外では氷雨のように冷たい雨が降っている。

雨に濡れて弱った子猫の声が聞こえる。

ミーミーと、か細く弱い声で鳴いている。

その鳴く子猫を抱いた子供が父親に必死に頼み込んでいる。

厳格な父親に対して泣きそうな顔をしながら頼み込んでいる。


『あ、あのこの子を飼っちゃダメですか……』


『……家は飼えない事をわかっているだろう、元居た場所に返してきなさい……』


『で、でも、この子弱っていて放っておいたら死んじゃうかも……』


『…………元気になるまでの間だけだ、そのあとは飼ってくれる人を探そう。』


『はい! ありがとうございますお父さん!』

懐かしい夢だ、今は離れ離れになってしまったがあの子は元気だろうか。

顔を洗い、着替えて、財布と携帯とイニシャルが入ったハンカチを持って部屋をでる。

ホテルの食堂に着くとみんなが待っていた。


優希「犬ー!おそいじぇ!」プンスコ

京太郎「だー! 抱きつくな! あと犬じゃねぇっての!」アタフタ

和「そうですよゆーき、人を犬扱いしては失礼です。」


みんな各々食べたいものを注文をして持ってくる。

席に着いた面々が手を合わせてから食べていた。

優希「やっぱりタコスは出来たてが美味いじぇ~。」

京太郎「ああもう、口の周りに食べかす付いてんぞ。」

京太郎「待ってろ、今ハンカチで……あれ、どこにしまったかな……」

優希「ハンカチなら犬のポケットから出てあるじょ。」ヒョイ



「触んな!!」



優希「ヒッ!?」ビクッ

京太郎「あ……悪ぃ、それすごい大切な物なんだ。」

優希「まったくびっくりしたじぇ……そんなに大切なものってことは誰かに貰ったものなのか?」

京太郎「……ああ、すごく大切な人から貰ったんだ。」

彼は少し安堵したような顔をした後ハンカチをポケットにしまいました。

それを横目に見ながら食事をしていると私に声が掛けられます。


「和ー!」


京太郎「あ……」

和「あれ、穏乃……どうしたんですか?」

穏乃「和をさっき見掛けたから多分ここにいるだろうと思って。」

和「そうだったんですか。」

京太郎「…………」ジー

穏乃「ん? 君、どこかで会いましたっけ?」

京太郎「いえ……」

穏乃「んー? どっかで会ってる気がするんだけどなー……」

憧「ちょっと! シズ!」

京太郎「!?!?」ガタタン

優希「どうしたんだじょ? まるで突然天敵にあった小動物のような反応だじぇ。」

京太郎「い、いや、なんでもないよ?」

優希「声が上擦ってるじょ……」

京太郎「そうか?」オドオド

憧「えっと、どうかしたの?」

京太郎「ななんでもないです!」ジリジリ

憧「なんでもないって感じじゃないわよ……しかもあんたさっきから少しずつあたしから距離取ろうとしてるわよね?」

穏乃「……私の友達がなんかしたの?」

京太郎「アコは関係ないよ!?」

憧「あれ、あたし名乗ったっけ?」

京太郎「え、えっとインターハイの出場選手だから知っててもおかしくないでしょう?」

和「まぁ、確かにそうですが……それにしてもさっきから挙動がおかしいです。」

京太郎「そ、そうかな?」オドオド

和「……今の須賀君、初めて優希と会った時みたいな態度ですよ?」

優希「ああ、そういえばそうだじぇ。」

優希「犬と初めて会った時、鳩が豆鉄砲食らったような顔したあとやたらキョドってたじょ。」

京太郎「あ、いやだって、それは……」

憧「……ま、いいや。」

京太郎「あぶねぇ……」

それからしばらく穏乃や憧と食事をしながら会話をしていました。

須賀君がやたら憧にビクビクしていたように思います。


憧「そろそろあたしたちは行くわね。」

穏乃「じゃあね、和。」

和「ではまた。」

優希「あれ? 咲ちゃんがいないじょ……」

和「確か先ほどお手洗いに立って……」

京太郎「……まさか。」

優希「多分そのまさかだと思うじぇ……」

京太郎「……探しに行って来ます。」

和「私も行きます……」


溜め息混じりに席を立った須賀君に続き、私も咲さん捜索の為に付いていく。

お手洗いに続く道を歩く途中なにやら須賀君が行動を起こしていました。

須賀君は少ししゃがんで頻りに辺りを見回しています。

和「何をしているんですか?」

京太郎「ん? ちょっと咲の痕跡を探しているんだ。」

和「痕跡? そんなものがどこにあるんですか……」

和「それにしても咲さんは一体どこへ……」

京太郎「……こっちだ。」

和「わかるんですか?」

京太郎「ああ、咲はこっちを歩いていった。」

和「一体どうやって……」

京太郎「付き合い長いからな。」


須賀君が辺り見回しながら咲さん歩いた道を辿るように右へ、左へとうねうね曲がりながら進んでいく。

一体こんな事で咲さんが見つかるのでしょうか。

暫く歩くと見覚えのあるシルエットが見えました。

それはこちらに気付くと今にも泣きそうだった顔を明るくさせてこちらに駆け寄ってきました。

咲「京ちゃん! 和ちゃん!」

京太郎「また迷いやがって……世話掛けさせんなよ……」

咲「ごめんね……」


咲さんに悪態を吐きながら頭をぽんぽんと触る須賀君。

そんな素振り見せないですが、心配していたのを隠すようでした。

傍から見れば結構過保護な気がします。

そんな事に気付いたら不思議と口角があがっていました。


和「うふふ、でも見つかってよかったですね。」

咲「うんうん、ちょっと迷った程度で大騒ぎしすぎなんだよ京ちゃんは。」

京太郎「おう、言うねーさっきまで泣きそうな顔をしてたやつが。」

咲「さ、戻ろうか。」

京太郎「迷った奴が仕切るな。」ポンッ

咲「あいた。」

戻る途中、近道に公園を通ると先ほどまで一緒に居た憧が木の前で右往左往していました。

一体憧は何を……


和「あれは……」

京太郎「げっ!?アコ!……」

憧「ん? 和たちか……『げっ』て、なによ失礼ね……」

咲「どうかしたんですか?」

憧「うん、ちょっと木の上に猫ちゃんがね……」


見上げると確かに木の上に子猫が居ました。

どうやら登ったいいけど降りられなくなったようです。


京太郎「……ん、ちょっと待ってろ。」

京太郎「よっと。」

彼はそういうと木の下に行き、屈んだと思ったら身体を伸ばし、ピョンと跳ねました。

跳躍したと思ったら彼は木に掴まりスイスイと登っていく。

子猫が居る枝まであっさり辿り着き、そして手を差し伸べ子猫に声を掛ける。


京太郎「おいで、怖くないよ。」

子猫「ニャン。」ピョン

憧「猫が素直ね……」

咲「京ちゃんは動物の気持ちがわかるんですよ、カピバラとかも飼ってるからかな?」

憧「へぇ~人は見かけによらないもんね。」

京太郎「よし、降りるぞ。」


枝に手を掛け、そこから着地して子猫を放してあげる。

彼の身軽さを見た憧が感心するように言葉を漏らしていました。

憧「あんたまるで忍者みたいね、木登りも上手いし。」

京太郎「山生まれの山育ちだからな。」

咲「お猿さんみたいだよね。」

京太郎「咲はいつも一言余計だ。」

子猫「にゃん♪」スリスリ

憧「あんたに感謝してるみたいね。」

咲「京ちゃん猫には好かれるよね、猫には。」

京太郎「『には』は余計だ。」

憧「いいな~あたしも動物に好かれたいわよ……」

京太郎「無理に近づかなきゃいいんじゃないですかね。」

憧「……あんた適当に言ってるでしょ?」

京太郎「いーえ、別に。」

憧「まぁいいわ、猫に好かれる秘訣は今度聞くもの。」

憧「それじゃあね、和。」

和「それでは。」

憧と別れたあと、咲さんを無事送り届けました。

そのあと須賀君に今までの不可解な行動について聞こうとしました、買出しがあると言われて上手く逃げられてしまいましたが。

私は子猫で思い出し、エトペンの身体の脇を見る、そこには動物の爪痕を縫ったあとがありました。

外に出て歩く少し気分を変えたくて。

エトペンを抱えたまま昔の事を思い出す。

奈良に居た時の事。

別れ際にとあるものを渡した事。

そんな事を考えていたら人とぶつかってしまいました。


ドンッ

「きゃ!? すみません……」


人とぶつかりふらついてしまう。

その際大事なエトペンを落としてしまった。

「あ、エトペンが……」


転がっていくエトペンを追いかけて拾いに行く。

転がるエトペンを漸く拾えました。

ですがそこは車道、ここで私は周りに碌な注意を払わず飛び出していたことに気付く。

車道に飛び出した私に向かってくる車。

注意を払わなかった代償は身を危険にすることで払ってしまうことになる。

『注意一秒、怪我一生』とはよく言ったものです。

徐々に迫る車に意識を向けた私の視点が傾く。

そしてその少し前には声と衝撃が……


「のどか! 危ない!」


聞き覚えのある男の人の声が聞こえた瞬間、私の身体は突き飛ばされる。

振り返った時に見たその金色の頭髪が、私が先ほどまで居たところに立っていました。

勿論、その位置に向かって来る車も彼を狙うかのように……

彼は車に視線を向けた瞬間硬直して動けていなかった。

車は無慈悲にも彼に食らい着こうとしている。

私はその刹那、恐怖で目を瞑ってしまった。

甲高いブレーキの音。

人のざわめき。

車のドアが開く音。

運転手のうろたえる声。

が、いつまで待っても、どこにも人を撥ねた音はしなかった。


「さっき男の子轢いてしまったと思ったのに……!」

「いないんだ、居ないんだよ! さっきの男の子が!」


私は恐る恐る目を開き確かめてみる。

確かに彼は居ませんでした。

ただ、およそ彼がそこに居たであろう場所には制服が落ちていました。

私は、その制服を手に取り、周りを探しました。

明らかに異様な状況にも関わらず、辺りに彼が居るのではないかと思って……

ですが、結論から言うと見つかりませんでした。

私は手に持った制服を見ながら考える。

ポケットには携帯と、財布と、彼の宝物のハンカチが入っていました。

彼の宝物という事が気になってハンカチを調べてみる。

そしてとあることに気付く。


和「これ、は……」


ハンカチにはN.Hと刺繍が入っていました。

これは昔、私があの子に渡したもの……

あの子とはもう数年会っていない。

彼はあの子となにか関わりがあったのでしょうか……

それに関して知っていそうな友人に聞いてみることにしてみました。

それは前に預かっていてくれた友人。


憧「あれ? 和、どうしたの?」

和「すいません、穏乃にどうしても聞きたいことが。」

穏乃「何でも聞いていいよ。」

和「……あの子……穏乃に預かってもらったひょうちゃんに関してです。」

憧「ひょうちゃん? 確か穏乃が預かっていたあのこだよね?」

憧「しかも穏乃が名付け親だったから結構懐いてた。」

和「そうです、そのひょうちゃんです。」

穏乃「……うん、わかった。」

穏乃「あの子を和から預かった日からひょうちゃんはずっと大人しかったんだ。」

穏乃「まさに借りてきた猫状態だったよ……」

穏乃「家のお店においても大人しいし、みんなから愛されてたんだ、みんなに撫でられて、お店の看板招き猫だって。」

穏乃「和から貰ったハンカチ、首に着けて凄く大事そうにしてた。」

穏乃「ひょうちゃんはよく店の窓から外を見てたよ、誰かが道を通るたびに視線をずらしてた。」

穏乃「今思えば和が来るのをずっと待ってたんだね……」

穏乃「気分転換に散歩とか連れて行ったけどよく辺りを気にしていた、というより匂いを嗅いでいたんだ。」

穏乃「それからひょうちゃんはさ、和が引っ越したあともちょくちょく和が居た家に行ってた。」

穏乃「なんどもなんども行くから、その度にかわいそう思えてさ……私、思わず言っちゃったんだ……」

穏乃「『そこにはもう、和はいないんだよ。』って……」

穏乃「それから少ししてひょうちゃんはいなくなった……」

穏乃「最初は散歩にでも行ったのかなって……お腹空いたら戻ってくるかなって……」

穏乃「でも……ひょうちゃんは帰ってこなかった……」

穏乃「私が……和はもういないって言ったから……探しに行っちゃったんだって思って。」

穏乃「きっと、私のせいだって……」

穏乃の声が震えていた、目尻には薄っすらと涙も……

穏乃はあの子がいなくなったことが気懸かりだったんですね……

穏乃「もしかしたら無事、和のところに行ったのかもって思ったけど……和の連絡先も知らなかったし……」

和「穏乃、ありがとう、話してくれて……」

穏乃「うん、今までちょっと言いづらくてさ……」

和「そう、ですか。」

穏乃「何でまた今になって?」

和「もしかしたらですが、ひょうちゃんと会えるかもしれないんです。」

憧「嘘!?」
穏乃「ホント!?」

和「もしかしたらですが……」

憧「あ~! あの子もっかいモフモフしたい~!」ワキワキ

穏乃「憧は動物好きだもんね。」

憧「部屋にはぬいぐるみや飼育本があるくらい好きよ。」

和「もし会えたなら憧も触れるかも知れませんね。」

憧「そのときはよろしくね。」

穏乃達と別れてホテルに戻りました。

そして、彼の部屋へと向かい、ドアをノックします。

中から返事を待つとドアが開きました。

彼は私を見ると少しほっとしたような顔をしていました。


京太郎「和……」

和「先ほどは助けていただいてありがとうございました。」

京太郎「いや……それは……」

和「聞きたい事があるので、中に入ってもいいですか?」

京太郎「……ああ。」


中に入ると荷物を整理している様子でした。

多分、服を漁っていたのでしょう。

彼は着ていた物を置いて事故現場から消えたのですから。

和「これをお返しします。」

京太郎「……こりゃ、どうも。」

和「ところでこのハンカチについてお聞きしたいのですが……」

京太郎「ああ、それがどうしたんだ?」

和「優希がこれに触った時、須賀君は大事な宝物だと言いましたよね?」

京太郎「ああ、そうだよ。」

和「実はこれ、私が奈良から引越しする際にある子に渡したものなんです。」

和「貴方が持っていたということは、貴方はひょうちゃんについて知ってますよね?」

京太郎「……もっと直接言ったらどうだ?」

和「……では単刀直入に言います。」

和「須賀君は、ひょうちゃんなんですよね?」

京太郎「……なんでそう思うんだ?」

京太郎「いつもの和なら『そんなオカルトありえません』って否定するだろ?」

和「……そうですね、でも貴方は嘘は吐かないと思います。」

京太郎「人は猫には化けないだろ。」

和「語るに落ちていますよ、『ひょうちゃんが猫』だなんて私は一言も言っていません。」

京太郎「……はぁ。」

京太郎「俺はもう和が知ってる『ひょうちゃん』じゃないぜ?」

京太郎「元の姿が可愛くなくても文句言うなよ。」

和「構いませんよ。」


私がそう言うと須賀君……いえ、"ひょうちゃん"はみるみるサイズを変えて猫に変わっていきました。

体長約90センチの身体に40~50センチはある長い尻尾。

まるでジャガーや豹のような短い毛の文様。

小さい頃の記憶とは違いますが間違いなく"ひょうちゃん"でした。

「びっくりした?」

和「驚いてはいますがそれよりも嬉しいです。」

和「昔はあれだけ小さくて弱々しかったのに……」

「そうか、やっぱり昔からのどかなんだな。」

和「? どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ、昔からその優しさは変わっていない。」

「昔から人間っていうのは匂いが変わらないな。」

和「もしかして憧のことですか?」

「ああ……うん、あいつは無茶苦茶にしてくるから苦手だ。」

和「うふふ、憧は動物が好きですからね。」

「それはわかってはいるんだけどな。」

「一体幾つの仲間が魔王アコの犠牲になったのやら……」

「まぁアコも成長して少しは大人しくなったのかな?」

和「……聞いても良いですか?」

「なんだ?」

和「その……ひょうちゃんが須賀君になった理由とか。」

「……俺さ、のどかが居なくなった日から探していたんだ。」

「家まで匂いを辿って。」

「その時はシズノも一緒にいたけどさ。」

「何度も行くとシズノが寂しそうに教えてくれたよ。」

「『のどかはもういない』って。」

和「ええ、知っています、聞きましたから。」

「でさ、俺さ、思っちまったんだ。」

「捨てられたんじゃないかって。」

和「!……」

「もしかしたら何かの間違いじゃないかとも思ったけど、仲間の猫も捨てられた奴がいたんだ。」

「家猫だったけど、もう飼えなくなったから捨てられたんだって……そいつは言ってた。」

「でも、俺は諦め切れなかった、認めたくなかった。」

「のどかに捨てられた事に、どうしても思い出を忘れられなかった。」

「のどかの匂いも、初めて抱いてもらった時の温かさも、忘れられなかった……」

「だから俺はのどかを追いかけたんだ、シズノや可愛がってもらった周りには申し訳なかったけど。」

「長かったよ、のどかを捜す旅路は……」

「烏や野生動物に襲われたりもした。」

「悪ガキにも追いかけられたこともあった。」

「宛てがわからない旅に疲れて、疲れきって、倒れて、
もう死ぬんだろうなって思ったときさ……俺を助けてくれた老夫婦がいたんだ。」

「倒れてから何時の間にか俺は人っぽいの身体になっていた、
そんな事どうでもよかったけど……須賀さん……俺を拾ってくれた人だが。」

「爺ちゃん婆ちゃんは必死に介抱してくれたんだ、どこの生き物かわからないような俺を。」

「優しい人たちで今でも感謝してるんだ。」

「介抱してもらったときに名乗ったんだけどさ、俺餓死寸前だったし、
なにより人の言葉を喋ったの初めてだったから上手く言えなかったんだ。」

「ちゃんとシズノが付けてくれた『豹太郎』って言う強そうな名前を貰ったのにな……」

「それから京太郎って名前になっちまったよ。」

「そのあと学校にも通わせてもらってさ。」

「咲にあったのもそこらからかな。」

「これが俺が人間っぽくなるまでのそして須賀を名乗る話だ。」

和「そうだったんですか……」

「助けてもらった爺ちゃんや婆ちゃんに恩返ししたかったから、のどかを捜すのを辞めて一緒に住んでたんだ。」

「でも、高校に入ってから懐かしい匂いがしてその匂いを辿っていくと麻雀部に行き着いたんだ。」

「ドアを開けると……のどかがいた。」

「嬉しかったよ、でも俺は名乗れなかった、昔とは違う姿だったから。」

「ついでに小さい頃のアコに似た女が居てびびったぜ?」

和「優希は確かに小さい頃の憧に似ていますからね。」

「まぁ匂いで違う人間だってわかったけど中々なぁ……」

和「そんなに憧が苦手だったんですか?」

「俺を捕まえて無茶苦茶撫でてくるじゃん……」

「禿げるかと思ったよ。」

「あいつは動物好きにも程があるよ。」

和「うふふ、そうですか、憧の猫可愛がり困ったものですね、憧にはちゃんと言っておきますよ。」

「なぁ、のどか。」

和「はい?」

「ちょっとだけ甘えて良いか?」

和「ええ。」


私はベッドに腰掛、ひょうちゃんは私の膝の上に乗ってくる。

撫でて上げるとゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしています。

スリスリと頭を擦り付ける動作。

まるで昔に戻ったようでした。

「ありがとう、元気が出たよ。」

和「いえお安い御用ですよ。」

「あとさ……のどか、一応言っておきたかったんだけど……」

和「はい?」

「実はさ、前々からこの姿を見せたら俺、姿を消そうと思っていたんだ。」

和「そんな……」

「わかるだろ……俺はのどか達とは違う、人じゃない……かといってただの猫でもないんだ。」

「文字通り住む世界が違う。」

「……それじゃあな。」

和「ひょうちゃん!」

追えば彼は逃げるでしょう。

本気で逃げたら人の足では追いつけない。

それほどに私たちには隔たりがあり、埋められない溝がある。

それでも私は……

追わなくては……今追わないと一生後悔すると思い、私は部屋を飛び出していた。




公園近くを猫が一匹、色々と思い悩みながらトボトボと歩いている。


(どうすっかな……爺ちゃん婆ちゃんにも会わないといけないし……)

「あ、猫ちゃん!」

(あ!? この声にこの匂いは!?)

憧「あんたあの子に似て可愛いわね~」ワキワキ

憧「ほれほれおいで~」

(猫じゃらしだと? へ、甘く見られたもんだぜ。)

憧「ほらほら~」

(散っていった多くの仲間の為にもこんな奴に屈してたまるか!)

(絶対猫じゃらしなんかに負けたりしない!!)キッ


「にゃ~ん♪」

憧「やっぱりこれを使うとイチコロね~。」

(本能には勝てなかったよ……)

(てかマタタビは反則だろ!)

憧「もしかして和が言ってたアレってこの子のことかしら?」

(!? まずい!)

憧「ちょっと和に連絡取るから大人しくしててね、猫ちゃん。」

(和に居場所バレるのはまずいって!)

(何とか逃げないと……)

憧「うりうり~猫ちゃんは大人しくマタタビを嗅いでなさ~い。」

(くやしい…!でも…嗅いじゃう!)ビクンビクン

和「ありがとうございます。」

憧「いいのいいの、すっかりこっちも楽しませてもらっちゃったし。」ツヤツヤ

(お婿にいけない身体にされてしまった……)シクシク

憧「で、やっぱりこの子ってひょうちゃんなの?」

和「ええ、ですから再び会えたのが嬉しいんです。」

和「それなのに逃げ出してしまって……」

和「でも、もう逃がしません。」

和「首に縄を付けてでも一緒に帰ります。」

憧「そう、ならまたあたしにも触らしてよね。」

和「うふふ、ええ構いません、ひょうちゃんが嫌がらない程度でしたら。」

憧「うん、和なら言ってくれると思った……あ、シズにも伝えなきゃ。」

和「きっと喜びます、穏乃もこの子も。」

憧「じゃあ、あたしシズに伝えてくるわね~。」タタタタッ

和「……もう、逃げないでくださいね?」

「でもさ、俺は人間でも猫でもないんだぜ?」

和「そんなのどうでもいいです。」

「……俺の意思は?」

和「そんなの知りません。」

「結構、のどかって頑固だよな……」

和「頑固で結構です。」

「ま、そのおかげで俺は生きてるんだけどさ……」

和「さぁ、帰りましょう、みんなが待ってます。」

和「あと人の姿格好で匂いを嗅がないでくださいよ? 怪しまれますから。」

「え、バレてた? さりげなくやってたつもりなんだけどな……」

和「気付く人は気付きますよ、猫だってバレないのが不思議です。」

「いやいや、目の前で変わらないかぎり大丈夫だろ。」

和「色々猫とバレ無いように特訓しないとですね。」

「麻雀の特訓の方が有意義だと思うんだけどなー……」

和「ほらほら~」

京太郎「…………」

優希「咲ちゃん、犬の奴、のどちゃんと何してるんだじぇ?」

咲「さぁ……猫じゃらしを目の前で揺らして何やってるんだろうね……」

京太郎「……んにゃー。」

優希・咲「え?」

和「ちょっ!?」

京太郎「す、すまん……何とか誤魔化してくれ……」ボソボソ

和「お、お前ネコかよー!?」

京太郎「ん、ンアーッ!」

和「無理矢理すぎませんか……」

京太郎「大丈夫、あの二人ならこれで誤魔化せると思う……そんな気がする……」

咲「京ちゃんがおかしい……」

優希「のどちゃんもおかしいじぇ……」

和「…………」

京太郎「……すまん。」

和「これからも頑張りましょう……」

京太郎「ああ、そうする……」


カンッ!