テレビ見てぽっと思い浮かんだネタ
信濃国松代藩抱え鶴賀衆の上屋敷、その奥座敷の暗闇に豪放な笑い顔を湛えた小柄な女性と目を閉じ顔をやや伏せた嫋やかな女性が居並んでいた。鶴賀衆頭目の蒲原智美と副頭目の加治木ゆみであった。
ゆみ「……来たか」
智美「おー、きたかー」
二人が呟くと灯火の陰から煙るように少女が姿を現した。鶴賀衆下忍、幻影のモモこと東横桃子である。
桃子「お呼びっすか」
智美「うむ。こうして呼んだのは他でもないぞ、モモに密命が下ったんだ。ワハハ」
ゆみ「私から説明しよう。かねてより幕府は膝元の武州にいる白糸台一党の叛心を疑っていた。その中でも特に一目疑われていた宮永照の妹、咲がここ信濃国に居を構えていることが分かった」
桃子「はて。その咲って女の目付っすか」
ゆみ「早まるな。その咲に一人情夫と目される男がいる。清澄家の厨房方の一人である須賀京太郎だ」
智美「モモ、お前のお役目はその男の目付役となって幕府に報告することだぞ」
ゆみ「厨房方とは言え須賀京太郎も武士だ。藩より妻帯の命が下る。モモ、お前はその命に従って嫁ぎ、須賀京太郎の妻となって宮永家の検めを行え」
智美「鶴賀衆一番の大命だぞ-、モモ、心してかかれー」
モモ「……ハ」
かくして藩より下った突然の命により須賀京太郎は小柄で胸の大きな美女を娶ることになった。
京太郎「あ……その……まさか藩から貴女のような美しい方を娶れなど……夢のようです。大した禄ではありませんが、大事にします……おモモさん」
桃子「はい……なんか緊張するっす。こちらこそ、よろしくお願いします、京太郎様」
この須賀京太郎、三度の飯より料理好き。武士のくせに刀ではなく包丁を握っていると揶揄されつつも、その腕はいつしか主家からも信頼され、『須賀が調理すれば毒味は不要』とまで目されていた。 京太郎は前言通り、料理と同じようにモモを大切に扱い、モモもまた主命を忘れかけるように京太郎との幸せな生活を送っていた。しかし京太郎が自宅にモモを上げてより一月のことであった。
京太郎「おモモ……おモモ、どこにいる?」
突如として姿を消した桃子。偽命により妻となっていた彼女は京太郎より宮永家の内調を終え、主命により鶴賀衆に帰り、そして江戸へと向かっていた。
咲「京さん……あのおモモって方、今思えば怪しかったかも」
投げかけられる疑念。
久「須賀殿。私からもおモモさんのことを調べたけれど、申し訳ないわね、芳しくなかったわ。ただ、須賀殿より聞いた風貌と似た女性が江戸へと向かったとか」
ようやく得られた一筋の手がかり。京太郎は必死で藩の許しを得て江戸へと登る。
京太郎「おモモ……お前とのたった一ヶ月の生活が忘れられない……何があったんだおモモ……また、お前を家に迎えられるのか?」
かくして魑魅魍魎が跋扈し、陰謀渦巻く江戸へ登った京太郎。短い間の恋しい人を追っての決死行であったが、宮永繋がりの叛心疑いはこれにて決定的になる。
白望「お前は須賀京太郎……鶴賀衆より疑念の余地なしとされたはず。何故ここにいる。……気怠し。しくじったか鶴賀め。須賀京太郎、お前はここで去ね」
突然の襲撃。訳も分からず窮地に立たされる京太郎。もはやこれまでと、京太郎の胸に白刃が突き立てられようとしたその瞬間、漆黒の短刀がそれを防ぐ。
桃子「京太郎様……なぜ、ここに」
京太郎「おモモ……今までどこに……これは、一体どういうことなんだ」
断腸の思いで振り切った愛しい人。決死の想いで追いかけた恋しい人。再開の喜びとは遠くかけ離れた困惑を持って二人はまた出会った。しかし桃子の想いは我慢できなかった。密命に塗れ、嘘で塗り固めた言い訳を告げることが出来ず、一滴の涙と同時に彼女の本心が零れる。
桃子「あぁ……京太郎様。お慕いしてるっす……本当に……本当に、だから……」
そして京太郎は知った。彼女がくの一であること、そして大命を帯びて暗躍していること。想いを殺しきることも出来ず、かといって添い遂げれば身の破滅。偽りの関係から真実の愛を見出した二人の行く末は、どこへ。
京太郎「モモはくの一」
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