衣「ノノカ。お前…弱くなったな」
















~京太郎~
その日は龍門渕高校との対外試合の日だった。
秋季大会前の調整を兼ねているとは言え、同じ予選地域の龍門渕との試合って良いのだろうか、と思わなくもない。
だが、既にこっちの手の内は殆どバレきっているし、逆も同じだ。
今更、対外試合の一つや二つ程度で、大きくバランスが崩れる事はない。
特に今回は永水女子が躍進した理由でもある小蒔が入部しているのだ。
こちらの手の内がバレてしまうよりも、麻雀部に入部した小蒔を何処に置けば良いかを考える方が先決だと染谷先輩も考えたのだろう。

京太郎「(まぁ…それに俺がついていけてるのが不思議なのだけれど)」

龍門渕は見事な女子高だ。
その内部で行われる対外試合は普通、男子禁制だろう。
しかし、染谷先輩は一年目に俺を雑用として使っていた事を気にしてか、一選手として一緒に連れて行ってくれた。
お陰で女子と打つ事になったけれど…龍門渕の選手は殆どがおもちの控えめな人たちである。
能力が発動する事もなく、ノビノビと打つ事が出来た。

京太郎「有難う…ございました」プシュー

しかし、かと言って、俺が勝てるかどうかというのは別問題である。
まだ麻雀を本格的に初めて数ヶ月も経っていない俺が太刀打ち出来るほど魔境長野を勝ち抜いた龍門渕の選手は甘くない。
面白いほどボッコボコにされ、殆ど和了る事も出来なかった。


京太郎「(でも…見えてくるものはあった…)」

数少ない俺の和了。
それは俺の中で朧気ながらも形になりつつある集中力の極地に片足を突っ込んだ時だった。
今の俺でも…『ゾーン』に入る事が出来れば、長野でも有数の実力者たちに太刀打ち出来ない訳じゃない。
勿論、地力の向上は必要不可欠ではあるが、『ゾーン』は俺の能力とは言わずとも武器にはなってくれる。
その手応えを得ながら、ふと横の卓を見れば、そこには天江選手の姿があった。

京太郎「うわぁ…」

そこは明らかに空気が違っていた。
ドス黒く渦巻き…波打つような荒々しい空気。
まるで嵐の中の海を彷彿とさせるそれは俺の卓には勿論、ない。
それは恐らく…その中心となっている天江選手がさっきの卓にいなかったからなのだろう。

京太郎「(魔物かぁ…言い得て妙だよなぁ…)」

人智を超えた『何か』を持つ圧倒的な存在。
素人に毛が生えたレベルの俺でもはっきりと分かるそれは、なるほど、確かに『魔物』と言う言葉が適切なのだろう。
しかし、俺はその言葉を素直に受け止める事が出来ない。
それはきっとそうやって『魔物』と呼ばれていた小蒔が、普通の少女だと知ってしまったからなのだろう。
幾ら『魔物』と言われても…彼女たちは普通の女の子で…普通に生きている。
ちょっと変わったところを持つかもしれないけれど…あくまでそれだけの女の子なのだ。
それを『魔物』と呼んで区別するというのは少し間違っている気がしなくもない。


京太郎「(それに…世の中には『魔物』と呼ばれる人にだって勝てる奴がいるんだ)」

それは…今、天江選手と同卓している和が筆頭に挙がるだろう。
どれだけ天江選手の能力が強くても、和には通用しない。
どんな時でも最高のポテンシャルを発揮するのが和の能力なのだから。
相性次第ではエースキラー、ジャイアントキリングも達成出来る清澄のジョーカー。
エースである咲とはまた違った和の能力ならば、天江選手にだって… ――

京太郎「…え?」

そう思って近づいた俺の目に見えたのは信じられない光景だった。
和の手が一向聴のまま立ち止まり…まったく聴牌へと進んでいる気配がない。
河の様子を見たけれど、どれもこれも外ればかりでろくな牌が入っていなかった。

京太郎「(嘘だろ…そんなはずない…)」

ついこの前も俺は龍門渕高校と何度も繰り返された対外試合の牌譜を整理していたのだ。
そこには天江選手の支配に打ち勝ち、何度も和了る和の姿があったのである。
しかし…今の和にはその気配がまったくない。
同卓している他の子と同じく一向聴のままだった。


ハギヨシ「…おかしいですね」
京太郎「ハギヨシさん…」

いつの間にか俺の隣に立っていたハギヨシさんはさっきからこの卓の様子を見ていたのだろう。
その手にはバインダーが挟まれ、手は休まずに動き続けている。
スラスラとよどみなく動くそれはどうやら三人分の牌譜をリアルタイムで作っているらしい。
一人分でもリアルタイムは厳しいと言うのにこの人は一体、何をやっているのか。
そんな呆れとも感心ともつかない感情を抱く俺の前で、ハギヨシさんはふっと口を開いた。

ハギヨシ「さっきからずっとあの様子で…手が進んでいないんですよ」
京太郎「え…?」

しかし、そんなハギヨシさんから紡がれた言葉はその感情を遥かに超えていた。
思わず聞き返しながら、ハギヨシさんの紙を覗き込めば…確かに和の手は進んでいない。
この局だけじゃなく…最初から…ずっとずっと一向聴地獄に陥っているままだ。

ハギヨシ「…今までこんな事ありませんでした。なのに…どうして…」

その声に微かに残念そうなものを混じらせるのは、きっと主人の事を思っての事なのだろう。
殆どの相手に完封勝ち出来る天江選手にとって、和は天敵と言っても良い存在だ。
しかし、だからこそ、全力で打てる相手だとして、その実力を認めていたのである。
下手をすれば咲よりも認めていたかもしれない好敵手。
その和が今、自分の支配に抗えないと知った天江選手の心境たるや一体、どれほどのものなのだろうか。
付き合いの浅い俺には分からないが、天敵に勝てる喜びを覚えている訳ではないのは、主人を第一に考えるこの人の表情を見ればよく分かった。


衣「ツモ。リーチ一発小三元海底ツモ。満貫となって4000オールだな」
和「はい…」

そう言って天江選手に点棒を手渡した和には…もう点数はなかった。
所謂…箱割れと呼ばれるそれは…この局でゲームが終了した事を意味している。
しかし…俺はそれを見ても、まだ信じられなかった。
だって…和なのだ。
あの強豪ひしめくインターハイでも決してその打ち方を崩さなかった和が…今、箱割れするほどボロ負けしている。
憧れて…何時かは追いつきたいと思っていた彼女がそこまで負けるなんて、俺は今まで想像もしていなかったのだ。

衣「……」

そして、それは天江選手も同じなのだろう。
和から点棒を受け取った顔は寂しさと悲しさを見せていた。
小柄で子どもっぽいその顔を辛そうな表情に染められると、見ているこっちの良心が痛むくらいである。
しかし、俯き加減になり、ぎゅっと手を握りしめた和には…その表情は見えていない。
今…誰よりも打ちのめされているのは…多分、天江選手ではなく、和の方なのだろうから。




衣「ノノカ。お前…弱くなったな」
和「っ!!!」

だからこそ、和にとっては、その言葉は残酷なものにしか思えなかったのだろう。
天江選手の辛そうな顔を知らない和にとって…それは自分の弱さを責められているものにしか思えなかったはずだ。
だからこそ…あの気丈な和が肩を震わせ、怯えるように震えている。
しかし、そんな和と親しい優希も咲も…今は別の卓で戦っている最中で気づいていない。
ならば、せめて…俺が声を掛けてやらなきゃいけないだろう。

京太郎「(だけど…本当に良いのか…?)」

あの日…和が駅まで迎えに来てくれた日から…俺達はろくに会話していなかった。
それは俺の近くに大体、小蒔が居た事もあるが、何より大きいのは俺が臆病だった所為だろう。
失望されたり軽蔑されるに足る事をやっていた俺に…和に話しかける資格があるのだろうか。
そう思うとつい…懐いてくれている小蒔の方へと逃げてしまっていた。
和もまたそんな俺に話しかける事はなく、ぎこちない関係のまま今日を迎えていたのである。

京太郎「(そんな俺が…今更、和を励まして良いのだろうか)」

勿論…何とかしたいと思う心に理由なんかない。
人を助ける為に必要な資格なんてきっとないんだろう。
しかし…それでもやっぱり…何処か遠慮してしまう。
下手な事をやって余計に軽蔑されるんじゃないだろうか。
また失望されて…嫌われるんじゃないだろうか。
そう思って…放つべき言葉を紡げなくなるのは…俺の中で和がやっぱり特別だからなのだろう。


和「~~~っ!」
京太郎「っ…和!!」

しかし、そうしている間に和は卓から立ち上がり、ダッとそのまま駈け出した。
娯楽室を駆け抜けるようなそれに異常に気づいた何人かが和へと視線を向ける。
だが、それを止められるものは誰もおらず、俺もまた…呼びかけはするけれど、腕を伸ばす事が出来ない。
結局…誰も止める事が出来ないまま、彼女は娯楽室を飛び出してしまった。

京太郎「和…」

その悔しさにギュッと手を握り締めるのは自分に対する怒りだ。
俺があの時…何かを言う事が出来れば…あの和を逃げるほど追い詰める事はなかったかもしれない。
いや…本当ならば…俺はそうするべきだったのだろう。
けれど、うじうじと悩んでいる間に、あの気丈な和が…逃げるように去ってしまった。
それが悔しくて…でも、和を追うほどの勇気は出せなくて…俺はその場に立ち尽くしてしまう。

ハギヨシ「…須賀君、原村様を追ってあげなさい」
京太郎「ハギヨシさん…でも…」

そんな俺に優しく話しかけてくれるのは黒髪の執事だった。
何もかもを完璧にこなす彼がそう言うのならば…それが正解なのかもしれない。
だけど、俺は特別、和と親しい訳ではないのだ。
いや、それどころか最近は嫌われているような節さえ感じるのである。
丁度、近くにいて…タイミングが合っただけならばともかく…ここで追いかけて良いのだろうか。
そう思うと…どうしても決心がつかず、顔を俯かせてしまう。


ハギヨシ「あの時、原村様は須賀君を待っていたと思いますよ」
京太郎「…そんな訳…」
ハギヨシ「では、どうして原村様はすぐさまあの卓から離れなかったのでしょう?」

尋ねるように言うハギヨシさんの言葉に俺はふと和の様子を思い出す。
確かに和は天江選手の言葉に何も言い返せず、震えていた。
しかし、その後、和がこの部屋を出るまでには数十秒近い空白があったのである。
勿論、それは和が周囲の空気に耐え切れなかったから…と言う理由が一番、説得力のあるものなのだろう。

ハギヨシ「それは後ろに須賀君がいた事を知っていたからだとおもいますよ」

だが、それでもこの人がそう言うと…そんな気がして仕方がない。
確かに…そう思うと強引ではあるものの、辻褄が合わない訳じゃないのだ。
和は明らかに集中を崩されている様子だったし、俺達の声が聞こえていても不思議じゃない。
天江選手の言葉の後、その場に留まったのも…俺から声を掛けられるのを期待してなのかもしれない。
勿論、それは自意識過剰も甚だしい…俺にとって都合の良い解釈だ。
だけど…俺は… ――

ハギヨシ「そうでなくとも、須賀君は傷ついている学友を放っておけるような薄情な男なのですか?」
ハギヨシ「私が友人となった須賀京太郎は…そんな薄情な男ではなかったはずですよ」
京太郎「はは…ハギヨシさんは厳しいなぁ…」

優しげな、しかし、突き放すような口調で厳しい言葉をくれるハギヨシさん。
それに自嘲混じりの声を漏らしながらも…俺の心は固まった。
それは多分…間違っているのだろう。
あまりにも自分勝手な妄想に近い考えだ。
だけど…もし…1%でも、その可能性があるというのならば…俺はここで立ち止まっている訳にはいかない。
突然、飛び出した和に状況が飲み込めず、オロオロとしている咲や優希の為にも…動かなきゃいけないのだ。


京太郎「(それに…さっきのは俺らしい考えじゃなかった)」

もう俺は嫌われるに足る事を山ほどやってきてしまっているのだ。
それを今更、コレ以上、嫌われたくないだなんてムシが良いにもほどがある。
それよりは…俺の言葉が少しでも和の助けになることを願って動くのが…須賀京太郎だ。
自分でも忘れかけていたそれを取り戻すのを感じながら、俺はゆっくりと顔を上げ、ハギヨシさんへと向き合う。

京太郎「それじゃ…ちょっと和を追いかけて来ます」
ハギヨシ「えぇ。私は今の間に、テンパッてる衣様をあやしておきますので」

ニコリと笑うハギヨシさんの視線の先にはオロオロと落ち着きのない様子で周囲を見回す天江選手の姿があった。
思わず言ってしまった言葉が和を追い詰めてしまったのだと気づいたその姿は今にも泣きそうなものになっている。
そんな天江選手へと近づくハギヨシさんに…彼女は飛び込むように抱きついた。
そのまま胸でボソボソと会話を交わすその二人には主人と使用人と言う枠を超えた信頼を見て取れる。
いや、或いは…それはもう信頼というものすら超えているのかもしれない。
そんな風に思わせる微笑ましい光景から俺はそっと目を逸らし、床を蹴るようにして駈け出した。

京太郎「(考えるのは…後だ…!!)」

俺が慰めても迷惑なのかもしれないとか…そう言う不安はこの際、全部捨てておけば良い。
もし、そうだった時に受け止めてくれる人が俺には二人いるのだから。
しかし…今の和にはそんな人すらもいない。
ならば、まずはその助けになる事を考えるべきだ。
例え…そうなれずとも…後に続くであろう咲や優希たちの踏み台にでもなれれば良い。
そう思って俺が向かった駈け出した先にいたのは… ――

京太郎「(このお屋敷は大雑把に【西館】【東館】と二つの館を渡り廊下で繋いでいる)」

京太郎「(ここは【西館】で…このままこの廊下をまっすぐ行けば【東館】だ)」

京太郎「(だけど…今の和はきっと誰にも会いたくないはずだ…!)」

京太郎「(それなら…和が行くのは多分…!!)」

京太郎「こっちか…っ!!」タッタッタ


………

一「(はぅー…ボクも女の子だし…掃除は嫌いじゃないけどさー)」

一「(流石にちょっとこのエントランス全部一人ではムリゲじゃないかなー…)」ヒロビロー

一「(まぁ、毎日、ハギヨシさんが掃除してくれてるからさっと拭くだけで良いんだろうけど…)」

一「(と言うか、あの人はホント、何者なんだろう…)」

一「(一人で十人分でも二十人分でも働いてるのにまったく辛くなさそうだし…)」

一「(たまに心配になるくらい凄いんだけど…でも…そんなところが…)」

京太郎「国広さん!!」

一「ひゃあ!?」



一「な、なな、何!?べ、別にサボってなんかいないからね!!」

京太郎「いや、サボってたとしても別に良いんですけど」

京太郎「それより…国広さんは何時からここに?」

一「何時からって…」トケイチラッ

一「だいたい、一時間くらい前から?」

京太郎「じゃあ…こっちに和は来ませんでしたか?」

一「原村さん?いや…来てないけど…」

京太郎「そうですか!ありがとうございます!!」

一「あっちょ!!」

一「もう…なんなんだろう一体…」

京太郎「(国広さんが西館の入り口を見ててくれたんなら…和は外には行っていない…!)」

京太郎「(わざわざ東館にまで行けば、話は別だろうけど、そんな面倒な事は多分、しないはずだ…!)」

京太郎「(つまり…和は【この屋敷から外には出ていない】って事になる)」

京太郎「(だったら…何処だ?今の一人になりたいだろう和なら…何処に行く…?)」




【情報ピース:和は外に出ていない】を取得しました。

京太郎「(一人になれる場所つったら…女子トイレか…?)」

京太郎「(いや…でも、この屋敷だけでトイレなんてどれくらいあるんだよ…)」

京太郎「(それにメイドさんたちが多数、暮らしてるこのお屋敷は男子と女子に別れてるんだ…)」

京太郎「(そんな中、女子トイレにノックなんて出来るか…?)」

京太郎「(それだけでもう不審者確定だろ…無理に決まってる…)」

京太郎「(遊戯室から直近のトイレだけでも確かめてみるか?)」

京太郎「(いや…でも…あぁ…くっそ!!)」

京太郎「どうすりゃ良いんだ…」

純「アレ?須賀じゃねぇか?何やってんだ?」

京太郎「井上さん!?」

京太郎「良かった!井上さん女性ですよね!?」

純「何当たり前の事聞いてんだおい」

純「まさかお前もオレの事からかおうと…」ジトー

京太郎「ち、違いますって!」アセアセ

京太郎「ただ、ちょっと今、のっぴきならない訳でして…一つ井上さんにお願いが…」

純「…なんだよ、水臭いな」

純「急いでるんだろ?それくらいオレでも分かる」

純「事情も聞かないでおいてやるから何を頼みたいのか早く言えって」

京太郎「井上さん…ありがとうございます…!」

京太郎「と、とりあえず…遊戯室から一番近い女子トイレを確認してもらえます?」

純「…は?」




………


……






純「とりあえず言われた通り、近場のトイレ含めて全部見たけど、誰もいなかったぞ」

京太郎「そうですか…どうしよう…」

純「何だ?誰か探してるのか?」

京太郎「はい。和見ませんでした?」

純「原村?そういやさっきあいつらしい髪を見たような…」

京太郎「っ!!何処でですか!?」

純「落ち着けって。窓から見ただけだから、何とも言えねぇ」

純「でも…オレの見間違いじゃなかったら西館の三階にいたぞ」

純「悪いがそっから先は分からねぇよ」

京太郎「いえ…!それだけで十分です!ありがとうございます!!」ダッ

純「なんだか分からねぇけど…頑張れよ、須賀!」

京太郎「はい!!」





京太郎「(今のここは西館の二階…それでわざわざ上に上がったって事は…)」

京太郎「(和が目指すものは上にあるって事だ…!)」

京太郎「(三階は来客用のエリアで部屋が一杯あるけど…)」

京太郎「(でも、和は勝手に人の屋敷の部屋にはいるような奴じゃない…!)」

京太郎「(だったら…今の和が行こうとしているのは…たった一つ…!)」

京太郎「(三階のさらに上…屋上だ!!)」




【情報ピース:女子トイレにはいない】を取得しました。
【情報ピース:和は上に向かっている】を取得しました。

情報ピースが集まり、和の居場所が分かりました。
少目標達成です。



【屋上】

― ガチャキィィ

和「……」

京太郎「…やっぱり…ここに居たのか」

和「須賀君…」

京太郎「…いい景色だよな、俺もここ結構好きだぜ」

京太郎「夏の終わりに皆で花火やったりさ。他にもバーベキューとかやったよなぁ…」

京太郎「はは…まだ半年も経ってないってのにすげぇ昔の事みたいに思えるや…」

京太郎「ちゃんと思い出せるのは思い出せるんだけどさ」

京太郎「タコスがタコスを焼けとか色々と無茶言ったりしてたこともしっかり思い出せるんだけど…」

和「……」

和「私は……」



和「私は…その頃からずっと…分かっていたんです」

京太郎「…何をだ?」

和「私が…認めたくなかった事。麻雀に…オカルトめいた何かがあるって事を」

和「幾ら私でも…インターハイを戦って…様々な人と知りあえば…見聞も広がります」

和「インターミドルではあまりいなかったとは言え…インターハイ出場校ともなれば、能力を持っていない人の方が少ないくらいですから」

和「それでも…私はずっと認めませんでした」

和「だって…それを認めたら…私…」

和「勝てなく…なっちゃうじゃないですか…」

京太郎「…和…」

和「私だって…自分の強みと役割くらい分かってます…」

和「あそこで私が認めちゃったら…清澄はきっとあの激戦を勝ち抜けませんでした」

和「たった一人のミスで全部が崩れかねない…薄氷の上に…清澄の優勝はあったんですから」

和「だけど…ここで…皆で花火を打ち上げた時…私は終わったと思ったんです…」

和「あぁ…これで一つ肩の荷が降りるって…もう楽になって良いんだって…そんな風に…」

和「でも…インターハイを優勝した清澄に対する注目は強くて…学校でも秋季大会は優勝して当然みたいに言われて…」

和「皆もそれに向けて頑張ってて…だから…だから…私…もうちょっと頑張ってみようって…そう思ったんです…」

和「だけど…私…私…無理でした…・」

和「認めたらダメだって分かっているのに…」

和「頭ではどれだけオカルトを否定しても…ダメなんです…」

和「もう…身体が…おかしくなっていて…今も…」

和「須賀君に…須賀君に…私…」ギュゥゥ

和「…抱きしめて欲しいって…そんな風に…思って…」

京太郎「…和」

和「来ないで下さい!」

京太郎「っ…!」

和「今来られたら…私…本当にダメになっちゃいます…」

和「分かるんです…私…もう…おかしくなっちゃったから…」

和「だから…来ないで…来ないで下さい…」

京太郎「…俺は……」

京太郎「(確かに…俺はここにいない方が良いのかもしれない)」

京太郎「(和が能力のことを否定しきれなくなったのは…俺の所為なんだから)」

京太郎「(俺は和にとって加害者で…偉そうな事を言えるような身分じゃない)」

京太郎「(でも…俺の頭の中に…さっきのハギヨシさんの言葉が消えない)」

京太郎「(和も…俺のことを待ってくれているっていう…可能性)」

京太郎「(それは…多分、自意識過剰な…考え方なんだろう)」

京太郎「(だけど…和は来ないでって…そう言ったんだ)」

京太郎「(出て行けじゃない。顔を見せるな。じゃない)」

京太郎「(だったら…俺は拒絶されていないんじゃないだろう)」

京太郎「(それなら…ここで立ち去るべきじゃない)」

京太郎「(俺はまだ…俺に出来る事を何一つとしてやっていないんだから)」

京太郎「なぁ…和」

和「…何ですか?」

京太郎「麻雀は楽しいか?」

和「っ…!」


京太郎「さっきの話を聞いて…俺は思ったんだ」

京太郎「和はきっと…辛かったんだろうなって」

京太郎「自分を誤魔化して…麻雀打って…それで勝って…」

京太郎「また次の試合があって…それはとても苦しかったんだろうなって」

京太郎「でも…俺はそうやって和が辛いなら…麻雀なんて止めるべきだと思う」

和「っ!でも…!」

京太郎「清澄がなんだって言うんだよ。周りが何だって言うんだよ」

京太郎「そんなの和が無理するような理由じゃないだろ」

和「でも…私だけの責任じゃないんです!」

和「清澄はもう…日本を代表する一校になってしまったんです!」

和「衣さんだってそう…!私に…私達に期待してくれているんです!」

和「そんな人達の期待を全部裏切れって言うんですか!?」

京太郎「あぁ、そうだ」

京太郎「そんなもん…和に比べりゃゴミみたいなもんだ」

和「ゴミって…」

京太郎「だって、そうだろ?」

京太郎「大事なのは…和が麻雀を楽しめているかどうかだ」

和「私は……」

和「私は…そうは思えません…」

和「だって…だって…皆…頑張ってるじゃないですか」

和「また戦えるのを楽しみにしていてくれている人もいるんです…」

和「それに…皆だって優勝目指して頑張って…神代さんも入って団体戦が見えてきたのに…」

京太郎「じゃあ…そうやって和に期待してくれている人ってのは…和が無理して喜ぶような連中なのか?」

和「っ…」

京太郎「俺は咲じゃない。優希じゃない。部長でもなければ、天江選手でもない」

京太郎「だけど…きっと皆はそんな事を望んでいない」

京太郎「皆…和が麻雀を楽しんで打つ事を望んでいるはずだ」

和「だけど…負けたら…清澄の名前が…」

京太郎「負けりゃ良いじゃねぇか」

京太郎「部員一人を追い詰めなきゃ保てないような名前なら皆喜んで捨ててくれるさ」

京太郎「それに…負けるのだって結構、面白いもんだぜ?」

京太郎「誰よりも清澄の中で負け続けた俺が言うんだ、間違いない」キリリッ




和「…何ですか、それ」クスッ

京太郎「あ、ようやく笑ったな?」

和「あ…」カァ

京太郎「はは…まぁ、アレだよ」

京太郎「和はさ、責任感強いのが良い所でもあるんだけど、ちょっと考え過ぎだ」

京太郎「全国制覇したっつっても、小さい部活なんだ」

京太郎「もっと気楽に打って…んで、時には負けて…それで良いじゃねぇか」

京太郎「それでも勝ちたい。皆と一緒にまた全国に行きたいって言うんなら…」

京太郎「…俺が…俺が手伝うから」

和「…須賀君」

京太郎「勿論、俺に出来る事なんてたかが知れてるもんだと思う」

京太郎「俺みたいな初心者が和が強くなる手助けなんて出来るとは思えない」

京太郎「だけど、俺は…和の力になりたいんだ」

京太郎「和にその…色々としてしまったお詫びになるとは思っていない」

京太郎「だけど、俺は…俺は……」



京太郎「…いや、やっぱ良いや」

和「え…?」

京太郎「(幾ら何でも…このタイミングは卑怯過ぎるしなぁ…)」

京太郎「(それに…漫さんや小蒔に対してまだ答えも出せていないのに不誠実過ぎる)」

京太郎「(…まぁ、俺がただ単に臆病だってのもあると思うけどさ)」

京太郎「(でも…俺は…)」

和「…??」

京太郎「(…和の事が…やっぱり好きなんだよなぁ…)」

京太郎「と、とにかく!」

京太郎「和がどうするにせよ…そろそろ皆の所に戻ろうぜ?」

京太郎「きっと…皆、心配してるし…何よりここは寒いだろ」

和「…そう…ですね」

京太郎「あー…ちょっとまって。先に俺が出るから後で…」

和「もう…そんなに気を遣わなくて結構ですよ」クスッ



和「須賀君と話したお陰で大分、身体が楽になりましたから」

京太郎「そう…なのか?」

和「えぇ。やっぱり…日常的にコミュニケーションは取っておかないとダメみたいですね」

京太郎「いや…なんつーか…すまん」

和「あぁ…いえ…意地を張っていたのは私の方ですし…」

和「それに…咲さんやゆーきの前で須賀君と話しているとその…」

京太郎「?何でそこで咲や優希が出てくるんだ?」

和「…はぁ…これだから須賀君は…」

京太郎「???」

和「まぁ…二人共神代さんに気に入られてなし崩しに婚約者になったって言うのに納得してないって事ですよ」

和「ちゃんと詳しい経緯をメールで聞いてる私だって…正直、納得はしていないんですから」ジトー

京太郎「あ、あはは…その…すまん」

和「…別に良いですけれどね」

和「別に私は須賀君に嫉妬するような立場でもなんでもないですし」

和「将来の事を心配するような仲でもないですから」ジロー

京太郎「(その割には眼力が篭ってるのは気のせいですかね、和さん!?)」



和「まぁ…『部活仲間』』としての言わせて貰いますけど、誰彼かまわず手を出すのは止めたほうがいいと思いますよ」

和「じゃないと…将来的に須賀君が後ろから包丁でこうブスリと刺されかねません」

京太郎「そ、そんな事しないって。もう能力の発動する条件も分かってきたんだし」

京太郎「犠牲者をコレ以上、増やしたくないのは俺も同じなんだから」

和「そうだと良いんですけどね」フゥ

京太郎「の、和ぁ…」

和「もう…情けない声出さないでください」

和「さっき格好良かったのが嘘みたいじゃないですか…」

京太郎「えっ」

和「あっ…」カァ

京太郎「え…今、格好良かったって」

和「わ、わわわわ…忘れて下さい!!」

京太郎「い、いや…でも…」

和「そ、そんな事ないですから!ちょっぴりドキドキしたとかそんな事ないですから!!」

和「抱きついて甘えたくなったとかそんなんないですからあぁぁっ!!」ナミダメ


京太郎「お、おぉぉぉ落ち着け和!!」

京太郎「と、とりあえず深呼吸だ深呼吸っ」

和「うぅぅぅ…」マッカ

京太郎「え、えっと…その…とりあえず…だな」

京太郎「う、嬉しかった…ぞ?」

和「はぅぁ…ぁっ」プルプル

京太郎「あぁ!ごめん!ち、違うんだ!別に追い詰めようとした訳じゃなくって!!」

京太郎「そ、その本当に嬉しかったんだ!」

和「う…ぅうぅぅ…」モジモジ

京太郎「(やばい…和が顔を真っ赤にしてモジモジし始めた…)」

京太郎「(その上…期待するようにこっちをチラチラ見て…まるでご褒美をオネダリしているみたいだ…)」

京太郎「(いや…そんなはずないだろ、うん。そんなはずない)」

京太郎「(小蒔ならともかく、和に限って…そんな事ない…)」

京太郎「(でも…まぁ…ちょっとだけ…そう。冗談めかして…もうちょっとだけ…)」



京太郎「えっと…じゃあ…俺の胸の中に来る…か?」ウデヒロゲ

和「……」

京太郎「……」

和「……」ダッ

京太郎「うぉ!?」

和「な、何ですかそれ…ふ、ふざけてるんですか!!」

和「そんな事ないって言ったじゃないですか!言ったじゃないですか!!」

和「なのに…何でこんな…大丈夫だって言ったのに…迷惑だって思ったから言ったのにぃ…♪」

京太郎「あ、あの…和…?」

和「はぁ…はぁ…ぁっ♪」ギュゥゥ

和「あぁ…っ♥須賀君だ…ぁ♪須賀君の胸の中…ドキドキします…っ♪」

和「硬くて…強くて…匂いも…ふわぁ…ぁっ♥」スゥゥ

和「反則…です…っ♪こんなの…反則ですよぉ…♥」

和「こんなのずっと独り占めとか…神代さんズルいです…っ♥卑怯…ですよぉ…♪♪」


京太郎「の、和…?」

和「嫌…です…っ♥」

和「もう…もう46日ですよ…っ♪」

和「46日間も…私…ろくに須賀君と触れ合えなかったんです…っ♥」

和「ずっと他の人に邪魔されて…意地張って…ぇ♥」

和「だから…私…もう無理です…っ♪」

和「須賀君から…離れられません…っ♪」

和「須賀君が悪いから…ぁっ♪私…我慢してるのに…須賀君が…須賀君がぁ…♥」

京太郎「あー…ごめんな…」ギュッ

和「ふあ…ぁ…♪」

京太郎「そうだよな…かなり迂闊で…何より卑怯な言葉だった。悪い」

京太郎「和が無理してるってのは…分かってたのにホントごめんな…」

和「そぉ…ですよぉっ♥須賀君が…須賀君が悪いんです…っ♪」

和「だから…一杯、構ってくれないと…私…拗ねちゃいますから…っ♥♥」

和「今までの分…ちゃんと須賀君を感じさせてくれないと…私…ダメになっちゃうんですからね…っ♪」


京太郎「えーと…感じさせるってその…」

和「お、女の子に…そういうこと言わせないでください…っ♪♪」

京太郎「わ、悪い。いや…でも…ここ龍門渕さんところの屋敷だしな…」

京太郎「それに一回は顔出しとかないと皆心配して…」

和「こ、こんな状態で皆の前に顔をだすとか…無理ですよぉ…♪」

和「もう須賀君から離れたくないのに…そんなの…修羅場になっちゃいます…っ♪」

京太郎「あー…手を繋いでても無理っぽい?」

和「ダメ…です…っ♪」

和「私もう…須賀君の匂いで…腕で…ぎゅってされないと…ダメなんです♪」

京太郎「…ぬあー…」

京太郎「(これ…完全に積んでねぇか?)」

京太郎「(だって…こうやって抱きしめられたら移動すらろくに出来ないぞ?)」

京太郎「(かと言って…流石に龍門渕の客室を借りてエロエロなんてしたら一発でバレるぞ…)」

京太郎「(ど、どうすりゃ良いんだ…?)」

京太郎「(仕方ないな…)」

京太郎「(こうなった以上、責任を取らなきゃいけないし…)」

京太郎「(何より…俺も和としたくなってる)」

京太郎「(だから…ここで選ぶべき道は…一つ…!)」

京太郎「和…しっかり捕まっててくれよ…!」ダキアゲッ

和「きゃん…っ♪」

和「え…これ…ぇ…♪」

京太郎「お姫様抱っこ…って奴?これなら動けるだろ?」

和「あぁ…♪す、須賀くぅん…♥」ギュゥゥ

京太郎「(う…耳元に和の熱い吐息が掛かって…思ったよりこれやばい…)」

京太郎「(さっき抱きつかれたのもあって…早くもムスコがスタンダップし始めた…)」

京太郎「(でも…でも…やるしかねぇよな…!)」

京太郎「(ここから一番近いラブホまで…約2km…!)」

京太郎「(その間を…お姫様抱っこで駆け抜ける…!!)」

京太郎「(連絡は途中の休憩で…メールを送ろう)」

京太郎「(勿論、怪しまれるだろうけど…龍門渕でヤるよりは幾らかマシなはずだ…)」

京太郎「(…願わくば、小蒔にだけは気づかれませんように…!!)」










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