プルルルルッ
 プルルルルッ

「もしもし…」
「あ、もしもしっ。照さん、お久しぶりです」
「久しぶり、京ちゃん。」
「今、時間大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ。どうかしたの?」
「良かった~。あっ今、照さんがこっちに帰ってきてるって咲に聞いたんで、電話してみました」
「そっか。ありがとう」
「いつ東京に帰るんですか?」
「来週の月曜だよ」
「明後日ですか…。」
「うん…それがどうかしたの?」
「あのっ、照さん!実は………………」

 *

 外の冷たい空気がつんと肌を刺激し、野山の木々はだんだんと赤色や黄色に染まってゆき、やがてそれは落ち葉となる。
その光景は、季節が秋から冬へと変わろうとしていることを数多くの人々に認識させていく。

そんな季節の、ある日

「ねえ、お姉ちゃん…」
 宮永咲が、姉である宮永照に、少し不安を含んだような声色で話し掛ける。
「ん…なに?」
 咲に声をかけられ、ソファに座りながら読書をしていた照は目を通していたページに栞を挟み、パタリと本を閉じた。
それを見た咲が一歩一歩ゆっくりと照の元へ近付き、隣に腰をおろす。
そして照の顔を見つめ、少しだけ険しい表情になりながら、話を始める。

「あのさ…さっき電話してたのって、京ちゃん…?」
「えっ…」
 それを聞いた照は、わずかに眉をぴくりと動かす。
「…聞いてたの?」
「うん…ご、ごめんなさい…。おトイレに行こうとしたら、偶然聞いちゃったんだ…っ」
 ほんの少し俯き気味になり、更に咲は、本当は聞くつもりじゃなかったんだけど…。と、言葉を続けた。
「そっか…」
 ふぅっと軽くため息を吐き、天井をぼんやりと眺めながら、照は咲の問いにきちんと答えようと覚悟を決める。

「そうだよ…さっき電話してたのは京ちゃん」
「や、やっぱりそうだったんだっ…」
 下を向いたまま、服の裾をギュッと握り締める咲。その手は、プルプルと小刻みに震えている。
その様子を横目で見つめながら、照は話を続けた。
「うん…黙っててごめんね。実は、明日二人で隣町まで行くことになったんだ」
「ええっ…!?」
 部屋の中に、ひときわ大きな声が反響する。
思いもしなかったことを突然告げられ、驚きのあまり咲は目をまるくしながら、ぽかんと口を開いたまま体が硬直してしまった。
「ふっ、二人きりで会うの…っ?」
「う、うん…っ」
 急に出された大きな声に圧倒され、照も驚きの表情を隠せなかった。
目をぱっちりと開けて咲の顔をまじまじと見つめる。
「もっもしかしてお姉ちゃんって京ちゃんと付き合ってたの…っ?」
 やや声が裏返り気味になりながらも、照を問い詰める咲。
「えっ…?い、いや…別にそんなんじゃないよ?」

ここで、照はふと考えこむ。
(何で、彼のことでこんなに必死になっているんだろう?咲にとって京ちゃんは、ただのクラスメイトってだけじゃなかったの…?)

 咲はいつも、お姉ちゃん、お姉ちゃん!と言ってはにこにこしながら照にべったりくっついて離れなかった。
それほど、姉のことが大好きな妹だ。
小学生の頃なんかは、照が近所の男の子と喋っているのを見ただけで、頬っぺたをぷっくり膨らませて
「お姉ちゃんは咲のだよっ」
と焼きもちを妬いたりもしていた。
 そんなことがあったので、今回の京太郎とのことも、その焼きもちの一種なのだろうと照は思い込んでいた。
そのため、咲にそのことを説明するのは少しだけ勇気が必要だったのだ。
しかし今の咲の態度は、小学生の時のもとは明らかになにかが違う。

「ふっ、二人で会う約束は、どっちからしたのっ?」
「……京ちゃんから誘われたんだよ」
「そ、そうなんだ…」

消え入るような小さな声で、しゅんと肩を落としてしまう咲。目の端にはうっすらと涙を浮かべている。

(あ…もしかして…)
その姿を見て、照はようやく咲の気持ちに気付き始めた。

「咲、もしかして京ちゃんのことが好きなの…?」

「…………うん…」
 一瞬、肩をぴくっと動かしたあとに咲が返事をする。頬をうっすらと赤色に染めながら。

「そっか…」
(やっぱり、そうだったんだ。もう子供じゃないんだね・・・。)

「咲…」
「なに…?」
「何か勘違いしているみたいだけど、私は別に京ちゃんのことは好きとかそういう風に思ってはいないからね?」
「えっ…?そうなの?」
「うん。明日だって、買いたいものがあるから選ぶのを付き合ってほしいって言われただけだし…
だから、デートとかそうゆうのじゃないからね?」
「あ…なんだ、そうなんだっ…私、てっきりお姉ちゃんも京ちゃんのことが好きなんだと思ってた…」
 そういって咲は、あははっと安心したように笑う。
だんだんと笑顔を取り戻していく咲の姿を見つめ、照もまた安心して頬を緩める。
「ううん。全然違うよ。だから、元気出して?」
 頭を撫でながら、照が優しく微笑みかける。
それを、咲がくすぐったそうに、でも気持ちよさそうに目を瞑って受けとめる。
「あ、なんなら明日はやっぱり会うの止めようって京ちゃんに断ろうか?
それとも咲が代わりに行く?」
「えっ?あ、いや…っそれは京ちゃんに悪いから良いよっ…」
 胸の前で両手を小さく振り、いやいやと咲が困ったように笑う。
「そう?」
「うんっ。明日はお姉ちゃんも、お買い物楽しんできてっ!」
「ん、分かったよ…」
誤解を解いて一安心した照は、咲に聞こえないように小さく、ふぅと安堵の溜め息を吐く。

「ところで、お姉ちゃんっていつ京ちゃんと連絡先交換したの?」
「ん?ああ…ええとね、全国大会の時かな。先鋒戦が終わって会場の中をぶらぶら歩いてたら偶然会ったんだ」
「あ、そっか。そういえば京ちゃんもお姉ちゃんに会ったよって言ってた気がする」
「うん。そうそう」
「お姉ちゃん、携帯持ってて良いなぁ…。」
「咲もそのうち買ってもらえるよ。」
「う~ん…そうかなぁ」
「それに携帯が無くてもほぼ毎日、部活で京ちゃんと顔合わせてるんでしょ?」
「うんっ」
「だったら、頑張って…。ね?」
 照は、咲の肩に手を置き応援の声をかける。それを聞いた咲は、ぱぁーっと顔を明るくして、ニコッと笑った。
「うんっ!私、頑張るよっ…お姉ちゃん!ありがとうっ」
そのまま照の胸へと飛び込み、顔を埋める。

「こらこらっ…くすぐったいよっ」
「えへへっ…」

 居間に、あはははっと二人の笑い声が響き渡った。

 *

 翌日

「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい!お姉ちゃんっ」
「うん…」
咲に見送られ、照は京太郎と会うために家を出かけた。

「うう…寒い…」
 ひゅ~っと冷たい風が肌をかすめ、ぶるぶるっと体が震える。
「早く行こ…」
 肩をさすりながら、待ち合わせ場所の駅まで早歩きで向かう。
家を出発してから20分くらいが経過した頃。ようやく駅が見えてきた。

「あっ照さ~ん!」
 そこには既に京太郎の姿が見える。
「お待たせ、京ちゃん」
「寒くないですかっ?」
「うん…ちょっとね」
「よし、じゃあ早く入りましょう。」
「うん、そうだね。」

 駅の中に入り、二人でホームに立つ。しかし、電車が到着するまでの間は、やはりこの寒さに耐えなければならない。
手をすりすりとこすり合わせ、はぁ~っと白い吐息を吐く照。
そんな様子を見兼ねた京太郎が、何か思いついたかのように口を開いた。

「あっ照さん、良かったらこれ…」
「えっ…?」
 自分が首に巻いているマフラーを指差しながら、京太郎が照に笑いかける。
そして、しゅるしゅるとそれを外し照の手に握らせた

「あのっ…良いの?京ちゃんは寒くない?」
「俺は全然平気ですよっ!電車の中も、まだ完全に暖房が回っていないと思うんで…」
「あっありがとう…」
「いえいえっ」
 頭をぽりぽりとかきながら恥ずかしそうに、はにかむ京太郎。
「優しいんだね、京ちゃんは」
 借りたマフラーを首に巻きながら、照が呟く。

「そ、それは照さんだからですよっ…」
「えっ…?」

思いがけないことを言われて驚き、京太郎のほうを振り向く。
しかし、すぐに視線を逸らされてしまった。

(聞き間違えかな?今のは…)

 ガタンゴトン...ガタンゴトン...
不思議そうに京太郎の顔を見つめていると、ちょうど電車がホームへと侵入してきた。

「お、きたきたっ。じゃあ乗りましょう!」
「うん…」

 二人で電車のシートに腰を下ろし、向かい合わせに座る。
照は、借りたマフラーの生地を撫でながら窓から外をぼんやりと眺めた。

(京ちゃんのマフラー…暖かいな)

そんなことを考えていると、何故だか急に心臓がトクトクと高鳴り始めてしまった。

(あ、あれ…なんだろう?この気持ちは…)

ふいに、京太郎と目が合い再びニコッと笑顔を見せられ、次第にドドッドドッと鼓動が早くなっていく

(う…胸が苦しいよ。なんなの、これ…?)

ギィーーーッ。
車輪とレールが擦れ合う音が響き、ゆっくりと電車が動き始めた。

照は、その気持ちが一体何なのか分からないまま、ただひたすら、窓から流れる景色を眺め続ける…


 *

「はぁ…。お姉ちゃん、行っちゃったよぅ…」
照が出て行ってから、もう10分以上も経っているというのに、咲は今だに一人で玄関のドアをぼーっと眺めていた。
(いってらっしゃい。なんて言ったものの、やっぱり少し寂しいな…)

「ううっ…京ちゃん…っ」
考えれば考えるほど、むなしくなる。
気がつくと目には自然と涙が溜まっていた。それをゴシゴシと手で拭いとる。
「はぁ…京ちゃんは、お姉ちゃんのことが好きなのかな…」

 今までは、ただそばで眺めているだけで満足だった。
しかし、いざ誰かが京太郎と仲良くしている、という事実を目の当たりにしてしまうと途端に胸がチクチクと痛み出してくる。
その相手が実の姉なだけに、尚更このショックは大きいのだ。

「はあ…………」
涙でチラチラと光っている手を見つめ、大きな溜息を吐く…そのとき

 プルルルルッ
 プルルルルッ

「あっ…」
家の電話の鳴る音が聞こえた。慌てて居間に戻り、ううん、と咳払いをしてから受話器を手に取る。

「はいっ、宮永です」
「もしもし…私、原村と申します…」
(あ、この声…)
「は、原村さん!?」
「…あ、宮永さんですか?」
「うんっ!私だよっ。どうかしたのっ?」
連休に入ってから、初めて聞く部活仲間の声に、どこか安心感を覚える。

「実は今日、これから優希と一緒にタコスのお店に行くのですが…もしお暇でしたら、宮永さんも一緒にどうかなと思いまして」
「あっそこって、前にも三人で行ったとこ?」
「ええ、そうです」
”そこ”とは以前、片岡優希が試験で赤点をとった際に、原村和と三人で勉強会を行った店のことである。

「行く行くっ!ちょうど今日は暇だったんだ」
友人からの嬉しい誘いに、咲の気分はみるみるうちに晴れていった。
咲の元気な声を聞き和も電話越しに、ふふっと笑い声をあげる。

「良かったです。それでは――で待ってます…」
「うんっ分かった!じゃあまた後でねっ」
「はい」

ガチャ。

「さてと…着替えなくちゃ。何を着ていこうかな…」
受話器を置き、さっそく咲は出かける準備を始める。


 *

その頃、京太郎と照は目的地の駅へと到着し、街中まで移動する最中だった。

「そういえば京ちゃん、買いたいものってなに?どこのお店にいくの?」
二人で肩を並べて歩きながら、照が尋ねる。
「ああ~っ…ええと…」
その問いに対して、京太郎は少しの間口ごもる。
「あれ、京ちゃん…?」
どうして黙ってしまうんだろう?と不思議に思い、照は京太郎の顔を見上げる。
「・・・・!」
すると、そこでバチッと目が合ってしまった。二人とも自然に足が止まる。そして、ほぼ同時にお互い目をそらす
「ああ…いやっ。買い物は後にして、とりあえず飯でも食いに行きませんかっ…?」
「そ、そうだね。うん、分かった…」
(買い物は後回しで良いんだ…あ、もしかして京ちゃん、お腹空いてるのかな?)
「じゃあ、行きますか」
「うん…」
こうして二人は、再び歩き始める。

「・・・・・・・」
胸に手を当てると、ドドッ…ドドッと勢いよく振動が伝わってきた。
(なんで私、こんなにドキドキしてるんだろう…)

この感情が一体何なのか分からなくて、モヤモヤした気分になる。
ふと、自分よりも少しだけ前を歩いている京太郎の背中を見てみると、とても広いことに気がついた。
腕や足も、すらっとしていて長い。
(京ちゃん、大きくなったんだなぁ…)

 昔はちょっと私よりも背が高かっただけなのに、今ではこんなにも身長に差がある。
照は、まだ自分が長野で暮らしていた頃のことを思い出し、懐かしみながらほんのりと口元を緩めた。

 *

「原村さん、優希ちゃん!お待たせっ」
「こんにちは。宮永さん」
「おお~咲ちゃん!久しぶりだじぇ!」
待ち合わせ場所の店の中へと入った咲を、和と優希が笑顔で迎えてくれた。
椅子を引き、二人の向かい側に座る。

「あははっ久しぶりって言っても、たったの二日ぶりだよ?優希ちゃん」
「んぁ~?そうだったっけ?」
「最後に会ったのは金曜の部活でしたので、二日ぶりですね」
「そうか~。あっ、そこのお姉さん!チキンタコス四つ追加注文だじぇ!」
「………まだ食べるんですか?今の注文で十二個目ですよ?」
「ええっ!?私が来る前にもうそんなに食べてたのっ?」
「我が胃袋は底知れず!まだまだいくじぇ~!」
両手を腰にあて、エッヘン!とポーズをとる優希。それを見た咲と和はお互いに顔を見合わせ、困ったように笑いあう。

「宮永さんは、何にしますか?」
和がテーブルの上にメニューを広げ、咲の前へと差し出す。

「うーん。どうしようかな…。原村さんはもう何か頼んだの?」
「はい。私はついさっき紅茶を。もうすぐくるはずです」
「そっか。じゃあ私はオレンジジュースにしようかな」

――お待たせ致しましたー!
先に和の紅茶、続いて咲のオレンジジュースを店員がテーブルへと運んできた。


「二人とも、この連休は何をしてたのだ~?」
タコスをあむあむ頬張りながら、優希が二人に質問をする。
「そうですね…とくにこれといっては…。暇な日はほとんどネット麻雀をして過ごしていました。」
「そっか!咲ちゃんは?」
「わ、わたし?」
和の話を聞いていた咲がストローから口を離し、優希のほうを向く。
「そうだじぇ」
「うーん。私も特になにも…。お姉ちゃんと一緒に買い物に行ったくらいかなぁ?」
「えっ?今お姉さんはこちらに帰ってきてるんですか?」
「うん。明日の夕方に東京に戻るんだ」
「ほぇ~そうだったのかぁ~…」
「あの…せっかくお姉さんが帰ってきてるのに、私たちと遊んでても大丈夫なんですか?」
和が少し遠慮気味に咲に尋ねる。
「うんっ。今日はお姉ちゃんも家に居ないし、私も予定が無かったから暇してたんだ。だから誘ってくれて嬉しかったよっ」
「………」
えへへっと二人に対して笑顔を向ける咲。しかし、その笑顔は無理をして作っているものだと和はすぐに気がついてしまった。
声をかけるべきか、そっとしておくべきか…。そう迷っている間に優希が咲に話しかける。
「咲ちゃんのお姉さんは今日どこかに出かけてるのかぁ…?」
「えっ…あ…」
一瞬、肩がぴくっと震え、それから咲の顔がピシッと固まってしまった。
その様子を見て、あっ何かまずいこと聞いちゃったかな?と優希が少し焦り始め、和はただじっと咲の顔を見つめている。

「実は…今、お姉ちゃんと京ちゃんが二人で出かけているんだ…」

「・・・・・・・」
咲の言葉を聞いて、一瞬その場が凍りついたように静まり返った。それからすぐに和と優希が同時に声をあげる。
「ぇえっ?きょ、京太郎が…!?」
「すっ須賀君がお姉さんとですか…!?」
そして、二人がテーブルに手をついてガタッと立ち上がり、咲のほうへ身を乗り出す
「うぇっ?うん…」
咲はそんな二人の姿を見て驚き、びくっと身を震えさせながら返事をした。
すると…

「えっ?」
「じょっ…?」
「優希…?」
「のどちゃん…?」
こんどは和と優希がお互いの顔を見合わせて、自分たちが今、全く同じ反応をしたことについて驚き始めた。

「あの…と、とりあえず…二人とも座ったら?」
一体今、何が起こったのかいまいち理解できていない咲が、やっとの思いで二人に声をかける。
「そ、そうですね。お騒がせしてすみませんでした…」
「ご、ごめんだじぇ…」

ガタガタッと二人が席につき直し、無言のままそれぞれが自分の飲み物を口にする
「・・・・・・・・・・・・・」
沈黙状態が続き、さっきまでは全く聞こえなかった、食器がカチャカチャと鳴る音や周りの客達の話し声が三人の耳をつく。

(二人とも急に黙っちゃって、どうしたんだろ…もしかして、この二人も京ちゃんのことが…?)
(さっきの優希の反応…。やはり、優希は須賀君のことが好きなのでしょうか…?それに、宮永さんもずっと暗い表情のまま…もしかして…)
(のどちゃんも咲ちゃんも、さっきから様子がおかしいじぇ…。まさか、この二人も京太郎のことが好きなのか…!?)

「・・・・・・・・・・・・・」

この沈黙状態を一番先に破ったのは、和だった。
「宮永さん、あの…須賀君とお姉さんは二人きりで出かけるほどの親密な仲だったのですか…?」
「わ、私もそこが気になるじぇっ!もしかして付き合っているのか…!?」
「え…ええと…」

二人とも、素直に自分も京太郎のことが好きだということを言いだせないまま、今はただ照と京太郎の関係について、咲から聞き出すしかなかった。

「昨日お姉ちゃんに聞いたら、別に付き合ってるとかそうゆうのは無いし、京ちゃんのことはなんとも思ってないって言ってた」
「なんだ…そうなんですか。」
(良かった…)

「そっか!付き合っている訳ではないんだな!」
(ふぅ…安心したじぇ…)

「うん。でも…」
「はい…?」
「じょっ?」

「京ちゃんは、お姉ちゃんのこと…どう思ってるんだろう…」


「……い、言われてみれば…。須賀君の気持ちはどうなんでしょう…」
「そ、そもそもっ!なんで京太郎と咲ちゃんのお姉さんは今日一緒に出かけることになったのだ…?」

「それは、なんか京ちゃんが買いたいものがあるからお姉ちゃんに選ぶのを手伝ってほしいって頼んだみたいなんだけど…」
「買いたいもの、ですか…なんでしょうね?」
「んん~ぅ…。近いうちに誰かの誕生日があるとかか…?」

「でっでも、少なくとも部活のメンバーの中には今月誕生日の人は居ないよね…?」
「ええ、確かに…。それに、友達の誕生日があるとしても、それだったらお姉さんではなく男性の方にお願いするはずです」
「ぐっ…。のどちゃんの言うとおりだじょ…」

(うん。確かに…原村さんの言うとおりだ。)

「やっぱり、京ちゃんはお姉ちゃんのことが好きなのかな…」
俯き気味になり、咲がぼそっとそう呟いた。

「………」
「………」

再び、三人の間に沈黙が生まれる。


 *

 同時刻、隣町の喫茶店にて。
昼食をとり終えた京太郎と照は、二人で紅茶をすすっていた。

 *

「さっきのパスタ、すごく美味しかったね。」
「気に入ってもらえて良かったです」

京ちゃんが案内してくれたお店は、味も良く値段もそれほど高くなくて、高校生の私達にとってはとても良心的なところだった。
でも、京ちゃんがあんなに良いお店を知っていたなんてちょっと意外。なんてこと言ったら怒るかな…。
「………………」
チラッと彼のほうに視線を向けると、目を閉じて静かに紅茶を飲んでいる姿が見えた。
その表情はどこか少し大人びていて一瞬ドキッとしてしまう。
「どうかしたんですか?」
「えっ?あ、いや…なんでもない…っ!」
「…そうですか」
突然京ちゃんと目が合い、私はびっくりして慌てて顔を背けてしまった。
なんで私、こんなに動揺してるんだろう。
自分でも分からない…。
だけど、胸に手をあてなくても私の心臓が今、ものすごい勢いで鼓動を刻みこんでいるのは分かる。
ドドッドドッと、音が聞こえてきそうなくらい激しく脈打っている。胸が苦しい…。
「照さん、顔が赤いですけど…大丈夫ですか?」
「えっ…私、顔赤くなってる…?」
「なってます」
そう京ちゃんにそう言われたので手を頬にあててみると、そこは自分でもびっくりするくらい熱を帯びていた。
なんだろう、これ…
「もしかして、俺と喋っててそうなってるんですか…?」
「……………」
どうしよう。京ちゃんの問いに答えられない。
確かに私が今こんな状態になっている原因は京ちゃんだ。
でも、それがどうしてなのかが分からない。
だから答えられない。

私が黙ったままでいると、もう一度京ちゃんが口を開いた。
「照さん…俺、期待しちゃっていいんすかね?」
期待?期待って、どうゆう意味だろう。
今京ちゃんが何を言っているのかがさっぱり分からない。
さっきから、分からないことが多すぎて、だんだん自分に対してもどかしい気持ちでいっぱいになってきた。

「…すいません、急に変なこと言っちゃって。とりあえず外に出ましょうか」
「あ、うん…」

会計を終えてお店の外に出ると、秋の冷たい風が頬をかすめた。
けれど、顔が火照って熱くなっている私にとってはその風はひんやりとしていてとても気持がいい。

「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
こんどこそ、買い物に行くのかな?
そう思いながら京ちゃんの背中の後を追って歩く。
「…………」
京ちゃん、やっぱり足長いな。
それと、さっきと比べて歩くのが少し早い。
私がいつも通りの速度で歩いていたら、あっという間に距離があいちゃいそうだ…。

お店を出て十分くらい歩いたころ。

何故か急に、ピタッと京ちゃんの足が止まってしまった。
「どうし…」
どうしたの?と、私が聞こうとした瞬間、彼ではない別の誰かの声が聞こえてきた。


「あら、須賀君じゃない。奇遇ね、こんなところで会うなんて」


あれ…この人って、確か…

「部長。二日ぶりですね」

京ちゃんの言葉を聞いて、ふと思い出す。
ああ、そっか。この人は咲達の学校の…麻雀部の部長さんだ。全国大会で何度か顔を会せたっけ。
名前は竹井さんだったかな。

「お久しぶりです。咲のお姉さん。」
「あ…はい。こんにちは、竹井さん」
大会の時も思ったけど、やっぱりこの人は美人だな…。
「全国大会以来ですね。いつからこっちに帰ってきてたんですか?」
「金曜の夜からです。」
「そうですか。ところで…」

挨拶を済ませると、竹井さんが私の顔を二秒ほど見つめ、それから京ちゃんの方をチラッと見た。
そしてまた私の顔に目線が戻り、彼女の口が開く。

「もしかして、デートの途中だったかしら…?邪魔しちゃった?」
少し眉を下げ、申し訳なさそうに彼女が私達に尋ねてくる。いや、でもこれは…

「デートだなんてそんな…。京ちゃんが買いたいものがあるって言うので私は選ぶのを手伝いに来ただけです。」

うん…そうだ。これはデートとか、そうゆうのじゃない。京ちゃんの買い物に付き合ってるだけ。
今、私が言った言葉にウソはない…はず。
なのに、なんでだろう。また胸が苦しくなってきた。
しかも、さっきのとは違ってこんどはチクチクと針が突き刺さっているように痛い…。
一体なんなの…?

私が言葉を発してから、何故かその場がしんと静まり返ってしまった。
気のせいか京ちゃんの目が寂しそうに見える。そして、竹井さんの目はどこか驚いているように見える。
あれ…。二人とも、どうしちゃったんだろう?

「あ、そう…。そうよね。変なこと聞いてごめんなさい。」
ようやく竹井さんが喋ってくれた。私は
「いえ…」
と、返事を返す。
「それじゃ、私はここで失礼するわ。またね、須賀君。」
「ああ、はいっ。また部活で会いましょう」

「宮永さんも、またいつか会いましょうね」
「あ…はい。さようなら」
そう言った彼女の顔は先ほどとは打って変わって、ニコッと笑い、とても可愛らしいものだった。

「んじゃ、行きますか。」
「うん…」

竹井さんと別れ、私と京ちゃんは再び歩き始める。


 *

「ごめん、まこ。お待たせーっ」
「部長…トイレにしては、ずいぶん遅かったのう?」
ギクッ。
「そ、そうかしら?あはは…」
「どこに行っとってんじゃ?」
まこのメガネがキラリと光る。ああ。やっぱり、バレてたか…。

「ごめんごめん…。実は、トイレに行く途中で須賀君が歩いてくるのが見えてね…」
「ほほぅ…。一人で居たんか?」
「いや…二人よ。咲のお姉さんと一緒だったわ。」
「なにぃ!宮永照とかぁ…?」
「ええ…金曜日からこっちに帰省してたみたい」
「ほぇ~…。京太郎と宮永照がねぇ~…。こりゃまた珍しい組み合わせじゃのう…」
「…そうよね。正直私も驚いたわ。」
うん。本当に…。咲や和ではなくて、咲のお姉さんと一緒だったんだもの。意外な組み合わせよね。

「つまり、二人はデートをしていたってことか?」
「いや…違うって否定してたわ。」

ふと、先ほどの出来事を思い出す。
否定…してたわよね?咲のお姉さんは、デートじゃないって確かにそう言ってたけど…。
けれど、彼女がそう言ったあとの須賀君の顔は、どこか悲しくて辛そうな表情をしていたわ。
それを見て、私はかなり驚いた。
だってあれは、どう見ても恋をしている目だったから…。
最近、須賀君が和にデレデレしなくなったと思ったら、まさか私の知らない所でこんなことになっていたなんて。
もう和のことは諦めたのかと思って、すっかり安心していたのに…。

はぁ…それにしても…。
私、須賀君達と別れるとき、ちゃんと笑えてたかしら…。
顔、引きつってなかったかな。
って、なんで私ったらこんなに彼のことで頭がいっぱいになるのよ…っ。
まあそりゃあ、好き…なんだから仕方がないけどさ…。
そう。私は須賀君のことが…

「そうなんか。じゃあ二人でどこに行くんじゃ?」
まこに言われて、ハッと我にかえる。
「ああ…ええとね、なんか須賀君が買いたいものがあるから、それに付き合ってるって言ってたわ」
「買いたいもの、ねぇ…」
「でも、買いたいものがあるから付き合ってくれ。なんて、デートに誘う口実の定番みたいなものよねぇ。」
「確かになぁ…。あいつならそうやって誘ってもおかしくないわぁ。」
「そうよね…」

須賀君なら、そうやって誘うかもしれない。だって彼、恋愛に関してはすごく不器用そうだもの。
まあ、あくまでもそれは私の主観に過ぎないのだけれど。

「で、あんたはそれで良いんか?」
「…っ!」
まこに、言われたくない何かを言われそうで、私は焦り始める。
「い、良いって…何がよ…?」

「京太郎が、誰かにとられても良いんかってことじゃ。好きなんじゃろ?あいつのことが」

「ばっ…何言ってるのよ!!」
うそ…そんなっ…。
は、恥ずかしい…。バレてる?もしかしてこれもバレてるのっ?

「だってあんたぁ、京太郎の話を始めた時からずっと、悲しそうな目をしとる。バレバレじゃよ」
「何かの間違いじゃ…っ」
まこの目にしっかりと私の目が捉えられる。まるで、全てを見透かされているようだ。

「ああ、バレバレじゃ。わしの目はごまかせんぞぉ」
「うう…」
あちゃー…。やっぱり、バレてたのか…。
「本当に分かりやすいのぅ。」
はぁ。もう駄目だ。こうなったまこには敵わないわ。
しょうがない。変な意地張らないで、素直になろう…

「そうよ…好き…なのよ」
あーあ、言っちゃった。自分で言うとますます恥ずかしくなってくるなぁ。

「顔、真っ赤じゃよ」
「うっ、うるさいわね…っ」
「まあ、頑張りんさい。わしはあんたの見方じゃけぇ」
「うん…ありがとう、まこ。」
「押し倒したりでもしたら、案外ころっと変わるかもしれんよ?」
まこが、ニヤニヤしながら私を見る。
「もう…何言ってんのよ!」
「はははっ冗談じゃ」
「もう…」

でも、確かにまこの言うとおりだわ。
須賀君くらいの年の男の子なら、不意打ちにキスとかしてアピールすれば、割とすぐに…
って、私ってば何考えてるんだか…。

「けど、このままじゃあ早めに動かんと先に誰かにとられてしまうかもしれんのぅ…」
「そう…よね…。」

さて、困ったわね…。
さすがに今回ばかりは悪待ちする訳にもいかなさそうだわ。
咲のお姉さんと須賀君の関係は恐らくはまだ、須賀君の片思い状態のはず。
今のうちに何か行動を起こせば、まだ間に合うかしら…。

まあでも…
私の気持ちをこんなにも振り回してくれた罰として、ちょっとくらいは悪戯しても良いわよね?

ふふふっ。待ってなさい、須賀君。

 *

京ちゃんの背中を追って、ひたすら歩き続ける。
なんか、さっきよりも歩くスピードが速くなってる気がするよ…

「あの…京ちゃん…」
「…」
話しかけても、返事がない。あれ…聞こえなかったのかな?
「京ちゃん!」
しょうがないから、服の裾を引っ張ってもう一度話しかけてみる。すると
「…っうわ?えっ?あ、すいません…ちょっとボーッとしてました…」
そう言って私のほうを振り向いた彼の顔は、一瞬目を大きく見開いて、とてもびっくりしているようだった。
ボーッとしてたって、何か考え事でもしてたのかな。

「ちょっと、歩くの早くない…?」
「ああ…すいません。気をつけます」
眉を下げて、すごく申し訳なさそうに私に謝ってくる。
別に私、怒ってる訳じゃなかったんだけどな…。悪いことしちゃったかな。

「少し、あそこの公園で休みましょうか」

ちょうど駅の裏側を歩いていたころ。
京ちゃんが指を差した先を目で追うと、そこにはブランコやシーソーなどの遊具が一切ない、
ベンチが二つ三つ、そして脇に木がいくつか生えているだけの小さな公園があった。
飲食店や家電量販店など、たくさんのお店が密集していて人通りの多い駅前とは違い、このあたりは比較的人通りが少なく、
車の走る騒音などもあまり聞こえない。ここなら静かだし、休むにはちょうど良い。そう思った。
そうだね、と返事をして小さな公園の入り口へと向かう。
あれ…でも、京ちゃんの買い物は良いのかな…。
そんなことを考えながら、二人でベンチに座り、手にもっているバックを隅に置いて一息つく。
私が左側で、京ちゃんが右側。チラリと目を右のほうに向けると、京ちゃんは膝の上に手をついていた。
その手は、私の手と比べたらとても大きい。おまけに指が長い。
京ちゃんはその指で牌をツモって、その手で麻雀を打っているんだよね…あ、ちょっと触ってみたいかも。

「うわ…!て、照さん…?どうしたんですか、急に…」
「えっ…?」
京ちゃんの裏返ったような声が耳につき、はっと我にかえる。
気がつくと、私の手は勝手に京ちゃんの手をむにむにと触っていた。
しかも、両手で…。何やってるんだろう、私。

「ごっごめん…!無意識のうちに…」
慌ててパッと手を離す。だけど、なぜか右手を掴まれて再び膝の上へと持っていかれる。
「きょうちゃん…?」
その行為に疑問を抱き、京ちゃんの顔を見上げる。すると
「…このままで、良いです」
そう言葉を返してきた。
「う、うん…」
私は何がなんだか分からなくて気が動転しかけているのを、少しでも頭を使って落ち着かせようと
ポツポツと公園の前を通り過ぎていく人の数を数え始める。
けれど、あまりにも人通りが少なすぎて、結局二人しか数えられなかった。

京ちゃんの手の温もりが皮膚を通して、ひしひしと私の手に伝わってくる。
とてもあたたかい。

「あの…照さん」
ずっと沈黙が続いていたけれど、やっと京ちゃんが言葉を紡ぎだした。
「なに…?」
「今日、どうして俺が照さんを誘ったか、分かりますか?」
そう問いかけてきた彼の声は、少し震えているように聞こえた。
「どうしてって…買いたいものがあるからじゃなかったの?」
なんで今更こんな質問をしてくるんだろう。私の疑問はますます膨らんでいくばかりだ。
「…やっぱり、照さんは鈍いですね」
え…?ニブイってなんで?私は、今まで自分のことをニブイと思ったことは一度もないんだけど…。
「…ニブイって何が?」
「う~ん。やっぱり、鈍いです!」
さっきまですごく静かだったのに、こんどは何かが吹っ切れたかのように、口を大きく開けてハハッと笑い始めた。

「京ちゃん…なんの話?」
「あ~いやぁ。すいません。遠まわしに伝えようとしても、気づいてもらえなさそうなんんで、もうハッキリと言っちゃいますね」

笑っていたかと思えば、こんどは急に真剣な表情に変わる。私の手を握っている手に、キュッと力が込められた。


 「実は俺、照さんのことが好きなんです」


一瞬、時が止まったかのような錯覚にとらわれる。
えっ、好きって言った?今、私のことが好きだって…ええっ?

「あ~…予想通り、固まっちゃいましたね…」
彼の言うとおり、私の体はすっかり硬直してしまい、動かすことができなくなってしまった。
声を出そうと口を動かしても、あ…?えっ…などの一文字分の言葉しか出てこない。

「え~と、つまりですね…」
頭をポリポリと掻きながら、京ちゃんが話を続ける。
「今日、買いたいものがあるって言って照さんを誘ったのは、口実だったわけで…
本当は買いたいものなんて何も無かったんです。照さんは、明日東京に帰っちゃうって聞いたので、向こうに帰る前に
どうにかデートに誘って俺の気持ちを伝えようと思ってたんです。」

「うん…。ん?え…っ?じゃあ、私が好き?買い物って嘘で?あれ?ええ…っ?」
ようやく声を出せるようになったものの、日本語がまともに喋れない…。自分でも何を言ってるんだか分からない。

「あははっ。落ち着いて下さいよ~。ごめんなさい、買い物ってのは嘘です。」
「うん…」
「照さんのことが、好きです。」
「うん…」

二度目の”好き”を言われて、やっと自分が今置かれている状況が理解できるようになってきた。
ええと…
今日買い物に付き合ってほしいって言われたのは、実は嘘で、私に告白をするために京ちゃんは私をデートに誘った。
この解釈で正しいはず。
あれ…でも。

私は、デートという言葉を頭の中で繰り返し、ふと昨日の咲とした会話のことを思い出す。

 *


「咲、もしかして京ちゃんのことが好きなの…?」
「…………うん…」
「そっか…。ねえ咲」
「なに…?」
「何か勘違いしているみたいだけど、私は別に京ちゃんのことは好きとかそういう風に思ってはいないからね?」
「えっ…?そうなの?」
「うん。明日だって、買いたいものがあるから選ぶのを付き合ってほしいって言われただけだし…
だから、デートとかそうゆうのじゃないからね?」

 *

そうだ…咲は、京ちゃんのことが…。
それに私は、今日のことをデートなんかじゃないって咲に否定した。
しかも京ちゃんのことはなんとも思っていない、みたいなことも言った。
でも、あれは嘘なんかじゃない。だって、昨日までは本当にそう思っていたから…
ん?あれ、昨日までってことは、今の私の気持ちは…?

 これってどうすれば良いの?


「照さんは、俺のことどう思ってますか…?」
「あ…ええと」
言葉に詰まる。それは、まだ自分でも分かっていないことを質問されたからだ。
なんて答えれば…

「照さん…?」
黙ったままでいると再び私の手がぎゅっと握られた。
京ちゃんと目が合い、ドクンと心臓が跳ね上がる。
このままずっと何も話さないわけにはいかない。今は、正直に私が思っていることを京ちゃんに伝えよう。

「私は…」
「はい」

「今、こうして京ちゃんに好きって言ってもらえて、すごく…嬉しい。京ちゃんと話をしたり、今みたいに手を握られたりして、
すごく心臓がドキドキしてる…。」

「それじゃあ…」
「でも、咲も京ちゃんのことが好きだって言ってた…」

「えっ…」

急にその場が静かになってしまった。やっぱり、今のは言わなくても良かったかな。
でも、だからと言って咲のことを隠したまま話を続ける訳にもいかないし…
もう自分でも何をどうしたいのか分からない。

「照さん…」
「な、何?」
「咲のことは、今初めて聞きましたけど、正直言って今の俺には照さんしか見えてません。
できることなら、照さんと…その、付き合いたいなって思ってます…」
「…………」
付き合う…。付き合うっていうのは、つまり恋人同士になるって事だよね。
私と京ちゃんが恋人同士に…?考えただけで頭がパンクしそうだ。

「それに、照さんはさっき、咲”も”って言ってましたよね?その”も”っていうのは、他に誰のことを思って言ったんですか?」
「あ…」
「無意識に言ってたとしても、それはつまり…照さんも少なからずは俺に好意を寄せてくれているってことなんじゃないですか?
って…、自分でこんなこと言うのもなんですけどね…」
「うん…」

いや…でも。

「…ごめん。京ちゃん。」
「えっ?」
「たぶん、私も京ちゃんのことが好きなんだと思うけど、咲の気持ちを知ってる以上、私だけ勝手にこんなことはできない…」

その言葉を口にするのは、本当に辛かった。胸がチクチクと痛みだす。

「そんな…」
「本当に、ごめんなさい…」
こうゆう時って何て言えばよかったのかな。
私は良い言葉を見つけることが出来ず、ただひたすら謝るしかなかった。

「……………」
沈黙が生まれ、だんだん京ちゃんの顔を真っすぐ見ることができなくなり、自然と俯き気味になってしまう。

「…分かりました。でも、俺の気持ちは変わりませんからね!照さんの気持ちが固まったら、もう一度返事を聞かせてもらえますか?」

私は下を向いたまま、重たい口を開いて返事をする

「うん…分かった。咲とちゃんと話し合ったら…そしたら、また連絡するね」
「はい。待ってますから」
「うん…」
「それじゃあ、そろそろ帰りますか。」
「うん。」

京ちゃんに言われて、ベンチから立ち上がる。
駅まで戻る間に、せめて手だけでも…と言われて、私達は手を繋ぎながら一緒に電車に乗った。
行きとは違い、こんどは向かい合わせではなく、二人並んでシートに座る。肩が触れ合う。

繋いだその手は、柔らかくて、とても暖かかった。
でも、別れる時は離なさないといけない。そのことを考えると、またギュッと胸が締め付けられる。

キィーーーッ。
電車が動き始め、車輪とレールの擦れ合う音が聞こえてきた。

 *

 同時刻。片岡優希と原村和、宮永咲。
この三人は店を出て、それぞれが家路に着くために別れの挨拶を交わしているところだった。
咲がそれじゃあねと言い、和と優希に背を向けて歩きだす。
和と優希は途中まで帰り道が同じなため、咲を見送った後に二人肩を並べて歩き出した。

 *

「優希は…このままで良いんですか?」

 和が、酷く落胆した様子で話し始める。先ほどの三人の会話を思い出し、目にはうっすらと涙が浮かび始めてきた。
何故なら、咲と優希も京太郎の事が好きなんだと気づいてしまったからだ。
更に、三人の思い人である当の本人は今、咲の姉と二人で出かけている。
 思ってもみなかった事を今日だけで二つも知ってしまい、とても胸中穏やかではなかった。
やがて頬を伝い始めそうになる涙を、優希に気づかれないよう、そっと手で拭う。

「のどちゃんは…どうなんだじょ?」
優希もまた、ひどく落ち込んだように言葉を吐き出す。
京太郎のことをいつも、犬、ばか犬ー!などと言っては殴ったり蹴ったりしていた。
しかしその行為は、彼女なりの愛情表現だったのだ。
久と同じように、タコスを買ってこいと言っては京太郎のことをいつもこき使っていた。
だけど、決して京太郎のことが嫌いなわけではない。それに、文句を言いながらも、彼はきちんとその要求に答えてくれる。
そんな彼の優しさに、知らず知らずのうちに惹かれていたのは確かだった。
一緒に居ると、くだらないことで笑いあえる。京太郎は、一緒に居てとても楽しい存在なのだ。

「私は…」
和が優希の質問に、途切れ途切れな言葉で答え始める。

「もう少し、みんなの様子をみてみようと思います…正直、須賀君と宮永さんのお姉さんが二人で…ってのは意外でしたが…
二人の気持ちはどのような方向に向かっているのかは、まだ分かりませんから…」

それは、自分に言い聞かせているようでもあった。二人で出かけたと言っても、京太郎と照は、まだ何も始まっていないはず。
いや、できれば始まらないでほしい。そう、願いを込めながら。

「そっか。じゃあ、私もそうするじぇ」

和の答えを聞き、優希もまた、このままみんなの様子を見ていくことに決めた。
しかしこれは決して、親友である和の真似をする、という意味ではない。
今日一日で色々とありすぎて、まだ彼女は頭の中の整理が完全に終わっていないのだ。
よって、今の自分にできることは、和と同じように、事態はこれからどうなっていくのか、まずは誰がどんな行動を起こすのか
じっと様子を伺い、場合によっては自分も何か行動を起こそう。そう、結論付けたのだ。

「分かりました。お互い、頑張りましょうね」

和も、長年付き合ってきた優希の気持ちをくみ取り、自分と同じことを考えているのだと悟った。そのため深くは追及しない。

「おう!せいせい堂々といくじぇ~」

「はいっ」

そうして二人の顔にはいつもの明るい笑顔が戻っていった。

 *

「ただいま~。って、まだ誰も帰ってきてないや」
玄関で靴を脱ぎ、廊下を進んで居間のソファに座りこむ。

 原村さんたちと別れて、家に帰ってくるまでの間、私は色々と考えた。
京ちゃんがお姉ちゃんと二人で出かけてる。そう言ったらあの二人、すごく驚いてたな。
そして、その表情はみるみるうちに暗くなっていった。

 やっぱり、あの二人も京ちゃんのことが好きなのかな?今まではそんなふうに見えなかったけど。
優希ちゃんは、いつも京ちゃんとじゃれあってて、仲の良い友達って感じだけど、原村さんに関してはちょっと意外だったな。
優希ちゃんほど仲が良いって訳でもないけど、それなりにお話ししたりもしてるし。
だから、距離感としては、ごく普通の部活仲間って感じだと思ってた。でも、違ったんだね…

 優希ちゃんも、原村さんも、私にとってはとても大切な友達だ。
だけど、その二人も京ちゃんのことが好きなのかと思うと、とても複雑な気持ちになる。
京ちゃんって、実はすごくモテるのかな。
そもそも、京ちゃんと一緒にいる時間が一番長いのは、私なのに…。
でも、原村さん達と争いごとになるのは嫌だな。あと、お姉ちゃんとも。

 その時、玄関のほうからガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。
そして足音がこっちに向かってくる。

「ただいま…」

お姉ちゃんが帰ってきた。
気のせいか、少しおどおどしているように見える。何かあったのかな…?

「お帰りなさい。お姉ちゃん」
「うん…ただいま。お父さんは?」
「まだ帰ってきてないよ」
「そう…」

やっぱり、お姉ちゃんの様子がおかしい。なんだか元気がないみたいだ。
もともと口数は多い方じゃなく、普段は静かな性格だけど、今のお姉ちゃんは明らかに何かあったって顔をしている。

「部屋で休んでくるね」
私にそう言い残し、すたすたと自室へと向かい歩き出すお姉ちゃん。
ちょっと、心配だな…。何かあったの?って聞くくらい、良いよね…?
それに、せっかく東京から帰ってきてるのに、すぐに部屋にこもっちゃったらお話も出来なくて寂しいよ。

「あの…お姉ちゃん!」
私はソファから立ち上がり、廊下でお姉ちゃんを呼び止めた。
「ん、なに?」
お姉ちゃんが私のほうを振りかえる
「今日、なにかあったの…?」
私がそう聞くと、一瞬お姉ちゃんの肩がビクッと震え、それからすぐに目をそらされてしまった。
「…………」
返事がかえってこない。
「おねえちゃ…」
私がもう一度、お姉ちゃん、と呼びかけようとしたそのとき
「咲、ちょっと話したいことがあるから部屋まできて」
お姉ちゃんがそう言い、またすたすたと歩き始めた。私も黙ってその後を追う。なんだろう、話って…。

 *

二人でベッドの上に座り、向かい合う。
だけど、お姉ちゃんはなかなか話を切り出そうとしない。
さっきからずっと俯いたままだ。

「ねえ、お姉ちゃん。話って…?」
仕方なく私から話しかけてみる。

「うん…あのね、実はさっき…」
「うん」


 「京ちゃんに告白されたんだ」


え…今、なんて?
京ちゃんに告白された?お姉ちゃんが?

「え…そうなの…っ?」
「うん。ごめんね…」

頭の中が一瞬真っ白になる。

薄々思ってはいたけど、やっぱり京ちゃんって、お姉ちゃんのことが好きだったんだ…。
いつから?それに、お姉ちゃんは何で私に謝るんだろう?駄目だ…頭の整理が全く追いつかないよ…。

「今日私を買い物に誘ったのは、実はデートだったんだって…」
「そう、なんだ…」

そっか。京ちゃんは最初からそのつもりで…。
私は目を閉じ、すうーと深呼吸をして、その事実を受け入れるために頭の中で複雑に絡み合っている何かを一つずつ解き始める。
けれど、自分でもびっくりするくらい、その絡まりは簡単に解けてしまった。

だって、京ちゃんが好きなのはお姉ちゃんなんだもん。
私や原村さん、優希ちゃんでもなく、今私の目の前に居るお姉ちゃんのことが、好き。
だから今日、デートに誘って告白をした。それでもう、この物語は完結したんだ。

そう考えると、なんだか急に心の中にあったモヤモヤが晴れていった。なんだかとてもすっきりした気分だ。
私は中学生の頃からずっと京ちゃんのことが好きだったのに、それが叶わぬ恋だと分かってしまった瞬間にスパッと何かが吹っ切れた。
意外と諦めが早い性格なのかな、私って。


「咲、本当にごめんね」

相変わらず私に謝り続けてくるお姉ちゃんの肩に、手を置く

「謝らなくて良いよ。お姉ちゃん」
「え、でも…咲は京ちゃんのことが好きなんでしょ?」
「うん。でも、もう好きだったに変ったよ。過去形になった」
「…咲は、それで良いの?」
「うん。全然平気。むしろ、お姉ちゃんのことを応援するよっ」

まあ、本当はまだちょっとだけ辛いんだけどね…。

「…ありがとう」
「頑張ってね。お姉ちゃん」
「うん。ありがとう。」

 *

翌日、お姉ちゃんは東京に帰っていった。またお父さんと二人きりの家になっちゃうのは少し寂しいけど、仕方がない。
私はお姉ちゃんを笑顔で見送った。
そしてこの物語はこれで完結したと思い、清々しい気分だった。

だけど、この物語は色々なパートへと別れていくために、私の知らないところで着々と動き始めていた。

それを私が知るのは、この物語の中盤から終盤にかけたあたりになる。
今私がいる場所は、まだまだ物語の序盤にすぎなかったんだ。

 *

 *

 照さんが東京に帰ってから、もう三日が経つ。
そして、連絡はまだ来ていない。むむ…一体何故だ?しかし咲にそのことを聞くのはちょっと気まずい。
それに咲からもその話題には触れてこないからな…
ああー。もう!なんで連絡くれないんですかぁ、照さん…。
一日が一日が過ぎていく度に、俺の不安は積もっていくばかりだ。

 *

 俺が照さんを好きになったのは、夏の全国大会で再会した時だ。
正直言って、一目ぼれだった。いや、初めて会ったわけじゃないから、それを一目ぼれと言うのはおかしいかもしれないけど。
久しぶりに見た照さんは、昔と比べてすっかり大人っぽくなっていた。何というか、大人の色気が出てきたというか…まぁそんな感じだ。
すごく美人で、それでいて可愛らしい。

 気づいたら、俺の足は照さんのほうへと向かっていた。そして、いつの間にか連絡先を聞いていたんだっけ。
大会が終わって、長野に帰ってきてからも、ずっと彼女のことが頭から離れなかった。
授業中、部活中、下校中、風呂に入っている時、寝る時。とにかく、四六時中俺の頭の中は照さんのことでいっぱいだったな。

 最近では、月に二回のペースで照さんが長野に帰省していると咲に聞き、それを聞いては照さんに電話をかけて、なんとかして二人きりで
会えないかと、色々と計画を立てた。だけど、いつもいつも都合が合わなくて、結局は会えずじまい。

 そんなこんなで一カ月、二か月が経ったある日。秋の土・日・月、この三連休を使って、また照さんがこっちに帰ってくるという情報を
咲から聞いた。帰ってくるのは金曜の夜から。これだけ長い間こっちに滞在しているなら、さすがに一日くらいは会うことができるだろう。
そう思って、俺は覚悟を決めた。いつまでもこんなに苦しい思いをするのは嫌だ。返事はイエスかノーのどちらでも構わない。
早くこの俺の気持ちを伝えて、すっきりさせたい。自分自身に決着をつけたい。

 そんなこんなで、俺は買いたいものがあるから付き合ってほしいと言い、二人きりで会うために照さんを誘った。
我ながらその胡散臭い口実はどうかと思ったけれど、この際デートに誘えるのなら、もうなんでも良かった。とにかく会って話がしたい。
ただ、それだけだった。
 しかし、俺の住んでいる地域は、あまりにも田舎すぎて、デートスポットと呼べる場所が何もない。
それに、ここで照さんと二人でぶらぶらしたとしても、知っている人に鉢合わせする確率が高いと思った。もしかしたら部活のメンバーと
も。それだけは何としてでも避けたい。さすがにそんなところを目撃されるのは、俺も恥ずかしいからな…。照さんだってきっとそう思う
だろう。だから、俺達は隣町まで行くことにした。そこなら友達とよく遊びに出かけるし、安い店もそれなりに知っている。

 *

 そしてデートの当日。俺は緊張しすぎて、かなり朝早く目が覚めてしまった。顔を洗って、歯を磨き、服を着替えてとりあえず出かける
準備をする。約束の時間まではまだ早いけど、家の中にいるのもなんだか落ち着かない。

 天気予報をチェックすると、今日も冷え込むらしいので、マフラーを巻いてから家を出た。ゆっくりと時間をかけて歩き待ち合わせ場所
の駅まで向かう。だけどやっぱり早く着きすぎてしまって、当然そこにまだ照さんの姿はない。仕方なく、ケータイをいじったり駅の周辺
をぶらぶら歩いて時間を潰す。

 そうしているうちに、ようやく照さんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。やっぱり照さんは可愛い。
電車を待つ間、照さんが手をさすって寒そうにしていたので、俺は自分の巻いているマフラーを手渡した。それで手をあたためてくれれば
と思って。だけど、意外なことに彼女はそのマフラーを自分の首に巻きつけ始めた。まさかそこまでしてくれるとは思わなくて嬉しいやら
恥ずかしいやらで、俺の鼓動は加速していく一方だ。

「優しいんだね、京ちゃんは」

そう言われて俺はつい
「それは照さんだからですよ」
と言ってしまった。心の中で呟いたはずだったのに、知らないうちに口に出ていたんだ。

「えっ…?」 

 少し驚いた顔で、照さんが振り返り、目が合ってしまった。恥ずかしくて慌てて目をそらし、それからまたチラッと彼女のほうを見る。
すると、彼女の吐く白い吐息が綺麗に空気中に舞い、なんだか絵になるような姿だった。そう思い、更にドキッとしてしまう。


 *

 隣町に着き、早速照さんに、何を買うの?と質問されてしまった。
デートの順序のことで頭がいっぱいだった俺は、そう聞かれた時の言い訳を考えることをすっかり忘れていたため、慌てて飯を食いに
行きましょうと言い、かなり苦しくはあるが、なんとかそれでごまかした。

 昼食を取り終えた後、二人で紅茶を飲んでいると、なにやら照さんが俺のほうをチラチラと見ては、顔を赤くしていた。
それって、俺と二人で居るからですか…?思いきって、照さんに聞いてみる。

「照さん、顔が赤いですけど…大丈夫ですか?」

「えっ…私、顔赤くなってる…?」
「なってます」

 俺が指摘すると、彼女はペタペタと自分の手を頬に当てて、確認し始めた。慌てているその表情は、とても可愛い。
意地悪だとは思ったけれど、もっとその姿が見たくて、俺は更に言葉を投げかける。

「もしかして、俺と喋っててそうなってるんですか…?」
「……………」
すると、急に黙りこくってしまった。そこで黙ってしまうってことは…これはもしかして、かなり良い雰囲気なんじゃ…。

「照さん…俺、期待しちゃっていいんすかね?」
って、何言ってるんだか、俺…。さすがにちょっと言い過ぎてしまったことを、後悔する。ここで良い雰囲気になっても、周りに人が
いるこの場所では、さすがに告白するわけにもいかないよな…。でも、なんだか今がチャンスな気がするぞ…。

「…すいません、急に変なこと言っちゃって。とりあえず外に出ましょうか」

 場所を変えるために、店を出る。駅の裏には、小さな公園がある。多少ムードには欠けるが、あそこなら人の気も少ないし告白するのに
十分なシュチュエーションだろう。
 最初から、告白するのはそこだと決めていた。何故ならそこは、昔に一度だけ照さんとふたりで遊んだことがある公園だからだ。
まあ、本人はもう覚えていないかもしれないけどな…。

 *


「あら、須賀君じゃない。奇遇ね、こんなところで会うなんて」

 ズガーン!照さんと二人で歩いていたら、なんと部長と遭遇してしまった。何でこんなところに居るんですか…。しかし、聞きたくても
頭の中がパニくってて、とてもそれどころじゃない。
 部長のことだ、間違いなく後でみんなに言いふらされるだろうな…。この後の告白に成功すれば、別に何も問題はないのだが、失敗した
時のこと考えると、とても恐ろしい…。

「もしかして、デートの途中だったかしら…?邪魔しちゃった?」

 気がつくと、部長が照さんのほうを見て、そんな質問をしていた。ああーもう…。部長、その目は完全に俺達のことをからかっている目
ですよ…。でも、照さんは今日の事をどう思っているんだろう?そこは俺も気になる。ハラハラしながら、照さんが返事をするのを待つ 。


「デートだなんてそんな…。京ちゃんが買いたいものがあるって言うので私は選ぶのを手伝いに来ただけです。」

うっ。これは、かなりショックだ。照さん…鈍いにもほどがありますよ。ハァ…。

「それじゃ、私はここで失礼するわ。またね、須賀君。」

「ああ、はいっ。また部活で会いましょう」
どうか、みんなにこのことはバラさないで下さいね…

 *

 そのあと、俺はあの公園で照さんに告白をした。
だが、終始緊張しすぎでどんなことを話したかは、あまり覚えていない…。ただ、どうやら返事は保留になってしまったようだ。

 そんなこんなで、照さんが東京に帰った今も、俺はひたすら連絡が来るのを待ち続けている。
また、胸が苦しくてつらい。

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