。なんかさー、須賀ってばいっつもニコニコしてそー」

淡「笑いたくもないのに笑ってるって感じ。私と最初に会った時もそんな風に見えたけど」

京太郎『そんなことはないさ。俺はいつだって笑顔笑顔で楽しいぜ?』

淡「……本当に?」

京太郎『本当さ。嘘はつかない主義でね』

淡「ま、いいよ。私も深くは詮索しないし」

京太郎「詮索するも何もねーんだけどな」

淡「うっさい! 淡ちゃんの前では隠し事なんてなしなのだー!」

京太郎「すごく理不尽!?」

淡「そっれよりも~」

淡「タコス屋さんに何の用事なの? お昼ご飯?」

京太郎「ちげーよ。ちょっとした野暮用みてーなもんだって」

淡「へー。その野暮用ってちょー急がないとダメ?」

京太郎「別に駄目ではないけどさ」

淡「やたー! それじゃあ、一緒にごはん食べようよっ! 決まりだね!」

京太郎「うおっ! 引っ張るなって!」

淡「時間はいくらあっても足りないんだから早く早くー!」

京太郎(……なんつーか、悩みなんて全くなさそうな、底抜けのアホの子って感じだな)

京太郎(ま、たまにはいいかな。こういう息抜きも)

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淡「うまかったねー」

京太郎「そうだな。東京はやっぱすげーな」

淡「フフーフ、恐れいったか-」

京太郎「どうして、お前を恐れる必用があるんだよ」ポカッ

淡「あたっ」

京太郎「……そんなウルウルした目で見ても惑わされないぞ」

淡「ぶーぶー」

京太郎「はいはい、いい子いい子」ナデナデ

淡「はわっ!」

京太郎「あっ! 悪い、つい癖で」

淡「別にいーよ。気持ちよかったし……。須賀ってば撫でるのうまいねー」

京太郎「そういうのってわかんのか? 俺からすると適当に撫でてるぐらいにしか思ってないけど」

淡「わかるよっ! 高校百年生だからっ!」ビシイッ

京太郎「いや、そのネタはもういいよ!」

淡「ひどーい! 私が一生懸命考えた経歴なのに……!」

京太郎「嘘泣きはやめろよ」ペシッ

淡「あはっ、バレた?」

京太郎「バレバレだっつーの」

淡「女の子の嘘は素直に騙されておくものだよっ」

京太郎「ソウデスネー」

淡「心がこもってないよ! やり直しー」

京太郎「アホかっつーの。それじゃ、俺はそろそろ帰るぞ」

淡「えー」

京太郎「えーじゃない。元々野暮用があって来たんだから」

淡「ざんねーん。でも、須賀ってばまだ東京にいるんでしょ?」

京太郎「まーな。それなりには長くいるんじゃねーかな」

淡「やたっ! それじゃ、また会えるねーっ」

京太郎「もう会うこと前提かよ!?」

淡「淡ちゃんと会えるなんてスーパーラッキーだよー! ほら、アドレスと番号っ!
  これでいつでも通話と通信!」ブルルル

京太郎「まあ、仲良くなれそうだし受け取っておくけど……スーパーラッキーって自分で言いますか、自分で」

京太郎(ま、悪い気はしないけどさ)

淡「ちゃんとかけてくるんだよー、淡ちゃんは寂しいと死んじゃうからねー!」

京太郎「それじゃ、機会があったらなー」

淡「絶対だよ-! 約束破ったらぼーんだからねー!」ブンブン

京太郎「ぼーんってなんだよ、ぼーんって!?」

淡「じゃーねー!」ブルルルル

淡(…………それで、さっきからうるさい携帯はなんなのかなー)ブルルルルル

淡「はい、もしもーし」

菫「淡か! どこで油を売ってる!」

淡「げっ、スミレ」

菫「げっ、じゃない……! 全体練習をサボってどこにいると聞いているんだ」

淡「東京のどっか!」

菫「答えになっていないじゃないか……」

淡「いやいや、答えになってると思いますです、はい」

菫「また変な口調でおちょくって……」

淡「やだなぁ~、心配はご無用ですよ? 試合にはきちんと出るんで。地方大会でも結果は出しましたよね?」

菫「確かに結果は出している。だが、態度が問題だ。白糸台レギュラーとして模範ある行動をだな」

淡「―――――なのに」

菫「淡?」

淡「何でもありませーん。反省してまーす」

菫「全く反省していない風に聞こえるのは私の気のせいか?」

淡「気のせいですよ、プンスカ!」

菫「反省しているなら全体練習にも参加しろ。控えや二軍の力の底上げに協力しろ」

淡「お断りします。というか、百パー無理って感じ?」

淡「そもそも――私、嫌われてるじゃないですか。2、3年の老害達に」

菫「淡、そんな汚い言葉を使うな」

淡「てへっ。でも、本当のことですよ?」

淡「私が一年の癖に白糸台のレギュラー、それも大将を任されちゃってすっごくむかついてる。
むかつくオーラがどばしゃー! って、感じ?」

淡「知ってるんですよねー。気が向いて全体練習した時、私が卓に入ると他の三人で結託してフルボッコ狙ってるってこと」

菫「……誰だ、そいつらは」

淡「まー雑魚がいくら集まっても雑魚だから――全員、完膚なきまでに潰してあげましたけど」

淡「あはっ、延々と削られて最終的に全員一気に飛ばすって快感ですよ?」

菫「誰だと聞いている! 私が直接話してくる。気に入らんな、そのような軟弱な奴等は……!」

淡「別にいいですってば。というか、話してたらキリがないですよ?」

菫「……! すまない、私の責任だ……!」ギリッ

淡「いいって言ってるじゃないですか。スミレは重く考え過ぎー」

淡「弱いから妬むんですよねー。ずっと努力してきたものが才能で打ち砕かれるのが嫌だから」

淡「自分よりも下の小娘がテルのチームに入る。そんなありえない奇跡を偶然で固めたくて」

淡「私の強さは嘘と偶然で塗り固められてなんかいないのに」

淡「一応はちゃんとやってるのになー。淡ちゃんの力を知らない雑魚共は虐殺だっ☆」

菫「……淡」

淡「という訳なんで、全体練習は不参加ってことで~」ピッ

淡「…………」

淡「つっまんないなぁ」

淡「ね、須賀」

淡「アンタなら――どうする?」

淡「わっかんないよ、何もかもがー」

淡(強いって、いいことだよね? なのに、認めてくれない)

淡(テル達はいいとして、その他大多数は妬むだけ)

淡(…………どうしたら、いいの? どうしたら、寂しい思いをしなくて、いいの?)

淡(それとも、私は現状に満足しちゃってるのかな? それはありえないと思うけど)

淡(弱くなれば、このぽっかり感もなるなるのかな?)

淡(……ばっかみたい、何考えてんだか)



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京太郎「ただいま戻りました」

優希「遅いじぇ!」

久「そうねぇ……出て行った時間からしてもっと早く帰ってこれたんじゃない?」

京太郎「先に俺だけ昼食をとってきたんです。皆がこの後昼食をとっている間、牌譜整理でもしようかなって」

京太郎(さすがに女の子に押し切られて一緒に仲良く食事をしていましたなんて言えねぇって!)

咲「それだったら私も一緒にやったのに……」

京太郎「お前は全国大会に向けて、一局でも多く練習した方がいいだろ」

咲「でも……」

京太郎「いいから。ほら、飯でも食ってこいよ。俺は整理してるからさ。
    つーことで、部長。俺はこの部屋で整理してるんで」

久「え、ええ。いつも悪いわね、須賀君」

京太郎『いいっすよ、好きでやってることなんで』

京太郎(そうだ。俺はあくまで、好きでやっていることなんだ)

京太郎(だから、気のせいだ。このモヤモヤとした気分も)

京太郎(『本当に?』 どこまでが嘘で、どこからが本当か。そんなのわかるのか?)

京太郎「ほら、さっさと行った行った。飯食う時間だって有限なんだ、俺に構わず行ってこい」

咲「う、うん……」

ドタン

京太郎(さてと、一人か。風越の人達は外出中だし俺一人)

京太郎(さっさと整理するか……)

京太郎(……情けないな。こうして雑用しか出来ない自分が。前に進めない自分が)

京太郎(女子は全国大会出場、男子は初戦敗退。周りからは色々とヤジを受けたっけ)

京太郎(だけど、それは仕方がないことだ)

京太郎(弱いから当然だ。本気で麻雀に取り組んでいなかった俺が悪い。
    練習の機会が皆よりも恵まれていないなんて理由にならねぇ)

京太郎(……それでも、割り切れないもんがあるのは確かなんだよな)

京太郎(これから先、俺がいくら努力しても……あの圧倒的な才能に敵うのか?)

京太郎(運すらも支配してみせる力を、乗り越えられるのか?)

京太郎(今は、前に進むしかない。努力するしかないけど)

京太郎(その果てに着いても、勝てなかったら……?)

京太郎(くそっ……考えるな! 今は、必死になることだけを考えろっ)

京太郎(強いって、何だよ……俺は本当に強く、なれるのか?)

サイハチジョウタカクナゲラレター

・着信
【大星淡】

京太郎(さっき別れたばっかりだろうが! 速すぎだろ!?)ピッ

京太郎「はい、もしもし」

淡「やっほー、元気にしてる?」

京太郎「元気も何もさっき会ったばかりだろ……」

淡「そうだったっけ? その割にはさっきよりも声に力がないと思うけど」

京太郎『それは気のせいだろ』

京太郎「そういうお前こそ、何か落ち込んでる風に聞こえるんだがな」

淡「むっ! それはありえないね! なんていったって」

京太郎「高校百年生だから、だろ」

淡「そうそう、わかってるじゃん」

京太郎「それで、何か用か? 結構忙しいんだけど」

淡「ぶーぶー」

京太郎「ぶーたれても忙しいもんは忙しいの」

淡「けちー!」

京太郎「……ああ、もう! ちょっとだけだぞ! 俺だってやることが色々あるんだからな!」

淡「やたーーーーー! さっすが須賀ー!!」

京太郎「ほんと、調子がいいな……」

淡「ん?」

京太郎「なんでもありませんよ、お姫様」

淡「……そのお姫様っていうの何かきらーい」

京太郎「はぁ? どうして?」

淡「何となく距離感開けられてる感じがするー」

淡「というか、違和感があるんだよ!」

京太郎「距離感も何も、今日会ったばかりだろうが」

淡「仲の良さと時間は関係ないよ! そうだ、お互いのことを名前で呼べばもっと仲良くなれるんだよ!」

京太郎「えー」

淡「えー、じゃないよ“京太郎”!!」

京太郎「……っ」

淡「あれ、照れてるの? かっわいいー!」ニシッシッシ

京太郎「うっせえ! そ、そんな訳ねーだろ、“淡”!」

淡「……ぅ」

京太郎「はっ、お前の方こそ恥ずかしがっているんじゃね-のか」

淡「そんなことないし!」

京太郎「ぐぬぬぬぬぬ」

淡「むむむむむむ」

京太郎「…………くっ」

淡「…………ぷっ」

京淡「あはははははははっ!」

京太郎「なーにやってんだろうな、俺達」

淡「全くもって! ばっかみたいだね」

京太郎「なー、淡」

淡「何さ、京太郎」

京太郎「サンキューな」

淡「なにそれ、意味分かんないだけど」

京太郎「うっせーな。そういうお前こそ、何か用があったんじゃないのかよ」

淡「やっぱいい。何か削がれちゃったというかー」

京太郎「アホじゃねーの?」

淡「あーーー! アホって言った! アホって先に言った方がアホなんだよ!」

京太郎「うっせーうっせー!」

淡「バーカ! もう知らないから!」ブツン

京太郎「……あ、切れた」

京太郎(ったく、おてんばにも程があるっての)

京太郎「でも、少し気分が楽になったのは確か、か」



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京太郎「……とりあえずは雑用をしっかりやらんことには始まらんよな」

京太郎(麻雀については、今の自分がやるべきことをきちんとやってからだ)

京太郎(任せられたもんを放り投げるのは良くないしな)

京太郎(つー訳で、またまた街中に来たんだけど)

淡「いい加減しつこいです……」

ナンパ男「まあまあ、そんなこと言わずにさ~。ちょっとだけ! ちょっとだけでいいからさ」

京太郎(……何アホなことに巻き込まれてるんだ、アイツ?)

淡「だ・か・ら! アンタなんかに興味ないって言ってるんですけど!」

ナンパ男「いやいやいや、一緒にカラオケぐらいだって!」

淡「それが嫌だって言ってるんですけどね?」

京太郎(ただのナンパか。別に放っておいてもいいだろ)

淡「やめてってば……」

ナンパ男「ほらほら行こうよ。なーに、楽しくなるさ。時間が経つにつれて、ね」

京太郎(…………あーーーー!!!! くっそ、ほっとけるかあああああああああ!!!!!)

京太郎「おう、待たせたな」

淡「ふぇ?」

京太郎「悪い悪い、時間に少し遅れちまったな。埋め合わせに何か奢るから勘弁してくれよ」

ナンパ男「ちょ、お前……何だよ」

京太郎「こいつの彼氏だよ、テメエこそ何だ? 人の彼女に手を出して無事で帰れると思ってんのか? あ?」

淡「……!!! ちょ」

京太郎「淡は黙っていろ。ま、こういう時の彼氏様が前に立たないとな」

京太郎「で、何時までそこに突っ立っているんだよ……さっさと失せろ、その面みせてんじゃねぇ!」

ナンパ男「ひっ……す、すいませんでしたーー!」ドピューン

京太郎「……行ったか。あー、マジで疲れた。ああいう風に凄むのはやりたくねーんだよ。
    ホント、気をつけろ……ごわっ!」

淡「だ、誰が彼氏よ!! ばっかじゃないの!」バコンバコン

京太郎「うっせーな、咄嗟に出た言い訳だから気にすんなって。
    あ、気分を悪くしたんなら謝る! マジすいません!
    お詫びはいつかするからさ、許してくれ!」

淡「~~~~~~!!!?」

京太郎「…………何顔赤くしてんだよ」

淡「……誰のせいよ、誰の」

京太郎「はっ、この対応はお姫様にはご不満ですか?」

淡「な、なななななな! というか! お、お姫様じゃなくて淡って呼んでって言ったでしょーーー!!」シュポー

京太郎「やなこった、お姫様」ニヤッ

京太郎(うーん、からかうとおもしれーな。喜怒哀楽はっきりしてんし)

京太郎「ま、お前ってばいい奴なんだからああいう奴に引っかかるなよ」

淡「う、うん」

京太郎「やけに素直だな? 悪いもんでも食ったか?」

淡「ち、違うって。それよりも、よく会ってすぐの私をいい奴だって言うね。
  ちょっとは疑ったら? ばっかじゃないの」

京太郎「そんなことねーよ、お前は十分いい奴だろ。何だかんだでタコス屋とか教えてくれたし」

京太郎「俺からすると普通の女の子にしか見えねーけど? ま、違うなら違うでいいわ。
    その普通の女の子様は何か? とんでもない秘密を持ってる訳でもねーだろ?」

淡「……………………っ」

京太郎「ん? どした?」

淡『べっつにー。何でもない!』

淡「ほんと、京太郎ってバカ」

淡「バカだよ……」

京太郎「バカバカ言うなよ、マジでなったらどうする」

淡「もう十分にバカじゃん」

京太郎「お前なぁ……つーか、どうして制服でここにいるんだよ? その制服って……」

淡「知ってるの?」

京太郎「白糸台だろ? 麻雀強いとこって有名じゃん」

京太郎(俺には縁がないとこだな……弱っちい俺には)

淡「そうだね。そして、この大星淡ちゃんはなんと!」

京太郎「なんと?」

淡「白糸台虎姫の大将なのです!」デデーン


















京太郎「―――――――えっ?」

京太郎(才能に、恵まれた……奴等……)



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何かにヒビが入った感覚だった。

白糸台虎姫。それは俺でも知っているぐらい有名だ。

全国二連覇を成し遂げ、今回の大会で三連覇を目指す最強の高校。

その大将が淡だという。

大星淡。俺と同学年の一年生。

だけど、決定的に違う。

俺はきっと、凡人。持たざる者。

淡は才能を持つ向こう側の人物。

俺は思ってしまったんだ。

妬ましい、と。

何故、強いのだと。

麻雀とは言ってしまえば運ゲーだ。

運によって勝敗が決まるゲーム。才能よりも経験、その時々の運によって左右される。

だけど。実際に見ていてどうだ?

あの、長野大会の大将戦を見て、どうだった?

結局は才能ではないか。凡人はただ、蹴散らされていただけではないか。

咲や天江衣が圧倒していたではないか。

――麻雀って楽しいよね、一緒に楽しもうよ。

……そうだな、お前らは楽しいよな。

“勝てる”から楽しいんだ。

俺は、違う。勝てないゲームなんかつまらない。

負けることしか味わえないゲームのどこを楽しめばいい?

俺よりも強い選手達が蹂躙されるのを見て、勝てると思えるか?

それでも――俺は強くなろうと決めた。

負けない、負けてたまるものか。

何もしないで終わるよりも、できる限りの全てを出し尽くして終わりたい。

もしかすると、微かにでも勝てる可能性があるかもしれないから。

そう、どうしようもなく――俺は弱いから。

「……ん? どうかした?」

無邪気に笑みを浮かべる彼女に対して――嘘をつく。

『何でもないさ。すげーんだな、淡って』

胸に淀んでいる嫉妬も。

『こうしてみると、何処にでもいる女の子みたいなのに』

そうだ、ああ、そうだ。

才能に恵まれた奴等に、俺は勝ちたい。

みっともない負けをどれだけ繰り返そうとも。

“勝ちたい”のだ。

『えっ、お世辞? ちげーよ、本当にそう思っているって』

全部、隠して。俺は嘘をつく。

いつも通りの笑顔を張り付けて、ペラペラと口を開き続ける。

踏み越えてやる、絶対に。

だから、その為にも。

『だって、俺らって――』

今は仲良くしておいて損はない。

隙あらば、こいつの才能の秘訣を見て、感じて、知り尽くして。

勝つんだ、来年は俺だって全国に行ってやる!

「もう、ダチだろ?」

だから――他意はない。

俺はあくまで俺の為にこいつと仲良くするのだ。

『俺は、大星淡のことなんてどうとも思っていない。麻雀で強くなる為に仲良くしているだけなんだ』

きっと、そうに違いない。

そうでなければ、いけない。

カッコつけて、嘘をつくことが多くなっても。

勝ちたいんだよ、すっげー。



#########

誠子「で、今度は何処に行ってたんだ」

淡「な・い・し・ょでーす!」

誠子「だろうな。全く、弘世先輩がまた頭を抱えていたぞ?」

淡「それは申し訳ないですね」ペッコリン

誠子「いや、私に謝られても」

淡「亦野先輩に謝ったんで、代わりに謝ってください」

誠子「何で!?」

淡「駄目ですか?」

誠子「駄目というか、あんまり意味が無いだろう」

淡「ですよねー」

誠子「はぁ、ったく。しっかりしてくれよ、大将」

淡「オッケー、副将」

誠子「……それで、練習はどうする?」

淡「行かない。行っても、私の居場所なんてないし」

淡「というか、学校自体つまんないしー」

誠子「学校はまじめに行っとけ。いや、マジで」

誠子「クラスではハブにされてないんだろ?」

淡「ハブにもされてないけど相手にもされていないよ? 
  何か一年で白糸台の大将になって凄すぎるから近寄りがたいって」

誠子「……お前なぁ。本当は寂しがり屋のくせに何突っ張ってるんだよ」

淡『……そんなことない』

誠子「嘘だな。宮永先輩に引っ付いてる癖に」

淡「それはそれ、これはこれだよ!」

誠子「そういう減らず口を叩くのはこの口かー」ムニムニー

淡「あわわわわわ」

誠子「……それで、話は変わるんだが」

誠子「最近は機嫌が凄くいいじゃないか」

淡「そうですか?」

誠子「ああ。見ていて怖いくらい」

淡「亦野先輩からそんなこと言われるなんて……ショックで寝込みそうです」

誠子「何を言ってるんだ。それで、理由は聞いてもいいのか?」

淡「……他の人達には内緒ですよ?」

誠子「わかったわかった」

淡「私のこと、普通の女の子って言ってくれた人がいるんです」

淡「麻雀が強いから。他の誰にも負けない、白糸台の大将。
  皆が私のことをそーゆーフィルターで見てるんです」

淡「亦野先輩達みたいな人達は例外ですしね」

誠子「それで、恋でもしたか?」

淡「ちょ、何言い出すんですか!」

誠子「いやいや、可愛い妹分にもやっと春がやってきて嬉しくてな」

淡「春なんか来てませんから! やっぱり言うんじゃありませんでした」プックリ

誠子「そう言うなって。その分の協力はしてやるからさ」ポンポン

淡「うー、亦野先輩がしつこいんで特別ですよ? それと恋じゃないんで!」

誠子「了解了解。それで、手を打つさ」

誠子「ということは積極的にアプローチしていたり?」

淡「うん。でも、私みたいなのとは釣り合わないですよ」

淡「そいつ、私と違って気がきくし、友達多そうだし」

淡「それに、まだ言ってないこと。私、嘘ついてるんです」

淡「私は、あいつ――京太郎のことを使い捨てのおもちゃみたいに思っていたんです」



#########

私は恵まれた才能を持ち合わせていた。

麻雀では負け知らず、この世の全ては私の掌の中にある、とまではいかないけれど。

私は、誰に対しても生意気で。傲岸不遜を地で行く。

その結果、誰も私に近寄ろうとする人はいなくなった。

テル達は例外っていうか……。うん、私よりも強いかもって感じだったし、レアケースってことで!

それでも、私の根本は変わらない。

弱っちぃ奴等は皆馬鹿にして。徹底的に叩き潰していた。

あいつも、京太郎についても。最初は、おもしろいおもちゃ程度の認識だった。

いつからだろう、その認識が変わっていったのは。

きっかけは、あのナンパ男から助けだしてくれた時かな?

あの時、ちょっとだけ。ちょーーーーーーーーっとだけ!

かっこいいって思っちゃっただけなんだから!

それだけで私を振り向かせるなんて思わないでよね! チョロくないもん、私!

えへへ……でも、あいつと話していると面白いっていうか。

私のこと、普通の女の子って言ってくれたりして!

嬉しいなあ。私のことを普通の女の子って……驚いちゃったよ、もう!

……べ、別に好きじゃないよ、京太郎のことは!

それでも、やっぱ気にはなっちゃうんだよ!

嘘、ついてるけど。

京太郎のこと、おもちゃみたいに扱っていたってこと。

最初はからかって、馬鹿にして飽きたらぽいって捨てようって。

あいつのこと、ちゃんと見ていなかったって。

心の底からくだらないって思ってたって。

こんなこと、知られたらきっと……私は絶交される。

人のこと、おもちゃ扱いなんて、嫌われて当然だ。

だから、言い出せない。京太郎に嫌われたくないから。

…………卑怯だ、私。今まで散々に好き勝手やってきて、自分のことになったらカッコつけている。

いつか、嘘もなく。京太郎と話せたらどんなにいいことか。

京太郎都の出会いだって、偶然。

少しの縁が切れると離れ離れ。

そんなのは、嫌だよ。


#########

京太郎「まさか、和達に回さずに終わるなんてな……」

京太郎(やっぱり、強いな。皆、強い)

京太郎(俺だけが取り残されている)

京太郎(歯がゆいな。場違い感マックスってやつかね)

京太郎(……さて、そろそろかかってくるころかな)

サイダーイキュウノムーナサーワギー

京太郎「…………よう、何日ぶりだ?」

淡「何日ぶりだなんてひどいなぁ、もう! 昨日の夜は激しかったのに……」

京太郎「アホなこと言ってるんなら切るぞ?」

淡「京太郎のバカ、アホー……あ、ごめんごめん切らないで! それよりも。やっほー、元気してるー」

京太郎「生憎と元気じゃないな。誰かさんが毎日電話をかけてくるせいで」

京太郎(ここ数日はずっとこいつと話しているな……淡からすると俺みてーなのが珍しいから

淡「ひどーい。京太郎の携帯履歴に淡ちゃんの名前が並ぶんだよ?」

京太郎「ノーセンキューだ。第一、そこまで女に飢えてねーよ」

淡「嘘だー、男は皆ケダモノだって本に書いてあったよ!」

京太郎「そんなもん、信用するな!!!!」

淡「でも、本当の所は?」

京太郎「本当も何もねーから!!!」

淡「そんなこと裏のまた」

京太郎「裏話でしょ……って何を言わすんだよ!」

淡「ちぇー。京太郎の裏が知れるかもって思ったのにー」

京太郎『……裏なんて、ないさ』

京太郎(また、嘘だ。嘘を塗り固める為に、また嘘をつく)

京太郎(そうだ、こいつと話すのは才能の秘訣を盗み取る為だ。断じて、楽しいからじゃない)

京太郎(…………それ以外に理由なんざ、ない)

淡「それでー、京太郎って今日は暇?」

京太郎「突然どうしたんだよ? 今日はこれから夜までは暇だけど?」

淡「それじゃあ、淡ちゃんとどっかに遊びに行こう!」

京太郎「へ?」

淡「聞こえなかったの? 頭だけじゃなくて耳も悪くなった?」

京太郎「どこも悪いとこなんてねーから!」

淡「なら、大丈夫だよねー、ということだから! 最初に出会った公園で集合ってことで!」

京太郎「ちょ、それってデートじゃ!」

淡「それじゃねー」プツン

京太郎「切れやがった……」

京太郎(ま、いっか。今日は試合が終わった後はフリーだし)

京太郎(楽しみだ……な?)

京太郎(何考えてるんだ……俺は俺の為に、仲良くしてるんだ)

京太郎(アイツの笑顔なんて、どうにも思っていない)

京太郎(だから、今日も俺は――嘘をつく)

京太郎(罪悪感もあるけど、俺は迷わないぞ)

京太郎「あ、部長。お疲れ様です」

久「あら、どうしたの? こんな所で」

京太郎「電話が来てたもんで。ちょっと抜け出してたんです。集中して見ていたアイツらの邪魔をするのは悪いと思って」

久「そっ。それじゃあ一緒に戻りましょうか」

京太郎「ですね。あ、それと今日の午後はフリーでしたよね?」

久「そうね。疲れたわ~、私はホテルで休もうと思うけど」

京太郎「俺、ちょっと外に出てくるんで。晩御飯とかもいらない時はメールします」

久「そう? それじゃあ咲達にもそう伝えとくわね」

京太郎「すいません、アイツらに直接伝えると妨害されそうで」

久「ま、いつも雑用ばっかりさせてるしね。このぐらいは構わないわ」

久「それと、何だか最近はいきいきしているみたいだしねっ」

京太郎「えっ? そんな風に見えますか?」

久「ええ。とっても」

京太郎「……そうっすか」

京太郎(ああーー! さっきも俺は楽しみだって考えるしどうなってるんだよ!)

京太郎(まさか、あいつのことが気になったり……ねーよ。ぜんっぜんありゃしねぇ!)

京太郎(……世界が違いすぎるんだよ、俺と淡では)

京太郎(そんなもんだ。あいつと俺の関係なんて――)



――嘘と偶然で塗り固められてるだけなんだから。



#########

京太郎「よっ。こうやって直接会うのは数日ぶりだな」

淡「まーねー。なに、会えなくて寂しかったりした?」

京太郎「な訳、あるか」

淡「そこは、嘘でもいいから君に会えて嬉しいぐらい、言えないの!」

京太郎「お前にその言葉は勿体無い」ワシャワシャ

淡「ひゃわっ! ちょ、やめてよー! 髪がぐしゃぐしゃになっちゃうじゃないー」

京太郎「おっ、すまん」

淡「……気持ちよかったからいいけどさ」ボソッ

淡(ちょっと可愛いとこ見せたいから頑張ってセットして服も気合入れて)

淡(ぐぬぬ……全く気づいてくれてないよ! 京太郎のバカーーー-!!!!)

京太郎「っと、そういえばさ」

京太郎「いつもと違って、制服じゃね-んだな。似合ってるな、その服」

淡「~~~~~~~~!!!!!」

京太郎「どうしたんだよ! いきなり、顔を真っ赤にして!!!」

淡「自分の胸に聞けばいいじゃん!」

京太郎「いいから、落ち着けって。はいはい、ひっひっふー」

淡「ひっひっふーひっひっふー」

京太郎「ようし、落ち着いたな。それじゃ、行こうぜ。夜までには帰らなくちゃいけないしな」

淡「ちょ、待ってよ-!」ダキッ

京太郎「な、ななな」

淡「こうしないとはぐれちゃうかもでしょ? それだったら手を繋ぐなり腕を組むなりさー」

京太郎「お前なぁ……!」

淡「ん? 何か、変なこと言った?」

京太郎(言ってるよ! すっげー緊張するんだよ、俺が!!)

京太郎(というか、ちょっと小振りのおもちが当たってる! すっげー腕に当たってる!)

淡「ほら、いつまでも立ってないで行くよー。今日はたくさん遊ぶのだ-!」

京太郎「引っ張るなって-! 服が伸びるから、いやマジで!」

#########



京太郎「とりあえず、腹ごしらえってとこだな」

淡「東京通の私におまかせあれ!」

京太郎「そんで、喫茶店に入った訳なんだが」

淡「ん?」

京太郎「なんで、俺達がカップルになってる訳?」

淡「だってここの喫茶店カップル割があるんだもんー、安い方がいいじゃん」

京太郎「まあ、いいけどさ……安く美味しいものが食べれるなら」ングング

淡「……はぁ」

京太郎「どした? 俺のはやらんぞ」

淡「いらない! ほんと、馬鹿だね! 京太郎は!」

京太郎「んなことねーよ! 俺ってば割と頭が」

淡「よくないでしょ」

京太郎「はい……」

ちっちゃいけれど可愛らしいウエイトレス「おまたせしました~、デザートのカップルパフェになります」

京太郎「って、これ……」

淡「あ、そだった……これがあったよ」

京太郎「すんません、スプーンが一つしかないんですけど」

ちっちゃいけど可愛らしいウエイトレス「仕様ですっ!」エッヘン

京太郎「そうですか……もういいっす……」

淡「ね、京太郎」

京太郎「ああ、みなまで言うな! 俺の分も食べていいぞ」

淡「…………」ジトー

京太郎「何だよ、その目は」

淡「京太郎は私に二人前のパフェを一人で食べろって言うの?」

京太郎「ああ、悪い。それじゃあ、俺が全部食うよ。埋め合わせは後でするからさ」

淡「そうじゃなくて! その、一緒に……食べない?」ボソボソッ

京太郎「一緒に? でも、スプーンが」

淡「いいよ! 特別に許してあげる!」

京太郎「お、おう」

淡「うまい! それじゃ、はい! 京太郎!」パクパク

京太郎「……頂きます」パクパク

京太郎(間接キス……いざこうしてやってみると緊張するもんだな)

京太郎(咲とか優希だとどうとも思わないのに……不思議だ)パクパク

淡「ちょっと! 一人で食べないでよ-!」

京太郎「あ、そうだったな。ほい、スプーン」

淡「ありがと」パクパク

京太郎(ふーん、淡は全く意識してなさそうだな……俺のひとりよがりみてーじゃねーか。
    恥ずかしいな……)

淡(京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス
  京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス
  京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス
  京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス京太郎と間接キス)

淡(あわわわわわ! は、初めてだよ! す、すごく緊張するよぉ……何とか顔には出してないけど!)

淡(それなのに、京太郎は平然としているし! 長野はそんなに進んでいるの!?)



#########

京太郎「で、次は何処に行くんだ?」

淡「適当にぶらぶらするだけー」

京太郎「おい」

淡「へー、それじゃあ下着専門店とか入ってみる?」」ニヤリ

京太郎「遠慮します。そういうのは彼氏か女友達と行ってこい」

淡「…………ふん」

京太郎(何かちょっと機嫌が悪くなったような……俺悪いこと言ったかなぁ)

???「おおっと、そこの嬢ちゃん坊ちゃん!」

京太郎「ん?」

露天商の少年「いいとこに通りがかってくれたな。見たところ、学生カップルってやつか?」

京太郎「カップルじゃないです、普通の友達同士です」

京太郎(何だこいつ……胡散臭いな……)

淡「それで、アンタは何か用?」

露天商の少年「いやぁ、仲睦まじしいカップルの背中を押せたらなーって思って声をかけた訳だ。
       怪しいもんじゃねぇぞ? 一応」

京太郎「十分怪しいっての。それで、」

露天商の少年「ああ、後押しってこいつさ」

京太郎「へー、ペンダントか」

露天商の少年「綺麗だろ、そっちの嬢ちゃんに似合うかと思ってね」

京太郎「……つまり、押し売りみてーなもんか」

淡「うん、この人すっごく胡散臭い……」

淡(でも、あのペンダントは良さそうっていうか! うーん、どうしようかな……)

京太郎「…………いくらだ、それ」

淡「ふぇ?」

露天商の少年「へぇ、ご購入かい?」

京太郎「ああ。プレゼントにぴったりかなって」

淡「ちょ、京太郎!」

京太郎「いいよ、このぐらい。お前には世話になってるしな」

露天商の少年「まいどあり! 早速つけてくかい?」

京太郎「ああ、淡。ちょっと後ろ向いてろ」

淡「うん。その、京太郎……ありがと」

京太郎「どういたしまして」

淡「……ゃっ、くすぐったいよ」

京太郎「ちょっとの辛抱だ、我慢しろ」

淡「うー、意地悪」

京太郎「ペンダントつけるのに、意地悪もあるか。ほら、できあがりっと」

淡「それで、似合う? 淡ちゃんの可愛さ何倍増し?」

京太郎「さぁな。ま、似合ってるんじゃね-の」プイッ

淡「素直じゃないんだから、もうー」プニプニ

京太郎「だーーーーっ! ほっぺをつつくなーーーー!」

露天商の少年(うぜぇ……さっさとくっつけよこいつら)


#########



淡「~~~♪」

京太郎「やけに機嫌がいいな」

淡「そう見えるかな? えっへへーん」

京太郎「めっちゃ機嫌がいいじゃねぇか。それで、次は何処に連れてってくれるんだ、お姫様」

淡「どっか!」

京太郎「どっかってすっげぇ適当だな、おい……」

淡「まあ、もう少しの間だけ二人きりってこと? んふふ、ちょっとドキッとした?」

京太郎「してねーーーよ!」

京太郎(だが、これはチャンスだ。麻雀で強くなれる秘訣が聞けるかもしれないぞ)

京太郎「そ、そういえばさ」

淡「ん?」

京太郎「淡って麻雀すっげー強いよな……」

淡「そだよ! 私が負けるなんてありえないしね」

京太郎「それじゃあ、何か強さの秘訣ってあるのか?」

淡「??? どうして、そんなこと聞くの?」

京太郎「ちょっとした好奇心さ。何回かメールでやりとりしてただろ?
    知ってると思うけど、俺は麻雀部員だからさ」

淡「そういえば、そんなことも言ってたねー」

京太郎「それで、本当のとこはどうなんだ?」

京太郎(これで、知ることができたなら――――俺は、俺は)


『見返すことができる、他の奴等を』

(淡と並び立つことができる、こいつのそばにいられるかもしれない)


京太郎(――――――ぁ? おれは、今……)

京太郎(淡のことを麻雀と同じくらいに位置づけなかったか?)

京太郎(別に、どうってことない奴だって思っているんだよな?)

京太郎(なら、俺が今思ったことは何だ? 何が嘘で何が本当なんだ?
    何が正しくて何が正しくないんだ?)

京太郎(怖い、俺が、怖い……! 俺は一体どうなっちまったんだ!?)

京太郎(こいつのことを、好きになったとでも言うのか?)

淡「別に大したことじゃないよー」






淡「“雑魚”はどうあがいても、弱いんだし。強くなれる訳ないじゃん」






プツン、と何かが切れた気がした。


#########



京太郎「…………そうだよな、違うよな。お前と、俺は立っている場所が違う」

淡「京太郎?」

京太郎「悪い、俺、帰るわ」

淡「えっ、ちょっ」

京太郎「じゃな、もう二度と会うこともないだろうけど」

淡「えっ、何、言ってる、の?」

京太郎「言葉通りの意味だ。それ以外に、何の意味もない」

京太郎(これで、いいんだ。すっぱり切れていいじゃないか。これ以上、俺を苦しめるな)

京太郎(強くなることだけを考えればいいんだ。ただ、前に進むことだけを)

京太郎(横に並び立つ必要なんざない。強くなるのに、そんな雑念はいらねぇ)

京太郎(だから――俺は……嘘を……)

京太郎(淡なんかどうとも思っていないって、嘘をつくんだ)

京太郎(俺は――――嘘を――――!)

京太郎「……じゃあな」

京太郎(嘘を、つけない。つくことが、できない)

京太郎(あ、あっ、)

京太郎(あああああぁぁぁああああァァああアアアぁぁああ!!!?)


もう、何も見えない。

俺がついた嘘が、本当に嘘だったのか。

それとも、本当だったのか。

わからないし、見えない。

だけど。だけど。

淡に対しての気持ちだけは、嘘に、できない。

だから、逃げよう。俺を苦しめる、胸の高鳴りから。

ポツポツと降り始めた雨が、俺を冷やしていく。

冷たいけれど、今は身を委ねたい。

俺の本当は――――一体、何処にあったのだろう?

ただ一つ、確かなのは……前みたいな関係には戻れない。それだけだ。



#########

どこで、選択肢を間違えたのか。

いつもなら、間違えもしないのに。

私と京太郎が会ったことが間違いなのかな?

それとも、また会っちゃったことが間違いなのかな?

私が、何かひどいこと言っちゃったのが間違いなのかな?

わからない、わからないよ。

それとも、バチが当たったのかな?

今まで、周りのことをきちんと見ようとしていなかったバチなのかな?

だから、京太郎も私から離れていったの?

全部、私が悪いの?

私が生意気ばかり言ってるからなの?

充足していく絶望感に思わず、足の力がふらりと抜けてしまう。

あ、転ぶ。いったいだろうなーって思うけど、ダメ。もう何もする気がおきない。

でも、実際はそんな痛みもなくて。ふわっとした人肌のぬくもりを感じた。

「……おい、大丈夫か」

亦野先輩。そっか、今の私ってばずぶ濡れでひどい顔してるもんね。そりゃ、心配もするか。

でも、今はダメ。

誰の声も聞きたくない。一人でいたい。

だから、話しかけないで。ほうっておいて。

「傘もささずに一人で……風邪ひくぞ。いいから、来い。今のお前に風邪をひかれたら凄く困るんだからな。
 ほら、行くぞって、ちょ、お、おい! 淡!!!」

もう嫌だ、一人は嫌だ。寂しいのも嫌だ。

テルがいなくなるのも、スミレがいなくなるのも。

たかみー先輩がいなくなるのも、亦野先輩がいなくなるのも。

でも、一番嫌なのは……。

「嫌だよ、京太郎……嫌いにならないでよぉ……一人に、しないでよぉ」

京太郎ともう会えないことが一番嫌だ。

初めてできた、同年代の友達なのに。

初めてできた、好きな人なのに。

嫌だ、失いたくない。ずっと傍にいたい。

彼と一緒に手を繋いで、また笑いあいたい。

諦めたくないよぉ、京太郎。

また、前みたいに笑ってよ。ばっかだなーってからかってよ。

ねぇ、京太郎。離れたくないよ……。



#########

京太郎「…………」

京太郎(俺は……何が、正しかったんだ?)

京太郎(わからねぇよ、ぜんっぜん、わかんねぇよ……!)ドンッ

誠子「おっと、ごめんごめん急いでてね」

京太郎「いえ、こっちも前をしっかり見ていなかったんで」

誠子「なら、お互い様ということ……ん?」

京太郎「?? どうしたんです? そんなに顔をジロジロと見て?」

誠子「うん……もしかして……ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

京太郎「は、はぁ……」

誠子「もしかして、君が大星がよく話していた須賀京太郎かい?」

京太郎「あなたは……」

誠子「あいつの先輩さ。亦野誠子。二年で先輩だけど敬語はいいよ」

京太郎「いえ、そういう訳には……」

誠子「ふーん、聞いていたのよりは真面目だねぇ。ま、いいさ」

誠子「ついでだ、少し話そうか……須賀」

誠子「君も知っての通り、淡のことだ」

京太郎「…………っ」

誠子「その反応から察するに、何かあったんだね。さっき会ったんだけど何かこの世の終わりみたいな表情をしていてね」

京太郎「そうっすか……」

誠子「君なら原因を知っているんじゃないかって思ってさ。こうして、聞いたということさ」

誠子「こういうのは宮永先輩や弘世先輩がやるべきことだと思うけど……どっちも口下手だしね。
   私みたいなので勘弁してくれ」

誠子「さてと、まー出会ったばかりでなんだが、腹を割って話してみないかい?」

京太郎「…………す」

誠子「お?」

京太郎「わかんないんです……俺がアイツのことをどう思っているか」

京太郎「最初は違った。こいつと話していたら、麻雀で何か盗み取れるんじゃないか」

京太郎「強くなりたいから。ただ、それだけで仲良くなったんです」

誠子「……それで?」

京太郎「いつの間にかに、麻雀よりも……あいつの笑顔がちらつくようになったんです」

京太郎「胸が熱くなる、あいつと話していて楽しい」

京太郎「自分がついた嘘が嘘になる感覚が日に日に増していく……!」

京太郎「あいつのことをどうとも思っていない俺が嘘なのか、強くなりたいと願う俺が嘘なのか」

京太郎「……淡のことを好ましく思っている俺が、嘘なのか」

京太郎「わかんないんです、だから……俺は、遠ざけた」

京太郎「これ以上、自分自身がわからなくなるのが怖くて。痛くて」

京太郎「本来の俺は、弱っちい奴なんでこういう様ってことで」

誠子「……ふむ」

誠子「つまりだ、君は大星のことを考えると楽しい、胸が熱くなってしまう、と」

京太郎「はい」

誠子「わかったよ。答えは簡単だ、少年、それは恋だね」

京太郎「故意ですか……わざとらしい」

誠子「お約束、ありがとう。違う違う、恋だよ。ラブアンドピースのラブさ」

京太郎「俺が、淡に対して恋してる?」

京太郎(いや、いやいやいやいやいやいや!!!!! ありえねぇって! 俺があいつに、恋!?)

京太郎「違、う? いや、俺は本当は……あ、ああっ」

誠子「否定、できないだろ? まぁ、見たところ初恋のようなものだし。戸惑うのも当然かな
   いやー、若いっていいね。私もこう見えても……」

京太郎「ちょ、こ、恋だなんて……何言ってるんですか」

誠子「聞いた感じ相思相愛でお幸せにって感じだけどね。
   それに、私は強くなりたいと願う君の気持ちを否定していない。思うさ、私にも淡みたいな才能があれば、ってね」

誠子「その為に、何もかもをかなぐり捨てて。前に進もうと努力する君を否定することはできない……できるはずがないんだ」

京太郎「亦野さん……」

誠子「ははは、私のことは敬愛を持って誠子さんと呼んでいいよ?」

京太郎「何言ってるんですか」

誠子「そんな冷たい目で見ないでくれ。冗談だよ、冗談」

京太郎「ぷっ……」

誠子「やっと、笑ってくれたね。うん、さっきよりはましになったかな」

京太郎「おかげさまで。それよりも、」

誠子「ああ、本題に入ろう。大星のことについてだ」

誠子「今の淡は正真正銘の一人ぼっちだ。生半可の覚悟で臨んでも傷つけるだけだ」

誠子「あえて、問おうか。須賀、君に覚悟はあるかい? あいつの手を掴み取れる自信はあるかい?」

京太郎「いいえ、全く。こんな嘘つきで、自分の気持ちもはっきりさせれない野郎が掴み取れる可能性なんて、ゼロに近いでしょうね」

京太郎「だけど――限りなくゼロに近くても」

京太郎「行動しないと、始まらない。可能性も生まれない」

京太郎「俺は、行きます。あいつを迎えに、行く。それだけは、今の俺がやるべきことだってわかっています。
    それが――俗に言う、王子様ってものでしょう?」

誠子「ははっ…………行ってこいよ、王子様。寂しがりやのお姫様を抱きしめてやってくれ」

京太郎「任されました。正直、柄ではないんですがね」

京太郎「でも、あいつだけの王子様になってみるのも悪くないんじゃないかなって。一瞬でも、強く思ってしまったんで」

京太郎「後悔はここに置いていきますよ、預かってくれません? っていうのは冗談が過ぎますね」

誠子「置いてけ置いてけ。いらんものは全部、私が引き受けとくよ。遠慮せず受け止めてやる」

京太郎「ありがとうございます……それじゃあ、行ってきます」タッタッタッ

誠子(ふっ、いい面構えになったじゃないか。頼むよ、王子様。私としても、生意気なあいつが寂しそうな顔をしてるのは辛いからね)

誠子(さてと、宮永先輩達には上手くいいくるめないとな……大変だけど、これも先輩と後輩を繋ぐ大事な役割の一環だ)

誠子(辛いなあ、こういう役柄は……ま、それで二人が幸せになってくれたらこの程度、苦労の内にも入らないさ)

誠子(頑張れ、少年。君の思いはきっと、届くさ)



#########

京太郎(あの時ついた嘘が何だったか。アイツの笑顔に対して、俺がちゃんと笑えていたか)

京太郎(もう、わかんないし思い出せもしねぇ、都合のいい脳みそだな、おい?)

京太郎(でも、はっきりしたもんもある。すっげー時間もかかった、まだ割り切りもできてるかどうかはわかんねーけど)

京太郎「今度こそ、真っ直ぐに向かい合おう。嘘と、淡と」

京太郎「とはいえ、あいつがいる場所なんて――――」

京太郎「――――わかっちゃうよな。きっと、あそこだよな」

京太郎(ドンピシャリ。やっぱりいやがった。俺達が最初に出会った場所)

京太郎「よう、お姫様。傘もささずに立ってると風邪ひくぜ?」

淡「…………なによ」

京太郎「答えを出しに来た」

淡「…………」

京太郎「はっきりしない気持ちを、お前に会って決めようって思った。俺が何を思って、何が大事で」

京太郎「嘘は、何か。本当なのは、何か」

京太郎「正直な、最初は全然お前のことを考えてなんていなかった」

京太郎「俺自身、どうやったら強くなれるか。淡達が立つ頂きに少しでも近づかないと」

京太郎「それだけだったんだよ。それ以外、何もない。ただ、それだけの話さ」

淡「…………それで?」

京太郎「だけど、だけど! 違うんだよ! お前と話していてすっげー楽しい!」

京太郎「お前の笑顔を見ていると心が暖かくなる! 俺の気分も上がってくるっ!」

京太郎「あああああああああ!!! もう、我慢できねぇ! いいか、俺は――っ!」






京太郎「お前のことが好きなんだ。淡、俺と付き合ってくれ」

京太郎「俺の答えは両方だ。お前も取って、俺は強くなる。
    どっちか一つに無理に決めることなんざねーって気づいたんだよ」

京太郎「欲張りなんだよ、俺……淡のことも麻雀のことも諦めるなんて考えたくもない」

京太郎「今は、俺の方を見ていなくても絶対振り向かせる。強くなって、淡に見合うだけの男になる」

京太郎「ということだからさ、淡……今は戻ろう。亦野さんも心配してるから。
    勿論、俺も心臓が止まるぐらい心配してたんだからな!」

淡「…………ょ」

京太郎「ん?」

淡「…………おそいよ、おそすぎるよぉ!」

淡「どうして、もっと早く言ってくれないの! 遅いんだよ……っ」

淡「何度電話をかけても通じないしっ! メールだって返事くれない!」

淡「それで、もうダメだって吹っ切ったのに……! せめて、せめて! ごめんって言いたかったのに!」

淡「京太郎のことを考えるのもやめる! 京太郎からもらったペンダントも捨てる!
  京太郎のアドレスも消す! 京太郎に電話をかけることも、やめる……って決めたんだから……っ!」

淡「でも、できない、できないよぉ……っ! だって、だって!」

淡「私だって京太郎のこと、好きなんだもん! 好きに決まってるじゃない!」

淡「そもそも、察してよ! 好き好きオーラ出してたじゃない!」

京太郎「面目ない……つーか、謝るのは俺も同じだ。ごめん、淡。俺も無神経だった」

淡「ほんとだよ! バカ、バカ、ばああか! バーーーーカ!!!! 
ばああああああああああああああああああっっかっっっっ!!!」

淡「………………私だって、京太郎に嘘、ついてるよ」

淡「本当は京太郎のことだって最初は適当に遊んで捨てる感じのおもちゃにしか思っていなかった」

淡「振り回して、勝手に連れ出して。飽きたらどうでもいいやって」

淡「でも、ナンパから助けてくれた時、すっごく嬉しかった。何か今までと違う気分だった」

淡「それから。気がついたら、京太郎に電話して、メールして」

淡「…………いつのまにかに、おもちゃじゃない、一人の男の人として。京太郎を見ていた」

淡「ね? 私だって嘘つきだから。京太郎のことを一方的に責めるなんて無理」

京太郎「はっ、お互い嘘つきってことか」

淡「だね、あははっ……」

京太郎「それじゃあ、最後にお互い嘘でもつくか?」

淡「そだね。決別の意味も込めて」

京太郎「どうせだったら、いっせーので言おうぜ」

淡「いいね、それ! おもしろそー!」

京太郎「つく嘘は決めたか? 迷っているなら時間やるけど?」

淡「大丈夫、もう決めてるから」

京太郎「そっか。それじゃあ、いっせーのーで!」

『俺は、大星淡が嫌いだ』









『私は、須賀京太郎が嫌いだ』

京太郎「その嘘を、嘘にしても構わないよな? 淡」

淡「うん、京太郎。オールオッケー!」

京太郎「ははっ、それにしてもさ……お互いずぶ濡れでばっかみてーだな」

淡「全くもって! 傘ぐらいさしなよー」

京太郎「傘持ってないんだからしかたねーだろ」

淡「余裕のない男って嫌われるよ? あーあ、京太郎ってば一生独身だね」

京太郎「うるせー! 俺はお前以外の女に興味なんざねーっての」

淡「……ぅぅ、そういうこと平気で言う?」

京太郎「お前には嘘も隠し事もバレそうだし」

淡「はぁ……しょうがないなぁ」ギュッ

淡「このままだと京太郎も私も一人だし」

淡「わ、私が一緒にいても、いいよ?」

京太郎「なんで疑問形なんだよ?」

淡「だって! いざ言うと恥ずかしくて……んっ……!」

京太郎「…………っ」

淡「……ふぁ、ファーストキスが、い、い、いきなりすぎだよっ!」

京太郎「だって、こういうのって男からするもんだろ?」

淡「それにしても順序ってもの考えてよね!」

京太郎「ごめんごめん、隙だらけだったものでつい魔が差しました。反省してまーす」

淡「ぶーっ、もっとロマンチックにファーストは奪われたかったよぉ……」

京太郎「今更だろ、ったく……それじゃあ、帰ろうぜ。亦野さん達も心配してるだろうし」

淡「……うん。ねぇ、京太郎」

京太郎「どうした? 手をつないだままは嫌か?」

淡「そうじゃなくて! 京太郎さ、本当に私でいいの?」

京太郎「何を今更……それこそ、遅すぎるっての」

淡「私、すっごくわがままだよ? 生意気だし、可愛げもないし……」

京太郎「良くなかったらキスなんざしねーって。なぁ、淡」

淡「何よひゃわっ!」

京太郎「不意打ち成功ってね~。いやー、淡の口は狙いやすいわー」ケラケラ

淡「もーーーーー! 京太郎のバカ!」

淡「でも、大好き。うん、好き! これだけは本当だからね!」

京太郎「俺もだ。大好きだ、淡」

――嘘と偶然で塗り固められた関係でも、この気持ちは変わらないから。



カン!

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最終更新:2013年11月24日 18:33