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部室のドアを開けようとしたその瞬間、ドアの向こうから咲さんの声が聞こえてきました。
他にも誰か居るのでしょうか。特に遅れたはずではないですが、
私が遅かったせいで練習が始められなかったのなら申し訳ありません。
たしか優希はタコスを買ってから来る、と言っていたはずですので部長達が既に居るのでしょう。
そんな事を考えドアノブに手をかけた瞬間でした。

「京ちゃんなら……いいよ」

「!?」

耳を疑いました。
……あの、咲さんが。須加君に対してそんな事を言うだなんて。

突然の事に驚きを隠せずにいると、後ろからかたりと音がしました。
振り向くとそこには両手にタコスをもった優希が。下を向いて表情はわかりませんが、肩を微妙に震わせています。

「あ……」

「の、どちゃん。私、今日ちょっと具合悪いから……」

そう言うと優希は階段を降りて行ってしまいました。
……友人としては追いかけた方が良かったのでしょう。
ですが、私はドアの向こうで行われているであろう、咲さんの告白が気になってしまい、足を動かす事が出来ませんでした。

優希の事は心配ですが、今の私にはどうしてもこのドアの向こうが気になります。
………………今の私を誰かに見られたらどう思われるのでしょうか。
まるでデバガメのような事を私がするだなんて。

「ねえ、京ちゃん……?」

ドアの向こうから咲さんの声が聞こえてきます。心なしか震えているように思えます。
それはそうでしょう。女の子にとっての一大イベントである告白を、それを女子である自分からしているのですから。
あのいかにも文学少女然とした、私から見てもおとなしい部類である咲さん。
彼女が自分から告白するだなんて、一体どれだけの勇気を絞り出したことでしょう。
その咲さんからの告白を受けて、先程から一言も発していない須賀君は……。
確かに今まで友人と思っていた相手から告白されたりしたら戸惑いはするでしょう。
ですが、せめて何かしら一言かけてあげてもいいのではないでしょうか。

ドアの向こうではいまだ沈黙が続いています。
咲さんも、須賀君も、二人とも黙ったままです。一体、部室のなかはどうなっているのでしょう。
気になりますが、さすがにこの状態でこのドアをあける程空気が読めないわけではありません。
せめて須賀君が何かしら咲さんへの返事をしてくれたら……。

「あ…………んっ」

咲さんの声が聞こえたかと思えば、何かぴちゃぴちゃと水音のようなものが聞こえました。これはまさか……。

「京、ちゃん……」

須賀君の声は全く聞こえてきません。
ですが、聞こえてくる咲さんの声、そしてこの音……。

「うれしい……」

……………………………………………………………………。
…………そういう、事、なのでしょう。
これで咲さんと須賀君は……。
友人の思いが受け入れられた。それは喜ばしいことなのでしょう。
ですが……。
この、胸が締め付けられるような思いはなんなのでしょうか。
まるで胸に穴が空いているかのような。

さすがに今の部室にそのまま入るわけにもいきません。何処かで時間を潰しましょう。
そう言えば、優希の事が心配ですね。
あの子、私から見てもはっきりわかるほど須賀君になついていたようですから。






学舎から旧校舎へ続く道に沿うように流れる小川、その橋のたもとに優希は座っていました。
その手には先程とかわらずタコスが握られています。
さっき別れた時とかわらず顔は伏せられ表情はわかりません。

「探しましたよ、優希」

「のどちゃん……?」

顔を上げた優希の目は真っ赤になっていました。
頬には涙の跡が……。
……なんと声をかければいいのかわからず、私はただ優希の隣に座りました。

「のどちゃん……泣いてたのか?」

「え……?」

優希にそう言われ、その時初めて私の頬が濡れていることに気付きました。
一体何故。優希とは違い、私は須賀君の事はただの友人としか思っていないはずです。
だというのにどうして。先程の場面で私が泣く理由なんて……。

「のどちゃん咲ちゃんと仲がいいもんな……犬に取られて悔しいんだろ!」

涙をこらえ、今にも泣き出しそうな笑顔で優希は言います。
咲さんを須賀君に取られて……?

友人に恋人が出来たからといって、別にそれが……そう考えたところで、先程部室の前で感じた苦しさがまた襲ってきました。

――ああ、そうか。

私は、須賀君の事は本当に友人だと思っています。
ですが、咲さんは……。
咲さんをただの友人だと思おうとすればするほど、胸の苦しさはひどくなっていきます。

私は……。

私は、咲さんの事が……。

「どうかしたのか……?」

優希が心配そうな顔でのぞきこんできます。
優希を心配して来た私が、逆に心配されるだなんて。

「いえ、ちょっと考え事を。それより」

「ん?」

「今日くらいは胸を貸しますから。好きにしてもいいですよ?」

冗談めかしてそう言います。
優希もそれならば、と私の胸に手を添えますが、そのまま顔を埋めました。

「のどちゃ……私……」

優希の背中を撫でながら、私は自分の考えをまとめます。
須賀君に告白した咲さん。その現場から動けなかった私。
優希の事が心配なら、そのまま追いかければ良かったのに。
須賀君が返事するまであそこにいたのは、友人である咲さんが心配だったから。

――そうでは、ありません。
あの時は自覚していませんでしたが、須賀君が咲さんを受け入れなかったら。
それなら、私にも……。そう、心の何処かで思っていたのかもしれません。

私の思いはこのまま胸の内に秘めておきます。
今は、このまま。ただ優希と一緒に泣くとしましょう。

おわり