今まで私に能動的に近寄ってくるものは居なかった。

今は家族である一や純、智紀ですら、最初はとーかに言われて寄ってきた。

これからも能動的に私に近寄る者は不在だろうと思っていた。

そうあの時までは。


今年も有象無象しかおらぬと思っていた予選をふと見ていこうと思ったのだ。

所詮は有象無象。退屈凌ぎにすらならぬ闘牌をみても精彩を欠く。
なにより人混みが嫌いな私はそこを足早に出た。

会場を出てからすぐに声を掛けられた。

「これ、落としたよ。」

振り向くと其処には私と同じ髪の色をした男がいた。
観戦していた場にいた者だ。必死に牌譜をまとめていた気がする。

「おぉ済まない。礼を言うぞ。」
届けられたのは私の携帯だった。恐らく席を立った際に落としたのだろう。

そんな私に苦笑いを浮かべながらも男は、「ハハッ。もう落としちゃダメだよ。」と頭を撫でながら言ってくる。

「ふにゅぅ。……ハッ。撫でるでない。」
心地がよかったが、その腕を払いのける。

「あぁ、ゴメンゴメン。撫でられるの嫌いだったか。」
手を合わし謝り、立ち上がる。「それじゃぁ気をつけてね。」と言い立ち去っていく。

私も反転し、その場から離れる。
そういえば、一やとーか、龍門渕以外から話しかけられるのは初めてだ。


先鋒戦も終わり、優希が「タコスを買ってきてくれないか?」と言い始め俺は渋々買いに出た。

そういえば先鋒戦が始まるときにもタコスを至急買ってきてくれって言われたな。苦労したが、店を教えてくれたハギヨシさんは元気にしているだろうか。

会場が見え始め、一昨日見た不思議な子を思い出した。
小学生とも見える体型にも関わらず、言葉使いは咲に見せてもらった小説に出てくるような王様のようだった。

本当に色んな人がいるんだなと思う。それにしても結構時間が掛かってしまった。タコス娘のへそが曲がってなければ良いが。

ある意味ハラハラしながら控室の戸を開けると歓喜した和が見えた。
こんなに喜んでいる和を見るのは初めてだなと思いつつ、タコスを与えまこ先輩に事情を聞いてみる。「和がこんなに喜んでるなんていったい何があったんですか?」

「お疲れさん、京太郎。わざわざすまんの。和が喜んどるのは無くなっとったエトペンが戻ってきたけぇ。小さな子やったらしいがその子が届けてくれたんじゃと。素直な子だったと言っとった。」
何処かの誰かさんたちもその子みたいに素直になれんおかのぉ。とか言って、部長や優希、まさかの和が反応する。

まこ先輩なりの気遣いだったのか和もリラックスしてる。この調子で試合に望んでほしいと思う。


副将戦は鶴賀の人がトップの稼ぎを見せていたが、順調であろう。
咲は和に連れられていったが。順調であろう。恐らく、きっと。

龍門渕の大将、天江衣といえば。魔境・長野と全国から呼ばれるようになった所以の人だ。
その人と戦う咲には勿論、他校の人たちにも頑張って欲しい。

そう思いつつ、モニターを見ると一昨日の子がいた。
部長に聞くと、あの子が「牌に愛された子」の一人であり、昨年のIH最多獲得点数記録者である天江衣さんらしい。

隣の和も驚いている。聞くとあの子がエトペンを届けてくれたらしい。

(試合は原作見ろ、原作を。)


優勝し、喜び合う部の皆を見つつ、俺は部室を後にした。


試合は、咲に負けてしまった。しかし、それでも私にとっては大義となった日でもあろう。

池田華菜、加治木ゆみ達ともまた打ってみたい。
そう、思っていると後ろから声を掛けられる。
この前も聞いた気がする声だ。

「天江さん。」

やはり其処には、携帯を届けてくれた者がいた。

「お主か。」

「いやぁ。まさか携帯を届けた子が天江さんだとは思いませんせした。」
世界って狭いですねと笑いながら話す。

此奴も私から離れていくのだろう。近寄ってきては離れるそういう輩が五万といた。
きっとそうなのだろうと思っていた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は須賀京太郎っていいます。咲と同じ清澄高校に通う1年っす。」

「何を言っている?」

「何をって自己紹介です。俺だけ名前知ってるっていうのもアレですし。そういえば、和のエトペンも届けてくれたとか、代わって礼を言います。ありがとうございました。」


この後にも色々とあったが、京太郎とは連絡先を交換した。
珍しい者だと思っていたが、声すら出ない。

だが連絡を取りあうことは楽しいものだということが判明した。

これが誰かとメールなりなんなりしてみる楽しさなのかそれとも、京太郎とするから楽しいのかは私にも未だ分からぬ。

それでも、これだけはハッキリとしている。

京太郎が私に対して能動的に近寄ってくれたということ。



今度の合同合宿が楽しみで仕方がない。是非それ迄には、「衣」と呼ばせるようにしたいと思う。


カンッ