303 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:10:23 ID:5GhZmvyX


次局
配牌時の京太郎の手牌、実にテンパイ。
234678中中中發發發白 ①
タンヤオ・ホンイツ・小三元・白単騎待ち。倍満確定手である。

だが、一方の京太郎はその手の良さにもかかわらず、厳しく眉間に皺を寄せていたのだ。
(?…どうしましたの?ここは何も悩まずとも一筒切りで問題ないでしょうに)
不審がる透華をよそにその京太郎を観察する二つの瞳があった。


国広一は顔を下に向け、微笑する。
(その様子、どうやらボクの想像通りだったようだね)

その時、国広一の手牌
北北北東東東南南西西白白白 
小四喜・字一色、テンパイ。南・西待ち。
しかもこの手、同時に京太郎の上がり牌、白をつぶしている。
無論、これは京太郎の配牌を含めて全て一の手品である。
※註(いくらイカサマといってもちょっと無理ありますが、まあ手品ということで…)


一はゆっくりと息を吐いた。
透華との手品禁止の約束を破った悲しみと後悔の念だった。
(でも透華…。先にイカサマを仕掛けて来たのは須賀京太郎の方なんだ。
方法は分からないけど、須賀京太郎にはボクの手牌が見えている。
でなければさっきの局、…あの局面であの牌をカンをする筈がないんだ!)

結局、京太郎は一筒を切る。
苦々しい表情を最後まで崩さずに。
そこで国広一は確信する。この勝負、自分の勝ちだ…と。



304 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:11:16 ID:5GhZmvyX

時間は少し巻き戻る。
それは龍門渕高校の麻雀部の部室に京太郎が入ろうとする前の事だ。
それまで先頭に立って案内していた沢村智紀はゆっくりと京太郎の方を振り返った。
「須賀さん。これを受け取ってください」
「何ですか?これ」
智紀は京太郎に小さなイヤホンみたいなものを差し出した。

「それは私からの音声受信機です」
へー、と京太郎はそれをしげしげと見つめる。
「でも、何で俺にこんな物を?」
「このままのベタな展開でいくと、おそらく貴方は龍門渕の部室で一に勝負を挑まれる…」
智紀は白く光らせたメガネのズレを直しながら答える。


「はぁ、何故です?俺、別に国広先輩に恨まれるようなことしてませんけど…」
「透華はあれでいて自分に対する人の気持ちを読むのが下手だから」
鋭く冷静なその口調は変わらなかったが、若干の優しさがかいま見えたような気がした。
「でも、だからって貴方にはそこで負けてもらうわけにはいかない。
ですから、貴方が勝てる可能性を少しでも高めてみせます。
対面に座る貴方の牌に関して助言を行う事は出来ませんが、
相手の当たり牌ならそれを使って貴方に知らせてあげられます」

「……俺が万が一にもビギナーズラックで勝つって可能性は?」
「貴方の牌譜は事前に既に見せてもらいました…」
ため息をついて智紀は視線で京太郎を見据える。
「貴方の牌譜は時に悪運に愛され過ぎている。貴方が勝ちを目指す限り、貴方の勝ち目はない」
続けて智紀は言葉をつなぐ。

「貴方が一に負ける確率はおよそ99.95%、
奇跡でも起こらない限り、貴方が勝てる可能性はありません。
それでも一に正攻法で挑むと言うのなら止めはしませんが」
「なるほどね」
ニヤリと京太郎は口元を緩め、智紀の手から音声受信機を受け取った。




305 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:12:43 ID:5GhZmvyX

京太郎VS一、最終局面。
(クッ、まさかこんな事に…)
智紀は思わず自分のノートPCを手から落としそうになるのをこらえる。
一のイカサマまで彼女は予期しきれてはいなかった。
何とか今の状態を京太郎に伝えはしたが、その後の手について何ら助言を行うことが出来ていない。
無為無策。だが、この絶望的な状況に対し何が出来るというのか。


そして国広一の一巡目引いた手牌は「南」。

国広一の手牌
北北北東東東南南西西白白白 南
(…!!さらに地和!トリプル役満)
智紀は思わず目を瞑った。もう、駄目だと諦めるように。


一は静かに牌を切る。
(え…?)
一の捨牌は「四萬」であった。
智紀は緩やかに身を乗り出す。
先程、一が引いた牌は明らかに「南」だった。
それが、いまや場にない。
(そ、そんな…どこへ…?)
智紀はやっとの事で一の視線の先を追う。
国広一は自らの山の上の牌をじっと見ていた。

そこに至って智紀もようやく気付く。
(すり替え!?)
そう一は自分の捨牌を場に切る際に一瞬の間に山の牌と捨牌を入れ替えたのだ。
(しかも、この牌…)
一が見ている牌はそのままだと、あと3巡後の京太郎の引き牌になる。
(さぁ…ボクを本気にさせたんだ。せいぜい足掻いて見せてよ、須賀京太郎)
牌をトントンと敲きながら、一はうっすらと微笑を浮かべた。




306 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:14:24 ID:5GhZmvyX

現在の京太郎の手牌
234678中中中發發發白 :白単騎待ち

上がり牌を封じられた今の京太郎には「白」で上がれる可能性は欠片もない。
一応、京太郎は今の「白」を捨て、「南」待ち単騎に変えて一の当たり牌を回避することも出来る。
だが、ダブロン有りのこのルールでは一のダブル役満に勝てる役を作らねばならず、四暗刻・四槓子でもまだ足りない。
鳴きでツモ番を変えようにも純や歩が4巡目の「南」を捨てればもうその時点で終了。
さらに、一の待ちは西もまだある。それが何時出ないとも限らない…。
いや、もしかするとその残り3つの風牌の位置すら一が把握している可能性すらあるのだ。

その後の2巡間
京太郎は白単騎待ちを崩さない。そして、牌を鳴きもしない。
一は来た牌をただ処理しながら、虎視眈々と京太郎からの上がり牌を狙う。
純は一の高手を察知してベタ降り。
「リ、リーチ!」
歩は相変わらず空気も読まずにリーチをかます。
京太郎と同じく麻雀初心者の彼女だが、現在のところ断トツ最下位な事を考えれば必死になる気持ちも分からなくもない。


そして迎えた4巡目。
京太郎の引いた牌、「南」。
京太郎はとうとう一の当たり牌を引かされた。

「いい牌は引けたかい?須賀京太郎」
不意に一が口を開く。
「ああ、そうですね…ある意味最高かも」
「フ…フフフフ、強がりは止めておきなよ。分かっているんだろう?」
「何がですか」
「君とボクの点差は現在1200点差。君が勝つには上がるしかない」
「…それで?」
「けど、君の手はもう上がれない。つまり、ボクには勝てないって事にさ」
「あちゃー、まあ確かにその通りです…」
透華はまだ半分意味の分かってない様子だったが、その成り行きを見続ける。

京太郎は無言で捨牌を高く掲げた。
牌を捨てる間際、京太郎の口元がニヤリと歪む。
「ただし、俺は負けませんけどね…」
 ダン
牌を捨てた瞬間、場が水を打ったように静まり返る。

「…ロン!」
その京太郎の捨て牌を無情にもロンと宣言する声がその場に響き渡った。



307 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:16:23 ID:5GhZmvyX

「「…え!?」」
一と透華は同時に声を合わせて驚嘆の声を上げた。

ロンを宣言したのは国広一ではなかった。
否、ロンを宣言し損ねたのではない。京太郎の捨牌が「南」ではなかったのだ。
そう、その前には「白」が捨てられている。

一と透華と純は同時に視線をロンを宣言した人物、
杉乃歩へと向ける。
「やったー!初めてのあがりです!」
そう言って喜ぶ歩は自分の手牌を倒す。

その歩の手牌。
三三④⑤⑤⑥⑥⑦789發中  京太郎の捨牌:白

「あの…歩。ちょっと聞いてもよろしいでしょうか」
「はい?何ですか?」
「どこが上がりなのか…っていうか、もしかしなくても上がってませんわよね」
「え?やだなぁ。三元牌揃ってますよ。ホラ、白・發・中!」
そう言って歩は得意げにその三牌を並べてみせる。
「歩…。今はリーチしてるから白・發・中は役になる・ならないとかそういう問題以前に…。
――そういう揃え方に意味ないから」
「え?じゃ、じゃあ…」
「チョンボだな」
純はあっさりと言い捨てた。

「え、ええ~~!!」
歩、見事撃沈。
チョンボの満貫払い。結果、持ち点-1000で飛び終了であった。



308 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:17:52 ID:5GhZmvyX

と、純はそこでようやく気付く。
「ん?ちょっと待てよ。
子のチョンボの場合、親に対して4000点、他の2名に2000点だろ…。
ということは現在、親の京太郎と一の点差1200が逆転して……」
「えっと…それは…」
「そんな…!ボクの800点負け…!?」
一は仰け反り、指をわなわなと震えさせる。


その一を静かに見守る透華。
やがて意を決したように彼女はゆっくりと口を開いた。
「いえ、今回のルールでは25000の30000返し。オカありのウマなしですから
須賀京太郎は22400、一は21600。両方同じ-8ですわ」
「……という事は?」
「…この勝負、引き分けですわね」
クスリと笑い、透華は高らかにそう宣言した。



京太郎の最後の振込み、無論それは故意である。
だが、智紀が京太郎にそれを指示した訳ではない。
その時点の智紀はもう京太郎の勝ちを諦めていたのだから。
ではどうしたのか?
京太郎は智紀から歩の最初の手牌を聞かされていた。
だからこそ歩の捨て牌から彼女のチョンボリーチにギリギリ気付いたのだ。
二ヶ月前、まったく同じ事をした経験者として。



対局後、京太郎は腕を後ろに伸ばしながら、一へと近づく。
「いやー、しかし…ちょっと惜しかったなー。国広先輩の俺だけのメイド姿見たかったなー」
「フン…透華以外のメイドになるくらいだったら舌噛み切って死ぬよ」
そして京太郎と一は最後に握手を交わす。
互いに薄く笑みを浮かべたままで。

こうして京太郎の転校初日、一との勝負は幕を閉じたのだった。


京太郎×龍門渕編  第一部  完


309 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 21:20:07 ID:5GhZmvyX

第二部 予告

咲に負けて以来、ショックで麻雀がめっきり弱くなってしまった天江衣。
京太郎が龍門渕高校に招かれた真の理由とは衣と勝負して、自信を付け直させて欲しいとの事だった。
了承する麻雀初心者の京太郎と同じく麻雀ド素人の杉乃歩。
と、そこに透華に呼ばれた三人目の超麻雀初心者が現れる。
その正体は…え?妹尾佳織?
なし崩しのまま麻雀初心者三人は無謀にも衣に麻雀を挑む。
果たして京太郎は衣のトラウマを救い、立ち直らせることが出来るのか。


京太郎×龍門渕編 第二部
プロット、考案中。自分も、実は麻雀初心者。
出来たら書きます。…たぶん。

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最終更新:2012年06月23日 09:41