東京の麻雀インターハイ2回戦を観戦し終え、京太郎はなんとはなしに宿泊しているホテルを離れ、一人彷徨っていた。
既に皆の労いも済ませているし、買い出しに関しても4,5日目の間に買い溜めはしてあるため、今日の消費を勘定に入れても明日1日分ぐらいは十分持つはずだ。
タコスに関してはその都度作ってやればいいし、そもそも牌譜の解析や検討に関しては、悲しいかな自分の出る幕は皆無といっていい。
では何が京太郎を煩悶させているかといえば、大将戦での咲の姿がであった。初心者である京太郎が推測するのもおこがましいとは思ったが、逆に言えば彼でもわかるほどに咲はあの場を支配していた。

(……咲は麻雀の事となると人が変わっちまうとは思っていたが、あれほどまでなんてな……)

その人間味を感じない闘牌にぞっとしない感情を想起しながらも、京太郎はかぶりを振ってそれを振り払うことにしていた。
そうこうしていると、いつの間にか会場脇の公園へと辿り着いていた。
もう4時にもなろうかという時間だが、8月というのもありそこまで暗くもなく、かえって過ごしやすいぐらいの気候になっていた。


「ぐがー……くかー……」

だから、京太郎が公園のベンチで寝そべる女子高生を目撃しようと、それは不自然からぬことであろう。

「……って、んなわけあるか!」

ここまで堂々とした昼寝(といっていい時間かは疑問だが)は自分の短い人生でも類を見ない。優希に匹敵――あるいはそれ以上の豪胆さではなかろうか。
というかあの赤髪には見覚えが――

(姫松の愛宕洋榎さんじゃないのかあれ……!?)

中堅戦で部長、竹井久と闘っている時もラフでフランクな人だと思ってはいたが、実際目の当たりにすると想像以上である。いびきかいてるし。
しかし遠目から見ても端整な顔立ちだなと、京太郎はついしげしげと見つめてしまっていた。幸いにもここには京太郎しかいなかったが――

「……ふぁ?」
「……あ」

不幸にもここには京太郎しかいなかった。


(ま、まずい!この状況じゃ変質者って言われても文句言えねえぞ!?)

洋榎は寝ぼけ眼――元々眠そうな眼ではあるが――をこすりながらつかつかとこちらに近寄ってくると、

「……何人もうちの眠りを妨げる者は許さへん……!」
「……はい?いや、別に妨げては……」
「なんやおもろないなー。んで何か用か?清澄の男子部員君」
「えっ……俺の事知ってはるんですか?」

突然身元を当てられて思わず口調がおかしくなってしまった。

「中堅戦の時に出迎えに来てたやろ?結構特徴的だったから覚えてたんよ」
「はぁ……いや、あの愛宕洋榎さんの目に留まってたとは驚きというか光栄というか」
「何でうちのこと知っとるん!?ストーカーか!」
「こっちのセリフですよ!?」
「うちがストーカーやて!?確かに自分イケメンやけどうちはそんな軽い女やないで!重くもないで!」
「そこじゃなくてですね!?いや洋榎さん美人だと俺も思いますけども」
「早速口説きにきおったか!いやー辛いわー人気者すぎてつらいわーからいわー」
「そんなに誘われたいんですか!?ああもう収拾つかないから一旦話切りますよ!」
「いやー意外とおもろいなー自分」
「須賀京太郎です……」
「せやか」

けらけらと笑うその表情に、面白がってからかっているだけとわかっていても不意にどきりとしてしまった。
ほぼ初対面にも関わらずこの口の回りようにほとほと困惑しながらも、京太郎は不思議と不快には感じていないことに驚いていたのだった。



続く