優希「チッ」

咲「……」

部室に来た途端、優希ちゃんに舌打ちされた。
遅れたことで怒らせてしまったのかと思ったけど、京ちゃんが机で眠りこけていて
優希ちゃんが不自然にその近くにいることで状況を察する。
なるほど、どうやらタッチの差ではからずも優希ちゃんの抜けがけを阻止できたらしい。
腹の底からザマミロ&スカっとサワヤカの笑いが出そうな気持ちを隠し部室に入る。

咲「ごめんねー優希ちゃん、掃除が長引いて遅れちゃった。寝てる京ちゃんと二人じゃすることもなくて退屈だったでしょ」

優希「まったくだじぇー、私は大分前に来たけど、その時にはもう京太郎のやつ寝てて全然起きやしないし」

言いつつ挑発するような視線をこちらに向けてくる。
なるほど、優希ちゃんが部室に来てからすでに結構な時間が経ってるから私が来る前になにかあったんじゃないか、と思わせたいらしい。
でも残念、私は掃除を終えて教室を出る時に優希ちゃんが校舎から出て行くところを見ている。
優希ちゃんが部室についてからほとんど時間が経ってないのはわかっているのだ。
というか優希ちゃんも今日掃除当番なこと知ってるし、
もっと言えばそもそも私の掃除当番のスケジュールは、私がいない間に京ちゃんに手出しされないように優希ちゃんに合わせてある。
私が遅れる時は優希ちゃんも遅れる、このくらいぬかりなくやっていかないと積極的な優希ちゃんは抑えきれないのだ。

咲「京ちゃん昔からどこでも寝れる人だからねー。しょうがないなぁ、最近寒くなってきてるんだからこのままじゃカゼひいちゃうよ」

優希「じぇっ!?」

眠る京ちゃんにひざ掛けをかけてあげる私を見て優希ちゃんが愉快な声を漏らす。
ちなみにこのひざ掛けは私の私物だ、部室にはタオルケットや毛布もあるけど
私のものを使うことで京ちゃんが起きた時自分でアピールするまでもなく私がやったことが一目瞭然になるのだ。
加えてさりげなく京ちゃんと私の付き合いの長さをアピールして優希ちゃんの心を地味に削るのも忘れない。

優希「あははー咲ちゃん親切だじぇーアホ犬なんかにそこまでしてやることないのにー。
いやマジで」


平静を装いながらもトサカにきているのが見て取れる。
ふふふ、猪突猛進な優希ちゃんにはこういうアピールは思いつくまいて。
自慢じゃないがもともと京ちゃん以外の友達が少なくて人の顔色うかがって生きるのがデフォだった私は
気遣いスキルはそれなりのものがあると自負している、ぼっちの力を舐めるなよ

和「すみません、遅れました」ガチャ

私と優希ちゃんが水面下でのキャットファイトを繰り広げていると和ちゃんがやってきた。
過積載の胸部装甲は今日も絶好調だ、ちょっとわけてほしい、切実に。

和「咲さんとゆーきはもう来てたんですね、って須賀君はなんで寝てるんですか…」

席についた和ちゃんは眠る京ちゃんを見てむうっ、と顔をしかめる、真面目な和ちゃん的にはこういうのは捨て置けないのだろう

咲「まあまあ、先輩たちもまだ揃わないしもうちょっと寝かせておいてあげようよ」

和「咲さんがそういうなら…」

優希「ま、まあ京太郎も私のせいで最近色々忙しいみたいだしなー、
少しくらい気を抜いても勘弁してやるじぇ、なんせ私のせいだしなー」

む、ここで優希ちゃんがこれみよがしに京ちゃんとなにかあったことをアピールしてくる。
自慢したがってるのが見え見えで正直スルーしたいところだけど…
敵方の状況はなるべく把握しておく必要はある。
知らないところで知らないままに進展されては後々困ることになるのは私の方なのだ。


咲「…優希ちゃんのせいって、なにかあったのかな?」

優希「いやー、それがなー。京太郎のやつ、最近私の食べ物の好みのことよく聞いてくるんだじぇ」

優希「食材やら味付けやら、同じ味付けでも特にどういう調味料を使うのが一番好きかまで」

優希「そこまでご主人様のことが知りたいのかー困った犬だなーとか思ってたら
こないだ京太郎の家に呼ばれてな」

咲「うそ!?」

和「………」ピクッ

思わず声をあげてしまった、優希ちゃんが京ちゃんの家に呼ばれた?そんなの聞いてない。
優希ちゃんのしてやったりな顔にイラっとくる、ええい、その髪飾りむしってモブキャラみたいな髪型にしてやろうか。
しかし焦るな、普段の京ちゃんと優希ちゃんの様子に特に変化はなかったし、
わざわざこんなドヤ顔で自慢するってことは逆に考えれば、
家に行った、それ以上に特別自慢できるような進展はなかったはず。

咲「ごめんね話の腰おっちゃって、…続けて、どうぞ」

優希「行ってみたら京太郎手作りのタコスをご馳走されてな、
それが具材から味付けまで全て私の好みに合わせた私のためのオーダーメイド品で、ちょー旨かったんだじぇ!」

優希「しかも、直接どういうタコスが好みか聞けばよかったのになんであんな回りくどいことしたのかって聞いたら、
秘密にして驚かせたかったってのもあるし、何より一から十まで答えを聞くんじゃなく、
自分の工夫で私のためにどれだけのことができるか試したかった、だって!」

咲「へ、へー。それはよかったねー…」

和「…………………」

困るわー京太郎が私に尽くしすぎで困るわーと喜色満面で語る優希ちゃん。
ま、まあ想定の範囲内、大きな進展は家に行ったことまででキスだのお触りだの挿入だのにはかすってもいないらしい。
なら大したことはない、お宅訪問も手料理を振舞われるのも私は既に三年も前に通過してる。
ま、まだ淡照ような、もとい慌てるような時間じゃない

和「まあ、須賀君はああ見えて真面目ですし凝り性なところもありますからね」

咲「そ、そうそう。京ちゃんはそういう性格ってだけだから優希ちゃんも変な勘違いして困る必要はないんじゃないかな」

和「最近彼に請われて、二人きり! でよく麻雀を教えているんですが、
帰りが遅くなるといつも送ってくれるんです、本当、見かけによらず真面目な人ですよね、須賀君は」

優希「じょ!?」

咲「はあ!?」


え、マジで?こっちは聞いてないどころか全く予想すらしてなかった話なんだけど!?
青天の霹靂な私と優希ちゃんの前で和ちゃんが静かに語りだす。

和「言ってませんでしたが、部活が休みになった日の放課後や、休日に練習が午前だけで終わった日の午後などの
時間が空いた時にマンツーマンで指導をしてたんです。
隠してたわけじゃないんですが、わざわざ話す必要もないかと思いまして」

咲「え、えーっと、それは、ただ麻雀を教えてるだけ、だよね?」

優希「の、のどちゃんにしては珍しいじぇー、京太郎とあまり仲良くしてるイメージなかったのに」

そ、そうそう、京ちゃんと和ちゃんは特に仲がいいわけじゃない。
京ちゃんが和ちゃんの胸の無駄脂肪にしばしば目を奪われているのは知ってるけど、
あれは男の子として仕方のないもので、本気の恋愛に直結するような感情を和ちゃんに持ってるわけじゃないことは
普段の京ちゃんを見てればよくわかる。
なにより和ちゃんのほうにその気がないんだから和ちゃんはこの戦いにおいては安牌のはずなんだ
なんかさっき二人きりをいやに強調してたのとか気のせいのはず!
まままままままだああああああわてるようなじかんじゃない

和「そうですね、ゆーきの言うとおり私はもともと須賀君と特に仲がいいわけじゃありませんでした。
それに須賀君の視線には若干邪なものを感じることもあったので最初は断っていたんです。
ですが何度も真摯に頼みこまれ、結局引き受けることにしました。
強くなりたいという気持ちを無下にすることもできませんので。」

和「実際に教えてみると須賀君は変な疑いを持っていたことが申し訳なくなるくらい
とても熱心に麻雀に取り組んでいましたし
先ほども言ったとおり帰りが遅くなったときは送ってくれたりと、とても親切に接してくれました」

和「ですが私のほうは、一応自覚はしてるんですが若干気が強すぎるところがあるので
指導の最中つい声を荒げてしまうこともあったんです。
それに、もともと私は男性が苦手だったので、須賀君には以前から知らず知らずのうちに失礼な態度をとってしまったこともあるんじゃないかと、
今更ながら思い至りました」

和「それが不安になって、一度聞いてみたんです。
私の教え方に、…いえ、私という人間になにか不満はないのかと」

和「そしたら須賀君は、熱心に教えてくれるのもありがたいし、
それを抜きにしても和と話してると楽しい、だからこれからもずっとよろしく、そう言ってくれました」

和「…私はどうも付き合いの浅い人、特に男性からはおしとやかな性格だと思われがちで、
少し仲良くなると、相手がこの気の強さに驚いて引いてしまうことが多かったんです」

和「でも須賀君はありのままの私と一緒にいて楽しい、と言ってくれて
…それがとても嬉しかった」

目を閉じ思い出に浸る和ちゃんの顔は完全に恋する乙女のそれだった。

和「こほん。…ま、まあそれだけのなんてことないお話しです」

なんてことあるよ!ありまくりだよ!
やばい、これは本当にやばい。優希ちゃん一人でもあっぷあっぷしてたのにこのうえ和ちゃん!?
我が部で最強の女子力を誇る彼女がライバルになるなんて完全に想定外だ。
ていうか優希ちゃんも和ちゃんもなんで京ちゃんを好きになっちゃうの。
女の子として自慢できるような取り柄もなくてスタイルも貧弱な私の恋敵がこんな強敵ぞろいってひどすぎないだろうか。
バランス調整おかしいよ、クソゲーだよこれ。
ていうかどうしよう、なんか私も京ちゃんとのことを話さないと一人負けみたいな流れだ。
みんなはっきりと口に出しこそしないけど暗黙の了解でこの場は京ちゃん争奪のアピール合戦になってる。
でも私は最近京ちゃんと二人になれること自体なかったし特に話せるようなエピソードもない。
かといってここで引くのも嫌だ、と、とりあえずなんでもいいから最近あったことを…

咲「わ、私は最近京ちゃんと二人になれることもあんまりなくて…
でも例えば私の体調悪い時とかは、なにも言わなくても察してくれて、
授業中に大丈夫か?ってメールくれたり、休み時間になるたびに声かけてくれたりして」

咲「あとは、夜とか特に用事なくても京ちゃんが電話くれたりして、そういう時に長くおしゃべりできたり…それくらいかな」

咲「べ、別に大した話するわけでもないんだけど、そういうなんでもないやり取りだけでも嬉しいっていうか、
京ちゃんが相手だとそれだけで幸せっていうか…。
いやごめん、二人の話に比べると全然大したことないのはわかってるんだけど…」

駄目だ、やっぱりこの程度のことしか出てこない。
和ちゃん達の話が特殊イベントだとすると私のはただの日常イベントみたいな感じだ。
その程度かみたいな視線にさらされてるんだろうなぁと怯えながら二人のほうを見る

優希「くっ、この自虐風自慢…。やっぱり付き合いの長さっていうのはアドバンテージとして大きいじぇ…」

和「それほどまでに気安い関係を築いておきながら大したことない、とはなんて贅沢な…」

あ、あれ?なんか二人が勝手に敗北を知ってしまったご様子。
…そうか。今話したようなことは私にとってはごく当たり前の日常だけど
和ちゃん達の親密度はまだこのレベルに達していないのか!
最近京ちゃんとの仲が深まるようなイベントに恵まれないと嘆いていたけど
私の強みは特別なイベントがなくてもナチュラルに京ちゃんにかまってもらえるこの関係性。
これは現状私だけが持つ特権!勝てる…勝てるんだ!
…いや嘘です、これだけで勝てるようなら私はとっくに京ちゃんを落とせているだろう。
ここから先に進めなくて何年足踏みしてることか…

和「……まあそれは仕方ありません、咲さんと須賀君が中学の三年間で築いた時間は
今更私とゆーきには取り戻しようがないですし。過ぎたことを嘆くより大事なのはこれからです」

気持ちを切り替えた和ちゃんが私と優希ちゃんを強い視線で見据える。

和「いい機会ですしここで各々の気持ちをはっきりさせておきましょう、私は須賀君が好きです、お二人も同じですよね」

咲「うん」

優希「もちろんだじぇ」

和ちゃんの疑問形ではなく断定する言い方に、私と優希ちゃんも即答で返す。

和「スタートラインに立つのは遅かったですが、彼を想う気持ちは負けてないつもりです。
二人は大切な友人です、でも須賀君だけは譲れません」

咲「私も同じだよ、中学の頃からずっと京ちゃんのこと好きだった。
今更諦めるなんてできっこない」

優希「とーぜん私も譲る気はないじぇ。
それに私と咲ちゃんははっきり言葉にはせずともすでにあいつを巡ってのバトルは水面下で何度もやりあってたしな。
相手が一人増えるだけのことだじぇ。…まあその一人がのどちゃんってのが手強すぎて頭痛いけど」

和「頭が痛いのは私も同じですよ、神様がいるならば初恋の恋敵はもう少し楽な相手を用意してほしかったものです…。
ともあれ、これからは私も正式に参戦しますので、そのつもりで」

咲「三つ巴、だね…」

スタイルや積極性やら、個々人の魅力の差は一先ず置いといて、あえて勝率を純粋に三等分する。
%表記で33.4%(0.1%は二人より唯一確実に勝っている三年分の想いの長さに対するボーナスということでもらっておきたい)
相手は手強いけど、四人の中から勝ち抜かなきゃいけない麻雀に比べれば勝率は高いじゃないか。

咲「勝っても負けても恨みっこなし、正々堂々と戦おうね」

和「ええ」

優希「受けて立つじぇ」

不敵な笑みを交わし合う。期せずして始まった京ちゃんを巡る三人の乙女による開戦の儀は、こうして幕を下ろしたのだった。

 


咲「…しかし京ちゃんよく寝てるね、というかよく起きないよねこの状況で」

和「まったく、人の気も知らず呑気なものです、
私はクラスも違うし部活の時間は大切にしたいのに、せっかく来たら寝てるなんて、もう…」

優希「自分が私達をどれだけヤキモキさせてるかなんて全然自覚しとらんのだじぇこの男は」

悪態をつきつつ二人も私同様京ちゃんの寝顔に萌えてるのがわかる。
好きな人の寝顔ってなんでこんなに可愛く見えるんだろうね。
とりあえず、今日のところはこのまま抜けがけなしで寝太郎京ちゃんの鑑賞会に終始しようと目で頷きあっていると
思わぬところから思わぬ人の声が聞こえてきた。


久「うーん、よっく寝たー」

咲「へ?」

優希「ぶ、ぶちょー!?」

和「いらっしゃったんですか…」

のそのそとベッドから出てくる部長、いや正確には元部長なんだけど、
引退した今でも前と変わらず麻雀部に顔を出すのでみんななんとなく部長と呼び続けている。

久「はい、いらっしゃいましたよー。いやぁ、三年は授業午前まででね。早く来てベッドで寝てたのよ」

咲「全然気付かなかったよ…」

和「…部長、本当に今起きたんですか?」

久「あ、バレた?実は結構前から目覚めててみんなの話聞かせてもらっちゃったのよね」

和「も、もう、悪趣味ですよ部長」

優希「むう、聞かれてたと思うとなかなか恥ずかしいものがあるじぇ」

久「あはは、いーじゃない青春っぽくて。いやー今年の一年は麻雀も私生活も大いに張り切ってて結構なことだわ」

からからと笑う部長、うう、当分このネタでからかわれることになりそうだ。
でもまあ中立の人にからかわれる分には別に困ることでもないけど

久「でも一つ認識を改めたほうがいいわね」

咲「?、なにがです?」

久「三つ巴とは限らないってことよ」

そう言っておもむろに京ちゃんのほうに歩み寄った部長は、
私達が言葉の意味を悟ってアクションを起こすより早く、眠る京ちゃんのおでこにキスをした

咲「は…?」

久「…ま、見てのとおり、ここに四人目がいるってことで」

呆然とする私達を尻目にじゃあねーと手を振って部長は部室をあとにした。

咲「な、なななななな……」

和「なんてことしてくれやがりますかあの人はーーーー!?」

優希「抜けがけ、抜けがけだじぇーーー!」

このうえ!?このうえさらに部長!?
清澄の名物会長で男女問わず学校全体の人気者な部長までもが京ちゃん狙い!?
ていうかちゅって、京ちゃんのおでこにちゅって!もうこれ正々堂々とか言ってる場合じゃないよ!
恋する乙女にあるまじき白目をむきそうな気分で
人の初恋をこんな高難易度ミッションにしてくれちゃう神様は性格悪いに違いないと思う私だった。