マホ――私が須賀先輩に初めて会ったのは中学2年の時でした。
インターハイが終わって、清澄の部室で開いた祝勝会にお邪魔したとき、先輩は冗談を言ったり、おどけてたりしてみんなを盛り上げてたっけ。
でも、見ちゃったんです。飲み物を補充してくるって言って、部屋を出ようとみんなに背を向けた時――私が見てるのに気づかなったのか――凄く寂しそうな顔をしたのを。
クラスの男子やお父さんくらいしか男の人と接する機会がなかった私にとって、先輩の顔は、初めて見た『男性』の顔でした。
結局、その時は挨拶を交わしたくらいで別れて、私もしばらくすると須賀先輩の事は忘れちゃいました。


二回目の出会いは秋の新人戦でしたね。
和先輩達の応援に行ったんですが、"あの時"の事を思い出して、つい須賀先輩の事を探してしまって。
須賀先輩を見つけた時は既に試合が終わってました。

2回戦突破。結果だけ見れば、まだまだ始まりに過ぎなくて、それほど喜ばしい事ではないのかもしれません。
でも、私が見た須賀先輩は凄く嬉しそうでした。
"その顔"は――長い長い道程を歩ききった旅人のような――達成感と喜びと、誇らしさに満ちていました。

初めて会ったときの顔。そして、今の顔。
その時、強く思ったんです。この人の色々な顔を見たいって。
以前から漠然と抱いていた清澄入学という夢も、はっきりとした目標に変わりました。理由は大きく変わっちゃいましたけど。

ちゃんとした会話をしたのは中学3年の頃だったかな。
和先輩と優希先輩に用事があって清澄にお邪魔したけど、須賀先輩しかいなくて、部室でお二人を待つことにした時。
ムロ先輩にはいつまでたっても幼いと言われてる私でも、あの頃は既に自分の想いを自覚してましたから
須賀先輩とは目を合わせることすら出来なくて、それが恥ずかしくて情けなくて勝手に落ち込んで泣きそうになっちゃって……

気がつくと、私の頭の上に置かれていた、暖かく優しい先輩の手。
そして、戸惑いながらもこちらを気遣う先輩の顔。
部室に入った和先輩と優希先輩はびっくりしてましたよね。


あの日から今日まで、私が見てきた須賀先輩の顔。須賀先輩と交わした言葉、重ねた時間。
でもね、先輩
私が今から見ることになる顔は、きっと私が初めて見る顔だと思います。
私――マホの想いを聞いた先輩はどんな顔をするのでしょうか。

 

できれば、"その顔"を見るのが、私が最初で最後でありたいと思うのはワガママですか?