~京太郎~

まこ「残念じゃが、和の事ばっかりにも構ってはいられない」

そう宣告する染谷先輩の顔は苦渋に満ちていた。
きっと染谷先輩…いや、部長だって本当はこんな事言いたくはないのだろう。
しかし、今年インターハイ優勝校を預かった身としてはどうしても言わざるを得ない。
それが分かるからだろう。
部長の重い言葉に咲や優希も何も言わず、麻雀卓につきながら項垂れていた。

京太郎「(もう…和が学校に来なくなって一週間もなるんだ。無理もねぇよ…)」

俺が過ちを犯してしまったあの日から既に一週間近く。
その間、俺達は手をつくしたものの、和が再び麻雀部に顔を見せる事はなかった。
勿論、染谷先輩だって和を大事な仲間だと思っているし、連れ戻したいと考えているのだろう。
しかし、大きな大会を2つ目前に控えた状態で、そうしていられる余裕と言うのはあまりなかった。

まこ「前々から言っていた通り、14日からの三連休を利用して合宿を行う」
咲「でも…」
まこ「分かっとる。わしじゃって和を置いてけぼりにしたくはない。けれど…もう合宿は決まっている事なんじゃ」

そう言って肩を落とす部長の顔は少し疲れて見えた。
既に決まっている日程と和の不登校。
その2つに最も苛まれたのは、この優しい部長なのだろう。
癖のある清澄麻雀部の中で誰よりも周りを見ているのは間違いなく部長なのだ。
こうやって咲たちに現実を突きつける事だって本当はしたくないだろう。

まこ「勿論、和にもその旨を連絡する。じゃが…」

そこで言い淀むのは和の返事がここ最近、急激に減った所為なのだろう。
最初はまだ俺達のメールにもちゃんと返信をしていた和だったが、今はそれも殆どない。
メールを見ているのかすら分からないのが現状だった。
それは別に俺達に対してだけではなく、真面目な和の不登校に焦った先生相手でも同じらし

咲「和ちゃん…」
優希「のどちゃん…」

それに我が部の誇るムードメーカー二人が沈んでいる。
それだけで部室の空気は暗くなり、どんよりとした重苦しい気持ちがのしかかってくる。
かつて全国を制覇した強豪校とは思えないその姿。
こうして二人が落ち込む原因を作った俺にとって、それは胸が軋む光景だった。

まこ「ただ…嬉しい話もあるぞ!」
京太郎「え?」

そんな空気を吹きとばそうとしたのだろう。
不自然なくらいに明るい声を出した部長がそっと俺の方へと視線を向けた。
まるで、これから言う事はお前に関係していると言わんばかりのその仕草に俺は内心、首を傾げる。
そもそも、これは麻雀部の合宿である前に、女子がメインとなるイベントなのだ。
合宿相手は女子麻雀部になるだろうし、それ故に俺は以前の合宿に完全ノータッチだった訳である。
今回もお留守番確定だと思っていた俺に向けられる染谷先輩の視線を不思議に思ってもおかしくはないだろう。

まこ「なんと!今回の合宿は京太郎も参加出来るんじゃ!」
京太郎「…え?」
咲「え?」
優希「…ふぇ?」

瞬間、嬉しそうに言った部長の言葉を俺は理解出来なかった。
それは他の二人も同じだったのだろう。
半ば、呆然とした顔で染谷先輩の顔を見ていた。
しかし、一秒二秒と経てば、脳が状況を理解し、実感が胸から湧き上がる。
ブルリと胸の内を震わせるそれに俺が何かを言おうとした瞬間、俺の耳に咲の声が届いた。

咲「ほ、本当ですか!?」
まこ「こんな悪趣味な嘘は吐かんわ。久じゃあるまいし」

強い喜びを感じさせるその声に、染谷先輩がにこやかに返した。
その言葉に若干、竹井先輩への歪んだ信頼が見えるのはさておき、どうやら本当らしい。
だけど、俺はそれをどうしても信じられなかった。
いや、染谷先輩がそんな悪趣味な嘘は吐かないと信じているし、きっと事実なのだろう。
だから、俺が信じられないのは、部長の人となりじゃなくって… ――


京太郎「い、いや、待って下さいよ!本当にそれ大丈夫なんですか?」

勿論、今の部長が、竹井先輩みたく無理無茶を押し通すようなタイプじゃない事は知っている。
染谷先輩はとても常識的で、理知的な人なのだから。
しかし、それでも俺が参加出来ると言う無茶な事を条件に、何かを要求された可能性はある。
もしかして俺一人の為に変な条件を飲まされたりしたんじゃないだろうか。

まこ「なあに、大丈夫じゃ。そもそも、これは相手校の要求でもあるしの」
京太郎「…は?」

そんな不安に突き動かされた俺の声に応えたのは、さらに信じられない言葉だった。
そもそも俺はネト麻でたまに勝てるようになった程度の実力しか無く、公式戦は予選敗退しかしていないのである。
そんな俺を要求 ―― しかも、インターハイ優勝校である清澄と合宿できるようなハイレベル校が ―― するとは思えない。

優希「のどちゃんや咲ちゃんならともかく、犬が指名!?」

それは優希も同じだったのだろう。
その言い方こそ、アレなものの、俺もまったく同じ気持ちだった。
寧ろ、指名されるべきは、インターハイでかなりの成績を残した和や咲じゃないのか。
それは本当に誤解や誤情報の類じゃないのか。
そう思うのは至極、真っ当な思考だろう。


まこ「正確には京太郎そのものを指名された訳じゃないんがな」
咲「え…?」
京太郎「うーん…」
優希「わ、分かんない…!答えをプリーズだじぇ」

そんな俺達から視線を逸らしながら言う部長の言葉に俺たちはさらに謎を深めた。
俺そのものを指名されているじゃないけれど、俺を要求されている。
その何とも微妙なニュアンスの違いに、俺達は首を傾げた。
考えれば考える程、分からなくなっていくようなそれにタコスが音を上げる。
幾らあまり考えこむのが好きなタイプじゃないと言っても、あんまりな思考放棄の速度。
それに染谷先輩が気まずそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。

まこ「あ、相手校の要求は、そこそこ麻雀が打てるレベルの初心者じゃから…」
京太郎「うぐ…っ」
まこ「あ、あぁ!す、すまん!」

遠回しにまだ初心者の域を脱してはいないと言われている部長の言葉に思わず呻き声をあげてしまう。
それに染谷先輩が謝ってくれるものの、それほど気にしている訳じゃなかった。
そもそも、俺が初心者と言うのは誰よりも俺が知っている事であり、自業自得なのである。
俺が和の言う通り、ちゃんと麻雀そのものに向き合っていれば、染谷先輩にそんな事を言わせずに済んだのだ。

優希「なーんだ。犬が私より有名になったかと思って焦った…。損した気分だじぇ」
咲「だ、大丈夫だよ!京ちゃんは強くなってるもん!」
京太郎「…ありがとうな、咲。だが、タコスは許さん」グニー
優希「んぅぅにゃああ」

あんまりにもあんまりなセリフを吐く優希の頬を引っ張りながら、そっと肩を落とした。
染谷先輩のお陰で少しずつ、部内の空気が元の和やかなものへと戻りつつある。
しかし…それが空元気に近いという事を俺はふつふつと感じていた。
誰も彼も…努めて『何時もどおり』に振舞おうとしているが故の危ういバランス。
和と言う大事な仲間がいない事から目を背けるようなそれに俺の胸がまたズキリと傷んだ。


京太郎「でも…どうしてそんな要求を?」
まこ「まぁ、それはあっちに行ってのお楽しみじゃな」

それを無視しながらの言葉に染谷先輩がクスリと笑いながら応えた。
何だかんだ言って誰よりも辛いポジションに居る部長の久しぶりの表情。
そこに嘘偽りはなく、染谷先輩が久しぶりに心から笑ってくれた俺に伝えた。
どうやら…茶番のようなやり取りではあったものの、意味はあったらしい。
それに付き合ってくれた咲たちに心の中で感謝を告げながら、俺はゆっくりと優希の頬を手放した。

まこ「それより今の内に練習しておかないとの。わしも推薦した以上、あまり言えんが、一方的にやられるのは面白く無いじゃろ?」
京太郎「そう…ですね」

そんな俺の背を叩きながら、麻雀卓へと着いた染谷先輩に俺はしっかりと答える事が出来なかった。
そもそも、初心者を求めるような奇抜な要求をしてくるような学校なんてあまり多くはない。
秋季大会や新人戦を目前に控えた今の時期は何処だって実戦経験に飢えているのだから。
そんな中、こんな条件をつけるような高校を選んだのは…多分、俺の為なのだろう。
今度こそ俺を合宿に連れて行く為に、染谷先輩は骨を折り、こうした相手校を見つけてくれたに違いない。
それを思えば、染谷先輩への感謝の気持ちが沸き上がり、声が微かに震えてしまうのだ。

京太郎「(だけど…俺は…)」

その一方で俺はその合宿を心から楽しみにする事が出来なかった。
いや、それは勿論、俺だけではなく、他の皆も同じなのだろう。
大事な仲間である和の事が心配なのは、決して俺だけじゃないのだ。
しかし…俺は…ずっと黙っているままなのである。
和が不登校になってしまった原因が恐らく俺にあるという事を…言えないままなのだ。
それがどうしても胸のしこりとなって残り、自責を生み出す。
俺は…本当にこのまま合宿に行っても良いのか。
和を放っておいたまま…独りだけ楽しむような真似をして本当に良いんだろうか?
そんな悶々とした気持ちを抱えながらも、臆病な俺は何も出来ず…結局、そのまま合宿当日を迎えたのだった。



………

……





咲「ん~」

優希「よぉやく着いたぁ…」

まこ「思ったより長かったの」

京太郎「電車で三時間ですからねー…」

京太郎「優希とか途中から落ち着かなくって、うずうずしてたからな」

優希「それは犬の方だじぇ!」

咲「あはは…私には二人共変わらないように見えたかな」

まこ「まぁ、五十歩百歩ってとこじゃろな」

京太郎「うぅ…タコスと同レベルだったなんて…ショックだ…」

優希「な、何をお!このいぬううう」

京太郎「うわっ!馬鹿!荷物持ったまま抱きつくな!!」

優希「ふっふーん♪犬の癖に生意気な事言うからだじぇ」


咲「…良いなぁ」

まこ「はは…本当にあの二人は兄妹みたいじゃのう」

咲「…兄妹…かぁ」

まこ「……」

まこ「ほら、そこの二人!何時までもじゃれあってないで出発するぞ」

まこ「ここからもうちょっと歩く必要があるんじゃからな」

優希「犬の所為で怒られちゃったじぇ…」

京太郎「どう考えてもお前の所為だろ」

京太郎「つーか、そろそろ離れろ。バランス崩れて歩きづらいだろ」

優希「犬の雑用パワーがあればなんとかなる!!」

京太郎「お前のタコスじゃないんだから、そんなパワーあるはずないだろ」

優希「いや…私には分かるじぇ…」

優希「犬の中で眠る雑用パワーが目覚めつつあるのを…!」

京太郎「例えあったにしても、そんな力は永遠に眠っといて欲しいぜ…」



咲「えっと…それで合宿先の温泉旅館って何処なんですか?」

まこ「ここから数十分ほど歩いた先じゃな」

優希「えー…だったら、タクシー拾おうじぇ」

優希「丁度、四人だから犬以外は皆乗れるじょ」

京太郎「まぁ、タコスの発言はさておいても…数十分はちょっと長いかもしれませんね」

京太郎「家には麻雀以外ポンコツな誰かさんがいますし」ジィ

咲「う…べ、別に私でも数十分くらい歩けるよ!」

京太郎「その大きなキャリーバッグ引っ張り続けてか?」

京太郎「乗り換えする為の移動でさえ、へばりそうになったのに?」

咲「こ、今回は大丈夫だもん」

咲「…た、多分…きっと…」

京太郎「…」

咲「…」





咲「だ、大丈夫だもん!」ムスッ

京太郎「(信じられねぇ…)」

京太郎「まぁ、そんな寸劇はさておいて…送迎バスとかないんですか?」

まこ「んーあると言えばあるんじゃが…」

まこ「相手校の送迎に全部、駆りだされちゃっているみたいでの」

優希「えーそんなのずるいじぇ!」

まこ「まぁ、その代わり、帰りはこちらを優先してもらえる事になっとる」

まこ「帰りの方が疲れておるし、そちらの方がええと思ってな」

まこ「それにこうして景色を楽しみながら歩くのも乙なものじゃよ」

咲「車じゃ景色が流れていくだけですしね」

優希「とは言え、この荷物を引っ張って数十分歩くのは咲ちゃんじゃないけど、ちょっと辛いじょ…」

京太郎「お前のその特大サイズのバッグの中には何が入ってるんだよ…いや、大体、予想はつくけど」

優希「勿論、タコスの材料だじぇ」

優希「旅館の料理も楽しみだけど、やっぱりタコスが一番!」

優希「だから、犬はまた私の為にタコスを作るんだじょ」

京太郎「厨房借りられるかなぁ…」

まこ「(あ、作るつもりはあるんじゃな)」

咲「(京ちゃん…何だかんだ言って優希ちゃんに優しすぎるよ…)」


………

……





京太郎「(と、まぁ歩いて十数分が経過したんですが)」ガラガラ

咲「はひぃ……は…うぅ…」ガラガラ

京太郎「(ある意味、予想した通りの展開になってるなぁ…)」

京太郎「(今にも車道に飛び出しそうなくらいフラフラしているし…)」

京太郎「(それでも言い出さないのは大丈夫って言った手前、意地を張ってるのか…)」

京太郎「(でも、まぁ、そろそろ限界だろうし…手を貸してやるべきかな)」

京太郎「咲」ガシッ

咲「え…あ…」

咲「…ごめんね。京ちゃん」

京太郎「気にすんな。最初からそのつもりだったし」ガラガラガラガラ

京太郎「つーか、無理しすぎだ。折角、俺がいるんだから、早めに言えよ」



咲「だって…京ちゃんにとって今回が初めての合宿な訳だし…」

咲「出来るだけ雑用みたいな真似はさせたくなかったんだもん…」

京太郎「…咲…」

京太郎「ありがとう。でも、遠慮はしなくて良いぞ。こういうのは適材適所なんだから」

京太郎「お前がこういうのに向いていない事くらい中学時代で嫌というほど知ってるさ」

京太郎「だから、今更、そんな事気にするなよ」

咲「京ちゃん…ありがとうね」

京太郎「その代わり、今度、レディースランチな」

咲「もう!ちょっと感動して損しちゃった!」ニコニコ

まこ「(そう言いながら、嬉しそうじゃの)」

まこ「まったく…分かりやすい娘じゃ」

優希「むぅ…」

まこ「まぁ、分かりやすいのはこっちも同じかの」

優希「?」



京太郎「にしても…この辺りってビルが多くてあんまり温泉っぽさを感じないですね」

まこ「まぁ、この辺りはまだ駅に近い方面じゃしな」

まこ「ここから山の方に行くとそれなりに大きな温泉街があるんじゃよ」

京太郎「うへぇ…って事はまだ歩くんですか…」

まこ「普段、文化系であんまり運動する事はないからの」

まこ「たまにはこれくらい動かんと太るじゃろ」

咲「…」オソルオソル

咲「…」プニッ

咲「」ガーン

咲「……ごめん。京ちゃん、やっぱりそれ持つよ」

京太郎「いや、無理するなって。今度こそ倒れるぞ」

咲「うぅ…」


京太郎「つーか、さっきからバス停が見えるんですけど…バスとかないんですか…?」

まこ「あるにはあるが、次のは一時間後じゃ」

まこ「もう先方は待たしておる訳じゃし、あんまりのんびりはしてられん」

京太郎「ですよねー…」

まこ「辛くなって来たのなら休憩するが…」

京太郎「いや、俺はまだ行けるんですけれど…」

咲「さ、坂道厳しいよぉ…」ゼー

優希「ざ、材料を詰め過ぎたじぇ…」ハー

京太郎「ポンコツが二人に増えました…」

まこ「あー…」

まこ「…ちょっと休憩するかの」

京太郎「んじゃ、そこのコンビニに寄りましょうか」




咲「はふぅ…生き返る…ぅ」

優希「坂道だと重さがずっしりくるじぇ…」

京太郎「優希はともかく、咲はちょっと運動不足がすぎるな…」

京太郎「ウォーキングで良いから日頃から何か運動をやり始めた方が良いぞ」

咲「えー…」

京太郎「えーってお前…」

咲「だって、最近、麻雀が忙しくてあんまり本が読めてないんだもん…」

咲「それなのにウォーキングとか始めたら、さらに本が読めなくなっちゃう…」

京太郎「いや…文学少女らしいセリフだけどさ」

京太郎「お前、このままじゃ運動不足一直線じゃねぇか」

京太郎「部活もインドア系だし…もうちょっと運動した方が良いって」

咲「う…でも…」

京太郎「でも、じゃない。俺が付き合ってやるからウォーキングから始めようぜ」

咲「き、京ちゃんが…?」

京太郎「お前だけに任せてたら三日坊主にすらならないのは分かりきってる話だしなぁ」

咲「それだったら…やる。頑張…る」

京太郎「うし。言ったな」

咲「あ、で、でも…」

京太郎「ん?」

咲「私…運動服ってジャージしか持ってないから…えっと…」

京太郎「…あぁ。買い物に付き合ってくれって事か?」

咲「う、うん!ついでに本も見たい!」

京太郎「分かった。んじゃ、合宿終わったらまた見に行こうか」


まこ「(多少、空元気感はあるが…あっちは青春じゃの)」

優希「むぅぅ…うぅぅ…」

まこ「(こっちもこっちで悶々としとるみたいじゃし)」

まこ「(部長としてはとっととどっちかに落ち着いてくれた方が有難いんじゃが…)」

まこ「(このままじゃどっちもまだ難しそうじゃなぁ…)」

まこ「(咲も優希もまだ妹みたいな視線でしか見られておらんし…)」

まこ「(一番、有利な和はそもそも京太郎の事をまったく意識しとらんしなぁ…)」

まこ「(にしても…和…か)」

まこ「(結局…来んかった…なぁ)」

まこ「(出来れば…皆で合宿に来たかったんじゃが…結局、返事もないままじゃ…)」

まこ「(そんなにわしは…部長として頼り甲斐がないかの…)」

まこ「(いかんいかん…弱気になったら終わりじゃな)」

まこ「(わしには久のような人をぐいぐいと引っ張る力がある訳じゃないが、せめて部員たちの前ではしゃんとしておかんと)」


京太郎「んじゃ…ちょっと飲み物でも買ってくるわ」

京太郎「咲や優希はまだ動けないだろうし、ついでに買ってくるけれど…何かリクエストあるか?」

咲「ありがとう。私はオレンジジュースが良いな」

優希「…りんごのいろはす」

まこ「それじゃわしは二人を見ておるし、お茶を頼む」

京太郎「了解。んじゃ、ちょっと待っててください」スタスタ



店員「ラッシャッセー」ピロロンピロロン



京太郎「(あー…ちょっと暖かい…)」

京太郎「(何だかんだでもう秋から冬になりかけてるし…身体が冷えてたんだな…)」

京太郎「(学生旅行じゃなく合宿だし、制服しか着れないって言うのも割りとクる…)」

京太郎「(こりゃリクエストされたものとはまた別に暖かい飲み物も買った方が良いか…?)」

京太郎「(ま…何はともあれ、先にリクエスト分を確保しなきゃ)」ガチャ



?「(合宿かぁ…)」

?「(昔は…そこそこ楽しみだったんやけどなぁ…)」

?「(末原先輩も…主将も…真瀬先輩もおらへんようになってもうて…)」

?「(これからはうちらの時代やって…主将は言うてくれたけど…)」

?「(正直…自信ない…)」

?「(一年にも…それなりに育て甲斐のある子はいる)」

?「(うちも絹恵も…まだ伸びしろはあるはずや)」

?「(だけど…勝てるんやろうか…)」

?「(あの清澄に…宮永咲に…)」

?「(末原先輩が…あんなにされた化け物相手に…一年後…うちらは勝てるんやろうか…)」

?「はぁ…」


?「(考えたってしゃあない言うのは分かっとる)」

?「(それでもこうして考えてしまうんは…合宿の所為なんやろうな…)」

?「(代行は…今回の合宿は清澄対策に必要や…って言ってたけれど…」

?「(結局、相手の名前までは秘密や言うて教えてくれんかった…)」

?「(勿論…中核である一年が、来年のインターハイでもまるまる残る清澄の対策をするのは間違いやない)」

?「(頭の中では…そんな事は分かっとるのに…)」

?「(清澄の名前が出ると…どうしても嫌になってしまう…)」

?「(今も…はよ戻らなあかんのに…コンビニで読みたくもない雑誌読んで…時間つぶしとる…)」

?「(末原先輩みたいに優しくて…頼り甲斐の先輩になりたかったはずなのに…)」

?「(うちは…何をやっとるんやろうか…)」

?「(このままやったら…あかんのは分かっとるのに…)」

?「…ふぅ…」」

?「(とりあえず…立ち読みは止めて…もう帰ろう)」スッ

?「(あんまり長く離れてると…部長を継いだ絹恵や代行にも迷惑がかかるし…)」スタスタ

?「(そろそろ戻らへんとヘタしたら相手との顔合わせが始まってるかもしれへん)」

?「(憂鬱やけど…飲み物だけ買って帰ろか…)」ガチャ












?・京太郎「「あれ?」」












?「(あ、あれ…清澄の制服やん…)」

?「(何でこんなとこに清澄の生徒がおるん!?)」

?「(その上、このタイミングでうちと同じところを開けようとしとるんや!?)」

?「(って…何かジロジロ、うちの顔を見てる…?)」

?「(な、何やの?な、何か変?寝癖とかついとる?)」

?「ハッ(も、もしかして、また知らん間におでこに落書きされとるん!?)」



京太郎「(この特徴的な髪飾りとおでこ…何処かで見た事があるような…)」

京太郎「(えーと…二回戦で初めて咲たちと当たった…姫松の…先鋒の人だったっけか)」

京太郎「(名前は…確か…上重漫)」

京太郎「(でも…なんでこんなところに?)」

京太郎「(姫松は大阪で…ここから結構遠いぞ?)」

京太郎「(それに制服姿…って事は…)」




漫・京太郎「「あ、あの!」」

漫「(か、被ってもうた…)」

漫「(や、やっぱり落書きされてたんやろうか…?)」

漫「(でも…もし、違ったら恥ずかしいし…)」

漫「(何時もそうやって落書きされとるって清澄に思われるのも癪や…)」

漫「(ここは…とりあえず相手の出方を見るべきやな…!)」




京太郎「(また…被っちまった…)」

京太郎「(とは言え、俺は同じ轍を二度も踏まないぜ…)」

京太郎「(ここで下手に何か言おうとするとまた被っちまう)」

京太郎「(つまり…ここは見…ッ。圧倒的待ちの構え…ッ)」

京太郎「(それこそが勝利への近道…ッ!栄光へのロード…ッ!!)」




京太郎「…」

漫「…」

京太郎「…」

漫「…」





漫「(な、何で何も言わへんの…?)」

京太郎「(な、何で何も言わないんだ…?)」







店員「(あそこの高校生いきなり見つめ合ってやがる…)」

店員「(くそ…リア充爆発しろ)」


漫「(あ、あかへん…すっごい気まずくなってきた…)」

漫「(自分から目を背けると負けた気がするからやらへんけど…)」

漫「(こんなにじぃっと見つめられるとやっぱ恥ずかしいやん…)」

漫「(え、えぇい!恥ずかしがってたらあかん!)」

漫「(女は度胸!男も度胸や!!)」

漫「(まずは軽くジャブから…さりげなーく…)」

漫「え、えっと…そ、その制服…清澄やんな?」

京太郎「えと、はい」

漫「って事は君も麻雀部?」

京太郎「い、一応…ですけど」

漫「そ、そうか」

京太郎「は、はい」

漫「…」

京太郎「…」


漫「(無理やって!無理やって!!)」

漫「(クラスメイトならともかく、相手は初対面の…しかも、清澄やで!?)」

漫「(にこやかににっこり笑って世間話なんてでけへんやん!!)」

漫「(そ、それに…何かこの男も態度が硬くて、どっつきにくい感じやし…)」

漫「(す、末原先輩…助けてぇ…)」




京太郎「(あ、やばい。盛大に選択肢を間違った感が…)」

京太郎「(下手に何か言わずに相手の用件を聞いてからにしようと思ったんだが…)」

京太郎「(は、話が途切れちまった…)」

京太郎「(ま、まずい…これが咲の事コミュ障だって笑えねぇ…)」

京太郎「(と、とにかく話題を…何とかして話を続けないと…)」



京太郎「えっと…貴女は上重漫…さんで良いんですよね?」

漫「な、何でうちの名前…」

京太郎「一応、俺もインターハイにはいましたから」

京太郎「試合は全部、リアルタイムで見てましたし、牌譜の作成とかもやってたんで、覚えてます」

京太郎「それに…準決勝はまさに爆発としか表現しようがない凄い闘牌でした!」

漫「そ、そうなんや…」

漫「(なんや…ちょっと照れるな)」テレテレ

漫「(主将や末原先輩ならともかく…一回、ボロボロにされたうちの事を覚えててくれてるなんて)」

漫「(お世辞かもしれんけど…ちょっと嬉しいな)」

漫「ハッ(清澄に褒められて何喜んでんの自分!?)」

漫「(ちゃ、ちゃうやろ。ここは『嫌味か』くらい言って牽制するべきやろ!?)」

漫「(でも……)」

京太郎「」キラキラ

漫「(な、なんか純粋にこっちを尊敬してくれてるっぽい目を見て…そんな事言えへん…)」

漫「(う、うぅ…末原せんぱぁい…うちどうしたらええんですかぁ…)」


京太郎「えっと…それで上重さんは…合宿ですか?」

漫「え…そうやけど…何でそんな事聞くん?」

京太郎「あ、いや…実はですね。俺達もここで合宿な訳なんですが…相手の名前までは聞いてなくて」

漫「あー…だから、うちらと合宿するかどうかを聞きたかった、と」

京太郎「はい。もし、そうなら他の部員にもちゃんと挨拶させておきたいですし」

漫「そうか。君は意外と礼儀正しいんやな」

漫「ただ、悪いけど、うちも分からへん」

漫「うちの責任者である代行は面白がって色々やるタイプやからなぁ…」

漫「こっちの合宿相手も秘密にされてるままや」ハァ

京太郎「(…あぁ、何か凄い苦労してるオーラが伝わってくる…)」

京太郎「(多分、代行とか言う人はきっと久先輩みたいなタイプなんだろうなぁ…)」



漫「まぁ…お互いこの時期にここで合宿ってなったらほぼ確定やろ」

漫「流石に県境を越えた先の温泉地でインターハイクラスの学校がばったりなんてありえへんし」

京太郎「そうでしょうね…」



京太郎「(だけど…それならどうして染谷先輩は秘密にしてたんだ…?)」

京太郎「(相手は共学の姫松だし…別に秘密にする必要はないだろ)」

京太郎「(勿論…久先輩だったら分からないでもないんだけれど…)」

京太郎「(もしかして…まだ何か俺達に見えていないものがあるのか?)」

京太郎「(…まぁ、考えても仕方がないか)」

京太郎「(仕掛け人が染谷先輩である以上、やばいことにはならないだろ)」

京太郎「(染谷先輩が黙っているって事はその方がメリットがあるって事だ)」



漫「(にしても…まさか代行の言ってた対策って本物相手にぶつける事やったんか…)」

漫「(いや…確かに対策するんなら、相手との経験が何よりものを言うんやろうけれど…)」

漫「(でも、それやったら一言くらい言ってもええんちゃうやろか…)」

漫「(いや…あの人にそういう事を期待する方が間違いやな…)」

漫「(指導者としての実力こそ確かやけれど…人を喰ったようなタイプやし…)」

漫「(今回も面白そうだから!ってだけで秘密にするのを決めたんやろうなぁ…)」ハァ



京太郎「えっと…それで…さっき上重さんは何を言おうとしてたんですか?」

漫「(そ、そうやった…忘れてた…)」

漫「(ここに清澄がいる理由は何となく察しがついたけれど…)」

漫「(まださっきジロジロと見られてた件が終わっとらへん…)」

漫「(でも…はっきり見てた理由を聞くと角が立つやろうし…それに…)」チラッ

京太郎「?」

漫「(き、聞けへんって!やっぱり男の子相手にそんなん無理やって!)」

漫「(そんな自意識過剰みたいな真似、うちには絶対無理やって!!」

漫「(で、でも…もし、頭に落書きされてたら、恥ずかしいなんてもんちゃうし…)」

漫「(それに落書きされたまま…宮永咲の前に出るのも癪や…)」

漫「(こ、ここは出来るだけ直接的な言葉を避けて聞くべきちゃうやろか…)」

漫「え、えっと…やな」

漫「その…なんて言うか…こ、こういう事聞くの恥ずかしいんやけれど…」カァ

漫「う、うち…変ちゃうかな…?」ウワメヅカイ

京太郎「…え?」



京太郎「(お、落ち着け、須賀京太郎)」

京太郎「(いきなり童顔巨乳のお姉さんに上目遣いされた程度で狼狽えるんじゃない…!)」

京太郎「(今の俺に必要なのは地底湖の水のような落ち着いた心…!!)」

京太郎「(その曇りなき眼で上重さんの真意を見定めるんだ…!!)」



京太郎「……」




京太郎「……」



京太郎「(分っかる訳ねぇだろおおおおおおお!)」

京太郎「(というか、寧ろ誰か教えてくれよ!!)」

京太郎「(初対面の童顔巨乳美少女にそう言われる理由をさ!!)」

京太郎「(どんな偶然が重なれば、こんな状況に陥るんだよ!!)」

京太郎「(つーか、上目遣いする様が可愛いんだよおおおお)」

京太郎「(何処の小動物だよくそ!!!許されるなら正直、抱きしめたいわ!!)」





漫「え、えっと…あの…」

京太郎「ハッ(い、いけないいけない…思わず現実逃避するところだったぜ…)」

京太郎「(だけど…この場合のベストな選択は一体、何なんだ…?)」

京太郎「(分からん…そもそも質問の意図すらまったく分からん…)」

京太郎「(変と言われても…小動物っぽいロリ顔にどたぷん巨乳の組み合わせはやばいってくらいだ)」

京太郎「(間違いなく可愛い系美少女の領域にいる上重さんの一体、何が変だって言うのか)」

京太郎「(まったく分からん。分からんから…ここは…褒める…!)」

京太郎「えっと…上重さんはとても可愛いと思いますよ」

漫「…ふぇ?」キョトン

京太郎「…え?」

京太郎「(あれ…これってもしかして…ミスった…?)」



漫「…さっき真面目や言うたんは撤回するわ」

漫「意外とやり手なんやね、君」ジトー

漫「まさか出会って5分も経たへんうちに口説かれるとは思うとらへんかったわ」

京太郎「あ、いや…く、口説いてる訳じゃなくって!」

京太郎「へ、変な所は一つもないって言うのがちょっと空回ったっていうか!」

京太郎「でも、さっきのは本心じゃない訳じゃなくって…えっと…!」

京太郎「だ、だけど、不快だったら撤回しますよ!」

京太郎「も、勿論、上重さんが可愛くないって意味じゃなくって、ナンパじゃないって意味でですね!」シドロモドロ

漫「プッ…」

京太郎「え…?」

漫「あははは」

漫「ご、ごめん…。ま、まさかそこまで焦ってくれるとは…」

京太郎「あの…それって…」

漫「うん。冗談なんや。すまんな」ニッコリ

京太郎「……ぐふっ」

漫「はは。ごめんな。でも、君も悪いんやで」

漫「いきなりあんな口説き文句言われて、乗ってあげられるほどうちは人生経験豊富やないんや」」

漫「まぁ、悪い気はせんかったって事で許してな」ニッコリ

京太郎「いえ…寧ろ俺が悪かったです…」

京太郎「テンパって変な事言いました…すみません…」ズーン



漫「(…と、年上ぶってみたけれど…)」

漫「(いきなりの不意打ちやったからちょっとドキッとしたやん…)」

漫「(姫松は共学やけど…今まで麻雀一筋でそんな事言われた事なかったしなぁ…)」

漫「(デコが綺麗とか…そういう冗談交じりなんは結構あったけど…)」

漫「(真正面からこうやって可愛いって言われたのは…あんまないし…)」

漫「(まぁ…ちょっとだけ嬉しかったかな)」

京太郎「それで…結局、さっきのはどういう意図で言ってたんですか?」

漫「あー…えーと…それは…な」

漫「(まだ言うのは恥ずかしいけど…もうええか)」

漫「(こっちの言葉足らずでこの子に恥をかかせてもうた訳やしな…)」

漫「(こっちばっかり秘密を作るのはフェアじゃないし…素直そうな良い子やしな)」

漫「(変に言いふらしたりはせんやろ、多分)」

漫「あのな。…額に落書きとか…ない?」

京太郎「落書き?」

漫「うち…罰ゲームとかで良く落書きされんねん…」

京太郎「(あー…確かに広くて凄い書きやすそうな額だな…)」

京太郎「(よくよく見ると弄られやすそうな顔をしてるし…)」

京太郎「(やっぱり寝ている間とかに書かれたりしてるんだろうなぁ…)」

京太郎「いえ、無いですよ」

漫「ほ、ほんま!?」

京太郎「えぇ。本当です」

京太郎「それに気になるなら自分で鏡をチェックした方が多分、早いですよ」

漫「あ…」カァ


漫「て、テンパってたんやもん…しゃあないやん…」

京太郎「い、いや、別に悪いって訳じゃなくって…」

京太郎「言いづらそうにしていたんで聞いてよかったのかなって…」

漫「う…だって…君がじっと見てたから…気になってやな…」

京太郎「(あぁ…だから、俺に聞いてきたのか…)」

京太郎「(考えても見れば、凄い失礼な事やってしまったな…)」

京太郎「ジロジロ見てしまって、すみません…」

京太郎「俺は直接、上重選手に会った事はなかったんで自信がなくって…」シュン

漫「いや…ええよ。うちもちょっと自意識過剰やったし…」

漫「それに悪い意味で注目してたんやないんやったら、寧ろ嬉しいしな」

漫「有名税みたいなもんやって思っとくわ」ニコッ



漫「それはそうと…君の名前をまだ聞いとらへんよ?」

京太郎「あ、俺、清澄一年の須賀京太郎です」

漫「一年…って事は年下かぁ」ジィ

京太郎「…?」

京太郎「どうかしたんですか?」

漫「いや…須賀君とうちで何が違うんかな、と思ってなぁ」ハァ

漫「うちの方が年上なのに…二回り以上違うって…」

京太郎「(あぁ…ちっちゃい事にコンプレックスがあるのか…)」

京太郎「(可愛らしいとは思うけれど…あんまり口にしないようにしよう)」

漫「ここ数年くらい…ミリ単位でも伸びへんし…うぐぐ」

京太郎「まぁ、身長は色々と難しいみたいですしね…」

京太郎「運動しないのも運動しすぎもいけませんし、カルシウムの取り過ぎも良くないそうです」

漫「適度な運動はしとるはずやし、牛乳だって飲む量を決めてるんやけどなぁ…」ハァ

漫「やっぱ遺伝なんかなぁ…うちの家系、基本的に小柄やし…うぅ…」

京太郎「ま、まぁまぁ。それより…」

漫「うん?」

店員「ジィ」

客「ジィ」

京太郎「ごめんなさい…結構目立ってます」

漫「あ、あわわ…」

京太郎「と、とにかく、買うもの買って早く出ましょう」

漫「そ、そうやね。それじゃ…えっと…」ガチャ

京太郎「これとこれと…これっと」

漫「あ、うちはこれに…」スッ

京太郎「後はホットのコーナーで適当に熱い飲み物も…」



店員「アリャリャッシャー」

京太郎「(ふぅ…とりあえず気まずい空間からは脱出出来たな…)」

京太郎「(ただ…上重さんの方が…)」チラッ

漫「うぅ…」カチコチ

京太郎「(何かすっごい緊張してるのはどうしてなんだろ…)」

京太郎「(やっぱり注目浴びすぎた所為か…?)」

京太郎「(だとしたら…悪いことしてしまったなぁ…)」



漫「(な、流れで一緒に出ちゃったけど…)」

漫「(これって近くに清澄…しかも、宮永咲がいるって事やんな…?)」

漫「(末原先輩を止めた…あの魔王みたいな…打ち筋の…雀士)」

漫「(合宿ってことは…勿論、あの宮永咲とも打つんやろうな…)」

漫「(…うちは…大丈夫なんやろうか…)」

漫「(あの…宮永咲と戦って…うちは…)」



漫「(勿論…末原先輩の敵は討ちたい…)」

漫「(うちみたいな不安定な奴をレギュラーに推薦してくれた末原先輩に報いるには…もうそれしかないんやから)」

漫「(でも…その一方で…うちは…怖がっとる…)」

漫「(二回戦の敗戦を経て…より強くなった末原先輩でさえ一歩及ばなかった宮永咲に)」

漫「(うちみたいな…爆発するか分からへんような…奴が勝てるんやろうか…)」

漫「(いや…そもそも…末原先輩みたいに…ボロボロにされてしまうんやないやろうか…って)」



京太郎「(とは言え…ここで「はい、さようなら」って訳にはいかないよなぁ…)」

京太郎「(恐らく今回の合宿相手だろうし…このまま漫さんだけを行かせたら印象が悪くなる)」

京太郎「(例え、合宿相手じゃなくたって、ちゃんと挨拶をしておくに越したことはない)」

京太郎「(何やら考え込んでいる所に声を掛けるのは少し気が引けるけど…)」

京太郎「(一応、咲たちを待たしている訳だし、あんまりのんびりともしてられない)」



京太郎「あの…上重さん?」

漫「ひゃあ!?」

京太郎「あ…すみません」

漫「い、いや、大丈夫やで。こっちこそ驚いてごめんな」

漫「それで…須賀君は何の用や?」

京太郎「あぁ。その…すぐそこにうちの部長や部員がいるんで」

京太郎「良ければ挨拶して行かないですか?」

漫「う…」



漫「(あ、挨拶…やって…?)」

漫「(い、いや…一度、対戦している以上、見て見ぬふりして行くのも失礼な話やけど…)」

漫「(で、でも…まだ心の準備が出来てないって言うか…)」

漫「(そ、そもそも挨拶って何すればええの!?)」

漫「(今日こそ叩き潰してやる!とか言うべきなん?)」

漫「(そ、それともドラマチックに末原先輩の敵!とか言った方がええの?)」グルグル

京太郎「(何だか良く分からないけれど、凄いドツボにハマっている気がする…)」

京太郎「まぁ、一言、声を掛けてくれるだけで十分ですよ」

京太郎「それも気まずいって言うのなら、俺達が先に出発します」

京太郎「到着してもすぐ顔合わせとはならないでしょうし、俺達が荷物を置いてる間にでも滑り込めば大丈夫ですよ」

漫「(う…迷っとる間に気を遣われとる…)」

漫「(あ、あかんあかん…うちは先輩なんやで?)」

漫「(こうやって気を遣うべきは先輩であるうちの方やろ)」

漫「(それなのに…何時までもうじうじなんかしてられへん…!)」

漫「…るで」

京太郎「…え?」

漫「やるで…挨拶…!!」メラメラ

京太郎「(何か燃えてるけど…挨拶ってそんなたいそれたものだったっけ…)」

京太郎「(まぁ…気合が入ってるのは良い事なんだけれど…)」

京太郎「(なんというか…咲とはまた違った意味で目を離せない人だなぁ…)」

京太郎「じゃあ、こちらに」

漫「大丈夫…うちはやれる子や…」

漫「末原先輩だってそう言ってくれたやないか…」

漫「大丈夫…出来る…」ブツブツ

京太郎「(…本当に大丈夫かなぁ…)」




………

……






京太郎「おーい。帰ったぞー」

まこ「おう。おかえり。ちょっと遅かっ…あれ?」

漫「ど、どうも…」

優希「あ…姫松の…えっと…」

漫「上重漫です…その…よろしく」

咲「あれ?どうして姫松の人がここに?」

まこ「あっちゃあ…もうバレてしもうたのか…」

優希「ってことはもしかして…」

まこ「そうじゃ。今回の合宿相手は姫松じゃよ」

咲「姫松…あの…末原さんの…」

漫「…」


漫「(やっぱり…居た)」

漫「(こうして見てると…普通の女の子だけど…)」

漫「(誰よりも恐ろしくて…残酷な打ち方をする子…)」

漫「(本当は…宣戦布告の一つでもしたいけれど…)」

漫「(今の…今のうちじゃ…きっと…相手にもされない…)」

漫「(だから…今は…)」

漫「…よろしく。宮永さん」

咲「え、えっと…よろしくおねがいします」ペコリ

まこ「…」

まこ「まぁ、折角、こうして会えたのも縁じゃし…一緒に合宿場まで行かんか?」

まこ「どうせ後、5分くらいの距離じゃしの」

漫「そう…やね。うちもそろそろ帰らんと絹恵にどやされそうやし…」


京太郎「んじゃ、飲んだら出発しようぜ。ほら」

咲「京ちゃん、ありがとう」

優希「わーい!」

まこ「何時もすまんのう」

京太郎「それは言わないお約束じゃよ、まこさんや」

京太郎「んで、今日はちょっと風が冷たいし、ついでにホットも買ってきたぞ」

まこ「相変わらず気が効くの」

京太郎「はは。伊達に雑用やってませんからね」

まこ「気配りは雑用だけで身につくものじゃないと思うがの」

優希「つまり京太郎は根っからの雑用気質なんだじぇ」

京太郎「よし。折角買ってきたけど優希にはやらん」

優希「な、なんで!?褒めたのに!?」ガーン

咲「いや…アレは褒め言葉には聞こえないと思うよ」クス

漫「…」



漫「(普通だ…)」

漫「(これが本当に…私達を破った清澄?)」

漫「(本当に…あの化け物じみた力で押しつぶしてくるような…清澄なん?)」

漫「(何処にでもいる…普通の高校生やん…)」

漫「(それなのに…なんでうちらは負けたんやろ…)」

漫「(才能?それとも…能力?)」

漫「(末原先輩やったら…すぐ分かるんやろうけれど…)」

漫「(でも…今の、うちに分かるのは……)」

漫「(ただ…悔しいという事だけ…)」

漫「(なんでかは自分でも分からへん)」

漫「(多分、それがええことではないって事は感じる)」

漫「(でも…うちは…やっぱり…)」

京太郎「…」



京太郎「んじゃ、悪いけど、俺は上重さんと先に行くから」

漫「ふぇ?」

咲「え?」

優希「ぬ?」

まこ「お?」

京太郎「いやぁ、こんな素晴らしいおもちの持ち主に案内して貰えるなんて俺は光栄ですよ」キリッ

漫「え?えぇ!?」

咲「京ちゃん、またそんな事言って…」

優希「ていうか、上重さん困ってるじょ!」

まこ「…ふむ」

まこ「そうじゃな。その方がええかもしれん」

優希「え!?」

咲「そ、染谷先輩まで…」

まこ「まぁ、聞け。京太郎は二人分の荷物を運ぶ訳じゃし、出来るだけ早めに休ませてあげた方がええ」

まこ「それに上重さんも一人でコンビニに来てる訳じゃから、早めに戻った方がええじゃろうの」

咲「で、でも、京ちゃんと二人とか…そんなの…」

優希「上重さんを猛獣の檻に入れるようなものだじぇ…」

京太郎「お前らは俺を何だと思ってるんだ…」

咲「おもち好きの変態」

優希「女たらしの節操なし」

京太郎「お前らには後で話し合いが必要なようだな…!!」

咲「う…い、幾ら脅したって無駄だよ!!」

優希「京太郎の悪行は全部、お天道さまが見てるじぇ…!」

京太郎「まるで俺が犯罪者みたいな言い方をするのは止めてくれないか!?」

漫「え…えぇ…?」

まこ「まぁ、勿論、上重さんが了承してくれたら…の話なんじゃがな」チラッ

漫「え、えっと…」

漫「(ちょっと驚いたけど…渡りに船な提案なのは確かやなぁ…)」

漫「(ここに居ても…疎外感半端無いし…)」

漫「(それに…やっぱりうちは宮永咲と一緒にニコニコ楽しむ事なんてでけへん…)」

漫「(後…)」チラッ

京太郎「??」

漫「(…気を遣われてしもうたんやろうなぁ…)」

漫「(ちょっと間違った方向な遣い方ではあるけれど)」クスッ

漫「(でも…ここで意地を張っても…道化になった須賀君の面子を潰すだけや)」

漫「(…うん。考えるまででもないな)」

漫「うちは構わへんよ。丁度、ボディーガードも欲しかったところやし」ニコッ

京太郎「ほーら、見ろ!お前らと違って上重さんは見るべきところを見てくれてるんだよ!」

咲「う、上重さん!考えなおして!!」

優希「そ、そうだじぇ!京太郎と二人きりだなんて危険が過ぎるじょ!!」

京太郎「お、お前らなぁ…」

漫「ふふ…随分と信頼されとるみたいやね、須賀君」

京太郎「こんな信頼のされ方されたくないんですけれどね…」

まこ「まぁ、冗談の類じゃし、気にせんでええ」

まこ「おもちに目がないとは言え、京太郎はそこまで刹那的じゃないしの」

京太郎「う…染谷先輩まで…」

まこ「冗談じゃよ。まぁ…京太郎のその癖はどうにかした方がええと思っとるけれど」

まこ「(じゃないと…)」チラッ

咲「むー…」

優希「うぬぬ…」

まこ「(そろそろあっちが本格的に爆発しかねんしの…)」


京太郎「ま…話も纏まったところで行きますか」

まこ「うん。すまんが先に頼む」

まこ「こちらはもうちょっとしたら出発する事にするよ」

優希「ちょっとでも手を出したら承知しないじぇ!」

京太郎「ほんの5分ちょっとの道なのにまったく信頼されてないってのはどうなんだ…」

咲「逆の意味で信頼してるから、言ってるんだよ…」

まこ「京太郎のそれは筋金入りじゃしの」

京太郎「うぅ…くそ!こんな俺の評価がだだ下がりになるような場所にいられるか!!」

京太郎「俺は先に上重さんと合宿先に向かうぞ!!」スタスタ

漫「じゃ、じゃあ…また」

まこ「うむ。手間取らせて悪いが、案内を頼む」

漫「いえ…では…」スタスタ


………

……


京太郎「…格好悪いところ見せてすみません」

漫「いや…全然、格好悪くなんかあらへんよ」

漫「寧ろ…うちの方こそごめんな」

漫「気を遣ってもろうたみたいで…」

漫「うちの方が先輩やのに…」

京太郎「いえいえ。気なんて遣ってませんよ」

京太郎「おもちの大きな上重さんと二人きりになりたかっただけですって」

漫「そういやさっきから気になってたんやけど…」

漫「おもちって何なん?」

京太郎「あー…その…なんて言うかですね」

漫「うん」

京太郎「ぼ、母性の塊的な…さ、サムシングです」

漫「母性…?」


漫「………………」


漫「っ!?」カァ



漫「な…なんや、須賀君は巨乳好きなんか?」

京太郎「ま、まぁ…その俗称で言えばそうなるでしょうか…」

漫「で…うちもその範囲内やって事…?」

京太郎「範囲内どころかストライクです!」キリッ

漫「す、ストライクて…」カァ

京太郎「あ…いや、その…すみません」

京太郎「まぁ、そんな訳で下心全開の優しさなんで気にしないで下さいよ」

漫「なんや…結局、優しくしてくれとるんやん」クスッ

京太郎「あ…」


漫「…ごめんな。本当はこういうのうちがやらへんかったあかんのに…」

漫「情けない話やねんけど…これまでずっと…先輩に甘えてばっかりやったから…」

漫「あんまり…先輩らしさってのが分からへんねん…」

漫「うちと同じくインターハイに出た…もう一人の二年はちゃんとやっとるんやけど…」

漫「うちは…一年の頃からまったく進歩なくって…」

漫「目をかけてくれた先輩に報いられへんまま…先輩になってもうて…」

漫「(うち…会ったばかりの相手に何を愚痴っとるんやろ…)」

漫「(こんなん…聞かされても須賀君が困るだけやろうに…)」

漫「(でも…なんやろ…末原先輩にも格好悪ぅて言えへんかった所為か…)」

漫「(一度…口に出すとスラスラ次の言葉が出て…止まらへん…)」

京太郎「…」


京太郎「(上重さんの気持ちが…俺には良く分かる)」

京太郎「(俺だって…正直、実感が沸かないんだ)」

京太郎「(来年…後輩たちが入ってきて…自分が『先輩』に…指導する立場になるって事に対して)」

京太郎「(ちゃんと後輩にものを教えてやれる『先輩』になれるかどうかが不安で…苦しんでる)」

京太郎「(勿論…名門姫松を背負う二年の上重さんと…まだ気軽な一年の俺じゃその重荷は違うんだろ
う)」

京太郎「(そもそも俺の不安は漠然と近づきつつあるものに対してで…上重さんのそれは背中を追うものに対する不安だ)」

京太郎「(だけど…それでも…今の上重さんに必要な言葉は分かる)」

京太郎「(今の上重さんに必要なのは…肯定と妥協なんだ)」

京太郎「(上重さんが理想を追いかけようとしているのを止める為に…)」

京太郎「(今の自分でもちゃんと先輩になれるって背中を押す言葉が…必要なんだと俺は思う)」

京太郎「(だから…俺は…)」


京太郎「別に…無理して先輩になろうとしなくても良いんじゃないですかね」

漫「え…?」

京太郎「一年二年じゃ人間の質なんてそう変わりませんよ」

京太郎「一年先に生まれただけで何もかも受け止めて気を遣えってのは無茶な話ですって」

漫「でも…それやったら後輩がついて来たいと思えへんやん…」

京太郎「だったら、そう思わせれば良いんですよ」

漫「思わせるって…」

京太郎「何も後輩を労る事だけが先輩の仕事じゃないです」

京太郎「寧ろ、公式戦でぐいぐいと後輩を引っ張ってやるのが本来の仕事じゃないんですか」

漫「う…そう…かもしれへん…けど…」

漫「(今のうちには…宮永咲みたいな魔物たち戦って…正直、勝つ自信がない…)」

漫「(主将みたいに…能力持ちと真っ向から打ち合い出来るようになれるとは…到底、思えへん…)」


京太郎「それに上重さんは進歩がないって言ってますけれど…」

京太郎「一年の頃からちゃんと進歩していますよ」

漫「…え?」

京太郎「失礼かもしれませんが、インターハイで戦う時…一年の頃の牌譜も集めさせてもらいました」

京太郎「その頃に比べると今年は随分とミスが減って、打ち方も安定しています」

京太郎「上重さんの自覚がないだけでちゃんと進歩してるんですよ」

京太郎「だから…きっと大丈夫です」

京太郎「上重さんはちゃんとチームを引っ張っていくタイプの先輩になれますよ」

漫「そう…やろか?」

京太郎「えぇ。絶対に。俺が保証します」

京太郎「まぁ…ライバル校の雑用に保証されたからなんだって話なんですけれど」



漫「はは…なんや。敵に塩を送ってええんかいな」

漫「来年…うちらは必ずまた清澄の前に立ちふさがるで」

京太郎「その時はその時ですよ」

京太郎「それに…うちの一年たちだってまだまだ成長するはずです」

京太郎「上重さんがどれだけ強くなっても負けないって信じてますから」

漫「はは…なんや…随分と格好ええやないの」

京太郎「惚れました?」

漫「ふふ…今ので幻滅したからプラスマイナスゼロってところやね」

京太郎「そりゃ残念。上重さんの連絡先が欲しかったんですが…」

漫「そう簡単にはあげられへんよ。もうちょい精進してな」

京太郎「あらら…振られちゃいましたね」

漫「そうやで。うちは結構、身持ちが堅い方なんやから」クスッ


漫「でも…有難うな。少し…気が楽になったわ」

漫「自分らしくやって…先輩になれるかどうかはまだ分からへんけれど…」

漫「でも…そこまで焦らんでもええって気持ちになれた」

京太郎「それなら良かったです」

漫「本当に良かったかどうかは当分、先まで分からへんで」

漫「もしかしたら後々、後悔するかもしれへんしな」

京太郎「その時は咲たちに土下座でもして謝るだけですよ」

京太郎「謝るのは慣れてますからね」キリッ

漫「ふふ…そこは格好つけるところやないで」

漫「まぁ…さっきのやり取り見てたら須賀君の立ち位置がどんなもんか分かるけどな」

京太郎「うっ…そんなに雑用オーラ出てますか?」

漫「なんや雑用オーラって…」クスッ

漫「うちが言いたいのは…須賀君が皆に甘えられてるって事や」

漫「(それこそ…末原先輩を…うちの理想の姿を彷彿とさせるくらいに…)」

漫「(なーんて事は…流石に恥ずかしすぎて言えへんけどな…)」

漫「っと、そうこうしてる内に着いてもうたな」

京太郎「ここですか…結構大きいですね…」

漫「せやろ?うちもちょっと驚いたで」

漫「どうせ萎びた旅館や思うとったらそこそこ立派やし…」

漫「中には露天風呂やら家族風呂もあるみたいやで」

京太郎「それは楽しみですね」

漫「何や須賀君がそう言うとえらいふしだらな意味に聞こえるわぁ…」

京太郎「ちょ!?な、何でですか!?」

漫「さぁ、どういう事やろね♪」サッ

京太郎「う…な、何で胸を隠すんですか?」

漫「そりゃあ…エッチな目で見られたら敵わへんし?」

京太郎「ぐ…事実なだけに何とも言えない…!!」



京太郎「にしても…何か容赦なくなってません?」

漫「なんや、つれない事言うやないの」

漫「口説き口説かれた仲やっちゅうのに」クスッ

京太郎「う…そ、それは…まぁ」

京太郎「って言うか、上重さん、凄い嬉しそうですね…」

漫「姫松じゃうちは弄られ系やったからなぁ」

漫「こう他人を弄るって言うのは結構、面白いもんやね」ニコッ

京太郎「くぅ…う、上重さんまで暗黒面に…!!」

漫「ふふ…♪ごめんな、須賀君」

漫「君は悪ぅないねんんけど…弄りやすいのが悪いねん」

京太郎「くそ!なんて時代だ…!!」


漫「まぁ、先輩からの可愛がりや思うて受け取ってぇな」

京太郎「そういう意味で言ったんじゃないんですけれどね!」

漫「ええやん。須賀君、年下なんやし」

漫「それにこれから三日間は一緒な訳やで?」

漫「うちにとったら他の後輩たちと同じや」

京太郎「だったら、その可愛がり方を他の後輩にも分けてあげてくださいよ!」

漫「だって…こんな事、須賀君にしかでけへんもん…」ウワメヅカイ

京太郎「う…」

漫「ふふ…ちょっとドキッとした?」

京太郎「しましたよ…!畜生…!!」



京太郎「(まぁ…少しは吹っ切れたようで何よりかな)」

京太郎「(さっきよりも随分、表情が明るくなっているし…)」

京太郎「(俺の言った事は無駄じゃなかったと思える)」

京太郎「(容赦がなくなったのはアレだけど…きっとこれが本来の上重さんなんだろうな)」

漫「~♪」


?「あら…ようこそいらっしゃいました」

?「清澄高校麻雀部の方ですね」

京太郎「あ…ども」

京太郎「(綺麗な人だなぁ…和服も良く似合ってるし)」

京太郎「(中居さんか何かかな?)」

?「もう既に姫松高校の方はお見えになっておられますよ」

?「それで…他の部員さんたちは…?」

京太郎「あぁ。今はちょっと途中のコンビニで休憩してまして…」

京太郎「もうすぐ追いつくと思います」

?「さようでございますか。それでは先にお客様だけご案内させて頂きますね」

京太郎「ありがとうございます」

漫「……」

漫「代行、何やってはるんですか」

京太郎「え?」


郁乃「もう…上重ちゃんってばネタばらし早すぎやで」ムゥ

漫「いや…んな事言われましてもですね」

漫「目の前でキャピキャピしてる代行ってのはちょっと痛々しすぎて…」

郁乃「…上重ちゃんには後でとっても素敵な罰ゲーム用意しとくわ」ニコッ

漫「な、何でですか!?」

郁乃「私の心は深く傷ついたんや。その分の憂さ晴らしはさせてもらわんと」

漫「お、横暴過ぎる…!!」

漫「って言うか、代行が何で中居さんの真似事みたいな事をしてるんですか!?」

漫「そもそも和服なんて着とらへんかったら、うちだってあんな事言いませんよ!」

郁乃「私…実は子どもの頃の夢は中居さんでなぁ…」

郁乃「それが叶うかもしれへんって思ったら居ても立ってもいられなくなって…」

漫「…代行…」








漫「絶対、それ嘘でしょ…」

郁乃「テヘペロ」


郁乃「まぁ、折角、全国優勝の清澄と会うんや」

郁乃「ちょっとくらい度肝を抜かしてやろうと思ってな」

漫「度肝を抜かすどころか、須賀君は普通に信じてましたけれどね…」

郁乃「それが心残りっちゃ心残りやね。まぁ、漫ちゃんは驚かせられたみたいやし、私は満足や」ニコ

漫「あ、あかん…この人…完全に手段と目的が入れ違っとる…」

郁乃「誰も驚かせられへんよりはええやろー」ドヤッ

漫「いや、そこ、どや顔する所やありませんって…」

漫「って言うか、もうちょっとでええんで…落ち着きを持って下さい」ハァ

郁乃「私の座右の銘は百回のレギュラーより一回のレジェンドやし…」

漫「それに付き合わされるこっちの身にもなってくださいよ!」

郁乃「あはは。上重ちゃんには感謝しとるで」

郁乃「最近は絹恵ちゃんも随分と逞しくなってなぁ…」


京太郎「えっと…」

漫「あ…放ったらかしでごめんな」

漫「大体…もう分かってると思うけど、そこの人は中居さんでもなんでもない」

漫「ただの姫松高校麻雀部の監督代行や」

郁乃「ただのってのは語弊があるやろー」

郁乃「ちゃんと美人で素敵なって形容詞をつけてくれへんとあかんよ」ニコッ

漫「…まぁ、見ての通り、ちょっとマイペース過ぎる人やけれど…」

漫「そない悪い人でもないから…うん…多分…きっと…だったらとっても嬉しいなって…」

郁乃「ふぅーん…私の言ってる事スルーの上にそんな事言うとか…上重ちゃんも偉くなったもんやねぇ…」

郁乃「これは罰ゲームとぉっても楽しみにしとかんとぉ」ニコヤカ

漫「う…」



漫「(い、いや…でも…先輩ぶってみた須賀君の前やし…)」

漫「(こ、ここで簡単にへこたれたら先輩としての威厳が…!!)」

漫「(罰ゲームは怖いけど…条件さえ満たせば問題ないんや…!)」

漫「(こ、ここは強気に…!先輩らしい態度で…!!)」

漫「そ、そんなん怖ぁないですから…(震え声)」

郁乃「ふふ…強がっちゃって…」

郁乃「その顔がどう歪むかと思うと今からでも楽しみやわぁ」ニッコリ

漫「ぴぃ!?」

京太郎「あー…えっと…部外者の俺が言うのもなんですが…」

京太郎「あんまり上重さんを虐めないであげてくださいね」

京太郎「(正直…立ち位置と言い、悩みと言い…あんまり他人とは思えないし…)」


漫「す、須賀君…」

郁乃「このタイミングでナイト様の登場とは羨ましい限りやで」

漫「なっ!?ない…」

京太郎「そんな洒落たもんじゃないんですけれどね」

京太郎「でも、まぁ、上重さんってほっとけない感じですし」

郁乃「結構、隙があるタイプやしねぇ…」

京太郎「それでいて、結構、自分ではしっかりものと思ってそうです」

郁乃「あぁ、それでコロッと変な男に騙されそうな…」

京太郎「取り返しの付かないところまでいかないと騙された事にも気付かなさそうな気さえします」

郁乃「騙された後でも、恨みきれなくて自分で自分を傷つけそうな未来が見えるわぁ…」

漫「ふ、二人してそんな…」

漫「そ、そもそも、須賀君とはさっき会ったばっかりやのに…風評被害もええところや…」

京太郎「さっきの仕返しですよ」ニヤリ

漫「ぬぐぐ…」



郁乃「って、さっき会ったばっかりなん?」

郁乃「随分と仲が良かったから、既に知り合ってるもんやと思ってたんやけど」

郁乃「…ハッまさか…これ?」コユビタテ

漫「ちゃ、ちゃいますって!」カァ

漫「そもそもさっき会ったばかりだって言うのに、なんでそうなるんですか!?」

郁乃「いやぁ…上重ちゃんがまた騙されてるのかと思って」

漫「ま、またってなんですかまたって…」

漫「そんなに言われるほど、うちは騙されてませんよ!」

郁乃「それにほら、何かあっちの方はチャラそうやん?」

郁乃「出会い頭に口説き文句を言ってくるような気配を感じるんやけど」

京太郎「は、はは…」

京太郎「(誤解とは言え、ほぼそれに近い事をしてしまったなんて言えねぇ…)」



漫「…そう言えば…」ジトー

京太郎「い、いや、違いますよ!?別に騙すつもりなんてないですからね!?」

漫「詐欺師は皆、そう言うんや…うちはこれまで騙され続けてそれを悟った」

京太郎「さっき騙されてないって言ってたじゃないですか!?」

漫「須賀君には何回も騙されてるんや…多分」

京太郎「多分って…」

京太郎「そもそも会ってから一時間も経ってないのに何を騙せって言うんですか…」

漫「男の人って息をするように嘘を吐くって聞くし…」

京太郎「それこそ騙されてますよ!?」

漫「でも、会って一時間も経ってないような人の事なんて信じられへんしー?」

京太郎「くそっ…取り付く島がまったくない…!」

漫「ふふん。先輩舐めたらあかんよ?」ニコ




郁乃「…ふーん…」

郁乃「これは…思ったより収穫があるかもしれんね…」

漫「え…?」

郁乃「何でもない。それより遊んでないで早く中に入った方がええよ」

郁乃「もう皆待っとるし、それにその荷物結構重いやろ」

郁乃「中居さんやない言うても案内くらいなら出来るし」

京太郎「そうですか。じゃあ、お願いします」

京太郎「あんまり姫松の方を待たせるのも失礼ですし」

京太郎「先に俺だけでも顔合わせしておいた方がそちらも気が楽でしょうし」

郁乃「そんな堅苦しく考えんでええよー」

郁乃「今回はただの大会前の調整試合みたいなもんやしな」ニコッ

漫「(その大会前の調整試合に一軍と一軍候補が引っ張り出されとる訳やねんけど…)」

漫「(それは流石に言わぬが花…と言うよりは暗黙の了解って奴なんやろうな…)」

漫「(清澄だってこの合宿が来年のインターハイを見据えているが故のものだって分かっとるやろうし…)」



京太郎「はは。まぁ、俺はまだ初心者ですしね」

京太郎「姫松の男子麻雀部の皆さんに胸を借りるつもりで頑張ります」

郁乃「え?」

漫「え?」

京太郎「…え?」

郁乃「こっちは男子なんておらへんよ?」

京太郎「……はい?」

漫「そもそも姫松の男子麻雀部は一応、全国六位やで?」

漫「それがこんな時期に女子がメインの学校と合宿するはずがないやん」

郁乃「今頃は別の学校と頑張っとるはずよ」

京太郎「…えっと…つまり…それは…」

郁乃「ハーレムやったらあかんの?」ニッコリ




京太郎「は…?い、いや…大丈夫なんですか!?

郁乃「ちゃんと君には君用の部屋があるから安心して」ニッコリ

京太郎「それは安心できる要素じゃないって言うか、寧ろそうじゃないと困るレベルなんですが」

郁乃「あ、それとも上重ちゃんと一緒の部屋が良かった?」

郁乃「幾らなんでもそれはあかんよー。監督代行としては見逃せへん」

郁乃「だから、私の目の届かないところで上重ちゃんを連れ込んであげるんやで」

京太郎「人の話を聞いて下さい!!」」

郁乃「まぁ、ええんちゃう?」

郁乃「お互い共学やし、男子に免疫ないって子もおらへんしなぁ」

郁乃「それに君がちゃんと気ぃつけとったら問題になんてならへんよ」

京太郎「そんな軽くて良いんですか…」

郁乃「全然、軽くなんてあらへんよ」

郁乃「もしかしたら、私の可愛い部員が君の毒牙にかかるかもしれへんとなったら夜しか眠れへん…」

京太郎「ちゃんと眠れてるんじゃないですか…」

郁乃「私、三食昼寝付きじゃないと本気出せへんから…」

京太郎「(あぁ、うん。薄々分かってたけど、ダメな人だこれ…)」



漫「まぁ、須賀君なら大丈夫やって」

漫「始めはちょっと構えられるかもしれへんけれど、すぐに人気者になれるはずや」

漫「うちが保証したる」

京太郎「う、上重さん…」

漫「うちでさえ弄れるくらい立場が弱いんや!」

漫「きっと皆の弄られ役として大人気になれるで!」ニッコリ

京太郎「くそ…!ちょっとでも感動してしまった俺が馬鹿だった…!」

漫「ふふっ…♪」

漫「まぁ、保証するのは嘘でも冗談でもないよ」

漫「須賀君ならすぐに皆の輪に入れるって思うとるし、問題を起こすとも思うとらへん」

漫「だから、気負わずに一緒にやろ?」

漫「折角、ここまで来たんやし、楽しまな損やって」

京太郎「……」

京太郎「そう…ですね」



漫「(…あれ?)」

漫「(何か…今、凄い…表情が落ち込んだような…)」

漫「(うち…もしかして今、地雷踏んだ?)」

漫「(え…いや…でも…別に普通の事やんな?)」

漫「(特に…何か気に触るような事を言ったとは思えへんし…)」

漫「(そ、それとも…い、弄り過ぎた…?)」

漫「(弄られ慣れしてるみたいやから、これくらいは普通やって思ったんやけれど…)」

漫「(もしかして…出会って一時間も経ってないのに馴れ馴れし過ぎたんやろか…)」

漫「(あ、あかん…そう思ったらすっごい申し訳ない気持ちに…)」

漫「(でも…ここで謝るのも変な話やし…そもそも理由が分からへんのに謝るのも失礼やと思うし)」グルグル

漫「(う…うぅ…末原先輩…うちどうしたらええんですかぁ…)」



京太郎「…とりあえず、俺、荷物置いてきますね」ガラガラガラガラ

漫「あ…」シュン

郁乃「うーん…一見明るそうに見えたけれど、男の子ってやっぱり色々あるんやね」

漫「なにしみじみと語っとるんですか…」

郁乃「上重ちゃんが語れへんくらい落ち込んどるから代わりにって思うて」

漫「…そんなサービス要りません…」

郁乃「つれないわぁ…まぁ、ええけど…」

郁乃「どの道、合宿中に誰よりもあの子と接する事になるんは上重ちゃんやろうしな」

漫「…そうですね」

漫「…私が一番、須賀くんと一緒に…」






漫「…え?」

漫「な、何を言うてはるんですか!?」

漫「幾ら仲良うなったって言うても、そんなベッタリするほど、うちは重い女とちゃいますって!」アセアセ


郁乃「私の見る限り、上重ちゃんは結構、重い子だと思うんやけど…まぁ、それはええか」

郁乃「話は単純や。これから上重ちゃんは三日間、あの子と一緒に打ちに打ち続けて貰うからやで」

漫「…初心者って言ってましたけれど…そんなに強いんですか、彼」

郁乃「いや、牌譜を見せてもろたけど、初心者から中級者になりかけって程度の腕やで」

郁乃「特にオカルトらしいオカルトもない普通の男子高校生や」

漫「…え?」

漫「そ、それやったらなんでうちと打たせようとするんですか」

漫「うちはこれでも姫松のレギュラーですよ!?」

漫「それとも…うちはそんなに信用出来ませんか…?」

漫「末原先輩抜きじゃ…やっぱりうちはあきませんか…?」

漫「そんな…相手と打ち続けを命じられるくらいに…ダメな選手ですか…?」



郁乃「…そんな事あらへんよ」

郁乃「寧ろ、逆や。私はこれからの姫松の戦力的な柱は絹恵ちゃんやなくて、上重ちゃんやと思うとる」

郁乃「宮永照は今年で引退。でも…まるで人外のような打ち方をする選手はまだまだ全国に五万とおる」

郁乃「そんな魔物たち相手と戦って勝機が見えるのは…今の姫松には上重ちゃんしかおらへん」

漫「だったら…どうして!?」

郁乃「それは…偏に上重ちゃんに安定性がないからや」

郁乃「能力頼りの打ち方で、中核になれるほど姫松は甘くない」

郁乃「誰にでも勝てる可能性のあるダークホースじゃ、精々、先鋒か次鋒起用が精一杯や」

郁乃「私が上重ちゃんに求めるのは…安定した戦い方が出来て…その上、誰にでも勝てるような切り札を持つエース」

郁乃「来年にはうちの中堅に座れるような…そんな選手になって欲しい」

郁乃「だから…癪かも知れへんけれど…能力に頼れないような格下相手と切磋琢磨」

郁乃「そうやってまずは着実に地力をつけていくのが、来年に向けた上重ちゃんの強化プランや」



漫「…」

郁乃「納得出来へん?」

漫「出来ません…そんなの…」



漫「(まるで須賀君を踏み台にするような代行の言葉も…)」

漫「(そうやって強くなって…主将の席を得る事も…)」

漫「(こうやって代行の言葉を聞いて尚…うちよりも絹恵の方が絶対に相応しいと思うとる…)」

漫「(でも…その一方でうちは…)」




漫「…期待には応えたい…そう思うてます」




漫「(うちに出来る先輩の姿を教えてくれた人が居たから…)」

漫「(末原先輩みたいな人が…うちを認めてくれたから…)」

漫「(だから…ちょっとだけ…やってみようと思う)」

漫「(それで…須賀君には迷惑を掛けるかもしれへんけど…でも…)」

漫「(うちは…このままではいられへん…)」

漫「(来年に向けて…末原先輩や主将たちの敵討ちの為に…)」

漫「(強くならへんかったらあかんのやから…)」




郁乃「…そっか」

郁乃「(やっぱり…ちょっと変わったかな…)」

郁乃「(ついさっき出かけるまではどっちつかずで迷ってばっかりやったけど…)」

郁乃「(今は、強制された前向きさではなく…自分の意志で前を向こうとし始めてる…)」

郁乃「(正直、今回の合宿で一番の不安要素は上重ちゃんを、やる気にさせる事やったんやけど…)」

郁乃「(まさか、コンビニ行って帰ってくるだけで、こんな風になるとはなぁ…)」

郁乃「(何をやったのかは知らんけど…多分、あの男の子がやってくれたんやろうか…)」

郁乃「(もし、そうやとしたら…あの子、意外に拾い物なんかもしれへんね)」

郁乃「(今のうちに唾つけとくのもええかもなぁ…)」

郁乃「(まぁ…何はともあれ…)」

郁乃「いやぁ、恋の力って偉大って事やね」

漫「???」

漫「あ…」カァ

漫「い、いや、ちゃいますよ!?」

漫「別にうちと須賀君は本気でそんなんちゃいますからね!?」

郁乃「そんなんってなぁにー?」

漫「ぐっ…い、いや…まぁ…その…何て言うか…」

漫「艶っぽいものが入り混じるような関係やない言う事です」

郁乃「うーん…そうは見えないけどなぁ…」

漫「それは代行の目が節穴だからですよ」

漫「そもそも出会って一時間も経ってないのに惚れるとか、どれだけうちは惚れっぽいんですか」

郁乃「上重ちゃん、恋に時間も歳の差も関係ないんよ!」

漫「力説してるとこ悪いですけど…うちはそうは思いません」

漫「やっぱりお互いに何もかも知り尽くして、好きって気持ちを膨らませていくのが一番です!」

郁乃「うーん…そういうのが素敵って言うのは否定しないけれど…」

郁乃「恋って『高める』んやのうて、『堕ちる』ものなんよねぇ」

漫「???」

郁乃「あー…まだ上重ちゃんには分からないか…」

郁乃「まぁ…主義主張が恋って感情に対してどんだけ脆いかは多分、遠からず分かると思うよ」

漫「…色々、言ってますけれど…代行ってそんなに恋愛経験豊富なんですか?」ジトー



郁乃「…」

漫「…」



郁乃「上重ちゃんの今日の罰ゲームはとっても素敵で特別なものを用意しとくな」ニッコリ

漫「な、何でですかああああ!?」




名前:
コメント: