誰もいない部室で互いの肉がぶつかる音が響く。

「や…んっ、んあっ、しゅ、しゅがくっ…あおぉっ」
「和っ、和っ…のどかぁっ」

後ろから和を組み敷いた京太郎が必死に腰を打ち付け果てた。

「…はぁっ…はぁっ…はっ…ま、またやっちまった…」

部屋のベッドで一人処理をする京太郎。
夕方、二度と和には触らないと誓ったばかりなのに、和の感触が蘇り立て続けに三回も和で自慰をしていた。


「ケダモノか…俺は」

ティッシュをゴミ箱に捨てながら京太郎は自分で自分が情けなくなる。

「俺が好きなのは和の身体だけじゃねーぞ」

賢者タイムになると、頭に浮かぶ和はいつも寂しそうに目を逸らしていた。

「絶対に触らねーからな!」

五度目の自慰を終え、京太郎はベッドに横たわりきつく目を閉じた。


「あ…」
「よ、よぉ」

登下校で部員同士が顔を合わせるのは珍しい。
どことなくぎこちないまま京太郎と和は並んで歩く。
嫌でも昨日の醜態が蘇り、和は嫌悪感と恍惚が同居した複雑な心地で目を逸らした。足元が揺れて、身体が震える。
ダメだ。もうこれ以上一緒に歩けない。

「す、す…須賀くん」
「そんなに緊張しなくていいって」
「…え?」
「俺、もう和に触らねーからさ」
「え…?えっ?」
「そ、そうだ、和。放課後お茶に行かないか?すげぇ美味いスイーツの店があるんだって」
「え…あ、あの須賀くん?」

この人はいきなり何を言い出すのだろう。
京太郎の真意が掴めず和は彼を見つめた。

「や…なんつーか、せっかく付き合い始めたのに、俺アホみたいに発情してただろ?」
「…」
「だからさ…ええと…こ、これからは健全に普通のカップルらしい事を頑張るから…まだ好きでいて…い、いいか?」
「なっ…へ、へっ、変な事を言わないで下さいっ。い、今さらそんな事っ」
「わ、悪かった…」
「……か」
「へ?」
「す、須賀くんは…卑怯です!勝手ですっ」
「の、和?」

『あなたがもっと嫌な男の子なら―もっと簡単に嫌いになれたのに』

和は京太郎を置き去りに走って逃げた。

「や、やべぇ…和、スゲー可愛い…って落ち着け、この馬鹿っ」

一人取り残された京太郎は膨張したジョニーを必死に抑えつけた。


「何してんの?京ちゃん?」
「おわぁぁっ!?な、なな何でもないですよ!」
「ふーん?…あ、そうだ、京ちゃん、放課後ひま?」
「え?なんで?」
「あのね、すっごい美味しいスイーツのお店があるんだって」
「へ、へぇ…」
「それで良かったら一緒に…」
「あー、悪い!咲。俺、今日ちょっとヤボ用でさ。ヨメダナの奴と出かけるんだ」
「…そうなんだ」
「つ、次は空けとくからさ」
「あ、気にしなくていいよ。原村さんと優希ちゃんを誘って行くから」
「へ?」
「あ、私日直だから先に行くね」

タッタッタ…

「ど…どうしよう?」

京太郎は途方にくれてその場に立ち尽くした。



『ど、どうしよう…』

昼休み、咲から放課後のお茶を誘われたのは、朝、京太郎に誘われた場所と同じだった。
いつもなら二つ返事でOKするはずなのに…和は未だに答えられずにいた。

「のどちゃん?何か用事でもあるのか?」
「原村さん?」
「え、ええ。実は父から頼まれ事がありまして…」

私は何を言っているの?
和は自分がわからなくなる。

「そうなんだ…じゃあ優希ちゃん、どうしようか?」
「ん。じゃあ今日はタコスでも食べにいこーじぇ」
「またぁ?」

目の前で笑いあう二人をよそに、和の頭の中には何故か朝の京太郎が繰り返されていた。

『な、何を考えてるんですか!?私は!…たっただ須賀くんが宮永さんに
手を出して欲しくないだけです。それ以上の何でもありませんっ』

和は必死に自分に言い聞かせた。



放課後。


「あ…」
「よ、よぉ」

朝と同じように鉢合わせになる和と京太郎。

「い、いきましょう」
「へ?い、いいのか?だって咲にも誘われてんだろ?」
「さ、先に誘ったのは京太郎くんの方だからいいんです。それだけで深い意味は…ど、どうしたんですか?」
「な、なななんでもないですっ!はいっ。いきましょう!」

赤面し歩き出す京太郎の後ろを、和は首を傾げて後に続いた。

『や、やべぇ。和に名前呼ばれると…何かやべぇ』

昂るジョニーを抑えようと京太郎は早足になっていく。

「き、京太郎くんっ」
「あ、わ、悪い」

距離を離された和が小走りで近寄り京太郎の裾を掴んだ。

「あ、あのさ…手…つないでもいいか?」
「えっ…」
「あ、や、ごめん。何を言ってんだ、俺…」
「いいですよ」
「へ?」

きゅっ…
控えめに摘まむように和が京太郎の手を握った。

「い、行こうぜ」
「そ、そうですね」

『こ、こんなに小さくて柔らけーんだな』
『こ、こんなに大きくて温かいんですね』

二人は赤面したまま手を繋いで歩き出した。

………



店内は女子高生やカップルで賑わっていた。
向かい合う和と京太郎のテーブルには小綺麗なケーキが並んでいる。

「わぁ…凄く美味しそうですね」
「…」
「京太郎くん?」
「あ、ああ」
「何を見て…あっ」

和が京太郎の視線を追うと同時に、学生のカップルが「あ~ん」をした。

「あ、あの…」
「は、はは…お、俺たちもやってみる?」
「えっ」
「な………なんつって」
「い、いいですよ」
「えっ?」

『ど、どうしたんだ?今日の和…やけにノリが良いな』
『これは京太郎くんが宮永さんに手を出さないために必要なんです。それ以上の意味なんて…ない』

沈黙し俯く二人が同時にスプーンに手を伸ばした。

「の…和…い、いくぞ」
「は…はぃ……はむっ…はむ…」
「う、美味いか?」『や、やべぇ…な、何か…やべぇ』
「は、はぃ。じ、じゃあ今度は私からいきますね?」『や、やだ…な、何だか…変な感じ』
「お、おぅ…はむっ…はむ…」
「お、美味しい…ですか?」
「~~~~~っ」

目の前で可愛い和が上目遣いで聞いてくる状況に京太郎は身悶えして顔を伏せた。

「き、京太郎くん?」
「ち、ちょっと待った。今顔がスゲーふにゃふにゃしてヤバいから…頼む、待っ」
「…本当ですね」
「う、うわ、ちょ…み、見んな。やばいから。の、和さん?」
「どうしてですか?もっと見せて下さい」
「ちょ…本当に恥ずかし…」
「京太郎くん、可愛いです」
「う、うわ、やめろ。和、お前わざと言ってるだろ?」
「うふふ」

結局。
店が閉まるまで京太郎は和から目を逸らして困惑し、和は京太郎をひたすら見つめ笑い続けた。

「ずいぶん…遅くなっちゃったな」
「そうですね…」

帰り道、二人は自然に指先を絡めて手を繋いで歩いた。会話らしい会話もないまま心地良い沈黙が流れていく。

「あ、ここで大丈夫です」
「そ、そか」

「…」
「…」

「あ、あの…京太郎くん…指…」
「和こそ…指…」

指先が絡まったまま向かい合い立ち尽くす二人。
ブロロ…

「あ…」
「っと」

二人の横を車が通り過ぎ、京太郎はとっさに和の壁になった。

「ン…」

身体が密着した二人は自然にキスをした。軽く触れるだけの。

『な、なんだこれ?』
『ま、前と…違う』

京太郎も和も頭がじんと痺れる感覚に驚きながら唇を離した。

「…ん……の、和」
「…んっ…はぁ…き、京太郎…くん」

キスが終わり唇を離しても二人は視線を逸らせないまま硬直した。

「の…和……好きだ」
「私も…好きです」

口から溢れたのは今まで大切にしなかった言葉。
二人は再びキスをした。
一度…二度…三度…少しずつ深く長くなる。
全身がふわふわしてむずがゆい感覚に和も京太郎も視界が狭くなっていく。

「んっ、んっ、んっ、ぷぁっ…のどかっ…」
「…きょうたろっ…くんっ、んふっ、んっ、んぷっ…あむっ…」

和と京太郎は何度も何度も激しくキスを繰り返した…。
ゆっくりと…
和は京太郎の背中を、京太郎は和の太ももを撫でていく。
京太郎の頭がじんと痺れて指先の動きが早く強くなる。

「の、のどかぁっ」
「あンッ」

京太郎の指先がショーツに滑り込み、大量の和の愛液が宙に舞った。

「のどかっ…のどかっ」
「い、いやっ」

強引にブラウスに手を差し込む京太郎を和が全力で押し戻した。途端に冷水を浴びた様に我に返る京太郎。

『や、ヤバい…俺、今何した?』

「…ぁ…わ…わ、悪い…お、俺…」
「はぁ…はぁ…こ、ここじゃ…ここじゃダメです」
「ほ…本当にすまねぇ……約束したのに…俺…」

京太郎は前以上の激しい自己嫌悪に襲われた。また和を怖がらせてどうするんだ。情けなくて涙まで出てくる。

「す…するならうちでして下さい。お、一昨日から父は出張ですから…」
「の…和…」

和は京太郎の頬を優しく撫でて笑った。指先が微かに震えている。

「あ…き、今日はやめとくっ。ほ、ほら、俺、約束破っちまったし…お仕置きって事で」
「え…」

「あ、焦る事ないよな。俺…今日は和に色んなもん貰ったし…これ以上一日で貰うのは贅沢だよなっ」
「き…京太郎くん…」

本当は今すぐに突撃したい。でも震えて笑う和を見たら、京太郎はジョニーを解放する気にはなれなかった。
だから今は精一杯強がって笑った。

「お、おやすみ、和っ」
「おやすみなさい、京太郎」

ちゅっ…

和は京太郎の頬にキスをして踵を返して家の中へ入っていった。
後にはポカンと呆けジョニーを持て余し立ち尽くす京太郎が唯一人。

「絶対…わかってやってるだろ…和っ」

乱暴に頭をかきむしる京太郎の背中に、部屋から和が小さく返事をした。




「ばか」



(おしまい)