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買い出しに行っている京太郎だが、少し手間取ってしまい部活終了に間に合わないかもしれない。
そこで一度部長に連絡すると、部長は残っている生徒議会の仕事でもしているので、家に持ち帰っても良いが良ければ持ってきて欲しいとのこと。
断る理由もないので、京太郎は部室へと足を運ぶことにした。
「遅くなってすみません。部長に残ってもらって申し訳ないです。」
「良いのよー。須賀君にお使い頼んだの私だし。それよりも雑用を押し付けてごめんなさいね。」
「いえいえ、今の俺にできることはこれくらいですから。」
京太郎は遠慮がちに言うが、麻雀部に引き込んだ久としてはなんとも申し訳ない気持ちになる。
「須賀君にはもっと麻雀打って欲しいんだけどね。部長としても申し訳ないわ。」
「でも俺、部長が勧誘してくれた時、凄く嬉しかったんですよ。あの生徒議会長に誘ってもらえたってね。」
高校に入ってからことあるごとに目にすることがあった生徒議会。その中でも生徒議会長の久は持ち前の器量の良さで一際目立ち、人気であった。
部活を探して何となく足を運んだ麻雀部には既に入部を決めたらしい1年生2人と先輩が2人いた。
新入生の2人は麻雀経験者で、うち1人はミドルチャンプとのこと。
部員数が足りてなく、旧校舎の屋根裏。そんな魅力に軽い気持ちで足を踏み入れたことに少し気後れを感じる。何せ麻雀など打ったことがないからだ。
「とりあえずは打ってみなさいよ。」
軽い説明を受けた後、生徒議会長で部長も務めているらしい先輩に言われ、彼女に後ろからアドバイスをもらいながら打った。
自分で打ったとは決して言えないけど、それでも牌を引き、役を作る快感に京太郎は引き込まれていった。
「どう?麻雀に興味は持てたかしら?須賀君も麻雀部に入る?あなたなら歓迎よ。」
初めてと言うことで上手いはずもなく、光るセンスが垣間見えるなんてこともなかったが、麻雀を打つ京太郎からは、ぞわりと身震いしたくなるような気配が微かに感じられた時があった。結果としては肩透かしをくらったが。
その感覚は単なる勘違いかもしれないが、楽しそうに打つ姿やさりげない気配りができる点を見ても、きっと良い麻雀部員となると思った。
そうして京太郎は麻雀部に入ることとなった。
京太郎の功績は咲を連れてきたこと、仕事は雑用なんて思われがちだが、
久からすればそんなことはなく、今年の一年生は全員素晴らしい逸材だと思っているし、
それ故に京太郎に関してはあまり目を向けてやれていないことを申し訳なく思っているのだ。
自身が1人だけの麻雀部員として一年間過ごしたから余計にそう思うのかもしれない。
「お茶でもしますか?」
「そうね。お願いするわ。」
部を取り纏める部長に部での雑務をこなす京太郎。
共に意外とこういった部活時間外で麻雀部のことをする事が多いのだ。
さながら上司とその秘書のようにも見えるのは久の風格か京太郎の雑用慣れのせいか。
しかしゆったりと時の流れるこの時間を2人とも嫌いではなかった。
「須賀君は麻雀部は楽しい?」
「はい。とても。入部して良かったと思います」
日頃から雑用を押しつけている奴が何を言うかと思うかもしれないが、他の部員と違い、
自分の事よりも仲間の世話をしてしまう須加君だからこそ、もっと麻雀を打って麻雀を打つ楽しみを経験して欲しい。
彼も底知れぬ何かを持っているかもしれない。例え持っていなくとも麻雀は楽しめるし、そういった経験をさせてやれてないのは部長である私にも責任の一端があるだろう。
咲達にまこの雀荘に行かせたように、須賀君にも須賀君にあった良い経験と切欠を与えよう。久は久なりに考え思案を巡らす。
「ねぇ須賀君。今度の日曜は暇かしら?少し付き合って欲しいことがあるんだけど。」
「何ですか?まあ部活が無いのであれば暇ですけど。」
「それはその日までのお楽しみよ。悪いようにはしないし、須賀君にとっても良い日にしてあげるから。」
日曜日は良い日になりそうだ。そんな期待を抱きながらお茶をすする2人の顔には笑みが浮かんでいた。