「ん……!」

深夜、龍門渕邸内の国広一の私室、本来ならいるはずのない男、須賀京太郎はそこにいた。
目の前で可愛く正座して目を瞑っている一と唇を重ねながら京太郎は思う。

(最低だな、俺……)

これは間違いなく裏切り行為であった、少なくとも彼の恋人達に対しては。
本来、京太郎の恋人は天江衣であり、片岡優希であり、宮永咲であるはずだ。
今彼とキスしている国広一ではなく。そう思うと、どうしようもない自責の念が押し寄せる。

(ん…?)

突然唇に淡い痛みを感じて、目の前を見ると―

「…………」

一がいつの間にか目を開いて此方をジトーと見つめていた。
唇を離す。

「……ねえ須賀君」

じりじりと体を京太郎のほうに寄せながら一が囁く。

「確かに、僕達がしていることは裏切りだよ……衣への」

『衣』という単語聞くと京太郎の心がズキンと痛んだ。。
それを知ってか知らずか、一は京太郎の胸に手を添えるとそのまま続けた。


「でも…それでも、これから僕とセックスするのに……そんな辛そうな顔しないでよ」

「国広さん……」


どうやら苦悩が顔に出ていたらしい。
情けない、すべて自分が悪いというのに、相手にまで苦悩を背負わそうとしている。

(本当に情けねえな…俺)

麻雀も弱い、他に取り柄がある訳でもなく、部での仕事は専ら雑用と買出し。
そして今、自分の恋人を裏切りその友人を抱こうとしている。

「……」

しばし二人とも沈黙する。


そして、その沈黙を崩したのは一だった。

「須賀君…」

胸に当てていた手を頬に添えて、顔を近づけていく。

「ごめんね……僕すごく自分勝手な事言ってる、誘ったのは僕なのに……」

自嘲気味な笑みを浮かべつつ呟く、目には涙が薄っすらと滲んでいた。


「そんな、それは――んっ」

「ん…ちゅ……ふぁっ…れろ…はぅ…ちゅ」


違う、と京太郎は言いたかったのだろう、だが一は強引に唇を重ねその口を塞いだ。
唇をただ合わせるだけの先ほどのキスとは違う、舌を絡めあう、所謂ディープキス。
一の舌が京太郎の舌を舐めしゃぶり、吸う。
技術の伴わない拙いものであったが、それでも舌の裏側などを舐めるとピクッと京太郎は反応する。


「ん…!」

「……ふふ…ん…はむ……ぢゅる…ちゅ」


うれしそうに目を細め一はさらに攻め続ける。
京太郎は下手に抵抗することもなく、されるがままとなっている。
それがしばらく続き、ようやく唇が離れる。

「ぷは……ふふ、須賀君のお口おいしい…」

そういって微笑んだ一の顔には普段とは違う妖艶さが浮かんでいた。
いまだ動けない京太郎の目の前で、ゆっくりとネグリジェを脱いでいく。

「んしょっと……」

そして、脱ぎ終わったネグリジェをそこらに放り投げ下着も脱ぎ捨てると、一の裸体があらわになる。
健康的な肌、少ししか膨らんではいないが中央に屹立した桜色の乳首が目を引く胸。
足の付け根からすらりと伸びる太もも、そして、秘唇はピッチリと閉じ、周りには少しの産毛も無い秘所。
一は自分からベットに横たわると、その体を惜しげもなく京太郎に晒した。

「あ……あ…」

唖然とする京太郎、この体型の女性の裸体は見慣れていたはずだった、だが彼は引き込まれるように見ていた。
今の一の持つ雰囲気が普段の少女のものではなく、微笑を浮かべ誘う、愛欲に満ちたオンナそのものだったから。

「衣のことを忘れろなんて言わない、ただ……今だけでいいから、今だけ、僕を求めてさえくれれば……」

両手を京太郎のほうに広げ、続ける。


「だから……須賀君、来て?」

「っっ!!俺……は……!」


一を押し倒し唇を重ねた京太郎が、理性が崩壊する中最後に思ったことは――

(……ごめん)

誰に向けられたのかも分からない、謝罪の言葉だった。




※「甘い衣シリーズの途中分岐的というか並行世界な感じになってるんですが。」とのこと