心があるから、軸がぶれるのだ。
ならば心など捨てればいい。
思考と論理さえしっかりしていれば、良い麻雀が出来るのだ。
事実私は、IM個人戦の覇者になれたのだ。
だからこの結論は正しい。
絶対に正しい。
麻雀を打つ理由に心は要るが、麻雀を打つことそのものに心は要らないのだから。
(…どうして和はああも無感情だったんだろう)
須賀京太郎はそんな事を考えていた。
彼の知る限り、原村和は沈着冷静という言葉がよく似合う人物である。
しかし決して無感情な訳ではない。
咲のプラマイゼロには強く憤っていたし、少なくとも麻雀に関しては非常に感情的なのだから。
県大会では、誰に憚る事なくガッツポーズまでしてみせた。
初めて見る回転寿司に興味津々だったその様は、年端のいかぬ子供を想起させたほどだ。
…そんな彼女を知る京太郎が、彼女を無感情などとは思えるはずもなかった。
だからこそ、あの二回戦には少なからず戸惑っていた。
京太郎のみならず、清澄高校麻雀部の全員が。
誰一人として、それを表に出す事はなかったのだけど。
「…ちょっといいですか?」
京太郎は不意に声をかけられた。
振り返ると、ジャージ姿の少女が悲しげな表情でこちらを見ていた。
少女の名は高鴨穏乃。
見間違えるはずもない。あんな姿で往来を堂々と振舞う人間などそうはいない。
(そう言えば、この人と和って昔なじみだったよな…だから変な格好してるのか?)
「…何か、失礼な事考えてません?」
「い…いえ、そんな事はないですよ。えと、俺に何の用ですか?」
「――和は、どうしてあんな風になってしまったんですか?」
そんなことはこちらが聞きたい、京太郎はそう思わずにいられなかった。
最終更新:2013年10月20日 23:04