私はいつも、京ちゃんに世話を焼かせてばかりだった。
本に夢中になって、宿題するのを忘れてしまった時。
修学旅行で、皆とはぐれて迷子になってしまった時。
グループワークで、周りと打ち解けられずにいた時。
そのいずれも、京ちゃんがいたから何とか克服出来たんだ。
私は決して物事に積極的だとは言えない。
今でこそこうして麻雀に打ち込んでいるが、それだって彼が与えてくれた結果に過ぎない。
…だからこそ、何をやらせてもダメという文句にはカチンと来たのだけれど。
勿論、私が一方的に恩を着せられてばかりと言う訳ではない。
私だって彼に勉強を教えたりしたし、彼のお願い事には出来る限り応えた。
麻雀部の入部にしたってそうだ。
京ちゃんの頼みでなければ、私はあそこを訪れはしなかっただろう。
和ちゃん達と一緒に麻雀を打ちたいとも。
全国に行ってお姉ちゃん達に会おうとは、考えもしなかっただろう。
彼の事が私の中で大きな比重を占めているのは、出会った当時の状況もあるだろう。
私にとって好ましくない理由だって、きっとあるだろう。
―――彼は私を哀れんでいるフシがある。
それは無意識かもしれないし、ひょっとしたらそうではないかもしれないけれど。
まあ、今となってはきっかけなんてどうでもいいことだ。
京ちゃんとの出会いが、今現在の充実した状況をもたらしてくれたのだから。
再び麻雀を始めて、嬉しかったことはいくつかある。
けど一番嬉しかったのは、京ちゃんが私の事を褒めてくれるようになったことだ。
以前から彼は私に優しくしてくれたが、決して褒めてはくれなかった。
良いように解釈しても、せいぜい出来の悪い妹を可愛がるといった感じ。
それが全く逆のものになってしまったのだから、感動はことさら大きくなった。
…何故だか『アルジャーノンに花束を』の主人公を思い出して、不安に駆られもしたけれど。
でも、そんなのは正直どうでも良かった。
県大会で全国出場が決まった時には、不安なんてものは消し飛んでしまったから。
…あれ?
私達、団体戦で優勝したんだよね?
個人戦でも、お姉ちゃん達に勝って優勝したんだよね?
なのになんで?
なんでお姉ちゃんは私を拒んだままなの?
化け物を見るような目で、こっちを見るの?
他の皆だってそう。
話しかけてはくれるけど、傍には寄ってくれないの。
和ちゃんでさえも。
私のプラマイゼロを許さず毅然とした態度でいた彼女は…もう、どこにもいない。
…それでも、それでも京ちゃんは傍に居てくれる。
これまで通り、要領の悪い私の面倒を見てくれている。
けれど。
けれど彼は、私に麻雀を止めろという。
そうしないと…私が独りぼっちになるからだと。
―――どうして?
どうしてそんなことを言うの?
私…京ちゃんが誘ってくれたから、また麻雀を打てるようになったんだよ?
皆に…京ちゃんに褒められて、私…とっても嬉しかったんだよ?
なのに、なのに、私に麻雀を止めろだなんて。
あなたが望んだ事でもあるのに。
…私は、麻雀が楽しい。
もっともっと、強い人と戦いたい。
そして京ちゃん、あなたに褒めてもらいたいの。
ねえ。
ねえったら。
私のこと、もう一度で良いから褒めてよ?
麻雀だけが、私のとりえなんだから。
だから。
これにてカン!
最終更新:2013年10月14日 15:49