504 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/18(土) 20:14:59 ID:cvOptC+d


京太郎が麻雀部を去ってからだいぶ経った。
その日以来、京太郎は麻雀部に顔を出していない。

「彼、やっぱり戻る気はないんでしょうか……」
「もうあんな奴、知らないんだじぇ」

京太郎が去っても、麻雀部の活動はいつも通り行われている。
少しずつだが、以前の活気も少しずつ戻ってきた。
しかし、京太郎がいた時に比べるとどことなく寂しさが漂っている。
そして京太郎がおかしくなった原因を、咲だけは知っている。

ツヨナール。飲むと麻雀が劇的に強くなるという薬。
自分の弱さにコンプレックスを抱いていた京太郎は、この薬に手を出した。
そして彼は、悪魔の力を手に入れた。
ツヨナールの力で部長達をボロボロに負かし、彼はツヨナールの力に心酔した。
弱者が突然強い力を手に入れれば、次にやることはすの力の誇示。

「風越も、京太郎にやられたそうじゃな……」
「やっぱりあのお姉さんでも、ダメだったじぇ」

京太郎は麻雀部を去ってから、県内のあちこちの強豪校へと挑戦をし始めた。
そして千曲東や東福寺など、麻雀で有名な高校に乗り込んでは圧勝を続けた。
彼は先の大会で好成績を残した鶴賀学園すらも破り、そして風越女子も彼の毒牙にかかった。
最近では、藤田プロをも完膚なきまでに叩きのめしたという噂もある。
彼がまだ戦ったという話を聞かない高校といえば、龍門渕くらいのものだ。

「ごめんなさい、私のせいでこんなことになっちゃって。皆にも……須賀君にも、申し訳ないわ」

久は現状を作り出した最も大きな原因となっている人物だ。
そのことを久は、ずっと気に病んでいる。

「そんな、部長のせいじゃ……」
「そうじゃ、気にせんとき」
「と、とりあえず、麻雀しようじぇ!」

タコスの一声で、皆が麻雀の準備を始める。
まるで、京太郎のことを忘れようとしているかのように。
そんな中、咲だけは動かず喋らず、ずっと窓の外を見続けていた。

「宮永さん、どうしたんですか?」
「え……あ、ごめんなさい」

慌てて咲も卓に向かう。
しかし咲の心には、ずっと京太郎のことが引っかかっていた。

(京ちゃん……京ちゃんは今、何をしているの……)


505 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/18(土) 20:17:45 ID:cvOptC+d

その日の夜、龍門渕麻雀部の扉を開く者があった。
現れた人物を見て、一同が身を固くする。

「お前だな、噂の須賀京太郎ってのは」
「……………………」
「たいそう、強いそうだね」
「ここに来たということは、目的は一つですわね」
「……よく知ってるな。話が早くて助かるぜ」

部室にいたのは5人。井上純、沢村智紀、国広一、龍門渕透華。
そして。

「今宵は満月、それも夜は衣の力が最も発現せし時」
「ええ、それを狙いましたからね。天江先輩」
「貴様は妖異幻怪の気形なのか?」
「さぁ……その身で確かめてみたらどうでしょう」
「こんなにも月が紅いから、本気で玩弄して打ち毀す」
「こんなにも月が紅いのに」

「「楽しい夜になりそうだ」」



須賀京太郎VS天江衣、死闘の幕が開いた。

515 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/22(水) 18:36:54 ID:s0RD2TGd

ルールは25000点持ちのアリアリ、赤ドラなし。
東家から順に透華、衣、一、京太郎という席順になり、純と智紀は観戦である。



東1局。

純の脳裏に先日行われた県大会決勝の場面が浮かんだ。
福路美穂子、竹井久、原村和、東横桃子、加治木ゆみ、そして……宮永咲。
誰も彼もが常人と一線を画した力を持つ、素晴らしい打ち手であった。

(さて……この男はどんな麻雀を打つんだろうな)

純は京太郎の後ろに回って打ち筋を眺めることにした。智紀は衣についている。
まずは配牌。中が対子になっており、ごくごく普通の配牌である。
その7巡目。

「ポン」

衣から出た中を鳴き、テンパイ。そして次巡。

「ロン。中のみ千点」
「なっ……私の親が……」

透華からすぐに和了をとった。



        衣:25000
一:25000         透:24000
        京:26000



東2局、衣の親番ではタンピン三色の見える好配牌だったが、

「チー」

中盤であっさり喰い仕掛けに以降し、数巡後。

「ツモ。タンヤオドラ1」

これまた早和了りを達成した。




        衣:24000
一:24500         透:23500
        京:28000



516 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/22(水) 18:39:26 ID:s0RD2TGd

(あれ……何だこりゃ……)

純は違和感を覚えた。
京太郎は確かに和了りをとってはいるが、その打ち筋は平々凡々。
先の大会で見た強豪達のような、圧倒的な気配もまるで感じない。
その心境を読んだかのように、衣が口を開いた。

「乏しいな。凡庸極まりない」

衣から凄まじいオーラが発せられた。
ざわ、と皆の体に鳥肌が立つ。京太郎は……動じない。

(き、きましたわ……)
(始まる……衣の支配が……)

「フジタをも倒すほどの打ち手だと聞いてうきうきしていたが……
 その程度では、衣の贄となる運命からは逃れ得ぬ。そろそろ御戸開きといこうか」



東3局。

「ポン」

早々に白と九萬を衣は鳴く。
そして京太郎から5巡目に一筒が打たれると、冷たく微笑んだ。

「昏鐘鳴の音が聞こえるか」

そのまま、ゆっくりと牌を倒した。

「ロン。白トイトイ混老頭、満貫だ」
「……………………」




        衣:32000
一:24500         透:23500
        京:20000


517 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/22(水) 18:44:33 ID:s0RD2TGd
東4局。

(やっぱり、一向聴から進まない……)
(衣が、本格的に仕掛けてきたようですわね)

衣の力の一つ、一向聴地獄。
同卓した者が、海の底に引きずり込まれるかのように一向聴から手が進まなくなる。
この局も、一も透華も好形ながら、一向聴地獄に迷い込んだ。

(そして、この男も例外ではなかった、か)

純は京太郎の打ち筋をずっと見ているが、中盤から一向聴のまま進まない。
非常に待ち受けの広い一向聴だが、さっきからツモ切りを繰り返している。
そしてそのまま袋小路に迷い込んだ16巡目。

「……チー」

京太郎は少考した後、一から鳴いてテンパイを取った。
その時、一同に電流が走る。
この鳴きにより、海底牌をツモる者が透華から衣へと変わった。

(なっ、なんてことを……)
(衣のこと、知らないわけではないのでしょう!?)

そして衣は。

「リーチ」

残り1巡ながらツモ切りリーチを放つ。
衣のもう一つの力それは海に映る月を撈い取る力。

「リーチ一発海底ツモ、タンピンドラドラ。倍満」

こうして、東場が終わった。
天江衣が、その力を存分に見せ付けて。



        衣:48000
一:20500         透:19500
        京:12000


518 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/22(水) 18:46:59 ID:s0RD2TGd
「……下らぬ。須賀京太郎とは、この程度か」

衣は失望していた。
須賀京太郎とは、自分を満足させ得る力の持ち主なのかと思っていた。
噂を聞くたび、戦いへの期待がどんどん膨らんでいった。
だが、今目の前にいる男は、自分が想像していたような厄介な打ち手ではない。
何のオーラも感じない、ただの普通の打ち手でしかない。

「東場が終わって36000点差では、もうどうしようもないですわね」
「ま、いくら他所で勝っていても、衣には敵わないってことだよ」

透華と一も、もう決着が着いたと思った。純も智紀もそう思った。
だが、そのような空気の中、京太郎は静かに語りだした。

「……俺は最近まで、滅茶苦茶弱かった」

いきなり何事か、と皆が京太郎に注目する。

「周りは咲とか和とか、化け物揃い。そんな中、ド下手の自分は見下されていてね。
 俺は強い奴が憎かった。自分に無い、圧倒的な力を持っている奴が羨ましかった。
 だが、俺は力を手に入れた。もう誰も、俺を見下すことなどできはしない」

ニヤリと笑った京太郎を見て、衣は背筋が震えた。
この男は、これほどの力を見せ付けられながら、全く臆していない。
今も、ただただ勝つ気でいる―――――

「天江先輩、確かに大した強さだ。今まで俺が倒してきた連中の中でも最強かもしれない。
 だがな……それでこそ、わざわざ乗り込む価値がある。壊しがいがあるってもんだよ。
 さぁ、続けようぜ。南場突入だ」


夜のとばりが降りてくる。
須賀京太郎VS天江衣、まだまだ戦いは終わらない。

576 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/29(水) 21:38:48 ID:7fANjYr7

南1局。水深が首元にまで達する。

(駄目……鳴けませんわ……)
(このまま行くと、海底は……)

全員面前のまま進んだ17巡目、衣のツモ切りリーチが入る。
そして。

「ツモ。リーチ一発海底ツモ、満貫」



        衣:56000
一:18500         透:15500
        京:10000



南2局、衣の親番。
早々に東、白と役牌を二つ鳴いた衣はわずか6巡目で和了った。

「ツモ。混一トイトイ役々、6000オール」



        衣:74000
一:12500         透:9500
        京:4000



「相変わらずだね、衣……」
「こんなの、無理ゲーですわ!」

衣の点数は74000。追いつこうとして追いつける点差ではない。
一と透華は、もう完全に戦意を喪失していた。
だが、衣は内心穏やかではいられなかった。
衣と初めて戦った相手は皆、圧倒的な力の前に心を折られる。例外など、誰もいなかった。
だが、これほどの差をつけられても、目の前の男は顔色一つ変えていない。
その闘志にも、いささかの衰えも見られなかった。

(馬鹿な……今更何が出来るというのだ)

衣は大量のリードを奪いながらも、京太郎に対する不気味な印象を拭い去ることはできなかった。


577 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/29(水) 21:41:33 ID:7fANjYr7
南2局1本場。
衣の手はタンヤオドラドラ、ツモれば1本場も含め4000オールの良形だったが。

「チー!」

ほぼ唯一といっていいくらいのピンポイントで京太郎から透華が鳴き、次巡。

「ロン!タンヤオドラ1、2000は2300ですわ」

透華は京太郎から和了り、衣の親番を流した。
ミエミエの差し込みである。



        衣:74000
一:12500         透:11800
        京:1700



残すは2局。衣と京太郎との点差は、72300。
親役満ツモでもひっくり返らない、絶望的な大差である。
だが、それでもなお……京太郎の表情は変わらない。まるで、予定通りというように。

「なぜだ……」

ぽつりと、衣が呟いた。

「なぜ貴様は満身創痍ながら、意気軒昂でいられるのだ……」

70000点以上の差と、たった2局という残り局数。しかも相手は、あの天江衣。
衣と戦った相手は皆、世界の終焉を見るような顔をする。
誰もが衣を恐れた。だが、京太郎は全く心がぶれていない。

「天江先輩……あんたは、自分が勝つと思っているのかい?」
「……当然だ」
「それは違う」

ぴしゃりと京太郎は言い放った。

「そんな風に思っていたら、そんな言葉は出てこない。あんたは、負けるかもと思っている。
 俺を……恐れているから」

それは、衣の確信を突く言葉。
衣が京太郎に抱いていた、何やら分からぬ不気味さの正体。それは、恐怖。
この男には、殺されるかもしれないという。

「たとえ何点リードがあっても、昔の俺はあんたや咲には勝てなかっただろうさ。
 だがな、今の俺は違う。今の俺から見れば、あんたも咲も昔の俺も変わらねぇよ。
 点差は72300、残り2局……十分だ。あんたの息の根を止めるには十分だ」

凄まじい圧迫感が皆を襲う。
衣はガタリと音をたてて立ち上がった。その体は、小刻みに震えている。

「さあ、追うぜっ……天江先輩!」

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