京太郎と衣が恋仲になって数日後。
「美味いか?」
「うん!」
 平日の放課後、暇になった京太郎は衣を誘い、前に約束した焼き饅頭屋で焼き饅頭を仲良く食べていた。
「京太郎の言うとおりだ、この焼き饅頭は凄く美味しいぞ」
「気に入ってくれたならよかった、よかったけがここ安いけど良かったのか?」
 泊まった時の夕食の事を思い出し不安に思う京太郎、出されたのは豪勢な料理ばかりであれを食べていると言う事は、衣の舌はかなり肥えているのではないかと、味に自信があるがこの店で満足できるのかと心配していたのだが、衣はそれをあっさりと否定した。
「何を言う京太郎、価格と真価は別だ、安いから不味いと言う物でもないだろう?」
「まあ確かに、高いから美味いって訳じゃないよな、好みもあるからな」
 高くても不味いものもある、あるいは口に合わないものなども。
「そうだ、ここの焼き饅頭は美味しい、衣はここの味に大満足だ」
「まあ、満足してくれているなら、良かったけどな」
「それに・・誰かと一緒に食べるおやつは特に美味しい、それが京太郎なら尚更だ」
「そうだな、俺も衣と一緒だからいつもより美味く感じるな、もう一個食べるか?」
「うん・・・でも一個は多いから、半分ずつだ京太郎、ほら、あ~ん」
 京太郎から焼き饅頭を受け取って、半分に割ってお約束の言葉をつけて京太郎に差し出す衣。
「うっ・・あ~ん」
 照れくさそうにしながらも、京太郎はちゃんと声を出し口を開けて焼き饅頭を食べる。
「美味しいか?」
「ああ、美味しいぞ、次は衣の番だな、あ~ん」
 残り半分を手に取った京太郎は、お約束の言葉を口にしながら衣に焼き饅頭を差し出す。
「うん、あ~ん」
 嬉しそうに焼き饅頭に齧り付く衣、二人は焼き饅頭より甘い空気を振りまきながら、美味しく幸せそうに焼き饅頭を堪能した。

翌日の龍門渕の麻雀部部室。
 衣がお土産の焼き饅頭を準備しにハギヨシと共に部室から出て行くと、その姿を見送りながらため息をつく純。
「はぁ~あいつが衣の恋人にか・・・」
「うん、ボクも最初はびっくりしたけどね」
「私も驚いた、でも良いのでは」
「そうだな、あんなに嬉しそうな顔するんだからな」
 京太郎と衣が恋人になった事を聞いた純と智紀は、最初は驚いたものの楽しそうに話す衣を見て特に何も言わず納得した、一も特に反対する理由も無くまたあれを見た以上は納得せざるを得なかった、だがここに一人だけ不服な顔をしている人物が居た。
「し、しかしですわね、いきなり恋人というのは早すぎるのではなくて?」
 その不服そうな一人である、龍門渕透華は三人に対して一応の反論するものの。
「早いとは思うが、でもよ、さっきの笑顔を曇らせることができるのか?」
「うっ・・・・」
 純にツッコまれ言葉につまる透華、透華自身も幸せそうな衣を見て、諦め半分で納得してはいたのだが・・。
「わかっていますわ、けど須賀さんが衣を泣かせるような事をしたら許しませんことよ!」
 微妙に納得しきれないのか、負け惜しみのような言葉を吐き捨てる。
「・・・まあ確かに、あんまり悲しい思いさせたら、ただじゃ済ませないけどな」
衣を悲しませたら許さない、その気持ちには一も智紀も頷き同意する。
「しかし、俺達の中で最初に彼氏ができたのが衣とは・・・そういうことには一番遠いと思っていたんだけどな~」
「ボクもそう思っていたけど、そんな事言っている純どうなの、彼氏とか欲しいの?」
「俺か・・俺は別に~、ファンの女子と居るのは楽しいけどな」
 一に問われて、少し考えたもののあまり興味なさげに答える純。
「さすが女の中の男」
「誰が男だ、・・そういう沢村さんや国広君はどうなのかな?」
 皮肉っぽい口調で智紀と一に訊ねる純。
「・・興味はある、けど惹かれる相手が居ない」
「ボクは・・・・・」
 智紀は少し考えて直ぐに答えたが、一は純の質問によく考える。
(恋人か・・あんまり興味なかったけど、ここ数日の衣を見ているといたら楽しそうだなって思えてくる)
 男、といっても一に男性の知り合いはあまり居ない、家族を除けばハギヨシともう一人・・・浮かんだのは、衣の恋人である京太郎の顔。
(須賀君か麻雀していると情けなく見えたけど、でも衣にボクや透華達とは違う道を示してくれた、衣に対する態度を見ていると凄く優しいみたいだし・・・ああいう恋人だと居たら楽しそうだなと思うけど・・ボクも恋をしたら衣みたいに)
 そんな事を想像している時に思い出したのは、衣と京太郎が裸で抱き合いキスしているシーン、その瞬間一の頬が紅く染まる。
「一、どうかしましたの?」
「へぇ・・な、なにかな?」
「何って顔紅いぞ、まさか意中の相手でも居るのか?」
「えっ、そ、そんわ・」
 一が言い訳しようとした瞬間、バン!っと大きな音がした。
「はははは、一まで誰かと恋仲ですの!?、さぁ言いなさい相手は誰かいますぐに!?」
 大きな音は透華が机を叩きつけた音、そして顔を真っ赤にして一に食って掛かる勢いで一を問いただす透華、一瞬なんとも言えない静けさが辺りを覆う。
「お、落ち着いてよ透華、ボクにはそういう人はいないからさ」
「そ、そうですの・・・それは失礼・・ほほほ・・」
 一にそう言われて落ち着きを取り戻したのか、笑いながら座りなおす透華。
「そんな反応をした透華はどうなんだ、というかお前さんは・・誰か好きになったことあるのか?」
「あ、あるに決まっているじゃありませんの!」
「えっ!?」×3
 純に聞かれて透華の叫ぶ様な答えに、驚いて固まる三人。
(だ、誰だろう、っていうかどんな人なんだ、透華に好きになって言わせる相手って、誰・・・ボクの知る限り、
側に居るのってハギヨシ・・は無いと思うけど、じゃあ誰・・ま、まさか須賀君とか!?、でも相手は衣の恋人だよ・・いい人だとは思うけど・・・ぼ、ボクどっちを応援すればいいんだろう?)
 いろいろな考えを一がめぐらせている中、あっけにとられていた純が左手を上げた。
「あっ~驚いてついでに聞くのもなんだが、良ければ誰が好きか教えてもらえるか?」
「興味がある・・・」「あっ、ぼ、ボクも!」
 純の言葉に反応するように智紀と一も声を上げる、すると透華は頬を染めながら恥ずかしそうに三人から視線を逸らした。
「そ、そんなの決まっていますわ、こ、衣とあなた達の事き、嫌いなわけありませんわ!」
 期待はずれの答えを聞いた三人は項垂れる。
「あっ~たくぅ~、なんだよぉそういうことか、はぁ~」
「納得、しかしがっかりもしました」
「あはは、そっか・・うん、ボクも透華も皆も好きだよ・・ほぉ」
(よかった、けど今の透華・・衣に負けないくらい可愛かったな・・・)
 面白くなさそうな純と智紀、一は一人胸を撫で下ろしていた。
「な、なんですの、その反応はむかつきますわ・・」
「あのな、話の流れからすれば、異性の話だ異性の、そりゃ俺も透華の事は好きだけど、そういう意味じゃなくてだな・・」
「そう、私も透華達は好き、でもそれは友達、あるいは家族の様なもの、そうではなくて恋人にしたいような異性はいるかと聞きたい」
「そう、そのとおりだ、それだよそれ、そういう恋しい男か、もしくは気になっている男が居るかって事だ」
「わ、わかっていますは、さっきのは冗談ですわ、冗談!」
 実際冗談だったのかは分からないが、三人が三人ともちゃんと自分の事を好きと言ってくれたので、透華はあまり嫌な気分にはならなかった、だがつっこみを受けた恥ずかしさからか、それとも好きといわれた恥ずかしさからか、適当に誤魔化して再び考える。
「男性ね、男性は・・・そうね・・・ハギヨシは執事ですから違いますし・・」
透華も考えるが知り合い、龍門渕なのである程度付き合いのある男性なら居るが、それは外面上の付き合いで深く知り合ったのは居ない、となれば今思い浮かぶの、やはり一人しか居ない。
(気にはなりますわね、あの人が・・・しかし好きかと聞かれればそうでは無いと思いますわ、けどここで男性の名前一つ上げないのも何か悔しい気がしますわ・・)
 このメンバーで意地を張る必要も無いのだが、そこで意地を張るのが龍門渕透華である。
「そうですね、須賀さんかしら」
「ええっ!?」
 突然透華の口から出た京太郎の名に驚く一。
(えっ、や、やっぱり透華も好きになっちゃったの、なんでか良くわからないけど、で、でも・・それなボクは透華を応援しなくちゃだめなのかな・・・で、でも衣も裏切れないし・・ど、
どうすれば・・・そ、そうだ二人とも恋人になっちゃうとか・・・、駄目な気がする・・・けどそれ位しか思いつかないよ、そ、そうすれば・・・ボクも少し位は二人の手伝いで・・って、な、何考えているんだボクは!?)
 悩んだ末に思考が暴走した一は、自分でもよくわからない結論に達しようとして、頭を左右に振ってその考えを吹き飛ばす。
「それは気になるっていっても、どうせ衣を大事にするかどうかだろう?」
「あら、当然でしょう、それ以外に何かありまして?」
「あはは・・・そっか、そうだよね・・・はぁぁぁ」
 純の冷静なツッコミと透過の答えに、一は安堵してとてもながいため息をついた。

 話も終わった所に頃に衣がハギヨシを引き連れて部室に戻ってきた。
「皆、これが焼き饅頭だ!」
 衣が焼き饅頭が大量に盛られた皿を四人が居るテーブルに置くと、四人ともそれぞれ手を伸ばす。
「おっ、待っていました・・うん、うめぇ」「これが・・・おいしい」
「衣が凄く美味しかったといったら、京太郎がお土産にと持たせてくれたんだ」
「うん、凄く美味しいね」「うっ・・確かにおいしいですわ」
 純、智紀、一はただ満足げに、透華はどこか悔しげだが美味しそうに焼き饅頭を食べていた。
「そのままで良いから聞いて欲しい、その皆に聞いてみたい事があるのだが良いか?」
 珍しく遠慮がちに全員に尋ねる衣、四人は笑顔で答える。
「なんだ、そんなに畏まらなくても良いんだぞ」
「そうだよ、ボク等で答えられることなら何でも答えるよ」
「うん」
「当然ですわ、さぁ衣、このお姉さんにどぉーんと質問なさいまし」
「衣の方がお姉さんだぞ、でもまぁ・・今は相談に乗ってもらえるから感謝だ」
 そんな頼もしい四人を見て、衣は安心しながら質問を続けた。
「恋人と逢引するなら、どのような場所に行くのが良いと思う?」
「!?!?」×4
 四人全員が驚き揃って饅頭を喉に詰まらせた。
「お茶でございます」
 四人に素早くお茶を渡すハギヨシ、四人とも一気にお茶を飲み干す。
「はぁ・・はぁ・・死ぬかと思いましたわ」
「助かった・・」「なんとか・・・」「う、うん・・」
「こ・・こ、衣は何かイケナイ事を聞いたのか?」
 さすがに全員が喉をつまらせたため、おろおろと慌てふためく衣。
「あっ~、いや大丈夫だ、よく考えたら予測はできるからな・・」
 初めて恋人が出来てすぐならば、そんな質問をされるのも不思議な事ではない、それは四人とも理解していた。
「う、うん、ちょっとびっくりしただけだから大丈夫だよ、衣」
「そ、そうですわ、たまたま、たまたまタイミングが悪かっただけで、衣が悪いわけじゃございませんわ」
「そ、そうね」
 純も一も透華も智紀の様子を見て、少し安心しながらも落ち込む衣。
「すまない、衣はこの様な知識を持ち合わせてはいない、だが皆ならそういう知識をもっていると思ったんだが・・どうだ?」
「・・・・・・・・」×4
 衣の言葉に誰も答えない、いや正確に言うなら答えられない、なぜならば全員恋人が居たこともないのだから。
「うっ、やはり駄目か・・・実は今週の土曜日に京太郎と逢引するのだが、京太郎は行きたい場所があるなら行こうと言ってくれた、しかしこれでは・・提案すらできない」
 今にも泣き出しそうな顔をする衣、それを見て純、一、透華が焦る。
「ちょ、ちょっと、ど、どうするんですのこれは、だ、誰か何か案を出しなさい!」
「自慢じゃないけど、女子と遊んだことなら数え切れないが、男とは無い」
「純、なんて男らしい答えなんだ・・・って言っている場合じゃないよ!」
 三人が集まりながら、話していると一人参加していなかった智紀が突然案を出した。
「・・・・PCショップのジャンクコーナー」
「PCのショップのジャンクコーナー?・・よし、良くわからないが京太郎に・」
「だめぇぇ!!」「そうですわ、落ち着いて考えるのですわ衣!」「そうだ、それは駄目そうだ!」
 智紀の提案に納得しそうになった衣を、慌てて一、透華、純が止める。
「駄目なのか?」
「何故、いい場所だと思うけど・・・」
「いいからお前は黙っていろ、えっ~とそうだな食べ歩きとかどうだ、買い食いとかしながら」
「それは純が好きなことでしょ、それに衣はそれほど食べられませんわ、それならば私がよく使うレストランで食事とかいかがかしら?」
「お前の金銭感覚で語ると、あの男は確実に破産するぞ」「そ、そうだね」
 一応、一般的な金銭感覚がある純と一は透華の案にも当然賛成できない、透華がよく使うレストランは高級店、とても普通のしかも高校生である京太郎には手が出るわけがないのはよくわかっていたからだ。
「うん、京太郎もあまりお金が無いといっていたから、衣もお金は持ってない・・」
 透華の案にも同意できず落ち込んで肩を落とす衣。
「な、なら、あなた達他の案を早く出しなさい!」
 慌てて考えた一は適当に思いついたことを口にした。
「そ、そうだ、遊園地とかどうかな?」
「遊園地・・遊園地か、うん、衣も行ってみたいぞ!」
 遊園地という言葉に、目をきらきらと輝かせる衣。
「おおっ、ナイスだ、そうだなデートといえば遊園地だからな」
「さすがは一ですわ、そうでわね、デートにはちょうどよさそうですわね」
「無難・・・けど、まあ良いかも」
 衣の様子に他の三人も一の意見を支持した。
「遊園地か・・あっ、けどそれもお金は掛からないのか?」
 楽しそうにしていた衣の顔が一転、心配そうな表情になる。
「う、うん、入場料とか乗り物にのったりしら、結構掛かるかな・・・」
 一も思い出してみるが、遊園地などは何かお金が入用になったりする事が多い、やはり金欠気味の京太郎では少しきついかもしれない。
「そうか、ではそれも無理だな・・・何せ京太郎にはいつも出してもらっているからな、あまりお金の掛かるところに行きたいと言うのは忍びない」
 衣が落ち込みかけると、折角見つけてチャンスを逃してなるものかと透華が動いた。
「ハギヨシ!」
「はい」
 それだけで全てを理解したのか、ハギヨシが姿を消したかと思うと、また現れてその手には二枚の紙が握られていた。
「龍門パークの一日無料パスでございます、こちらがあれば園内の全てのアトラクションを無料で楽しむことができます」
「さぁ衣、これがあればいくら須賀さんにお金が無くても楽しむことはできますわ」
 ハギヨシから無料パスを受け取った透華は、それをそのまま衣に手渡した。
「えっ、し、しかし良いのか、こんな物を貰ってしまって、透華達だって」
「いいに決まっていますわ、それに残念ですが私達土曜日はたまたま全員用事が入っていますし、ねぇ・・・皆さん?」
「う、うん、そうだね」「お、おう、そうだったな」「決定事項」
 透華にギロリと睨まれた、一、純、智紀は空気を読んで口裏を合わせた。
「そ、そうなのか、けど・・・」
「すみません衣様、それは今週の土曜日が最終期限なので使っていただかないと無駄になってしまう、ですからお気になさらず須賀様とのデートにお使いください」
「あっ、本当だ・・・」
 衣が日付を確認すると、確かに今週の土曜日が期限になっていた。
「と言うわけですわ、仮に衣が使わなければ無駄になりますから、どうぞじゃんじゃん使ってくださいまし」
「感謝するぞ透華、これで京太郎と一緒に遊園地に行ける、ふふふ・・わ~~い」
 子供の様にはしゃぐ衣を見て、透華はほっとすると同時に凄く幸せな気分に包まれる。
「ふふ、あんなに喜んで・・・良かったですわ」
 一や智紀もにこやかに衣の様子を見守っていたが、純だけはハギヨシに近づいて疑問に思ったことを訊ねる。
「ハギヨシよ、一つ聞きたいんだけどいいか?」
「なんでしょうか?」
「さっきのあれの期限、衣が気を使わなくてもいいようにそうしたのか、って言うか一瞬でそこまで考えて持ってくるって、どれだけ凄いんだお前さんは・・」
 するとハギヨシは表情を崩さず、いつのも執事スマイルのままで答えた。
「龍門渕家の執事たるものこの程度の事ができなくてどうしますか」

 土曜日、京太郎と衣は遊園地のゲートを潜り案内板の前に立っていた。
「しっかしよかったのか、無料パスなんて」
「うん、今日までの無料券だからな、物を無駄にするのは良くない、だからそれほど気にする必要は無い、それに今は・・折角の京太郎との初めての逢引だ、そのような事を気に掛けず楽しみたい」
「そうだな、折角だから心行くまで楽しもうぜ」
「うん、いくぞ京太郎、まずは回転木馬だ」
 衣は待ちきれないといわんばかりに、京太郎の手を引いて駆け出した・・・・その後ろに四人の怪しい人影がいるとも知らずに。

「で、俺達はいったい何をしているのかな、透華さんや?」
「こら、本名は止めなさいI、ここではコードネームですわ」
「あっ~、はいはい、でRさんやここで何をする気なんだ?」
 仕方なく話を合わせるIこと純、そしてRこと透華の後ろに付くのは、Kこと一とSこと智紀だった。
「もう、わるかでしょIここにきたんだから」
「やっぱりなのか・・・」
「そう、逢引の追跡」
 透華達の用事、それは京太郎と衣の逢引の追跡・・・といっても乗り気になっているのは透華のみで、他の三人は仕方なく付き添できたのだけ、別に透華も邪魔をするつもりは無い・・・ただ、この透華に付いていっていいのか迷ってはいた。
「いい、いくら付き合いを認めたとは言え、それは健全な付き合い、須賀さんが強引に衣に・・衣になにかしようとしたら止めなければならないじゃありませんの!?」
「あっ~まあ、そうだな・・・けどよ、良いのか?」
「当然ですわ、たとえ衣に多少恨まれても、衣の安全が第一ですもの」
「いや、そうじゃなくて・・・衣と須賀、見えなくなりかけているぞ」
 純がぎりぎり見えている、衣と京太郎の後姿を指差す。
「た、大変ですわ、みんな追いますわよ!」
「はいよ」「承知」
 透華が駆け出すと純と智紀が後に続いた、そして最後に一が。
(も、もしももう深い関係になっているって知ったら、透華寝込んじゃいそうだな・・な、なんとかボクが頑張って、フォローしないと)
 決意を新たに透華達の後を追うのだった。

「少し恥ずかしいな・・・」
 年齢のためかメリーゴーランドの馬にまたがるのに、少し抵抗をしめす京太郎だったが。
「何を言う、似合っているぞ、そうしていると京太郎は本物王子様に見える」
 そんな楽しそうな衣の姿を見ていると、京太郎も抵抗を感じなくなり。
「じゃあ、衣はお姫様だな、可愛いお姫様を俺のものにしたいな」
「う、こ、衣のもう京太郎のものだぞ・・・」
 なにやら馬の上でじゃれあっていた。

「うぬぬぬぬ・・・なんですの、あ、あの甘ったるそうな雰囲気は・・」
「あはは・・・こ、衣が喜んでいるから良いんじゃないの」
 悔しそうにハンカチを噛み締める透華を、何とかフォローする一。
「う~ん、楽しそうじゃないか衣、おっ、このポップコーン美味いな」
「バター塩コショウ味」
 純と智紀は、衣の楽しそうな様子に満足しながら、そこの売店で買ったポップコーンを食べていた。

 コーヒーカップから降りてきた衣は足元がおぼつかないようで、フラフラしていた。
「ううっ・・・ちょっとまわしすぎた」
「ごめんな、衣が喜ぶから俺もつい調子にのって」
「京太郎は悪くないぞ、衣が己の力量を過大評価したためだ・・気にするな」
「ああっ、ほれ、そこにベンチがあるから、休もうぜ」
 ベンチに座った京太郎は、自分の膝を枕代わりにさせて衣を横に寝かせる。
「男の膝枕なんてあまり気持ちよくないかもしれないが、我慢してくれ」
「そんなことは無い、京太郎の暖かさを感じて・・京太郎の顔まで見られる、天にも昇る心地よさだ」
「大げさだな・・」
 嫌な気分が抜けてゆくのか、京太郎の顔を見上げながら満足げな様子だった。

「こ、衣が気分を悪くしていますわ、早く助けにいきませんと!」
「お、落ち着いてR、今僕らが出て行ったら後を付けたのがバレるよ!」
「あっ~俺も昔、あれなったわ、やりすぎて気分悪く」
「私はいくら回しても平気だった」
「もう、二人とも手伝ってよぉ~」
 一人、透華を止める一は悲痛な声を上げていた。

衣の気分もよくなり、少しすると昼食の時間になったので、京太郎と衣は売店でホットドックを注文することにした。
「お子様にはマスタード抜きをオススメしますが」
「むっ、子供じゃない衣だ、マスタードはたっぷりだ!」
 店員の言葉が衣の対抗心を生み、衣はマスタードがたっぷり入ったホットドックを注文した。
「あはは、俺はマスタード抜きをお願いします、あとメロンソーダを二つ」
 そのやりとりに苦笑しながら、自分の分のホットドックと飲み物を注文する京太郎。
「あっ・・はい」
 戸惑いながらも注文を受けて、直ぐに注文した品を仕上げて手渡す店員。
「ふん・・」
「えっ~と、これで・・」
「はい、ちょうどですね、ありがとうございました」
 会計を済ませて近くにあるテーブルに座る衣と京太郎。
「あむぅ・・・ううっ、か、辛い・・・」
 辛さに眉を顰め、目に涙をためながらもなんとか飲み物でそれを流し込む衣、マスタードがたっぷり塗ってあるので当然なのだが、それ以上は食べられないのか、じっとホットドックと睨めっこしていた・・。
「はぁ・・やれやれ、ほら、これと交換だ」
 想像していた通りになったのか、京太郎はマスタードを塗っていない自分のホットドックと、衣のマスタードたっぷりのホットドックを迷うことなく交換した。
「か、辛いぞ・・・良いのか?」
「良いんだよ、こっちのほうが美味そうに見えたかなら・・早く食べようぜ、この後も遊ぶんだろう」
 笑って衣の頭をなぜながらホットドックんかぶりつく京太郎。
「うん・・・京太郎はやっぱり優しいな・・ふふ、あむぅ・・」
 衣も嬉しそうに、そして今度は美味しくホットドックを食べきるのだった。

「上手だね、衣の機嫌をそこねずに・・ううん、むしろ大満足させちゃうなんて」
「衣は子供あつかいされるのが嫌いだもの」
「た、確かに・・衣の事はよくわかっているみたいですわ・・・」
 一も透過も透華も、ホットドック屋の件に関してはただただ感心していた。
「ふまいな、あいふ」
「純、食べてから喋ろうね」
 純は一人、ホットドック齧りながら満足げに京太郎と衣を眺めていた。

「う~~ん、ふふふ」
 嬉しそうに手の中にあるぬいぐるみを抱きしめながら歩く衣。
 衣が抱いているのは、今しがた京太郎がゲームコーナーで獲得した龍門パークのマスコットキャラのぬいぐるみだった。
「小さいのしか取れなかったけど、それでよかったのか?」
 得点によって得られる商品が違うゲームだったのだが、今衣が持っているのは10センチのぬいぐるみは一番得点の低い商品で、一番得点の高い商品では60センチオーバーのぬいぐるみがあった。
やはり大きいほうが良かったかと思った京太郎だったが、衣は笑顔でそれを否定した。
「愚問だな京太郎、何を貰うかではなく誰に貰うかが需要なのだ、恋人である京太郎からのプレゼントの時点で、これはただのぬいぐるみではなく衣の宝物だ、これでよいのではなくて、これがよいのだ」
「そうか、少し照れくさいけど・・・そういってもらえると、嬉しいな」
「ふふ、これで大エトペンにも新しい友達ができたぞ」

「あっ~俺たち何しているんだろうな」
「追跡」
「純は主に食べ歩きだと思うよ」
「まあそうだな・・・」
「ほら何していますの、純、智紀、一、行きますわよ」
 透華は無駄話をする三人に注意を促して、早足で衣と京太郎の後を追う。
「おいおい、既に自分で決めたコードネームとやらも忘れているぞ」
「むしろ今まで覚えていたほうが凄いかと・・」
「ああっ、待ってよ透華」
 急いで透華の後を追う一、仕方なく純と智紀もその後を追った。

 遊びまわり夕日が辺りを照らす頃、京太郎と衣が最後にと選んだのはデートではお約束的な観覧車だった。
「うわぁぁぁ、凄いぞ京太郎、どんどん高くなっていくぞ京太郎」
「乗ってから聞くのもなんだが、高いところは平気なのか衣?」
「当たり前だ、高所を怖がるほど衣は子供じゃないぞ」
(高所を怖がるのに、大人も子供も関係ないのだが・・・むしろ高所を喜ぶほうが子供っぽい気が・・)
 と京太郎は心の中で思いつつも、当然そのことは口に出さない。
 しかし京太郎にも今の時間帯ならば、子供でなくても夕焼けに映える風景に心躍るのも理解できたが・・・。
「えも言われぬ美しさだ」
 短いその言葉を呟き、夕日に負けぬほどのきらきらとした目で窓からの眺めを楽しんでいる衣、それが京太郎には一番綺麗に見えた。
「本当に綺麗だな・・・」
「そうだ、夕日に映える町が・」
「衣がだよ・・・」
 そう呟くと、京太郎は隣に座る衣の肩に手をかけた。

「綺麗ね」
「そうだね、たまにはこう言うのも良いね」
「そうだな、ほら透華、お前も衣の方ばっかり見てないで、少しくらい外を眺めろよ」
 透華以外の三人は、追跡ごっこを止め、観覧車から見える景色を楽しんでいた。
「もう、あなたたちは今日はなんのために・・・いいっ!?」
 文句を言おうとした透華が突然叫び声を上げた。
「なんだなんだ、どうした・・うぉっ!!」「どうしたの・・おおっ!!」「な・・あっ!?」
 透過の声に一つ前のゴンドラ、つまり衣と京太郎に何かあったのだろうと思い三人が前のゴンドラを覗くと、衣と京太郎がキスをしていた、しかもすぐに離れるのではなく・・かなり長めのキス。

「い、いきなり何をするんだ京太郎、いいい、今は風景を愛でる時ではないのか!?」
 突然のキスでさすがに混乱した衣は、外を指差しながら文句を言う。
「悪い・・・衣が綺麗だから我慢できなかった」
 冗談やからかっているわけではなく、京太郎が本心からそれを言っていると衣は瞬時に理解した、したからこそ頬を染めて・・。
「そ、そんな顔で、そんな嬉しい事を言われたら、文句も何も言えなくなるだろう・・」
 照れくさそうに小さな抗議の声を上げる。
「照れた顔も、可愛いぞ衣・・」
「京太郎・・・」
 もはや外の風景など目に入らない、京太郎と衣に見えているのは互いの姿だけだった。

「・・・・・・・・・・」×4
 目の前のゴンドラで繰り広げられるラブラブ空間に唖然とする四人、そしてゆっくりとその空間が四人の前から消えていった・・。
「す、すげぇな・・」「ラブラブ・・キスキス・・」「ね、熱烈すぎるよ二人とも・・・」
 純、智紀、一はキスシーンを思い出し、顔を真っ赤にさせていた。
(恋人同士って、あんなになのか・・)(羨ましい・・?)(羨ましい・・)
 三人が三人とも自分が、先ほどの衣みたいにキスをしているシーンを思い浮かべたが。
「あはは、が、ガラじゃないな」「・・・そうかも」(気持ちいいのかな・・あれ透華は?)
 純と智紀は照れくさそうに笑い飛ばし、一は一人自分の唇を指でなぞりながら、一番騒ぎそうな人物が静かにしていたのに気付いた。
「そういえば、透華!?」
 一が慌てて透華に目をやると、透華が立ったまま気を失っていた、どうやら透華にはさきほどのラブラブシーンは刺激が強すぎたようだ。

 ゴンドラが一周しきる少し前に、ようやくキスを止めて離れる京太郎と衣。
「も、もう京太郎、折角の眺めを半分も堪能できなかったぞ」
「悪い悪い、もう一回乗るか?」
 笑いながら謝る京太郎、衣も本気で怒っている訳ではないが、文句は言いたげだった。
「今度は先ほどの様にいきなり接吻するのは無しだぞ・・・」
「ああ、わかっている、キスはしないよ」
「・・・それはそれで残念なのだが」
 そんな可愛らしい衣の言葉を京太郎が聞き逃すわけも無く、この後、京太郎と衣はもう一周終えた後、更に一周することになった。

「たくぅ・・仕方ないな」「駄目な子・・・」「透華・・・大丈夫?」
 透華を抱えて観覧車から降りる純と智紀、一は心配そうに透華の顔を覗き込んでいた。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと気分が悪くなっただけで平気だから、気にしないでくれ」
 透華の様子に心配して駆け寄ってくるスタッフ、しかし本当の事を話すわけにもいかず、純達は適当に言い訳をして急いで透華を抱えて近くにある休める場所に移動した。

「今日はありがとうな、楽しかったぞ衣」
「うん、衣・・も・・たのし・・かった・・・ぞ」
 必死に答える衣だが、今日一日動き回っていたためかうつらうつらとしていた。
「眠いのか衣?」
「へ・・へいきりゃ・・ねむりゅ・・らんれ・・」
 そう言いながら眠気からか、呂律が回らなくなる衣を見て、京太郎は微笑ましく思いながらしゃがんで衣に背を向けた。
「ほれ、背中に乗れ・・・」
「いいにょ・・か・・」
「ああ、これも恋人の仕事だ」
 遠慮よりも眠気が勝ち、そして衣も心のどこかで京太郎の背で眠りたいと思っており、素直に京太郎の背中に乗る衣。
「・・・ありがと・・きょうたろ・・ろう・・くぅー・・」
 京太郎の背に乗り前に京太郎の首に手を回すと、衣はすぐに寝てしまった。
「さてと、帰るか・・・」
 衣の重み、それがどこか心地よく感じながら京太郎は帰路についた。

「今までは俺かハギヨシの仕事だったんだけどな・・・」
 少し寂しげに京太郎の背に乗る衣を見つめる純。
「そうだね、でも今は須賀君の役目かな・・・」
「はぁ・・もうすっかり衣の恋人ですわ、須賀さんは・・・」
 京太郎と衣が二週している間に、透華も自分の足で歩ける程度には回復していたが、所々まだダメージを引きずっていた。
「ようやく認めたのね」
「ええ、仕方ありませんわ、衣の事をちゃんと理解して、あれだけ衣を楽しませてあげられるなんて、それにあまり五月蝿く言って衣に嫌われるのも嫌ですから・・」
 諦める、というより納得せざるを得ないと言った感じの透華に、うんうんと他の三人もうなずいた。

「じゃあ、俺はこのまま帰るぞ」
「私も」
「またね、純、智紀」「ええ、それではまた」
 龍門渕正門前で透華と一は、純と智紀に別れを告げて見送った。
「さて、それでは着替えを済ませて、衣に会いに行きますわよ」
「うん」
 二人は一度着替えに戻った後、衣の邸に向かうのだった。

 龍門渕家別邸前では、衣と京太郎の帰りをハギヨシが待っていた。
「お帰りなさいませ、衣様、須賀様・おや、衣様はお休みで?」
「ええ、今日は遊びまわったからつかれたみたいで、途中で」
「それでは、ここからは私がお運びしましょうか?」
「えっ~と、お願いしても良いかとも思うんだけど・・・その」
「おや・・・これは」
 衣の左手は人形を、そして右手はしっかりと京太郎の服を握り締めていた。
かなりしっかりとつかまれているので、服を脱ぐ以外衣を引き剥がすのは不可能だ。
「須賀様、更にお願いを重ねるようでなんですが・」
「ああ、良いですよ、それに・・・」
 京太郎とハギヨシが衣をちらりと見ると、凄く幸せそうな寝顔で衣は・・。
「ふにゃ・・きょうた・・ろう・・といると・・・たのしいぞ・・」
 楽しげな夢を見ていた。
「起こすのも忍びなくて」
「そうですか、それではお願いいたします、さぁ、どうぞお入りくださいませ」
 ハギヨシが扉を開けてくれて、京太郎は衣をおんぶしたまま邸内に入る。
 衣の部屋の扉もハギヨシが開けてくれ、なんとか衣をベッドに寝かせるが、それでも衣の右手はしっかりと京太郎の服を掴んでいた。
「このまま衣が起きるまでまっています」
「はい、ではせめて、こちらのお茶を飲んでお待ちください」
 そういってハギヨシはどこからか、急須と湯飲みを取り出して、ベッドの側に一人分の椅子とテーブルを用意して、テーブルの上に湯飲みを置いた。
「それでは、ごゆるりとおくつろぎください」
「あっ、はい、ありがとうございます」
 俺を言うと、ハギヨシはどこかへと消えていった、おそらく呼べば出てくるのだろうが、今はその必要も無く、京太郎は衣の寝顔をただじっと見つめていた。

「うっ、衣は間違えなく眠っているん・・ですわね?」
「はい、須賀様の服を掴んだまま、解くには起こすしかないので、しかし起こすのは忍びないと、それでお願いをしたしだいで」
 部屋の中を見ながら、ハギヨシの二度目の説明を聞く透華。
「た、たしかに天使の寝顔を崩すのが惜しいのはわかります・・け、けど、眠る女性の横に年頃の男子というのはいかがなものかしら・・・」
「と、透華、認めたんじゃなかったの?」
「認めましたは、ええはっきりと、と言ってもそれは普通に付き合うのをと言う事です、ふ、ふか・・・深い仲になるのは!・・・あっ」
 一が口の前に指を一本立てると、自分が五月蝿くしていたのに気付いて慌てて口を押さえる透華。
「と、とにかくですわ、そういうのは・・・もう少し衣が大人になってからですわ」
「そ、そうかもね・・・でも一度認めたなら、須賀君を信じてあげても良いんじゃない?」
 まさかすでにそういう仲になっている可能性が高いとは、言えない一であった。
「一応信じてはいますわ、とは言え男は一皮向けば狼と言うではないの、そ、その衣の愛らしく無防備な寝顔を見ていて、つい間がさして・・などと言うことが無いと言えまして?」
「須賀君はそんな・・衣が泣くような事はしないって」
 あるいはそれすら衣は喜ぶかも知れない、とそんな考えが一の脳裏に浮かんでいた。
「透華お嬢様、今日は当主様と御食事会のご予定が」
「あっ、そ、そうでしたわ、う、う~~ん」
 考えるが、さすがの透華も当主である父との食事会の予定をキャンセルしてまで、ここで見張りを続けるわけにもいかない、もしそうしたなら衣を恐れている透華の父が衣に何をするかわからないと言うこともある。
「私はお父様と食事会に行ってきます、一あなたは須賀さんが万が一にでも変な気を起こさないように、見張っていてくださいな」
「えっ、み、見張るの?」
「そ、そうですわ、須賀さんが衣に襲い掛からぬように見張ってくださいな、それに今日のお父様との食事会にはハギヨシにも同行してもらわなければなりませんから、あの二人の夕食の準備や、お世話諸々もあるでしょ?」
「あっ、そうか・・」
 他のメイドは衣をまだどこか恐ろしげな目で見ているため、ハギヨシが居ない以上、衣の世話をする適任は一か歩、ならば歩よりは同じ麻雀部の一の方が慣れているだろう、それに京太郎の事を考えても一の方が良いはずだ、それは一にも理解できた。
「うん、わかったよ」
「ええ、お願いしますわ、あっ、車も使えないのかもしれませんから、須賀さんには泊まっていただいて構いませんわ」
「うん、後で須賀君に伝えておくよ」
「泊まるのは前回使用した部屋を用意しておきました、着替えもそちらに前回と同じものを、料理については・・・」
 ハギヨシは丁寧にしかし素早く必要な事を一に伝える。
「うん、わかった、大丈夫だから透華行ってらっしゃい」
「ええ、行ってきますわ、ハギヨシも行きますわよ」
「はい」
 そのまま振り返らずに透華とハギヨシはこの邸を後にした。

「うっ・」
「おっ、起きたか?」
 衣が目を覚ますと、見慣れた天井と京太郎の顔が見えた。
「う~ん・・・ここは衣の部屋か?」
 起き上がり目蓋を擦って衣が周りに目をやれば、そこは見慣れた自分の部屋だった。
「そうだぞ、帰りに寝ちゃったからおぶって帰ってきたんだ」
「そうだったな、とても幸せな夢を見ていた・・・父上と母君が出てきた、それでな京太郎との事を祝福してくれた」
「そう・・か」
(やっぱり衣、寂しい・・・よな、当然)
 両親が突然の死、それも慣れたという少女、でもその心内はどうかはわからない、心の奥底ではやはり、と色々な考えが京太郎の頭の中に浮かんでは消える。
「京太郎そのような顔をするな、衣は嬉しかったんだぞ、夢とは言え父上や母君に会えて、少しは寂しいが、今は透華や一や純や智紀やハギヨシが居る、そしてなにより京太郎も居てくれるからな、だから平気だ」
「そうか、うん、そうだな側に居るからな」
 にこっと寂しさを吹き飛ばすようなそんな衣の笑顔に、京太郎も悩むのは止め笑顔で衣の頭を撫ぜた。
「衣、須賀君、入っても良いかな?」
 扉がノックされると、すぐに一の声が聞こえてきた。
「良いぞ」
 衣が許可を出すと扉が開いて、メイド姿の一が入ってきた。
「夕食の準備がすぐに出来るけど、どうする?」
 メイド姿をしていると言っても、他の使用人が居ないためか、一の口調はいつもと変わらず堅苦しい物ではなかった。
「ハギヨシは?」
「ハギヨシは透華と一緒に、当主様とのお食事会に参加するから」
「そうか、今日も皆でと思ったんだが・・・京太郎は一緒に食べてくれるか?」
 衣は一人での食事は慣れている、とは言えやはり一人の食事は味気ないのだろう、そのため京太郎をちらりと見る。
「えっ、で、でも・・」
「安心して、もう須賀君の分も用意しているから、だから良かったらね」
「じゃあ、頂きます」
 ここで断るのもなんだろうし、それに京太郎自身も衣と食事がしたかったので、申し出を素直に受け入れた。
「それじゃあ、直ぐに準備してくるけど、衣は何時まで須賀君の服を掴んでいるの?」
「・・・・あっ、す、すまない」
 自分がしっかりと京太郎の服の握ったままの事に気付いた衣は、顔を赤くしながら慌ててその手を離した。

 仕事も全て終わり後は眠るだけの一は、使用人用に割り振られた部屋で寝巻きに着替えていた、ちなみに一の寝巻きは私服と違わず、薄ピンク色の肌が透けて見えるきわどいネグリジェだ。
「ふぅ・・・やっぱり須賀君は優しいんだな」
 思い出すのは今日の出来事、衣と京太郎の遊園地デート。
「須賀君、ちゃんと衣も見ているし、色々気遣ってもいるし、何より・・二人とも凄く楽しそうだな、須賀君みたいな人良いな・・・ボクも・・」
 それは友達の恋人だからか、あるいはただその男性に引かれているだけか。
「って、だ、駄目だよ須賀君は衣の恋人なんだから・・・そうだよ、駄目だよ、そんなの、か、仮にだよ、仮にもしも・・もしも衣と須賀君が許してくれたら・・・」
 妾、愛人などと言う言葉が一の脳裏に浮かび、裸の衣の横に自分が居て、その前には裸の京太郎が・・。
「な、ななな、何考えているのボクは、そ、そんなのイケナイし・・だいたい・・」
 否定しきれないのは、それが一自身の望みだからだろうか、しかしそれはどこか現実味に乏しく、空しく感じた。
「・・・寝よう」
 一がベッドに横になろうとすると、廊下から足音が聞こえてくる。
「うん?・・・これって」
 おそらくハギヨシは帰ってきていない、きていたとしてもこんな跳ねるような足音では無い筈だ、今この邸でこんな風に歩くのは衣だけだろう。
「トイレじゃないよね・・・」
 お手洗いならこの部屋の前を通る必要は無い、衣の部屋からここを通り行き着く先は・。
「須賀君の・・・部屋?」

「・・・」
 息を殺して、一が隙間から覗き見るのは京太郎が泊まっているゲストルーム。
 部屋の中では衣と京太郎が裸で唇を重ね抱き合っていた。
「・・・っぅ!?」
 叫びそうになった一は自分の口を慌てて押さえ込んで、声を押し殺す。
(こ、ここここ、これって、やっぱりあれだよね・・あれ・・)
 もう一度、正しく確認しようと覗き込めば、先ほど変わらず、いや正しくは先ほどより進み京太郎の手が衣の体を優しく愛撫して、衣は声を上げてそしてキスを求めていた。
(や、やっぱり、二人はそういう関係だったんだ、ど、どうしよう止めた方がいいのかな?)
 透華との約束を思い出す、透華は『須賀さんが衣に襲い掛からぬように』と言っていたのを思い出す。
(この場合、須賀君は襲ってないよね、むしろ夜這いに来たのも衣だし・・・それって衣がこれを望んで、でもやっぱりそのそう言う男女の肉体的かんけ・)
「ああっ!!」
 考えを巡らせていた一だったが、衣の声に慌てて部屋の中を覗く。
 見えたのは京太郎の下で喘ぐ衣、一もそれ相応の知識があるため、それが何をしているのかは理解できた。
(せ、セックスしている、衣と須賀君が・・・・・)
 目の前で繰り広げられる男女の秘め事に、一は見せられ目を離せずに居た。
「京太郎いい!!、京太郎のおちんちんきもちいぞぉぉ!」
「ころももいいぞぉぉ!!、衣のおま○こ気持ちいいぞぉぉぉ!!」
 卑猥な言葉のやりとり、ぶつかる肉体、京太郎が大きく腰を引くと衣の膣内からペニスが引き抜かれる。
(お、おっきい!?・・・あ、あんなのが衣のなかに入るんだ・・衣に入るなら、ぼ、ボクにも・・)
 一は自然と自分の股間に手を伸ばし・・・触れる。
「ひっくぅ!!」
 一の肉体に快楽が走る。
(気持ち良い、このまま思いっきりしたい・・・けど)
 このままここでし続けて声を上げれば、衣と京太郎に感付かれる危険もある。
 でも一は手を止められず目も離せない、衣と京太郎のまぐわいを見ながら自分を慰める。
 くちゃ・・ぐちゃぐちゃ
「あっ・・くぅ・・」
 指で割れ目を弄れば、感じている証拠である液体が溢れてくる。
(ああっ、いい、いいよぉぉ!!・・気持ちいい、いつもしているのとちがって・・ああ、こ、衣も・・須賀君も・・・気持ちよさそうでいいなぁ・・)
 一は自慰行為の経験もあったが、友達のまぐわいを見ながらの自慰に、今までとは比べ物にならない快楽を感じていた。
「はぐぅ・・・ら、らめぇ・・・」
 声が漏れそうになる一、このままでは衣と京太郎が何時気付いても不思議ではない、しかし理性を上回る快楽に我慢などできなかった。
 くちゃくちゃくちゃ
「はぁぁくぅぅぅ・・・」
 一の膣内からあふれ出る液体は量を増して、それと同時に今までの感覚からも自分がもう達するのだと一は理解する、と同時に。
「くぅ、い、いくぅぅ!!」
 声を上げ、体を震わせ、絶頂を味わう一・・・徐々に波が引いていき、膝が落ちた。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・すぅ・・はぁ・・」
 快楽の余韻から息を切らせる、その息を整えると・・・一は今しがた自分が大きな声を上げたのに気付いた。
(も、もしかして・・・ば、ばれ・・た・・)
 恐る恐る中を覗くと、衣と京太郎も息を整えていた、偶然絶頂のタイミングが重なったようで二人が始めに気づいている様子は無い。
「は、はぁ・・・よ、よかった・・・」
 安心すると同時に一は眠気に襲われる、激しい快楽と緊張、更に今日は衣と京太郎の後をつけて動き回っていたため、体力も精神力も消耗しきっているのだろう。
「うっ・・少しだけ・・あとで・・部屋に・・」
 眠気に勝てず、ほんの少しだけ眠ってから部屋に戻ることにした。
(みつからなく・・て・・・よかった・・・けど・・)
 自分自身でも分からないが、少し残念な気持ちを感じながら、一は眠りの世界に足を踏み入れた。

 一が目を覚ますと、そこは見慣れた場所で衣の部屋、そのベッドの上だった。
「どうしてボク、廊下で・・」
 眠りに入った時は間違えなく廊下だったはず、寝ぼけてここまで歩くとは考えられない、ならば残る可能性は誰かが一を運んだということ。
「だ、誰が・・・」
 一は必死に考えてみる、ハギヨシなら自分を使用人用の部屋に運ぶはずだ、仮に運んだとしても衣のベッドに自分を寝かせるとは考えられない、
衣は自分をここまで運んでくるのが無理だろう、見つけたとしても起こすか毛布を掛けてくれるかだ、となれば可能性のある人物は一人しか居ない。
「す・・須賀君・・・」
 納得できた、京太郎ならば使用人用の部屋を知らないことも、衣のベッドに寝かせることも全て。
「た・・確かめないと、で、でもその前に朝食の準備も・・しないと」
 万が一、いや億が一違うことを願いつつ、使用人用の部屋でメイド服に着替えを済ませてメイドの仕事に取り掛かった。

 仕事・・といっても戻ってきたハギヨシが全て終えており、後は京太郎を呼びに良くだけだった。
「すぅ・・・はぁ、すぅ・・・はぁ」
 何度目かの深呼吸を終えて、意を決し扉を叩く一。
「どうぞ~」
 中から京太郎の返事が聞こえて、一声掛けて扉を開けた。
 部屋の中には寝巻きではなく、普段着を着た京太郎がベッドに腰掛けていて、その膝の上にこちらも着替えを済ませた衣が座っていた。
 一の中でその姿が一瞬、昨晩の二人の姿と重なった。
「おはよう、一」
「おはようございます、国広さん」
「お、おはようございまちゅ、衣、しゅ、しゅが君」
 いけないことを考えている時に挨拶をされ、慌てて返答しようとしたためにお辞儀はしたものの噛んでしまった一。
(や、やっちゃった・・)
 顔面を真赤にしながら、顔を上げると衣と京太郎が不思議そうに一を見ていた。
「どうした一、顔赤いぞ?」
「・・あっ、いや、ほらあれだろう、寝坊して焦ったんじゃないか?」
 何かに気付いた京太郎が助け舟を出し一は飛び乗り、話を合わせた。
「う、うん、実は寝坊しちゃってね・・ご、ごめんね」
「なんだ寝坊か、気にするな衣もよく寝坊するからな」
 どうやら衣はそれを信じたらしく納得していた。
「うん、もう朝ごはんの準備ができているから」
「それじゃあ、行くぞ京太郎、一緒に朝ごはんだ」
「あっ、ああ」
 衣は京太郎の膝から飛び降り、そのまま部屋から出ると京太郎も後に続こうとしたが。
「あっ、あのう・・須賀君」
京太郎が部屋を出ようとした時、一に呼び止められた。
「な、なんですか国広さん?」
「ご、ごめん、その・・廊下で寝ていたのを須賀君が運んでくれたんだよね?」
「あっ、は、はい、部屋分からないから衣の部屋に運んだんですけど・・良かったですかね?」
「うん、ありがとう、助かったよ、そのお手洗いに行った後で・・そのまま寝ちゃったみたいで」
「そ、そうですか・・気をつけてくださいね」
「う、うん気をつけるよ」
(須賀君、ボクがしていたのは・・気付かなかったみたいで、よかった・・)
 一は自分が廊下でしていた事が、ばれていないことに安心して胸を撫で下ろす。
(お、俺と衣がしているのがばれてないみたいだな、気付かれていたら色々と言われるだろうし・・もしくはこんな普通に話してもくれないだろうから)
 京太郎も自分達が部屋でしていたことが、ばれていない様子に安心して胸を撫で下ろした。
「とにかく、運んでくれてありがとう、おかげで風邪を引かずにすんだよ」
「どういたしまして、それじゃあ衣が待っているんで行きましょうか」
「うん、そうだね」
 京太郎の後に続き部屋を出た一は、歩きながら先ほどの事を考えていた。
(気付かれていなくて助かった・・でも、透華には言えないよね、ボク自身の事もあるし)
 まさか衣から京太郎に夜這いしていたなどと報告できるわけも無く、それに衣と京太郎がまぐわう姿を見ながら自分で慰めていた、なんて一は絶対に言えそうになかった。
(秘密かな・・しばらくは、でも、昨日のは気持ちよかったな、今までより何倍も)
 昨晩のあの京太郎と衣の姿を、そしてそれを見ながら自らを慰めていた事を鮮明に思い出すと、昨日感じた快楽を少しだけ感じた。
(やばい、クセになりそう・・・いや、なるねきっと・・)
 おそらく、次の機会があれば、きっと自分は再び覗き見をして・・・と一は思った。
(ねぇ、衣、須賀君、透華には秘密にしておくから、ボクも少し位楽しんでも良いよね?)
 前を歩く二人を見ながら、一は妖しくそして楽しそうに悪戯っ子の様に微笑んだ。
終わり。




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