照明の落ちた部屋で蠢く影と微かな吐息。

部屋の中央に置かれた寝台の上には、いまだ熱の抜ききらぬ身体を寄せ合う男女が一組。

健夜「京太郎君。起きてる?」

京太郎「……起きてますよ」

健夜「あの……」

京太郎「どうかしました?」

戸惑ったように口ごもる健夜。

健夜「今日、さ。私の誕生日なんだ」

京太郎「知ってますよ。だから俺はこうしてここにいるんです」

呆れたように笑う京太郎。情事の後の冷静になった頭が、彼女が一時的な寂しさを感じさせた。

内心でそう結論付けた京太郎は、身体を捻って向き直りシーツに隠れた健夜の裸身を掻き抱く。

京太郎「おめでとう。健夜さん」

健夜「あはは、ありがとう」

素直にお礼返してくる彼女は、なぜそんなにも悲しそうな今にも泣き出しそうな顔をしているのだろう。


健夜「ねぇ、京太郎君。私たち…………別れようか」

鈍器で殴り付けられたような衝撃。

京太郎「なん、で……」

それだけ搾り出すのが精一杯だった。

恋愛における男女の、特に女の心変わりなど珍しくもない。

それでも彼女は、小鍛治健夜はそうそう心の移りをするような人ではない。とすると原因は……。

京太郎「俺、ですか……」

健夜「え?」

京太郎「俺がガキで、健夜さんとぜんぜん釣り合いが取れないから、だからそんなこと」

健夜は静かに首を振る。それは否定の意。

健夜「私ね。あなたとの、将来が想像できないの」

それは静かな悔恨。

健夜「あなたと一緒の時間はとても楽しい。心があたたかくなって幸せでずっとこの時間が続けばいいのにってそう思う」

健夜「けど、それと同時に私があなたを縛ってしまっているんじゃないかって、そう思うの」

京太郎「そんなこと……」

ない、と言い切れない自分が悔しかった。

恋愛と将来の混同しないのは、女性とは極めて正しい思考。

健夜「自分の気持ちを優先して今に溺れるのは子供のすることだよ」

もう、そんな夢を見るような歳でもないのにね? っと自嘲気味に苦笑する。

京太郎「っ……!」

噛み締めた奥歯が軋んだ。

京太郎「やっぱり……そんなの、納得できないですよ!!」

吼えるような叫び。

健夜「!?」

ビクリと、小さな肩が震える。

京太郎「子供のわがままだってわかってます。それでも、俺は健夜さんといたい」

京太郎「いずれは、その……結婚とか」

言葉の最後は小さく切れてしまった。ここで一番で締まらないのが京太郎らしい。

健夜「でも、私とあなたじゃ……」

京太郎「ゴチャゴチャうるせぇ! 俺はあなたを愛してます!」

京太郎「それとも健夜さんは、俺のこともうなんとも思ってないんですか!?」

健夜の表情、その瞳の奥に感情の波紋。それは悲痛の波。

健夜「そんな言い方ズルいよ! 私だって、私だって京太郎君のこと……」

京太郎「じゃあ、待っててください。今すぐってのは確かに無理です。けど!」

京太郎「必ずあなたのこと迎いに行きます。それまで、待っててくれますか?」

健夜「っ……私でいいの、本当に? 京太郎君ならもっと相応しい人が他に……」

いまだ言い訳を続けようとする口を自身の口で強引に塞ぐ。

京太郎「ん……ふっ、ちゅぷ……」

健夜「ちゅ、んふ……ふわぁ……」

京太郎「あなたが良いんです。他の誰でもなく」

健夜「京太郎君……」

京太郎「待っていてくれますね?」

健夜「っ……」

溢れそうになる涙を必死に拭う、赤くなった目もそのままに。

健夜「はい!」

そういって微笑んだ健夜の笑顔を決して曇らせないと、必ず幸せにしてむせると京太郎は深く心に刻んだ。

カン