京太郎×尭深で1つ 白糸台共学設定、麻雀部人数少な目設定 ――と……多用注意
京太郎「――うおおおおっ!! 負けたぁーっ!」
淡「きょーたろーよっわー」
菫「弱いな」
誠子「ちょっとビックリするぐらいですね、コレは……」
対面、上家、下家。全員の麻雀と言葉の集中砲火を受け、俺は卓上で頭を抱えた。
外は雨がボツボツと窓を叩いている。まるで俺の気持ちを表してくれたようなその天気の中、白糸台高校に入学してからもう何回目かも分からない敗北の味をかみしめていた。
因みに東場でトビ。これまた何回目か分からない。
菫「……こんな事を言っては何だが、幾らなんでも負け過ぎではないか? トビ終了の数だけでも相当あるぞ……」
京太郎「ぐぬぬぬぬ……で、でもちょっとぐらいは成長してますよね、宮永先輩!」クルッ
照「…………」
視界内にいる三人の憐みと呆れを含んだ視線から逃れるようにして、俺は背後にいるチャンプを縋るようにして見た。
照「……どんまいっ」グッ
京太郎「~~~~~!!!」
縋るつもりが、あっさりと弾き飛ばされ中途半端なフォローすら受けてしまった。しかも微妙に傷つく心遣いの入ったヤツ。
京太郎「み、皆酷い! 初心者をこんなに遠慮せずにボコボコにするなんて!」
菫「『初心者だからって手加減しないで本気で来てほしい』と言ったのは須賀だろうが……」
誠子「『俺、そういう風に舐められるの嫌なんで』って言ってましたねキメ顔で」
淡「後『その日一番負けた人がペナルティとしてその日の牌と卓の掃除担当って制度作りましょうよ』とも言ってたね、どやどやって」
京太郎「ぐぐぐぐ……」
それは俺が入部してから「あ、この人たちには勝てないな多分」と悟った俺が自分自身モチベーション向上の為に提案したルールだった。
勝利と言う物が形で見えればきっと俺も頑張って、いずれは勝てるようになるのではないか――と思っていた時期が俺にもありました。今の所、皆が帰った後卓と牌を一番よく触っているのは俺だった。というか俺だけだった。淡「という訳で今日もペナルティ頑張ってねー! 私もうかーえろっと!」
誠子「あ、じゃあ私も失礼しようかな……」
菫「なら私も……悪いが予備校の時間があるものでな。照はどうするんだ?」
照「あ、うん私も帰る……須賀君、ふぁいとっ」グッ
京太郎「……ハイ、ガンバリマス」
敗戦の悔しさから抜け出せていない俺を放っておくように、ガタガタと先輩達が席を立つ。
それを不貞腐れながら見送りながら――さっき大星が言ってたように、牌と卓掃除があるからだ――俺はふと、この場にいないもう一人の麻雀部の先輩の事を思った。
あの人は何故か俺との対局数が異常に少ない。避けられているのかという程に少ない。
しかし俺が酷い負け方をすると、いつも背後からそっとお茶を差し出してくれる。とても濃くて、熱いヤツを。
京太郎「……あれがまた美味いんだよな」
一人で呟きながら、俺は掃除用の布巾を手に取った。
遠慮がちに差し出すその湯呑みの中に注がれたその味を思い出しながら、俺はしかし、とも思った。
しかし、今彼女はここにはいない。何故なら、何故、なら――――。
京太郎「…………」
――がちゃり、と扉が空く音がした。
俺は卓を拭いていたその手を止め、静かに音にした方に振り向く。
そこには。
尭深「…………」
尭深「……皆、帰っちゃった?」
京太郎「はい。渋谷先輩…………委員会お疲れ様です!」
尭深「……うん」
――何故なら、彼女は図書委員の仕事で遅れていたからであった。
京太郎「いつもお疲れ様ですホントに」
尭深「ううん、本は結構好きだから……お茶、いる?」
京太郎「あざーっす! 頂きます!」
わざわざ俺の為にお茶を汲む渋谷先輩と会話を交わしながら、布巾で丁寧に牌を拭いていく。
雨はまだ降り続いているが、大分小降りになってきていた。後三十分もしない内に止むだろうな、と俺はどうでもいい事を思った。
京太郎「先輩、傘持ってきてるんですか?」
尭深「えっ……その、実は……」
京太郎「はっはっは、って事は雨宿りですか」
尭深「う、うん……ごめんね、迷惑だった?」
京太郎「いえいえ」
この程度の事でも恥ずかしそうにする先輩は可愛いなぁ、と思いながら少し笑うと――ちょっとこの笑顔、いや微笑みは中々イケてるんじゃないかなと自分で思った――俺は布巾を置き、渋谷先輩の注いでくれたお茶を手に取った。
――うん。今日も相変わらず濃くて美味い。
お茶の事なんて完全に門外漢だったが、そんな俺でも分かる濃厚さと深み、そして美味さだった。
気づけば一気に飲み干しており、俺は静かに湯呑を卓上に置いた。京太郎「ありがとうございます。美味しかったです……あ」
尭深「?」
そうだ、と俺は先輩が来る前に考えていた事を思い出した。
京太郎「先輩、何か俺と対局する数が少ないような気がするんですけど……勘違いですかね?」
尭深「え?」
京太郎「いや、なんだかそんな気が――えっ」
何気なしに問いかけながら先輩の方をくるりと振り向き――そこで俺は、先輩が顔を赤くしているのを見た。
いや、赤くなんてものじゃない。真っ赤だった。超深紅だった。
京太郎「す、すみません! い、今の質問そんな……えっと……」
尭深「ちっ、違っ……違うの……その……えっと………………だから」
耳まで真っ赤になった顔を手で覆いながら、渋谷先輩が恥ずかしそうにもにょもにょと何やら言う。
相当恥ずかしいのか、中々聞き取る事が出来ない。
京太郎「あの……も、もう少し大きい声で……とかは」
尭深「!!!!」
先程まで限界値に達していたと思われていた赤みが、俺の言葉と共にさらに増す。どうやら俺は人間の血流の巡りを甘く見ていたらしい。
しかしここまで来れば俺も男だ。聞かなければ帰るに帰れぬ。真正面に先輩の体を捉え、次の言葉が来るのを待った。
尭深「……須賀君の」
京太郎「ふんふん」
尭深「…………お茶を貰った時の」
京太郎「はいはい」
尭深「………………喜び方が」
京太郎「ふんふむ」
そこからしばらくの間があった後――眼前の先輩は、絞り出すような声で言った。
――たくさん、たくさん見たかったから――……。俺は自慢じゃないが麻雀初心者だ。世界の麻雀人口が億を突破したその時にも俺は依然として麻雀というものから縁遠かったし、というかそもそも興味自体あまりなかった。
そんな俺が何故高校で麻雀を始めたかと言うと、それは仮入部の時期まで遡る。
友人に誘われておふざけ半分で卓に着いた俺に、先輩達が激しい麻雀の洗礼をしたあの日。
初めての麻雀でとんでもない敗北を味わい衝撃と怒りと屈辱後なんか諸々を感じた俺に――背後から、そっと差し出された手があった。
その手はお盆を持っていた。そしてその上には、湯呑に入ったお茶がちょこんと載っていた。
俺は怒りとも屈辱とも悲しみともつかぬよく分からん気持ちのままそれを飲み干し――そして、感動した。
それは敗北と屈辱を味わった生徒に対する、応援の気持ちがあった。
それはこれから入ってくれるかもしれない生徒に向けられた、控えめな期待の心があった。
それは、それは――。
先程まであった疲れと怒りをを吹き飛ばしたそのお茶を入れてくれた人物を、俺は見た。
その人物も俺を見た。
――視線が、あった。
俺の顔は多分、輝いていたのだと思う。
そして彼女の顔は――俺が元気になった事への、深い喜びの色があった。
……俺は、麻雀部に入る事にした。
………………
京太郎「……っていう経緯なんですけど……はははは、何かコレ麻雀全く関係ないですね」
まずい。ピロートークをピロートークで中和しようと思ったのだが、眼前の先輩は相変わらず顔を手で覆ったままだった。
それどころか心なしか顔の赤みがさらに増しているような気がする。
あ、ヤベぇなコレ……と俺は素早くそう判断し、次の言葉を探していると――唐突に、渋谷先輩がポツリと呟いた。
尭深「……もし」
京太郎「は、はい」
尭深「……もし、よければ」
尭深「……私のお茶を、これからもずっと……飲んで、くれませんか?」
京太郎「――――よ、喜んで」
――雨が止み、雲の切れ間から光が差した。
橙色の太陽が、俺と彼女を静かに照らしたのだ――。
カンッ!
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